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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第2部 冒険者生活の楽しみ方

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共同生活のススメ 4 とある一日

共同生活のススメ 4 とある一日


 冒険者の朝は早い。

 借家暮らしの五人の中で最も早く起きるのはコウメイだ。二の鐘が鳴る一時間ほど前に目を覚まし、着替えて台所に立つ。

 台所の竈は二つ。火を入れ、片方に鍋を置いて洗った芋を皮ごと茹でる。


「角ウサギの蒸し肉は弁当にするから、朝から魔猪肉になるが、女の子とアキが嫌がりそうだな」


 朝っぱらから重たいものは食べたくないというアキラの主張も分からなくはないが、狩りに出ることを考えたらしっかり食べておきたい。


「できるだけ脂身をのけて、しゃぶしゃぶっぽく仕上げてサラダに添えれば文句はないだろう」


 貯蔵甕から塩漬けにした魔猪肉の塊を取り出し、薄く切りわけてから、縁取るようについている脂身を除けてゆく。

 空いている竈に浅めの鍋を置き、沸いた湯に肉をくぐらせさっと茹でる。笊に取り上げて肉を冷ましている間に、出汁のでた茹で汁を利用して、刻んだ根野菜と肉の切れ端の入ったスープを作った。


 ゆであがった芋は熱いうちに皮をむき、木製ボウルに入れて潰す。魔猪の油を少しと塩で味を調えた。

 食料貯蔵庫の野菜はそろそろ萎れかけている。サラダとして食べるのは今朝で最後だろう。残りは炒め物や煮込みに使うことにしよう。


 冷水で手早く野菜を洗ってシャキっとさせ、手で食べやすい大きさにちぎって皿に盛りつけた。さっと茹でた魔猪肉の薄切り肉とマッシュポテトを添える。肉とサラダの味付けは好みのソースを選ばせよう。木の実をすりつぶして塩と果汁で味を調えたゴマダレ風のタレと、酸味のある果汁と乾燥ハーブと塩で作ったあっさりソース、二つを器に入れてテーブルの中央に置いた。


 パンは昨日の夕方にパン屋で買ったものだ。かたまりで買ったパンを薄くスライスしてこれもテーブルの中央に並べて置いた。こちらの世界で普通に食べられているパンは、酸味があり固く密な黒パンだ。薄切りにして何かを乗せたり挟んだりして食べるのに向いている。


「おはようございます」


 コズエとサツキが台所に顔を出した。


「おはよう。丁度出来あがったところだから運んでもらえるか?」

「わぁ、美味しそうっ」

「サツキちゃんはミント水を頼む」

「わかりました」


 コズエがサラダの器をテーブルに運び、サツキは水差しにミントに似た葉を千切り入れ、簡易の食器棚から人数分のコップとともに運んで行った。


「おはようございます。何か手伝う事ありますか?」

「おはようヒロ。アキを起こしてきてくれるか?」

「……起きてる」


 ヒロの後ろから半分寝ぼけたような顔つきのアキラが現れた。


「おはようさん、まだ顔洗ってないんだろ。すぐ飯だぞ」

「分かってる」


 アキラはそのまま洗い場へと向かった。


「ヒロはスープボウルとカトラリーを頼むな」


 そう言ってコウメイはコズエ製の鍋つかみをはめて竈からスープの鍋を持ちあげた。

 スープ鍋がダイニングテーブルにたどり着くのとほぼ同時にアキラが現れ、五人そろっての朝食が始まる。


「いただきます」

「「「「いただきます」」」」


 朝食を食べ始めたところで丁度二の鐘が鳴った。


   +++


「今日はギルドには顔を出さずにそのまま森に向かう」


 冒険者としての狩りの打ち合わせは、食事を摂りながらアキラが中心となってすすめられる。


「昨日の撒き餌の確認だな?」

「ああ、銀狼を見つけたら狩る。基本はコウメイとヒロで、俺が遠隔で誘導する。サツキとコズエちゃんは援護を頼む」


 スライスされた黒パンにマッシュポテトを塗り、サラダと魔猪肉を乗せてかじる。コウメイとヒロはゴマダレ風のドレッシング、コズエとサツキは酸味のあるドレッシングが好みのようだ。アキラはドレッシングは使わない。


