スーパーモデル
異世界での婚姻式を終えて皆が帰って来た。
特にトラブルも無く無事に式を終えたようだ。初めて見る物や、異世界の文化に触れてきた、ルル君、コロンド君、ミラマ兄弟は大変刺激を受けたようで、土産話を沢山聞かせてくれる。
今度はザック君オススメの某テーマパークに全員で乗り込むらしい…。若いっていいわね…。
さて、留守番組の第二皇子夫妻と私が居ない間にとんでもない話が持ち上がっていた。
「ええっ私達の結婚式?!」
未来はノリの話に絶叫した。ノリは苦笑いを浮かべながら何度も頷いた。
「当事者がいないのにねぇ~式事体には出席はされなかったけど、うちの母と邦子さん達がルルさんとコロンドさん目当てに式場に来ていたでしょ?そこでクリッシュナ様やカッシュブランカ様と意気投合しちゃったらしくって…。ガレッシュ様と未来さんも是非、こちらでも式を挙げて!…ってなっちゃったらしいわ。ホラ、反対する人も誰もいない状況だったしね…。あ、白馬に乗って登場だけはやめてあげてね、って言っておいたから」
白馬…。ノリ…反対するのはそこじゃない。
思わずしょっぱい思いで未来を見てしまう。私の居ない所で異世界のお局交流が行われていたらしい。
ナッシュ様も頼りにならないなぁ~何でお局のやりたい放題にさせとくのさ!上手い具合に…と言ってはアレだが、ストッパーになりそうな面子は皆、留守番組か結婚式に不参加(實川父、息子、片倉父、息子)だった。
何度も言うが美園ママと邦子は呼ばれてないのに押しかけている。ルル君とコロンド君に会いに行くためにだ。そして佐代里姉、実奈美姉、由梨妹はミーツさんとキリッシュ国王陛下そしてジュリード様目当てという…とんでもない押しかけ具合だった。結婚式の会場の雰囲気どうだったんだろう…不安。
ガレッシュ様は嬉しそうだったが未来は複雑な顔をしていた。
「邦子がはしゃいでルル様やコロ君にキャッキャッ言っているのを見なきゃいけないのぉ…。どうしよう…最悪な事にさ、今度はジー君とシュー君にも会いたいわ!とか言われてたんですけど、まさかこんな機会があるとは思わなくて…もし異世界に来ることがあったら連れて来てあげるよ、て言っちゃったんですよね…やばい…」
それは恐ろしい…ジーパス君やシューテ君が生贄になるのか…まあ若いから体力有るからついていけるでしょ?精神面ではついていけないでしょうけど…。皆、オツカレ…。
因みになっちゃんは一か月後にこちらに来て、ノリから仕事の引き継ぎをする予定である。こちらの式はドレスを作ったり準備が出来次第に執り行う予定だ。
そしてなっちゃんがこちらに来るのが明後日に迫ったある日…
「ま、前が見えない…」
これは怖い…。いつの間にこんなにお腹せり出してたの!?嘘でしょう?
「大丈夫か?アオイ、私が抱えて歩こうか?」
「そんな羞恥プレイ勘弁してよ!」
ナッシュ様が抱えようと私に近づいて来たけど、断固拒否だ。
詰所の階段の段差が見えないなんて…妊婦さんって本当に大変ね。お腹の子は楽しそうに魔力を弾ませている。
あ、そうそう~こちらには梅雨は無いようです。ジメジメした気候が無いのは無いで寂しいな~。
そして、順調にお腹の子は大きくなっています。只今17週目に突入しています。私の胎児の場合めっちゃ成長が早いみたい。早いのはいいんだけど…こんなにお腹が前に出て来るなんて…いきなりで慣れる前に歩行困難にぃぃ…。
フウフウ言いながら階段を上がると三階の詰所の中に入った。
「おはようございます~」
「おは…昨日より腹出てねぇ?」
「やっぱり…?」
ジューイがお腹を見て首を捻っている。
「お腹の魔力波形も活発ですね、まさか今日産まれませんよね?」
ちょちょ…フロックスさんも脅かさないでよ…まだ四ヶ月と少々だよ?
