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41話 ライバル

 応急処置を終えヘリにラグナを乗せたサラは『月光』を纏い走りながら再びレイナードに電話をかけていた。


「応急処置を終え、ラグナ様を乗せたヘリはアルシェの病院に向かいました。ヘリに乗っていた医師によると重症ではあるものの、助かるそうです」


『ご苦労様。流石はサラだ。迅速に動いてくれて助かったよ』


「いえ、私の応急処置はただの気休めに過ぎません。助かった要因はラグナ様が胸につけていた緩衝材とご自身の脅威的な回復力によるものかと」


『いやいや、気休めでも助かる可能性が一パーセントでも上がったのだから君のおかげでもあるさ』


「…………」


『ん? どうしたんだい急に黙って』


「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか……?」


『何かな?』


「……なぜラグナ様がベラルと戦っていたあの時にただ待っていろなどとおっしゃったのですか? ――私はすでにあの場にいて加勢出来たにもかかわらず」


 サラはラグナとベラルが戦っていた時に木の陰に隠れて様子を窺っていたことを思い出していた。


『ラグナ君はベラルと因縁があったみたいだからね。それに彼はどうやら対ベラル戦を想定して色々と準備をしていたみたいなんだよ。だから余計な横やりを入れず彼に任せた方が確実だと思ったのさ』


「本当にそれだけですか……? ……ベラルの足止めに当たっていた者たちが抜かれたのはラグナ様が王都に向かっていた地下の魔獣を全て倒した後です。タイミングが良すぎる気がするのですが、これは私の気のせいでしょうか?」


『アハハ。いやー、相変わらず鋭いねサラは。君の前では隠し事は出来なさそうだ』


 レイナードの愉快そうな声を聞いたサラは小さくため息をついた。


「……やはり足止め役にインカムのような通信機器を通して連絡しわざとベラルにやられるよう命じたのですね。そしてベラルとラグナ様を戦わせた。理由は『黒い月光』が使えない状態のラグナ様の戦闘能力を見るため――といったところでしょうか?」


『そこまでわかってくれているのなら話が早い。私の部下の中でも指折りの戦闘能力を持つ君の眼から見て黒い月光無しのラグナ君はどうだったかな?』


「……見たところまだまだ発展途上なのでなんとも言えませんが、伸びしろはかなりあると思います。総合的な戦闘能力はまだベラルの方が上だったにもかかわらず、作戦を立てて倒したことには驚かされました。それと……」


『何かな?』


「……一瞬でしたが動きが格段に良くなった時がありました。それから……遠目だったので見間違いかもしれませんが、その際に左目の瞳が赤く輝いていたように見えたのです。それも一瞬だけでしたが」


『へえ……』


 レイナードの楽し気な声を聞いたサラは再び問いかける。


「……レイナード様、もしラグナ様が負けて死んでいたらどうするつもりだったのですか?」


『その時はその時さ。だが私はラグナ君が戦いで死ぬとは微塵も思ってはいなかったよ。確かにどれだけ強大な力を持っていようが人である限り必ず終わりは来る。特に戦場という場所は人が最も死にやすい場所だ。実力だけでなく運なんかにも生死が左右されてしまうからね。しかしどれだけ死にやすい場所でも生き残るべき人間は必ず生き残る。天命を持って生まれた人間ならばなおさらだ』


「天命……ラグナ様がそれを持って生まれたと?」


『ああ。悲劇の町アルロンに産まれその体に強大な力を宿した彼はまさに選ばれた人間だ。そしてそんな人間が生まれ落ちたというのなら、きっとそれはこの時代に何かが起こる前触れだよ。歴史上の偉人と呼ばれる人間はいつだって動乱の時代に生まれていただろう?』


「……その何かに対処するためにラグナ様は生まれたと仰りたいのですね。そしてその役目を終えるまでは死なないと。……言いたいことはわかりますが、ベラルをわざと通した理由としてはいささか説得力に欠ける説明だと思います。実際、ジュリア様を説得していたリリス様は負傷し、ラグナ様に至っては死にかけていました。もう少しであの稀有な力を失うところでしたよ」


『まあね。だがサラ、君はもしリリスやラグナ君が戦いで負け死にそうになっていたら私の命令など無視して助けに入っていたんじゃないかな?』


「…………」


 サラはただでさえ鋭かった目つきをさらに細める。


(……私ならそうすると読んで待機させていたということか……相変わらず人の感情や思考を読んで駒のように動かしてくる。やはり私はこの男が嫌いだ……だがこの男の優秀さは嫌と言うほど理解している。だからこそ下についた。目的を達成するために)


