表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第1部 created my life

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/197

ナモルタタルの街 9

ナモルタタルの街 9



 ハリハルタでのスタンピードの情報は途切れながらもナモルタタルにも届いていた。毎朝ギルド会館で討伐情報を確認し、求められる薬草を採取に行く日々が続いていた。


「ハリハルタへの配達依頼があるのね」


 届ける品は大量の回復薬と治療薬だ。


 掲示板にその依頼を見つけたとき、サツキの手が伸びかけた。自分では力不足だと知っていても、依頼という大義名分の誘惑にくらりと迷ったのだろう。コズエが声をかける前にサツキは手を引っ込めて唇を噛みしめていた。


「今日はユルック草の茎とユーク草が不足してるみたいだよ。群生地は少し遠かったから急がないとね」


 元気づけるように明るい声でそう言ったコズエに、サツキが小さく謝った。


「コズエちゃんだってヒロさんを心配してるのに、私だけこんなんじゃだめだよね、ゴメン」

「別に、私、ヒロくんの心配はしてないよ」

「嘘つきね、コズエちゃん」


 サツキに睨まれてコズエは誤魔化すように視線を逸らせた。


   +


 数日前、やっとヒロの武器を購入出来るだけの金が貯まったのだが、剣を購入した直後にヒロは一人でギルドの臨時依頼を受けて街を出てしまっていた。

 渓谷で閉鎖された街道に臨時の関所と監視小屋が置かれ、そこで許可のない者の通行を制限したり、ゴブリンが北上してきた時のナモルタタルへの連絡要員の仕事だ。コズエが反対する暇もなかった。


「薬草は二人で十分だし、角ウサギも俺がいなくても狩れるようになってるじゃないか」


 薬草採取に関して言えば、コズエたちはエキスパートになりつつあった。それぞれの薬草の群生地や再生サイクルも把握しており、複数の群生地を順番に回って必要な薬草を効率よく採取できている。もちろん採取の合間に角ウサギを狩るのも忘れない。弓や槍の扱いにも慣れ、狩りの成功率も格段に上がっている。だから自分がいなくても二人が食いっぱぐれる事はないはずだとヒロは断言した。


「危険じゃないの? ゴブリンがきたら戦わなきゃいけないんでしょ?」

「街道を封鎖してる柵の開け閉めとか、櫓に登って遠くを監視する仕事だ。戦うための冒険者はちゃんといるそうだ」


 ハリハルタの討伐隊に比べれば安全すぎるほどに安全な仕事だとヒロはコズエを宥めた。


「それにサツキさんが言ってただろう、出来る事をしっかりやることが結果的にお兄さんの助けになるかもしれないって。自分に出来る事とやりたい事が一致しているなら、行動した方かいいだろう?」

「ヒロくんのやりたい事ってなに?」


 コズエにそう問われたがヒロは言葉を濁して答えなかった。そして四日前には同じ依頼を受けた数人の冒険者と一緒に街を出発した。以来、朝と晩に銀板の赤い印を確認するのがコズエの日課になっていた。


   +


「嘘じゃないわよ。私、ヒロくんのことはそんなに心配してないもの」


 ゴブリン討伐に比べれば、街道の監視と管理なんて安全すぎる仕事だ。ギルド職員のエドナも危険性の低さは保証してくれている。


 コズエがサツキを励ますのは、後ろめたいからだ。

 この世界は電話やメールやSNSで簡単に連絡をとれる日本とは違う。手紙は相手に届くのに七日以上かかるのが当たり前だし、居場所の分からない人と連絡をとることはほぼ不可能な世界だ。日本でもずっと一緒だった幼馴染と離れた不安、連絡をとりたくても気軽に出来ないもどかしさ、銀板の赤印で存在を確認できる事にどれだけ救われるのか、コズエは当事者になって初めて実感したのだ。


「謝らなきゃいけないのは私だよ。サツキが彰良さんを心配する気持ちを分かってるつもりになってた。でもヒロくんが一人で依頼を受けて、スマホの赤い印だけでしか存在を確かめられなくなって、やっとサツキの気持ちがわかったなんて、酷いよね」


 親しい人が近くに居ない不安、生死の確かめられない不安、辛いと思っていたし不安だろうし心配で眠れなかったろうと想像はできた。でもそれがどれくらい辛いのかはわかっていなかった。


