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コスデスタの魔術師

誤字脱字のご報告ありがとうございます。

毎度毎度すみません^^;


スーパーモデル(仮)兼香澄先生は豪華なソファに座ることは固辞し…私達が全員見える位置に移動し立ったまま話し出した。


ああ…この感じっ全校集会で校長先生が朝礼している感じに似ているわ~。


「お話をさせてもらう前に先に一点だけ、お断りを入れさせて頂きます。この話は私の一存で話せることではなく両親の許可…もしくは彼らの口から話してもらうのが最善だということです」


「つまりはどういう事かな?」


ナッシュ様に香澄先生は頷き返した。


「正体を隠すこと、つまり身元を明らかに出来ないこと…これは両親の意向です。私も詳しくは理由は分からないのです。子供の時に…逃げ出した時に身元が分からないように行動すること、人と接触しなければいけない時には必ず幻術魔法で姿を幻惑すること…普段の移動は対魔人用の透過魔法を必ず使用すること…両親からきつく言い渡されています」


皆が息を飲んだ。人と接触する時に幻術?移動時には透過魔法…これって…。


「今、逃げて来たと言っていたな…どこから逃げて来たか教えてもらえるかな?」


ゼベロッパー大元帥の問いに香澄先生は暫く迷っていたようだが、顔を上げると言った。


「私の出身はコスデスタ公国になります。名前はヒルデ=ナンシレータと申します。年は18才です。」


「コスデスタ!」


「なんと…っ」


「ええっ?!18才!」


コスデスタ出身というより、香澄先生はヒルデちゃん、と呼んでもいい位の年齢だったことに驚いた。因みに年齢の所で反応したのは私と未来の二人だけだった…。


「外国の方って実年齢より上に見えますものね」


そう言ってヒルデちゃん(香澄先生)は微笑んだ。おお…っ微笑まれた…氷が解けるように…春の風を感じますな…。私と同じく息を飲んだ人がいた。シューテ君とシューテ君の次兄だ。


香澄先生は一呼吸置くと再び話し出した。


「私個人の問題なら、異世界人であること、コスデスタ出身であること包み隠さずお話出来ます…が、両親の出自に関しましては一存では決めかねます。両親は何か理由があって、私を連れて10年前にあの国から逃亡したのでしょうから…。私達は追手から逃げて隠れるだけで精一杯でした」


追手…不穏なワードが出て来た。ちょっと待って?香澄先生もしかして、コスデスタの姫とかじゃないよね?このスーパーモデルの姿は女王様でも格好いい…!いや、そうじゃない、え~と。


「失礼だが、あなたはどこか名家の出であるかな?」


ゼベロッパー大元帥が再び問うた。すると香澄先生は慌てて何度も首を横に振った。


「と、とんでもないっ…一般人です!小市民です!」


香澄先生…一般人も小市民も異世界語じゃないかな?


「先程からヒルデが言っている事が真実というならば、おかしな点があるな。何故今、幻術を発動していないのかな…?」


ナッシュ様の言葉に香澄先生…もうヒルデと呼んじゃおう…は困った顔をした。私は助け舟を出した。


「何か言い難いこと?無理に言う必要はないわよ?」


「あ、いえ…私自身よく分からないのです。その今日も勿論、幻術魔法を用いていました。本屋さんに入ってバラミアウォーカーを発見して…中を見て驚愕して、書店員さんにこの雑誌の発行元をお聞きして…皇宮にお勤めの役人の方々だと教えられて…我を忘れて皇宮に押しかけたのですが、門前に着いた時、魔力が抜けていく感覚に襲われました。こんなこと初めてです。私、人より魔力量がかなり多いので…術が途中で解けてしまうなんて初めてです」


「うむ…確かに不可思議だな…」


「ガレッシュ殿下かホーガンス師団長かペッテルッカさんを呼んでみては?」


考え込んだ父親、ゼベロッパー大元帥にシューテ君の長兄さんがそう提案した。するとナッシュ様がスクッと立ち上がるとヒルデの前まで移動した。


「ヒルデ…どうだろうか?一度ご両親も交えて詳しく話を聞かせてもらえないだろうか?もし…君達が追手…この場合はコスデスタの手の者かな?に見つかりたくないというのにも、配慮はさせてもらう。どうだろうか?」