 携帯を持っていない方の手を硬く握りしめているとレイナードが話しかけて来た。


『怒らせてしまったかな? 知ったようなことを言ってすまなかったね』


「……いえ、こちらこそすみません。主に対して余計なことを言ってしまいました。お許しを」


『いいんだ、気にしないでくれ。君の疑問はもっともなことだ。ラグナ君を失ってしまえば我々の目的を果たすことが難しくなるかもしれないしね。だが安心してくれ。どんなことがあろうと君や他の部下達と交わした約束は守る。だから私が特務大臣となるその日まで働いてくれ』


「……はい」


『では引き続き仕事を頼むよ。指示はさっき伝えた通りだ』


 通話が切れたのを確認したサラはポケットに携帯をしまうと速度を上げた。 



 

 青い光を纏ったリリスは森の中を駆け抜けていたが突然立ち止まる。足を止めた理由――それは砦のように佇む前方のゴーレムにあった。


「……ジュリなんでしょ……? ……話は聞いてる……どうしてそこで待っていたの……?」


『……貴方が追いかけてくる予感がしていたのです。だからボルクス男爵を先に逃がすためここで待ち伏せをさせてもらいました。……戦う前に聞きたいのですが、ベラルはどうしたのですか?』


「……ラグナが駆けつけてくれたの……それでベラルを引き受けてくれた……」


『……そうでしたか。やはりラグナも邪魔をするのですね……』


「……そうだよ……それで……ここに来る前にラグナと約束した……必ずジュリを説得するって……でも言葉だけじゃやっぱり無理そう……だから――」


 リリスは持っていた双剣をゴーレムに向ける。すると岩の巨人は悲しそうにため息をつき両腕をドリル状に変形させた。


『……貴方とだけは戦いたくなかった。ですが私も――譲れない』


「……それは私も同じ……力づくでも連れ戻すよ――ジュリッ……!」


 リリスは駆け出すと、ゴーレムの側面に移動する。するとそのままラグナから聞いていた岩の巨人の弱点である左後方の脇部分に双剣を突き立てようとしたが――。


「ッ……!」 


『――やはりラグナから聞いていましたか。知っていれば、まあ当然そこを狙うでしょうね』 


 ――ドリルで双剣を弾かれ体ごと後方に吹き飛ばされる。だが飛ばされながらも態勢を崩さず着地したリリスは一度後ろへ跳んで距離を取ろうとした。しかしその前に少女の後ろへ跳躍していたゴーレムが大きな音を立てて背後に着地する。青髪の少女はそれに驚愕しながらも斬りかかろうとしたが、その前に巨人に蹴り飛ばされ木に激突し咳き込むと倒れる。


「……ぐ……」


『――攻撃が失敗すると一度後ろへ跳んで距離を取るところは昔から変わっていませんわねリリ』


「…………」 


『貴方の戦闘スタイルや癖は訓練生時代から全て知っています。だから行動も先読みできる。学生時代から私が貴方にずっと勝てたのはそれが理由です。先に言っておきますリリ――貴方では私に勝てない』


「……それは、やってみなきゃ……わからない……」


 リリスは立ち上がると再びゴーレムに猛攻を仕掛けていった。だが全ての攻撃はことごとくかわされ、防がれる。そしてそのたびに蹴りで吹き飛ばされその体には打撃の痕がついていった。それからかれこれ五分ほど攻防は続いたが、その堅牢な要塞には未だに傷一つ付けられずにいたのだ。その一方で青髪の少女の体はすでにボロボロになっていた。


『……リリ……もうこれでわかったでしょう?』


「……うん……よく……わかったよ……」


『よかった……ならもう負けを認めて大人しく帰――』


「――違うよジュリ……」


『……え……?』


「……わかったっていうのは……勝てないことを理解したってことじゃない……ジュリに勝てることを理解したってことだよ……!」


 ゴーレムの中にいたジュリアはその言葉を一瞬ハッタリだと思ったが、リリスの眼を見てそれは違うという事がすぐにわかった。


「……ここからが本番……!」


 リリスは双剣を逆手持ちにすると身に纏った青い光を強めゴーレム目がけて飛び込んで行った。




 ゴーレムの中のジュリアはリリスの動きを見て驚愕していた。だがそれも仕方がない――なぜなら目の前の少女の動きのパターンが明らかに変わっていたのだ。


(……おかしい……学生時代のリリはどんな時も慎重に相手を観察し、攻撃を仕掛けていた……でも今は違う……なんなのですか、この苛烈な攻撃はッ……!?)


