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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第4部 それぞれの選択

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82/197

王都 休養日の一幕

報酬計算間違いしてました。

訂正してます。



 早朝の馬車に乗った六人は、寝不足と疲労の色の濃い顔をしており言葉も少なかった。前日は帽子もかぶらず一日中砂浜で労働し、その後は泳ぎはしゃいでいたのだ。いくら冒険者生活で鍛えられているとはいえ、一日中紫外線を浴びていたのだ、疲労に負けるのも当然だろう。


「随分楽しんだみたいじゃないかシュウ。疲れてるなら無理に起きてなくていいぞ。終点が近づいたら起こしてやるから、ゆっくり寝てるといい」


 マサカズさんの言葉に甘えた六人は、馬車に乗るなり目を閉じていた。わだちで馬車が揺れたり、乗客の乗り降りでドスンドスンと物音がしても目覚めることなく、六人は終点の王都東門に着くまで熟睡したのだった。


   +++


「おはようございます」


 王都に戻った翌日。いつもの時間に目が覚めたコズエは台所に顔を出した。


「休養日なのに早いですねコウメイさん」

「昨日は何もできなかったからね。朝飯食いながらミーティングは必要だろ?」

「そういえば報酬も受け取りに行ってなかったですね」

「みんなぶっ倒れてたからね。あ、これテーブルに運んでくれるか」


 本日の朝食は、港町で買ってきたサハギン肉を蒸してほぐしゆでた野菜と和えたサラダに、朝市で買った卵で簡単に目玉焼きだ。スープはブブスル海草でとった出汁に芋を刻みいれて簡単に味付けした。


「おはようございます。俺も手伝います」

「コウメイさん、寒天の試作をデザートに出してもいいですよね?」


 ヒロはコズエを手伝って料理の皿を運び、サツキは簡易冷蔵庫から昨夜のうちに試作していた寒天を取り出した。


「今日の朝飯は手抜きだから、サツキちゃんのデザートがあると助かる」


 そう言ってコウメイは台所をサツキに譲った。


「アキを起こしてくるから、ちょっとだけ待っててくれな」

「いつもお兄ちゃんが面倒かけてます」


 なんのなんのと軽く手を振ったコウメイは階段を上っていった。


「寒天のデザートって、何を作ったの?」

「材料は何もなかったから、チェリ草を煮た汁を固めただけなの」


 グラタン皿のような浅くて広い容器に寒天が出来上がっていた。サツキはそれにナイフを入れ、すいすいと切り目を入れてゆく。


「ヒロさん、食料庫からピナの実を一つとってきてください。コズエちゃんはそこの片手鍋を取って」

「何を作るの?」

「さっぱり系のシロップです」


 ピナの実は一年中流通している柑橘で、酸味が強くそのまま食べることはできないが、搾った果汁は料理の酸味付けに使われているものだ。

 サツキは鍋に砂糖と水を入れ、ヒロに搾ってもらった果汁を注ぎいれてよく混ぜてから火にかけた。砂糖が溶けたのを確かめてから味見をし、蜂蜜をスプーン一杯足してかき混ぜる。


「湯飲み茶碗くらいの大きさの器を取ってください」


 二人に指示を出しながらサツキは片手鍋を水を張ったたらいに浮かべて冷やしていた。玉杓子で混ぜながら、冷たくなれ、冷たくなれ、と念じて魔力を意識するとピナシロップがひんやりとしてきた。


「え、搾りかすも使うのか?」

「残ってる果肉をちょっとだけですよ」


 搾った後のピナに残っている果肉部分をナイフでこそげ落とし、シロップの鍋に入れたタイミングでコウメイとアキラが下りてきた。


「遅いよお兄ちゃん」

「……今日は休養日だ」


 妹に注意されたアキラは不機嫌そうに洗い場へと向かった。

 配膳を済ませ、コウメイの最後の仕上げが終わり、全員が揃ったところで朝食だ。


「「「「「いただきます」」」」」


 朝食を食べながら簡単なミーティングが始まる。昨日は移動に半日を費やしたとはいえ、その後はたっぷりと休養できた身体からは疲労がすっかり取れていた。


「持ち帰った物でいろいろ試してぇ」

「お台所だけで場所が足りるでしょうか?」


 港町から持ち帰った昆布と寒天で試行錯誤してみたい二人は、一日中台所にこもることに決めていた。コズエはドリスから受け取った依頼の完了証明をギルドに持ち込んで換金しなければならない。ついでに良さそうな討伐対象を見繕うつもりだ。