「それと今日は木の実の採取に重点を置きたい」

「カルカリの実か?」

「食いたいならそれも採ってくればいいが、俺の目当てはリブオーラの実だ」


 初めて聞く名前にコズエらは首を傾げる。


「昨日、森に生っている木の実をいくつかサンプルに取ってきたんだが、その中のリブオーラの実は油分が多かった。前にコウメイが言っていた植物油を絞れるんじゃないかと思うんだ」

「マジか!」


 興奮したコウメイがスープの器を乱暴に置いた。

 この世界での油は動物の脂が基本だった。魔猪や豚の脂身を熱で溶かして使うのだが、独特の臭みとこってりとした重さが料理の幅を狭めているとコウメイは嘆いていた。植物油もあるにはあるが、貴族や富豪が買い占めており一般庶民には殆ど手に入らなかった。


「試してみないと分からないが、潰して出た果汁がオリーブオイルのような感じだったから、絞ってみる価値はあると思う」

「リブオーラの実ってのは食えるヤツか?」

「図鑑には食えないとは書いてなかった。鳥が好んで食べているようだから人間が食べても問題はないと思う」


 樹木は細いが背が高く、人が登るだけの強度は無い。採取は木を揺すって実を落下させる方法になりそうだとアキラが言うと、コズエが大きめの布があるので活用できると言った。


「木を揺する係と、布を広げて下で待ち構える係に分かれよう」

「コズエちゃんは布の用意を頼む」


 その日の狩猟や採取の予定確認が終われば、手早く掃除や洗濯をしてから家を出る。五人が街門を出る頃には三の鐘が鳴っていた。


   +++


 前日に魔猪の内臓や血を埋めた場所は見事に掘り返されていた。


「まだ近くにいる、かな」


 掘り起こした足の数は複数だ、周辺の土はまだ乾いていない。

 アキラが耳を澄ませ音と気配を探る。


「……五頭か六頭、向こうだ」


 それぞれが武器を手に構え、アキラの示す方向に進んでいった。

 六頭程度の群れだと思って踏み込めば、発見したのは八頭の群れ。一旦引くかと相談している最中に銀狼に気づかれ、あっという間に囲まれた。こうなれば戦うしかない。


 銀狼は素早い。

 魔猪も勢いは早いが、スピードをコントロールできる銀狼は狩猟の相手としては難しい魔獣だ。


「火の壁!」


 アキラの魔法がコウメイらの背後から襲う銀狼を排除した。

 火の魔法を避け退いた銀狼にヒロの剣が振り下ろされる。


 銀狼に噛みつかれないように間合いを取り、アキラの魔法で火の壁を作り背後の心配をなくして一対一の戦いに専念する。


「あと一頭だ」

「はいっ」


 コズエの槍をかわした銀狼は退路を求めて翻る。

 アキラの自動弓が銀狼を追う。


「ああ、外れたか」

「深追いはするなよ」


 コズエの槍とヒロの剣がそれぞれ一頭を、コウメイが二頭を屠って戦闘は終わった。ひときわ大きく立派なボス狼がコウメイに殺されたのを知ると、銀狼たちは体躯の小さなものから逃げて行った。