「大丈夫だよ~僕何回も赤ちゃん見ているから~」
ああっそうだった!ザック君という子供を扱うプロがいるじゃないかっ!小さな保育士さんを見詰める。
「お腹がググッとドカッと痛くなるんだって~」
そんな抽象的な痛みの表現ではよく分かりませんわ…。
まあ…今産まれるとかそういう感じもしないし、いつもどおり仕事をしましょうかね。
「よっこいしょ…」
ついつい声をかけながら座ってしまう。そして座ってから気が付いた…こ、これは…。
「今度は机が見えない…」
お腹が邪魔して机の上…主に胸の下辺りが特に見えない。書類に書き込めない…ぐぬぬ。
「アオイ、ソファに座ってみてはどうだ…腰が辛かろう?」
おおっナッシュ様!それはいいアイデアね。よっこいしょ…と立ち上がって執務室のソファに移動する。そうだ、書き込むのは…ジャレット君に頼んで…。
「これね、はい」
「はい、出来ました。こちらは内務省の次官に渡せばよいのですね。こちらは料理長でしょうか?」
「そうよ、お願いね」
ジャレット君はテキパキと書類を纏めると素早く立ち上がって執務室を出て行った。ううっ…ジャレットが成長しているっ…。
「先輩…。今日バラミアウオカーの発刊日ですが…書店廻りは私と委員会の方だけで行って来ましょうか?」
未来…おお…そうだった、今日はバラミアウオカーの発売日だった!実際に書店に並んでいる汗と涙の結晶の発行本を是非とも確認したい…ところだが…。
「お腹が出てて前が見えないのよ…転んだら危ないし…」
「だったら先輩、車椅子とかは?」
「やめてよ~病人じゃあるまいし~」
とか言っていたら…ナッシュ様が本当に車椅子を持って来た。魔力を籠めると自動で動いてくれる。その名もずばり『デンドー』だった。勿論ユタカンテ製である。カデちゃんあっぱれ…。
「乗っている姿が恥ずかしいなら、透過魔法…対魔人用の魔法使ってやろうか?姿が隠せるぞ?」
それはすごくいいアイデアだけど、ナッシュ様がついてくるの~?あっそうだ!
「と、透過魔法ならもうザック君が使えるんじゃない?」
「ザッ君は今日、託児所のお仕事ですよ?」
未来にバッサリ切り捨てられた。ここは仕方ない…旦那同伴で行きましょうかね…。
ナッシュ様も市井に居ると民衆に囲まれるから…と対魔人用防御で二人コソコソと未来とバラミアウオカー制作委員会のメンバー四人の後に隠れてついて行きながら商店街に向かった。
ああ、書店の入り口にポスター貼ってくれてるわ。おおっ!頼んだとおりにレジ横に平積みで置いてくれている。ポップも飾ってくれているわね…ああ!若い女の子二人が近づいたぁぁ…。
「買ってくれるかな…」
思わず手を組んで祈ってしまう。買え~~買って~~!
未来や委員会のメンバーも固唾を飲んでその女の子二人を見守っている。女の子達は本を手に取り話している。
「ここにこんなお店あるのね!」
「このパン屋気になってたけど、このパン美味しそうだね」
うんうん、そうだろそうだろ~。すると女の子達は互いの財布を出して来て二人共本を持ってレジに行ってくれた。
「お買い上げありがとうございます!」
思わず叫んでしまった。
「良かったな~買ってくれたな」
ナッシュ様が嬉しそうに顔を覗き込んできた。思わず涙ぐんだ私はナッシュ様の首に抱き付いた。
「うんうん~良かったわ、よかったぁ~」
その他にウオカーの販売を頼んだ書店を回ったが、他の店舗でも中々な売り上げを叩き出していた。
「これは増刷できるかもしれませんね~」
未来も満足そうに頷いている。さてさて…書店廻りを終えて
商店街のはずれのバラミアウオカーに掲載させて頂いたお肉料理のお店でランチを頂いた。このお店のフルーツタルトを今回のウオカーで紹介したのだ。店内に入ると店長さんが走り込んできた。
「お、皇太子殿下…アオイ妃様っ…」
「畏まらないで~こんな格好でごめんなさいね~。反響はどうです?」
店長は嬉しそうに頷くと窓際の席を見た。あっアレは!
「ゼベロッパー大元帥!…と、シューテ君…残りの二人は?」
四人掛けのテーブルにゼベロッパー大元帥(父)とシューテ君(息子)とその他に男の人二人の計四人がいる。シューテ君がこちらに気が付いて立ち上がりかけた…とその時、未来がダッシュでシューテ君に近づくとウエスタンラリアットをお見舞いしていた。それ…確かプロレスの技だったよね?
