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ジューイの本気

いつの間にか沢山のブックマークありがとうございます^^

すぐ終わると言いながら長々続いておりますが宜しくお願いします。


「ザック君は甘いお菓子好き~?」


「はいっ大好きです!」


「きゃああぁ~可愛いわ!」


美園ママがザック君をギューッと抱っこしている。実奈美お姉様と由梨ちゃんはナッシュ様とザック君とムービーやら写メやら散々撮ってからそれぞれのご家庭へと帰って行った。


ナッシュ様は明日には帰るつもりだ…と言っていた。ザック君がもっと遊んでいたい~と訴えていたが


「あまりこの世界に居座って干渉することは好ましくは無い…。これは私がこの世界の魔力を感じて、判断した。この世界は魔力が消費されずに大量に浮遊している。私達が居ることで魔力の消費が過干渉を引き起こして…世界の魔質の均衡を動かすことに繋がるかもしれん。ポルンスタ爺やアポカリウス様がこちらの世界に渡ることが可能でも、不必要に干渉しなかったのはソコが原因かもしれない」


と、怖い顔で諭していた。ザック君は話の内容はよく理解出来ていないのだろうけど、ナッシュ様の迫力に押されて頷いていた。


後でポカ爺とポル爺二人に聞いた所によると


「深い意味なんて無いよ~あの世界で魔法使って悪目立ちしたくないだけだよ!」


「昔、魔女狩りとやらがあったと聞くしな、異端はイカン…ホホ…これが駄洒落というやつかな?」


はぁ…そうですか…ナッシュ様の取り越し苦労ですか…。


ザック君が異世界から持って帰って来た、某テーマパーク特集の観光雑誌を見てここに行ってみたい!と騒いでいたので…もしかすると近いうちに行くことになるかもしれない。


さて、片倉家でもガレッシュ様は手厚く接待を受けたようで、ご満悦で帰ってきた。


「ミライのご両親もおじいちゃんもお姉さんも弟さんも皆いい人達だね!」


「邦子母と佐代里姉がうざくてすみません…」


なんでも日帰りで温泉に行ってきたらしい…。いいなぁ~。温泉まんじゅうのお土産を未来から受け取った。


「先輩達はどこかに行かれたんですか?」


「私のベビー用品の買い物と某三ツ星のレストランでディナーと某ホテルのスイートで宿泊よ。高級感溢れる一泊二日だったわ」


「流石、セレブ」


温泉帰りもスイート宿泊帰りもそれぞれ満喫で良かったね~と話しつつ…皆で再びなっちゃんちに集合した。なっちゃんは眉を下げて悲しそうな顔で私達を見ていた。


「皆様にお会い出来てとても楽しかったです。ありがとうございました」


ザック君がなっちゃんに手を出したら、なっちゃんはその手を握り返して笑っている。


「ザック君元気でね…」


ハリウッド女優が泣きそうになっているわ…。と、思ったらノリがすいっと一歩前に歩み出た。


「なっちゃん…また離ればなれになるけど…お手紙送らせてね?返事頂ける?」


「勿論ですっ…はい!」


ノリがなっちゃんの耳元で何か囁いている。なっちゃんは一瞬びっくりしたような顔をしたけど、すぐに泣き笑いの顔になった。


ジューイがなっちゃんの前に立つとモジモジしている。皆がジューイに注目する。


「その…手紙下さい…俺も返事書くし、で、その…」


「ジューイさん」


「は、はいっ!」


なっちゃんはジューイを見ながら目を潤ませている。この目に見られて落ちない男はいない…。


「私…こちらの生活好きですけど、思い切って異世界に行ってもいいかな~とか思っているんですよ。だから…私が行っても…」


ジューイの馬鹿はその言葉で興奮したのか


「ナツキッ!絶対迎えに来るから…」


と叫びながら抱き付こうとした。


その時風が一陣…私の前を通り過ぎたと思ったらジューイのマッチョボディが空中を舞い、ドスンと床に落っこちた。


風の正体は未来だった。多分…後頭部を強打したんだろう…悶絶しているジューイを見下しながらものすっごい怖い顔をして未来は中指を立てていた。


「変態っ滅べ!幼児偏愛者っ滅べ!」


とジューイに罵声を浴びせた。何故だかガレッシュ様もなっちゃんの前に怖い顔をして立っている。あらら…なっちゃんの周りには強力なガーディアンがついているわよ?まあ、頑張んなよ、ジューイ。