「接近戦では私の仕事がありません」


 兄の側で乱戦を見守っていたサツキは役立てなかったことが残念そうだった。

 銀狼の肉は食べられないことはないが不味い。筋が多く硬いし、一頭から得られる可食部位も少ないのでギルドでは買取していない。銀狼の価値はその毛皮と牙にあった。


「毛皮を傷つけないように、丁寧にな」


 銀狼の皮が四頭分もあれば査定価格は千ダルを超えるのは間違いないし、牙も一頭分が百ダルほどになる。一定の収入を確保できれば、気分的には木の実採取が楽になる。


 アキラの誘導でリブオーラの木を順番に回った。

 周囲の木よりも細く背の高い木。手を伸ばして届く位置に枝はなく、樹皮はツルツルと滑りるため体重の軽い子供でも登るのは難しそうだ。

 皆でコズエの用意した布を地面に敷き詰めた。


「俺とヒロで揺すってみるか」

「いや、俺が魔法でやったほうがいい」


 そう言うとアキラは魔法で作り出した風を木の枝向けて打ち放った。

 ザザァ、バサバサバサ、ボトボトボトッ。

 金柑くらいの黒い実が雨のように降ってきた。風刃に打ち落とされた枝や葉も一緒にだ。

 転がってきた黒い実を拾ったコウメイは、力を入れて押してみる。


「結構硬いな。けど油分は多いし、香りも悪くない」

「傷のある実が多いけど、どうしますか?」

「ここで選別する時間は無いぞ。まだ他の木でも実を取りたいし」

「とりあえず実だけ持って帰ろう。選別は家に戻ってからみんなに手伝ってもらうからな」


 魔法で起こしたゆるい風で葉を吹き飛ばし、枝についた実は摘み取って大袋に移した。一つの木で三度ほど実を落として収穫し、次の木に移動する。移動ついでに薪も拾うし、たまたま行き当たってしまった巨大芋虫(ワーム)はさくっとコウメイとアキラが片付けた。


「魔猪サイズの芋虫」

「……はじめて見ました」

「気持ち悪ぅっ」


 うねうねと動く巨大な青虫に女子二人は腰が引けている。蝶は平気でも青虫はダメというのは良くあることだ。蝶は大丈夫でも蛾は絶対にダメダメ、という場合も。


「この季節に出没する巨大芋虫は魔物の幼虫だと考えていいらしい。毒蛾や幻惑蝶の幼生だ、ギルドの討伐対象リストにも入ってるぜ」

「……討伐証明は、どうやって取るんですか?」

「顎だよ。ここを切り取って持っていく。あと小魔石もあるから取り忘れるなよ」


 コウメイは芋虫をひっくり返して顎を切り落とし、頭部から数えて五つ目の黒い模様に剣を突き刺した。

 ぷちゃ、という音を耳にしてゾワリと背筋に冷たい震えが走ったのも仕方がない。苦手なのだから、どうしようもない。

 コズエもサツキも巨大芋虫(ワーム)から魔石を取り出すコウメイから顔と視線を逸らせたのだった。


   +++


 森の中にある少しばかり開けた場所で五人は昼食を取った。

 黒パンに挟んだマッシュポテトと角ウサギの肉のサンドイッチだ。味付けは少し濃い目につけてある。水筒に入っているのはサツキの作ったミント水。こちらの世界での茶葉も高級品だった。ティースプーン一杯ほどの茶葉が百ダルという値段ではとても日常的に飲むことはできない。手軽に飲める茶葉が手に入るのは何時になるだろうか。


 早々に食べ終わったコウメイはリブオーラの実の選別を始めた。四人に手伝ってもらうためにもある程度の基準を決めておきたいと思ったのだろう。自然に食べ終わった者から手伝いを始め、結局ここで全てを選別していくことになった。