「酷くないわよ。コズエちゃんは分かろうとしてくれてたでしょ? ヒロさんも、こっちに来るまでほとんど面識なかったのに、気遣ってくれたし協力してくれたし。どっちかというと我がままを押し通してる私の方が酷いと思うわよ?」


 サツキはぽんぽんとコズエの肩を叩いた。


「ここで二人してゴメンナサイ合戦しててもお金にはならないわ。今日の分の採取を終わらせましょう」


 不足している薬草を供給することが今の自分たちに出来ることなのだから。


「ヒロさんが戻ってきたときにビックリするぐらいお金を貯めておきたいわ。二人でも食べるくらいはできるだろうなんて言われたけど、食べるのなんて余裕で、たくさん稼いだのよって自慢してやれるくらい貯めたいと思わない?」

「そうだね。私たちだって角ウサギは狩れるし、薬草採取はサツキの独壇場だし、ヒロくん居なくても余裕だったよって自慢しよう!」


 薬草の群生地についてはサツキが熟知しているし、数日前から角ウサギとの遭遇率が高くなっており、身体の大きな個体も増えて狩りやすくなっていた。


「小さな箱台車(トロッコ)を借りていこうか?」


 冒険者ギルドで貸し出している箱台車は、五十センチ四方の木箱に車輪をつけた簡素なものだが、狩りの獲物を運ぶためには便利な道具だ。女二人で複数の獲物を持ち帰ることを考えればレンタル料と保証金を払っても余裕で利益が出る。


 昨日は角ウサギを四羽狩り、肉を持ち帰るのに苦労した。スタンピードが発生した事で触発され魔動物も増えて居るのだそうだ。角ウサギとの遭遇機会が増えた理由を知って少しばかり複雑だったが、このチャンスを活かさずしてどうすると二人は前向きに思考を変えた。


「無理はしないわよ」

「もちろん。深追いは無しで。ケガは不経済だもん」

「そろそろ野生の果実も終わりそうだし、見つけたら採取しましょう」

「夕食のデザートね」


 気持ちを高めるため、二人はことさら明るい声を出していた。


   +


 コズエとサツキは八の鐘の鳴る少し前に箱台車を押して街に戻ってきた。


「ブルーベリーが残ってて良かったよね」

「半分くらいは鳥に食べられてたけど、二人分のデザートにはなるわ」


 前々から目をつけていた果樹は少しタイミングが遅かったらしく、完熟した実は鳥についばまれていた。多少齧られたりしていても食べられそうな実は全て採取してきた。もちろん薬草もたっぷりと。魔猪を見つけたがコズエたちではとても相手できない。そっと逃げ出した。トラント草の群生地にはもれなく角ウサギの群れがいた。身体の大きな個体を狙って狩った。


「薬草は二割増しで百五十六ダル、角ウサギの角と皮が三百ダル、肉が百ダル」

「箱台車あると沢山運べていいね~」


 二人で担いで戻るなら角ウサギは三羽が限界だ。薬草や果実のような採取物もあれば担げるのは二羽がせいぜいになる。だが箱台車があれば五羽の角ウサギでも余裕で持ち帰れる。


「レンタル料の三十ダルを差し引いて五百二十六ダルが収入です」

「宿代を引いても結構な額になるわね。乗合馬車の料金ももうすぐ貯まりそうだよサツキ」


 スタンピードが終わればすぐに行動しようと、交通手段や費用などを調べ、いつ、どういう方法で、いかに安全に移動するのかを二人は相談しあっていた。


「渓谷の監視小屋から新しい情報はありますか?」


 報酬を受け取ると二人はエドナに声をかける。討伐の進捗状況や監視小屋に変化は無いのかを尋ねるのだ。


「渓谷に異常はなし、ハリハルタの討伐部隊は予定のペースで攻略を進めています。順調すぎるくらいです」


 順調だというのにエドナの口ぶりは浮かないものだった。


「大暴走の討伐計画は数ヶ月遅れることもざらなのです。そのために補正予算も組まれておりますし。それが当初の計画通りに進んでいるというのはかなりの早さです」

「早く終わるのは良いことですよね?」

「良し悪し、ですね。補正予算が不要となればギルドは助かります。けれど早期終結となりますと得られる魔石の数が大幅に減りますから、収益の点から見れば困るんですよね」


 スタンピード中に生まれた魔物から得た魔石は魔力量も高い。それを大量入手できるのだからギルドとしては周囲に被害が及ばない程度に長引かせたいらしい。


「今回の討伐隊の中にスタンピードで足止めされた『赤鉄の双璧』のメンバーが参加しているのがかなりの要因でしょうね。思っていた以上に早々に終結するかもしれません」

「赤鉄の双璧……?」


 コズエがこっそりと「患ってる?」と呟いたのをサツキは聞き逃さなかった。


「大陸でも有名な冒険者グループです。通常パーティーは四、五人から多くても十人程度で結成されますが、赤鉄の双璧は五十名を越える冒険者の集団です。その一部がハリハルタに滞在していたらしく、討伐にも参加しているおかげでとても順調なのだとか」


