31話 災禍の名残
未だに信じられないラグナをよそにレインは計画の全容について話し始めた。
「まず俺達の計画の目的は王都の制圧だ。ここまでは聞いてただろ? んで、方法なんだが非常にシンプルだ。大量の魔獣を王都に送り込みその混乱に乗じて王侯貴族を捕縛する」
「……強引な作戦だな。そんなものうまくいくはずがない。王都の警備はこの国随一だ。王都から半径百キロ以内に魔獣が出現すれば警戒システムに必ずひっかかる。そのうえ進行ルートが王都とわかれば自動制御の空爆機や戦車が出動するだろう。あんな巨大な魔獣ではいい的にしかならない。そんな杜撰な作戦では、仮に騎士たちがこの町へ大量に派遣されて王都の警備が若干手薄になったとしても制圧なんて不可能だ」
「確かにな。真正面からやりあえばあのデカブツどもは爆撃や砲弾の格好の餌食だ。真正面からやりあえば、の話だけどな」
「……どういう意味だ……」
レインの含み笑いを見たラグナは怪訝な表情になる。
「魔獣どもは檻から出されると三方向から王都に向かう手筈になってるんだよ。一つは東から陸路で、もう一つは南から空路で、そして最後は北の地下洞窟を通ってだ」
「な、地下洞窟……ッ!?」
「そうだ。んで、陸路と空路の魔獣は囮、本命は地下から送り込まれるって寸法さ。地上では警戒システムに引っかかっても地下ではそれも無理そうだしな。魔獣どもはアルシェ近郊の地下洞窟を通ってパルテンの近くの地上に突然現れる。そうなれば警戒システムが作動したとしても手遅れだ」
「あ、アルシェ近郊からパルテン付近に続く地下洞窟があるっていうのかッ!? そんな話聞いた事もないぞッ!?」
「だろうな。フェイクが言ってたぜ、記録が無くなるほど昔に作られた洞窟だってな。だがこれはマジだぜ。なにせ俺もこの眼でその地下洞窟を見たからな。それにアルシェからパルテンに続く地下洞窟だけじゃねえ、この国には他にも多くの地下洞窟がある。まあ時間が経ちすぎて大半が崩落して使い物にならなくなってたが。なんでもこの国は大昔、あらゆる場所の地下深くに穴を掘って要人を逃がす隠し通路を作ったり、大勢の人間が生活、避難、移動ができるような巨大な空間を作っていたそうだぜ。んで俺らはその情報を元にアルシェ近郊の使えそうな地下洞窟を利用して魔獣の開発をやってたんだ。今回王都制圧に使われるメインの魔獣たちはここの地下で産まれたってわけよ」
「地下を利用して……そんなことが……」
「マジなんだよこれが。お前も公僕なら生きてる地下道の一つくらい話で聞いたことがあるんじゃないか?」
「…………」
ラグナは言われてすぐに二つの地下洞窟を思い浮かべた。1つは一月前にディルムンドたちと戦った際に使った地下設備である。ブレイディアたちはそれを活用して王都から脱出し他国へ助けを求めるべく亡命しようともしていた。もう一つはこの木造の館の地下に作られていた隠し通路だ。
(……確かに大昔のこの国の人たちは非常時に備えて地下に隠し通路を作る傾向があったのかもしれない。けどなんで『ラクロアの月』がそんなことを知ってるんだ……ブレイディアさんも王都の地下にあった隠し通路を見つけたのは偶然と言っていた。軍事を司る騎士団の副団長であるブレイディアさんさえ知らされてないってことは、つまりこの国のほとんどの人間は地下についての情報を知らないはずだ……それなのに……)
ラグナが難し気な表情をしているとそれを察したレインが口を開く。
「なんで俺らがそんなこと知ってんだ、とか考えて俺に聞こうとしてるならやめとけよ。俺もフェイクに教えられただけなんでな。詳しいことが聞きたいならアイツとっ捕まえて聞いてくれや。ま、とにかく俺らは魔獣を開発できる地下空間だけじゃなく、アルシェ近郊から王都パルテンの近くに抜ける地下洞窟を見つけたわけよ。んでアルシェの北の地下洞窟を抜けると、王都近くのレクーヌ川中流にある岩で塞がった洞穴に出る。まあ魔獣なら岩くらいぶっ壊して出られるからなんの問題もないけどな。あと川の近くだから水陸両用の『変異体』や『合成魔獣』を投入することになってるぜ。ああ、そうそう、お前が殺した『リヴァイアサン』も地下を通って王都制圧に投入される予定だったんだよ」
