番外編 SIDE 恩田香澄
「ふぅ~んここか…」
近衛騎士団の詰所前で扉を見上げた。
近衛と言えばイケメンの宝庫よね?チラッと聞いた限りではナジャガルでは近衛の入団面接では顔の審査もあるらしいし…。楽しみ…。何を隠そう私、某アイドルのファンなのだ…だった…と言うべきかな。もう18年会ってないし、ぶっちゃけもうオジサンアイドル?になっているだろうし…。カズくんの現在の顔を見るのが怖い。
今度異世界に一緒に行きましょうよ!と、葵さん達に誘われてるけど…行ってみたいような怖いような…気がする。親の安否も気になるし…自分の勤め先の現在とか…受け持っていた生徒の現在とか…気になり出したら切りがない。
「よしっ…」
意を決してイケメンの宝庫に足を踏み入れた。昨日奇しくもシューテさんにはお会いしているし、面識があるっちゃあるから、若干…あくまで若干だがシューテさんには話しかけやすい気がしている。
「お邪魔しまーす」
うわあ…イケメンオーラがっ…ま、眩しいっ。振り向いてこちらを見た私より少し年上っぽい男の子のご尊顔を見て眩暈がした。アイドル過ぎる…何これ?
「はい?あ…っ、君…」
そのイケメン君一号の声に詰所内に居たイケメンお兄様達が一斉にこちらを向いた。ぎゃああ…怖いっ…。ごめんなさいっ私メガネデブの享年32才なのよ…イケメンに対する免疫力は限りなくゼロなのよっ。
私は慌てて扉の影に隠れながら顔だけを出してイケメン君一号を見た。
「お忙しい所失礼致します。こちらに所属のジーパスさんかシューテさんはいらっしゃいますでしょうか?」
私が小声でそう言うと、イケメン君一号はパッと笑顔になった。
直視してしまった…いつ如何なる時も攻撃に対処出来るようになりなさい…とクリオお父さんから言われていたのに、直撃受けちゃった…目が痛い…。
「もしかして君、ゾアンガーデ中佐の奥様?」
「いっ…!と、とんでもないっ!あんな女優さんみたいな綺麗な方では決してありませんっ人違いでありますっ。私、昨日付けで軍属になりましたヒルデ=ナンシレータと申します!以後お見知りおきをっ」
私が捲し立てるように自己紹介をすると、イケメン達が物凄い勢いで私の前に走り込んで来た。死ぬっ死ぬっ…怖いっ…。
「本物だぜ…俺っ昨日鍛錬場まで見に行ったんだぜーーやばーっ近くでみるとすげーわ!」
「なんだこりゃ~!嘘だろ?!軍人なの?マジで…?!」
「ちょっ…フリオさんっ…押さないで下さいよっ!僕がお捜しのジーパスですっ18才です。独身です!」
何だか戸口で数人の近衛の方が揉みくちゃになっているけど、イケメン君一号がそのジーパスさんその人だったようだ。茶色の髪の鼻筋の通った人懐っこそうなアイドルがそこに居た。素敵…うん。合格と…。
私は早速ジーパスさんにミスターコンテストへの参加をお願いしてみた。ところが二つ返事でOKされてしまった。もっと渋られたり嫌がられるのも覚悟していたのに…。
「本当にお願いして大丈夫でしょうか?」
「勿論っ勿論!大丈夫!それでさ当日はヒルデが会場でお世話してくれるんだよね?」
ジーパスさんがチラッと綺麗な瞳で私の目を見詰めた。また目つぶしを受けちゃった…。慌てて少し下を向いた。
「はい、主催側ですので、不手際など無いように万全に…」
ジーパスさんが私の言葉を遮るように顔を近づけて来た。ぎゃああ…は、肌が綺麗…流石アイドル…。
