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11話 亡霊の歌

 挨拶を済ませたハロルドはロングスカートと白いブラウスを除いてメイド服を脱ぎ去り、ランスローが着ていたサイズの大きい穴の開いた白衣をブラウスの上から着た。


「やっぱり白衣が無いと落ち着かないのよね。メイド服着てた時はずっと落ち着かなかったし。さて、これでオーケー。でも――よかった、二人とも驚いてくれたみたいね。騎士団長の二番煎じになるんじゃないかとヒヤヒヤしたわ。だけどアナタ本当にタフねディルムンド。常人ならとっくにあの世に逝ってると思うけど、まだ喋れるなんて呆れを通り越して感心するわ」


「な、なぜだ……ッ!? ……き、貴様は……十七年前に……死んだはずだッ……!」


「残念ながら死んでなかったのよ。そして今日まで正体を隠して生きて来た。脳波コントロール装置で顔を隠し、表向きはランスローっていうアンドロイドを操りながらメイドロボットに扮してね」


「な……ぜ……そんな……真似を……」


「私が生きていることがバレれば確実に命を狙われるからよ。かつての実験の真相を知っている私を奴らが野放しにするとは思えないからね。命を狙われながら私の目的を達成することは難しいと考えたからこそ、あんな格好してまで存在を隠し続けたのよ」


「奴ら……? 実験の真相……だと……」


「そう。かつて私が引き起こしたとされている『ルナシステム』の実験ね、最初に言っとくとアレ濡れ衣だから」


「濡れ……衣……? 『アルロンの悲劇』のこ……とか?」


「そうよ。まあいいか。悪人とはいえいろいろ利用させてもらったし、冥途の土産に全部教えてあげるわ――十七年前、小さな町アルロンの近郊にある岩石地帯で私の発明した『ルナシステム』の試運転が行われた。そのことは知ってるでしょ? その結果実験は成功したものの、住んでいた人もろともアルロンは跡形も無く消滅したことも。そしてその実験を主導し事故を引き起こしたのは私――と世間一般の人たちは思ってるみたいだけど実際は違う。全ては十七年前に遡る」


 ハロルドの言葉にわずかな怒気がまじるのを感じながらもブレイディアとディルムンドは黙って話を聞いていた。


「『ルナシステム』の試運転の前日、私はあのマシンに重大な欠陥があることに気づいた。そして上層部――スポンサーだった王侯貴族たちにそのことを伝え実験を中止するよう訴えた。でも聞き入れられなかったわ。理由は簡単、奴らは自分たちの欲望を抑えることが出来なかったのよ。『月光』を人為的に際限なく呼び出すことの出来るこの夢のような発明品は、成功すれば長年かけて『月光』が天から鉱物に降り注ぐことでようやく生成されるという『月光石』を無限に作り出すことが出来る。この『月光石』が内包している強力なエネルギーは発見された当初から文明を飛躍的に進歩させてきた。でも本来『月光石』は古い地層からしか発掘されないうえに数も少なかった。だからでしょうね、それがもたらす莫大な利益と恩恵に目がくらんだ愚か者たちによって実験は強行された」


 ハロルドの眼が鋭く光る。その眼光が捉えているのは、かつての愚か者たちの姿なのであろうことはブレイディアにも察しがついた。


「そして結果は知っての通りよ。暴走した『ルナシステム』は大量の月光を地上に呼び出しアルロンの街は消し飛んだ。でも実験に反対していた私は地下牢に監禁されていたため難を逃れた。まあ地上の崩落で生き埋めにされたところを命からがらなんとか逃げのびたんだけどね。その後はさっき言った通り、姿と名を変え準備していたのよ。実験を強行したうえ私に全ての罪を被せたこの国の王侯貴族に復讐するためにね。ふぅ……私の話はこれでお終い。これで説明義務は果たしたわよディルムンド。じゃあコアを貰うわね。実験に協力してくれてありがとう――さようなら」