「買い物頼んでいいか?」

「いいですよ。シュウさんに報酬を渡しに行くので、その帰りに買い物してきます」


 ヒロはコズエの付き添い兼荷物持ちだ。


「アキはどうする?」

「寝る」

「お兄ちゃんったら」

「やることねぇなら手伝え。フードプロセッサーがいるんだ」


 アキラに惰眠をむさぼることを許さず、コウメイの指示に従い一日中魔法家電に徹することが決まった。


「デザートは寒天シロップです」


 湯のみサイズの器に、サイコロ型に切った寒天が液体に浸かっていた。液体にはピナの果肉が浮いていて、ほのかな酸味が感じられた。


「生のフルーツがあれば一緒に浮かべたかったんですけど」

「いやいや、これで十分だよ」

「甘酸っぱいシロップも美味しいし、寒天もプルプルしてて気持ちいいよ」

「おかわり、あるかな?」


 即席で作ったにしては好評で満面の笑みを浮かべたサツキだった。


   +++


 四日ぶりの冒険者ギルドは相変わらずだった。朝一番は買取り相場の確認に集まっていた冒険者達も、昼前には獲物を求めて森へと出かける。コズエとヒロがやってきた時間帯のギルドは閑散としていた。


「エンダンの依頼完了証です、確認してください」


 コズエは四枚の板紙を換金カウンターに提出した。


「確認に少しお時間を頂きますので、呼ぶまでロビーでお待ちください」


 どうやらすぐに報酬を受け取れるのではないようだ。コズエとヒロは待ち時間の間に依頼掲示板や魔物情報の掲示物を確認することにした。


「大蜘蛛の目撃情報がいくつもあるね」

「オークが森を北上しているらしいぞ」

「双尾狐の相場が下がってるみたい」

「ゴブリンの討伐報酬は上がってるな」


 明日からの討伐はゴブリンをメインにし、残りは食材調達のために魔猪を狩ることになりそうだ。


「オーク肉も美味しいけど、私は魔猪の方が好きなんだよね」

「俺は暴牛だな。ハンバーグは暴牛肉が美味いから」


 コズエは張り出されている魔物分布簡易図に目を移した。暴牛は西門から南西に下った平原に多く生息しているらしい。


「群れの中から一頭だけしとめるのって難しいよね」

「平原だしな。下手に手を出すと何十頭にも追いかけられるし」


 ナモルタタルで暴牛を狩ったとき、一度だけ距離を見誤った事がある。仲間の危機だとばかりに集まってきた暴牛の群れの勢いは凄まじく、無傷で逃れることができなかった。もちろん暴牛を三頭ほど屠り負傷の分は取り返したが。


「草原は暴牛とモグラが主な獲物だな。その他の魔物は食えない奴ばかりだ」

「素材で良さそうなのは、隠れ羊かな。羊ってジンギスカンのお肉だよね? 食べられないのかな」

「肉の買取価格が無いのは、そういうことじゃないのか?」


 掲示板の前でアレコレ喋っている間に査定が終わったようだ。呼び出しに応じてカウンターに戻ったコズエたちは、提示された報酬を見て声をあげることも忘れるほどに驚いた。


「依頼報酬が四件分で八百ダル、サハギンの討伐報酬が八十三匹分で一万六千六百ダル、肉は全て漁協組合の取り分で、魔石はギルドの取り分となります。一角魚と砂鮫も討伐報酬のみになりますが二千八百ダルと二千三十ダルとなっております」

