番外編 相模那姫 3
ナツキの番外編は終わりです。次からは本編に戻ります
「いやああああ!」
「きゃああああ!」
びっくりして、絶叫の発生元の實川のお母様やノリさんのお姉様方を見る。
「本物よぉぉ~~!実奈美っ見た?!」
「動いてるわっ!格好いいーお母様ご覧になったぁ?!」
な、なんだ?あっという間にお母様方とお姉様方に囲まれる。
「は、初めましてっ!未来の母の邦子と申しますっ!」
「これは…ミライにはいつも世話になっております」
と、ジューイさんは未来さんのお母さん、邦子さんの手を取ると指先に軽く口づけながら腰を落とした。いわゆる、騎士の礼?とか紳士のご挨拶だ。
「んぎゃあああ!佐代里っ!写真よ!早くっ!急いで!」
「はいっ!ママッ!こっち向いて!」
私は慌ててジューイさんの側から離れた。君子危うきに近寄らず…だ。
キッチンの大型冷蔵庫の前まで逃げると実川物産の社長と専務、片倉未来さんのお父様と恐らく未来さんのご兄弟だと思われる男四人が固まっていた。
「お…おはようございます。社長、専務、未来さんのお父様、え~と…」
未来さんによく似たキリリとした顔の男の方は折り目正しく45度の礼をした。
「片倉賢吾と申します、弟です」
「初めまして、賢吾さん。相模那姫です」
顔を上げた涼しげな美形な弟さんに微笑むと彼は少し顔を赤らめた。照れ屋さんかな?
「いや~なっちゃん朝からすまんね。うちのが騒いでさ~」
「本当にすまんな、皆で押しかけて…」
社長と専務に同時に謝罪を受ける。本当に朝からどうされたのだろう…ジューイさんの方を見るとお姉様達はジューイさんに寄り添って写真を撮ったり…あげくに女子二人を抱き上げて撮ったり…姫抱っことかを強要…強要だよね?されて、写真を撮っている。ジューイさん大丈夫だろうか…。
「朝、なっちゃんから連絡が来ただろう?そうしたら美園のやつ片倉さんの奥さんや娘達に一斉に連絡したみたいでな…。朝からジューイさんを見たい、会いたいと半狂乱でな…。押しかけて来たと言う訳だ」
「成り行き上ストッパーも必要だしな、親父一人ではあの軍団は押さえられない」
「は…はぁ、朝からわざわざすみません」
なんでか私が實川親子に頭を下げているけど、そうだ…ちょうど警察関係の方が来ているのでご相談してみよう。
「あの片倉さん…実はご相談が…」
「うん、どうしたのかな?」
「実は昨日ここに鷹宮学…さんが押し掛けて来まして…」
私の発言に男性陣は仰天したようだ。
「なっちゃん、そんなことは早く言わないか?!」
「あいつ!暴力でも受けたのか?」
「室内に侵入してきたかい?もし怪我でも受けていたらすぐ医師に診断書を出して貰いなさい」
「怪我は大丈夫です…ちょうどジューイさんが転移して来られた時で追い払ってくれましたので」
私が慌てて説明すると男性陣はおおっ…と声を上げて今はノリさんのお姉様を姫抱っこして写真を撮っているジューイさんを見た。
「見た目通りの強者かな?」
なんかカッコいい表現ですね、片倉芳蔵おじ様…。
「とりあえず、この辺りの巡回を強化するようにしておくよ」
「お願い致します」
未来さんのお父様に頭を下げた。さて…まだまだお姉様達の興奮は冷めやらずのようだが、今からジューイさんのお洋服を買いに行くと告げると…お姉様達の目が輝いた。
余計なことを言ってしまったかもしれない…。ファストファッションで良かったんだけど…。
某外車にジューイさんと共に押し込まれて、時間切れで帰らざるを得なかったノリさんの妹さん以外のお姉様達の4人に拉致?されて某高級アパレル店に連れて行かれた。
もちろん男性陣は颯爽と逃げた…。せめて同世代の賢吾君だけは居て欲しかった…居場所が無い…。
「ンまああ!とてもお似合いですよぉ~!」
ジューイさんはショーモデルのような格好良さでお店の中の皆様の大注目だった。
「どう?ナツキ似合ってる?」
「はい、いいですよー」