「や、やめ――ごふッ……!」


 ハロルドがそう言い放つと貫いていた触手が動き出し、ディルムンドの体内からビー玉ほどの大きさの虹色に光る玉を取り出した。それが終わると用済みと言わんばかりに、瀕死の体は地面に投げ捨てられる。直後、虹色に光輝く玉を掴んだ触手は自らの主人に向かって伸びると宝玉をその懐に入れた。


「さて、次はブレイディアに話があるの。聞いてくれるかしら」


「……話? ……私をここにおびき出して殺すつもりだったんじゃないの?」


「いいえ。あなたをわざわざここに呼び出したのは殺すためじゃない。この国から逃げてほしいと伝えたかったからよ」


「この国から逃げてほしいって……どういうこと?」


「あなたとは私が姿を変えてこの街に来て以来の仲よね。正直最初は利用するだけのつもりだった。でもあなたと付き合う内にしょうもない感情を抱くようになってしまった。つまるところ私はあなたを殺したくないのよ。でも私の目的はこの国を害する、となると確実にあなたと戦うことになるでしょ? だからその前に私の前から消えてほしいの。そうしてくれるなら私はあなたを追わないし、手も出さない。どうかしら?」


 ハロルドの言葉に一瞬キョトンとしたブレイディアだったが、すぐに表情を崩して笑う。


「……そっか、私のことをそういうふうに思っててくれたんだね。全部が全部嘘じゃなかったんだ。少し救われたよ。だけど――愚問だね。あなたがこの国に復讐と称して何をしようとしているかは知らないけどさ、私がその誘いに乗るかどうか――付き合いの長いあなたならわかるよね?」


「……はぁ……そうね……そうだったわ。私が友人で居続けたいと願った騎士はここで引くような人間ではなかったわね。わかりきっていたけど、心のどこかで逃げてくれることを願わずにはいられなかった。本当に残念だけど、仕方ないわね。私も引き下がるわけにはいかないもの――あなたを殺すわブレイディア。あなたは私の計画の邪魔になる」


「望むところだよ。でも、戦う前に一つ教えて。ラグナ君はあなたが話した真実を知っているの? それにこの国に復讐するならあの子も巻き添えにすることになるんだよ?」


「心配しないで頂戴。ラグナなら安全な場所に向かっているわ。今頃目が覚めて真相を聞いているかもね。とにかくあの子は大丈夫。それより――そろそろ始めましょうか」


 ハロルドが右手を掲げると赤い『月光』がその身に宿る。ブレイディアはそれを見るとすぐに『緑月の月光』を呼び出し『月錬機』を展開させた。




 わずかな振動を感じたラグナは重たい目蓋を開けた。狭い個室のような場所で椅子に体を固定されている今の状況は寝起きの頭ではまったく理解できなかったが、少しずつ記憶の奥底から現在に至るまでの道筋を探ろうとする。


「…………俺はいったい…………そ、そうだ……! 確か先生と話していて急に意識が遠のいて…………」


 眼が冴えて来たのか周りの状況が確認できるようになる。そしてガラスに覆われた窓の外にある移り行く景色から自分が今乗り物に乗せられていることがわかった。さらに浮遊感のようなものを感じたため窓の下を除く。


「これは……小型の飛行機か……でもどうして俺がこんなところに……」


 現在ラグナは一人乗りの小型飛行機の操縦席に乗せられているようだが、なぜ自分がここにいるのかだけはわからなかった。幸いにもオートパイロットのようで操縦する必要はなかったが、どこに向かっているのかさえわからない今の状況では安心など出来ない。混乱する頭を落ち着けようと努めていると、操縦席のナビモニターが突然映像に切り替わった。画面に映し出されたのはランスローとメイド型のアンドロイド。


「先生……?」


『ラグナ、どうやら目が覚めたようだネ。この映像は目覚めた君の脳波を感知すると自動で流れることになっていル。突然のことで混乱しているだろうことは想像できるが、まずは謝罪させてくレ。本当にすまなイ。君の飲んだスープには睡眠薬が入れてあったんダ。そんなことをした理由については今から説明すル。どうか聞いてほしイ。これから話すことはこれまでの事件の真相と私の正体、そして君の産まれについての話ダ。全ての話を聞き終わった後、私の元に来る気があるなら座席上部に取り付けられている小型の端末を見てほしイ。そこには私の携帯のGPS情報が表示されていル。それを非常用脱出カプセルに接続し使えばオートで私のいる場所の近くに飛ぶように設定してあル。では話そうカ――』