 双剣を逆手持ちに切り替えたリリスの攻撃は苛烈を極めた。ゴーレムの硬い体に傷こそつけられてはいなかったが、その激しい斬撃の嵐はやがて弱点の部分に亀裂を入れる。


「……一撃入れたよ、ジュリッ……!」


『くッ……!』


 攻撃的なスタイルで果敢に攻めてくるリリスだったが、それは決して無謀な攻めというわけではなかった。こちらの攻撃に対してはとらえどころのない動きで受け流し軽やかにかわし続けているのだ。先ほどとは打って変わってジュリアは防戦一方に追い込まれていた。


(動きが先読みできないッ……!? それどころか……こちらの動きが読まれているッ……!? このままでは負ける……こうなったら――)


 舞を踊るように斬撃を放ち続ける剣姫に対してゴーレムは両腕のドリルを同時に地面に叩き付け周辺の足場を破壊しその動きを止めようとした。だが地面が吹き飛ぶと同時に跳んだリリスは木の上に着地すると、周囲の木々を足場にして高速で木々の間を飛び移り始める。そして移動しながらも青髪の少女はジュリアに対して静かに語り始めた。


「……さっきジュリは私にクセがあるって言ったよね……? ……でもそれはもうとっくに自分でも気づいてたんだ……だからそれを直せるようにジュリに内緒で訓練しておいたの……それで……克服した……」


『ッ……!? ……それなら……なぜさっきは防戦一方だったのですかッ……!』


「……ジュリの油断を誘うためと、ジュリの動きを確かめるためだよ……実はね、私にクセがあるようにジュリにも独特のクセがあるの……ゴーレムになってもそのクセがあるか確かめたかった……結果は――私の予想通りだったッ……!」


 木々に飛び移る際に弱点部分にもう一撃入れられさらに深い傷が出来周囲に亀裂が広がる。それを見たジュリアは左腕のドリルを普通の手に戻し弱点部分を覆い隠す。


(……落ち着きなさい。動揺してはいけない。リリは私を混乱させようとしているのです。冷静にならなければいけません――大丈夫。攻撃力は下がりますが弱点部分さえ守ることができれば私は負けない。リリの持っている術では私のゴーレムを壊すことなど出来ないはず。仮に私の動きを読まれていたとしても持久戦に持ち込めばリリもスピードが徐々に落ちる。その隙をつけば……)


 ジュリアが心を落ち着けているとリリスの言葉がそれを遮るように放たれた。


「……ねえ……ジュリは本当に私を殺す覚悟があるの……?」


『な――』


 その言葉は堅牢なゴーレムを通り抜けジュリアに突き刺さった。


「……どうなの……?」


『あ――あるに決まっていますッ……!』


「……嘘……ジュリの嘘はすぐわかる……」


『な、何を根拠に……』


「……私と戦ってる時、ほとんど足で攻撃してた……ドリルを使う時も先端の部分じゃなく腹の部分で殴るだけで致命傷になるような攻撃は絶対してこなかった……」


『……それは……』


「……本当はこんな戦いジュリは望んでないんだよ……ラグナも言ってた……ジュリは自分を殺すようなことはしないように動いてたって……ねえ、ジュリ……ジュリには無理だよ……私達すら切り捨てられないジュリに、大勢の人を犠牲にするような計画が達成できるはずない……」


『……それでも……それでもやらねばならないのですッ! 私の――ベルディアスのせいで死んでいった人々に報いるためにも、私はッ……!』


 ジュリアの悲痛な叫びを聞いたリリスは静かに口を開いた。


「……やっぱり頑固……なら……私が終わらせてあげるッ……!」


『……やってみなさい――受けて立ちますわッ!』


「……自分の体を術で包めるのはジュリだけじゃないんだよッ……! ……見せてあげる、私のとっておきをッ……! ……〈エル・フェンリル〉ッ……!!!」


 高速で木々を飛び交っていた青い光がある一本の巨大な木の頭上に止まると、生い茂っていたその緑の葉の中から突然氷で出来た巨大な狼が現れゴーレム目がけて飛びかかって来た。岩の巨人に勝るとも劣らない大きさの氷狼は飛びかかると同時に右腕のドリルに噛みつく。するとその腕から肉体にかけて体が徐々に凍り付き始めたのだ。


(く……こんな術を隠していたなんて……ッ! ですが、なるほど……私と同じように己の体を包む術……同じ条件で決着をつけるつもりですかッ……! リリらしいですわねッ……! いいでしょうッ……! この勝負に勝って迷いを断ち切ってみせますッ……!)