「こんな所で敬礼するなっ!」
技をかけられたシューテ君は痛がりながらも嬉しそうだった…。胸が顔に当たったからかな?まったく、これだから男の子って…。
「こらこら、店内で暴れるな…」
ナッシュ様と二人、ゼベロッパー大元帥に近づいた。
「これは…殿下方、おや?アオイ様どうされましたか?」
ゼベロッパー大元帥は私の車椅子姿に目を止めたみたい。イヤ~お恥ずかしながら…と理由を説明しつつ、同席している男性方のご紹介を受ける。
やっぱりね!シューテ君の一番上のお兄さん(役人)と二番目のお兄さん(警邏)の二人だった。残念ながらお二人はゼベロッパー大元帥寄りの顔立ちだった。二人共若干強面である。
喋ってみるとお兄さん達は流石大家族のご兄弟だ。豪快で気さくで話し上手だ。皆で仲良くお話させて頂いてお昼を頂いて皆で皇宮に帰った。
おや?皇宮の前の城門に数人の兵士とめっちゃスタイルのいいプラチナブロンドの女性?が居る。鍛えられた背中は後ろ姿を見ているだけで格好いいのが分かるほどのスーパーモデルの立ち姿だ。八頭身以上はあるんじゃないかな、とか思いながら近づくと門番の兵がこちらを見て声を上げた。
「あ、帰って来られましたよ。あちらの方々がバラミアウオカーを制作されている皆様です」
と、言った声に門前の女性はクルリとこちらを向いた。
私は振り向いたその姿を見た時にビカッと閃いたね。
「ジュルラーエのイメガが居たーー!」
私がそう叫ぶと未来が、ああ!と同じく叫んだ。
「うわーっホントだ!ジュルラーエのパンツスーツ着て欲しいっっ!」
私達二人に叫ばれたイメガこと、スーパーモデル(仮)は目を見開き戸惑ったような表情をしている。改めて正面から見ると、顔…小さいねー。ナッシュ様の握り拳くらいしかないんじゃない?髪もすごく綺麗なプラチナブロンドねー!身長は私(174㎝)より高いから180㎝くらい?
立ち姿や筋肉の付き方、洋服から察するに冒険者か、それに付随するお仕事かな?をされている若いお嬢さんだ。顔は甘い顔立ちというよりキリッとした…そうルル君の女性版のような感じだ。
「あ、あの…」
声が思ったより幼い…え、もしかしてこのスーパーモデル(仮)はまさかのまだ10代かしら…。
「この雑誌…のバラミアウォーカーの担当者…の方ですか?」
担当なんて言い方…淀みない書籍名の発音…この書籍を雑誌と表現するのは…もしかして?
「初めまして、鷹宮葵です」
わざと日本名で自己紹介した。スーパーモデル(仮)は目一杯、目を開いた後にクシャと顔を歪めて…な、泣き出してしまった!
「初めまして、片倉未来です」
未来が更に追い討ちをかけるように、日本名で自己紹介した。スーパーモデル(仮)は肩を震わせて泣きながら何度も何度も頷いている。
「わた…私ぃ…オンダカスミっていいますぅ…に、に…日本人でずっっ!」
私は未来と一緒にオンダカスミさんに近づいた。
「あまり近づくな…」
ナッシュ様が素早く横に来てそう囁いた。どうしたのだろう…。ナッシュ様は少し手前で止まるように指示した。
「こんな姿で…すがっ、中身はメガネデブの享年32才ですぅ!」
自虐的過ぎる同世代の自己紹介に泣きそうだっ!
「私ももうすぐ30才です!大丈夫です!」
何が大丈夫なのか分からないが、同世代の心の叫びをしっかりと受け止めた。
何故だか知らないが、ナッシュ様がやっと警戒を解いてくれたので、未来と二人オンダカスミさんの目の前まで移動した。
背、高っ!顔ちっさ!所謂、女子が格好いい女性と称する美の全てを凝縮している体躯をされている。
オンダカスミさんは胸の前にバラミアウオカーの本を抱えていた。
「ぐすっ…いきなり押し掛けてすみません。書店で…この雑誌を見かけて、懐かしいのと異世界から私と同じように、この世界に来られた方がいるのじゃないかと知って、確かめようと必死になってしまいました」
ああ、分かる分かるわ…。オンダカスミさんは涙を手で拭うとゆっくりと頭を下げられた。綺麗な45度のお辞儀だ!