 そういってエドナは深いため息をついた。


「強い冒険者が討伐に加わっていたら戦力的に助かるんじゃないですか?」

「戦力という面ではとてもありがたいのですが、あのグループに支払う報酬を考えると……お宝も半分は権利を主張しそうですし。ハリハルタのギルド長は頭が痛い事でしょうね」


 スタンピード=人類の危機、と思っていたコズエは拍子抜けしていた。ゴブリンが大発生して街道は封鎖され、危険な討伐任務に多くの冒険者が集まって戦っている、そんな血なまぐさい事態なのに、エドナに聞かされる裏事情はどうにも金の臭いと音がする。


「……ギルドも色々大変そうですね」


   +++


 ナモルタタル南の渓谷に作られた関所は静かだった。スタンピードの起きた森はさらに南に遠く、通行制限がなされているため商隊の馬車も旅団も、定期運行の乗り合い馬車も、金のない徒歩で移動する冒険者も居ない。懸念していたゴブリン北上の気配もない。


「ナガヒロ、門を開けろ」


 監視小屋の櫓の上にいた当番からの指示で門戸脇に待機していたヒロは、大きな閂を抜いてま新しい門戸を開けた。ハリハルタから走ってきたと思われる荷馬車が少し手前で止められ、通行証を検められている。少しのやり取りの後、荷馬車は門を通過してナモルタタルへと走り出した。再び門を閉めて閂をかける。今日のヒロの仕事は閂係だ。


 渓谷でのヒロたちの仕事は、街道の封鎖と関所の管理、観察櫓からのハリハルタの監視だ。たまに現れる魔獣の討伐は休憩中の冒険者たちの小遣い稼ぎだ。


「注目!」


 係りを交代し食事を食べていた冒険者たちを集め、ギルド職員が連絡事項を伝えた。


「ハリハルタのゴブリン討伐は予定以上に進んでいる。三日後に一回目の核への一斉攻撃を実施するそうだ。三日あけて二回目、三回目と攻撃を重ねる計画だ」


 ゴブリンの大発生が確認できてからまだ一ヶ月も経っていない。これほど早く核への攻撃を実施できるのは異例の早さだとギルド職員は言った。


「核への攻撃が始まれば、ゴブリンの噴出は激しくなる。防衛線を越えてゴブリンが北上する可能性もあるので、監視は怠るなよ」


 渓谷の関所をまとめているのは、ヒロらの武器訓練を指導した職員だ。ヒロが監視員としてやってきた初日、彼は気安く声をかけ女の子二人はどうしたのかと問うた。


「お嬢ちゃんらを置いてナガヒロが一人でこっちに来るとは思わなかったぜ。何かあったのか?」


 ナモルタタルには珍しい堅実な新人冒険者たちのことは、ギルド職員一同で見守っている。


「新しく武器を買ったので、使いこなせるようになりたくて俺だけこっちに」


 暇を見つけてギルドの訓練に参加していたが、自分の武器での実戦となると経験はゼロだ。ヒロはスタンピードが終わった後のことを考えて、角ウサギよりも強く凶暴な魔獣を相手に剣を使いこなせるようになっておきたかった。そのために監視員の仕事を引き受けたのだ。


「なるほどなぁ。じゃあ空き時間に訓練に付き合ってやるぜ。魔獣狩りの実戦指導もしてやらぁ。そのかわりナガヒロの体術を俺に教えてくれ」


 櫓の監視員、閂係、飯炊き係り。この三つがゴブリン討伐経験のない冒険者に割り振られた仕事だ。交代で務めながら、空き時間に森の中での実戦訓練を繰り返した。


   +


 封鎖された街道を通るのは、支援物資を輸送する馬車と、ハリハルタからの連絡員くらいだ。だがその日に街道を北上してきたのは、十五名ほどの冒険者を乗せた馬車だった。


「逃走って様子はねぇな。重傷者か?」


 スタンピードの討伐に参加した冒険者は、所定の条件を満たさない限り討伐地から離れることはできない。スタンピード核への一回目の攻撃があった直後だ、ハリハルタでは対処できない重傷者が運ばれてきたのかもしれないと監視小屋に緊張が走った。


