番外編 相模那姫 2
「これ美味いな~タラコ…て何?」
「魚の卵です」
私がたらこパスタと冷奴に鰹節かけたのをテーブルの前に座ったジューイさんの前に置くと、ジューイさんはものすごい勢いで食べ始めた。これはいけない…私は慌てて炒飯を追加で作った。
急いで作った叉焼入り炒飯をジューイさんの前に置いた。ジューイさんは湯気のあがる炒飯に興味津々のようだ。
「これ何?麺?」
「あ、これはお米って言う、え~と、麺やパンのような食品です」
ジューイさんは目を輝かせると蓮華で一匙、炒飯をすくうとソロリと口に入れた。
「なっ…美味い!何これ?これアオイとかがコメ、コメ…言っているあれだよな?」
思わず嬉しくなって笑ってしまう。
「はい、そのコメですよ~」
ジューイさんは何故か目を見開いて私を見詰めている。どうしたんだろ?
「どうしました?お米やっぱりお口に合いませんでした?」
ジューイさんは顔を真っ赤にすると首をブンブン横に振った。
「違うっ違う!すごく美味いよ!ナツキは料理も上手いんだな~すごいなっ」
えへへ、イケメンに褒められた…!ジューイさんはしばらく黙々と食べていたが、綺麗に食べ終わると静かに蓮華を置いた。
「あ、ジューイさんお酒飲みます?」
ジューイさんの目がカッと開かれた。分かりやすい…。冷蔵庫に冷やしてあったお酒の缶を私が出してテーブルに置いたのを見て悩んだ結果…地黒ビールを飲んでみることにしたみたい。グラスに注いで渡すと
「あっちでもこれに似た酒があるぜ、んん~~!美味い!苦味が最高だな!」
と満面の笑顔だ。
ふふっこれも気に入ってもらえたみたい。ジューイさんは一気に黒ビールを飲み干すと今度は真剣な顔で私を見た。
「ナツキ…本当のことを教えてくれ。今日みたいに、今までもアオイの従兄弟が何度もナツキの所に押しかけて来ているんじゃないのか?」
「い!?いえいえっアイツがここに押しかけて来たのは今日が初めてです!」
「ホントか?」
ジューイさんの目つきが険しくなる。
「そうか…あの追っ払い方はマズかったな…。ナツキは一人住まいだし、護衛とか雇えないのか?」
ご、護衛!?ノリさんならともかく、私は一般市民だよぉ~!
「ご、護衛なんて、そんな人雇うお金も無いですよっ…警察の方にパトロールをお願いするとかしか…」
「ケイサツ?ああ、こっちの警邏みたいな組織だったか…それで常に護衛してもらえるんだな?」
「つっ!?常にでは…ないですよ、この辺りのパト…巡回はしてくれると思いますが…」
ジューイさんの目が段々吊り上がっていく。え~とその…ひぇ…怖いよ…。
「アイツがまた来たらどうするんだ」
「うん…と、その追い返す?」
「どうやって?」
「帰って下さいって言う?」
「それで?」
「警察に連絡して…警察官が来るのを待つ…とか」
「その待っている間にアイツに何かされたら…どうするんだっ」
何か…目に見えない何かが部屋全体にブアッと風みたいなのを起こした。何だろ?カーテンがパタパタ揺れている。
「おぉ…ここでも魔力使えるみたいだな…」
ジューイさんの呟きにさっきのが魔力なのだと気が付いた。魔力…魔力だっ?!
