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101話 渇き

 デップは炎の渦を繰り出しながら足から放出される炎のジェット噴射で空を飛び回っていたがまるで当たらず先ほどとは打って変わって後手に回っていた。自身を翻弄するように背中のブースターで飛びまわるロボットのスピードに注意を払い続けたせいか、その顔には疲労や焦りが浮かんでおり苛立つように舌打ちをしてしまう。


(――チクショウ! あのバイクモドキ、ロボットに変形するとかあり得ねえだろ! どんだけ機能詰め込んでやがるんだ! しかも変形してから濃度を増した『月光』に似たあの緑色のエネルギー……アレのせいでオイラの炎がまるで本体に届かねえ! そのうえあの巨体からは考えられねえスピードと……)


 ブースターから噴射される緑色の光によって加速したロボットはデップの正面に現れると強烈な殴打を繰り出してきた。それを咄嗟に右腕の筒で受け止めるも力で押し負け吹き飛ばされてしまう。


「ぐ――ぐああああああああああああああああああァァァァァァッ!!!!!」」


 燃えカスと化した周囲を転がりながら筒で地面を突き刺すことでなんとかその場に踏みとどまったデップは起き上がりながらも自身を見下ろすように飛ぶロボットを睨む。


(……この規格外のパワー……いったいどっからこんな力とスピードが出てるんだ……)


 デップは歯噛みしながらも再び地面から飛び上がりロボットに向かって行った。



 ブレイディアはコクピットの中でハロルドの説明を思い出していた。


『いいかイ? そのバイクは君が纏う月光の効力を何十倍にも高め機体に強力なエネルギーフィールドを発生させル。だから大概の攻撃ではびくともしなイ。特にその変形した人型の形態は通常よりも遥かに高濃度のフィールドを発生させられるよう設計してあル。だが注意してくレ。大量の月光石をその機体には使っているが、それでも無尽蔵というわけじゃないんダ。その人型の形態の時は通常よりも遥かに高濃度のエネルギーフィールドを発生させることが出来るが、その分エネルギーの消耗も激しイ。だから使う時はくれぐれもエネルギーの残量を確かめてくれヨ』


 ブレイディアはモニターに表示された四つの棒状のエネルギーメーターを見ながら呟く。


「……あまり時間はかけられないね。早々にケリをつけないと」


 四つのうちすでに二つは底を尽き三つ目もすでに半分以下になっていたためブレイディアはため息をつくと、ホルダーケースから『月錬機』を取り出しコクピットにあった正方形の窪みにはめ込む。すると『月錬機』は機体の奥深くに収納され、やがてロボットの両腕が変化し始めた。その形状は赤い色を除いて普段使っている変形させた『月錬機』の刃とまったく同じものとなる。だがその刃にもいつもと違う点が一点だけあった。鋭く甲高い音を立ててその刃は回転を始めたのだ。それはまるでチェーンソーのようにも見えた。そしてそれを向かってきたデップに向け斬りかかる。


 それを咄嗟にかわし炎を放ったデップだったが、回転する刃は炎を容易に切り裂き再び敵に向かう。そして高速で繰り出される剣舞を連続で受けたデップは斬り飛ばされ血しぶきを上げながら地面に激突した。


「がはッ……く……う……」


 血を吐き苦しむデップを見ながらブレイディアはエネルギー残量を確認する。


 ゲージはすでに四本目に入っていた。


 

 

 デップは血を吐きながら超回復を用いて傷の回復をはかったが、己の右腕と両足にくっきりと付いた斬撃痕に驚愕する。


(う、嘘だろ……一点に細胞を集中させ硬度が上がったはずのヴォルカニカの右腕と両足が……しかも超回復による傷の治りが遅くなってきてやがる……オイラの体に限界がき始めてる証拠だ……だ、駄目だ……このままじゃ押し負ける……このままじゃ……あんちゃんを守れねえ……)


 その時デップは作戦前にゲルギウスから言われた言葉を思い出す。


『――いいかデップ。なんの役にも立たないてめえを拾ってやった恩を忘れんじゃねえぞ。死ぬ気で時間を稼げ。わかってんな? もしもの時は――』


「……うん。大丈夫だよ、あんちゃん。わかってる」


 少し寂しそうに笑った後、デップは瑠璃色に輝く瞳を天に向け吠えた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 その瞬間、デップを中心に赤い粒子の嵐が巻き起こった。