さあ、そろそろ帰りましょうか~と大型冷蔵庫の前に移動はしたものの…この冷蔵庫の中に入るのが至難の業だと思われる。ぶっちゃけサイズ的にザック君とノリくらいしか入れないんじゃね?の大きさだ。


「物質の常識を無視しているわね…」


「私が最初に行きましょうか~。まあこれは後でも先でも狭くて痛いのは変わらないと思うけど~。」


未来さんの言う通りだね。どうせ痛いならどの順番でも構わないか…。


何となく皆で美しき譲り合いのどーぞ、どーぞをしていると…ミーツさんが華麗に手を指し示した。


「ゾアンガーデ中佐お先にどうぞ」


「ミ…ミーツさん?!なんで俺?」


ミーツさんはニッコリと微笑んでいる。


「おや、当然じゃないですか?先に魔法陣の元に戻って魔力供給をして頂かないと…それに一番最後まで残るのはダメですよ?私もナツキの護衛騎士に名乗りをあげていますので」


ミーツさん鋭いっ!確かに一番最後まで居座って、皆がいなくなった後に何かいたずらするかもしれないしね~変質者の常套手段だね。


また未来が射殺しそうな目でジューイを睨んでいる。ほらほら、殺されたくなかったら先に行きな。


ジューイは渋々冷蔵庫の中に上半身を突っ込んだ。え?それでいいの?と、思ったら一瞬でジューイは消えた…。


「なんだ、あれぐらいの突っ込み方でもOKなんだ」


「もっと体全体が入らなければいけないのかと思っていたな」


そうナッシュ様と笑い合っているとなっちゃんがトコトコと近づいて来た。


「あの…ジューイさんの名誉の為に言っておきますが、本当に何もイヤらしいことはされてませんので」


「本当?ヤリ○○だって聞いたわよ?」


「葵も言っていた、二股というのだったか?なんて当たり前だったしな」


なっちゃんは綺麗なご尊顔を曇らせた。ありゃ…?


「そ、そうですか…ジューイさんモテますよね…当然か…」


なっちゃんの魔力がどよーんと暗くなっている。するとノリにドンッと脇腹を突かれた。


「なっちゃん、ジューイさんの事ちょっと気になってるのよね~」


何だって?!ハリウッドナツキが、変なおじさん、変質者のジューイのくせにが好きですと?!


なっちゃんはノリにそう指摘されると真っ赤になって手をワタワタと振っていた。


「勿論っその…ジューイさんに特定の方がいるというのは分かっているつもりです!公爵家のお坊ちゃんだし格好いいし…優しいし」


思わず皆がなっちゃんの周りに集まってくる。なっちゃんは益々ワタワタと慌てた。


「私じゃ不釣り合いなのは十分承知しているつもりです…」


何を言っているんだ?ハリウッド女優…と言いそうになって、そう言えばなっちゃんは過去のトラウマから自己評価が低いことを思い出した。


何言ってんのっジューイには勿体ないくらいの美女なのに…。


「なっちゃんに修羅場男は勿体ないですよ!そうだ、ルル様とかジャックスさんもオススメじゃないですか?」


おおっ!そうだよ、ジューイなんかになっちゃんは勿体ないよ。


「そうだよっ~こっちの世界の美男子を選り取り見取りだよ」


なっちゃんは戸惑いながらも少し微笑んでくれた。


「私でも…好きになってくれる人いますかね?」


な、な、なっちゃん!ナッシュ様以下男性陣が息を飲んだ。そりゃそうだ、逆な意味でなっちゃんに好かれたいと思うメンズは沢山いるけれどさ…このなっちゃんの自分に対する自己評価の低さっ…。思わずノリを見る。ノリは困ったような顔で頷いている。