ヒルデは少し俯いた。


「両親は…誰かに知られたとなると逃げる…と思います。現に何度も追手と対峙し…切り抜けて逃げてきています。今回も…」


「死ぬまで逃げ続けるのかい?」


ナッシュ様の言葉にヒルデはバッと顔を上げた。ヒルデの体の魔力がグンッと上がった。攻撃的な魔力の上昇では無い。


「いいえ、いいえっ…。私も出来るなら…この現状を何とかしたいと…」


その後、ヒルデから聞ける範囲を聞き出した所によると、追手から逃げて今はナジャガルの郊外の山小屋に隠れている事。仕事は幻術魔法で顔を隠して冒険者の仕事をこなしている事…という事だった。


「ヒルデがこれほど強いなら…ご両親もさぞやお強いのだろうな!」


ナッシュ様の女性の褒め所がソコなの?というツッコミは置いておいて…今はヒルデ(香澄先生)とナッシュ様と護衛を兼ねてジャックス兄貴とジーパス君、シューテ君と異世界人の私と未来…ガレッシュ様…という超最強(私を除く)メンバーで移動中だ。


ヒルデの住んでいる田舎、つまりはトルメイテル、ガレッシュ様のご領地の端の山間まで徒歩移動だ。私はデンドー車椅子で移動である。楽して済まない…。


「ちょっと~僕の管轄の領地に不法占拠だよ~税を払ってよ!」


これはヒルデに会って事情を聞いたガレッシュ様が開口一番申した言葉だ。元庶民の守銭奴ガレッシュ様は恐らく本気で言っている。そのうち住居税の取立てに行きそうだ…いや行くだろうな。


「そう言えば…ヒルデって強いの?」


道中、気になっていたことを私がそう聞くと皆が私をグルンと顧みた。な、何だよ?おかしなこと言いましたか?


「そうか…。ある程度の剣術使いじゃないと感じないものなのか…」


ナッシュ様の呟きに思わず反論した。


「言っておきますけど、誰も彼もが忍者みたいな人ばかりじゃないのよ?大半の一般庶民は普通の力の、か弱い生き物なのっ。自分が規格外だからといって人も同じだと思ってはダメよ!特殊な能力持ちは、そこは自覚してもらわないと!」


ヒルデは私達のやり取りを聞いて楽しそうに笑っている。


「ふふっご夫婦の力関係は葵さんが上ですか?皇太子妃がヒエラルキーのトップですね」


「いやいや違うよ、うちにはもっと権限が強くて怖いのがいるから」


「フロックスのことかな?アオイ…悪口は何故かアイツにばれるから気を付けろ…」


とのナッシュ様の言葉にヒルデはう~んと唸ってから、もしかして…と呟いて上を見ている。


「ああ、諜報の方の使う魔法を行使してますね~えっと私は遠見の術…遠くを見る、探る術と呼んでいます。今も上空にいますよ?」


と、ヒルデが上を指差した。何が上空にいるの?と、空を仰ぎ見ても何もない…鳥くらいしか飛んでないけど…鳥?


「鳥を模した魔術具ですよ?あれだと地上の音声も拾えますし悪口も聞こえると思います」


「うええ?!」


「なるほどっ!」


と、ナッシュ様まで上空を見上げて感嘆の声を上げている。空の上から悪口の監視…流石悪辣魔王、フロックスさんの考えることは恐ろしい…。


さてしばらく森の中を歩いていると、ポツンと一軒家…三人で住むには狭いだろう山小屋が現れた。スーパーモデルとおんぼろ山小屋…辛すぎる。


「カスミンここに住んでんの…女子にはきっついね~」


未来が早速ヒルデのあだ名を呼んでいる。カスミン可愛いな、私もそう呼ばせてもらおうかな。


「酷い時は洞窟暮らしでしたから…イタリアの洞窟住居みたいですね」


世界遺産のアレか…それより酷い環境だったんじゃない?青春時代を洞窟暮らし辛いな…。


すると、ナッシュ様とガレッシュ様が手で皆を制した。


「お気づきになられたようだ。失礼、私この国のものです。娘さんのヒルデ嬢から伺い…ご両親にもお話を伺いたく参上しました」


ナッシュ様がそう言うと…辺りの空気が変わった。魔力の渦?みたいな波動が空気中を渦巻いている。


「何者でありますか?」


女性の声がした…。そして何もない所に、男女二人は現れた。


「さすがっモデルの父母!」


思わず叫んでしまって、皆の注目を浴びたが勘弁して欲しい。だって本当にご両親二人共スラリとしてびっくりするほど小顔なんだもの。格好いい…やはり遺伝子だな…すべての美形は遺伝からか…。


