表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第4部 それぞれの選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/197

王都 森のくまさん

もの凄くたくさんの方に読んでいただいているようで、驚いています。

ありがとうございます。

楽しんでいただければ嬉しいです。



 いつも狩りをするときはギルドで箱台車を借りていたが、今回は背負い子を借りることにした。組み立て式の背負い子は、荷物を載せる前の状態だと木材の束にしか見えない。コウメイとヒロが背負い子を引き受け、残る三人はいつもの大きなリュックサックだ。


「大物を狩る気満々じゃねーか」

「俺らはコレが普通だぜ。シュウは軽装だな」

「これが俺の普通なんだよ」


 シュウは片手剣と予備の短剣、あとはロープの束を腰に括りつけただけの軽装だ。


「獲物は縛ってひとまとめにすりゃいいしな」


 シュウは三体までのオークならひとまとめに縛って引きずって持ち帰るのだという。


「背負い子に何を乗せるんだ? オークか? まさかムーン・ベアじゃねーだろうな。アレはやめとけ」

「今日はゴブリンの巣を探すのがメインで、これは薪拾い用だ」

「薪拾い? 何で?」

「カマドに火を入れるためには薪が必要ですよ。お風呂のお湯を沸かすのにも使いますし」

「薪は拾えばタダですけど、買うと高いんですから」


 暖房の必要のない季節なので薪拾いもそれほど必死になる必要はない。帰り道ついでに拾えば十分だろう。


「節約が染み付いてんなー」


 六人は初心者の森から入り、そのまま北へと進んだ。シュウによれば魔鹿と凶鳥が多く生息しているあたりだ。ここはオークがほとんど出没しないため、他の熟練冒険者とかち合うことは少ない。


「止まれ」


 森の様子を観察しながら歩いていたアキラが、地面に痕跡を発見して皆を制止した。


「何かあったのか?」

「多分、だ」


 周囲の木々をぐるりと見渡し、いくつかの木に目をとめると、近寄って状態を調べた。


「二本足の魔物がこのあたりを縄張りにしている痕跡がある」

「ゴブリンか?」

「オークがいないのなら、おそらくは」


 シュウの耳がピクリピクリと細かく動いた。聞き耳を立て周囲の物音を拾ったが、ゴブリンの気配は見つからない。


「それらしい音とかは聞こえねーぜ」

「何度かこのあたりを通った形跡がある。巣に帰る途中なのか、獲物を狙って移動したのか」

「近くに巣があるかもしれねぇな」


 コウメイは剣柄に手を置いた。ヒロも片手剣を確かめ、コズエは槍を持ち直し、サツキは自動弓に矢をセットした。

 慎重に痕跡を追いながら進むアキラのあとを五人は気配を殺しながら追った。


「聞こえたな?」


 アキラとシュウの耳がほぼ同時にその物音を聞き取った。視線で合図を送り、シュウが左手へと回り込む。サツキとヒロにシュウの後を追うようにと合図して、アキラは音のした方へゆっくりと進む。

 木々の間に動くものが見えた。

 四足の動物を取り囲む二本足が複数。


「五体だ」

「魔鹿を狩っているのか」


 立派な角を持つ巨体の雄鹿だった。取り囲むゴブリンたちを角で威嚇し奮闘している。ゴブリンたちの意識は魔鹿に集中しており、アキラたちが挟み撃ちできる位置で様子をうかがっていることに気づいていない。

