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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第3部 幸せは自分次第

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閑話/3C8番の邂逅



 転移してから何の役にも立っていなかったスマホ。それにGPSの位置情報的なものが表示されているとシュウが気づいたのは、冬のはじまる頃だった。


「こいつ、すげー狭い範囲で動いてんだよな」


 赤い点のいる場所はギルドの地図で確認した。ナモルタタルとかいう内陸間部の街だ。シュウの居る王都からは、馬車を乗り継いで一ヶ月以上かかる遠い場所。


「俺の脚なら二週間くらいで着きそうだけど、この距離を一人旅は流石に無理だ」


 これは誰なのだろうか。元バス運転手のスマホを確かめさせてもらったが、そちらには現在位置を示す自分の青印はあったが、赤い点は存在しなかった。


「人、だろうな。同じ転移者で、俺のスマホにだけ表示されてるってことは、俺の知ってる誰かの可能性が高い……誰だかさっぱりわかんねーな」


 画面の赤印をタップしてみたが、名前の表示が出るわけでもなし。

 シュウと同じ場所に転移した二人とも十歳以上も歳が離れていた。生き延びるために共闘はできたが、友人にはなれなかった。

 同年代の人だったら親しくなれるかというと、それもシュウの場合はハードルが高い。物珍しい獣人族に近づいてくる者は多いが、そのほとんどが興味本位か利益を求めての打算ばかりだ。

 転移して半年、異世界での生活には慣れたが、柄にもなく人恋しさが募ってきた。


「誰かわかんねーけど、会いに行ってみてぇな」


 やっと一人で安定した狩りができるようになってきた。あとは複数の魔物に囲まれても負けないだけの力がつけば、安全な壁の外へと旅立てるような気がした。


   +++


 冬が終わり、春が来た。

 王都の冬は海からの温かな風の影響で雪も降らず温暖で過ごしやすい。北の渓谷を利用した関門から先は積雪により街道が使えなくなることも多い。


「おおー、移動してるじゃねーか」


 久しぶりに見たスマホの赤印が、ナモルタタルから西へと大きく位置を変えていた。


「こっちに気づいたかな」


 自分が赤印の存在に気づいたように、だれかも自分の存在に気づきこちらに向かっている。そう考えるのは自分に都合よすぎるだろうか。 

 ギルドの資料室で街道地図を閲覧し、赤印の向かう先を考えた。街道は一本道、アレ・テタルで道が北と南西に分かれる。


「途中の町で動かなくなったら、俺がそこへ行けばいい。アレ・テタルまできたら、北へ進まれないうちに捕まえる」


 シュウはその日からマメなスマホチェックを始めた。


   +


「消えやがった」


 赤印がアレ・テタルについて二十日後、忽然とシュウのスマホ画面から赤い点が消えた。


「くっそが、充電くらいマメにしとけよな!」


 シュウは携帯保存食を買って宿に戻った。


「おっちゃん、少し街を出て来る。戻ってくるから残ってる荷物預かっててくれ」

「何日あける気だ?」

「早けりゃ一週間で戻ってこれると思うけど、はっきりはわかんねー」

「帰ってくんだな? じゃあ一階の納戸に荷物突っ込んどけ。預かり料は貰うぞ、三百ダルだ」


 着替えと水筒と携帯保存食をリュックサックに詰め、残った私物をひとまとめにして納戸に放り込んだ。

 アレ・テタルへ向かう今日の乗合馬車は出た後だ。シュウは歩いて北門を出て街道沿いを走った。獣人になって転移して良かったと思うのは、足の速さも長時間走り続けられるスタミナも、すべて獣並みだという点だ。


 シュウは一昼夜を走り続け、関門を通過し、翌日の夕方にはアレ・テタルの西門にたどり着いていた。閉門時間ギリギリに街に入ったシュウは、冒険者ギルドに向かった。


「どうやって探すかなー」


 閉門前の冒険者ギルドは精算のために列を作る冒険者でごった返していた。突然現れた獣人を見てざわめきが広がるが、シュウは周囲を無視して見覚えのある顔は居ないかとロビーを探し移動した。部活のメンバーやクラスメイト全員の顔は今もだいたい覚えている。学校外の友達も、高校に入って以降のダチも見れば分かるはずだ。

