第0話 ある街の
2019年 日本 どこかの街
深夜の街の裏道は、まるでコンクリートの茂みのようだ。
小さい頃は、暗闇には何かが潜んでいるんじゃないかとか、別の世界に繋がっているんじゃないかとか、そんなことを夢想しては勝手に怖がっていた。
今では平然と歩けるようになってしまったが。
大人になってゆくなかで、停滞してしまった日々は、少年の頃走り抜けていた日々と比べると、あまりにも無味無臭だった。
それでも
喉を通り抜けて行くコーラは、それなりに美味い。
コンクリートの裂け目から見える、真っ黒な空に大きな月が浮かんで、ただただ綺麗だ。
僕らの日々はつまらないながらも、ゆっくりと終焉に向かい、当然のように安らかに終わるのだろう、と心の隅ではなんとなく安堵していた。
ふと、視界の隅に、積み木が目に入る。
小さな鬼や虫達がそこに集っては、せっせと積み木を積み上げていた。 童話みたいで彼らは楽しそうだったが、臭いし、悪趣味な''積み木"だったので、そっとその方向に手をかざす。
手をどけると誰も居なくなっていた、そう、それは悪い夢だったのだろう。
ありふれた日々の中でも、僕らは何かに意味を見出し、綺麗なものを見て、それなりの人生だったと満足できたかもしれない。
「それなのに、どうして僕らの日々は変わってしまったんだい?」
目の前にいる、大きな蝿のような怪物に問いかける。それは、そこにただ在る、というだけで、世界を穢しているような、冒涜的なオーラを放っていた。
「どうして…か。君はそんなに幸せなボケな頭で怠惰な毎日を送っていたのか?この世界に、血が流れなかった1日など無い。いつも何処かでは誰かが苦しみ悶えながら死んでいるというのに、自分達の番になったら被害者面をするのだな。」
大きな蝿のような怪物に説教じみた口調で応えられたが、何も感じなかった。
「そっか、いや、どうでもいいんだけどね。ぼくは、せっかく生きていくなら綺麗なものだけ見て生きていたいんだ。」
「だから、さ。汚いものは全部消させてもらうよ。 いけるかい?◼◼◼」
いつの間にか、それに応えるかのように、光り輝く白い刃が青年の手に握られていた。
ありふれた味のしない幸せが、脳の片隅にパッと浮かんで、消えた。
全ての穢れを払えば、いつかまたあの日々に戻れるだろうか