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見守る隊再発足

初夏の誤字祭りをまた開催しておりました^^;

暑くてウザイのに誤字で更にイラッと暑さ倍増にさせてしまいましたこと

お詫び致します。誤字脱字のご報告助かっております。感謝です。


さて、生命の神秘に感動しつつも…いつまでもホッコリもしていられない。


「なっちゃんは第一部隊の事務のお手伝いにいってもらうけど、カスミンも一緒に第一にどう?実はパワーバランスを考えると戦力は分散したいのよ」


と、私が言うとカスミンは首を捻った。


「戦力ですか?」


「そう、第三はナッシュ様、第二はガレッシュ様…この二部隊はグローデンデの森周辺の巡回に数人のメンバーで討伐に行けるけれど、第一部隊は今だに100人規模の巡回なの。つまり、カスミンが第一部隊の隊員になってくれれば、万事解決…経費も浮いてガレッシュ様がニコニコよ。」


そう…守銭奴ガレッシュ様が第一部隊の100人規模の討伐人数にかかる経費をめっちゃ気にしていた。あろうことか


「俺が一人で行って巡回してくるかな~そのほうが経費かからないしな…」


と皇子殿下に有るまじき単独行動を示唆し出したので、ナッシュ様が何故か私にグチグチ言い出したのだ。なんで当の本人のガレッシュ様に言わないで私を通して言うのかな~。男兄弟の不思議だわ…。


「ぶっちゃけカスミン強いのでしょう?どう?包み隠さず教えてよ~。誰の次くらい強い自信ある?この際ナッシュ様よりイケてるぜ!でも問題ないわよ?」


するとカスミンは苦笑いを浮かべつつ「そうですねぇ…」と呟いた。


「多分真っ向勝負ではナッシュ殿下とガレッシュ殿下には敵いません。やっぱりパワーが違いますから…。隠密系の暗器で姑息な手段を使っていいなら殿下方に引けは取らない自信はあります。」


姑息な手段…何だろうか?ものすごく気になるけど企業?職業秘密?なような気がして聞けない。


「と、兎に角…じゃあ、カスミンは第一部隊に配属ね~ナッシュ様に言っておくわね。それと…事務系のお仕事も頼めるかな…実は今月末に開催予定の花祭りフェスに『ミスターコン』を開催しようと思ってて…。学校の文化祭とかで祭りに関して私達より知識があるかな~と、教師していたカスミンの手腕にかかっているというか…」


カスミンは笑顔になった。


「わ~花祭りとかあるんですね。ってミスターコン?ミスコンの男性版ですかね…。いいですよ。実は大学の時に学祭で今年度のクイーンとキングを決める投票の選考委員会の事務方していたので…」


おおおっ!大学のミス○○とかミスター○○!?カスミンはすごい戦力になりそうだ。


「まずは、花祭りにお越し頂いた方に投票用紙を配りまして…」


「ふむふむ…ああ、そうだ!実は一位予想の賭けもしたいの…え~と馬券みたいな感じに…」


「ははぁなるほど…では投票用紙とイケメン馬券の発行は売り場みたいなものを設置したほうがいいですね。コンテスト開催のポスターを作って街頭に貼りましょうか?」


ここにも…出来る先生、恩田香澄せんせがいらっしゃる…皆優秀で泣けてくるわ。


という訳で、まずはカスミンに出場してくれそうな(して欲しい)メンズのスカウトに行ってもらうことにした。私の独自調査のイケメンリストを手渡した。カスミンはリストをパラパラと捲って見てから、メモを取っている。そしてまずは攻略しやすそうな所から攻めるらしい。


誰だろう?と思っていたら成程、シューテ君とジーパス君らしい。ほぼ同い年だし頼み込めばOKだろうと思う~と意気揚々とカスミンは出かけて行った。


しばらくしてカスミンは戻って来たがゲッソリと…本当にゲッソリと疲れていた。


「どうしたの?大丈夫…?」


カスミンは体内から発光する魔力の明かりを豆球くらいの明るさまで落としている…ヨロヨロとした足取りで台所に入るとマグカップ(なっちゃんのプレゼント)にサラーを注ぐと私の分を持って来てくれた。


「はぁ…葵さんも未来さんもすごいですね…。私はイケメンズに囲まれただけで貧血起こしそうでした…死ぬかと思いました」


近衛の皆のことかしら?そんなに圧のある子達じゃないと思うけど…。


「ああ、そうか…葵さんも未来さんもノリさんも…先程来られたなっちゃんさんも皆さん異世界でもイケメンに囲まれてますもんね…。ううっ私、初めてイケメンズに囲まれて息も出来ないくらいですぅ…」


おおぅ?…た、確かカスミンは今でこそスーパーモデルだが、享年32才の時の容姿はあくまでカスミンの言葉を借りるなら、メガネをかけたポッチャリーナだったよね?しかも学校の先生だったら職場では教職員以外は親御さんか子供達ぐらいしか異性の接触は無い。


そりゃ自分と同じ年頃の男の子と免疫なくても仕方ないかな…。いやでもさ…カスミン今の姿、鏡見てみなよ?