 この中に友人が居れば、シュウを見つけるのは簡単だ。シュウは獣人として転移したのに、顔つきはほとんど変わっていない。滅多に見かけない獣人が知っている人の顔だったら見逃すはずが無い。


「耳と尻尾がつくだけで済んで助かったよなー」


 この世界の獣人族が二本足歩行する動物そのままでなくて本当に助かった。もしも狼マスクに全身毛皮だったら、百パーセント自分を「片岡秀斗」だと認識してもらえなかっただろう。

 掲示物の前でシュウの足が止まった。


「魔物情報、討伐依頼、採取依頼、へー、メンバー募集に尋ね人なんてのもあるのか」


 数は少ないが探し人の特徴の書かれた板紙が数枚貼られている。

 これだ。

 シュウは長い列を作っている最後尾に並び、どういう文面にしようか考えながら順番を待った。


   +++


 一人目は二十代の青年だった。


「コンビニのレジに居たはずなんだよ。それが異世界だろ?」

「冒険者の格好、様になってますよ」


 革製の防具に腰には剣とナイフ。防具と武器を身につけていても不自然さや違和感を感じない。むしろコンビニ店員の制服の方が似合わないような気がした。


「はは、最初はノリノリで登録したけど、すぐに現実を思い知ったよ」


 それはシュウも同じだった。異世界ファンタジーなら冒険者でしょう、と最初にギルドを探したものだ。幸いにもシュウは獣人の身体能力に助けられてすぐにそこそこ稼げるようになったが。


「最初に入ったパーティーが最悪でね、騙されて奴隷商人に売られそうになったんだ」

「奴隷商人とかいるんすか、ここ」

「この世界だと犯罪奴隷以外は違法らしいけど、どこにでも裏社会ってのはあるらしいからね」


 元コンビニ店員は違法奴隷商人の摘発でギリギリ間に合ったと言った。


「そのときに知り合った冒険者パーティーの紹介で今の仲間と出会ったんだ。結構な大所帯だけど、荷運びとか伝令とか下っ端仕事から始めて、最近は魔獣狩りを任せてもらえるようになったんだよ」


 大陸の北の国に本拠地を構えている彼のパーティーは、アレ・テタルに魔道具の買い付けに来ているらしかった。三日後には街を立つ予定だ。


「しかし君は思い切ったよね。あの短時間で獣人か」

「ノリでやっちまったんすけど、俺だってレア種族って知ってたら選んでなかったですよ」


 狼獣人であることに助けられたことも多いが、デメリットはそれ以上にあったのだ。


「お互い九ヶ月も生き延びたんだ、これからも色々大変だろうけど頑張ろうぜ」


   +


 二人目は冒険者ギルドに依頼を出しに来て、シュウの「三C八番・体育委員」を見て名乗り出た。


「何の暗号かと思ったよ。職員さんは他国の言語だって断言したけど、日本人ならだいたい想像つくからね」


 会社の営業車両を運転していた営業マンだった彼は、信号待ち停車中に衝撃を感じて転移していたそうだ。


「依頼を出しにきたって言ってましたけど、今何やってんすか?」

「農村で雇われてるんだ。今日は害魔獣の駆除依頼を出しにね」


 三十代半ばと思われる彼も当初は冒険者をやっていたらしい。


「転移した時に一緒に居た高校生に誘われて少しの間だけどね。どうも俺は魔物と戦うとかは性に合わなくて。薬草採取とか農村の日雇いとかやってた方がしっくりきたんだよ。それで冒険者はやめて農村に住み込んで仕事をしてる」