「魔法ですか?!空を飛べますか?!火を出せますか?!」
私がジューイさんにグイイッと顔を近づけるとジューイさんは若干のけ反りながら、何度も頷いた。
「室内では上位魔法は原則使用禁止なんだけど…え~とこれなら大丈夫かな?」
ジューイさんは私の目の前で人差し指をヒラリと振るった。指先の周りに何か文字がフワリと浮かんで消えたと同時に温風が顔に当たる。
「温かい風を起こす…ヒートっーんだけど、冷えた飲み物とか温めたり、肌寒い時に体にかけたりと、結構便利なんだぜ?」
魔法だー!私今、魔法をかけられたーー!嬉しくなってテーブル越しにジューイさんの手を握った。ジューイさんは顔を赤くしてオロオロしている。
「他には?他には何か出来ませんか?!」
「ほかぁ?…そ、そうだな…浄化と…回復かな?」
「かけて、かけて~!早くっ!」
ジューイさんは顔を真っ赤にしたまま、また指を振るった。文字が浮き出て丸く円を描く。
すると私の体にフワリと金の粉が降りかかり…体が軽くなったのと…なんだかよく寝た後みたいな爽快感に包まれた。
「これが回復…」
「きゃあ~素敵!もっともっとして~!」
ジューイさんはなんだか私をジトリとした目で睨みながら再び指を振るった。また文字が浮かび上がりクルクルと回るとゆっくりと私の頭上からベールみたいに降りてきた。
おおっ!おお?!
「これが浄化…湯を使えない時とか、体が清潔に出来るから便利だ」
「最高ですよ、ジューイさん!なんだか気持ちいいです~!」
ジューイさんは益々赤くなると
「その言い方…ヤメロ、興奮する…」
と何かゴニョゴニョ言っている。何だろ?今度は呪文かな?
「やだ~本当の魔法使いだぁ~!うひょ~嬉しすぎる。えへへ…魔法使えてイケメンって最強ですね!」
ジューイさんはまだ顔を赤くしたまま、少し温くなった珈琲にヒートをかけて飲んでいる。
「ナツキ、これ何?サラーじゃないのか?独特の苦みがあるな」
「サラー?これは珈琲と言いまして、お茶の葉を煮出した飲み物ではなく、豆を焙煎…ん~何て言うのかな…豆を炒るって言うのかな…。とにかく飲み物の一種です。あ、そうだ、炭酸飲料飲んでみます?」
私は冷蔵庫を開けて炭酸飲料のオレンジ味のペットボトルをジューイさんに差し出した。
「これ…このまま飲むものなの?」
そうか…確か公爵家の次男だったっけ?フランスのお爺ちゃんの友達に伯爵様がいるけど、現実感無いな~と思ってたけど本当の高貴な方なんだ。高貴な方の為にグラスに飲み物を入れて差し上げる、うふふ。
「うわっ、果実水になんか…入ってるの?…喉が…ビールの泡みたいだな」
これも気に入ってくれたみたいだな。
「今度送りますよ~。何か欲しいもの教えて下さいね」
と、私が言うとジューイさんはご自分が出て来た?冷蔵庫を見詰めた。
「いつもアレでモノを送ってくれてるんだよな?」
「はい」
「アレに入れば元の世界に戻れるのか…」
「…そうですね」
そうか…何だか興奮していたせいか…忘れていたけどジューイさんは冷蔵庫の中に入れば、また異世界に戻るんだ…そして、もう会えない…。
文通をしていて写真で顔を知ってはいたけれど、自分と同じ生きている人だっていう実感が薄かった。こうやって私の作ったご飯を目の前で食べてくれて、笑ってくれているのを見ると…ああ、ジューイさんも生きて存在する方なんだとやっと認識出来た気がした。そして認識したと同時に、もう会えなくなる…。
そうだ…この不思議な冷蔵庫の魔法だって、もしかしたらジューイさんが帰った後、もう二度と使えなくなるかもしれないじゃないか…。そう思うと途端に心細くなってきた。
「ジューイさんにお会い出来るの、これが最初で最後ですね…」
なんとか笑顔になろうとしたけど、ちょっと泣きそうになった。ジューイさんは顔を引きつらせて私を凝視している。
「いや…その…、えっとナツキが良ければだけど、もう少しここに居たいかな~とか?あ!ほらさっきのアイツがまたここに来たら困るだろ?俺が居れば追っ払ってやれるから…」
ジューイさんがしばらくここに居る…?一緒に居てくれる…?ご飯を食べてくれる…。心細くなっていた気持ちが…その一言で霧散し、嬉しくなって思わず笑顔になった。
「はっはい!居て下さい!お願いします!嬉しいです!」
そう興奮して答えるとジューイさんはテーブルに両肘を突くと顔を伏せて大きく溜め息をついた。
あ、あれ?私の答え何かおかしかったかな…?
