圧がすごい
朝、ジューイの机の上にペロンと便箋が二枚乗っていた。なっちゃんかな~とか思ってみたら見たことのある美麗文字でこう書かれていた。
『今、異世界のナツキの所に来ています。心配しないで下さい。 ジューイ=ゾアンガーデ』
な…なななぁ?!急いでもう一枚の紙を見る。こちらはなっちゃんの字だ。
『何故だかジューイさんがこちらに来ています。もう少しこちらに滞在されるそうなので、怒らないであげて下さい。うちの社長が大きな冷蔵庫をプレゼントしてくれたのですが、その大きな冷蔵庫の中に転移されて来ました。原因は分かりません。どうしたら宜しいでしょうか?お返事お待ちしています。ナツキ』
冷蔵庫の中だって~!?思わずジューイがぎゅうぎゅうに詰まっている状態を想像した。苦しくて内臓飛び出しそうだったんじゃない?とにかく無事で何より…。
するとフロックスさんとコロンド君が詰所に入って来た。ナッシュ様は7日後から行くグローデンデの定期巡回の打合せで備品保管庫に行っている。
「おはようございます」
「おはようございます、アオイ様」
フロックスさんは私が茫然として便箋を握り締めているので、怪訝な顔をした。
「何か…ありました?」
私はフロックスさんに便箋を渡した。フロックスさんとコロンド君は便箋を読むと二人して固まっている。
「な…なんですって…?」
やっとフロックスさんが絞り出すような声を上げた。コロンド君なんてまだ固まっている。
詰所内はパニックになった。ナッシュ様が戻って来たので、皆で魔術師団に押しかけて原因をアレコレ探り、ジューイの魔法陣を一度使ってみよう…と副師団長のペッテルッカさんが言い出したのでまた皆で第三の詰所まで戻った。
ジューイが異界に転移!?の噂を聞きつけたのか、ガレッシュ様と未来、ノリが来ていた。
「ペッテルッカの言う通りに一度魔法陣を使ってみるが…誰か志願者はいないか?」
ナッシュ様の言葉に一同は静まり返った…そりゃそうだろう…上手く起動するか分からない異世界転移…下手をすれば異空間に落ちてしまうかもしれない。誰が好き好んで使ってみようと思うものか…。
「よーし、乗っちゃお!」
「で、殿下?!」
「ガレッ…?!」
猛者がいた…そうだった。絶対押すな!と書かれたボタンを押すタイプの人間がここに居た…。あっと言う間に、机の上に置いてある転移魔法陣の上にガレッシュ様はジャンプして降り立っていた。
皆が…あまりの衝撃に固まっていたが、素早くナッシュ様がガレッシュ様を叩き落とした。早すぎて落っこちた所しか分かんなかったわ…。落とすのも如何なものかと思うけど…。
「いたぁ~兄上痛いよっ、マジ痛い!」
「馬鹿ッ!考えなしに乗るんじゃない!お前は皇子殿下なんだから身を挺していい立場じゃない!」
ナッシュ様は割と本気怒りだった。流石にガレッシュ様がしょぼんとして、ごめんなさい…と謝っていた。
そしてどうしようか…という雰囲気になりかけた時、未来がササッと歩いて来るとあの魔法陣をお尻で踏んづけるようにして座った。
「ミライ?!」
今度はガレッシュ様が血相を変えた…が、近寄ろうとしたガレッシュ様に未来はめっちゃ怖い顔を向けた。
「ガタガタ騒いでんじゃねぇよ!大人しく見てな!」
怖い…逆らってはいけない。ガレッシュ様は小さい声で、はい…と返事をした。未来は15秒ほどジッと腕を組んで座っていた。
魔法陣に変化は無い。
「起動しないな…」
「ミライちょっと退いて、魔法陣見せて」
未来は大人しくお尻を退けるとガレッシュ様に魔法陣を見せた。ガレッシュ様は熱心に魔法陣を見ている。ガレッシュ様の後ろから副師団長のペッテルッカさんと魔術師団の方も覗き込んでいる。
「これは術者を限定しているね…」
「そのようですね…どうやら魔力を感知して発動しているようです。しかもここ、ガレッシュ殿下分かりますか?古代語魔法のようなのですが…」
「う~ん」
ペッテルッカさんが指し示す文字を見てガレッシュ様は首を捻っている。するとヒョイと覗き込んだ未来が事も無げに
「微粒子魔力変換…吸収と生成と描いてますよ~」
そう言い切った。これは初めから未来に読んでもらったほうが良かったのでは?