 角を掴んだゴブリンが力任せに押さえ込もうとし、大鹿に蹴られた。

 棍棒で角を打ち、右角が折れた。

 悲鳴のような泣き声とともに後ろ足で立った鹿は、そのまま悶絶して地に倒れた。

 取り囲んだゴブリンたちが一斉に殴りかかる。


「シュウの合図が出たらいくぞ」


 コウメイは剣を抜き構え、コズエはアキラを援護する位置を取る。

 対面の木の陰で同じように自動弓を構え狙いを定めたサツキの姿が見えた。

 その横でヒロが剣を構えいつでも飛び出せる体勢を作っている。

 シュウを見た。

 アキラの視線に頷いたシュウは、短く鋭く口笛を吹いた。


「行けっ」


 アキラとサツキから矢が放たれた。

 矢と同時に飛び出したコウメイが、振り向きざまのゴブリンの頭を打ち払う。

 振り下ろされる棍棒を籠手で受け流し新調した片手剣で腹を割いたヒロ。

 攻撃を素早いフットワークで全て避け、シュウは剣をゴブリンの背に突き刺した。


「よいしっょと」


 アキラとサツキの矢が命中したゴブリンに、コズエの槍がとどめを刺す。


「コズエちゃん、ついでに鹿にも頼むな」


 ゴブリンに撲殺される寸前の魔鹿にはまだ息があった。コズエはその首に槍を一突きして動かなくなるまでしっかりと見届ける。


「うまくいったな」

「コウメイたちって手馴れてるよなー」

「シュウのタイミング取りも良かった」


 コウメイらにしてもシュウにしても、狩りの基本は不意打ちからの短期決戦だ。


「ゴブリンと鹿を一度にゲットですね」

「シュウはゴブリンの耳の回収な。アキは魔石を頼む。サツキちゃん、鹿の解体手伝って」


 作業の間はコズエとヒロが周囲の警戒に立つ。


「鹿肉って美味いのか?」

「美味いぜ。ジビエ料理とか食ったことねぇの?」

「日本でもこっちでも鹿は食ったことない」


 魔鹿は肉も売れるが皮に値がつく。動物の鹿は茶色い皮だが、魔鹿は茶に金の波のような模様が入っているため、革製品に加工すると高値になるらしい。コウメイは丁寧に解体し、肉と皮をそれぞれスライム布で包んでリュックサックに入れた。折られた角はあまり形が良くないが、多少の値はつくだろうからと背負い子に引っ掛けておく。


「穴を掘って」

「おお、魔法か」

「見てねぇで死体の始末を手伝えよ」


 ゴブリンと魔鹿の骨や内臓を穴に捨て、再び魔力で土を被せて埋め戻す。コウメイの魔力で生み出された水で手を洗いながらシュウは目をキラキラと輝かせていた。


「便利だよな魔法って。攻撃魔法とかあんのか?」

「ねぇよ」

「戦闘中に穴を掘るのってタイミングが難しいんですよね」

「水だって敵を怯ます程度にしか使えねぇしな」


 魔術なら攻撃するものもあるかもしれないが、あいにく属性魔力に頼りきった使い方では難しい。


「水を出すだけでもいいから俺も魔法使ってみてー」


 ケモ耳の次に望むのは魔法だが、残念ながら獣人族に魔力は備わっていない。

 後始末を終え、六人は再び森の奥へと進む。目的はゴブリンの巣だ。


「巣の規模を把握しておけば、間引くタイミングも掴みやすい」

「できれば複数の巣を押さえておきたいですよね」

「溢れない程度にコントロールしていれば定期的な稼ぎになりますもんね」


 アキラがゴブリンの痕跡を探して回り、踏み固められた獣道を発見した。足跡は魔獣の物ではなく、人間の足よりも短く幅の広い足跡がいくつも見つかった。


「コウメイとシュウは一緒に、三人はここで待っていてくれ」


 アキラを先頭に周囲を警戒しながら足跡を辿ってゆくと、岩が隆起した場所に行き当たった。


「……巣だな」

「ああ、だが少ない」


 ゴブリンの巣は切り倒した木を岩に立てかけて作った簡易な小屋だった。巣の前には三体が見張りに立っている。


「大半は狩りに出ているんじゃないか?」


 出ているゴブリンが全て戻ればどのくらいの規模になるだろうか。小屋の中に上位種の気配が感じられないため、この巣ははぐれゴブリンが集まってできたものと考えられる。それなら二十体いるかどうかだ。