「これは…拷問だな…」
また何かゴニョゴニョ言ってる、呪文かな…?あ、呪文と言えば…。
「そう言えば、ジューイさんこちらの言葉が通じていますね?他の方の言葉…お隣のお姉さんとか葵さんの従兄弟のアイツの話している言葉も分かりましたか?」
「ん?ああ、そう言えば理解出来てるな…あれ?ていうことは俺に転移の加護がかかってるのかな…んん?と言うことは…俺がこっちに転移して来ちゃった異界の迷い子って事?あああ、マジか…ナツキに会えたしこれはこれでいいのか?うわ~っ」
ジューイさんは一人で悶絶しながら頭を抱えている。転移の加護…葵さんが言っていたこちらの世界から異世界に転移して来た方は異世界の全ての言葉が理解出来るという…神様の贈り物…異能力。
今ジューイさんが難なく日本語を理解、話しているということは逆にジューイさんがこちらに転移して来た異世界人…ということになるのよね?
もしかしてジューイさんはもう異世界に帰れない?
ううん、まだそんな簡単に決めつけてはダメだ。まだ何も分かっていないし…。そうだ!
「葵さんはこの事…ジューイさんがこちらに来ていることはご存じなんでしょうか?」
私がそう聞くと、ジューイさんは「あっヤバイ…」と小さく呟いた。
「夜にさ、一人で詰所…軍の自分の机に居る時にこっちに転移して来てるわ…俺。外泊扱いかな…まあいいかしょっちゅうしてるし…。アオイにはいつもみたいに、紙に書いてこっちに居るって送っとけばナッシュやミライにも伝わるだろうから大丈夫だろう?…あ、しまった!フロックスの奴がサボってるだのなんだと煩く言うかな…」
フロックスさん…といえば向こうの集合写真で見たことある、目つきの鋭いキリッとした顔の方だ。確かに怒りそう…。
「なんか書く紙ある~?」
とジューイさんに聞かれたので、便箋とボールペンを貸した。ジューイさんはボールペンを不思議そうに見詰めている。
「へぇ~インクに付けなくてもここから勝手にインクが出てくるのか~すごいな!」
とか言いつつサラサラと便箋に何かを書いているので、覗き込んでみた。
す、すごい!書いた文字が最初はヘブライ文字みたいなのが瞬時に日本語に変わっていく。
『今、異世界のナツキの所に来ています。心配しないで下さい。 ジューイ=ゾアンガーデ』
それだけしか書いてないのに大型冷蔵庫の中にヒョイ…と便箋を入れてしまった。便箋は眩しく光り…あっと言う間に消えて行った。
「おおっ本当に送れるのな~!」
「良かった~送れた…じゃないですよっ、ジューイさん!あんな短文じゃこちらの事情が全然伝わらないじゃないですかっ」
慌てて私も便箋に補足内容のお手紙を書いた。ふぅ…これで明日、葵さんが読んで皆さんに伝えてくれるよね。
あ、テレビつけっぱなし…もう10時半か…。そうだ、ジューイさん今晩ここに泊まる?よね…。
「ジューイさん、取り敢えず今日はもう寝ませんか?明日…私、仕事休みますし…あ、そうだ!ノリさんのお父様達にご連絡しておこうかな~。えっと…何ですか?ジューイさん?」
ジューイさんが固まったように動かないまま私をまた凝視している。そんなに驚かせることばかり言ってるかな~?