「吸収と生成だって…?!ということは、この魔法陣には禁術の魔力を作りだす術式が描いてあるのか…。それが描かれているとなると、術者限定とはいえその魔力を感知するかぎり無制限に発動出来るのか…素晴らしい」
「魔力の永久機関ですか…これはまた術士なら一度は試みたい術式ですね…禁術ですが」
ガレッシュ様の説明にペッテルッカさんが違法スレスレな発言をした。使ってみたいんだ禁術…。
「なるほど、この術者限定はジューイのことだろうが、ジューイがこの魔法陣を起動しているかぎり魔力を注がなくても…ジューイから勝手に吸収し発動してくれるわけだ。たまたま今回は転移の魔法陣だったが、これが暗黒系の攻撃魔法だと思うとゾッとするな。魔力を吸収しながら攻撃をし続けてくるのだからな…」
本当だ…それは恐ろしい…というか、魔力保有量の多い人を術者にしていれば勝手に吸収してしまい本人の意思とは関係なく攻撃魔法が作動してしまうなんて、確かにこれは禁術指定される術式ね。
「あ?でも、今、転移魔法が使えないのは何故でしょう?」
コロンド君がそう聞くとガレッシュ様が頷いた。ペッテルッカさんも頷いている。
「今この世界にジューイがいないからだろう…さすがに異世界から魔力は吸収できないみたいだね」
私は、はいー!と手を上げた。ガレッシュ様が何だか嬉しそうな顔でこちらを見ている。
「質問かな~?義姉上?」
「異世界のなっちゃんはどこから魔力を吸収して、発動しているのでしょうか?」
ガレッシュ様はうんうん、と頷いている。
「実はポルンスタ老に今回の転移魔法の術式教えてもらったんだ~。そもそもまず最初に、異世界に転移してからナツキを見つけて、ナツキの魔力を吸収するためにこの魔法陣と同じ術式を展開する空間を作らなくちゃいけなかったんだって~つまり、ナツキの住んでいる家にポルンスタ老があらかじめ大規模な魔法陣を作っているんだって。これ、多分老師しか出来ないよ?あ、ザックのお父さんなら出来るかな~」
な、なんと…!ポル爺は最初からなっちゃんをロックオンしていた訳だ。なんでまた彼女だったんだろうね…。
「先の世代の勇者の血脈がどうたらこうたら~とか言ってたけど…つまりナツキと異世界を繋いでいないとこっちの勇者と乙女の廻りにも影響が出る?ということかな…これは俺の解釈だけど」
「しかし何故、冷蔵庫がその魔法発動する場所なのでしょう?」
ノリが魔法陣を見詰めながらそう答えた。そう、こっちに来たノリに聞いた所によると、最初転移が起こっていたのはなっちゃん所有の水色のレトロタイプの単身用の冷蔵庫の冷蔵部分の中段だったらしい。
因みに上段や冷凍庫からは一切転移は行われないらしい。本当に謎である。今は實川のおじ様がプレゼントした6ドアの大型冷蔵庫からでも転移が行われるらしい。
ちょっと…一人暮らしの女の子の部屋に6ドアのどでかい冷蔵庫って…常識外れよ?とノリに言ってみたら
「お父様がプレゼントしたかったらしいのよ~」
と言われた。
いやそうじゃないよ、ノリさんよ。もっと26才の女の子が貰って嬉しいもの尚且つ、場所を取らないものが良かったんじゃない?自分が貰ったら即物置扱いだね。
さて魔法陣だが未来が乗っても起動しないので、恐々だがここに居る皆で代わる代わる魔法陣に触れたり乗ってみたりしてみたが、やはり何も変化は起こらなかった。
とりあえず向こうから手紙は送れるということは、なっちゃんサイドからは魔力は供給されているわけではある。ひょっとすると手紙の類くらいは送れるのでは…とのペッテルッカさんの見解に基づいて、なっちゃんに手紙を送ってみた。
見事手紙は消えて無くなった。
「人間は送れなくてもモノは送れる魔力は供給されている…という訳ですね。分かりました…」
んん?フロックスさんがジューイの机の上に置いてある書類を束ねると次々に魔法陣の上に置き出した。
ぎゃあ~!折角異世界に逃げて?いるのに、仕事送り付けないであげてよ~。とは心の中でしか叫ぶことは出来なかった。だってナッシュ様が、そんなことしないでさ~異世界でのんびりさせてあげれば…的な事をうっかりフロックスさんに言ってしまい、氷の女王に氷漬けにされていたのを見てしまったからだ。
「でも、向こうでは誤差が一時間くらいだと言ってたわよね?私、曜日のカレンダーを持って来ているの…今日は水曜よ?なっちゃん仕事じゃないかしら…ジューイさんマンションで一人お留守番かしら?大丈夫かな~?」
ノリちゃっかりしている。平日ならなっちゃんもいないしジューイも一人で動けないわよね…チラリとフロックスさんを見る。ある意味仕事で時間潰しが出来るのかもね…。
その次の日、詰所に行ったら机の上に何か見たことのある容器が沢山並んでいた。
こっこれは…!思わず走り寄ってしまった。
「コレ何…って?まさかそれ…菓子か?菓子なのか?!」
ちょ…おいっ旦那よ!私を押しのけてまで見るこたぁないだろうよ?これでも妊婦さんだよ?