「いやさ~カスミンもこの世界で18年生きてきて、男の子に言い寄られたなんていっぱいあるでしょ?」


カスミンはキョトンとしている。


「無いですよ?」


「なんだって?」


聞き間違いか?と思いおもわず、聞き返した。カスミンはまだキョトンとしていてもう一度「無いですよ」と言った。


詰所内に今居る、ジャレット君とコロンド君の驚愕の視線がキョトンとするスーパーモデルに注がれる。


「葵さんのおっしゃっている言い寄られたってナンパとかの事ですよね?そんなの一度も無いですよ。そりゃ子供の時は可愛いわね~とかぐらいは言われましたが、誰でもそれくらいは言われますよね?子供だから無条件に可愛い…と。ですから…う~んと、10才以降ですと…やっぱり容姿を褒められたことは無いですね。冒険者ギルドに行って仕事受けている時にかっこいいお兄さんとかいましたけど、私は一度も見られたりしたことないですし…はぁ…」


カスミンはサラーを一口飲むと大きな溜め息をついた。


これはおかしい…。どう考えてもおかしい。コロンド君と目が合ってコロンド君も頷いている。ね?おかしいよね?


はっそうだ!これは親御さんに聞けばいいんじゃない?私はコソリと廊下に出ると、廊下で窓の傍に立っているカスミンパパに近づいた。


「クリオ…」


「申し訳ありません、アオイ妃。すべては私の責任です」


クリオは膝を突いて頭を垂れている。どうしたの?クリオパパは消音魔法を張ると大きな溜め息をついた。


「これもまたうっかりしておりました。身元を悟られないように…特にあの子…ヒルデは目立つ外見をしていますので、人目を避けるように常に顔に幻術魔法をかけていた弊害がここに来て仇となっているようです」


「幻術魔法……ああ?!そうか…あの顔で外をフラフラしていた訳じゃなくて、幻術で違う顔に…」


「そうです。もう10年近くその方法をしているので、外に出ても誰にも注目されない。その…つまり異性から熱い目で見られたことがない。この状態に慣れているのです。当然自分がそういう視線の対象になるなど想像もしていないと思います」


そうか…はっきり言ってしまえば、享年32才までの異世界人の時もそう言う意味で異性の視線は集めてこなかったと思われる。そしてこちらの世界でも、色気づく前に逃亡生活がスタート。顔を変えているためにこれまた異性から注目を浴びること無いままで18才…。トータル50年近く異性から褒められたり、持ち上げられたりしたこと無ければそりゃそういう方面には鈍感にもなるってものよ。


これは危険じゃない?ホラよく言う…碌でもない男にモテたことの無い女性がコロッと騙されるアレよ…。


「クリオ…私に任せて。ヒルデには変な男を寄り付かせないようにするからっ。大丈夫よ、幸いにもうちの軍には親衛隊候補が沢山いるから!任せて!」


「しんえー?何ですか?」


「ああ、いいのいいの!兎に角、ヒルデの無垢な気持ちは私が守るから心配しないで!」


何だかちょっと何かがズレている気もしているが、ここにヒルデを見守る隊(仮)を発足しよう!そうしよう!


とか一人奮起していたら、もうすでにヒルデを見守る隊が発足していたらしい(後日談)


なんでも、今度の見守る隊の隊長は護衛騎士団の現団長アンティ=ドイルヒズマ様だ。なんでも騎士団に現れた美の化身に一目惚れをし、本気の懸想をしているとか…していないとか。


そしてジーパス君もシューテ君も勿論ヒルデの熱狂的守護者になっていた。二人に変なおっさん(アンティ含む)がヒルデに近づかないように厳重に見張れっと命令しておいた。


ヒルデは今日も見守られている。


いや、見守ってもらわなくても皇子殿下兄弟の次に強いであろう武人だ。でも心は無垢な乙女だ。うむ…。


「先輩、ドレスのデザイン画を描いて欲しい…って話はなっちゃんから聞いてます?」


未来が今月末に開催予定の花祭りの警備計画表を持って来て、そう聞いてきた。


「うん、昨日聞いた。なっちゃんと打合せしなきゃな~。あ、未来っ使ってゴメン!これカスミンに渡して来て~ミスターコンのイラこれでOKだって…。複写して書店と公所に貼らせてもらえるように…頼んでみてって言っといて!」