ジューイさんが着替える度に私に聞いてくる。格好いいのは分かってるけど、こんなギラギラした…失礼、高級なお洋服を着せてあげたい訳じゃないんだけどな。
「そうだ、なっちゃんも選びましょうよ!」
「まあ!いい案ですわ、お母様!」
實川母娘の発言にぎょっとした。ぎゃっ!飛び火がこちらにもやって来た…。
店員さんに揉みくちゃにされながら、いつもは選ばないであろう春っぽい色合いのワンピースに着替えさせられてジューイさんの前に連れて行かれた。
ジューイさんは目を見開いた後、それはそれは美しい微笑みを浮かべながら私の前に膝を突くと
「とても美しいよ、ナツキ」
と私の手の甲に唇を押し当てた。
「きゃああああ!お母様!」
「邦子さんシャッターチャンスですわよっ!」
「佐代里ムービーで撮りなさいぃぃ~~」
「素敵素敵!」
一斉に周りからフラッシュを浴びる…。どういう訳だか、ショップの店員さんも写真撮っているのは何故?もしやお店の宣伝用にSNSにでも載せるつもりかな…。
なし崩しに3着も洋服を買って頂いて…某レストランで高級ランチを頂いて…おまけに実川物産の営業室まで付いて来られる…という大名行列に加わることとなった…。ものすごく悪目立ちしてるし、恥ずかしい…。高級お洋服は意地でも脱いできて良かった…。
流石に片倉親子はここで帰った。良かった…て言っていいのか、悪目立ち度が少し軽減された。
「ここがナツキやノリが働いていた所?いっぱい人がいるな~」
はい、ここにパリコレモデルさんが居ますよ…。皆様廊下の端に寄ってジューイさんの為にランウェイを空けてくれているようです。その後をコソコソとついて行く私…。
實川社長夫人と娘さんは社長室に行ってしまったので、ランウェイモデルと私だけという、とても珍妙な二人で営業室に入って行った。
「こんにちは…」
目立たないように姿勢を低くしながら室長のデスクの前まで小走りをした。
「相模さん?ど……」
「あれ~、今日休みじゃ……」
そう…いくら私が身を低くしてもジューイさんが目立っているから、仕方ない。
皆、キラキラしたジューイさんに目が釘づけだ。
「おおぅ!来たか…これはっ写真より…Bonjour.Enchanté。」
「あ、室長!ジューイさん日本語ペラペラなので」
「お仕事中失礼、ジューイ=ゾアンガーデです」
ジューイさんがそう挨拶すると室長は慌てて手を差し出していた。何を慌てているのだろう?
「シャシンイイデスカ~?」
だから日本語大丈夫だって…何故バキバキの異国人がくると、挙動がおかしくなるのだろうか…。室長がジューイさんの写真を撮りだすと女子社員が群がり始めた…。サバンナで餌に群がるハイエナのよう…。
ここでも写真撮影が行われた。君子危うきに近寄らず…ここでもサバンナを遠くから見守ることにした。
すごく疲れたけど…ジューイさんは楽しんでくれたみたい。ずっとニコニコしてくれていた。
やっと解放されて…マンションに戻って来た。今日はテイクアウトの高級寿司を頂いている。高級なものを一気に食べてお腹がびっくりしているように感じる。
「今日は一日、ありがとうございました。お疲れでしょう?」
ジューイさんは私の分の紙袋も持ってくれる。ホントに優しい…。
「めっちゃ楽しかったよ~あの乗り物がクルマか~アオイがヒコウキもすごい…とか言ってたし乗れるかな?」
そう言いながら私に回復魔法をかけてくれる。体のだるさが一気に無くなる。便利だな、魔法…。二人で今日の話をしながら自室に戻った。
さて
買って来たものをクローゼットの中に片付けて…大型冷蔵庫をガコンと開けると…何かが崩れて流れ出て来た…。何だろこれ?書類かな?
「第三部隊…選抜隊員一覧…ん?これは学舎建設の私有地確保の予算…んん?警邏の巡回経路の見直し案…?」
「ぎゃあ…まじでぇ…おいおい…俺の仕事だ…まさか、こっちに全部送ってきてんの?」
ジューイさんは流れ出て来た書類の紙を拾い集めている。そして書類の山を退けると大きな紙に書かれた大きな文字のメモ紙が一枚残っている。なになに?
