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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第5部 秘められた島/岐路

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お取り寄せは慎重に


 星の日、島に着いた定期船からギルドを通じて冒険者たちが注文した品が、次々と運び出されている。武器と装備を手入れに出していて森に入れないコウメイたちは、ギルドで臨時に雇われ荷運びや検品に仕分けての荷造り、配達仕事に忙しく働いていた。


「金華亭です。注文の品を受け取りに来ました」

「いらっしゃいタラ。リストの品物はここにまとめてあるわよ。検品終わったら表の箱台車でいいのよね?」


 ギルドロビーに作られた臨時の売店ではコズエとサツキが冒険者たちの相手をしていた。糸目の中年やマッチョのスキンヘッドから品物を受け取るよりも、女の子二人に対応してもらった方が何倍も買い物が楽しいと冒険者達には好評だ。


「青い疾風だ、届いた品物はどれだ?」

「少しお待ちくださいね……青い疾風さんのご注文は六番札の箱です。注文リストと照らし合わせて間違いがなければ、アレックスさんのところで受領のサインをお願いしますね」


 受領確認が終わればそれぞれが荷物を運び住処へと戻ってゆく。


「あれ、忘れ物だ」


 二番札のスペースに残っている箱の品名を確認したコズエは窓から大声で呼びかけた。


「黄金の戦斧さーん、キャロライン二号を積み忘れてますよ~」

「うわあぁぁぁぁぁぁーっ」


 町に向って移動を始めていたパーティーが猛ダッシュで戻ってきて、箱に収められたままの愛人人形を抱え、逃げるように去っていった。いい年をした男達の顔は赤と青で複雑な色をしていたし、ギルドに集まっていた面々は生暖かい微妙な視線で彼らを見送った。


「金髪の等身大人形か……どこに飾るんだろう。飾るならもっと小さい人形の方がいいと思うんだけどなぁ」

「着せ替え用の洋服の注文が無いようですけど、大丈夫なのかしら?」

「お、大人にも、い、いろんな趣味の、やつ、居んねんっ」


 カウンターテーブルに突っ伏したアレックスが笑いを堪えきれず悶絶していた。幸いなことに今回の船便で届いた商品の中に、キャロライン二号以外に気まずい荷物はない。受け取りに来た冒険者たちは胸を撫で下ろしつつ、そそくさと手続きを終わらせて荷物を運び出してゆく。


「なあお二人さん、次の星の日も手伝うてもらえると助かるんやけど」


 アレックスの提案に男たちがざわめいた。


「いいですよ」

「こういうお仕事も楽しいですよね」


 にっこりと微笑んで了承した二人を見て、冒険者たちの多くが次に向けての注文書の見直しをはじめた。男にとっては必需品だが、少女二人に知られたくない気まずい商品をリストから外しにかかっている。


「精算を頼む」

「り、リロイさん、その大量の毛皮は?」


 臨時カウンターの前に立った髭もじゃ大男と背負った毛皮の束に圧倒され、サツキの声が裏返っていた。どすん、と台に置かれた毛皮は十枚や二十枚ではない、獣の種類別に束ねられたそれはおそらく百枚以上はあるだろうか。


「あの、この毛皮、どうすればいいんでしょうか?」

「すまんすまん、出荷の受付はこっちやねん」

「出荷?」


 アレックスの指示でサツキが大量の毛皮の検品手伝いに入った。束を開いて枚数を数え、違う種類の物が混じっていないかを確かめて元の束に戻す作業だ。


「リロイはな、冒険者が持ち込む毛皮とか角とか爪とか牙とか、ウチが買い取ってへん素材を引き受けて、下処理して出荷しとるんや」

「あの……リロイさんって大工さんでしたよね?」


 髭もじゃのリロイは熊のような容貌に人懐っこい笑みを浮かべた。


「職人ギルドには大工で登録してるね。島にある建物は全部俺が建てたんだよ。けど家が建ち終わったら大工は暇だろう、皮の下処理は冒険者時代に経験してたから小遣い稼ぎにはじめたら、いつの間にかこっちが本業みたいになってね」


