港町 エンダン3
いつも誤字報告ありがとうございます。
港町二日目。
早朝、出張所の玄関扉を激しく叩く音で目が覚めた。
のっそりと身体を起こしたコウメイは目を開けて悪態をついた。
「……なんだよ、まだ真っ暗じゃねぇか」
ほのかに明るい方を見あげれば窓の外だ、室内よりも月明かりのある外の方が明るい。
「ふあぁ、漁師たちが呼びにきたんだろーぜ。あいつら日が昇る前から漁に出るから」
「アキラさん、起きてください。アキラさん」
ダンダンダンと扉を叩く音が止まる気配はなく、安普請の壁にまで振動が伝わってきそうな騒音だ。緊急事態だろうかと慌てたヒロが隣に寝ていたアキラを身体を揺するが、まったく目を覚まさす様子はなかった。
「今日は漁港に近いあたりの魔物討伐と海草刈りでしたよね」
「こんな早朝からやんのかよ、勘弁してくれ」
夜目の利くシュウがひとりで玄関に下り、漁師たちと打ち合わせて戻ってきた。
「漁港に集合。炊き出し食いながら討伐と海草刈りの打ち合わせ、日の出を待って討伐開始、だそうだ」
昼前に討伐と海草刈りを終わらせるつもりらしいなと呟いたシュウは、堪えられず大欠伸をした。漁師の相手は慣れているシュウでも流石に早朝すぎて眠い。
「アキ、起きろよ。部屋の明かりを頼む」
「……」
頭からかぶっている毛布がもぞもぞと身動きをし、パチンと指の鳴る音がすると、窓際に置いてあったロウソクに火が点った。小さな灯りが雑魚寝部屋を照らす。
「コズエたちも起きてると思うので、説明してきます」
手早く着替えたヒロが、植物油と木綿糸で作った簡易ランプに火を点し、コズエたちの部屋へと向かった。
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漁港には火が焚かれ、囲むように漁師たちが集まっていた。手には魚汁の椀を持ち、朝飯を食べながら仲間同士で昨日の漁獲について思い思いにしゃべっている。
「おう、遅かったな」
「チャックさんたちが早すぎるんだよ」
魚汁の鍋の側には麗しの夢亭の料理人と出張所留守番係のドリスがいた。差し出される椀に魚汁を注いでいる。
「ほら、あんた達もコレ食って目を覚ましな」
「寝ぼけてると船から落ちて溺れ死ぬぜ」
欠伸を噛み殺しながら漁師たちと合流した六人にも炊き出しの魚汁が配られた。温かなスープは、起きぬけの胃にもやさしい味付けだった。
「美味しい……」
「お魚の味が濃いですね」
半分寝ながら魚汁に口をつけたコウメイは、その味付けに一瞬で目を覚ました。サハギンのアラや骨で出汁をとり、身の端を煮込んだシンプルな魚汁だが、コウメイは使われている調味料に気づいた。
「この魚汁の味付けは何を使ってるんだ?」
「塩と魚醤だよ」
「やっぱりそうか!」
港町に来たかいがあったとコウメイは興奮に握りこぶしを固めた。
「魚醤はどこで売ってるんです? 町の食材店?」
「店で買うより漁協で買ったほうが安いよ。あとで組合長を紹介しようか?」
「お願いしますっ!!」
喜びで眠気の吹っ飛んだコウメイは、ドリスから漁師町独自の調味料や料理法を聞き出そうと話しかけていた。
「……コウメイさん、ゲンキンすぎ」
立ち食いのまま討伐の手順確認や船の数と配置、網の張り方に海草の刈り手の増員といったことがどんどんと決まってゆく。
「お兄ちゃん起きて。寝たまま船から落ちないでね?」
魚汁を飲んでもまだ起ききらないアキラを心配して声をかけるサツキの横で、シュウはドリスとの会話で出てきた耳慣れない言葉をコウメイに尋ねた。
「ギョショウってなんなんだ?」
「醤油みてぇな調味料だよ。醤油より塩みの強いものが多くて、魚くせぇけど美味いんだ」
「ああ、アレか。あれ醤油じゃなかったのかー」
港町で何度か口にした事があるらしいシュウは、この世界の醤油は生臭いものなんだと思い込んでいた。
「起きろアキ。さっさと討伐終わらせて魚醤で刺身食うぞ」
「……刺身」