『サボらずに仕事を片付けるように フロックス』
でた~~。ジューイさんが気にしていた通り、あのキリッとした怖そうなフロックスさんから指示が出ているらしい。おっと封筒もあるね、ピンク色の便箋は…葵さんだね。
『朝来たら、ジューイはいないわ、異世界に行っているだわでこっちはパニックだったわよ~でも、怪我もなく無事に異世界に行っているのよね?実はね魔法陣の上に立って、そっちに行けないかと私も試したんだけど無理みたいね。ジューイしか使えないのかもね…。取り敢えずジューイのお世話宜しくね 葵』
お世話承りました!ジューイさんは書類の山の整理を始めている。見た目に反して案外真面目だね。
「ジューイさん私、明日は仕事で留守にしますが一人でお留守番大丈夫でしょうか?」
「あ~俺もこれの仕事があるから…大丈夫…。メシもコロンドに何か送ってもらうから大丈夫~」
今になって疲れが出てるのかな…目が虚ろだ。
「よしっじゃあ、お吸い物作って…頂いたお寿司食べましょうか!」
ジューイさんの目の輝きが戻った。今日はお寿司だし、うちのおじいちゃん自慢の日本酒コレクションから熱燗にした日本酒と菜の花のおひたし、それと胡瓜の浅漬けをお出しした。
「おおっこの酒もぐぐっとくるなぁ~!」
ジューイさんは良い飲みっぷりですね。お吸い物を手早く作り、お寿司を皿に並べて出すとジューイさんがアレ~?と言った。
「これアレだな…前さ、異界から送られてきた…透明な箱に入ったモッテラに似てるな、スシ…だよな?アオイ達が騒いでたあれと同じもの?」
ひょえぇ…私が買った寿司パックの事ですか?!
「あれとは同じものと言いますか…いえ、今日のお寿司は銀座の○○○のものでして…決してあのスーパーの寿司のグレードが下がるという訳ではなく、こちらが一層お値が張るものだということで…」
「ん~食べていい?」
「どうぞ…」
言い訳を重ねた分だけ惨めだった…。私もトロの炙り握りを頂いた。た、堪らん!
「成程…モッテラが濃厚で…コメが少し酸味があるんだな…口の中がさっぱりするな」
公爵家のお坊ちゃまはグルメだね、動じないね。流石お金持ち!私は自分の分もジューイさんに差し上げつつ今日の夕食は終了した。
「コンビニに行きますか?」
「コンビニ…何?」
一緒に夕食の後、二人で近くのコンビニに出かけた。コンビニとは…を説明しながら夜道を二人で歩く。なんだかこれって同棲カップルみたいだな…と思ったら急に恥ずかしくなってきた。
街灯の明かりはどうなっているんだとか、時々すれ違うバイクと自転車はどういう仕組みで動いているのだとか、ジューイさんは楽しそうに話している。
ジューイさんがお手紙で独身です、とは書いていたけど、きっと素敵な恋人がいると思うんだよね。こんな格好良いんだもんね、なんだか私のせいでジューイさんとその彼女の仲を引き離しているみたいで申し訳なくなる。
未来さんのお父様も巡回を強化して下さるっておっしゃっていたし…明日お仕事から帰って来たら異世界への帰国を勧めてみようかな…。
ジューイさんはコンビニでお菓子を大量に購入していた。特に甘味系を…食べるの?と思っていたらマンションに帰ったら何か魔法をかけてそれを冷蔵庫から異世界に送っていた。
「ナッシュとザックが甘いものが好きなんだよ」
皇太子殿下意外だね、ザックと言うと、写真で見た小学校4年生くらいの男の子かな。あの子も綺麗な顔だったね~将来イケメン君だね。
ジューイさんは塩味のスナック菓子を食べている。そして片手に缶ビールが入ったグラス…直のみはしない、お坊ちゃまだね。
「ジューイさんお風呂どうします?」
「オフロって何?」
「え~と浴室で体や頭を洗ったりして身綺麗にしてお湯の中で体を温める場所です」
「おお、湯殿か」
ユドノ?どういう漢字が当てはまるんだろう…後で辞書で見よう。
「今日は出歩いたしお湯に浸かります?」
「ん~俺は浄化魔法があるしな~。」
そうか、魔法で体を綺麗に出来るんだっけ、でも私はお湯に浸からないとな~。
「では私、お風呂入ってきますね」
と、私が着替えを持って脱衣所に行きかけたら、ジューイさんが慌ててついて来た。んん?
