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番外編 相模那姫 1

ナツキの番外編です。しばらくお付き合い下さいませ


「今日、M社の方と飲み会がありますので…えっと飲み会に参加できる方…。」


そう言って別の部署の男性社員が企画営業室に来た。


M社は…大手一流企業だ。女の子達はわああ…と盛り上がった。まあ…私には関係ないか…。すると男性社員が素早く私の前に来るとヘラヘラ笑いながら


「今日こそは相模さん来てくれるよね?」


と聞いてきた。この人懲りないな…いつもいつも誘って来る。行ったらガイジンが来たーって日本語OK?とか無駄に気を使われるから嫌なのよ…。


「折角のお誘いですが行きません、ごめんなさい。」


ものすごい残念そうな顔をされてチラチラこちらを振り返りながら営業の彼は帰って行った。


こんな時ノリさんが居てくれたら間に入って上手くあしらってくれるのにな…とノリさんの机を見る。ノリさんは今いない…正確には異世界に移住して5日経った。


ノリさんはご両親にすべてを話し、ご両親を説得して異世界へ旅立った。ノリさんのご両親、つまりはうちの社長夫妻はノリさんの不在の後、上手く立ち回ってくれている。


ノリさんは会社を辞めた。鷹宮学との件で心を病んでしまい長期療養をしている…表向きの理由はこうだ。


實川社長が悲劇のヒロインの父を全力で演じてくれて、今や世論は実川物産の味方だ。当たり前だが女性の方が交際を全否定しているのに、週刊誌やテレビで一方的に付き合ってます…なんて言う男の事を誰が信用するものか…。


最初は奏雅の鷹宮グループの御曹司で男前の鷹宮学は、若い女性達に受けが良かった。SNSでは逃げ回って表に出て来ないノリさんを悪く言う書き込みが多かった。


だが、鷹宮一族が實川の家に押し掛けて騒いでいた事、更にノリさんが住んでいる一人暮らしのマンションにまで押し掛けて警察を呼ばれた事…。


ノリさんは異世界に旅立つ前に涙ながらに訴えた。恐怖です…と。鷹宮学は警察沙汰になるほどのストーカーだということが世間に露呈されたのだ。


ざまあみろ…だ!今や奏雅の評判はがた落ちだ。売り出す商品全てが酷評される。女性をターゲットにしてる化粧品なんて、不買運動がおこるほどだ。


実はノリさんが異世界に行く一週間ほど前にこんなことがあった…。


「なかなか良い演技だっただろう?これでも高校では演劇部に入ってたんだ。」


「まるでミュージカル俳優さんみたいでカッコ良かったですよ!」


私のマンションに夫婦で揃ってやって来た實川夫妻にお茶をお出ししながら、娘がストーカーに狙われた悲劇の父を演じた記者会見での演技の事をすかさず誉めておく。


「ぬわははっ!」


「パパ!格好いい!」


社長婦人が自分の旦那を褒め称える。ナニコレ?私どう反応すればいいんだろう…。


「ホラ、パパ!なっちゃんが困ってるわよ〜。」


「おお、イカンイカン。」


實川社長は懐から何だろう伝票のようなものを出して来た。


「え~と明日はなっちゃんは家に在宅だな?」


「はあ…昨日社長から日曜日は家に居るようにと指示されましたし…?」


ホント意味不明だね…なんでまた家にいなきゃならないの?そりゃデートの相手もいないけど…。


「私からのプレゼントだー!」


「きゃあ!パパカッコいい!」


グイッ…と社長から見せられて手に押し付けられた伝票…良く見れば大手家電メーカーの直売店のレシートだ…。うん?冷蔵庫…。42万円…うわ高っ…。んん?


「今、プレゼント…とおっしゃいましたか?」


「そうだぞ!だってなっちゃんの今の冷蔵庫…異世界の宅配ボックス化していて中で食品が冷やせない状態じゃないかっ、この間ママが気が付いてね~これじゃあなっちゃんが正常な形で冷蔵庫が使えないじゃないか…て言い出してね。どうだい?いい選択だろう~?」


「な…なな…何っ…洗濯…じゃない選択も何もお一人様の私の家にこんな高級冷蔵庫勿体ないですよっ!おまけにこの場所に置けませんって!」


「もう買っちゃったもんな~?ママ?」


「そうよね~パパ?」


恐ろしい…ノリさん助けてぇ…。こんなアクの強い最強金持ちとどう付き合えばいいのぉ?