「ここに俺も寝るの?」
あ…そうかお坊ちゃまだもんね、こんな馬小屋?とかおトイレ?くらいの小さい部屋でおまけに私と一緒じゃ眠れないかな…でも、かと言ってホテルになんてジューイさんを一人にして置いておく訳にはいかないし…。
「こんな狭い所に私と一緒じゃ窮屈でしょうけど、ここは我慢して頂い…」
「全然問題ない、全く問題ない、問題なんてある訳ない」
「は…はぁ?問題ないなら良いのですが…じゃあジューイさんはこちらに…私は敷布を出しますから…。」
と、私が普段使っているベッドを指し示した。ジューイさんの体にはちょっとベッドのサイズが小さ過ぎるかもだけど…。
「ど、どういうことナツキはどこに寝るの?」
すでに立ち上がってクローゼットの中から毛布などを出しかけていた私は、私の後ろにやってきたジューイさんを見上げた。
「私は…そこです」
いくらなんでもジューイさんの傍で眠るのは気まずい。キッチンのシンク近くの床を指差した。
「女の子が床なんて、ダメだ!」
「大丈夫ですよ!正月なんておコタでゴロ寝もよくしますし…。あ、ああ~あのねこれも生活習慣で…」
とまた夜寝る時の生活習慣なども説明して、まだ文句を言いそうなジューイさんの軍服の上着を脱がせるとハンガーにかけた。
「これ、ナジャガルの軍服ですよね~カッコいいな!」
ムフフ、紺色の差し色で銀色の刺繍が入ったすごくカッコいいデザインなんだよね。軍服の下は、白いシャツを着ている…下のパンツはそのままでいいのかな?
「アイツが夜中に来てまた暴れたらすぐ動けないと困るだろ?」
アイツって鷹宮学かな?あんな見るからに軟弱そうなのが夜中に頑張ってここまで来て暴れるかな?
とにかく、ジューイさんはベッドで眠ってくれるようだ。良かった、公爵家のお坊ちゃまを床で寝かせるなんて無礼にもほどがあるものね。
「明り、消しますね~」
リモコンでピッ…と明かりを消すと「うぁ!すげっ…」とジューイさんの驚きの声が上がった。
「おやすみなさい~」
「おやすみ…」
この時、私は忘れていた…。生きている限り人間には生理現象というものがあることを…。
夜中…。ゴソゴソと何かが動く音に目が覚めた。まだ眠りの淵にいた私はうつらうつらしながらその音を聞いていた。なんで部屋から音がするんだろう…。やがて廊下に何かが動いている音がして…。ポワッと廊下から明かりが見えた。ゆっくりと覚醒して行く意識の中で音の正体を必死で考えていた。
何かいる…?瞼を押し上げて廊下に居るモノを良く見ようとした。人が居る…。
「…っひぃ…」
「!」
声を上げそうになって、部屋の中にキラキラとした粒子が降り注がれた。なっ何?
「ナツキ!違うっ!ナツキにいやらしい事をしようなんて全然思ってないからー!」
その声にやっと眠りの淵から目が覚めた。その声の正体は…。
「ジューイさん…」
「ごめんっ!違うからっ!誤解しないでっ…」
廊下の隅で丸くなっている大きな人…異世界人のジューイさん…。そうだ、うちの冷蔵庫の中に転移して来ちゃったんだった。
「どうされました…?」
そう私が聞くとジューイさんは手に持っていた何かボワッと明るいボール?みたいなものを上に放り投げた。明りがふわーっと広がって廊下が照明の明かりみたいな輝きになった。
「これ…光魔法なの、えっとさ…その…便所ってどこ?」
便所…。おトイレ?ああ!そうだっ!私ってば教えてなかったんだ…!