未来はポスターを見て嬉しそうだ。


「ミスターコンか!楽しみっすね~そういえば近衛からすごい人数が参加申込してませんか?人数制限設けましょうか?」


「あ、それはそのままでいいわ。カスミンが一般参加枠も作るから、一般市民は一次審査はシード扱いにして…逆に近衛や軍人枠の参加者は審査形式にして一度(ふるい)にかければいいって…。」


未来はますます嬉しそうだ。


「面白そう~なんでも『イケメンダービー』とか言って順位予想当ての券、明日からもう売り出すんでしょう?上手く行きますか?」


私も思わずニヤニヤしてしまう。


「なんでも参加者の名前と、職業と年齢のみを載せたポスターをダービー券売り場の横に貼りだしておくんですって。儲けは度外視であくまでお祭りの一環だからね。お店の代表で出れば店の宣伝も出来るし、一般枠もすごい勢いで参加が決まりそうなんだって~。でもね、私が思うに街頭でヒルデがビラ配りしたのも大きいと思うのよ。あの迫力美貌に渡されてごらんなさいよ。大概の男は受け取るわね」


未来はうんうん頷いている。


「しかし一番意外だったのがルル様が参加してくれたことですよね。どうしてなんだろう?」


そうなんだよね…意外にも最初は断固拒否していたのに手の平返した様にルル君から参加する…と言ってきたらしいのよね。ホントどうしたんだろう?絶対に断りそうなイメージなのに…。


まあいいや、大本命のルル君が出てくれたお蔭で場も盛り上がるってもんだ。


「あ~今月も忙しいわね。第一部隊の巡回討伐も明後日よね。でさ、マジでなっちゃんヤウエンに行くの?ジューイがめちゃめちゃ反対しているけど…?」


今日は怒れるジューイ様は警邏のお仕事で出張中だ。未来は苦笑している。


「なっちゃんも面倒見たがるタイプでしょう?ヒルデが泊りがけで男性隊員と行くのはダメだ!て言い募ったみたいで…料理番として非戦闘員でついて行く!と言い切ってますよね」


「なっちゃんがカスミンを守る会に入会してるって噂、本当だったんだ…」


「カスミンって体は大きいけど意外と内気じゃないですか~特に男性の前ではオドオドしていて…今までの経験不足と非モテ歴のせいで自信無いのがありありと態度に出ちゃってるのが、また庇護欲をそそる…となっちゃんが言ってましたよ」


なっちゃん…割とズバッと言うタイプなんだね。しかし魔獣の出るような所になっちゃん行って大丈夫かな…まあ第一部隊の熊さん達がしっかり守ってくれるでしょうけど…。


すると戸口にルル君とジャックスさんが現れた。


「あれ?ヒルデこっちじゃないの?ルルが延期になった手合せを今日したいって…」


ジャックス兄貴が詰所内をキョロキョロと見回した。おや?どこにいるんだろう。すると第一部隊の副隊長のリッタさんが血相を変えて走り込んで来た。


「た、たい…大変です!ヒルデが今っメイドに囲まれて…」


イ、イジメかー!?こりゃいかんっ…と立ち上がりかけたら、未来が猛スピードで廊下に飛び出した。


「どこだ!」


「備品庫の詰所の…」


リッタさんが言い終わる前に未来が走って…見えなくなった?!


「わ、私も…!」


「お嬢…連れてく!」


ジャックス兄貴とルル君が私の手を掴んだ。一瞬で視界が暗転し…どこかの廊下の隅に転移していた。ルル君が魔法障壁を張った。おおっ?これは…消音消臭と、透過魔法!?ルル君…!対魔人用障壁術をとうとう会得したのね!


私がルル君を見るとルル君は「…出来ました」と耳を赤くしながら答えた。このークーデレめっ!