「多少の傷は仕方ねぇけど、鳥に半分食われてるやつはダメだな」

「ダメな実が多いですね。処分のことを考えたら選別してから持ち帰ったほうがいいみたい」

「選別と採取で二手に分かれようか」


 アキラとヒロがリブオーラの実を集め、残った三人が選別作業を続けることになった。


「鳥が三分の一以上かじってるヤツも、虫のいるヤツも駄目なヤツだから」

「無傷の実はほとんどありませんよ?」

「美味しいのかなぁ?」


 好奇心でリブオーラの実をかじったコズエは、すぐに吐き出してしまった。


「うえぇ、マズっう」


 とてつもなく渋い。舌に残る渋みを消したくて慌ててミント水を口に含んだ。


「なんで鳥はこんな不味い実を食べるのよっ」

「そんなに不味いの?」


 サツキはナイフで削ぎ切った果肉を口に入れて、やはりすぐに出してしまった。

 コウメイも半分以上を鳥についばまれた黒い実に歯を立てたが、コズエと同じようにすぐに吐き出して舌先に残る渋味に顔を顰めた。


「渋味が強いな。でも油分はある……青い実はどうなんだ?」


 あまり鳥にかじられていない青い実を同じようにかじって舌に乗せる。熟していない実にも青臭さと渋味はあるが、油っぽさも口の中に残っている。


「オリーブの実に良く似てるな」


 コウメイの呟きにコズエもサツキも驚いていた。


「オリーブの実ってこんなに渋かったですか?」

「もっと美味しかったですよ?」

「渋抜きする前のオリーブの実はこんなもんだよ。似ているってことはリブオーラの実を絞れば植物油が取れるのは間違いなさそうだな」


 退屈な選別作業に気合が入るよとコウメイは笑った。

 舌に残る渋味を消すために水筒を手に取った。冷たいミント水が口腔の余計なものを洗い流してくれるようだ。


「……冷たい?」


 ちょっと待て、とコウメイは手に持つ水筒を凝視した。このミント水はサツキが作ったものを水筒に入れて持ってきたものだ。自分の水魔法で生み出したものではない。なのに何故、こんなに冷たいのだ? 冷蔵庫から出したばかりのようなこの冷たさは、もしかして。


「コズエちゃんの水筒、貸してくれる?」

「? いいですよ」


 どうぞと手渡された水筒から、ほんの少しのミント水を手の平に流した。


「やっぱり、冷たい」

「何かありました?」

「うん、もしかしたらだけどさ、サツキちゃんって水属性の魔法が使えるかも」

「は?」

「ええっ!」


 想定外の言葉が聞こえたとサツキは首を傾げ、コズエは!マークを貼り付けたような驚きの顔でコウメイを見た。


「魔法……?」

「す、凄いよサツキ!! 魔法だよ、魔法っ」


 がしっと肩を掴まれ揺さぶられながらもサツキの表情からは疑問符が消えない。何故だと問うとコウメイは水筒を掲げて言った。


「サツキちゃんの作ってくれたこのミント水を飲んでみて気づかないか?」

「美味しいですよね。冷たくて、口の中がすっきりしました」

「そう、冷たいんだ」


 コズエは当然のように「冷たくて美味しい」というが、彼らが使っている水筒は真空保温ボトルでもなければ魔法瓶水筒でもない、ただの水筒なのだ。


「たとえ水筒に氷水を入れていたとしても、今頃は常温に温まっているのが普通だ。水筒を触っても冷たいなんて感じないだろ。なのに飲んだミント水はまるで氷入りみたいに冷たいんだよ」

「そういえば……」

「サツキちゃんがミント水を作るときに、無意識に魔法を使ってる可能性が高いと思わないか? 水だけに作用しているから水属性。単純だけど、当たってるような気がする」


 コウメイはリブオーラの実の選別を続けながら、魔法に興味津々の二人に魔力を意識する方法とそれを上手に使うためのコツを教えた。コズエとサツキは選別もそっちのけで、魔力を捉えようとコウメイの言葉通りに練習を繰り返していた。そしてアキラとヒロが布包みにいっぱいのリブオーラの実を持ち帰ってきた頃には、サツキは魔力で水を生み出し、操作できるようになっていた。


「見て、お兄ちゃん。私も魔法が使えたの!」

「私も魔法が使えるようになりたいけど、ダメだった~」


 満面の笑みで駆け寄ってきたサツキを、アキラは笑顔で「よく頑張った」と褒めた。残念ながらコズエに水属性の魔力はなかったようで、ヒロに慰められ、気持ちを切り替えようと頬を手で軽く叩いた。