「少なくともお二人は出身が同じだと確認出来て安心しました。妊婦さんですよね?身重の方を引き留めてすみませんでした。私はこれで失礼致します」
ええ?おいっ?行っちゃうの?
私と未来の戸惑いが伝わったのだろうか…オンダカスミさんはちょっと困った顔をして私の後ろをチラリと見た。
「はい、お連れの方…お腹の子のお父様ですか?が、先ほどから警戒されていますし…日本人ですって言っても信用してもらえないのは分かっているつもりです。こんな見た目ですしね」
このオンダカスミさんは診える目を持っているようだ。おまけにナッシュ様が若干緊張して警戒しているのにも気づいている。彼女の魔力量は…う~ん普通くらいな感じだけど…。何を警戒しているのだろう?
「君は何者だ」
いきなりナッシュ様が短く、享年32才オンダカスミさんに問いかけた。彼女はどう答えるか迷っているようだ。
「そうですね…先程も申しました通り、異世界で死にましてこちらにやってきました。元教師のアラサーです…という答えだけでは納得してくれませんか?」
きょ…教師だってー?!元学校の先生なのか!
「ナッシュ様…何をそれほど警戒されているのですか?彼女の話している内容から異世界人で間違いないですよ?」
ナッシュ様は聞いた私の方を見ずにオンダカスミさんから目を逸らさずに答えた。
「異世界人なのは間違いないだろう。だが…自身の魔力量を極限まで押さえている。動きにまるで無駄が無い。動く時にワザと音をたてている。再度問おう…今、この世界で君は何者だ?」
オンダカスミさんは泣きそうな顔になった。ちょっとちょっとー!私はオンダカスミさんを背後に庇った。未来も同じように庇っている。
「皇太子殿下っ!年下の女の子に対してそんな威圧的な聞き方をして何ですか!」
と、未来が怒鳴った時、私達の後ろでヒュッ…と息を飲む音が聞こえた。
「こ、…皇太子殿下です…か?ここのナジャガルの?」
あら?と、思ってオンダカスミさんの方を顧みた。オンダカスミさんは真っ青になってナッシュ様を見ていたが、慌てて膝を突いた。
「皇太子殿下の御前で大変、失礼を致しました」
オンダカスミさんはナッシュ様の顔を知らないのかしら?うちの旦那、結構市井をウロウロしていて顔バレしている皇太子だと思うけど…。
ナッシュ様は一瞬で私達の前に移動してくると、跪くオンダカスミさんを見下した。
「私の前で偽りは許さぬ。身元を明らかに示せ」
ナッシュ様の問いかけにオンダカスミさんは肩を震わせてから一層頭を低くした。
「すぐに…この国を出て行きますから、ですから…ここで私を見たということを忘れて下さいますか?」
どういうことだろう?彼女が皇宮に来ていたこと…ナジャガルに居たことがばれるとマズい何かがあるのだろうか?ナッシュ様は少し息を吐き出した。
「何も君を糾弾しようとか、捕えようとかそういうつもりはない。もし間違っていたらすまないが…君のような動きをする者を知っている。はっきり言おう、君はどこかの国の暗部の人間だね?」
えええ?!あ、暗部って…あの諜報機関のぉ?!