「コンビニスイーツよ~あら?ジューイから素敵なメッセージが~『コンビニという店で綺麗な菓子を売っていたのでナツキに買ってもらった。ナッシュとザックで仲良く食べてくれ。 ジューイ』ですって~流石、気が利く男ね!ジューイさんはぁ~」
ナッシュ様とザック君は二人で小躍りしている。
でもザック君は流石だった…!ヴェルヘイム様に、もしもしテレフォンで連絡して…ちゃんとスイーツ大好きなお兄様にもコンビニスイーツのお裾分けをあげたのである。
優しい!出来た弟だ!どこかの大人も見習え!
ヴェルヘイム様もザック君にモンブランのケーキを貰った時、目頭を押さえていた。弟の成長にお兄様も感涙よね?
ヴェルヘイム様は帰るまでザック君を抱っこして、ニコニコしながらザック君と話し込んでいた。ヴェルヘイム様の満面の笑顔を初めて見た。すかさずデジカメで隠し撮りをした。え?盗撮じゃないかって?見逃してくれ…。
そういえば…
ザック君がナジャガルに行くと言った時、ヴェルヘイム様は移住に猛反対した…って聞いたけどクールに見えて案外ヴェルヘイム様も重度のブラコンなのかもしれない。
とかなんとか思っていた…翌日の昼過ぎくらいからジューイがボツボツ仕事を片付け始めたのか、書類が戻ってきだした。
「真面目に仕事をしているようですね、宜しい」
フロックスさんが返ってきた書類に目を通して頷いている。
そして書類のやり取りを無事行い、ジューイがいなくても問題ないですね…なんてフロックスさんの怖い発言にビビりつつ、その日は仕事を終えて帰宅した、次の日…
私達が朝、詰所に行くと可愛い某キャラクターのファンシーな箱がジューイの机の上にチョン…と乗っていた。
箱の上にこれまた同じキャラクターのデザインの便箋が乗っている。もしやなっちゃんは○○○ラーなのか?
『昨日、うちにジューイさんに会いたいと、實川社長達と片倉さんの御家族が皆さんでいらしてて、ジューイさんのお洋服を買って頂いたり、ランチをご馳走して頂いたりと、色々お世話になりました。お姉様達に写真を撮って頂いたので、ジューイさんのモテっぷりをご覧下さい。
ナツキ』
何やってんだ?いや、待てよ?昨日は…水曜日よね?
