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112話 対話

 支部長室にて白髪交じりの髪をかきながら恐縮しきった表情でロウウェルはブレイディアに話しかける。


「先ほどはうちの職員が大変失礼いたしました……本部にいる方々とは違い、こちらの支部では副団長殿のお姿を直接目にした者はまだ少ないもので……」


「……いいですよ別に……どうせ私はチンチクリンのお子様体型ですからね……副団長には見えませんからね……」


「い、いやぁ……そのようなことは……決して……」


 ソファーで膝を抱えていじけるブレイディアにそのように言ったロウウェルだったが、その目は泳いでおり嘘をついていることは明らかだった。どうやらカルダバレーの支部長は腹芸の類は苦手らしい。そんな様子を目撃したからか幼女モドキは再びふくれっ面になるとそっぽを向いてしまう。


 それを見て再びあわあわとし始めるロウウェルを見かねたラグナはここで口を開いた。


「ブレイディアさん、ロウウェルさんを困らせたら駄目ですよ。ここの支部の人も悪気があったわけではないんですから許してあげてください。それにブレイディアさんは確かに見た目が少しだけ幼く見えますけど、それでも頼りがいのある大人の女性ですよ。そのことは俺が一番よくわかってますから」


「……ラグナ君……」


 ブレイディアは瞳をウルウルとさせながら感激すると縋るような目でラグナを見る。


「……私、頼りがいのある大人の女性に見える?」


「ええ、見えます。バッチリです。そうですよね、ロウウェルさん?」


 そうしてラグナは目配せする、すると少年の意図を察したロウウェルはしきりに頷き始める。


「は、はい! もちろんですとも! 副団長殿は武力だけではなく素晴らしい大人の魅力を兼ね備えた女性です! この支部の者たちも副団長殿のことをもっと知れば、大人の女性として敬うと思いますです、はい! なにせ私も話しているだけで頼りになる大人の女性的なオーラ的なアレを感じ取ることができましたからな!」


 やはり目が若干泳いでいたが、過剰とも言える言葉で褒め殺しにすることでロウウェルはゴリ押しした。通常ならばどう考えてもお世辞としか思えない言葉なのだが――。


「そっかぁ。うぇへへへ」


 ――傷心の幼女モドキには効果抜群であった。


「――よーし、じゃあお仕事再開しようか! 大人の女性としていつまでもいじけてるわけにもいかないしね! 大人の女性として!」


 そんなウキウキのブレイディアを見てラグナとロウウェルは安堵のため息をついたのだった。


 こうしてロウウェルの巧みな話術(笑)によって機嫌を取り戻したブレイディアはようやく本題と言える話題を切り出したのだった。


「――じゃあロウウェルさん、早速なんだけど聞いてほしい話があるの。実は――」


 デカートとの取引のことは話さず『壊し屋』と呼ばれる者たちの情報を探していることをブレイディアは伝えた。それを聞いたロウウェルは眉間にしわを寄せて考え始める。


「――な、なるほど……『壊し屋』なる危険人物がこの町に潜伏している可能性があるのですね……そしてその情報を集めるためここに来たと」


「そうなの。私は前にここに来たことあるけどそれほど長居はしなかったしこの町にあんまり詳しくないから、ここに駐屯している騎士に道案内してほしくて。怪しい連中が出入りしている場所とか治安の悪い区域とか、色んな人が集まる大きな酒場とか教えて欲しいんだ。あと出来ればある程度人員を割いて『壊し屋』の捜索に協力してほしいの」


「……事情は理解しました。私としても協力を惜しむつもりはありません。しかし……」


 ロウウェルは言いよどみ、その様子を見たブレイディアは訝しみながら首を傾げる。


「……何か問題でもあるの?」


「……はい。実はこちらも人員を割く余裕があまりないのです……本部の方々――それも副団長殿たちが直々に追っている案件ならば何よりもまず優先しなければいけないのはわかっているのですが……」


「ああ、そんな申し訳なさそうな顔しないで。大丈夫、何か事情があるのは理解したよ。そっちの都合無視して無理矢理たくさんの騎士をこっちに貸し出せとか言わないからさ。それより何があったのか教えて」