オンダカスミさんはすでに土下座をしている。
「お願い致しますっ!すぐに出国しますのでご迷惑はおかけしませんので、私の存在は内密にして下さいませ!」
もう答えたも同然だった。この異世界人、元教師のオンダカスミさん享年32才はどこかの国の暗部…つまり、諜報機関の人間だということだ。シューテ君とお兄さん(警邏)が素早くオンダカスミさんの背後に立った。
「私は諜報…つまり暗部を操る立場の者だ。うちの暗部の連中は侵入している国の王族の顔など情報として頭に入っている。それどころか真正面から迂闊に王城などには近づかない。君は身体能力的に暗部の者だと思われるが…技能に関しては素人のようだ。どういうことだろうか?身元を明かしたくない理由はその辺りにあるのではないか?」
ナッシュ様は若干柔らかい物言いに話し方を変えた。そして「こんな門前で地面に突っ伏している方が目立ってしまうよ?」と付け加えた。
オンダカスミさんはヨロヨロと立ち上がった。すぐにシューテ君とシューテ君のお兄さん(警邏)の二人がオンダカスミさんの両脇を抱えた。これじゃあ連行しているみたいじゃないのよっ!と、文句を言おうとしたら、オンダカスミさんに微笑みながら目で制された。
彼女が構わない…って言うならいいけどさ…。
私はオンダカスミさんの後ろを未来と共に歩きながら(車椅子はやめた)オンダカスミさんに話しかけた。
「オンダさんはどういう漢字を書くの?」
「あ…はい、恩に着るの恩と田んぼの田で香りの香に空気が澄んでいるの澄です。」
「教師って言ってたけど、小学校の先生?それとも中学?」
今度は未来が話しかけた。恩田香澄さんは少し微笑みながら「中学校です。専門は国語です。」と答えた。
「おおっ~」
何となく未来と私で感嘆の声を上げる。
「差支えなかったらでいいのだけれど、お亡くなりになった原因は?」
と私が聞くと恩田さんは苦笑いを浮かべた。
「学校の行事で林間学校ってありますよね?私、その引率で生徒達に同行していたのですが、野外活動のトレッキングの途中で一人で崖から落ちてしまいまして…お恥ずかしい話ですがその時に亡くなってしまいました。私の完全なる不注意なのですが…生徒が巻き込まれなくて幸いでした。ただ…私が林間学校の活動中に不慮の事故とはいえ亡くなったことで…生徒達に何か迷惑をかけているんじゃないかと…そのことが気がかりです」
香澄先生…。今度学校名とかお聞きして事故後の詳細調べてみようかしら…。
そんな過去話をしながら、ナッシュ様とゼべロッパー大元帥を先頭に皇宮内に入って行った。そうして暫く歩いていると複数の女性の鋭い悲鳴が聞こえて皆が一斉に身構えた。
悲鳴を上げた女性…メイド達はこちらを見ながら何か小声で囁き合っている。なんだ?なんだ?
「シューテ様がっ…」
とか
「何っあの女…」
とかの微妙に聞こえるようなトーンで漏れ聞こえる声で気が付いた。そう…シューテ君は連行しているような形で香澄先生の腕を取っている。見ようによっては腕を組んで歩いているように…見えなくもない。
香澄先生は自分が標的にされて噂されていると気が付いたのだろう。若干上擦った声で叫んだ。
「ご、誤解ですっ。こんな若い男の子とオバサンが…だなんてっ…。勘違いなさらないで下さいっ!」
いやいやいやぁ…香澄先生さ~興奮して忘れておいでかもしれないが、あなた今は香澄先生の言葉を借りるなら、メガネデブの32才のアラサーじゃなくて、シューテ君の横に並んでも年齢も見た目も釣り合い取れてる、スーパーモデルなんだからさ…自覚ないのかな…。
「持ち場に戻りなさい」
ゼベロッパー大元帥が一喝するとメイド達は蜘蛛の子を散らしたようにいなくなった。
香澄先生はシューテ君に必死で頭を下げていた。ジャパニーズ式謝罪である。
「ごめんなさいっご迷惑おかけして…後で皆さんに誤解だとご説明お願いします」
「はい、まあ…大丈夫ですよぅ…」
シューテ君はニヨニヨしながら半笑いだ。シューテ君よ、私気づいているよ?本音は噂されて嬉しいんだろ?
すると香澄先生の反対側の手を掴んでいたシューテ君の二番目のお兄さんが溜め息をついた。
「シューテ、お前さ~そういう時は、あなたのような美しい方と噂されるなんて光栄ですよ…ぐらい言えよ~気が利かないなぁ」
お兄ちゃんからの苦言にシューテ君は次兄を睨んでいる。図星だもんね、言い返せないよね。
そして来客用の貴賓室にナッシュ様と私、大元帥と息子さん三人と未来と恩田香澄先生のメンバーが入った。他のウオカー制作委員会の方々はそれぞれの職場に戻って行った。皆が室内に入るとナッシュ様が消音魔法をかけた。
「さあ、君の正体を教えてくれ」
ナッシュ様の言葉に皆がスーパーモデル香澄(仮)に注目した。




