113話 新たな仲間
そうして話は進み『壊し屋』を捜索する方向で今後の方針は決まった。しかしここで新たな問題が発生する。それは案内役の人選についてである。
「……お二人の案内役についてなのですが……何かご要望はありますか?」
ロウウェルの問いかけに対してブレイディアは顎に手を当てて考え始める。
「うーん……案内役はとりあえず二人くらいで大丈夫。でも相手が相手だし、出来れば実力のある人がいいんだけど……今の状況だとこっちに回すのは難しいよね?」
「そうですな……こちらとしても副団長殿たちの足を引っ張る者を送りたくはないのですが……いかんせん人員不足でして……そのうえ実力のある騎士たちもその『壊し屋』なる者によって大半が昏睡状態なのです……」
「だよね。じゃあ、ベテランじゃなくてもいいからさ、入団三年以内の若手で優秀そうな人材とかはいない?」
「若手ですか……いないことはないのですが……」
歯切れの悪いロウウェルに対してラグナとブレイディアは不思議そうに首を傾げる。
「何か問題でもあるの? その子たちをこっちに回すと町の治安維持がやっぱり難しくなっちゃうとか?」
「いえ……そういうわけではないのです。二人ほど優れた資質を持つ若手の騎士がいて、案内役に回すことも問題はありません。ただ……二人とも少々性格に難がありまして……お二人にご迷惑をかけるのではないかと……」
「性格に問題があるんだ。でも優秀な人って我が強いことも多いし、多少跳ねっかえりでも私は気にしないよ。ラグナ君はどう?」
「俺も大丈夫です。仲良くなれるように努力したいと思います」
「オッケー。じゃあロウウェルさん、その二人を紹介してくれないかな」
「……かしこまりました。くれぐれも無礼な真似はしないようにと言い含めておきますが、もし何か失礼な真似をするようならばすぐにでも案内役から外しますので。……では二人を連れてきます」
浮かない顔をしたロウウェルは席から立ち上がり一礼すると部屋を出て行った。その様子を見た二人は顔を見合わせながらやってくるであろう二人について話し始める。
「どんな子が来るんだろうね。性格に難があるってロウウェルさんは言ってたけど」
「わかりませんけど……気難しい人、とかでしょうか。でもロウウェルさんのあの様子を見るに短時間で信頼関係を築くのは難しそうですね」
「だね。けど優しくて人当たりのいい人とかだとあのタチの悪そうな殺し屋と渡り合うのは難しそうだし、ある意味ちょうどよかったんじゃないかな。それに優秀なら多少性格に難があっても許せるよ。あんまり時間かけてもいられないしね。デカートにせっつかれることになりそうだし」
「そうかもしれないですね。でも壊し屋はまだこの町にいるんでしょうか。一週間も経っているのならもう逃げてしまっている可能性もあると思うんです」
「いや、たぶんまだこの町にいると思うよ」
きっぱりと言い切ったブレイディアにラグナは首を傾げて問う。
「どうしてそう思うんですか?」
「騎士たちを行動不能に追いやったから。もし壊し屋が仕事を全部終えてるのならそんな無駄な事をする必要ないもん。さっさと逃げればいいんだから。でも騎士たちの捜査をわざわざ妨害したってことは、この町でまだやることが残ってるからじゃないかな」
「……殺しのターゲットがまだ別にいるってことですか?」
「おそらくね。だからまだ捕まえられると思う。でも時間をかけ過ぎたら逃げられるから急がないとね」
そうやって雑談していると扉がノックされ、ブレイディがそれに応える。すると扉がゆっくりと開かれる。まず姿を現したのはロウウェルであり、二人の若手棋士はその後ろから入って来た。そして部屋に入るなり自己紹介が始まる。
「――では紹介いたします。シュルト・ハイゼンとベサニー・ラビットソンです」
シュルトと紹介されたのは灰色の髪に切れ長の目を持つ青年。見たところラグナよりも二つか三つほど年上に見えた。次に紹介されたベサニーは緑色の髪をサイドテールにした気弱そうな女性。彼女もまた年齢的には同じように見える。そしてその手にはお盆があり、ティーカップティーポッドが置かれていた。どうもお茶を持って来てくれたらしい。その後、紹介された二人はロウウェルの前に出ると青年騎士の方が自己紹介を始めたのだが――。
「――お前がラグナ・グランウッドか? 噂は聞いてるが、俺の方が先輩だ! つまりお前より偉い! だから俺をしっかりと敬えよ! 手始めにシュルト様と呼んで――ごはッ!!??」
――途中でロウウェルに頭を殴られてしまう。
「いってえ……何するんすか支部長!」
「それはこっちのセリフだ!!! 馬鹿かお前はッ!? ラグナさんは『英雄騎士』の称号を持ってるんだぞ!? お前はおろか私よりも階級は上なんだ!!! そんな方になんて口を叩くんだ! 紹介した私の首を飛ばしたいのかお前は!? 謝罪しろ今すぐに!!!」
「そんなん知らないっすよ。俺は何も悪くないんで。そういうこといちいち気にしてるから禿げるんすよ」
「は、はげ、貴様ァァァァァァァァァッ!!!」
応接室で追いかけっこを始めたロウウェルとシュルトを見てアワアワと慌て始めたベサニーは二人をなんとかなだめようとした。
「お、お二人とも落ち着いてください! そ、そうだお茶でも飲んで――うきゃあ!?」
テーブルの上にお盆を置こうとした瞬間、ベサニーは凄まじい勢いで転んでしまう。その結果、お盆の上にあったティーポッドがひっくり返りブレイディアの顔面に熱々のお茶がぶちまけられる。
「――あっつうううううううううううううううううウウウウウ!!??」
「す、すみませぇぇぇん! 今、お顔をお拭きしますぅぅぅ!」
ベサニーはその辺に置いてあったバケツから布を取り出すとブレイディアの顔を拭くが――。
「臭ッ、ちょ、それ雑巾なんですけどぉぉぉぉぉぉ!?」
「あああああごめんなさいィィィィィィィ!!!!」
明らかに汚れ切った雑巾で顔を拭かれたブレイディアは憤慨し、ベサニーは泣きだしてしまう。一方でロウウェルとシュルトもまた室内鬼ごっこに興じていた。そんな中ラグナは思う。
(……ぜ、前途多難すぎる……)
新たな仲間を前にラグナはさっそく頭を抱えそうになったのだった。
この時、二人が凄まじい能力の使い手であることを少年はまだ知る由も無かったのである。