 

 ブレイディアは再び『神月の光』を纏おうとするデップを機体越しに見下ろした後、すぐにそれを邪魔するべく突撃を開始する。しかし特攻を阻むように筒状の右腕から放たれる炎の渦が行く手を阻む。それでも強引に前に進もうとすると徐々にだがゆっくりと炎の渦の中を突き進むことに成功する。


(魔獣と一体化した状態で『神月の光』なんか纏われたらどうなるかわからない。悪いけど一気に決めさせてもらうよッ!)


 コクピットの操縦桿を操作しブースターの出力を上げるとロボットは炎の渦をかき分けさらに速く進み始める。それを見たデップは気合を入れるように喉が潰れんばかりに勢いで叫んだ。


「おおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」


 己の限界を超え体から血が噴き出し始めるのも構わずデップは炎の出力を上げ機体を押し返し始める。拮抗する二つの力だったが、やがてブレイディアの操作するロボットの方が若干出力が上回りその剣がデップの体に到達した刹那――。


「――なんとか……間に合ったぜ……」


 ――デップの呟きと共に赤い光は圧縮された光の衣に変化し、その瞬間ロボットは爆ぜ吹き飛んだ。  


 突如爆発し空中に吹き飛ばされたブレイディアはブースターを吹かしロボットの中から下を見下ろした。そして眼下にあったのは圧縮された光の衣を纏いながら体から血を流す苦し気なデップの姿。今にも息絶えそうな敵に対して問いかける。


「……魔獣の一体化した状態でもそうとう肉体に負担がかかるはず。そのうえさらに負担が大きい『神月の光』まで纏うなんて……その状態を見ればわかるよ。相当な無茶をしてるってことくらいさ。……アンタ、死ぬ気なの……?」


「……言ったはずだぜ。命を賭けてあんちゃんを守ると」


「……そうだったね。余計なことを言ったよ」


 そうつぶやいたブレイディアは剣を構え、デップもそれに応じるように腰を落とした。もはや言葉はいらぬと言わんばかりに両者は互いを見据えながらやがて激突する。しかし先ほどとはまた展開が変わり、血を流す瀕死の男の猛攻によって一方的な展開に変わる。圧縮された『神月の光』を纏ったことでさらに身体能力を上げたことによりスピード、パワーも激的に上がったためかロボットは徐々に追い詰められていった。エネルギーフィールドに守られてはいるもののその気迫と打撃、砲撃による衝撃はコクピットにまで伝わり女騎士は思わず顔を歪めてしまう。


(……強い……魔獣と一体化した状態でさらに『神月の光』を纏ったことでアイツの身体能力や火力がバカみたいに上がってる……このままじゃ……)


「うおぉぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 右腕の筒からバーナーのような炎の剣を発生させたデップはロボットに斬りかかり、それを右腕の刃で間一髪受け止めるもその刃は焼き切られその勢いのまま胸部まで焼き切られてしまう。斬られた瞬間、後ろへ跳んだことでコクピットの中を斬られることを防ぐことは出来た。だが傷口から外が見えてしまうほどに深くえぐられ中にいたブレイディアは己の体などどうでもいいかのようになりふり構わず再度向かってくるデップを見てため息をついた。


(……こいつは命を燃やして向かって来てる。止めるにはこちらもそれ相応の力が必要……)


 ブレイディアはガラスで覆われた赤いボタンを見ながらハロルドとの対話を再び思い出す。


『――これはこの機体のリミッターを解除するボタンになル。使用すればさらに機体の性能は向上するだろウ。しかし使えば凄まじい負荷が機体にかかり、コクピットの中にいる君も当然ただでは済まなイ。だからこれは最後の手段だということを覚えておいてくレ』


「……世界一危険な機体の力ってやつ……みせてもらおうか」


 不敵に笑ったブレイディアはガラスを破壊しそのままボタンを押した。するとロボット全体から緑色の光が放出され赤かった機体は瞬く間に緑色に変色するとデップの視界から消えた。そしてその背後に一瞬で回り込むと背中を切り裂き吹き飛ばす。