 語られるランスローの話をラグナは静かに聞き始めた。




 時計塔最上階――ブレイディアとハロルドの戦いは佳境に入っていた。現役の騎士と科学者の戦いはどちらが優位か普通ならば言うまでもなかったが、結末は予想外のものとなる。


「これでわかったでしょう、ブレイディア。あなたでは私に勝てない」


「くッ……!」


 弱弱しい緑の光を纏い地面に膝をついていたのはブレイディア。それを轟々と燃え盛る真紅の光を纏ったハロルドが冷たい目で見下ろしている。怪我が完治していないとはいえ現役の騎士が敗北寸前まで追い込まれていたのには明確な理由があった。


(わからない……さっきから撃ってくるあの炎の玉は『月光術』なの……? でも……だとしてもやっぱりおかしい。アレが『月光術』なら詠唱を必要とするはず、それに『月光術』は使用後に必ず体に帯びた『月光』が消える。でもラン――ハロルドはさっきから連続でアレを撃っているのに『月光』は消えていない。どういうことなの……?)


 攻撃を必死にかわしながら疑問の解を得ようと思考を巡らせるも、いくら考えても答えは出なかった。しかも避け続けているうちに体力と気力は削られていき、動きも鈍り始める。時には大剣を盾に使いながらも一時間近く無数の弾幕を避け続けたブレイディアの体力はもはや限界に近かった。


(く、流石にこの体で避け続けるのはキツイ……一時間前からあの無数の玉の弾幕で防戦一方……けど、避け続けたこと自体は無駄じゃない。あの無数に飛んでくるランダムな玉の中に規則性を見つけられた。あとはタイミングを見計らって反撃に転じるだけ。けど、体力的に反撃できるのはこれが最初で最後、だから確実に決めるッ……!)


 ブレイディアは不可思議な敵の術中にはまりながらも光明を見出し、ひたすらに避け続けた。そしてとうとうその時は訪れる。ハロルドが玉を撃った瞬間、かわすと同時に叫ぶように唱える。


「〈イル・ウィンド〉……!」


 唱えた瞬間大剣に今までよりも巨大な風が巻き付く。その間も無数の光弾はブレイディアを襲ったが、予測していたかのように全て避けきりハロルドとの間合いを詰める。結果として剣の届く間合いに入った。風の螺旋が地面をえぐりながら敵目がけて放たれる。しかしその攻撃は見覚えのある光の壁に阻まれ弾き返された。ディルムンド戦の時にラグナが『ルナシステム』を直接狙った時に現れたバリアである。


「なッ……! これって……」


「惜しかったわね。でもこれでお終いよ」


 手から巨大な炎の玉が放たれブレイディアに直撃した。玉は触れた瞬間に爆発し炎上するとその小さな体を吹き飛ばす。その後、地面に倒れ伏した姿を確認したハロルドは深いため息をついた。


「まったく……ランダムに放たれる玉の軌道を見切るとはね。相変わらずたいしたものだわブレイディア。まあこのシステムもまだまだ改良が必要だったのかもね」


「シス……テム……?」


「そうよ。私は『月詠』じゃないから人工的に『月光』を呼び出すことの出来るシステムを使って今まで戦っていたってわけ。あなたも知っているシステムよ」


「人工的にって……まさか……『ルナシステム』ッ!?」


「ご名答」


「『ルナシステム』なら騎士団が回収したはずだよ……! ここにあるわけないッ……!」


「いいえ。『ルナシステム』はもう一つ存在するのよブレイディア」

 

「んなッ!? い、いや、もし……もし仮にもう一つ予備があったとしても、あんな巨大な物がどこにあるっていうのッ!?」


 ブレイディアは屋上を見渡したがそれらしいものは一つも無い。ハロルドはその発言が間違いであるかのように首を横に振った。


「あなたが見た『ルナシステム』はいわばプロトタイプ。そして私が今使っているのが小型化に成功し完成した真の『ルナシステム』よ」


「真の『ルナシステム』……ッ!?」


「そう。でも私が今身に着けている『ルナシステム』はあなたからは服に隠れて見えないかもね。ま、とにかく私は今『ルナシステム』のおかげでこの天に浮かぶ月たちから無限に『月光』という莫大なエネルギーを呼び出せるのよ。こんな風にね――」