 関門で止められた馬車に乗っているのは、熟練冒険者たちだと一目で分かる風貌の男たちだった。


「スタンピードが、終結しただと!?」


 錆色の髪の屈強な冒険者と話をしていたギルド職員が驚愕の声をあげた。


「たった一回の攻撃でスタンピードの息の根を止めたってのかよ」

「俺たちは先を急いでいるものでね。ハリハルタのギルドに代わって先触れがてら先行してきた。確認してくれ」


 手渡された勘合板を確認し、錆色の男と話をつめていたギルド職員はヒロを呼んだ。


「赤鉄さんたちは街に入らずにアル・テタルに向かうらしい。馬車に同乗してギルドにこれを届けてくれ」


 ヒロはハリハルタのギルドから託された勘合板と丸め蝋印を押された羊皮紙の束を受け取り、自分の荷物ごと馬車に乗り込んだ。


 赤鉄の双璧というパーティーメンバーの乗った馬車は、街道を疾走していた。土を固めただけの街道は轍や石があり決して平坦な道ではない。ゆっくり走るならまだしも馬車が壊れそうな勢いで走っている。ヒロは木枠にしがみついてなんとか身体を起こした。馬車にはヒロと同年代から四十代くらいまでの男たちが乗っていたが、全員が無言で跳ねる馬車の揺れに耐えていた。喋れば舌を噛みそうな揺れだ。


 ヒロが馬車に乗ったのは昼飯前の時間だったが、疾走する馬車が渓谷と森を抜けナモルタタルへの分岐に差し掛かったのは午後も早い時間だ。街で鳴らされている六の鐘の音が街道まで聞こえていた。普通の馬車なら半日かかる距離を四時間足らずで走り抜けるという強行軍だった。


「ギルドへの伝達、頼んだぜ」


 錆色の髪の男はヒロを馬車から降ろしてそう言うと、返事も聞かずに走り出した。


「おっさん、よっぽど急いでたんだな」

「……まだ揺れている気がする」


 ヒロと供に分岐で馬車を降りたのは若い二人の冒険者だった。フードを深く被った方は荷物から薬草の葉らしいものを取り出し口の中に放り込んでいる。


「あんたたちもナモルタタルか?」


 同じくらいの年齢に見えるが、既に熟練と言っていい雰囲気が二人にはあった。 


「街壁は見えてるから迷うことはねぇし、俺らは少し休んでいく。急いでんだろ?」


 スタンピードの終結情報はギルドが待ち望んでいるはずだ。街道沿いは魔獣も出ないし昼間なら盗賊の心配もない。ヒロは二人に軽く頭を下げ、街に向かって走り始めた。

 身体に残る馬車の揺れも走っていればすぐに違和感は消えた。列のできている門で勘合板を見せ優先して街に入りギルドまで走った。


 冒険者の少ない時間帯のギルド会館は閑散としていた。受付で勘合板を見せるとすぐにギルド長が現れた。


「これを預かってきました。スタンピードは終結したそうです」


 蝋印を確認したギルド長はヒロの言葉に顔を上げた。


「終結だと? まだ一ヶ月しか経ってないんだぞ?」


 信じられないと呻きながら蝋印を破り手紙を読んでヒロの言葉が嘘でないと分かったのだろう。何度も首を振りながら息を吐きぶつぶつと何かを呟いていた。


「すまないが、エドナを呼んでくれ」


 ヒロはギルド長室を出て一階へ降り、いつもの席に座るエドナにギルド長の伝言を伝えた。


「コズエさんたちはまだ帰っていませんよ」


 エドナはヒロが尋ねたかった事を先に告げて二階へ上がっていった。


 手紙と伝言を渡し終えればヒロの仕事は終了だ。渓谷の監視員の仕事もスタンピードが終結したのなら終了になる。宿に帰る時間でもない、疾走する馬車に揺られたせいで食事も今はしたくない、どうせならコズエたちが戻ってくるのを待つかと、ヒロはギルドの待合スペースに腰を降ろした。