私は箱の中を開けた。一緒に手紙を読んでいたナッシュ様とその手紙を受け取って読んだ未来とノリは眉を潜めた。
「なっちゃんのマンションに押し掛けたの?まさか姉さんも一緒かな?」
「まさか?ちょっと顔を見せただけでしょ?」
と未来とノリが話しながら写真を見て二人して顔を引きつらせた。
實川夫妻と陸翔お兄様、片倉夫妻の他にノリの実奈美お姉様と妹の由梨ちゃん、多分未来のお姉様とめっちゃ未来に似てる男の子。そして真ん中にジューイが写っている写真…。撮影者はなっちゃんだろう。
「圧がスゲェ…」
と、思わず呟いてしまった。
「佐代里姉や賢吾まで何やってんだ?」
「お姉様…由梨…。あらやだ…うちの営業の女の子や室長まで写真を撮ってるわ…」
しかもジューイとお姉様達のツーショットとか、見てはいけない気もした…美園おば様を姫抱っこするジューイ…。色んな意味でキツい。しかし、こうやって見るとジューイも浮世離れした美貌である。体がちょいマッチョなだけで、肉が削げ落ちれば…恐ろしい美丈夫様のひとりだ。そういえばレデュラートお兄様も美形だった…。写真を見ると一般人と写る芸能人のようである。
「か〜っ邦子何やってんだ?めっちゃ浮かれてる…」
送られてきた写真はほぼ浮かれて頬を染めるマダム達とジューイのツーショットだった。強烈…。
「あら…これは…」
私が声を上げると皆が写真を覗き込んできた。
どこかのアパレルショップだと思われる店内で、跪くジューイの前に女の子が立っている。その女の子の手に口付けているジューイ…。まるでCMや雑誌のカットのような格好良さだ…ジューイのくせに。たかだかジューイのくせに。
「あら?この背中…なっちゃんだわ」
ノリの言葉にびっくりした。
何だって?!ジューイの顔ばかりを中心に撮られているけれど、この可愛いワンピを着ている美しい背中の持ち主は、なっちゃんなの?
「道理で、背中からハリウッド女優ばりの美女オーラが出てると思ったのよ!やっぱりなっちゃんね!また背中ばっかり写ってて撮影者の悪意を感じるわね〜なっちゃんの綺麗な顔が見たかったよ!」
私が捲し立てるとその写真を見たナッシュ様が
「そういえば…すっかり失念していたが、ナツキは一人暮らしだったな…ジューイに何か不埒なことをされてないだろうか?」
と、呟いたので私、未来、ノリの三人は仰天した。
「ちょっ…!何それ?ジューイって手が早いの?!」
「不埒なことって、あのチャラ男そんなタイプなのか?!」
「まああ…なっちゃん…」
私達三人ににじり寄られたナッシュ様は、出勤してきたジャックスさんとジャレット君に助けを求めた。
「なぁ?そうだよな?ジャックス、確かジューイって未亡人と付き合ったり、複数人の令嬢と噂になってたよな?」
詰所に入って来た途端、ナッシュ様に縋りつかれたジャックスさんは、え?え?…と言いながら私が付き出した写真をマジマジと見て苦笑いを浮かべた。
「ジューイ中佐、昔っからモテてたもんな。女の子に常に優しいし怒ったりなんて見たことないし…おまけに公爵家の次男だし…俺前さ、中佐を挟んで女の子同士が揉めてるとこ見たことあんのよ?あれ…何て言うんだっけ?」
「修羅場…」
未来が呟いた声を聞きとってジャックスさんは言葉を続けた。
「異界ではそう表現すんの?でさ、それからその揉めてた女の子達とは別の女の子と歩いているの見たし…え~とこう次々女の子と付き合っていくの…何て言うのかな?」
「ヤリ○○…」
私がそう呟くとジャックスさんの横に居たジャレット君が眉を潜めた。
「節操の無い感じですね…」
と毒を吐いた。最近ジャレット君、可愛い顔して毒を吐くコロンド君2号化していない?良くない所は真似しちゃダメよ?