「ちょっと待てッ!? 『リヴァイアサン』もって……あんな巨大な生物が通れるほど大きな洞窟なのかッ……!?」
「ああ、そうだ。たぶん『月詠』の力を使って作ったんだろうな。でなきゃ千年前にアレを作るのは技術的に不可能だろうし」
(……てっきり大型の魔獣を地上での陽動に使って中型以下の魔獣を地下へ大量に投入すると勝手に思い込んでいた……洞窟の大きさを根本的に見誤っていたんだ……でも……どうなってるんだ……大昔のこの国の人たちはなんでそんな巨大な穴を作ったんだ……明らかに避難用の通路っていう枠を超えてる……しかもレインの話を聞く限り他にも多く存在していたらしいし……そのうえ魔獣を開発できるほど広い空間も地下にあったなんて……正直これは――)
「――異常だよなぁ……?」
ラグナの心中を代弁するようにレインは話し始める。
「俺も初めて地下洞窟を見た時違和感を覚えたぜ。それこそ街の人間が一斉に移動しても問題ないほどの巨大な地下洞窟に加えて生活スペースまであったんだからな。しかもそれが地下にいくつも存在したっていうんだから驚きを通り越して呆れる。最初は大昔にあった戦争の避難用に作ったとも考えたが、いくらなんでもこれはやり過ぎだ。それこそ蟻かモグラかってくらいに地下と地上を繋ぐ無数の縦穴に地下と地下を繋ぐ無数の横穴を作ってたんだぜ。地下深くに国でもこしらえようってなくらいにな。つまるところこの国に昔住んでた奴らは国民総出で地下に潜る準備をしていたってことだ。どうしてだろうなぁ。なあ――この国の地下が穴だらけな理由――お前はわかるか?」
「…………」
「このレギン王国はかなりの大国だ。ちょっとやそっとの危機程度なら余裕で対処できるくらいの国力や軍事力を昔から持っていた。にもかかわらずこの国の人間たちはまるで何かから逃げるように地下に潜る準備を進めていた。なぜか? その答え、最初はいくら考えてもわからなかった。だがラグナ・グランウッド――お前という存在を認識した時にある推測が立った」
「……俺という存在……? ……どういうことだ……」
「結論から言えば――千年前に現れた災厄から身を守るために人々は地下に身を隠そうとしたんだよ」
「千年前……? 災厄……? ……それが俺と何の関係があるっていうんだ……」
「なんだよ、ここまで言ったら普通気づくだろ。っていうかお前は真っ先に気が付かなきゃ駄目だって。何せお前は千年前に現れたその災厄の力を継承してるんだからな」
「災厄の力……? ……ッ!」
ラグナはレインの視線の先に気づきハッとした顔になると全てを理解した。そして手袋のはめられた左手――黒い痣を見透かすように凝視していた赤毛の少年は解答をなおも続け『災厄』の名を呼んだ。
「クロウツ――千年前たった一人で世界を滅ぼしかけた最強の『月詠』――おとぎ話だけの存在だと思ってたが、お前っていう存在がいる以上クロウツも実在していたってことだろ? ってことはあのおとぎ話も実話だったってことだ。それを念頭に置けばこの国の異常な地下通路は千年前に作られたってことが推測できる。なにせあのおとぎ話によると千年前この世界はクロウツによって崩壊の危機に陥ってたらしいしな。恐らくこの国の連中はクロウツを恐れて地下に潜ろうとしてたんだろうぜ。さしづめあの地下洞窟たちは災禍の名残ってとこだろうな」
(災禍の名残……クロウツ……)
ラグナが千年前の情景を思い描いているとレインは楽し気な声をあげた。