魚を食うなら刺身で食べたいと前々から言っていたアキラは、コウメイに耳元でそうささやかれてようやく目を覚ました。これで居眠りからの漁船転落事故を心配しなくて良さそうだとサツキは胸をなでおろす。
「シュウさん、この世界って魚を生で食べる習慣はあるんですか?」
「習慣はわからねーけど、俺は食ったことないぜ。輝魚亭でも刺身は出してなかったと思う」
「お刺身食べたいけど、大丈夫かなぁ」
日本のような衛生管理の行き届いた世界ですら、寄生虫による食中毒が発生していた。この世界は冷凍保存の技術も一般にまで広く普及していないし、なによりこれから漁るのは魔物だ。
「加熱調理したら大丈夫だろうけど、刺身だとなー」
「錬金製の治療薬って飲めましたよね?」
「なるほど、最悪その手があるか」
治療薬は傷口に塗布して使う。寄生虫が内臓にダメージを与えるのなら、飲めば何とかなりそうだ。
「食中毒を覚悟してでも食べるんだな」
「だってお刺身食べたいですもの」
「白いご飯があれば、海鮮丼とか最高なのにね」
どこに出かけるにしても治療薬と回復薬は必ず携帯しているコズエたちだ。刺身のために一回五百ダルの高級薬を消費する覚悟など簡単だ。
「きりきり討伐済ませて、刺身食おうぜ」
昨日サハギンから没収した槍を手に、コウメイが気合を入れた。コウメイの熱意がコズエやヒロも移り、ともに槍を持つ手に力が込められた。
「がんばりますよっ」
「やる気が出ました」
「刺身にするなら鯛と鮪を狙っていこーぜ」
サハギンの槍を十本ほどまとめて担いだシュウが、食いたい魚種を並べてゆく。なにげに高級魚を望むあたり、シュウもN629と行動を共にするうちに、色々と感化されてきているようだ。
昨日と同じように二艘に分かれた六人は、漁師たちとともに日の出と同時に海に出たのだった。
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漁船の係留場所や漁場への航路海域を占めるおばけ海草に潜んだ魔魚やサハギンを、率先して討伐にかかった。サハギンや魔魚は普通の魚を捕食しているため、獲物の豊富な魚場ほどの数はいなかったが、それでも前日に確保したサハギンの槍が足りなくなる程の漁獲となった。
「これを漁獲といっていいのか?」
「水産物なのは間違いねぇから、いいんじゃないか?」
一角魚の角や砂鮫の鋭利な歯、サハギンの爪と槍で船体も漁網もボロボロだが、漁師たちの表情は明るく朗らかだ。サハギンは王都に高級魚として売れるので、船体や漁網の修理代など軽く賄えるそうだ。
「アキ、そっちに浮かんでるのを頼む」
「おばけ海草にも色々種類があるようだが、選別しなくていいのか?」
「それは陸に戻ってからやるよ。とりあえず拾えるのは全部拾ってくれ」
潜水した漁師たちが刈った海草はそのまま海流に任せて流れてゆく。漁師たちの身の安全はシュウに委ね、コウメイとアキラは大きめの玉網を借りておばけ海草をすくい上げる作業に専念したのだった。
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討伐と刈りとりを終え漁港に戻る頃に丁度四の鐘が聞こえてきた。
両手で抱えても余るほどのおばけ海草を運ぶコウメイは、真っ直ぐに出張所にもどり選別を始めた。その横ではアキラが植物図鑑を開き、海草の項目を読みながらコウメイの選別に口を出している。
「コズエちゃん、スライム布かしてくれ」
「昆布を干すんですか?」
コズエがスライム布を砂浜に広げると、コウメイはその上に厚みがあり大きなおばけ海草を丁寧に開いて並べてゆく。
「本当に昆布にしか見えませんよね」
「漁師さんたちは食べないって言ってたけど、大丈夫かな」
「そっちの薄くて柔らかいヤツを試しに食ってみるつもりだ。治療薬は一本しかねぇから、刺身も一緒に試せばいいだろ」
今夜の夕食は刺身か。
「パンじゃなくご飯が欲しいです」
「パンで刺身は食いたくねーよ」
それはコウメイも同感だが、米の代用品などあるのだろうかと考え込んだ。