「なっちゃんの側にそんな男、置いておいて大丈夫なんっすか!?私はもう食われちゃってる気もしますよっ!」
み、未来~~!?やめてっ!ノリがブルブル震えているわ。
「なっちゃんはそういうのはガードが異常に堅いと思うわ。子供の時から変なオジサンには常に警戒していたと言ってたし…」
「変なオジサン?!」
「幼児偏愛者でしょうか?!」
ジューイが変なオジサン扱いを受けている気もするが女性の敵なのは間違いない。ジューイがモテるのは勝手にしてもらって構わないのだが、なっちゃんを巻き込むのだけは許せない。
「異世界で手も足も出ないけど…なっちゃんを守る会をここに結成します!」
私がそう宣言すると、ノリと未来が拳を突き上げた。
「これは何が何でも異世界に乗り込んでなっちゃんを変態の魔の手から守らなくちゃいけませんね!」
未来がギュムっと拳を握り締めている。未来が本気で殴ったらジューイの顔、変形しちゃうと思うけど…。加減してあげてね…。
「とにかく…早くジューイさんをこちらに戻した方がいいわね…」
ノリが深い溜め息と共に私の顔を見た。
「そうだ、なっちゃんにそれとなくさ、ジューイに帰れ…って言ってくれって頼んでみない?」
「あいつがそんな言葉に従うかな…そういう意味ではあいつも公爵家の人間だよ?あれこれ指図を受けるのは矜持が許さないのじゃないかな?」
私の提案をナッシュ様が遮るように否定した。
確かに…普段からフロックスさんに命令されると剥れている。まあ理不尽な命令に限りだが。軍の上からの命令とかは二つ返事で是と言っているから私的な事と公的な事で線引きしているのだろう。
「帰れと言われてすんなり帰って来るとは思えませんね。向こうでチヤホヤされているのでしょう?尚更異世界に居座ろうとしますよ。」
ジューイの天敵、フロックスさんが若干詰所の室温を下げながら登場した。
ありの~ままの~姿が見せ過ぎてるのよぉ~
ジューイに対する嫌みのブリザードがさきほどから物理的攻撃になってナッシュ様に当たってますって…。
とかなんとか言ってたら…
夜…ジューイがこちらに戻って来た。よく戻って来れたね~と、呑気な聞き方は出来なかった。離宮に泊めてくれ…と言ったきり、客室のベッドの隅で石像化している…ようだ。
直接、部屋の中を覗けないので、庭からこっそり対魔人用の防御魔法を発動しながら皇子2人が様子を見に行ってくれた。
「どうだった?」
戻って来たナッシュ様とガレッシュ様に急いで聞くと二人は顔を見合わせて溜め息をついた。
「まだ部屋の隅で座り込んでいる」
「何があったんだろうねぇ~やっぱさ、兄上が聞いて来てよ?一応従兄弟で幼馴染じゃない?」
ガレッシュ様にそう言われてナッシュ様はギクシャクしながらも、ジューイの居る部屋に入って行った。
数十分後…すっかりしょぼくれたジューイを伴ってナッシュ様が居間に現れた。
ガレッシュ様が温かいモロン入り玉ねぎスープをジューイの前に出してくれた。ジューイは一口二口飲んだ後にポツリポツリと話し出した。
「ナツキにこっちに帰れ…て言われたんだ」
なんと…言う事でしょう…。思わず未来とノリを見る。二人とも首を横に振っている。うん、びっくりのタイミングだね。一瞬、私達の誰かがなっちゃんに帰れと言ってやれ…と指示したと思うほどのタイミングだ。
「ナツキからもうオマワリさんが助けてくれるから大丈夫だから、帰れって言われたんだ」
「オマワリさん…ん?お巡りさん?え?え…お巡りさんが出て来るってなっちゃんに何かあったの?」
私がそう聞くとジューイは私の聞いたことが耳に入っていないのか、ノリと未来を見ながら
「ノリはそのオマワリさんって知ってるか?ナツキの恋人なのか?一人暮らしで、部屋の中にも男の影みたいなのも無いし油断してた…そのオマワリさんって俺より男前か?格好いいのか?」
と必死に聞き返している。ノリも未来も唖然としてジューイを見詰めている。
んん?んんん?
これはもしかすると勘違いしていない?オマワリさんという名前の男性だという勘違い…。
「ジューイさん…その、なっちゃんの身に何か危険な事が起こっているのでしょうか?」
ノリが声を震わせながらジューイに聞くとジューイは俯きながら答えた。
「俺が転移して行った時、ちょうどナツキの家にアオイの従兄弟とかいうモヤシが押しかけていたんだ。俺が追っ払ったけど…玄関扉を蹴ったり、室内に入ろうとしていた」
「何だって?!」
「なっちゃんっ!」
皆が悲鳴を上げた。
「あんのぼんくらっ…今度はなっちゃんにストーカーなんて!ところで、モヤシって何?」
と、ジューイに聞くとジューイは気まずそうに呟いた。
「だって前さ、アオイが言ってたじゃねぇか…色白で細くて体力のなさそうな雰囲気の子を総じてそう揶揄するあだ名だって。俺、コンビニでその野菜、モヤシを売ってるの見たんだよ。成程な~て感じの細い繊維の小さい野菜だった。あのアオイの従兄弟、どう見てもモヤシだろ?」
こんな場で笑ってはいけないけれど思わず吹き出した。ノリと未来も肩を振るわせて笑っている。
そうだ、あのぼんくらはまさに異世界のモヤシだ…。