「ヒルデ、どういうことなの?」


ヒルデ母が怖い顔をしてヒルデを見ている。ヒルデはゆっくりと前に出た。


「お母さん私、二人に内緒にしていたことがあるの。私…異世界から転生して来た…異界の迷い子なの」


「!」


ご両親二人共驚愕の表情を浮かべた。するとお父さんが口を開いた。


「お前のその桁外れの魔力量…神の加護なのか?」


ヒルデは更にお父さんに近づいた。お母さんが飛び出して来るとヒルデの体を抱き締めた。


「そこまでは分からない…でも、今日ね、バラミアに行ったら…同じ異世界人の方とお会いしたの」


私と未来は少し前に出た。


「初めまして、異世界から来ましたアオイと申します」


「同じくミライです」


ご両親は私と未来を食い入るように見詰めている。


「お父さん…この方に私達の保護を申し出てみない?もう逃げたり隠れたりするの嫌よ…」


カスミンのご両親はマジマジと娘を見ると私達の方を見てきた。


ナッシュ様は目を見開いたまま固まっているカスミンのご両親の前に、進み出た。


「申し遅れた、私はナジャガル皇国皇太子ナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルと申す」


「同じく第二皇子のガレッシュルアンです。俺の領地で不法占拠はいけませんよ~」


おい…ガレッシュよ?あんたそれが言いたかったんだな?緊張感ないよなぁ…。


突然の皇子達の自己紹介に、カスミンのご両親は大慌てで地面に膝を突いた。


そしてナッシュ様がもう少し近づこうとしたら、何故かジャックス兄貴がナッシュ様を制した。


「殿下やばいですって。この人らめちゃくちゃ強いから」


「あのな~私だってそこそこだよ?一応SSSだし」


と言うとカスミンのお父さんが下げていた頭をガバッとあげた。


「ト、トリプルスター!?あ、最近お一人増えてSSSは四人なったとか…しかもご兄弟でSSSだと…まさか?」


ナッシュ様とガレッシュ様が同時に頷いた。そして例の虹色のSSSカードをピランと見せている。相変わらずのレインボーカラーである。


すると初めて見たのだろうか、護衛の本分も忘れてシューテ君とジャックス兄貴がカードを覗き込んだ。


「うわっこれがSSSの証!」


「カッコいい!」


ナッシュ様は覗き込んでいるシューテ君の頭をワシャワシャと撫でてからカードを仕舞うとカスミンのお父さんを見た。


「あなた方なら私の身元などすぐに分かるであろう?そこで相談だ、私も身元を明かした。ヒルデからはご両親の情報は本人達からしか明かすことはしないと言われた。もし何かに追われてどうしても隠れ住まねばならんのなら…その厄介事を私達にも共有させてはもらえないだろうか?何と言っても私は皇太子だしな。何か力になれるやもしれん」


カスミンのお母さんが口に手を当ててワナワナと震えている。お父さんはまた俯いてしまった。


「我々が…隠れておりますのは…本当に私的な理由なのです。何故ここまで執拗に追手が来るのかも謎なのです。ですから…」


「だからっていつまでも逃げてるの?ヒルデもだけど、奥さんもずっとこんな山奥で隠れてるなんて辛くない?おじさん一人じゃないよ?皆で背負える問題じゃない?」


ガレッシュ様の言葉にお父さんの顔もクシャッと歪んだ。辛かったんだろうな…だって10年も逃げてるって言ってたわよね…その間魔法を使って隠れて逃げて、追手と戦闘して…。考えただけで眩暈がする。


「良ければ、居を移さないか?こんな山奥じゃ辛かろう…うちなら部屋もあるし…」


ま~たナッシュ様は簡単に引き入れちゃうけど大丈夫かな…まあ、ガレッシュ様が何も言わないところを見るとカスミン親子の魔力波形におかしな動きは無い…と判断したのだろう。


カスミン親子は嗚咽を堪えながら頭を低くされている。ささ…御荷物をまとめましょう?