 ハロルドが左手を掲げるとより強力な真紅の光が天より降り注ぎその体を輝かせた。通常では考えられないほどの莫大なエネルギーにブレイディアは度肝を抜かれる。


「これだけじゃないわ。『月詠』は『月痕』の周辺に刻まれた『月文字』を読み上げることで体に帯びた『月光』を消費し『月光術』という魔法が使える。だから『月光』をシステムの力で呼び出せても『月詠』で無い以上『月痕』と『月文字』を持たない私には『月光術』は使えない。でもね、似たようなことなら出来るようになったのよ」


 ハロルドが手のひらを見せつけるように開くと、先ほどよりもさらに大きい赤い玉が出来上がった。一メートル近い赤球はすぐさま巨大な火の玉になると、手から放たれブレイディアのすぐ横を通過し後方の地面に着弾すると爆発した。


「これは『ルナシステム』に追加した新たな機能。私の体の『月光』を別のエネルギーに変換し射出する。まあ『月詠』が使う『月光術』と大差ないわね。赤月なら炎。蒼月なら水や氷。緑月なら風。黄月なら土や岩。銀月なら光や電気。ただ紫月は他の属性とは違って特殊だったから『ルナシステム』に繋がっていたディルムンドの能力を解析して奴の能力だった他者を操るっていう能力を再現したわ。あとこれは『月光術』ではないから『月光』を全て吸い尽くしたり、術の反動で『月光』を数十秒纏えなくなるなんてこともない。ハッキリ言って『月光術』の上位互換と呼んでも差し障り無いと思うわ」


(全ての月の『月光』を際限なく呼び出すだけでなく『月光術』を科学で完全に再現したっていうの……しかも欠点を全て克服して……信じられない……)


 だが目の前のハロルドは証明して見せるように全ての色の『月光』を順番に呼び出し、手のひらに同色の玉を作りだすと属性の変換を行った。操る対象の無い紫月を除けば、言った通り玉はそれぞれの属性を持っており、放たれ着弾した際の威力も申し分無い。その上『月光術』の弱点だった、使用後の『月光』消失という欠点も無くなっていたのだ。


「これでわかったでしょう? 私は『月詠』という存在を完全に超えているのよ。戦ったところで私には絶対に勝てない。さて……ここまでわざわざ説明したのはあなたに今度こそ諦めてもらうため。そこでもう一度お願いするわブレイディア。この国から去りなさい。今すぐに。そうすれば命までは取らないわ。これが本当に最後。ここで断るようなら……」


「殺すってことね……答えを出す前にもう一度質問させて。この国の王侯貴族に復讐するって言ってたけど、具体的には何をするつもりなの……?」


「そうね、とりあえず十七年前の事件に関わった連中は利用した後に皆殺しにするわ。その後はこの国を作り変える。私の望む国にね。簡単に説明するとそれが私の復讐」


「つまりこの国を支配するってこと? ……なんだ、結局ディルムンドと同じってわけね」


「いいえ、違うわ。支配するのは私じゃない。この国の国民がこの国を支配する。いわば民主制という奴ね。ただこの国の人間は今まで王侯貴族に飼いならされてきた。だから今の民衆には政治を行うような力は無いってことはわかってる。昔に比べて多少改善されたとはいえ今の民衆にとって王侯貴族は絶対の存在であることに変わりはない。ゆえに奴らが嘘と言えば真実は嘘になり、真実と言えば嘘は真実にすり替わる。アルロンの町の一件でそれが嫌っていうほどよくわかったわ。これだけ科学技術が発達しているのにこの国の政治体制は中世と大差ない。このままではいずれ取り返しのつかないことが起きる。その前にこの国の人間には目を覚ましてもらわなければいけない。でもそれには相応の痛みが伴うことになる」