「スローライフっすか」

「そんなんじゃないよ。ただ実家が農家やってたから、畑に馴染みがあるんだよ。土をいじってると安心できるんだ」


 それに、と言いよどんだ彼の口がむずむずと笑み弛んでいた。


「……もしかして、こっちで彼女出来たんですか?」

「はは、日本じゃお見合いで断られてばかりだったのに、こっちにきたら嫁ができたんだよ!」

「嫁!」

「そーなんだよ、嫁。農村の一人娘なんだけど、何でか気に入られてさ、今度結婚するんだよ」

「それはおめでとうございます」


 充実した異世界ライフを過ごしているようで何よりだった。


   +


 三人目は女子大生だった。

 シュウの前に現れた彼女の顔色は悪いし、目の周りの隈も酷く疲れきっているようだった。


「大丈夫っすか?」

「……あなた、獣人なのね。探しているのも獣人の友達なの?」

「転移した奴なのは間違いねーんだけど、人なのか亜人族なのか、会ってみねーとわからないんです」


 シュウがスマホを出して自分を示す青い点と、目的の赤い点を表示して見せた。


「スマホでこんなことができるなんて、気づかなかったわ」


 女子大生は自分のスマホを取り出して震える手であちこちを探るように触った。


「ここの窪みを押したら電源が入るんだ」

「……つかないわ」


 電池切れだろうと教えると、女子大生の目から涙が零れた。


「魔石、持ってないっすか? 角ウサギとかのクズ魔石でいいんで」

「私、薬草採取しかやってないの」


 どうしても動物を自分の手で殺すことができなくて、女子大生は薬草採取と配達の仕事やギルドの手伝いをして食いつないでいると言った。転移した時に持っていたクズ魔石も、随分前に換金して生活費に使っていた。物価の高い街での生活はカツカツなのだろう。ギルドでの査定価格が十ダルにもならないクズ魔石でも、買うとなれば三十ダルはするのだ、女子大生には簡単に買える物ではない。