「なあシュウ、この町の食料品店って品揃えはどのくらいだ?」
「買い物したことねーからよくわからんが、向こうの騎士団の宿舎が仕入れをしているみてーだから、それなりの物は売ってる思うぜ」
漁港とは反対側の海岸に、大型船専用の港がある。外洋の航路を取る旅船の停泊する港で、すぐ脇には海路での入国者の管理と防衛を受け持つ騎士団が駐屯している。騎士団雇いの料理人が必要に応じて調味料なども調達に来るというのだから、食材や酒も品質は保証されていると断言できるだろう。
「コズエちゃん、悪いけどシュウと一緒に買い物頼めるか?」
「いいですよ、何を買うんです?」
「麦があれば一袋分くらい買ってきてくれないか、製粉前の実の状態のヤツだ。殻がついててかまわないから、できるだけ大粒の種類の麦が欲しい。ああ、店の人に『麦』って言ってもわからねぇと思うから。粒の大きなハギって言えば通じると思う」
なかなかに細かい注文を復唱してコズエはシュウに案内され町へと向かった。
「サツキちゃんはコレを茹でるの手伝ってくれるか?」
「昆布と言うよりもこっちのはワカメっぽいですね。もう一つのは初めて見ますけど」
コウメイが選別したおばけ海草のうち、薄くて黒いひらひらした海草と、もうひとつは太い茎に植物の根のような枝の生えている赤い海草だった。
「どっちもアキの植物図鑑には毒無しって書いてあったから多分食える。とりあえず茹でるから鍋の用意を頼むな」
出張所の台所には調理器具も揃っているが、昨日は大雑把な掃除と使うフライパンや皿くらいしか洗えていない。
「お鍋は一つですか? 二つ使います?」
「念のため分けて茹でるから二つかな」
「干してるものは茹でてみないんですか?」
「そうだなぁ、ついでに試してみるか」
「じゃあお鍋三つですね。洗ってからお湯を沸かしておきますね」
サツキは台所で埃をかぶっている鍋がいくつあったのか思い出そうとしながら出張所に向けて歩いていった。
「アキ、調べ物は済んだんだから買い出しに行ってくれ。ヒロは荷物持ちな」
「食料品店ならコズエに頼めばよかったのに」
「方向逆だよ。ドリスさん捕まえて魚醤を買いたいからって仲介頼んでくれ。漁協で買えるって聞いてるからな。それとサハギンもいくつか頼む」
無言で立ち上がったアキラに続きヒロも呆れ顔で砂浜から腰を上げた。
「本気で刺身にするんですね」
「この世界で日本食っぽいものを食おうと思ったら、多少の危険は覚悟しねぇとな」
何をするにしても試行錯誤は必須だ。
「あ、そうだ。サハギンは昨日獲ったのを凍ったままで頼む」
「冷凍庫があるのか?」
「漁協には特注の魔道具があるってチャックが言ってたぜ。今回みたいにサハギンが大漁だったときに長期保存するためらしい」
サハギン肉は王宮にも献上される稀少で美味い食材だ。王宮や貴族の求めに応じて提供できるようにと、国からの資金提供を受けかなり大型の魔道具が設置されている。自分達の食の楽しみのための浪費かと思えば、長期保存したサハギンを内陸部の富豪や貴族に海の高級食材として販売もしているので、決して無駄遣いではないらしい。
「長期保存ってくらいだから冷凍は確実だろうし、昨日のサハギンなら寄生虫も冷凍で死滅してる可能性は高いと思うぜ」
自信を持ってそう言うコウメイに、ヒロはひたすら感心するしかない。
「コウメイさんの食の知識って凄いですね」
「好きなことには詳しくなるもんだぜ」
「日本では全く活かせていなかったがな」
「環境が悪かったんだよ、仕方ねぇだろ」
知識もレシピも活かせるこの世界を存分に楽しんでいるコウメイだ。
「シュウのリクエストの鮪と鯛を頼むな」
「俺、サーモン好きなんで買っていいですか?」
「俺は鯖がいい」
コウメイは好きな魚を好きなだけ買ってこいと二人を追いたてた。
「生食できるなら、カルパッチョとかもいけるかもな」
手に入れた食材を料理しようかと考えながら、コウメイはおばけ海草を丁寧に並べて干すのだった。
