輝きに導かれて
改稿しました。
公開後に申し訳ありません…
――それは、今から5年くらい昔。私がまだ12歳だった頃のお話。
夢見る女の子なら1度は憧れるアリスティア王国の王宮舞踏会。
キラキラと輝くシャンデリアの下、美しいドレスや宝石で着飾った紳士淑女が手を取り合って踊る。
夢の空間は隅々までも美しい。人目につきにくい窓際に置かれている花瓶でさえ、誰もがひと目見れば最高級品だとわかる調度品だ。
そんな華やかな会場から少し離れた庭園の隅に、私はひっそりと息を潜めていた。周りに人の気配がないのを何度も確認し、隠し持っていた袋を地面に置く。
「――皆、待たせてごめんね」
袋の口を開くと、甘い香りがほのかに漂い――その瞬間、ざわりと周りの気配が動くいた。
(――よかった、来てくれた)
赤・緑・黄・水色…と色とりどりの光が周りで瞬き、あっという間に集まった数十もの光たちは、我先にと地面に置いた袋からアイシングクッキーを持ち出しているようだ。
「ふふっ、そんなに慌てなくても、たくさん持ってきたから」
思わずくすりと笑うと、光たちも嬉しそうに舞い踊る。
やがて袋の中のクッキーが尽きると、空や花壇、噴水へと光たちは消えていった……。
「――今のは精霊…か?」
「っ!?」
いつの間にいたのか、身形の良い少年が目を見開いてこちらを見つめていた。
(どうしよう、今の見られた…!?)
慌てているうちにも、少年はこちらへ近づいてくる。
月の光に晒された彼の髪は艶やかで、顔立ちも整っており――所謂、美少年だった。声をかけてきた彼の方こそ、精霊の化身なのではないかと思うほどに美しい。きっと、高位の貴族の子息だろうか。
彼が誰であれ、見られたのは一大事だ。
この能力は口外しちゃいけないってお父様にキツく言われてるし、何て言って誤魔化そうか。そもそも誤魔化して何とかなるんだろうか――?
「……なあ、今のは精霊かって聞いてるんだけど」
中々答えない私に痺れを切らしたのか、少年にじいっと顔を覗きこまれた。純粋な興味の色を灯すまなざしに、どう答えていいのか分からず曖昧に微笑むことしかできない。
「答える気がないなら、いい」
機嫌を損ねたのか、彼は踵を返すと舞踏会の会場の方へ歩いていく。
――その時、ざわりと空気が震えた。
突然光たちが現れ、その気配は刺すような殺気へと変わる。
「な………っ!?」
「待って、傷つけてはいけない!!」
背後に違和感を覚えたのか振り返った少年に、光たちが襲いかかろうとして――叫ぶように光たちへ制止を呼び掛ける。
ぴたり。音がしたかと感じてしまうほど、同時に光たちは動きを止めた。
(よかった、間に合った……)
ほっと胸を撫で下ろすが、少年は怖かったのだろう。ぺたりとその場にへたりこんでしまった。
――この世界のありとあらゆるものは、精霊の力の上で成り立っている。大地の精霊、風の精霊、水の精霊、火の精霊の四大精霊たちが、世界のバランスを保ち続けてくれているのだ。
そして、その精霊たちの力を利用しようと、500年ほど前に“精霊魔法”と呼ばれる魔法が生み出された。魔法とはいっても万能なものではなく、世界の常識から外れたことは出来ない。精霊魔法を扱うには精霊と対話を行い、彼らの力を貸してもらう必要がある。そして、力を借りるには、借りた分に見合う代償を精霊たちに支払わなければならない。お手軽に……とは中々いかないものなのである。
しかし、ごく稀に代償を必要としないで精霊魔法を扱える人間がいる。精霊に愛され、心を許された存在。例えば私――シャルロット・アルヴィンもそうだ。
代償が要らないというのは、いわば精霊の力を際限なく借りることが出来るということなのだが、私の場合はそれだけではない。精霊たちの方から、“私のためだと思うこと”を自由に実行してしまうのだ。
精霊に、人間の常識なんてものは通用しない。私の不利益になると思えば、目茶苦茶に壊そうとしたり――今のように、害そうともするのだ。
「ごめんなさい。大丈夫……?」
少年は、うつむいたまま何も言わない。
ああ、また言われるのだろう……化物と。
とりあえず、身体に異常がないか調べようと近づいた時、少年がふと顔を上げた。思わず身を引こうとして――腕をとられる。
「――お前、精霊姫か」