 魔法使いギルドが買い取らない魔獣の毛皮を端金で買い取り、主に防寒用の毛皮としてギルドを窓口に島の外へ売っているのだそうだ。


「皮の買い取りしてもらえるんですか?」

「悪いけど、かなり安いよ?」


 具体的な値段を聞くと、リロイは銀狼の毛皮の買い取り価格が角ウサギ程度の値段だと言った。


「ロビンが防具の修繕に使う皮のなめしもやってるし、最近は毒角とか牙とか糸袋とかの素材まで持ち込まれて色々するようになってね、自分でも大工っていうより何でも屋だなぁって思うよ」


 雑談しながらの検品が終わり、出荷票を確認した後、リロイは前回の売上代金を受け取った。


「リロイさん、あとで椅子の修繕に来てください」


 購入品の検品を終えたタラがリロイに大工仕事を依頼した。


「昨晩、酔っ払いの喧嘩がありまして、また椅子の足が折れました。夜の営業までに何とかなりますか?」

「足なら先週予備で作った足が残ってるからすぐ直るよ」


 本業は暇だと言う割りには、数日おきに金華亭から椅子やらテーブルやら扉やらの修繕依頼が入るようで大工仕事も忙しそうだ。


「購入品の照合終わりました」


 魔法使いギルドの購入物資をチェックしていたアキラは、考え込むようにリストを何度も確認し、アレックスに疑問をぶつけた。


「薬草の購入が多いように思うんですが」

「ああ、それは錬金薬の材料やねん」

「わざわざ取り寄せるんですか?」

「ディックが採取する分でまかなえんのやから仕方あらへん」


 ナナクシャール島では錬金薬の消費が激しい。冒険者たちは一日森にいると最低でも一本、大物に遭遇すれば五、六本は確実に消費して帰ってくることになる。錬金薬師のディックが毎日薬草を採取しているが、必要量の錬金薬を作るにはとても足りない状態だという。


「他の魔術師たちは採取に出かけないのですか?」

「グレンは見たまんま脳筋やし、ハロルドは魔石の事は多少わかっても薬草はあかん」

「あなたは?」

「ワシ? ワシはここの責任者やで。職員を管理するんが仕事や」


 職域を忠実に守っていると言うべきか、たんなる昼行灯なのか。


「俺たちが薬草を納品すれば、錬金薬の値段を下げることは可能ですか?」

「せやな、仕入れの経費は確実に浮くし、ディックも錬成作業に専念できるんやったら在庫も増えるし、購入制限もかけんですむようになると思うで」


 現在武器と防具を手入れに出しているアキラたちは暇を持て余している。薬草なら外灯結界に近い付近でも十分に採取可能だ。武器のない自分たちの暇つぶしにはもってこいだろう。ついでに自分たちの食料調達もすればいい。