「合計で二万二千二百三十ダル……」

「こちらの報酬から出張所の宿泊料を相殺しまして、お支払いは二万千六百ダルです。現金でお出ししますか? それともパーティー口座に入れます?」


 サハギンの討伐報酬は一匹二百ダルもするらしい。そして肉は一匹三百ダル、魔石は百五十ダルだという。


「サハギンって報酬高かったんだ」

「知らなかったんですか?」


 港町には観光気分で向かったのだ。ドリスに依頼を押し付けられなければ積極的に狩りや討伐をするつもりはなく、魔物の単価も全く調べていなかったコズエだ。


「なんでそんなに報酬が高いんですか?」

「サハギンは船を破壊しますからね。旅船や商船がサハギンに襲われると、王都は経済的に大打撃を受けます。ですから討伐報酬は高めに設定してあるんですよ」

「でもエンダンには冒険者はいませんでしたよ」


 ヒロは町馬車の待合室と化したギルド出張所を思い出した。


「討伐報酬に肉に魔石、これだけ稼げるのに港町に冒険者が居ないのはおかしくないですか?」


 オークに比べても遜色ない額が稼げるのだ、コズエなら定期的に港町でサハギン討伐を計画するだろう。


「それはですね、サハギンは滅多に海から陸に上がらないからです」


 ギルド職員は申し訳なさそうに事情を説明した。


「サハギンの討伐には船が必要ですが、船を所有する冒険者はいません。港町では漁師に頼むしかありませんが、漁師たちも漁を中止して船を出すのですからそれなりの代金を要求してきます。出来高払いを要求する漁師たちと過去に揉めまして、ギルドと漁協が間に入り船代としてサハギン肉は漁協が独占し、魔石は出張所の管理費としてギルドが取ると決まったんです。冒険者には討伐報酬と、サハギン以外の魔物を割り当てましたが、サハギン以外の魔物の討伐報酬はそれほど高くはありませんし」

「ああ、それは……オークの方に行っちゃいますね」


 コズエは報酬の六分の一を現金で出してもらい、残りはパーティー口座へ移した。


「シュウさん、昨日はそのまま宿に戻ってご飯を食べに来なかったし、報酬をどうするんだろう」

「コウメイさんたちに買い物も頼まれてるんだろ? 宿に寄って渡せばいいんじゃないか」


 三千六百ダルはそれなりの大金だ、あまり長く持ち歩くのは遠慮したいというヒロの意見に頷いて、二人はシュウの定宿へ向かった。


   +


 白狼亭の主人に問うと、シュウはつい先ほど外出したばかりだと言った。どこへ出かけたのかは聞いていないが、夜には戻ってくるだろうと。


「夕飯はいらないって聞いてるから、九の鐘過ぎた頃になるんじゃねぇかな」


 どうやら今晩も夕食はコズエたちと共に食べるようだ。ならば伝言を残したり無理に探す必要はないだろう。二人は白狼亭を出てコウメイたちに頼まれた品を探しに街に出た。


「あ、そうだ。先に孤児院に寄っていいかな?」

「孤児院? 何でだ?」


 コズエと孤児院とのかかわりが分からずヒロが怪訝そうな顔を向けた。コズエはシュウに教わった孤児院の役割と、販売されている品物について説明した。


「お店で買うより安いって言うし、どんな品物を売っているか見ておきたいと思って。頼まれたものがあればそこで買ったらいいでしょ」

「へえ、孤児院ってそんなところだったのか」


 何となく孤児院というところはたくさんの子供たちで溢れかえっており、みすぼらしくて貧しく、食事にも困っているというイメージがヒロにはあった。

 王都の街は概ね清潔で治安がいい。ストリートチルドレンはほとんど見かけないし、浮浪者のような困窮者もあまり見かけない。むしろ南門近くの広場でテント生活をしている冒険者たちの方がよほどみすぼらしいくらいだ。


「適性のある仕事や就きたい仕事の勉強ができて、実務経験まで得られるらしいよ」

「保護者のいない子供に教育を与え成人年齢で自立を促すのか。けっこう厳しいんだな」


 ただ寝床と食事を与えて養うだけでは意味がない。


「でも厳しいくらいじゃないと、この世界で生き残れないよ」

「冒険者には簡単になれるけど、一年以上続けられるのは少ないって言うしな」


 成人年齢である十二歳と同時に孤児院を出なくてはならない子供たちへ、なんとしても自立させるという執念が感じられる教育システムだ。


「私たちの常識と違うから、たった十二歳でって感じるけどね」

「小学校卒業の年齢だ」

「……私は無理かも」

「俺もだ」


 世界の厳しさを感じている間に二人は川沿いの孤児院にたどり着いた。以前シュウが出入りしていたのは裏口で、表玄関は回りこんだところにあった。


「一階部分はお店っぽいね」


 広い通りに面した壁は扉と窓が大きく開け放たれており、統一性の無い様々な品が並んでいるのが見えた。木工製品もあれば衣類や革製品、数は少ないが陶器の品々もあるようだ。