そういう訳でナンシレータ家も新たに離宮に住むことになった。


さてその日の夜


ひたすら恐縮されていたカスミンとお母様にキッチンの使い方やその他の家事のことを説明して、夜は皆でとんかつを食べた。カスミンはカツだー!と号泣していた。食後のデザートはみたらし団子だ…なっちゃんサンキュー!またカスミンがみたらし団子だー!と号泣していた。


余談ではあるが


コスデスタ公国にはユタカンテ商会が無いらしい。カスミン一家はあの国を出て初めてレイゾウハコやヨジゲンポッケの存在を知ったらしい。勿論カスミンもいち早く異世界人ましてや日本人の存在に気が付いたらしいが…半年前までくらいはずっと追手の監視魔法で追跡されていたらしく、迂闊に他人と接触出来ない日々だったそう。


半年前くらいから監視が緩んできたらしいのだが、何故なんだろう…。


食事も終わり落ち着いた所でカスミン父のクリオ=ナンシレータさん37才からこれまでの経緯のお話があった。さっきよりは顔色良いわね、よしよし。


「私達はコスデスタ公国の諜報部で働いておりました。娘も将来は同じ職種に就かせたいと…子供の頃から訓練はさせていました。只、娘は魔力量が底なしと申しますか…桁外れの魔力量でして、私の弟…ヒルデにとっては叔父ですが…弟に将来は魔術師になれ、と言われておりました。因みに弟は魔術師団の師団長をしていました」


「成程、うんそれで?」


ナッシュ様の相槌にクリオさんは頷き返してから話し出した。


「10年ほど前…コスデスタの第二公子殿下とガンドレアの王女殿下の婚姻が決まりました。弟も公子殿下とガンドレアに行くことになったそうなのですが、何故かヒルデも連れて行くと言い出しまして…以前からも執拗に魔術師団に入れ…自分の養子になれ、と言ってきてはいたのですが…流石に他国に連れて行くというのはどういうことだ、と拒否しました。ヒルデ自身も嫌がっていましたし」


クリオさんはチラリと娘のカスミンを見た。カスミンは頷き返している。


「あ、もしかしてあの彼かな…ホラ、ジャックス…あの王女の婚姻式の時に見ただろう。公子殿下の後ろに居た暗黒系の魔法使い…リアさんと魔力の当て合いして睨みあっていた、あの術士。そういえばクリオさんより髪色は暗色系でしょうか?似ているかも」


「ああ、あの怖い魔力のおじさんですか…。顔は…どうだったっけ…」


おや、ナッシュ様とジャックスさんはクリオさんの弟さんと面識があるようね。茄子のヘタの婚姻式か…そうか、確か8年か9年前位よね。


「そうですね。シーダ…弟は私より髪色は暗くて暗黒系の魔法が得意でしたね。公子殿下の護衛兼傍仕えとしてガンドレアに行くと聞いていましたし…恐らく皇太子殿下と会ったのは弟本人でしょう。とにかく弟はそれからも何度も押しかけて来ては、ヒルデを一緒に連れて行こうとしました。そしてとうとう強硬な手段にも出て来るようになりました」


「カスミン…怖かったわねぇ」


思わずカスミンに呼びかけるとカスミンは少し目を丸くした後、若干すまし顔になった。


「いえいえ、自分で言うのも何ですが私8才の頃から魔術の天才でしたから!はっきり言ってしまうと、攫おうと何度も襲われたんですが、魔法で蹴散らしてやりました。あまりに面倒くさいので、日中は透過魔法で隠れてました」


すんげぇ!若干8才で透過魔法を使いこなしてたの?!


クリオさんは苦笑いを浮かべている。


「正直、ヒルデ個人を狙ってもこの子が強すぎて攫えないのですよ…。焦れた弟はやり方を変えてきました…今度は暗部の隊長をしていた私をガンドレアの諜報部に入れてしまって家族ごと逃げられないように縛り付けようとしました。また断ろうとしましたら、第二公子殿下の命だと言われてしまいました。流石に私も悠長に構えていられなくなりました。これほど執拗にヒルデの事を手に入れようとするなんて…何かあるんじゃないのか…と」


ちょっと、ちょっと?!まさかここでも…。


「幼児偏愛者かっ?!」


未来がガバッと立ち上がった。未来と同じく立ち上がりかけたナッシュ様も同意見らしく座り直すと「許せないなっ!」とプンスカ怒っている。


流石にカスミンもこの話は初耳だったらしく顔を真っ青にしている。よもや自分が変質者に狙われていたなんて…ね。


今度はカスミンのお母さん、ミチランデさんが話を引き継いだ。カスミンの顔はお母さんに似ているね。


「クリオと相談しまして…このままではヒルデが大人達の餌食になってしまう…と。悩みましたがヒルデを連れてコスデスタを逃げ出しました。その後は義弟の追手に見つかり逃げて…返り討ちにしたり…と何とか今までやり過ごして来ました」