「おい…そんなことよりさ…」


ジャックス兄貴とリッタさんが指でチョイチョイと廊下の向こうを指差した。皆でソッと物陰から顔を出した。


カスミンを取り囲んで6人くらいのメイドと女性役人かな?の姿が見える。障壁の中にいるので大胆にもメイド達とカスミンに近づいてみた。


数歩近づいた時、フト…少し俯いていたカスミンがこちらを見た。ぎゃあ…透過魔法を使ってるんだけど…気が付くの?ルル君が息を飲んでいる。慌てて場所を移動してもカスミンの視線は私達を見ている。


完全に居ることがバレている。カスミンは少し首を捻っていたが、ちょっと微笑んでいる。どうやら潜んでいるメンバーにも気が付いたみたいですね…。


「ちょっと、あなたっなにがおかしいのよ?!」


うっかりと微笑んでしまったカスミンにメイドの一人が金切り声をあげた。


「近衛の皆様や、ルル様に気に入られているからって良い気にならないでよ!」


別のメイドの子がカスミンを下から睨み上げた。迫力無いな…。カスミンの腰くらいの高さしかない身長で睨まれても怖くないな。カスミンも案の定深い溜め息をついた後


「今…15分刻の間、こうしていますね。この間にもあなた方には労働に見合った給金が発生しているのですよ?皇宮に遊びに来ているのですか?お仕事だと思っていらっしゃるなら職場にお戻り下さい」


と、ピリリとするくらいの魔圧を放ってカスミンは言い切った。恩田香澄せんせの降臨である。


「遊んでいる暇があるなら勉強をされるべきです。学ぶべきことは沢山ありますよ?知識は生きる事への手助けになります。どこかの欲望や嫉妬などの邪魔な感情とは訳が違います。嫉妬するなら憧れへ…欲望を感じるなら渇望へ…本人の捉え方次第で生きやすくも生き辛くもなるものです」


カスミンせんせ…まるでホームルームの時間のようです。メイドの子達はポカンとした表情で美の化身を見詰めている。カスミンは小さく咳払いをして、背筋を伸ばした。


「私はこの国に来て日が浅いのでルル=クラウティカ大尉の事はあまり存じませんが、少なくともこのような時間の無駄とも取れる行為は好まれない方だと存じます」


「…その通り」


障壁の中でルル君が呟いた。


「クラウティカ大尉に好まれる女性になりたければ己を磨くことをお勧めします。人を腐していては己を磨く時間が取れませんよ?時間は有限ですからね」


ルル君はいきなり障壁を解いた。至近距離から現れたルル様にメイド達はぎゃああ…と悲鳴をあげた。ルル君はカスミンに不適な笑いを見せながら


「ヒルデ=ナンシレータ少尉。再び手合せを願いたい」


カスミンも不敵に笑い返した。


「ルル=クラウティカ大尉、その申し出喜んでお受け致します」


おおっ!隠密対剣豪の再戦かい?!


そして再び…


鍛錬場はものすごい熱気だ…最前列にはさっきカスミンに詰め寄っていたメイド達が陣取っている。


そういえば詰所を走り出て行った未来は?と言えば…勢いで外に飛び出したものの…正確な場所が分からずに詰所に戻っていたらしい。何やってんだ?未来さんよ…。


鍛錬場に剣豪と隠密…二人は対峙していた。二人からの魔圧が凄まじいことになっている。


「二人共やる気すごいねぇ」


ガレッシュ様の呑気な声が聞こえる。隣ではナッシュ様の嬉しそうな笑い声も聞こえる。


「ヒルデの強さがこれで分かるかな。これで確証が得られればSSSになってもらわなきゃな、早く楽したいし…」


ナッシュ様の本音がダダ漏れである。


「双方構え!」


ルル君は木刀をゆっくりと構えた。カスミンは木刀を逆手で構えている。に、忍者だ!違うけど忍者だ!


空気が張り詰める。先に動いたのはカスミンだ!魔圧が上がった…と思ったら物凄い風圧が鍛錬場に吹き荒れた。


「きゃあああ…!」


最前列に居たメイドの女の子達は風圧で飛ばされていた。風圧でひっくり返ったりギャラリーは悲鳴と怒号で大騒ぎだ。


ナッシュ様が瞬時に三重魔物理防御を張ってくれたので、それ以上は風圧は当たらなくなった。最初に飛ばせれちゃった方々大変ね。メイドの子達はドレスが捲りあがって下着が丸見えになってるわね…。


ゴーッという地鳴りにも似た音を立てて、木刀を合わせたまま微動だにしない二人が鍛錬場の中央にいる。


ルル君とカスミンだ…。ルル君が木刀に何か魔法をかけた!ガッと周りに炎が上がる。そして再び離れて睨み合った二人は一瞬で姿が消え、まったく目に見えない打ち合いが始まった…!目に見えないけど、時々木刀の当たる打撃音と炎、水、雷魔法等の攻撃魔法が目の前で撃ち出されて、ナッシュ様の防御壁にドカンと当たっている衝撃で分かるくらいだ。