 ブレイディアが優しく微笑みながらそう言うと、少し緊張のほぐれたロウウェルは頷くとゆっくりとした口調で話し始める。


「……一週間ほど前、この町に住むとある貴族が何者かに殺されたのです。当然我々は捜査に乗り出したのですが……その事件を担当した騎士たちが次々に正気を失い謎の昏睡状態に陥ってしまったのです……当初は犯人を突き止めることと併せて昏睡状態の原因を究明しようと我々も躍起になったのですが……犯人を捕まえることはおろか、昏睡状態の原因を突き止めることさえ叶わず、現在この支部の約半数の騎士が意識不明の状態なのです……」


「……半数……それはまた……一大事だね」


「ええ……正直我々だけではもう無理なのではないかと思い本部の方々に応援を要請しようか考えていた矢先に副団長殿たちがここに訪れてくださったのです……」


「……そっか、事情はわかったよ。確かにそれじゃあ人員をこっちに割くのは無理そうだね。この町の治安維持やらなんやらで手一杯だろうし。……ちなみにその貴族を殺した犯人が捜査を妨害するためにこの町の騎士たちを襲ってるって可能性はあるのかな?」


「……可能性は高いと思います。我々もその線で捜査していました。なにせ死亡した貴族も騎士たちと同じように突然発狂した後、昏睡状態に陥り、そのまま衰弱死したものですから」


「……発狂、ね……ってことは他の騎士たちも同じように弱っていってるの?」


「……はい。まるで悪夢でも見ているかのように苦しみながら日々衰弱していっているのです」


 無力感に苛まれているのかロウウェルは項垂れ、発する言葉も弱弱しいものになっていった。それを見かねたブレイディアは励ますように声をかける。


「ロウウェルさん、貴方のせいじゃないよ。自分の部下がそんな目に遭ってるなら落ち込むのもわかるけど、私たちも協力するからさ。元気出して」


「え!? よ、よいのですか!? しかし……副団長殿たちは『壊し屋』と呼ばれる者を捜索しているのでは……」


「うん、だから協力できると思う」


「……だから? ……もしや……」


 ブレイディアが何を言わんとしているのか察したロウウェルは大きく眼を開け驚きながら口を開く。


「――副団長殿たちが探し求める『壊し屋』がこの町の騒動の犯人であると、そう思われているのですか?」


「可能性はあると思うよ。金さえ用意すればどんな相手も殺すような奴みたいだからね。しかも殺しの手口が私たちの掴んでる情報と似てるもの。そのうえタイミングが良すぎる。『壊し屋』が潜伏している町でちょうど謎の事件発生なんてさ、偶然にしては出来過ぎてるでしょ。それに『壊し屋』がこの町に来たのは仕事をする為らしいんだ。その仕事って言うのがたぶん、この町の貴族の暗殺なんだと思う。まあまだ確定したわけじゃないけどね」


「……そう……ですか。確かに……それならば辻褄は合いますな。しかし……だとすればその『壊し屋』なるものは何者なのでしょうか……現状を見るに、おそらく何らかの『月光術』によって今回の騒動を引き起こしているのでしょうが……貴族だけならばともかく、あれだけ大量の騎士を同時に昏睡状態にするなど通常ならば考えられないことです……」


 ロウウェルの言葉を聞いたラグナの脳裏にある人物たちが思い浮かんだ。それはフェイク、ピエロ、ゲルギウス、デップといった普通ではない『月光術』を使うかつて戦った者たち。自身を含めそれらの人物が共通して持っていたもの。それは――。


(……普通じゃない事態……それを可能にする液体を俺たちは知っている……『使徒の血』……)


 強敵たちがしきりに口に出していた謎の液体。それを思い出したラグナは眉をひそめた。


(……もしかしたら『壊し屋』も使徒の血を所持しているのかもしれない……だとしたら『壊し屋』との戦いは想像を絶するほど過酷なものになるだろう)


 ラグナはこれから訪れるであろう壮絶な戦いに思いを馳せながら目を伏せたのだった。

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