「ぬるい、な」


 水筒の水は生暖かい。渇いた喉を潤すには十分なのだが、サツキの作ったミント水を飲みなれているヒロには、ただの水は味気なくて物足りなく感じられる。渓谷の仕事は充実していたが、唯一不満だったのは飲み水だった。サツキの真似をしてミントのような葉を採取して水筒に入れてみたが、ミント水とは全く違うものが出来てしまった。青臭いだけの水は飲めたものじゃなかった、そんなことを思い出していると、ギルド職員の動きが活発になってきた。


 ゴブリン討伐隊の臨時受付カウンターだった場所に大きな板が立てかけられた。板に直接書かれているのは、スタンピードが終結したという宣言だ。それを見た冒険者は残念がったり喜んだりと人により反応は違う。討伐隊の受付カウンターは、そのままスタンピード関連仕事の報酬精算カウンターになっていた。渓谷やハリハルタから冒険者たちが戻ってくるのはまだ先になる、空いている今のうちにとヒロはカウンターの職員に話しかけた。


 渓谷まで戻る必要はなく、伝言を持ち帰ったことでヒロの役割は終えた形になった。その場で報酬の精算を済ませる。


「薬草の買い取り価格も通常に戻るのか」


 コズエやサツキが知ったら残念がるだろうか。いや、街道封鎖が解かれると知れば喜ぶのは間違いないだろう。


「安全を確認して街道が開かれるのは三日後なのか」


 ヒロは思い立ってギルド会館を出て、街門の近くにある馬車乗り場に向かう。近くに居た御者にスタンピードが終わったこと、三日後には街道が開放されると知らせ、南向きの乗合馬車の再開はいつになるかを尋ねた。


「それなら用心棒の手配さえつけば、三日後の朝一番から出発できるぞ」


 街の宿は南街道の開放を待つ旅人でいっぱいだ。増便も必要になるだろうと御者は早速手配に動き出す。


 コズエたちと合流するなら宿よりもギルドの方が早いだろうと思い、第一便の乗合馬車に仮の予約を入れてからヒロはギルドへ引き返した。大広場まで戻ったところで、北門から帰ってきたらしいコズエたちを捕まえた。二人がかりで角ウサギを何羽か入れた箱を引きずっている。


「ヒロくん! 戻ってたの?」

「おかえりなさい」


 無事を喜んでくれた二人から箱台車を引くロープを受け取りギルドに向けて歩き出す。


「スタンピードが終わった。三日後に乗合馬車の便が再開するそうだ」

「!!」


 ヒロの言葉を聴いてサツキが弾かれたように振り返った。


「乗合馬車の第一便に仮予約を入れてきたが、良かったか?」

「ありがとうございますっ」

「ヒロくん、すごいっ」


 すぐにでも今日の獲物を精算し、宿に戻って旅立つ準備をしたいと三人の足は速くなる。


「ヒロさんならもっと落ち着いてからにしろって言うと思ってました」


 嬉しさを隠しきれていないサツキ。


「それなのに馬車の予約を取ってくれてて、驚きました」

「しばらくは冒険者が残党狩りするから街道は安全だって言ってたし、これ以上我慢する必要もないと思ったし」


 うんうんとコズエが隣で力強く頷いていた。自分たちはこちらの世界に閉じ込められている。もとの日本には帰れないし、何処に行けばいいかも分からない。行きたい場所はあっても、移動できるだけの力がなかった。けれど今なら。


 ギルドの査定窓口で薬草と角ウサギを納品し伝票を受け取った。表に回って精算カウンターを目指す。三人の報酬を管理しているのはコズエだ。ギルド職員とのやり取りをしている間、残った二人は待合場所で待っていた。

 待合所には狩りから戻った冒険者たちが少しずつ増えていた。


「あれは」

「どうしました?」

「あの二人、渓谷から一緒の馬車に乗ってきたんだ」


 ヒロが示した場所には、汚れくたびれた衣服の冒険者がいた。マントも汚れているが、顔や髪に汚れはなく、髭も剃られていて清潔感がある。ゆるくウェーブのかかった癖のある前髪、人の良さそうな笑顔だが笑っていない目。もう一人はフードを深く被っていて顔は分からない。


「まさか……浩明、さん?」

「サツキさん?」


 この街で知り合った冒険者であるはずがない。彼らはハリハルタからやってきた冒険者だ。だがサツキの声に反応して彼が顔を上げた。


「咲月ちゃん?」

「咲月!?」


 隣にいたマントがフードを脱いでサツキを振り返った。


「お兄ちゃん……っ」


 フードをぬいだ冒険者の顔を見るなり、サツキはその男に突進した。




やっと合流できました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