「しかしそれが事実ならすげえよな。たった一人で世界に宣戦布告して達成しかけるほどの圧倒的な力――『黒い月光』――クロウツはそれを使って好き放題やってたわけだ。にしても世界征服かぁ、憧れるねぇ。お前はどう思う? 最強の力を受け継いだ後輩として先輩みたいにやってみたくねーか? 世界征服」
「……そんなものに興味はない」
「っかー、マジかよつまんねー奴。せっかく最強の力を持ってるっつーのにもったいねー。……まあいいや、とにかくさっき言った王都制圧の話は本当だ。その証拠に――ほら、これをくれてやるよ」
レインはポケットから携帯に似た端末を取り出すとラグナに投げ渡した。とっさにそれを受け取り画面を見る。ディスプレイにはアルシェ近辺の地図、そして地図上に表示された一つの青い点と無数の赤い点が表示されていた。何の表示なのかと思い眉をひそめていると、赤毛の少年が説明を始める。
「その青い点がお前が持ってるデバイスの位置、そんで赤い点は魔獣につけられた首輪の位置情報を示してる」
「魔獣の位置って……こんなに……いるのか……」
デバイスの位置――つまり館の場所から東、北、南に十キロほどの場所に無数の赤い点が密集していた。あまりの多さに面食らっているとレインが独り言ちる。
「陸路で使うのが三百体、空路も三百体、地下は確か四百体くらいだったか……今はコンテナに入れて地下の洞窟に隠してあるから見つからねーと思うが」
「……せ、千匹もいるっていうのか……いったい、いつの間にそんな数を……」
「いくら地下を利用してるとはいえ普通なら王都に近いアルシェ付近でこんな大量の魔獣を作ろうとすれば、機材の持ち込みやら設備の建設やらで作るまでも無く速攻で騎士に見つかってただろーな。だがディルムンドの反乱で王都の機能は半年前から実質マヒしてた。そんでディルムンドとハロルドを裏から支援し操ってたのが俺らだ。当然奴らは俺らの存在を黙認してたから邪魔は入らねえ。まあ奴らには俺らがアルシェ近郊の地下で魔獣の開発をしてたことは教えてねえけど。当然地下通路のことも言ってねぇ。機材や設備の持ち込みはいざという時に備えて奴らへのサポートをするためって嘘の説明してたからな。あと、この辺り一帯の領主であるボルクス男爵の協力もあったし、魔獣の開発自体は結構簡単だったぜ」
(……ってことはボルクス男爵は半年以上前から『ラクロアの月』と繋がっていたのか……なんでこんな連中と協力なんか……そういえばフェイクがこの国への復讐と言っていた……アレはどういう意味なんだ……)
ラグナが考えているとレインがあくびをしながら言う。
「それとそのデバイスには他にも色々使える機能があるからうまく活用してくれや。他に聞きたいことはあるか?」
「……ボルクス男爵はどこに亡命しようとしてるんだ……?」
「ガルシィア帝国だ。つってもどういうルートを通って行くかはボルクスが明日指示するみてーだから俺にはわからねーけど。ボルクスの居場所も奴の指示で護衛のベラルにだけ知らされるみたいだしな」
(ガルシィア帝国にも『ラクロアの月』の協力者がいるのかッ……!? くそッ……背後関係を知るためにも亡命される前にボルクス男爵の身柄はなんとしても押さえたいのに……通るルートがわからないんじゃ対策の立てようがない……もし俺達の知らない地下洞窟を利用してこの国を脱出するんだとしたら、もう追うことは不可能になる。そうなったら……いや落ち着け、わからないことを考えても仕方ない……とにかく今は目の前のこいつから可能な限り情報を引き出すべきだ)
ラグナは心の中で歯噛みすると、別の話題に切り替える。
「……王都の制圧が目的と言っていたが……なぜ王都を狙う……? 王侯貴族を捕縛していったいなにをするつもりなんだ……?」