しっかりと二人の戦闘を目で追えているのは皇子殿下二人、ジャックス兄貴、そして軍人さんの上官の方々ぐらいのようだ。未来ですら「み、見えねぇ…」と呟いている。


「ルル、以前より腕上げましたね」


ジャックス兄貴が呟くとナッシュ様はまた嬉しそうに笑っている。


「ルルはもっと強くなるよ。ジャックスもあれくらい余裕だろ?あ~早く皆SSSになってくれないかな!」


さっきからそればっかりだね、ナッシュ様。


打撃音が止み…鍛錬場の中央の砂塵が収まってくると、もう木刀なんて持っていないルル君とカスミンが再び距離を置いて対峙していた。双方共に肉弾戦に変更しているようである。


「ヒルデは予想以上に強いな…」


「魔力量が全然減っていませんね…これはルルには不利ですね」


ナッシュ様とジャックス兄貴の解説?に息を飲んだ。カスミンってやっぱり相当強いんだ。


ルル君の表情が苦痛に歪んでいる。カスミンは無表情だ…。


再び双方同じタイミングで地面を蹴った…!また目に見えない打撃音だけが聞こえる。今度は地面にドカンと空洞が出来るほどの、なんとか波!みたいなのを放っているようだ。鍛錬場の地面にクレーターが出来ている…。すると、ものすごい勢いで何かが地面に落っこちて来た?


「ルル君?!」


「きゃああ!」


女子達の悲鳴があがる。ルル君は地面のクレーターの中に落ちて、ピクリとも動かない。


「そ…双方やめいっ!勝者、ヒルデ=ナンシレータ!」


審判をしていたマスワルト閣下の声にフワッと地面に降り立ったカスミンは一礼をすると、ルル君の元に駆けて行った。ガレッシュ様とマスワルト閣下も走って行く。


「治療術士をっ!」


と、どなたかの声に魔術師のローブを着た方も数名走って行かれた。


そして一番にルル君に駆け寄ったカスミンは手をルル君にかざした。…あ、あれ!治療ドームじゃない?!


近づきかけた治療術士の方々も茫然として治療ドームを見詰めている。ルル君はすぐに目覚めて起き上がった。治療ドームはパチン…と弾けて消えた。


鍛錬場内は水を打ったような静けさである。それもそうだ…基本、攻撃魔法を使える術者は診える目を持っていても治療魔法は不得手だ。使えたとしても擦り傷を治せる程度。


私の知っている両方使える稀有な方はシュテイントハラルのマディアリーナ王女殿下ただ一人だ。それでも治療術の方が得意で攻撃魔法は使える…と言える程度だそうだ。


こんな高度なレベルの攻撃魔法を使えて治療ドームを形成出来るほどの治療術を扱える術士なんて見たことない…。


「これが、ヒルデの神の加護なのです」


私の後ろに居たクリオパパの声にナッシュ様達は一斉にクリオを顧みた。クリオは苦笑いを浮かべていた。


「今でこそ、異世界人の神の加護だと分かりますが、コスデスタに居た頃は…神の御手だとか言われて国や公子様方から畏怖の対象でありました。それ故に逆にコスデスタ国内にいる時はずっと、監視をつけられていたのです。あの子が万が一、国に反旗を翻したらコスデスタは大打撃を受けてしまうからでしょうね…」


ゾッとした。だって、それくらいカスミンは強いのだ。今コスデスタ公国はカスミンにどういう思いを抱いているのだろうか?いなくなって良かった?それとも、逃げられて攻め込まれたらどうしよう?


私達もナッシュ様共々、ルル君達の側に移動した。ルル君は自分の手を見たり体を触ったりしている。


「ヒルデ…治療も出来るの?」


「はい」


「便利だな」


ズコーッとこけそうになる、ルル君は独特のテンポだな。ルル君はヒルデにものすごい羨望の眼差しを向けている。目がキラキラしている。ルル君、眩しいな…。ヒルデは少し目を触っている、やっぱり眩しいよね?


「ヒルデ、強いな」


「お褒めに与り光栄です」


「また手合せしてくれ」


「喜んでお相手させて頂きます。」


カスミンの魔力がゆっくりとルル君に流れて体を包んでいるのが診える。


これ…さ、アレじゃない?ここで声高には言えないけど二人共いい感じなんじゃないの?


未来と目が合うと、うんうん…と頷き合って確認し合った。やっぱりね…。ていうか、カスミンとルル君…。カスミンは恋愛方面にとんでもなく鈍い。恐らくルル君も鈍いほうだと思われる。こんな二人だけど…自分達で自覚すること出来るのかしら?心配…。



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