「今回仕入れたのと同じ量を納品できるとしたら?」

「魔力回復薬三本、治療薬五本と交換でどうや」

「魔力、治療を各六本で」

「各五本。これ以上はまからん」

「……わかった」


 商談成立。


「あ、そやそや、忘れとったわ」


 アレックスは私的に購入した品の中から無造作に一枚の布キレを取り出して振って見せた。


「これ虹魔石の魔力を遮断する布なんやけど、いくらで買うてくれる?」


 糸目をさらに細くして、にっこりと笑うアレックスの完全勝利だった。


   +++


「というわけで、昼からは森へ薬草採取に行くぞ」


 ギルドの手伝いを終え、金華亭での昼食の席で、アキラがパンを千切りながら言った。


「吹っ掛けられたんだな?」

「アレックスさん、腹黒いですもんね」

「布切れ一枚にいくらだって?」

「……錬金薬三十本分の薬草」


 薬の材料は錬金薬師の腕によって異なるが、島にいるディックは治療薬一本を作るのにセタン草を二十枚、ユルックの茎を五本、ヤーク草を十二枚必要としているそうだ。


「まあ薬草は外灯結界の近くでも採取できるんだろ。他の冒険者が採取しねぇから競争はねぇんだし、狩りに出れねぇ間は薬草採取でいいんじゃねぇか?」

「賛成」

「薬草採取なんて久しぶりよね。うまく見分けられるかな」

「そこはお兄ちゃんに教えてもらえば、ね」


 結界に近い場所とはいえ森は危険だ。コウメイとシュウに警戒に立ってもらい、残る四人で採取する事に決まった。


「薬草は丸一日かかるものじゃねぇし、釣りしようぜ、釣り」

「釣り道具ありませんよ?」

「ギルドの糸目が持ってるのを借りればいい」


 魔石の納品にギルドを訪れても結構な頻度で職員不在な事がある。扉も窓も開けっぱなし、カウンターは空っぽ。周囲を探してみれば、アレックスが桟橋で釣りをしている。限られた利用者しか居ないギルド当番が暇なのはわかるが、さすがにサボりが過ぎるだろう。


「あんたたち、釣りもするのかい?」

「魚が食べたいんで、釣れたらいいなーって程度っすよ」

「海に行くならおばけ貝の採取を頼めるかい? 砂浜と桟橋の間の海中にいるこれくらいの貝なんだ」


 マーシャが両手を使って自分の顔ほどの大きさの円を作って見せた。


「美味いのか?」

「美味いよ。肉厚の貝柱はプリプリしてるし、貝紐は魚醤をからめて煮ると最高の肴になるね」

「引き受けた」


 即断のコウメイだった。


   +


 ナナクシャールの森は魔素に満ちている。その影響は魔獣や魔物を強く生み育てているが、植物に対しても同じように影響を及ぼしていた。


「このあたりは治療薬用の薬草が多いな。サツキはセタン草を、コズエちゃんはヤーク草を採取してくれ」

「俺はどの薬草を採ればいいですか?」

「ヒロは向こうのサフサフ草の根を頼む。少し離れているから周囲は十分に注意してくれ」


 シュウはコズエとサツキの近くで魔物を警戒して立ち、コウメイはアキラと共に薬草の群生を探して歩く。


「改めて見ると、薬草の育ちが良すぎねぇか?」


 それほど詳しくないコウメイから見ても、この森の薬草の成育具合は異常だ。


「薬草は魔素の強い場所に根を張りやすい。この森なら群生場所を探してまわらなくてもいいから助かる」


 コズエたちが見える程度に離れた場所で魔力回復薬用のエラム草とフェイタ草の群生を発見した。アキラがしゃがみこんで採取を始めると、コウメイは剣を抜き警戒にあたった。


「……やはり、濃いな」

「なんだ食ったのか?」


 フェイタ草を咀嚼しながらアキラは計るように魔力を意識していた。


「食えばだいたいの事はわかる。薬草汁にした時も感じたが、この島の薬草類は治療や回復の成分が多い」

「それで錬金薬の出来が違ったりするのか?」

「さあ? 納品時にアレックスに聞いてみるか」


 質を統一するなら少ない薬草量で錬金薬が作れそうだし、使用する薬草の量を調整しなければ効き目の高い薬が作れるのではないだろうか。素人考えでふとそんなことを考えたアキラだ。


「こっちは採取終わりましたよ」


 コズエとサツキが袋の口が閉まらなくなるくらいに薬草を詰めた袋を持って合流した。


「一応、いつものように間引く感じで採取したんだけど、それでも採り切れないくらい生えててびっくりです」

「こっちも冒険者ギルドの基準よりも太いものが多くて、引き抜くの大変でした」


 ヒロは人参ほどもある太さのサフサフ草の根を束にして背負っていた。どこかの畑で根菜を収穫してきた農夫にしか見えない。


「エラム草の採取を手伝ってくれ。俺はタメリスの蕾を探してくる」

「タメリス? 紫色の蕾のこと?」

「そうだ。魔力回復薬には必須の材料だが、春から夏にかけてしか採れない稀少なものだ。季節的にはそろそろ採れなくなる」


 数日前から真夏に近い気温になってきた。暑さに弱いタメリスが花をつけるのはせいぜいあと数日しかないだろう。他の薬草の状態を思えば、蕾にどれほどの薬効を貯えているのかと期待も大きくなる。アキラはその場を四人に任せ、群生地を目指した。