「ああ、ここです!ここ…お水の使い方はここの横にあるのを手間に、こういう感じで引いて下さい。私、外に居ますから…」
慌てて廊下の奥のトイレのドアを開けて明りをつけると、手早く説明してジューイさんを便座の前に押し出した。
「水って…ここを触れば流れるの?魔法は?」
「ま、魔法は要りませんよ?私達は魔法使えませんし…洋式便座…は座ったことあります?」
「ああ、これはナジャガルでも大体こんな形だから大丈夫…。うん、あの…見てられると流石に出来ないというか…見ててもいいならこのままするけど?」
ジューイさんがパンツの釦に手をかけて、色っぽい目を私に向けてきた。
「きゃああ…すみませんっすみませんっ!」
これじゃあ痴女じゃないかーー!私の変態っ!一瞬、ほんの一瞬見てみたいなんて思ったなんて、この破廉恥女めーーっ!
慌ててドアを閉めてキッチンの大型冷蔵庫の影に隠れた。恥ずかしすぎるぅ~~。
少し落ち着いてきたので冷蔵庫の後ろから出て来ると私の視界にキラキラと魔力の粒子?かながまるで小さい紙吹雪のように舞っているのが見えた。
何か魔法が使われているってことかな?何の魔法だろう…目で粒子を追っていると天井付近に文字が見える…。字が読める…。意味が分かる。
「音…消す…範囲…。ああ、なるほど。音を消す魔法か…ということは私が話している声は、外には聞こえていないってこと?」
「正解」
ジューイさんがトイレのドアに手をかけて格好良く立っていた。私は立ち上がるとトイレの明かりを消して、ドアを閉めてからジューイさんを洗面台に連れて行き、水道の出し方を教えた。
「へぇ…魔法が無いから雨水を利用しているのか…」
「ジューイさんの世界じゃ水不足は無さそうですね」
「聞いたことねぇな…。まず天候に生活を左右されることはねえしな」
そうなんだ…水害とか地震とか無いのはすごく有難いことだな…。
ん?そういえば…さっきからジューイさんとの距離感が妙に近くない?私の真横に立つジューイさんを見上げる。ジューイさんは肩に触れそうなぐらい近い距離から私の顔を覗き込んだ。
「ナツキ…体が冷えてる…やっぱりベッドで寝た方がいい」
グンッ…と体が持ち上がり…ひえぇぇ…お、お姫様抱っこされてるよぉぉ?!
「ジ…ジュ…」
「暴れない。いい子だからベッドで寝る、いいな?」
ジューイさんはまるで私の重みなんて感じないような動きで歩き、ベッドに静かに私を降ろすと掛布団をかけて枕元に腰かけた。
「床じゃやっぱり体が冷える。女性は冷やしたらダメなんだろ?うちの母親がよく言っている」
「ジューイさんのお母様?」
「ああ、うん。ナツキを床に寝かせてたなんてバレたら俺、めっちゃ怒られるわ~。そういう女性の扱いみたいなのにはうるせーしな。一応元皇女殿下だしな」
うげっ…そうなの?元皇女様がお母様って言う事はえ~とナッシュルアン皇太子殿下の従兄弟って言ってたから…ああそうか、いわゆる皇族なんだジューイさん…。本当に高貴な方なんだな。
「すみませんジューイさん…高貴な方をこんなウサギ小屋みたいな小さい所にお泊めして…」
ん?と、ジューイさんは首を捻ってから優しい笑顔を浮かべて私の頭を撫でてくれた。
「ウサギ…が何かは分からんが、泊まる所が無い俺に寝所まで譲ってくれて…食事まで世話してくれて…正直有難いし助かったのはこっちだよ。ナツキの所に転移して…ナツキに会えて良かったよ…嬉しかった。それに、その…ナツキが想像もしてないほど…え…っと綺麗で、性格も俺のモロ好みで…その…」
さっきまでジューイさんがお布団に入ってたからかな?布団の中が温かくて段々眠くなって…ジューイさんが何か話しかけてくれてるけど、もう意識が途切れそうになっている…。
ジューイさんの手から何か癒しのパワーでも出てるのかな~。すごく気持ちいい…。
