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新しい人生のはじめ方~無特典で異世界転移させられました~  作者: HAL
第5部 秘められた島/岐路

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殴打武器、色々


 朝食後、ロビンの店で武器を受け取った六人は、外灯の結界を越え森に入っていた。


「まずは新しい武器の慣らしだ。あんまり深くまで入らないからな」


 魔物の探索のため先頭はアキラだ。コウメイ、ヒロ、コズエ、サツキと続き、しんがりがシュウだ。耳を澄ませながらゆっくりと進む歩みは、他の冒険者たちよりもかなり遅い。後から結界を越えてきたパーティーに、追い抜きざまにあざ笑われながらも、コウメイたちはゆっくりとしたペースを保って森を進んでいた。


「左方から二体」


 アキラの声にコウメイとヒロが踏み込んで剣を構えた。

 三人の背後を守るようにコズエとサツキが位置取りをし、シュウが後方からの襲撃に備える。


「オークだ!」

「でかいぞ」


 ナナクシャール島のオークは今まで屠ってきたものより二周りほど巨体だった。だが脚の短さは殆ど変わらないため、互いが同時に駆け出してもこちらに分がある。


「風刃」


 先行したアキラがオークの脚を狙って複数の魔法を放つ。威力は特に変えていなかったせいか、オークの脚に直撃するも足止めにはならなかった。


「こいつも頑丈なんだなっ」


 たたらを踏んだオークへとコウメイが追い討ちをかけた。低い位置から払うように長剣を振るう。オークの巨体が前のめりに倒れた。


「コウメイっ」

「うおぉ」


 もう一体のオークが振り下ろす剣を、辛うじて小盾で受け止めたコウメイは、横に跳び流した。


「ええいっ」


 転んだオークの後頭部めがけ、サツキがメイスを振り下ろした。頑丈なオークの頭蓋骨を割る事はできなかったが、脳震盪を起こしたようでヒクヒクと痙攣して起き上がれない。


「もう一発だ」

「はい!」


 両手で持ったメイスを振り上げ、同じ場所を狙って叩きつけた。

 狙いがはずれたが、上手く延髄に直撃したのか、折った手ごたえがあった。

 サツキを下がらせたシュウが、折れた首を斬って確実に息の根が止まった事を確認した。


「くそ、重い」


 コウメイが避けた後、巨体に掴みかかったヒロだが、重すぎて身動きが取れなくなっていた。脇の下の腹部にかぶりついているためオークもヒロを振り払いにくいが、ヒロも足を払いたくても膨らんだ腹が邪魔で届かない。


「そのまま捕まえててくれ!」


 助走をつけたコウメイは、オークの背後に飛びかかった。ロビンに手入れされ切れ味が増した長剣を、体重ごとオークの肩に叩きつける。

 肩の皮膚が斬れ、骨を折った。


「ちっ、やっぱ固いな」

「このオーク、剣なんて持ってるんですね」


 一旦オークから離れたヒロは、オークが振り回していた剣を見た。錆びて鈍らのようだが、重量はコウメイの長剣よりもありそうな大物だ。そんな剣を片手で軽々と振り回していたオークだが、コウメイに折られた肩はぶらりと垂れ下がっている。

 吹き出る血を撒き散らしながらオークは動く腕を振り回し暴れていた。


「動きを止めるぞ」


 アキラの作り出した水球がオークの鼻と口を塞いだ。

 呼吸を阻害する水を引き剥がそうと手が口元を掻いた。酸素を求めて巨体を震わせ、足取りが覚束なくなっていく。すでにオークの目にはコウメイたちは映っていない。


「サツキちゃん、脚を狙え」

「はいっ」


 メイスで動いている魔物を狙うのは初めてだ。地面すれすれを這わせ、ゴルフのスイングのようにオークの足を狙って打ち上げた。ぐらりと傾いだ巨体をヒロとコウメイが蹴り倒す。回り込んでいたシュウが剣先をオークの心臓に狙い定めた。