 タメリスが花を咲かせるのは木々のまばらに生える日当たりのよい場所だ。木々を見あげながら光の強い場所を目指して進み、木漏れ日のあたる草地を見つけた。


「おお、確かに紫色だ」


 満開の小さな花を見てコウメイの表情が綻んだ。


「なんか魔物の森には似つかわしくねぇカワイイ景色だよな」


 森の中にひっそりと広がった花畑、メルヘンだ。

 アキラは膝をついて花を確かめ残念そうに息を吐いた。


「ほとんど咲いてしまっているな」

「咲いたら駄目なのか?」

「タメリスは開花と同時に空気中に魔力を放出するんだ。濃度が高まった蕾の状態が回復薬に最も適していて値段も高い」


 花を掻き分けて葉の下に隠れた残り少ない蕾を探し、一つ一つ丁寧に摘み取ってゆくアキラを横目で見ながら、コウメイは腰の剣に手を置いた。愛用の長剣は手入れに出しているため、予備のブロードソードだが、障害物の多い森ではこちらの方が使い勝手が良かった。


「花に集まる虫ってったら、やっぱ蜂だよな」

「蝶や天道虫の可能性もある」

「蝶は毒鱗粉だし、天道虫は硬くてすばしっこいし、蜂は毒針だよな」


 コウメイはゆっくりと剣を抜き、中段に構えた。

 アキラも採取した蕾を袋にしまいこみ、短剣を抜いて立ち上がる。


「どれだと思う?」

「天道虫希望。毒鱗粉は吸い込むと厄介だし、針は痛てぇ」


 アキラの耳に聞こえている羽音は激しく細かなものだった。


「花を踏み荒らすなよ」

「それ難易度高すぎねぇか?」

「できない事をやれとは言わない」

「はいはい、頑張りますよ、っと」


 猛スピードで真正面から向ってきた巨大な昆虫生物を叩き落した。

 ガキン、という硬質な音と手ごたえ。

 ソフトボールほどの巨大な天道虫がタメリス草に埋もれるように落ちていた。アキラが素早くひっくり返し短剣で刺し貫く。


「ラッキー、毒じゃねぇ」

「花を荒らすなと」

「踏んでねぇだろ」

「叩き落すなら花を避けて落とせ」

「……難易度どこまで上げる気だよ」


 コウメイはタメリス草の群生を飛び越えて巨大天道虫のやってきた方向に踏み込んだ。

 巨大天道虫はまるでカブトムシのように硬い。ものすごい勢いで襲い掛かる天道虫を切りつけるが、外骨格に傷をつけるのは難しかった。


「いてぇ。天道虫のくせに噛み付きやがったぞ」


 赤地に黒い星の入ったいわゆるナナホシテントウがコウメイの腕に噛み付いていた。服地の上からなのでさほどの傷ではないが、地味に痛い。

 腕を振り上げてコウメイが叩き落した天道虫をアキラが外骨格の隙間から刺した。


「一般的に天道虫は肉食だぞ」

「マジか?」

「アブラムシなんかの害虫を農薬で駆除する代わりに天道虫を使う農法を聞いたことはないか?」

「あるようなないような」


 趣味がベランダガーデニングのアキラと、料理が趣味のコウメイでは知識の偏りがあっても致し方ない。


「コウメイ! アキラ!」

「お兄ちゃんっ」

「大丈夫ですか?」

「怪我してませんか?」


 こちらの戦闘の気配を察知して四人が駆けつけたときには、既に天道虫との戦闘は終わっていた。花ではなく獲物を狙ってやってきた巨大天道虫は十匹ほどで打ち止めだ。コウメイはそのまま警戒を続け、アキラは巨大天道虫の転がる花畑でタメリスの蕾採取を再開している。