「皮の胸当てに、籠手、このナイフケースはいいな」

「付け襟にエプロンか、結構実用品が多いのね」


 誘われるように店に入った二人は、つたない作品の中から目に付いたものを手にとっては確かめてゆく。ヒロは飾り気のない皮のナイフケースのそのシンプルさが気に入ったようだ。コズエは自分が作るならという視点で細工や縫製を確かめていた。


「そういえば買い物を頼まれたのは何なんだ?」

「容器を探して欲しいって。ほら、寒天を作るのにできるだけ平べったくて大きなのがいいでしょ。こっちにはタッパーとかないから、それっぽいものがあればって」

「四角いほうがいいんだよな」

「寒天だしね」


 あんみつの寒天は四角いほうがいいし、芋羊羹だって長方形に切り分けたい。二人で店中を探したが、目的に合う容器は見つけられなかった。せっかく来たのだから何か買っていきたいと思い、コズエはスライスした木の実を板状に固めたクッキーをお土産にすることにした。


「いらっしゃいませ。一つ七ダルになります」


 並べられた菓子の中から一包みを選んで会計に持ってゆくと、幼い声が素早く代金を次げた。


「お二人で食べるのならもう一袋買いませんか? 二袋なら十三ダルにおまけしますよ」


 まだ小学生にしかみえない小さな女の子が店番をしていた。しかも値引きするからもう一袋買わないかと持ちかけてくる。商売上手だ。


「じゃあ二袋もらうね」

「ありがとうございますっ」


 コズエが十ダルの銅貨を二枚出すと、お釣りを銅片七枚で返してきた。暗算も速いし、接客もしっかりとしている。商家で雇われることを目指しているのか、あるいは自身が商人として独り立ちすることを目指しているのか、どちらにしても将来有望だ。

 ヒロもナイフケースを購入した。解体用ナイフに丁度良く、ベルトやリュックに装着しやすいように留め具もしっかりしていた。


「私、レザークラフトはあんまり得意じゃないのよね」


 ハンクラはなんでも一度は試しているコズエだが、革製品は数えるほどしか作ったことがなく、ヒロが購入したナイフケースを興味深く見た。


「次に魔猪を狩った時に皮を売らずに加工してみるか?」

「流石になめし革に加工はできないよ。それに布だってまだ色々作りたいものはあるしね」


 毛皮として利用するか、なめして革として利用するか、そのあたりはギルドや職人に任せ冒険者はひたすら素材を持ち込むだけだ。


「ギルドの売店になめし革も売っていたから、端切れを買ってそのうち何か作ってみるかも」


 そんなことを話しながら店を出て孤児院の正面玄関を横切ろうとしたとき、見慣れたケモ耳とかち合った。


「あ」

「シュウさん?」 

「その子どもは……」


 シュウの脚に幼女がしがみついていた。顔を埋めるようにして、両腕でしっかりと掴んでいる。


「いや、これは、その」


 困りきった表情のシュウは、幼女とコズエたちを交互に見て溜息をついた。


「ジョンがこないのは、あんたのせいなの?」


 顔をあげた幼女は、涙の滲む目でコズエを睨みつけた。


「ジョンはマユのいぬだもんっ」


 しがみつく手に力が入り、幼女は再びシュウの身体に顔を埋めた。


「……ジョンって、誰?」

「犬じゃなくて狼獣人だったよね?」

「ああ、うん。これには色々とあって」


 幼女との関係とか、飼い犬とか、わたしのモノ宣言とか。疑ってくれといわんがばかりの状況に汗をかくシュウは、どう説明したものかと手を胸の前でさまよわせていた。


「玄関先で騒がれては困りますわ」


 最初からそこに居たのか、騒ぎを聞きつけて出てきたのか、灰色の服を着た女性が冷ややかな目でシュウ達を見ていた。


「院長室においでください。私からもお話があります。そちらのお二人もどうぞ」

「い、いえ、私たちは」

「シュウさんと親しいようですし、ぜひとも意見をお聞きしたいのです。どうぞ遠慮なさらずに」


 遠慮などしていないのだが、と距離をとろうとしたコズエたちだが、シュウに「頼む」とその表情で懇願され、仕方なく孤児院の中に踏み込んだのだった。



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