そうか…この自己評価の低さが、私なんかが…どうせダメだし…等々そういう思い込みがなっちゃんを恋愛から遠ざけていたのかもしれない。こりゃジューイ、気を付けないとなっちゃんはすぐ後ろ向きになって逃げだしちゃうかもしれないよ…。


「ああ、やだっ本当に皆さんと一緒に行きたくなって来ました」


そう言いながら涙を浮かべたなっちゃんに抱き付いた。可愛すぎる…ジューイにはやらんぞ!


「いつでもおいで!大歓迎だから!」


皆がなっちゃんに優しい目を向けている。そして私達は冷蔵庫から異世界に戻った。


戻った途端…フロックスさんに嫌味を言われた。手紙で知らせたとは言え、無断で出国?してしまったことには違いない。嫌味攻撃を粛々と受け止める…。あれ?これはまるで地鎮祭をしているようだ。フロックス神主さんのお祓いを並んで受けているような皆の立ち位置である。粛々…。


「まあ、定期討伐までに溜まった仕事を片付けておいて下さい、以上です」


フゥ~やれやれ…。なんで妊婦の私まで直立不動で地鎮祭の祝詞(説教)を受けなければいけないのだ?お腹の子は今は寝ているのか静かだ…。


なんだかムカつくことに先に帰っていたジューイは何事もなかったかのように仕事をしている。澄ましやがってぇ女性の敵の変質者めっ!


ジューイは仕事をしつつさりげなくなっちゃんに手紙を送っている。気づいているからなっ見てるからなっ!


その翌日、ナッシュ様はグローデンデの定期討伐に出かけた。私は妊婦につきお留守番である。ナッシュ様から『アイノゲタバコ』で料理を送ってくれ…と頼まれているので食事時に作ったものを人数分送っている。意外に疲れる。


今回の討伐隊員はナッシュ様、フロックスさん、ジューイ、ルル君、ジャックスさんだ。てか、ジューイなんか連れて行って足手まといじゃないの?と、コロンド君に聞いたらキョトンとした顔でこう返された。


「ジューイ中佐は結構お強いんですよ?生き物を殺すのがなぁ~とか言っておられたので血生臭いことが苦手なのでしょうね。ほら、公爵家のご子息ですから」


いやそんなこと言うなら、うちの旦那も皇太子殿下だけどさ~自分で絞めた魔獣鳥の丸焼きを平気で食べてるような高貴な人だけど?


さて、討伐で皆がいなくなった次の日


ジューイに片思いの…実は両想いなのを知らない気の利くなっちゃんは、今日も今川焼を送って来てくれたので、その今川焼をモグモグ食べながら書類を捌いて行く。


そうそう今日、未来の婚姻式のドレスの仮縫いが出来たらしいのでデジカメで撮影しに行かなくては!…である。


そういえばなっちゃんに金銭的にも負担かけてるな…と気にしていたのだが…あら、びっくり!ノリが自分の持っている株を全部売っ払って、なっちゃんにそのお金を軍資金として渡していたのである。いつの間にそんな手続きを?ものすごい額だったらしくなっちゃんは慄いていたらしいが、必要経費だから!で押し切ってきたらしい。


この今川焼もその軍資金から出ているらしい。ノリにお礼を言っておこう…。


「そういえば、異世界のナツキさん、ものすごくお美しい方だったそうですね。あんな悪態をつく中佐じゃなくて落ち着いてて格好いいルル先輩とかうちの兄なんか如何でしょうかね~」


ジャレット君っ…!あなたますますコロンド2号化しているわよ~。すると本家コロンド君がなっちゃんから頂いた緑茶を私に入れて出してくれた後に


「知ってます?ジューイさん、厚かましくナツキさんに『カキピ』とか『ポテチ』とか言う食べ物をこっそり送ってきてもらってるんですよ?ご自分じゃ、殿下に物の催促を厚かましくするな…とか言ってましたけどね。あんな大人にはなりたくないですね」