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「蜂蜜だけじゃなく、お砂糖も置いてるんですね」
シュウの案内で訪れた食料品店は、小規模ながらも品数や品質はすばらしかった。
「わー、このお店、牛乳も売ってるんですか?」
朝一番の便で毎日一樽分の生乳が届くのだそうだ。それを国が出資して設置した魔道具の冷却庫で品質管理をして販売している。
「お得意様が騎士団だと設備投資も必要だよな」
「おかげさまでこんな田舎の港町でも王都に負けないくらいの商いをさせてもらってるよ」
町の飲食店や酒場には騎士や兵士の客も多く、彼らの口に合う料理や酒を提供するための食材は、多少高級であっても売れ残ることがないという。また近隣の農村からも珍しい食材や調味料を求めて港町まで買いにくるのは、王都へ行くよりも近くて気安いからだろう。
コズエは店主に買いたいハギの説明をした。それならばと見せられた粒ハギは、米よりも少し大きめの粒で殻のついたままだった。
「コレでいいと思いますか?」
「俺に穀物の良し悪しは判断できねーよ」
「私も自信はないんですよね」
騎士団に卸しているというのだからアコギな商売はしないだろうと信じ、店主にすすめられた粒ハギを買うことにした。
「これを一袋ください。それとお砂糖と牛乳も。この卵はいつのものですか?」
「こいつも今朝牛乳と一緒に届いたものだよ」
「じゃあ卵も三つ」
ありがとうございます、とホクホク顔の店主に聞こえないようにシュウが問うた。
「卵は六つじゃねーの?」
「これはコウメイさんに渡すんじゃなくて、サツキにお菓子を作ってもらおうと思って」
「お菓子?」
「プリンです」
「作れんのか、プリンが?」
目をかっ開き、耳がぴんと立って、尻尾が激しく揺れた。どうやらシュウはこちらの世界でプリンを食べたことはないようだ。
「サツキはお菓子作りが上手なんですよ。シュウさんが毎日お土産にくれるお菓子が美味しいっていつも悔しがってるんです。完成度高くて再現できないって」
「あれ美味いだろ? 王都の菓子屋で売ってるのは高いんだけど、あれは見習い職人の作ったやつだから安く手に入るんだ」
「あんなに美味しいのに見習いさんの作ったものなんですか」
今度はコズエが驚きに目を見開いた。あの完成度でプロの仕事ではないなんて、この世界の職人を舐めてはいけないのだと改めて思った。
「コズエちゃんは俺がどこで買ってるか、知ってるだろ?」
「……ごめんなさい、後をつけてました」
「うん、気づいてた」
頭を下げたコズエに、謝らなくていいと言ってシュウは店主から荷物を受け取った。コズエが代金を支払うのを待って店を出る。
「あそこは商人ギルドが後援している孤児院でさ、あそこで生活してる孤児たちは職人とか商人の見習いみたいなことをしてるんだ」
「働いてるんですか」
「どっちかってーと修行してる感じだな。こっちって十二歳で成人だし、推薦とかないと就職も難しいだろ」
紹介状や推薦状がないまま弟子入りすると支度金が貰えず、生活が成り立たないと聞いているとコズエは頷いた。
「治安悪化は路上生活者がいるからだ、特に孤児たちは犯罪者に利用される可能性も高い。だから王都と教会とギルドが共同で孤児院を運営してるんだってさ」
それでも孤児院で衣食住が保障されるのは成人するまでだ。
「親がいても十二歳での独り立ちが厳しいのに、孤児だともっと厳しい。だから七歳くらいから孤児に色々な仕事を学ばせているらしい。読み書き計算は最低限叩き込まれるし、本人の適性にあわせた職種の修行もする。俺がお土産に買ったのは職人を目指す孤児の作ったお菓子なんだ」
「凄い……専門学校みたいです」
「そんな感じだな。孤児の作った菓子とか小物とかは孤児院で格安で売られてるんだ。その売り上げを貯めて成人した孤児たちの支度金になるんだって聞いたからさ」