「……民主制って聞いた時はディルムンドの革命ごっこよりはまともって思ったけど……痛みを伴うって、何をするつもりなの……?」


「国民に内乱でも起こしてもらおうかと思っているわ。彼ら自身の意思でね」


「な、内乱って……何言ってるのッ!? そんなことできるわけ――」


「いいえ、出来るわ。さっき言った通り私は『ルナシステム』で強化されたディルムンドの能力を使えるのよ。これを用いて王侯貴族を支配する。そしてこの国に圧政を敷き国民を弾圧するの。それこそクーデターでも起こしたくなるほどにね」


「ちょっと待ってよッ! 国民がクーデターを起こすような圧政と弾圧って、いったいどれだけ国民を犠牲にするつもりなのッ!? それに内乱なんか起こったら国の政治機構が滅茶苦茶になるよッ! それこそ他国の介入を招くような事態になりかねないッ!」


「言ったでしょう? 痛みを伴うと。この国の規模を考えればあなたの言う通り数百万単位の犠牲は出るでしょうね。でもそれくらいしなければ腐りかかったこの国は絶対に変わらない。それに内乱といっても私が裏でコントロールするもの。そんなに長引かせはしないわ。混乱に乗じて他国が介入してきたとしても心配ない。仮に隣国が戦争をふっかけてきたとしても私一人で追い払えるわ。今の私の力をもってすればどんな問題も些末事」


(なんなのこの自信は……一人で国一つを相手取るって、そんなバカな……もしかしてまだ私に見せていない力があるとでも言うのッ……? ……いや、どっちにしたって内乱なんか起きたら何の罪も無い人間が大勢死ぬことになる。そんなことさせるわけにはいかない。たとえこの命に代えても絶対に止めて見せる)


 決心したブレイディアは重傷の体を無理やり起こすと大剣を構え直した。それを見たハロルドは大きくため息をつく。


「それがあなたの答えということね、ブレイディア」


「そうだよ……! 確かにこの国の上層部は腐ってる。私も騎士になって日が浅いわけじゃない、汚い部分もいっぱい見て来た。国を改革したいってあなたの気持ちはよくわかる。けどね、あなたのいう革命はきっと大勢の命を奪う。どんな理由があろうと必死に生きているこの国の皆の命を犠牲にする革命なんてあっていいはずがないッ……! だから、させないよそんなことッ……! たとえあなたがどれだけ強かろうが私は騎士としてあなたの前に立つッ……!」


「……なるほど、それがあなたの正義、か。フフ……本当に変わらないわね、ブレイディア。やっぱりあなたは私が出会った中で最高の騎士よ。でもね――私も止まるつもりはないわ。死んでいったアルロンの町の人たちのためにもここで終わるわけにはいかないの。彼らの犠牲を教訓とせずに隠蔽し発展してきたこの国を変える事。それが私にできる唯一の償いにして弔い。それを邪魔するというのなら――ここで消えなさいッ!」


 ハロルドは赤い『月光』を呼び出すと手のひらに十メートルほどの真紅の球体を作り出した。そして炎弾に変換したそれをブレイディアに向けて射出する。


「これで今度こそ終わりよブレイディア」


「ぐッ……!」


 ブレイディアは『月光』を纏おうとしたがそんな体力はすでに残っていなかった。それでも気力を振り絞り剣で球体を受け止めようとする。しかし炎がブレイディアにぶつかる直前に横から同じ大きさの銀色の玉がぶつかり真紅の球体を弾き飛ばしたのだ。窮地を救われながらも突然のことに驚いていると何者かが女騎士の後ろからやってきた。その人物の姿を見てさらに驚くことになる。


「ら、ラグナ君ッ……!?」


「すみませんッ……ハァ……ハァ……ブレイディアさん……お、遅くなったみたいで……」


 汗だくのラグナはブレイディアに謝ると呼吸を整えハロルドの方に向き直った。


「……先生、なんですよね……? 動画見ました。だから……事情は知ってます」


「……そう……来てしまったのね……ラグナ……」


「……はい、あなたを止めるために」


 ハロルドの悲し気な呟きにラグナは静かに返事をした。

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