「潰されんなよ!」


 倒れ掛かる巨体の自重で剣先は簡単に心臓を貫いていた。押しつぶされる寸前に抜け出たシュウは血に汚れていた。


「怪我はないか?」

「全部オークの血だよ」


 二メートル近い豚が転がっていた。美味しい魔物肉だとわかっていても、解体する手間と時間はない。


「サツキ、シュウに水を出してやって血を落とさせろ。コウメイとコズエちゃんは魔石の回収。ヒロは警戒だ」


 テキパキと指示を出したアキラも、新たな魔物がいないか神経を張り詰め警戒にあたった。


「なあ、アキ。こいつらを囮にできねぇかな?」

「囮?」

「撒き餌って言ったらいいか、ほら前に解体後の廃棄部位で銀狼をおびき寄せた事あっただろ。オーク肉の臭いに他の魔物が集まってくるんじゃねぇかと思ってさ」

「探す手間が省けるのは楽でいいと思うぜ」

「どうせ持ち帰れないオーク肉だもん、有効活用したいよね」


 シュウもコズエも乗り気だが、アキラは難しい顔で首を振った。


「ゴブリンの二、三体ならまだしも、上位種やヘルハウンドなんかが大量に集まってきたらどうするんだ。とても俺たちでは対処できないぞ」

「安全な場所で様子見できねぇかな?」

「そんな場所がどこにある?」

「あの石は持ってきてねぇの?」

「結界の魔石か? 持ってきたが、この森ではほとんど効果はないと思うぞ」


 魔力の質量とも、森の魔物が持つ魔石が上だ。プロの作った結界ならまだしも、素人の自分の作った弱い結界など、魔物たちに簡単に見抜かれ破られるだろう。アキラがそう言うとコウメイだけでなくシュウやヒロも残念そうに息をついた。


「ほら、早く魔石を取り出して、死体を埋」

「アキ?」

「……やべー」


 コウメイを促していたアキラが気づきサツキの腕を引いた。ひと呼吸遅れてシュウも迫る気配を察知し、焦りを浮かべた。


「逃げるぞ!」


 叫んだアキラの声と同時に、オーク脇の地面が動いた。ポコリポコリとまるで湯が沸くように地面が膨れたかと思うと、巨大なミミズがその口を開けオークの死骸に食い付いていた。


「ワームか?」

「くそ、こっちにもいるぞ」


 オークの死骸を取り囲むように次々と地中から姿を現した。


「木の上に逃げるんだ!」


 蛇は木をのぼるが、ミミズはのぼれない、はずだ。

 六人はそれぞれ手近な木に登り避難した。


「でっけー口で食ってやがる」

「ミミズ……なんですか? 芋虫っぽい感じもしますけど」

「芋虫は土に潜らないだろ」

「どっちでもいいけど、こいつらの食事が終わるまで動けそうにないですね」


 ワームの食事風景は、噛み付くというよりも吸い付くといったほうが相応しかった。人間の頭をひと飲みできそうな大きな口でオークに吸いつき、唾液と思われる溶液で肉を溶かしては千切って飲み込んでいる。