 三人は待機しているコズエたちの元に戻った。


「巣はあったが大きくはなさそうだ。さっき屠った五体も含めて二十前後の小さな巣だと思う」

「残り十五なら殲滅も難しくなさそうですね」


 以前の経験からすればかなり楽だろうとヒロは安堵していた。


「溢れる兆候もないし、しばらくはこのまま様子見にしよう」


 六人は巣から西へと森を進んだ。


   +++


 血の臭いを嗅ぎつけた銀狼の襲撃を返り討ちにし、森を出るべく進んでいた六人の足が、シュウの一言で止まった。


「やべー、でかいのが近くに居る」


 シュウの警戒する左手にアキラも意識を向けた。


「何かが戦っているような?」

「わかんのか?」

「四足と二本足が複数。四足はもの凄く重い」

「こりゃムーン・ベアかもな」


 かも、と言いながらもシュウは確信しているようだった。


「それって冒険者がムーン・ベアと戦ってるって事ですか?」

「ムーン・ベアってそんなに強くないんですよね?」


 確かシュウはムーン・ベアを倒したことがあると言っていた。単独で屠れる魔獣ならそれほど難しい相手ではないだろうとコズエが判断したのを、シュウが慌てて否定した。


「ムーン・ベアは強いぜ! まともにやり合ったら六人がかりでも危ねーよ。勝てたとしても半分は死ぬぜ」

「そんなに強いの?」

「おまえそんな凶暴なのをソロで討伐したのか?」

「俺はたまたま運が良かったんだよ。不意打ちできたのと、立ち位置が良くて最初の一撃が急所に入ってくれたおかげで、治療薬一本で済んだんだ。ふつーに遭遇したら全力で逃げてるって」

「それじゃあ様子を見にいった方がいいんじゃないですか?」

「冒険者が不利なら、逃げる手伝いくらいはしないと」


 この辺りは北寄りとはいえ森の出口にも近い。こんな浅い場所にいる冒険者は新人の可能性だってある。


「状況を確認して、無理だと判断したら見捨てる。自分の命が一番だ、それでいいな?」


 コウメイが念を押した。目の前で瀕死の誰かに請われても、自分の命が危うい状況なら助けるな、と。全員が頷いたのを確認して、戦いの行われている場を目指した。

 声は聞こえない。ただ咆哮と、打撃音が聞こえる方へと慎重に足を進める。

 慎重に距離をとり、木々の隙間からようやく戦闘を目視できる角度で足を止めたシュウは、思いもよらない光景に唖然とした。


「どうした?」

「……見てみろ」


 場所を譲られたコウメイが目を細めて動く物体を見た。


「ゴブリンじゃねぇか」

「ゴブリン?!」

「ムーン・ベアじゃないんですか?」

「熊と戦ってんだよ、ゴブリンの集団が」

「何だそれは」


 アキラは様子を見ようと数メートルほど先にある木に登った。太い枝に身を寄せると戦闘風景がよく見える。間違いなく熊が数体のゴブリンと戦っていた。丁度アキラの登った木を背にしたムーン・ベアが、向かってくるゴブリンを前爪で引っ掛け投げた。


「すげぇな、一撃じゃねぇか」


 アキラを追って木に登ってきたコウメイは、爪にえぐられて顔が半分なくなったゴブリンが木に叩きつけられるのを見て呻いた。


「あれ、どの辺で死んだんだろうな?」

「顔への攻撃のときだな。首が折れてる」

「あの力で殴られたら、長剣もぽっきりいきそうだ」

「試すなよ」

「しねぇって」


 コズエやサツキらも手ごろな木の上に登ってムーン・ベアとゴブリンの戦いを見物する体勢に入っていた。ヒロは二人のいる木の下で警戒しつつもゴブリンが蹂躙される様子を見ていたし、シュウも安全な位置に移動して様子をうかがっている。

 ムーン・ベアの体長は二メートル近くありそうだった。体重が重く敏捷さはそれほど無いが、パワーと頑丈さはその体躯に見合うだけのものがあった。ゴブリンの棍棒に殴られてもさほどダメージを受けず、反撃の爪でゴブリンの腕を折り、腹を割く。

 絶命しているゴブリンは三体、立っている五体のゴブリンにも無傷のものはいない。知能のある魔物は敗北を確信し、ムーン・ベアとの距離をとった。片腕を失ったゴブリンに折れた足を引きずるゴブリン、胸に爪あとが記され血を流すゴブリン。それぞれがジリジリとムーン・ベアから離れ、茂みへと紛れ逃げていった。


「熊は追わないのか」

「そもそも何でゴブ対熊なんて事態になったんだ?」


 勝利の興奮でぐるぐると這い回っていたムーン・ベアが、足を止めて顔をあげた。

 コウメイとアキラのいる木を見上げている。


「……おい」


 見つかったのか?