と、今はいないジューイの机を睨んでいる。本家はもっと毒舌だな…。カキピ…ああ、某メーカーのおつまみか。ポテチ、ポテトチップスかな?スナック菓子か~。ジューイも大概お菓子好きだな。


その日に行われた婚姻式のドレスの仮縫いの様子の未来をデジカメに収め、デジカメはなっちゃんに送り返しておいた。未来が作ったブルーベリーっぽい実のタルトもお礼につけておいた。


夜、なっちゃんからお手紙が来ていた。


『ジューイさん達、魔物が居るという危険な所にお仕事で出かけているのですよね?魔物ってイメージとしては大きくて怪獣みたいな感じを想像しているのですが、大丈夫なのでしょうか?心配です。 ナツキ』


あ~恋する乙女としてはジューイの安否が気になるのよね!大丈夫大丈夫。うちの旦那が規格外に強いからどんな魔獣も一撃なのよ。ジューイは只の引率だから全然大丈夫だからね!


と、書いて送り返しておいた。


ところが、ところがだ。


なんとジューイが手首と肋骨を骨折して帰ってきたのだ。なんでもナッシュ様とは別行動中に子供の魔人が出て、ジューイとルル君でなんとか退治出来たものの、どうやら子供…というだけでジューイが攻撃を躊躇ったらしい。


「気持ちは痛いほど分かるがな…子供とはいえ、人を襲うし危害を加える。」


珍しく一応目上で一つ年上のお兄ちゃん風を吹かしながらナッシュ様がジューイに説教をしていた。


命に別状は無い怪我とはいえ、完全なる完治には二、三日はかかるらしくジューイは特別休暇扱いになっていた。


朝、空席のジューイの事務机を見ながら未来が気になることを呟いていた。


「ガレッシュ殿下が昨日の夜に詰所に誰かが入って行ったんで追尾をしたら、ジューイだったので警戒を解いた…って言ってたんですけど…なんか妙だと思いません?今、利き腕の左手首を骨折してますよね?仕事も出来ないし…夜、詰所に何の用事でしょう?」


私はピーンと来た…というか嫌な予感がした。特に今、目の前で首を傾げている未来が激おこしそうな事態であることは間違いないと思う。


どうしよう…不確かな情報で未来を煽ってしまうかもしれないし、もし外れならジューイにとばっちりが行くかもしれない。うむむ…。


すると、自称ナツキの守護者の一人、ガレッシュ様が仁王立ちで第三の詰所入口に立っていた。


「ミライ…どうしても気になったんでゾアンガーデ家に聞きに行って来た。ジューイは昨日の夜から帰って来ていないらしい。いつも外泊ばかりなので叔母上は気にしてはいなかったが…俺はある結論に辿り着いた…。ジューイの奴、ナツキの所に行っているんじゃないか?」


ひえぇぇ…?!やっぱり?やっぱりそう思います?!ガレッシュ様?


「な…なぁんだって…?」


未来っ落ち着いてっ魔圧が上がって来てるから…。


未来はジューイの魔法陣の上にバアアアンと手を置いた。魔圧と居合?の気迫で部屋の空気が震えてます!


「…チッ!起動しやがらねぇ!おいっ誰か魔術師団の団長か副団呼んできなっ!」


「はっはい!只今!」


ジャレット君が猛ダッシュで駆けて行った。


「あんの変態野郎!変質者!○○コン野郎!」


未来様が魔圧を撒き散らしながら、ブツブツと呪詛を繰り返しておられます。ちょっとちょっと、未来の旦那っあんたが落ち着かせてやってよ。…と、ガレッシュ様を見たら未来同様、目が据わっておられます。


「二人共落ち着かないか…。何もジューイがナツキの所に行っているとは限らないだろう?」


ああ、ナッシュ様…余計なことを。未来がグルンと首を動かしてナッシュ様を睨んだ。


「はぁ?んじゃどこに行ってるんだっつーの?女か?女の所か?じゃあさ、一生その女の所に行ってりゃいいんだよ!なっちゃんに少しでも近づいて見ろっ引き千切ってやるからなっ!」


こ、怖い…。ナッシュ様は「す、すまん」と真っ青になって謝っている。


こりゃ別の女性の所に行っていてもアウト、なっちゃんの所に行っていてもアウト。


どうするジューイ?ピンチだよ?