私は自然と眠りの中に落ちていった……。
朝…眩しい光を感じて…むっくり…と起き上ってキッチン辺りを見て…一気に目が覚めた。綺麗に折りたたまれた毛布。ジューイさんの姿は無い…。こんな狭い部屋、探し回らなくてもいないことは分かる。
「かぇ…帰っちゃったんだ…」
心細さがまたぶり返して来た。今日仕事に行く?出勤の途中に鷹宮学が…アイツが居たら…まさか、待ち伏せなんてしないだろう…けど、もし会社の前で捕まったら?じゃあ会社を休む?…でもまた家に来たら…。
その時にベランダから少し風が入って来た。ま、窓を開けたままにしていたの?…まさか誰か入って!?慌ててベランダ側の窓を閉めようとカーテンを開けた。
眩しい光の中…キラキラと輝くアッシュグリーンの髪…。大きな均整のとれた背中…。私の視線に気が付いたのか、ゆっくりとこちら見た綺麗な顔。明るい光の元、まるで一枚の絵画みたいな男の人がベランダに立っていた。
「おはよ~さん、良く眠れたか?」
ジューイさん…っ?!泣きそうになった…。何よっいたんじゃない…脅かさないでよっ。
深呼吸を何度もして呼吸を整えると、私もベランダに出た。
「変わった建物が多いのな~高い塔もいっぱいだし、アオイから街並みとかの話は聞いてたけど実際見たらすげぇのな~」
私が近づくと浄化と回復かな?の魔法を使ってくれた。体がすっきりとした感じになる。
「大丈夫か?」
見た目厳ついマッチョだけど、優しいな…。 うん、今日は会社を休もう。ジューイさんがしばらくウチに居てくれるというならば、入用なものを二人で買いに行こう。
スマホを持ってくると、まずはうちの社長と社長夫人にジューイさんが異世界からやって来たこと…しばらくこちらに滞在することをメッセージで連絡した。
それから営業室の室長に、フランスの田舎から親戚のお兄さんが遊びに来ていて、今日はお世話しないといけないので会社休みますとメッセージの連絡を入れた。
するとすぐに返信が来て
『親戚ってどんな人だ?』
と聞かれたのでジューイさんに許可を頂いて写メを撮ってすぐに室長に送り返した。またすぐに返信が返ってきた。
『何だ、その彼は俺と同じ人間か?格好良すぎるぞ。かみさんと娘に見せたら狂喜乱舞だった。時間があるようなら会社に連れて来るように』
どういうことよ?40代のおっさんがジューイさんに会いたいの?まあジューイさんが会ってもいいっていうなら連れて行ってもいいかな…。
時間があれば連れて行きます…。
とだけ返事を入れておいた。さて、朝食の準備をしてテレビをジューイさんにお見せしつつ…今日はジューイさんの洋服を見に行って~とか話をしていたら朝っぱらから来訪を告げるインターホンのチャイムの音が聞こえた。
もしかして朝から鷹宮学…?
「どうした?」
「誰か訪ねて来たみたいです…」
ジューイさんが素早く立ち上がると一緒にインターホンの前までついて来てくれた。恐々応答のボタンを押す。
『なっちゃ~ん!おはよう!開けて~』
「實川のお母様ぁ!?ん?社長?あれ?専務も?んん?もしかして…」
私は急いでオートロックの鍵を開けた。
1DKのマンションの一室にすごい人数の来客だ。しかも圧がすごい…。實川社長夫妻、實川陸翔専務、旧姓實川のノリさんのお姉様と妹さん。片倉未来さんのご両親…そして旧姓片倉さんのお姉様と初めて見るキリッとした男前のお顔立ちから察するに未来さんの弟さんと思われる男性の総勢9名。
部屋の収容人数を大幅にオーバーしている。
部屋に入って来たセレブリティな方々は食い入るようにジューイさんのお姿を見ている。
怖い…思わずジューイさんの服の袖を掴んでしまった。
「ん?ナツキ大丈夫か?」
ジューイさんが私にそう声をかけた瞬間…絹を裂くような悲鳴が上がった。