「ねえ~参加してあげるから、ご褒美とかないの?」
「ほ…褒美ですか?えっと…」
しまった参加料とかかな?一日のバイト料だと木貨6枚?は安すぎるか…相場が分からない。
「よし、じゃあご褒美はヒルデとお付き合いしてもらうってことで!」
「おっ…?」
と聞き返そうと思っていたら近衛のお兄様達の歓声でびっくりしてしまい、何が何だか分からない!?オロオロしている間にシューテさんが詰所に来られたので、再び大歓声の中ご説明すると、シューテさんも食いつき気味に参加をOKしてくれた。そしてなんだかすごい歓声の中シューテさんも綺麗な顔を私に近づけてきた。怖い…。
「褒賞がヒルデだってぇ?!」
え?シューテさん今なんと言いましたか?聞き返そうとしたけれど、こんなにイケメンお兄様に囲まれるのは生まれて初めてなので…「失礼します、詳細はまた後日」と言い捨てて逃げてきた。
怖かった。子供達なら囲まれても怖くないけど、大人のイケメンズの集団は恐ろしすぎるわ…。
とにかく気を取り直して地方役人棟にお邪魔をした。そこでも若手イケメン役人二名に参加お願いをする予定だったんだけど…何だか私のアイドル審美眼からちょっと外れている方々も「俺も参加しますっ!」とか言い募られてしまったのだが…迫力が怖くて参加申込用紙を渡してしまった。
近衛の詰所でも怖くて参加申込用紙を撒き散らしてしまったけど…大丈夫かな…。
役人のイケメンさん達も二つ返事でOKしてくれた。この世界の人って人前に出て審査されるのに抵抗無いのかな…私は教壇の上とか、朝礼で生徒の前に出るのは平気だけど、教師の仮面を被れない所では人前で晒し者は無理だわ。
さて…残りは警邏の詰所か…。ここではルル=クラウティカ大尉とジャックス=ミラマ大尉の二名だ。ルル君を落とすなら先にジャックス兄貴を狙え!と葵さんに言われてきたけど正直、ジャレット君に頼んだ方が良かったかな。
警邏の詰所の扉の影から少し顔を出して「すみません…」と近くにいた方に声をかけた。
「はい?何か…あ…」
「あの…ジャックス=ミラマ大尉はおられますでしょうか」
私がそう言うと、声かけた警邏の方は
「うわわっ!コスデスタの軍人の子だぁぁ!」
と、詰所に響き渡る大声で叫んでしまった。詰所内に居た警邏のお兄様達が一斉に振り向いた。あ、ジャックス兄貴さんも居る。
「ジャッ…」
と、ジャックス兄貴さんを呼ぼうとした時、物凄い勢いで警邏のお兄様達が戸口に走って来たので、怖くて悲鳴をあげてしまった。
「きゃああっ!」
すると、背後にフワリ…と暖かい魔力を感じて私の前に物理防御壁が張られた。警邏のお兄様達がボヨンボヨン…と障壁に当たってたたらを踏んでいる。だ、誰?と思って後ろを見て驚いた。
「クラウティカ大尉…」
「大丈夫か?おい…怯えている。静まれ…」
ルル様(勝手に呼んじゃおう)が一振り手を払った後に魔法でも使ったように警邏のお兄様達は大人しくなった。虫よ、静まれ…状態だ。笛を隠し持っているんじゃないか?とルル様の手を見たのは結構本気だった。
「ジャックスに用か?」
「あ、はいっあ…ル…クラウティカ大尉にもお話がっ今月開催の花祭りで…」
「断る」
早っ!断り早っ!
「ミスターコンテストと言いまして…」
「出ない」
また早っ!すごく頑なだよ?!