「詳しくは俺も聞かされていないが、どうも王都の地下に『ラクロアの月』が求めている何かが眠っているらしいぜ。俺達はそれを手に入れるために色々動いてたんだよ。んで、王都制圧のためにフェイクが立てた計画は三つ。一つはディルムンド、ひいてはハロルドの反乱による王都の制圧。二つ目はさっき話した『合成魔獣』や『変異体』を用いたものだ。三つ目は――お前も聞いてたよな?」
「……ラフェール鉱山……フェイクの言っていた第二陣か」
「そゆこと。ちゃんと盗み聞きしてたみたいでなによりだ。本当なら一本目の矢で王都は陥落してたはずなんだけどな。お前って言うイレギュラーが現れたせいで、俺達が主導する残りの予備プランを使わざるを得なくなったわけよ」
「……ラフェール鉱山で何をしようとしてる」
「悪いがそれは言えねー。三番目の計画を事前に知られるのは俺にとって都合が悪いんでな」
(……全てを教えるつもりはないってことか……本当に投降するつもりはないんだな……でもだとしたらこいつが自分の組織の計画を話すメリットってなんなんだ…………駄目だ、わからない……)
裏切りの意図について考えているとレインがそれを遮るように話しかける。
「……他にはどうだ……?」
「……お前たちが探している『方舟』と『鍵』について詳しく知りたい」
「へえ、よくその単語知ってたな。だがそれは俺にもわからねー。俺が知ってんのはそれらが世界のリセットに関わってるってことだけだ。詳細を知ってるのは一部の古参幹部と首領だけらしい。だがそれらがある可能性が高い場所は見当がつく。俺らが今やろうとしていることを考えればな」
ラグナは目を閉じて数秒考え答えを出す。
「……王都の地下か……」
「そうだ。つっても『方舟』と『鍵』のどっちがあるのかまでは知らねーけど。……他は?」
「…………」
「……どうやら他にはないようだな。じゃあ俺から最後に大サービスだ。幹部について俺の知ってる情報を教えてやる」
「ッ……!」
予想外の申し出に驚き目を見開いていると、レインは静かに語り始めた。
「幹部の数は首領を含めて全部で七人。俺がツラを知ってるのはそのうちの三人。一人はフェイク、もう一人はブルゴエラ、最後がロットチェットって名前の奴だ。フェイクはまあ知ってるよな、さっきの仮面野郎だ。ブルゴエラは鎖を顔やら体中に巻き付けてボロ布を羽織ったババア声の女。ロットチェットは灰色の長い髪を箒みてえに逆立てたカエル顔でギョロ目のおっさんだ。緑色の布で口を隠して同じ色のマントで全身を包んでる。見れば速攻でわかると思うぜ。なにせ全員不審者全開の格好だ。街中を歩けば即通報されるだろうよ」
「……能力は知っているのか……?」
「フェイクは知っているが、ロットチェットは噂で聞いた程度だな。ブルゴエラは知らねえ。そんでフェイクの持っている『月痕』は『銀月の月痕』だ。能力は主に電撃を用いた攻撃呪文。ロットチェットの能力は植物系統の術らしいってこと以外は不明だ。他の幹部の能力は名前と一緒でほとんどわかんねえな」
「……お前は幹部補佐だろう。フェイクの副官なのに他の幹部とはもっと関わらないのか……?」
「残念ながらな。二、三か月に一回幹部で会合を開いているらしいがフェイクは一人で行っちまうんだよ。聞いてみたが他の幹部も同じようなもんらしい。幹部の情報はトップシークレットとかで他の部隊にはまったく教えられねえんだとよ。そのうえ幹部同士で協力して作戦を組むことは皆無だ。たまに会って情報交換する程度で、幹部は基本的には自分たちの直属の部下や部隊を用いて行動する。まあ『ラクロアの月』に入ってる奴は幹部も含めて見た感じ協調性なさそうだし、味方同士で諍いを起こさないためにそうしてるのかもな。まったく、全員身勝手な奴ばかりで困るぜ」
(……目の前のこいつが一番身勝手な気がするけど……こうして勝手に情報も漏らしているし……まあいい……けど味方同士で争わないためか……確かに……レインたちのさっきのやりとりを見るにそれも納得できる……)