「なぁ、アキ。近々全員で魔法の訓練をしないか? 俺だと水以外の魔法は教えられないんだ」

「……そのうちに」


 不機嫌さを隠そうともせずに短く曖昧な返事をしたアキラは、ヒロを連れて再びリブオーラの木を目指して歩いていった。


「なんかアキラさん、怒ってませんでした?」

「怒ってたねぇ、俺に」

「コウメイさんに?」


 にやっと笑ったコウメイは、申し訳なさそうに目を伏せるサツキを気にするなと励ました。


「あれは、俺がサツキちゃんに魔法を教えたのが気に入らないんだよ」


 コウメイの思い出し笑いが大きくなってゆく。


「アキはサツキちゃんに自分で教えたかったんだよ。それを俺が横取りして、しかもサツキちゃんは嬉しそうに魔法の水球を操ってただろ。俺にムカついてても喜んでる妹を褒めないわけにはゆかないし、どうにもならなくてああいう不貞腐れた態度になったわけ」


 面白いよねぇ、とコウメイは笑っているが、サツキは申し訳なさに頭を下げるしかない。


「お兄ちゃんがすみません」

「……シスコン」


 ぽそりとこぼしたコズエの一言に尽きた。


 なお、リブオーラの実の採取に不機嫌なアキラに付き合わざるを得なかったヒロは、夕食後にコズエから一連のアレコレを聞かされて、嫌そうに頬を引きつらせた。


「あの二人、めんどくさいな」


   +++


 リブオーラの実が箱台車に積めなくなるほどに収穫できた時点で、五人は街に戻ることに決めた。途中に拾った薪とともに先に貸家に帰って荷物を降ろし、コズエとサツキがギルドへ銀狼の皮と牙の納品に向かった。コウメイは油を入れるための壷を買いに商店街へ向かい、アキラとヒロは中庭に乾してある洗濯物を取り込み、かまどに火を入れて深鍋で湯を沸かし始めた。


