プロローグ
「ぐぬぬ」
横で主様が悔しそうな呻き声をあげた。
負けず嫌いのこの主は、物事が上手く行かないとすぐに不機嫌になり、私に八つ当たりするので、当たられる身としてはたまった物ではない。
「また日本は負けたではないか。いつになったら日本はワールドカップで優勝出来るのだ」
主様が地上の様子を見るのも神の仕事の内と言いながら、日本代表の試合がある時にその試合を見ているのはいつもの事なので、私も黙認していたが、負けた事を私に言われても困る。
「そもそも、私が加護を与えた選手が毎回代表に選ばれんのは納得がいかん」
4年に1度行われるサッカーワールドカップをサッカー好きの主様は楽しみにしている。
地上の様子を見るのも神の仕事と言うが、主様は基本神の仕事など一切されない方なのだ。
「そんな事言われましても主様の加護は能力を高めるものではない上に、主様に無理難題を言われ、どの者も皆サッカー自体を辞めてしまいましたからね……」
そう日本代表に主様の加護を与えられた人間がいないのは、主様の自業自得なのだが、主様にその自覚症状は全くないらしい。
「ワシが無理難題を言うせいで辞めるだと……お前は何を言っても側にいるではないか。ワシが人間に無理難題を言うから辞めるのではなく、人間に根性がないのだ。お前に耐えられるのだから、人間も耐えねばならん」
神ともあろう御方がまさかの根性論を展開する始末だ。
「私も断ったり、辞めたり出来るものならば、別の神様にお仕えしたいですけどね」
誰が好き好んでこんな横暴な主に仕えたいだろうか?そう思った所で神々の眷族という者は、主を変える事等出来るものではないのだ。
「…………」
私の言葉が思いもよらないものだったのか、主様は言葉を失って驚きの表情を見せている。
これで主様の我が儘もなりを潜めてくれればよいのだが…………
などど祈っていると、“ピコーン”と突然機械音がなる。
『よう。また日本はダメだったな。うちはこれで4度目の優勝だ』
空中に文字が表示される。
神々が使う通信メールだ。
「ぐぬぬぬぬ」
主様の周りの温度が怒りで上がったのがわかる。
負けず嫌いの主様はこの手の挑発に驚く程弱い。
これはまた無茶をやらかすぞ……
尻拭いをするはめになる自分の未来にため息を吐きたくなる。
「転生だ…………転生をさせて世界一のサッカー世界を育てる」
……ほら、やっぱり無茶が始まったよ……