「全部食いきるまで結構な時間がかかるぞ」

「食事が終わる前に他の魔物が寄ってきたりして?」

「コズエちゃん、それフラグになるからやめよう」


 コウメイはワームの口の数を数えた。


「全部で七つか。普通のワームは討伐に苦労しない昆虫系魔物だったんだが」

「間違いなく強くなってるだろうな」


 アキラは風刃を七つ作り出した。手の上に保ちながら魔力を注いで強化してゆく。


「外したやつにとどめを頼む」

「了解」


 枯渇寸前まで魔力を搾り出したアキラは、風刃に注ぎ威力を高める。ワームに向け、順番に風刃を放った。


「うおっ、切れ味いいなー」

「即死四、瀕死二、一匹は弾き返しました」

「アキは魔力の回復、ヒロは二匹にとどめ刺せ、シュウは俺と無傷のをやるぞ」


 それぞれが武器を手に木から飛び降りていった。

 落下の勢いのまま切りかかったコウメイだが、ワームの表皮は弾力があり、切れ目は入れられたがそこで止まった。


「うげー、これ強酸とかかよ?」


 ワームの吐き飛ばした液を避けたシュウは、液のかかった腐葉土がジュワっと嫌な音をたてるのを見て慌てた。わずなか飛沫が付いただけでも皮膚が溶かされそうだ。


「普通のヤツは臭いだけの液を吐いてたよなー」

「殺傷力上がってるのか」

「狙いはそんなに正確じゃねーから、避けるのは難しくねーけど」


 シュウが粘ってワームの意識を引きつけ、コウメイが地味に刻んでゆく。二十ほど斬りつけたところでやっとワームが絶命した。


「休んでる暇はないぞ。早く魔石を取り出せ」


 剣を支えに息を整えている二人にアキラの叱咤がとんだ。二人がワームと戦っている間に四人で魔石を回収し終えていた。コズエが死体の真下に穴を掘り、埋める作業を淡々と進めている。のんびりしていてまた他の魔物に囲まれるのだけは避けたいと、コウメイは慌ててワームから魔石をほじり出した。


   +++


 昼過ぎに一度町に戻った六人は、軽く食事をしてから再び結界を越えた。


「休憩のたびに町まで戻るのは効率が悪いな」

「仕方ないですよ、この森で休憩なんて取れませんもん」


 ナナクシャール島の魔物は探さなくても寄ってくる。エンカウントした魔物を屠れば、血の匂いをかぎつけて新たな魔物が寄ってくる。島の魔物を余裕で倒せるだけの力があれば効率が良いのだろうが、コウメイたちの今の実力では難しかった。


「しばらくは浅いところで経験を積むしかねぇな」


 虹魔石はより強い魔物からしか得られない。そして強い魔物は、森の奥深くだ。ソロで一日中森で活動できるほど強くとはいわないが、強化された魔物を軽々と屠れる程度に強くならなければ、とても虹魔石には届かない。


「ゴブリンだ、四体」

「先手取れねぇのが痛いぜっ」

「大穴、いきますっ」


 向うのではなくゴブリンたちが近づくのを待つコウメイらの前に浅く広い穴が開いた。三十センチほどの段差ができただけでゴブリンらは次々に躓いてゆく。


「ナイスタイミング!」


 足の速い三体が折り重なるように転倒し、遅れていた四体目が仲間の背を踏んで穴を飛び越える。跳んだ勢いのまま錆びた剣をコウメイに向けて振りおろした。


「腹ががら空きだ」


 思いのほか高く跳んだゴブリンの腹へ長剣を叩きつける。

 頑強な皮膚が切れ血が噴出した。


「水膜!」


 落とし穴で転んだゴブリンたちが起き上がる前に、サツキがゴブリンたちを覆うように水の幕を張る。薄く広い水膜は呼吸を止める効果はなかったが、ゴブリンたちは突然の水に怯んで動きが鈍くなった。その隙に刺し、斬り、折る。


「魔法がかみ合うと上手くいく感じだな」

「魔力の方は大丈夫か?」

「今くらいのなら余裕がありますよ。深い落とし穴だとタイミングが難しいんですけど、さっきくらいの浅い穴なら魔力の発動と同時に凹ませられるみたいです」

「あとは連続で落とし穴掘って、どれくらい魔力が持つかだな」

「検証してみるしかないな」


 落とし穴をそのまま深く掘り下げゴブリンたちの死骸を埋めてその場を離れた六人は、遭遇する魔物にコズエとサツキの魔法を試し戦い続けた。

 

   +


 大毒蜘蛛二匹、黒大蛇一匹、銀狼三頭を相手にコズエとサツキの魔法を魔力切れ寸前まで試し、その日の狩りを終えた。休む間もなく魔物と遭遇し戦った六人は流石に無傷ではなかったが、移動の合間に採取した薬草で治療できる軽症で町に戻ってこれていた。


「おまちどうさん、魔石の査定が出たで。全部で四千五百ダルや」

「内訳は?」

「これとこれが特大量の小魔石で、こっちの四つが大量、標準がこの十個、残りが小量やな」


 毒蜘蛛から得た魔石が最も魔力量が多く、銀狼の物が魔力量が最も少ないようだ。脳裏にメモを取りながらアキラは魔力回復薬と島の地図を購入した。今日の収入はそれで殆ど相殺されてしまった。