 ジュリアは押し倒されそうになるゴーレムの体に力を入れ、氷の狼を押し返す。だが片腕だけでは狼の勢いには勝てずやはり徐々に押し戻されてしまう。


(……片腕で押し返せるほど甘くはありませんかッ……! それならッ……!)


 守りに使っていた左腕を弱点から離し、ドリル状に変えたゴーレムはそのままそれを氷狼の腹に突き刺し削り始める。守りを捨て果敢に攻め始めたジュリアは右腕に噛みついていた氷の獣をドリルの回転を上げ一瞬だけ弾き飛ばすと、両腕で攻撃を開始する。


(先ほどまではリリの動きについていけませんでしたが、この巨大な獣の動きになら対応できますッ……! これならばもう弱点部分に攻撃を受けることも無い、その上パワーもスピードも私のゴーレムの方が上ッ……! 術の発動は失策でしたわねリリッ……!)


 ジュリアは氷の狼の爪や牙を弾きつつ、両腕で攻め立てその体を削り続けた。そして――。


『これで――終わりですッ……!!!』


 右腕のドリルによる渾身の一撃が氷の狼を貫くとその体は崩壊を始める。粉々に砕けていく氷を見ながらジュリアは中にいるであろう人物に語り掛ける。


『……残念ですが、リリ。今回の勝負も私の勝ち――』


 だが言いかけて言葉と思考が止る。氷の中にいたであろう人物に勝利を宣言しようとしたジュリアはその外観が崩壊したことで理解した――。


『い――いない……!? そんな……どこに……』


 ――内部が空であることを。


 そして氷塊を見下ろしながら呆然としていたジュリアの背後から声が響いた。


「……やっぱりジュリは強いね……でも今回は――私の勝ち……」


『ッ……!?』


 急いで後ろを振り向いた瞬間、双剣の刃がゴーレムの弱点部分に深々と突き刺さる。と同時に双剣を硬く握り青い光を纏った少女は静かに呟いた。


「……〈エル・アイス〉……」


 詠唱と同時に双剣から放たれた冷気はゴーレムを内側から凍り付かせ崩壊させた。



 ジュリアが重い目蓋を開けると、心配そうに上から見下ろす少女と目が合った。


「……リリ…………ああ……そうですか……負けたのですね……私は……」


 仰向けに倒れ両足が凍り付いた自身を見たジュリアは自嘲するように言う。そしてリリスに対して非難するようにジト目を向けた。 


「……まったく……あんな術を隠し持っていたなんて……」


「……お互い様……」


 リリスの言葉にジュリアはわずかながら笑みをこぼした。


「……確かに、そうですわね……それに、見事に騙されました。まさか氷の狼の中にいると見せかけて、背後にまわっていたとは……」


「……ジュリは生真面目だから……きっと私の言葉に引っかかってくれると思ってた……」


「それも私のクセというわけですね……しかし……あんな動きを身に着けていたとは思いもしませんでしたわ……」


「……ずっとジュリに勝ちたかったから……必死で訓練した……本当は剣王杯でジュリと戦った時に全部お披露目する予定だったの……でも……剣王杯で戦っても、私は負けてたかもしれないね……今回はラグナにゴーレムの弱点を聞いてたから勝てただけ……やっぱりジュリは凄い……」


「……凄くなど……ありません。私など……ただの非力な小娘です……結局……戦いに負け、無様にこうして転がっているだけ……何も成し遂げられなかった……」


 ジュリアは己の力不足を嘆き拳を硬く握った。それを見たリリスはしゃがみ込むとその握り拳に己の手を重ねた。


「……ねえジュリ…………訓練校の演習で……初めて人を殺した時の事覚えてる……? ……あの時……私は罪悪感と嫌悪感で押しつぶされそうになってた……覚悟してたつもりだったけどけど……犯罪者とはいえ人の命を奪ったっていう事実に私は耐え切れなかった……一瞬自殺も考えたくらいだよ……でもそんな時、ジュリが声をかけてくれた……あの時言われた言葉に私は救われたんだ……」