聞き終わったガレッシュ様が大きな溜め息をついた。


「もっと早く他国の警邏や役所に助けを求めに行ったら良かったのに…」


ミナンシータ夫婦はお互いに顔を見合わすと苦笑した。


「どこに諜報員が潜んでいるか分からないので、どうしても疑心暗鬼になってしまいまして…今回のように直接皇族の方に御目通り頂けない限りは無駄だと思っておりました」


そ、そっか…。とにかく今日から枕を高くして眠れるね~とカスミンと笑いながらみたらし団子を食べて緑茶を啜った。


次の日


ナッシュ様はミナンシータ親子にナジャガルの軍属にならないか?と仕事を紹介していた。また暗部勤めとなると10年のブランクもあるし…との話をした結果…。


ご両親はなんと私の専属護衛。カスミンは、軍部所属ということになった。


カスミンはまずは第三の詰所に私達と出勤した。するとカスミンが眉を顰めている。


「どうしたの~?カスミン」


カスミンは詰所内をキョロキョロと見回している。


「あの…何か魔力を吸い取る術式とか使われていませんよね?あれ?何だろう…」


「おはよ…さ…誰?その綺麗な女の子…」


ジューイがポカンとした顔でそう聞いてきた。カスミンは慌てて居住まいを正すとジャパニーズお辞儀をした。


「初めまして、元異世界人の現在はこちら生まれのヒルデ=ミナンシータと申します。本日より軍部付の任を賜りました。宜しくお願い致します」


コロンド君がニコニコしながらこちらは騎士の礼でご挨拶している。そしてカスミンはフロックス魔王にもご挨拶を終えてからやっぱり首を捻っている。


「葵さん、やっぱり変です…また魔力が抜けている気がします。え~とあちらの方角に流れていっているみたいです…」


「えっ?今も抜けてて流れてるの?大丈夫かな…気分悪い?」


「あ…いえ、魔力切れにはならないとは思うのですが…何だか気味が悪いですね」


カスミンが指差した方角に何かあるんだろうか?あっちは警邏の詰所がある方角だけど…。


すると戸口にノリがやって来た。ノリは今はミーツさんと住んでいる。まあはっきり言うと同棲だ。


「おはよ~う。まあこの方ね、すごーい!モデルさんみたいね。初めまして實川実莉と申します」


ノリがホホホと笑いながら挨拶をするとカスミンも慌てて挨拶をしていた。


「本当に異世界人の方が沢山いらっしゃるんですね、嬉しいです」


「明日にはもう一人増えるわよ?そこのジューイさんのお嫁さんの相模那姫、なっちゃんが来るの。仲良くしてあげてね」


私が転移魔法や異世界と繋がっている…など、ノリの説明の補足をカスミンにしてあげた。


「へえ~転移魔法陣ですか!後でゾアンガーデ中佐に見せてもらおうかな。私も戻って見てみたいな~18年前と何か変わってるかな?」


そう言って少し遠い目をしたカスミンは実年齢より大人びて見えた。中身はアラサーだしね。


さて、さっきから詰所の入り口付近が鬱陶しい…。ジューイが何度も舌打ちをして威嚇しているが一向に改善しない。何故ならば…。


「いい加減にして下さい!彼女は見世物じゃないのですよ!この際ですから一回見るのに銀貨一枚取りましょうか!」


フロックス魔王がカスミン見たさに集まっている野次馬に氷の礫をぶつけながら毒づいた。因みに皆が見たいカスミンは詰所内に居るには居るが、目に見えない…ようだ。私の隣に座っている…ようだ。辛うじて書類がフワッと浮いて仕訳されていくのが見えるので隣で黙々と仕事をしている…ようだ。


「透過魔法ってこういう居留守にも有効だね」


「そうですね、犯罪行為はいけませんが、隠れて万引きし放題ですね…危険です」


びっくりした。カスミンの声は聞こえるんだ。


すると、野次馬を掻き分けて戸口にルル君が現れた。ルル君は険しい表情のまま一礼すると真っ直ぐにカスミンの前に来ると


「お前強いらしいな、手合せ頼む」


とボソボソ…とカスミン(居留守)に向かって言った。


出たーー!強い者を求める剣豪ルル様再びだ!


カスミンは何も返事はしない…びっくりして固まっているのかな?


やがて静かにカスミンの透過魔法が解かれた。詰所の前にいる野次馬からどよめきと歓声が上がる。


ルル君は目の前に現れたスーパーモデル、カスミンを見て目を丸くしている。


片やカスミンは結構険しい顔をしてルル君を睨んでいる?どうしたの、穏やかなカスミンにしては怖い顔よ。


「…分かりました」


なんか不穏な空気が流れてるけど…どうなるこの果し合い?!


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