「じゃあ俺のクズ魔石を使うけど、こうやって電池交換みてーなことするんだよ」


 シュウは財布の中に入れてあった魔石を女子大生の電源ボタン部分に置いた。薄いレモン色の魔石が吸い込まれ、透明な石が吐き出される。


「ついたわ……青いのが自分なのね? 赤いのは里奈、なの?」

「里奈ってのは、転移者だよな?」

「友達なの。一緒に歩いてたらこの世界に飛ばされてて。こっちでも二人で頑張ってたのに、何ヶ月も前に突然居なくなって……でも、この街にいるのよね」


 女子大生のスマホに表示されている赤い印はアレ・テタルの上にあった。


「よかった、これで里奈を探せるわ」


 スマホを抱きしめて女子大生が泣きながら笑った。


「ありがとうね」


 痛々しい笑顔には、希望を見つけ出した晴れやかさがあった。


「そんなに長くこの街にいるつもりはねーけど、俺の人探しついでに、おねーさんの探してる里奈さんも探してみるよ。どんな人か教えてくれる?」

「目立つから、すぐに分かるわ。エルフなの」


   +


 四人目はシュウと同じ高校生男子だ。


「佐藤もこっちに来てるのかと期待しちゃってたのに」

「そいつも三Cの八番なのかよ」

「番号は覚えてなかったけど、三Cの体育委員やってんのが佐藤って奴だったから」


 男子高校生は塾の前にコンビニでアイスを買っていて何故か異世界に飛ばされていた。


「なあ、そのコンビニって○×町の交差点のとこにあるコンビニ?」

「そう、そこ。塾のすぐ側だからいつも寄ってたんだよ」

「俺の乗ってたバスが信号待ちしてたのが、その交差点だわ」

「うわぁ、あの爆発ってコンビニの外まで吹き飛ばしたのかよ」

「バスがごろんごろん転がってんの、覚えてるぜ」


 路線バスにシートベルトは無く、バスが転がると乗客らは車内でシェイクされた。


「隕石落としたとか言ってなかったっけ?」

「神様の夫婦喧嘩じゃなかったか?」

「「どっちにしてもありえねーよっ!」」


 そして異世界転移だ。


「お前のケモ耳もありえねーと思うけどな」

「言うな。誘惑に負けたんだよ」

「いや気持ちは分かる。さわりてーよなケモ耳」

「さわんなよ。こっちの世界の常識だと、獣人が耳と尻尾を触らせるのは番の相手だけだっていうからな。手をムズムズさせんな、触らせねーから!」


 シュウは身体をのけぞらせて距離をとった。


「やけに嫌がるな?」

「……同じ場所に転移したおっさんが触りたいって言うから触らせてたら、それ見てた人に『独りもんの前でイチャつくな』って誤解された」

「ぶははっ」


   +++


 五人目も三十代の会社員だった。

 コンビニの入っていたビルに会社が入居していて、そこで経理を担当していた男性社員だ。


「冒険者も悪くはなかったが、やっぱり数字を扱う仕事のほうが楽しいんだよ」


 身分証明がなければ街を出入りするたびに税金がかかる。元経理マンとしては不経済な無駄は許せず、冒険者登録をして身分証明書と収入の手段を得た。一度にこなせる依頼を複数請け負い、安全第一で着々と溜め込んでいた経理屋は、偶然見てしまったギルド職員の計算間違いを思わず指摘してしまった。そこからギルドの経理を手伝うことになり、商人ギルドに推薦されて登録をし、小規模な商店や商人の帳簿を請け負う仕事を始めたのだそうだ。


「だったら商人やればいいんじゃないですか?」

「営業は向いてないんだ」

「経理って金の計算なんだろ?」


 物を売って利益を上げる。商人=経理じゃないのかと不思議に思うシュウだ。


「営業は品物を売ることが仕事だ。俺は売ることは苦手なんだよ。この世界で何が売れるのか、どうやったら売れるのか、そこから考えて動くのは向いてない。けど帳簿をみて何が売れているのか、何を売ったら儲かるのか、そういう分析は得意なんだ」

「人気商品を売れば儲かるんじゃねーのか?」

「仕入れコストが高い商品は、売っても大して儲けにならない。安く手に入れて高く売る、これが意外に難しい。この街の商店も売れるから商品を仕入れているところが多いが、それでは利益は微々たるものだ」

「よくわかんねーけど、楽しそうなのは理解しました」


 同じ場所に転移した人たちはどうしているのだろうか、疑問に思ったが問うことはしなかった。


   +++


 探し人の暗号に反応した五人はシュウの知らない日本人だった。


「俺が着く前にどっかへ行っちまったかもな」


 相変わらずスマホには赤い印は表示されていない。どうしても王都を動けない事情があったとはいえ、赤印がアレ・テタルに着いてすぐに動けばよかったとシュウは後悔していた。すれ違っているとしたら、相手が充電するのを待って印のある場所へ追って行くしか無いだろうか。


「あんまり長く王都を離れたくねーんだけどな」


 あと三日、待ってみよう。三日待って知ってる奴が引っかからなかったら、今回は諦める。

 そう決めたシュウは、新たに張り紙を見て訪ねてきた人は居ないかと冒険者ギルドに確認に向かった。


「二日後に会いたいという伝言がありました。五の鐘の時間に、ギルドロビーでとのことです」

「そいつの名前は?」

「会えば分かるから伝えるなと……すみません」


 二日後か。


「他には?」

「今のところその一人だけですね」


 シュウは職員に張り紙は三日後にはがすように頼んだ。


「仲介事務手数料の精算をお願いします」


 ギルドロビーの掲示板利用は有料だ。一日二十ダル、ギルド職員が伝言を預かりシュウへ仲介をするたびに三十ダルがかかっている。


「……ソロで狩れる獲物って、何がおすすめ?」


 空いた時間を使って小銭を稼ぐべく、シュウはアレ・テタル周辺の討伐情報を尋ねたのだった。



第3部、閑話も含めこれで終了です。

まとめてのお礼となりますが、いつも誤字報告によるご指摘、ありがとうございます。

誤字変換等、がんばって潰していますが、皆様にご協力いただけてとても助かっています。

これからもよろしくお願いします。

(もちろん自分でも頑張って誤字減らす努力をします)


第4部は8/19から投稿を予定しています。

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[一言] なんちゃって獣人かぁ
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