「ぐはあああああああああああああああああああああああああああッ!!??」


 空中に飛ばされつつも足の炎の噴射で態勢を立て直したデップは背中を痛みを怒りで誤魔化すように忌まわしそうにロボットを睨んだ。一方一撃を加えたブレイディアだったが、喜びなど毛ほどもなくその表情は苦悶に満ち咳と共に吐血してしまう。


「ぐ……ちょっと動いただけこれとか……ヤバすぎでしょこれ……けど……やるしかないよね!」


 リミッターを解除した影響か、足が腕と同じようにブレード状に変化すると残った左腕と両足を使いブレイディアは攻撃を仕掛ける。それを受けてデップもまた両足から噴き出る炎を右腕のバーナー状の刃に変化させると迎撃を行った。互いに血を吐き、体から血を流しながら攻撃の応酬は続きほぼ互角の戦闘が空中で繰り広げられる。金属や肉が切り裂かれ両者共にズタボロになりながらも戦いはなおも継続しやがて互いの一撃を同時に受けて吹き飛ぶ。


 空中で静止したデップはため息をつくと同じように空中で佇むロボットに叫ぶ。


「本当にしぶてえ野郎だぜ! ったく……だがそろそろケリつけてやるよ! これがオイラの最後の力だ、てめえを消し飛ばしてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 そう叫んだデップは己を炎の渦で包むとそのまま炎を膨張させていき巨大な生命体の形を取る。それを見たブレイディアはおもむろに呟いた。


「……龍……」


 巨大な火龍は盛大に吠えるとロボットに向かってきた。それを見ながらブレイディアはエネルギーメーターが底を尽きかけていることを確認する。


「……これで最後だね。行こうか相棒――〈イル・ウィンド〉」


 唱えた瞬間、機体を覆っていたエネルギーフィールドが全て風の渦に変換され巨大な竜巻が形成された。火龍と竜巻は速度を上げ激突すると周囲を巻き込み激しい衝撃波を巻き起こした。互いに拮抗した力で押し合っていたものの、やがて優劣はつき始める。火龍の方が若干押され始めたのだ。それは中にいたデップの限界を表していた。




 竜巻に命を削り取られながらもデップは嘆息する。


 (……オイラの負けか……ここまでやっても駄目とはな……つくづく無能だぜ……だが……)


 火龍が竜巻に呑みこまれながらもデップは残る全ての力を使い右腕の筒を犠牲に風の渦をかき分けロボットを見つけ出すと足のバーナーが壊れるほどの出力で機体の胸部に取りついた。そして自身で切り裂いたコクピットの亀裂から見えるブレイディアに話しかける。 


「……よおブラッドレディス。褒めてやるよ。この勝負、てめえの勝ちだぜ。だがな――」


 肩についたヴォルカニカの細胞を膨らませ始めたデップを見てブレイディアは驚愕する。


「ッ! アンタ、まさかッ……!?」


「――察しがいいな。みっともない負け犬の最後の足掻きってやつ、みせてやるぜ」


 そう言うと肩が凄まじい勢いで膨張しやがて限界まで膨れ上がる。それを確認したデップは穏やかに笑いながら呟く。


「――バイバイあんちゃん。今までありがとう」


 ブレイディアは血相を変えてコクピットのモニターを操作するが、直後膨れ上がった肩が光ると盛大に爆発し周囲全てを爆炎が包み込んだ。




 その頃ラグナはようやく城が見える位置に到着していた。


(……結局あのあとピエロは見失ってしまったけど……仕方ない。とにかく今はゲルギウスの捕縛を優先しよう。城が近くなってきたし……そろそろ『黒い月光』を使った『神月の光』を使ってもいい頃合いなのかもしれない。きっと城の中は大量の敵が待ち構えているはず。でもいちいち相手にはしていられない。きっとゲルギウスは城の最上階にいるはず。空を飛んで一気にそこまで……)