一番協調性の無さそうな本人が協調性の無さを非難してる様は非常に違和感があったが、それを飲み込むとレインの話に耳を傾けた。
「とにかく幹部同士はあまりつるまねえんだ。ぶっちゃけ俺がブルゴエラとロットチェットに会えたのは運が良かっただけだな。もっと幹部の情報を知りたいならフェイクに直接聞きな。さて――これで俺の言える情報は全てだ。どう使うかはお前次第。それじゃあな」
「……待て。このまま黙って逃がすと思うのか」
背を向けたレインに対して、ラグナは『月錬機』を剣に変えるとその背中に向ける。
「おいおい。ここまで教えてやったのにそりゃねえぜ」
「お前が勝手に喋っていただけだ。それにどうせ自分のためだろう」
「まあな。けど、いいのか? お前がさっき突入して来なかったのはフェイクを警戒してたからだろ? ここでドンパチやったらせっかく離れて行ったフェイクが部隊長と一緒に戻って来ちまうかもしれないぞ」
「…………」
その言葉を聞いた途端ラグナは表情をこわばらせ、レインは愉快そうに続ける。
「あの場で様子を見たお前の判断は正しいぜ。フェイクは正真正銘の化け物だ。それこそ『変異体』や『合成魔獣』にドラゴンさえも可愛く見えるほどにな。お前もこの場にいたんだ――奴の殺気を肌で感じて理解してるはずだぜ。そうだろう?」
(……確かにこいつの言う通り。今フェイクと戦っても勝てる気がしない。あの殺気は尋常じゃなかった。それに『黒月の月痕』の異常反応のこともある。もっと多くの騎士をそろえた万全の状態でなければきっと危険だ。でもここでレインを逃がすのは痛い……こいつもまだ喋っていない情報が相当あるはずだ。捕らえられれば有利に事を運べるはず。けど……こいつも一筋縄じゃいかない相手だ。戦えば少なからず周囲に被害を出す。そうなればこいつの言う通りフェイクたちが戻ってきかねない)
ラグナが決めあぐねていると館の外から大きな声が響いて来た。
「侵入者だッ! 侵入者が人質を連れて森に逃げたぞ!」
その声を聞きラグナは思わず窓の外に目を向けてしまう。外では武装した大勢の男たちが血相を変えて走り回っていた。どうやら侵入者と人質を探しているらしい。すると状況を先に察したレインが口を開いた。
「たぶんお前と一緒に隠れてた奴だと思うぜ。途中でどっか行ったと思ったら、なるほどな。人質の様子を見に行ってたわけか。だが見つかっちまったみてーだな。クク、俺に構ってる暇ねぇんじゃねえの? 早く行かねえとお仲間が八つ裂きにされちまうぜ」
「くッ……!」
ラグナはレインを睨みながら悔しそうに歯噛みすると、近くの窓を蹴破り外に飛び出した。その様子を見た赤毛の少年は大広間の出口へ向かった。
外で飛び交う怒号を涼しい顔で聞き流しながら廊下を歩くレインは口元を緩めた。
(これで仕込みは完了。後は結果を待つばかりだ。せいぜい俺の為に頑張ってくれよラグナ・グランウッドさんよぉ。だが――気になる点が一つある。三階の大広間――あの場にいた他の雑魚共は天井裏のネズミに気づいていなかったが、問題はフェイク。あの野郎、気づいてやがったな)
『あまり遊びすぎるなよ』――その言葉がレインの脳裏をよぎり、その結果目つきが鋭くなる。
(……フェイクは気づいていながら放置していた。そのうえあの場に残るっていう俺の行動も止めなかった。それに去り際のあの言葉……俺に釘を刺したつもりか……? 俺の行動を抑制したいなら放置せず無理矢理つれていきゃあいいだろうが……何を考えていやがる。チッ、気味が悪いんだよクソが。アイツの考えは時々読めなくなる。マジで注意しねえとな。下手したらアイツの手のひらで踊ってたなんてことにもなりかねねえ。舞い込んできたこのチャンス――必ずモノにしてやる)
レインは己の野望を胸に秘め館を後にした。