「湯の出し方とか俺分かんねぇわ~それに頭とか体ってどうやって洗うの~?ナツキ教えてよ~」
何かテンションおかしいな…?でも確かにシャワーの使い方とか分からないだろうし…泡だらけとかにしちゃうよりはまだいいか…。
「はい、分かりました!ではお教えしましょう!」
「やった!」
私は浴室の扉を開けた。
「これがシャワーです。赤い印がお湯、水色が水が出ます。このように引けば出て、下に下げれば止まります。お湯は適温になっております。湯船も同様です。髪を洗う洗剤はこれです。シャンプーを先、コンディショナー後でお使い下さい。体はこちらのスポンジで石鹸はこれです。以上です」
ジューイさんは浴室を見たり私を見たりキョロキョロしている。
「ナツキ…その、一緒に…」
「何で御座いましょう?今日は湯に入られます?」
「一緒に…」
「分からなければもう一度ご説明しましょうか?」
「…」
「…」
「湯を使います」
「はい、ごゆっくり」
私は脱衣所を出ると、コンビニで買って来たジューイさんの新品の下着を準備した。パジャマも高級品にされそうだったので、高級ランチの後に思い切ってお姉様達とジューイさんと共にファストファッションのお店に行ってみたのだ。
お姉様達と大きなお姉様達(おば様達)は入店した途端、一斉に店内を動き回られて引率に疲れたけど、手頃な値段で普段着なども手に入れられた。マネキンと同じ服がそのまま入るってすごいスタイルですね、ジューイさん…。
ザァ…とシャワーを使う音が聞こえてきたので、様子見で脱衣所から浴室に声をかけた。
「ジューイさん、使い方大丈夫ですか?」
「あ、ああ、だい…うわわっ…」
ジューイさんの叫び声が聞こえて来たので、急いで浴室の引き戸を開けた。
「きゃああ…!」
開けた瞬間、何かが顔に当たる。お、お湯だぁぁ…。
「ちょ…わ…止めるのどうするんだ…」
ジューイさんとワタワタしながらシャワーの栓をなんとか止めた。頭からお湯でびちょびちょだ…。
「ごめん…大丈夫…じゃないな」
「いえ、大丈夫ですよ、濡れただ…け…きゃああ、すみませんっすみませんっ!」
当たり前だけど、ジューイさんは全裸だったぁぁ!裸族万歳っ!じゃなくてぇ~またまた私、これじゃ痴女じゃないか~!チラッとだけどつい見ちゃったよぉぉ~神様許してぇ~~!
慌てて浴室を飛び出して、脱衣所に置いてあるバスタオルで頭と顔を拭きながら、急いで寝間着兼室内着に着替えた。
「ナツキ大丈夫?」
ジューイさんの声に振り向くと…
あわわっ腰にタオルだけ?!破壊力有りすぎです!!ジューイさん?!シックスパックご馳走様です!!
興奮しちゃった…。自分で認めたくないけど痴女確定だ…。
シックスパックを視界に入れないように動きながら、ジューイさんに下着とバスタオルを手渡した。
「ジューイさんも湯冷めしないように、ちゃんと拭いて下さいね」
ジューイさんは黙って頷くと体を拭いている。
「なあ、さっきからなんでこっち見ないの?」
それは、色々と見てしまいそうになるからでー!
ジューイさんがこっちを見ている気がする…急いで水色の冷蔵庫の中からお高めアイスクリームを取り出してテーブルの上に置いた。
「ジューイさんっ、アイス如何ですか!」
声が裏返ってしまった…。ジューイさんは家着の定番、スウェットも粋に着こなしている。
「アイスって、アイスクリムのこと?ユタカンテ商会で販売してるんだぜ。おおっ緑色?何の味なの?」
ユタカンテ商会といえば、カデリーナさんの会社よね?流石、元日本人!
「これは抹茶…え~と、サラーと言うお茶も茶葉ですよね?恐らくですが摘んだお茶の葉を煎らないで、粉末にすればこれと同じ色になると思いますよ〜」
ジューイさんは目を輝かせた。
「おお、お茶の味か〜、…おおっ!甘いし苦い〜!」
本当に不思議だな…手紙でしか知らない人なのにこうやってテーブルを挟んで向き合ってアイスを食べている。
「ナツキ、クリムが口の端についてるぜ」
ぽけーっとジューイさんを見ていたらジューイさんの手が伸びてきて、私の口の端の辺りを指が撫でて、そのままジューイさんは私の口を触った指をペロリと舐めた。しかもこっちを色っぽい目で見ながらあああ!!
恥ずかしい…しかしなんでこっち見ながらそんなエロい舐め方をする必要ある?もしかしてっ!?私が痴女だってバレてるの?分かってて弄られてるの?
自分の爛れた思考が嫌になる…。色っぽい目って何だよ。ジューイさんはそんなつもりないはずだし…しかも今もアイスを食べながら、何故だか若干ニヤニヤしながら私を見ている。
痴女を見ている目だーっ!絶対そうだ!
異世界人の印象が私のせいで悪くなっちゃうよ…どうしよう。
痴女と野獣…^^すみません…。