「……言葉……」


「……うん……その時の言葉を返すね……『人の命など私たちのような未熟な小娘一人で背負えるものではありません。たとえ背負えたとしてもきっといつかその重荷に耐え切れず壊れてしまいます。だからもしつらいのなら全て吐き出しなさい。つらさも、弱さも、罪悪感も、何かも。自分一人で抱え込まずに私に全てぶつけてきなさい。一人ではなく二人なら、多少はマシになるでしょう』」


「ッ……!」


 ジュリアはかつて言った言葉を思い出し大きく目を見開いた。それを見たリリスは続ける。


「……アルロンの人たちや他の事も全部そう……一人で抱え込まないで……一人で全部解決しようとしないでほしいの……つらいなら私にぶつけて……ううん……私だけじゃない……今はラグナだっている……今回、私もラグナも色々知った……この国を変えたいっていうジュリの気持ちはよくわかる……でもジュリ一人じゃ絶対に無理……一人の意思で国は変わらない……みんなの意思が必要……仲間を集めよう……まずは……私やラグナがジュリに協力する……こんなクーデターまがいのことをしなくても……内側からこの国を変えられるように……だから自分の意思で降伏してほしい……」


「……説得を受け入れろということですね……しかしこの国を内側から変えるのは不可能に近いですわよ。きっと変えようとしても王侯貴族たちが全力で邪魔してくるでしょう。それこそ貴方の家――キングフローも黙ってはいませんわ」


「……関係ない……どれだけ邪魔があろうと時間がかかっても必ずやり遂げる……命がけになろうとね……」


「……内側から変えることに失敗した時、また私が強引なクーデターを画策するかもしれませんよ」


「……その時はまた止めるだけ……何度ジュリが道を外れようと私が何度でも連れ戻す……」


「……私が途中で志を失い、父のようなどうしようもない貴族に成り果てる可能性だってあります」


「……ジュリがそうなったら私がひっぱたいて元に戻す……戻るまでは頬が腫れようと殴り続ける……」


 リリスの言葉と真っ直ぐな瞳を見たジュリアは唇を強く噛んだ。


「……どうして、そこまで……」


「……決まってる……私にとってジュリは親友で、憧れで、そして――かけがえのないライバルだから……」


「…………」


「……ジュリは私の人生に必要な存在……お互いを高め合っていける唯一無二の好敵手……だからジュリが何と言おうと私は貴方を失いたくない……」


 ジュリアはそれを聞いて表情を崩すと深いため息をついて体の力を抜いた。


「……リリ、貴方は私を頑固だと言いましたが……貴方も大概頑固ですわね……」


「……言われてみると……そうかも……私達、似た者同士……だから気が合う……」


「かもしれませんわね」


 ジュリアは憑き物が落ちたようにフッと笑みをこぼすと目を閉じて呟く。


「――貴方の勝ちですリリ。この身は勝者である貴方に委ねます」


「……うん……よかった……これでラグナに顔向けできる……」


 その言葉に安心したのか、無表情だった少女は親友に花のような笑顔を向ける。だがジュリアはまだ一つ引っかかっていることがあった。


「……そういえばベラルが介入する前にラグナがどうこうと言っていましたが、あれはなんだったのですか……?」


「……実は……」


 リリスはラグナが行った虚偽の報告やレイナードとの密約などを告げた。それを聞いたジュリアは表情を歪める。


「……ラグナ……私なんかのために……なんてことを……」


「……ラグナは本当にジュリのことを心配してた……私が諦めかけてた時だってずっと悩んで活路を見出そうとしてた……だから全部終わったらお礼を言ってあげて欲しい……」


「……ええ。私にできる償いとお礼は全てさせていただきます」


「……お願い……じゃあ私はそろそろ行くけど……ジュリは休んでて……」


 青い光を纏ったリリスは双剣でジュリアの足を凍らせていた氷を砕くと足を森の奥に向ける。それを察したジュリアは心配そうに口を開いた。


「……ボルクス男爵を追うのですね」


「……うん……」


「……男爵はこの先で待機していた『ラクロアの月』の構成員たちと車で移動しています。おそらくすでに個人用の航空機が隠してある場所に到着しているでしょう。今から行っても間に合わないと思いますが……」


「……それでも行く……決着をつけるために……」


「…………」


 目つきを鋭くさせながら駆け出したリリスをジュリアは複雑そうな表情で見送った。    

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