安く物を買いたい時は孤児院で良さそうなものを購入し、見込みのある孤児を支援したい時はその孤児の作った品を買って支度金に協力する。孤児たちは自分の作ったものを購入してもらえるようにと貪欲に努力するのだ。
「シュウさんは凄いですね」
「凄くなんかねーよ。転移した直後にちょっとだけ孤児院に世話になってたからさ。その時の恩返しついでに、コズエちゃんたちにも喜んでもらえるならいいかなーと思っただけだから」
「一石二鳥を狙ったってヤツですか?」
「そう、それそれ」
褒められるのがくすぐったいのか、シュウは照れ隠しするかのように一歩二歩とコズエを追い抜いて行った。
「そろそろ五の鐘が鳴るぜ。朝が早くて腹減ってるし、早いとこみんなのところに戻ろうぜ」
「待ってくださいシュウさん」
コズエは先行する大振りに揺れる尻尾を追いかけた。
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「黒い海草はキレイな緑になりましたね」
「完全にワカメだよな。枯れ枝みたいな赤い方は、色が抜けてるな」
「茹で汁に赤が全部出てますね。ワカメの方は色落ちしなかったのに」
テーブルには湯気をたてる鍋と茹であがった海草の皿が並ぶ。茹で汁と海草を見比べながらコウメイとサツキは観察を続ける。
「厚みのある海草は、深緑って感じだな」
「真っ茶色だったのにこの色に変わったと言うことは、ワカメと同じで食べられるってことなんじゃないですか?」
「食えそうにないのは赤いヤツだけか」
海草の方は大体分かったが、茹で汁の方はどうだろう。香りはよいので、何かしらの海草成分が溶け出しているとは思うのだが、香りがよい=旨味とは限らないのがこの世界だ。
「味見は冷めてからだな」
「治療薬と回復薬を用意しますか?」
「んー、どっちかと言うと刺身の時に使いたいしなぁ」
味見ができるくらいまで冷めるのにどれくらい時間がかかるだろうと眺めている間に五の鐘が鳴り、コズエやアキラたちが買い物を済ませて戻ってきた。
「実験は中断して飯に行こうぜ」
海草をいじりながらブツブツ言ってるコウメイとサツキは、傍から見ているとまるで化学実験をしてるように見えるとシュウが笑った。
「買ってきた食料品、冷蔵保存したいんです。アキラさん、アレ作ってもらえますか」
「刺身で食うならサハギンも常温放置はできないからな。みんな、手持ちの魔石を全部出してくれ」
アキラは雑魚寝部屋の荷物まであさってかき集めた魔石を使い、木箱を簡易冷蔵庫に仕立て上げた。生乳に卵、各種サハギン肉を入れて蓋をした。
「この感じだと三時間くらいしか持たないな」
「すげーな、冷蔵庫作ったのかよ。それも魔法か?」
「冷蔵庫と言うよりもクーラーボックスみたいなものだな」
「それでもすげーよ。魔法っていうと派手な攻撃魔法って気がするけど、こーいう使い方も便利でいいよな、羨ましいぜ」
シュウの前で魔力を使ったのはこれが初めてではないが、特に口止めなどはしていなかった。火をつけたり穴を掘ったり水を生み出す程度の魔力を持つものは珍しくないからだ。しかし魔力の応用はあまり知られたいものではない。
「シュウさん、私たち表向きは魔法が使えるって公表してないんです。色々とトラブルにもあうことも多いので」
「ギルドや他の方には黙っててもらえますか?」
魔法はファンタジーの醍醐味だが、この世界での魔法は問題も多い。魔術師でない者がおおっぴらに魔力を使うことは避けるべきだとして行動しているとコズエが説明すると、シュウは言いふらすつもりはないと約束した。
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輝魚亭でのサハギン三昧の昼食を終えて戻ってきたコウメイらは、シュウの言うところの実験の続きを始めようとした。冷めた煮汁を試飲して、旨味成分がどうなっているのかを確かめるのだ。玉杓子で液体をすくい、小皿に取り分ける。
「……お?」
「え?」
一つの鍋の前で、コウメイとサツキは驚きに声をあげた。