ピリピリしたムードの中、ジューイが次の日の夜、ゾアンガーデ家に戻って来たと…暗部の密偵から連絡があった。こんな私的な事に国の諜報機関を使うのやめなよ…とは思ったけど、至って真剣な雰囲気のガレッシュ様とつられて厳格な態度になっているナッシュ様には言えなかった。


一方、あんなに怒っていた未来はケロッとしていた。


「いやね、ノリさんに言われたんですよ。両想いの大人の二人なのだからなっちゃんだって、よく考えて受け止めるだろうって。もし二人の仲が順調で上手く添い遂げた後に、もしジューイの不貞が発覚すれば私達が罰を下せばいいって、それもそうですよね~今はまだ修羅場男もさすがに大人しくしてますもんね。いつかは私が…」


未来がギュム…と握り拳を作った。ジューイ生きてられるかな…。


それから…すごい修羅場?が何度かあった。どうやらジューイのくせになっちゃんとのことは本気のようだった。まずはゾアンガーデの両親に頭を下げて、なっちゃんとの婚姻を認めて下さいとご挨拶したそうだ。


わざわざカッシュブランカ様とリリアンジェ様が離宮にいらっしゃって


「あんな軟弱でフラフラしていたあの子も立派になってぇぇぇ…」


と母娘で泣き崩れていた。なんだ、そっちの心配をしていたの?じゃあ婚姻はOKなんでしょうか?と、お聞きした所


「ジューイに『シャシン』という絵紙のナツキの姿を見せてもらったのよ。綺麗なお嬢さんよね!オホホ」


「これでジュー兄様も落ち着くかと思うと安心しましたわ」


ゾアンガーデ家の方は問題ないようで安心した。


問題は…。皇宮の外の軍部の玄関口で起こった。ジューイの元カノ?と今カノかなんだか分からない女が乗り込んで来てジューイに詰め寄ったのである。


「この間も話したけど、婚姻したい女性が出来た。もう遊びには連れて行ってやれない。すまん」


ジューイは慌てず騒がず沢山の軍人達が見守る中、女性二人に淡々と説明していた。


公爵家のぼっちゃんが謝罪している…しかも、自分より格下の身分の女性にだ…。周りのギャラリーのざわつきっぷりと言ったら凄かった。


女性二人は茫然としたまま帰って行った。逃げも隠れもしないジューイの本気に当てられたみたいだ。


そして、ジューイはその後も黙々と仕事をこなしている。


こりゃ本気だね。おまけに…次の日ナッシュ様と私に向かって膝を突くと頭を低くした。


「皇太子殿下、アオイ妃にお願いしたいことが御座います。私と一緒に異世界に赴いて頂き、ナツキの親族との顔合わせに後見人として御立会い頂きたいと存じます」


ナッシュ様と思わず顔を見合せた。ジューイは本当に本当に本気のようだ。


ノリと未来に相談して、片倉家と實川家の方々にもご出席頂くことになった。いくらなんでも、異世界人と結婚しまーす!じゃあね!では信じてくれないからとの判断からだ。


日本のセレブレティの後見人もいれておけばなっちゃんのご家族も納得してくれるだろう。


ただなっちゃんがこちらの世界に来るにあたって懸念されることが一つあった。


今日は、ナッシュ様とガレッシュ様と私と未来でSSSのポルンスタ爺の所にお邪魔していた。お宅にお邪魔するとノリとミーツさんとミーツさんのご両親とお弟子さんのタミアさんが待ち構えていた。