「ルル~お前聞く前から拒絶するなよ…」
ジャックス兄貴さんが警邏のお兄様方を掻き分けて私の前にやって来た。
ルル様はジロリとジャックス兄貴さんを睨んだ。
「さっき、廊下でジーパスに会って話は聞いている、断る」
少し長いけど断り早っ!葵さんの言う通りだ…ルル様を落とすならジャックス兄貴を先に狙え!だ。
「ミラマ大尉、あの…お二人に断られてしまうと…私…」
ジャックス兄貴さんの後ろに警邏のお兄様達がずらーっと並んでこっちを見ている。こ、怖いっ…。
目が合うのが恐ろしくなって顔を逸らしながら参加申込用紙をジャックス兄貴さんにバッと差し出した。
「こちらが参加申込用紙です…お願いします。お名前書いて下さ…きゃっ」
用紙を持っていた手が引っ張られて、慌てて見ると参加申込用紙は警邏のお兄様達に毟り取られていた。何が何だか分からない用紙争奪戦みたいになっている。辛うじて一枚だけ参加申込用紙を手に握り締めていた。皺くちゃになったそれを震える手でジャックス兄貴さんに差し出した。
「お願いします、助けて下さい…」
もう男性の集団が怖くて怖くて…早く逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。なかなか受け取ってくれないジャックス兄貴さんに用紙を押し付けると「失礼します…」と言いながら逃げ出した。
もう…怖いよ~~。何アレっ!?なんであんなにガツガツ、荒っぽいの!?イケメンズも怖いけど厳ついのも怖いっっ!飛び出した廊下の先で男性に当たりそうになって、避けながら「ごめんなさい…」と呟いて猛ダッシュで第三の詰所まで逃げて帰った。
走り去る私の後ろの方でぶつかりそうになった男性が、警邏の詰所の中に向かって
「おいっ聞いたか?!なんでも花祭りの男の美醜を決める催しの優勝者はあのコスデスタの美人とお付き合い出来る権利が得られるんだって!俺も出るよ?え?何…ルル…怖いよ?何…?」
と何か叫んでいたけど恐怖で耳に入っていなかった…。
第三の詰所に戻ってサラーを飲んで、情けなさにどんよりと沈み込んでいると血相を変えたルル様とジャックス兄貴さんが飛び込んできた。
そして私の前にコンテストの参加申込用紙を突き出した。ルル様とジャックス兄貴さんお二人の名前がある…!思わず笑顔になってルル様とジャックス兄貴さんを見上げた。
「先程あんなに出るのを嫌がっておられたのに…どうして?」
ルル様の美麗な顔が私に近づいて来た。ち、近い。こわっ…目が潰れるっ。
「…大丈夫だから」
「そーだそーだ。俺らが一位と二位で独占しとけば大丈夫だからな。心配すんな」
一位?二位?で、出る前から優勝と準優勝狙ってます宣言っていうことかな?うわ…さすが警邏のイケメンツートップ。
チラリと横を見ると葵さんがサムズアップをしている。よく分からない…何故ルル様まで出てくれる気になったのか…。
まあ参加メンズに少しでも男前な方が増えると女性の賭けの申し込みも増えるかもだしね。お二人には目立って貰って賭け金ガッポガッポ作戦に一役買って頂きましょうかね。よしよし、二人確保…。
葵さんから頂いたイケメンリストの名前の横に○を書き込んだ。なんだかんだ言いながら、目を付けたイケメンさん達は全員参加してくれるようだ。あ、そうだ。
「葵さん、一般の参加者も募ってみましょうか?市民の皆さんにもご理解ご協力頂く為に…そうだ、商店街でチラシ配りましょうか!」
私がそう言うと葵さんは大喜びだった。
後日…何故かビラ配りにルル様とジャックス兄貴さんが付いて来てくれた。何だろう?まあ一人で配るよりは効率がいいか~それに「此方の方々は参加者です!宜しくね!」と宣伝も出来たし、女性達がきゃいきゃい言ってくれたし宣伝効果ばっちりよね。
よしーっ花祭りのコンテストの開催頑張るぞー!
因みにジーパス君はユタカンテの男性用化粧品を愛用していらっしゃるそうです^^