「ただいま~」


 コズエとサツキがギルドから戻ってきた。


「お帰り。早かったな、ギルドは空いてたのか?」

「まだ七の鐘が鳴ったばかりだからね、ほとんど人はいなかったし」

「今日の収入は千四百五十ダルでした。みんなの分は夕食の時に渡しますね」


 二人は玄関に敷かれたマットの上でブーツを脱ぎ、コズエの作ったスリッパに履き替える。階段下には簡易の収納場所がつくられており、武器やリュックを置いていた。


「二人とも、お湯が沸いてるから先に汚れを落としなさい」


 台所から顔を出したアキラが女の子二人にそう声をかけた。

 洗い場には井戸から汲んできた水の入った桶と、沸騰寸前のお湯の入ったタライが用意されていた。


「ありがとう、お兄ちゃん」

「ありがとうございます。お先に洗い場使いますね」


 貸家に移って一番変わったのは風呂だ。湯につかれるのは休養日だけだが、毎日身体を洗い汚れを流せるようになったのはありがたかった。

 コズエたちの後にヒロが風呂を使っている頃、コウメイが荷物を抱えて戻ってきた。


「リブオーラの実はまだ洗っている最中だ。まだ半分くらい残っている」

「助かる。後は俺がやるよ」

「私達も手伝えることありますか?」

「それじゃ洗い終わった実の水気を拭いてくれるか。ヒロは拭いた実をその樽に半分くらい入れてから潰してくれ」


 実を水洗いして汚れを落とし、水気を拭いて樽に入れる。すり棒で潰す作業はかなりの力仕事だ。


「ハンドミキサーとかフードプロセッサーとか、無いのはわかってますけど、欲しいっ」


 十リットルほどの容量の樽が三つ、両足の間に挟みこんでリブオーラの実を潰し続ける。


「地味な作業だな」


 風呂上りのアキラが作業中の居間に戻ってきた。


「コウメイ、これを潰してからそっちの布袋に入れて絞ればいいんだな?」

「ああ、搾り汁をあの鍋に溜めておいてくれ」


 風呂に入ってくるとコウメイが空けた場所にアキラが入り、樽を抱えるようにして座った。


「フードプロセッサーか……」


 樽の中を見つめて考えたアキラは、両手を樽にかざして魔力を放った。


「威力は弱めて、柔らかいものだけが切れるくらいに……」


 樽の中でリブオーラの実が刻まれ潰されていく。ペースト状になるまで十数秒ほどしかかからなかった。


「……魔法って、こういう使い方もできるんですか?」

「魔力の量と発動の規模を調整すれば、ある程度は便利に使えるぞ」


 魔法と言えば攻撃魔法としか思っていなかった三人には新鮮な光景だった。


「サツキとコズエちゃんはこれを移して。ヒロは絞る」


 アキラの魔法プロセッサーにより、山ほどあったリブオーラの実は全てペースト状に変えられ、きめの細かい綿布袋に入れて絞られる。


「うーん、油に見えませんね?」

「茶色い水なんだけど、これホントに油になるんですか?」

「いやよく見てみろよ、なんか油っぽい物が浮いてないか?」


 最初の鍋に入れた搾り汁が分離して、透き通ったうわずみ液が層を作っていた。ためしにスプーンですくってみると、それは茶色がかった油だった。


「えらく作業が進んでないか?」


 風呂を終え顔を出したコウメイは驚いていた。一晩かけてするつもりだった作業のほとんどが既に片付いている。


「アキラさんの魔法プロセッサーが大活躍だったんですよ」

「搾り汁を入れる物が足りない。鍋か樽はないか?」

「オイル部分だけ瓶に移し変えましょうよ」

「搾りかすの処分はどうする?」


 夕食も忘れての試行錯誤の作業は楽しかった。九の鐘が聞こえてくる頃には流石に空腹を感じ、休憩することにして、出来立てのリブオーラ油をつかって魔猪肉をソテーした簡単な夕食を食べた。


「脂っこいけど、しつこくない!」

「パンにつけても美味しいです、この油」

「香りはオリーブオイルとは違うな」

「このオイルがあればドレッシングのバリエーションが増えそうだ」


 山ほど集めてきたリブオーラの実から取れたオイルは壷二つ分、三リットルあるかどうかという量だ。


「植物油の値段が高い理由がわかったなぁ」

「これだけの労力かかるのに、たったこれだけなんだもん、仕方ないよね」

「動物脂は簡単にたくさん取れるからな。俺らにしたら無料みたいなもんだ」

「コウメイさん、この油を少し分けてもらえませんか。ちょっと作りたい物があるんです」


 何を作るかは秘密です、成功したらおすそ分けしますね、と言ってコズエは小瓶にオイルを分けてもらっていた。


   +++


 オイル搾りの作業に一区切りつけてコウメイは寝室に上がった。

 明日も狩りだ。どうせなら銀狼を数頭狩りたい。銀狼を発見できなくても、魔猪ならカルカリの木をいくつか探せば見つけられる。ついでに魔法の訓練を兼ねた狩りにしてみようか。


「なぁ、アキ。明日はコズエちゃんとヒロにも魔法のレクチャーしてみようぜ。早めに魔力の有無をハッキリさせたほうがいいだろうし」


 魔法を戦闘に使うのか使わないのか、それを決めておかなければ今後の鍛え方も違ってくるだろう。


「どう思う?」


 コウメイの問いかけに声は返ってこない。


「寝てんのか、アキ?」


 隣のベッドを見れば、既にアキラは枕に顔をうずめて眠っていた。

 アキラは寝起きは悪いくせに、寝落ちはとてつもなく早い。


「……明日の朝でいいか」


 朝食を取りながらのミーティングで確認しても間に合う話だ。それよりもせっかく手に入れた植物油を美味く食事に取り入れたい。


「あー、植物油ってことは、卵があればマヨネーズが作れるじゃねぇか」


 新鮮な卵と植物油があれば料理の幅も広がる。

 次の休養日には市場で卵を買おうと考えているうちに、コウメイも眠りに落ちたのだった。



美味しいものを食べるための努力は苦にならない5人です。

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