「やっぱり厳しいなー」

「今は先行投資だと思って我慢しておけ。そのうち収支はプラスにしてやる」

「ほぉ、強気やなぁ」


 島にやってきて最初の狩りで、大半の冒険者は自信を喪失する。同じ魔物なのに段違いに強い島の魔物には、それまでの戦法が通用しない。冒険者達は怯み、隙を生み、深手を負って町に戻ってくる、運が悪ければ一人か二人の死者を出して。傷を癒す間に魔物に対する恐れが大きくなり、結局戦えなくなって島を離れる冒険者は多い。だがこの六人は初日に島の魔物を複数屠って生還し、二日目には既に収支がプラスになるという見込みができている。このパーティーは長持ちしそうだと、アレックスは嬉しそうににんまりと笑った。


「アレックス、これ査定してくれ」

「なんや、また森にもぐっとったんか」

「暇だったからな」


 ギルド入り口から顔を出したスキンヘッドのマッチョ魔術師は、コウメイたちを見て強面には似合わないさわやかな笑顔で、血の染みの付いた巾着袋ごと手を振った。


「よお、順調そうだな」

「そうでもないですよ。ところでギルド職員も狩りに出るんですね」


 ソロで、しかも「暇だったから」と。暇つぶしで魔物狩りにでかけるとは。どれだけ強いのだろう、このマッチョ。

 グレンは魔石の入った袋をアレックスに手渡した。


「義務はねぇが、禁止もされてねぇしな。アレックスも魔術陣の検証に森にいくし、俺は飲み代稼ぎだな。ギルドからの給料は全額返済に回っちまってるからな」


 違法に魔道具の修理をしていた罪で高額の罰金を課せられているグレンは、その返済が終わるまでは給料は支払われないのだと、腕にはめられた輪を見せて笑いながら言った。


「……杖?!」


 コズエたちが驚いたのはグレンの腕輪ではなく、その手に握られていた武器の方だった。


「そういえばグレンさんは魔術師でしたね……」

「魔術師と言えば杖なんだけど」


 似合わない、という言葉は何とか飲み込んだ。

 グレンの服装は、長袖のシャツと布地の厚いズボン、銅製の胸当てに皮の籠手と膝当て、腰には解体用のナイフという、魔術師の杖さえなければどこにでもいる軽装の冒険者スタイルだった。


「グレンさんには剣とか棍棒の方が似合ってます」

「まあこのナリだからな。魔術師らしくちゃんと杖使ってるんだぜ」

「この杖、もの凄く太くないですか?」

「……重そう」


 この世界で一般的な魔術師の杖は木製の細いステッキに魔石をはめ込んだものだ。だがグレンの持つ杖は、コズエの腕ほどの太さの丸太に拳よりも大きな魔石がはめ込まれているものだ。


「軽いぜ、持ってみるか?」


 差し出されてコズエは作り笑いで遠慮した。マッチョなグレンが持つから軽いのであって、コズエやサツキでは両手で抱えなくては無理だ。しかしこんな杖で一体どんな魔術を使うのか、興味が湧いてきた。


「どんな攻撃魔術をつかってるんですか?」

「魔術じゃなくて、この杖だ。これで魔物を殴るんだよ」

「殴る?」


 まさかの物理攻撃。

 殴ると言われてよくよく見れば、魔石の部分や丸太に血痕が付着しているではないか。


「杖で殺ってるのかよ」

「その杖って、殴打用じゃありませんよね?」


 メイスを使い始めたサツキが恐る恐る問うと、グレンは「魔術師の杖だからな」とさも当然のように言った。


「俺は攻撃魔術は使えねぇんだ。だが補強魔術は使える。肉体と武器の威力を補強する魔術を使うには杖を装備しなきゃならねぇが、剣と杖を両方持って戦う器用さは俺にはねぇからな。攻撃力のある杖を特注したらギルド長からこれが送られてきてよ。魔物を殴り倒すのにちょうど良くて助かってるぜ」


 そんな雑談をしている間に査定が終わり、アレックスから五百三十ダルを受け取ったグレンは、美味い夕食と酒を求めてギルドを出て行った。


「用事終わったんなら場所空けといてくれへんか。そろそろ血みどろの荒くれどもが戻ってくる頃や」


 魔法使いギルド出張所の建物はそれほど大きくない。島にいる八つのパーティーの半分も来れば身動きも取れなくなりそうだ。

 アレックスに追い出された六人は、町へ向う道すがら魔法使いギルドの個性的な面々についての驚きを口にしあうのだった。


タイトルは思いつかなかったのでテキトーです。

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