 そう思った矢先だった――木に飛び移ろうとした瞬間、飛び移ろうとした木に紫色のエネルギーで出来た渦のようなものが突如発生したのだ。


「なッ……!? うわあああああああああああッ!?」


 気づいた時にはすでに遅くラグナは謎の渦に着地してしまいその中に呑みこまれてしまう。直後、上から落下するように着地した場所は石で出来た床の上だった。状況を把握するために薄暗い中、目を凝らし注意深く辺りを見回すとあることに気づく。現在自身が立っている石で出来た円形の巨大な床を囲むように観客席のようなものがあり、まるでそこは闘技場のようだったのだ。


(……どこだここは。さっきまで森の中を走ってたのに……もしかして敵の術でどこかに移動させられたのか……)


 ラグナが考察していると突然周囲が明るくなる。どうやら天井の灯りが点いたらしい。そして同様に天から声が響く。


『ようこそ俺の城へ。歓迎するぜラグナ・グランウッド』


「……俺の城? ……お前がゲルギウスなのか……?」


『ご名答。俺がこの城の主にしてラクロアの月の幹部ゲルギウスだ』


(……ゲルギウス……こいつが……)


『来てもらってさっそく悪いがそこで少し時間を潰してもらうぜ。お前を迎え入れる準備がまだ整ってないんでな。安心しろ。退屈はさせねえからよ』


 ゲルギウスが言うと、隠れていたのか観客席や天井から大量の魔獣や『ラクロアの月』の構成員と思われる者たちが出現しラグナの周りを取り囲み始める。


『お前が立っている場所は地下闘技場。俺が用意した娯楽施設だ。本来なら捕虜にした騎士とか俺に逆らったアホを『魔獣』と戦わせて楽しむ施設なんだが、ただの化け物じゃお前には物足りないだろう?』 


 ゲルギウスの言葉に合わせるように男たちは『月光』を纏い、また魔獣も同様に光を纏う。


(……く……この魔獣全てが……『魔王種』なのか……)


 ラグナが歯噛みするとその様子を見てゲルギウスは嘲笑うように喋り始める。


『ハハハ、喜んでくれてるようでなによりだ。じゃあな、せいぜい楽しんでくれ』


 ゲルギウスの言葉が切れると同時に敵たちは一斉にラグナへ襲いかかってきた。それを避けて後方へ跳んだラグナは動きながら考え始める。


(……せっかく体力を消耗せずここまでこれたのに……こんなところで『黒い月光』も『神月の光』を使うわけにはいかない。それこそ敵の思う壺だ。……出来るだけ消耗せずに戦って出口を探す。これがベスト。でもそれはおそらくとても難しいことだ。……けど……どうしてだろう……)


 ラグナの眼が赤く輝くと同時に敵の動きがゆっくりになっていった。


(……この状態を継続するのには体力がいる。でもピエロとの戦いを経てそれはだいぶ軽減されるようになった。その影響だろうか……)


 ちょうどカーティス兄弟が引き連れていたものと同じ『魔王種』と思しきオーガが一斉に向かって来たのを見てラグナは確信する。


(前は『神月の光』を使わなければ勝てなかったのに……今は……)


 ゆっくりと向かってくるオーガたちの一挙一動を捉えたるとラグナは剣をおもむろに振るった。すると一瞬にして四体のオーガたちの四肢と頭が分断され血しぶきがあがる。 


(……これなら通常の『月光』だけで十分やれる。……けどやっぱり……妙な感じだ……病院で目が覚めてからずっと感じていた)


 瞬く間に十数体の『魔王種』と男達を殺害したラグナは奇妙な感覚に襲われ続けていたことを思い出す。


(……喉が渇くみたいに……体が渇く……そして『月光』を纏うたびに光が体の外側だけじゃなく内側に入り込んでくるような……おかしな感覚……『月光』が体に染みこんで体の奥底から力がみなぎってくる)


 考えながらも次々に最小限の動きで周りの生物の息の根を止めて行くラグナに敵は恐怖したのか顔を引きつらせ動きを止める者もちらほらと現れ始めた。だがゲルギウスの命令を無視することはできないのか恐怖を押し殺すように次々と向かってくる。それを冷たく見据えた少年は敵の中へと一歩踏み出す。


 十数分後――その赤い瞳には大量の骸が映っていた。       

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