「おう、もう終わってるぜ」

「丁度いいところに。蕾を探すのを手伝ってくれ」


 紫色の小花の咲き乱れる花畑の中に、巨大な天道虫があちこちに散らばり、その中で花を摘む青年。目に飛び込んできた光景に四人から緊迫感が飛散した。


「でけー天道虫」

「メルヘン、ですね?」

「シュールだ」

「違和感があるような、ないような……」


 虫とはいえ魔物が出たのだここに長居はできない、ヒロとシュウは花畑を踏まない場所で警戒に立ち、コズエとサツキは蕾の採取を手伝った。


   +++


 本日の薬草納品により、コウメイたちは魔力回復薬と治療薬を各五本手に入れた。


「半日たらずでこんだけ集めよるとはなぁ」


 アレックスは薬草の束を数えながら感心と呆れの混じった声でアキラに言った。


「あんたやったら薬草だけで大儲けできるんとちがう?」

「初心者の妨害してどうする」

「島外ではそやけど、ここやったら他に薬草集めるやつはおらんし、手ぇ空いたときの納品でええから別途で依頼だしてええか?」


 森に出る日々が戻ってくれば薬草を採取する余裕はない。休養日に余裕があれば、という条件でもかまわないという事だったので、期限なしの条件で引き受けることになった。


「魔力遮断の布にはまだ足りへんし、あと数日頑張ってえな?」


 ひらひらと目の前で赤い布を振られたアキラは、引きつりながらも辛うじて笑顔に見える表情を作り「俺は闘牛じゃない」という言葉を飲み込んだ。


「ちわっス。アレックスさん、注文のリストができたっス……って、サツキちゃんっ」

「こんにちは、ノーマンさん」


 島に滞在している冒険者パーティーはコウメイたちを含めて八つ。ノーマンは比較的若い冒険者六人組の一人で、ギルドや金華亭で顔を合わせる時には親しげに話しかけてくるうちの一人だ。


「どどど、どうも、っス」


 板紙を振り回しながらロビーに入ったノーマンは、カウンター前にいるサツキたちを見てぴたりと動きを止めた。掲げていた板紙をそろりそろりと下ろして背中に隠し、満面の笑みが硬直し、冷や汗がたらりと流れ落ちた。


「ホンマにええタイミングやなぁ」


 アレックスは含んだような笑みを浮かべ手招きをし、注文リストを出すようにとノーマンを促した。


「い、いや……混んでるようだから後にするっス」

「ごめんなさい、私たち邪魔してますね」

「私たちの用事は終わったからどうぞ」


 引きつった顔で後ずさる青年に、サツキとコズエがカウンターの前をあけてどうぞと促した。「せっかく女の子がこう言うてんやから、遠慮せんでええやろ」とアレックスは面白がってニヤニヤしている。進退窮まれり、だ。ノーマンは板紙の記述面をサツキたちに見えないようにして糸目のギルド職員に手渡した。


「間違いあらへんか確認するで」

「いや、確認しなくていいっス」

「そういうわけにはいかんやろ、書き写しながら確認するわ。間違いあったらちゃんと訂正入れや」


 ギルドでのお取り寄せ通販は、パーティーや個人からの注文リストをギルドが書き写し、互いに間違いがないかを確認して署名したリストを交換、商品が届くのを待つシステムだ。


「靴下三足、下着四着、砥ぎ石、磨き油一瓶、蜜酒二瓶、イヴォンヌの」

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ」

「なんやねん、間違うとったんか。ほなこれは削除でええな」

「違っ」

「削除やないんか?」

「い、いや、その……じゃなくて、その」

「注文品はイヴォンヌの細手、でええんか?」

「……ハイ、ソウデス」


 突然の大声に驚いて振り返ったサツキは、顔が赤くなったり青くなったりと大変な形相のノーマンを心配そうに見ていた。


「突然叫んで、どうしたんでしょう?」

「耳は真っ赤なのに、血の気引いてて顔色悪いよね?」

「背中が汗で塗れてるようなだけど、病気なのかしら」


 純粋に心配する二人とは逆に、注文の正体に気づいた男四人はノーマンには生暖かい同情の視線を、アレックスには厳しい非難の視線を向けていた。


「むごいな」

「あれはないわー」

「……」

「性質悪すぎる」


 眉間を押さえたアキラが二人を呼んだ。


「サツキ、コズエちゃん、通販リストは立派な個人情報だ、ここに居て聞くのは失礼になる」

「あ、そうですね」

「ゴメンなさい」


 二人はノーマンに会釈してギルドを出て行った。




※イヴォンヌの細手

スライム素材で作られた弾力のある美女の手。好みの形状へと形を変えることも、固定する事も可能。ヴァニラ商会の人気商品。千八百ダル(送料別)。

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