「そこはヤバイ! 隣だ、飛び移れっ!!」


 シュウの叫びと、ムーン・ベアが木に手をかけたのは、ほぼ同時だった。

 体長二メートル近い熊が後ろ足で立ち伸びをして前足を伸ばせば、アキラの居る枝に簡単に手は届く。

 ゴブリンの血肉のついた爪が迫る。


「お兄ちゃんっ」

「くそっ」


 爪にえぐられる寸前に飛び退き、伸ばした手で枝を掴みよじ登った。

 隣の木は細く、飛び移った二人分の体重で大きくしなった。

 アキラが居た枝あたりから、ぶーん、と翅音が聞こえた。


「なんだ?」

「蜂か」


 二人は何とか木にしがみついた体勢から、自分達が登っていた枝にぶら下がるムーン・ベアを見た。熊は巣を守ろうと攻撃する蜂をものともせずに、器用に根元に爪を入れ巣を引きちぎって木から下りた。


「蜂の巣があったのか……」


 ムーン・ベアはそのまま蜂の巣を咥えると、見物人らに興味はないと森の奥へと消えていった。


   +


「熊って木に登れるんだな」

「パンダが木に登って遊ぶくらいだ、月ノ輪熊だって木登りぐらいするだろう」

「パンダは熊なのか?」

「ネコ目クマ科だ」


 ゴブリンが去り、ムーン・ベアの気配がなくなってから地上に降りたコウメイたちは、辺りの惨劇の名残を片付けていた。


「濡れ手で粟だな」


 転がっていたゴブリンの死体から魔石と討伐部位を切り取ってゆく。


「コウメイさんもアキラさんものん気すぎますよ」

「見ている方はハラハラしたのにっ」


 ムーン・ベアの爪で下手をすれば死んでいたかもしれないのにと半泣きだったサツキは、気楽な二人の会話に心配した分だけ腹をたてている。


「なあ、ゴブリンとムーン・ベアって敵対してるのか?」

「しらねーよ」


 樹表に残されたクマの爪あとを眺めながらシュウは呆れの声を返した。


「ムーン・ベアが蜂蜜狙いだったのは間違いねーだろうけどな」

「ゴブリンも蜂蜜を狙ってきて、偶然に鉢合わせて戦闘になったというところか」

「それ以外に考えられねぇな」


 八対一の戦いはムーン・ベアの勝利だ。


「シュウ、ホントにあの熊に勝ったのか?」

「だから運が良かったんだって。俺が遭遇したのはもっと小さいヤツだったし、蜂蜜食うのに夢中で野生を忘れてる状態だったからなんとかなったんだぜ」


 反撃されて利き腕を爪でえぐられた当時の痛みを思い出したのか、シュウは顔をゆがめた。何とかとどめを刺してから治療薬で傷を癒し、そのまま熊を抱えて街に戻ったときは大騒ぎだった。


「コズエちゃん、ちょっとその槍貸してくれねーか」

「何するんですか?」

「サイズ測るんだよ。ギルドに報告するときにサイズも知らせねーとな」


 シュウが最も高い位置に残る爪あとに槍先を沿え、地上までの長さを測った。爪あとの長さや幅は、腰のロープを添えて印をつけていく。


「ムーン・ベアを見かけたら、位置とサイズはギルドに報告する義務があるんだ、覚えとけよ」


   +++


 熊騒動で疲れきった六人は早々に街に戻った。

 ゴブリン八体と魔鹿の皮と角、銀狼の皮が四枚、そしてムーン・ベアの目撃情報に値段がつき、丁度五千ダルになった。


「後ろ足で立って伸びをした長さが二十五マールほどもあるのか」

「太ってて力もあった、重さは二百カレを越えてると思うぜ」


 査定部のケリーにメモっておいたムーン・ベアの測定情報を報告するのはシュウだ。


「新人どもに注意喚起する必要があるな」

「蜜蜂の巣さえなけりゃ、ムーン・ベアもこっちにはこねーと思うけど」

「虫に巣の場所を変えろとは言えんだろう」

「そりゃそーだ」


 シュウの報告により、翌日のギルドの掲示板に「ムーン・ベア出没情報」が張り出された。

 同時に初心者の森の一斉点検がギルド主催で行われ、東門に近い森にある蜜蜂の巣が次々と採取された。別名「蜂蜜狩り」イベントは盛況に終わり、街の食材店には蜂蜜菓子が並んだ。

 


※25マール=2.5メートル/200カレ=200キロ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