「邪魔してすまない。お聞きしたいことがありまして…」


ナッシュ様が膝を突くミーツさんのご両親達に微笑んで会釈してから、ポルンスタ爺の座っている座椅子?のような椅子の前に近づいた。


「ポルンスタ爺、お聞きしたいことがありまして、異世界に施術している転移の魔法陣ですが魔力の供給元の術者がこちらの世界に来てしまった後は魔法陣はもう使えないのでしょうか?」


ポルンスタ爺はゆっくりと目を開けて、ナッシュ様を見た。


「異世界側からの魔力供給が止まれば、異世界側からの接触は無理じゃ。ただ魔法陣はあの土地に施してある。あの世界が消滅しない限り生き続ける。しかし、それもワシの寿命が尽きるまでじゃのう…」


ああ、そうか術式ってかけた本人が亡くなったり、意識して解いた場合は消えて無くなるものね…。


その時ポルンスタ爺の後ろに居たミーツ兄さんとノリが爺の横に膝を突いた。


「爺、その術式…俺が引き継ぐことは可能か?」


爺は少し顔を動かしてミーツ兄さんを見た。


「それをするには…魔力量を増やさせねばならん…前も言ったがお前一人にこの魔法を行使させると負担が大きい…。じゃから異界からワシの魔質によう似た…お前とも相性の良い魔力波形の女性を呼んで…二人で分けて、肩代わりしてもらおうかと思っておったと…その話には続きがある。この召喚魔法を使う為にはワシの扱える魔法のほとんどを習得出来ないと無理じゃ。ノリとミーツ、お前達は今から魔術の訓練に集中出来るか…?」


ミーツさんとノリは顔を見合わせた。長年の付き合いで分かる…ノリは決意した目だ。


「爺、もう覚悟は出来ている。ノリとも良く話し合った」


「お爺様、私この異世界に来て思ったのです。いくらこの世界の為に頑張ってくれ、と頼まれても自分の住んでいた世界に二度と帰れないとなると女性としては精神的にも不安になって、勇者の剣の召喚も上手くいかないのじゃないかって…ですから、必要に応じて里帰りが出来て…異世界間で隔たりが出来ることの無いようなシステム…方法を作れれば異界からの召喚者の方の心的負担も少なくなるのでは…と」


ノリ…!あなた…。ノリは私と未来を見て微笑んだ。


「爺、私もミーツ達の提案に賛成です。ミーツ達は魔術師団所属という扱いにさせてもらい、ナジャガルが生活の保障も致します。行く行くはミーツ達が会得した特殊魔法で応用出来そうな術式を師団で使わせて頂く…これでどうですか?」


ナッシュ様…。ポルンスタ爺は満足そうに頷いた。


「ホホホ構わんよ。ふぅ~やれやれ長かったのう…この展開に来るまでに30年はかかったわ…。」


ええ!?ポル爺30年前から画策していたの?


「よし、これで私達が剣を召喚して…ポカット爺の魔法を停止した後に溢れ出た魔素を祓えば任務完了ですね。あれ?そう言えばポカット爺は魔法使わなくなったらどうなるの?」


ポカット爺…確かにポカ爺はポカっとしたじーさんよね、なるほど。未来はそう言うとポル爺を見た。


「理論上は特殊魔法を解呪して…アポカリウス殿は亜空間から出てこれる。自身に使っている…ワシも術式は分からんが特殊魔法の時間停止魔法も解呪されれば、アポカリウス殿に一気に死が訪れる…か、ゆっくりと老化が訪れるか…それは分からん」


「!」


そうか…すべての術式を解呪したら、ポカ爺の人間の寿命に逆らっていた反動がやってくる。すぐ死ぬか…いつ亡くなるかそれは分からないんだ。


「じゃあ、私達が剣を召喚するからポカ爺、もう魔法使うのやめなよ…って言うのは死んで下さいって言っているのと同じことなの…?」


ナッシュ様が私の肩を抱き寄せた。


「アオイ…」


そんなことをポカ爺に言わなくちゃいけないの?


何か何か…打開策は?


すると、私の背後に見知った魔力が突然現れた。その主は私の顔を覗き込んだ。


「ポカ爺…」


ポカ爺その人だった……。


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