その後、冷蔵庫から異世界の葵さん達に向けて差し入れのロールケーキを送って、送り返されてきたデジカメの中のルルさんの笑顔の写真に社長夫人が歓喜の悲鳴を上げて、他の男の子達の写真の焼き増しを頼まれてキャッキャッ騒いで社長夫妻は帰って行った。


「疲れた…はっ!冷蔵庫…。」


急いでネットで明日届く高級冷蔵庫を検索する。


「6ドアのでかい冷蔵庫じゃない~うえぇ…私一人暮らしよ~。はっ…!寸法…部屋に入るの?」


冷蔵庫の寸法を確認して戸口のサイズをメジャーで測る…。良かった、かろうじて室内に入るサイズだった。何故私がこんなに気を使わなきゃいけないの…。


机の上の写真たてを見る。異世界の皆さんが写っている。葵さんご夫婦、未来さん…。さっき送られてきたジューイさんの手紙を開いて見る。


『アオイが心配している。休みの日の度にナツキの家にノリの両親が押しかけていて迷惑をかけているようだ…と。大丈夫か?困っていることないか?   ジューイ』


「ジューイさぁん…今まさに困っているよ…冷蔵庫二つも設置場所に困っているよぉ…。あれ…そういえば…。」


新しい冷蔵庫が来て…この古い冷蔵庫はまだ使えるし…水色で可愛いからストック棚として使うとしても、そもそも冷蔵庫の電源を抜いてしまったら…電気が入って無いけど()()()()()()()()()()()


「そうだ、手紙を書いて聞こう…え~と葵さんに宛てと、ジューイさんにも返事を…。」


ジューイさん、写真たての写真をもう一度見る。アッシュグリーン色の髪の少し厳つめのカッコいいお兄さん。しかも見た目に反して、結構マメで気を使ってくれる人だ。この人はヨーロッパ系の顔立ちをしている。こういう人の隣なら私の顔も浮かないのかな…。


その日の夜、ノリさんにメッセージを送った。


社長から冷蔵庫をプレゼントされてしまいました。


ノリさんからの返事はこうだった。


『なっちゃんにお世話になってるからお礼がしたいのよ、貰ってあげて〜。』


いや、そうじゃない…プレゼントは嬉しいよ。でももう少し手軽なモノで良かったよ…。


葵さん宛ての手紙とジューイさん宛ての手紙を冷蔵庫の中段に入れて、扉を閉めた。この奇妙な文通も今考えると、運命としか言いようがない。


あれは給料日の日、久々に奮発しようと高級スーパーに足を延ばしてお寿司のパックを買って帰った日のことだった。


冷蔵庫に買って来た寿司を入れて、先にお風呂に入ってから…さあ寿司を食べようと冷蔵庫を開けて…寿司が無いことに気が付いた。


「あれ…?」


確かに買って来たお寿司、冷蔵庫に入れたよね? キッチンのシンクの上に置いたエコバッグを見る。冷蔵物はすべて冷蔵庫に入れて置いた…はず。


もう一度冷蔵庫を開けて他に買って来たプリンとジャムを確認する。うん、上段の棚にしっかり入っている。おかしい…だって、どこに置くと言うんだ?冷凍室も開けて見る。アイスと冷凍食材以外は入ってない…。しばらくシンク周りや今日持って出た仕事用のバッグの中も見て回った。


「あ、もしかして、買ってないとか?」


お財布を鞄から出してスーパーのレシートを確認する。


「買ってる…。」


何これ…どういうこと…あ、そうか持って帰る時に入れ忘れたってことかな!きっとそうだ!


「はぁぁ…勿体ない。お金払ったのにお寿司忘れて帰って来るなんて~。」


と、ぼやきながら冷蔵庫を開けた。


冷蔵庫の中段にお寿司のパックが入っている。一度扉を閉めた…そしてもう一度扉を開けた。


「寿司…あるよ。」


どうなっているの…?恐々お寿司のパックを取りだして見た。ちゃんと買って来たお寿司だ。見間違い?最初から入っていたの…。まさか?と思いつつ私は梅酒の缶を上段から中段の棚に移し替えた。


すると、突然冷蔵庫の庫内が光った。


「っわ!」


眩しさに目を瞑り、再び目を開けると…梅酒の缶は無かった…。


「無い?無いっ?無いよーー!?」


絶叫しながら中段の棚に手を触れた。生温かい何かに触れた…。急いで手を引っ込めた…今の何?怖くなって冷蔵庫を閉めた。


アレ何?梅酒置いたよね?目の前で消えた?テーブルの上に置いたお寿司のパックを見る…。あれも梅酒の缶と同じように消えたってこと?


気持ち悪いから捨てようかとも思ったけど、元は高級スーパーの寿司パック…。勿体なくてやっぱり食べることにした。


「美味しい…。うん、味は美味しい。」


ただ、ただ…冷蔵庫の中で消えた(疑惑)だけのようだ。そうだ、梅酒もこのお寿司のように戻って来てるかも…。ソロリ…と冷蔵庫を開けて見た。


「あ、もどっ…え?ええ!?」


怪しげな封筒と一緒に明らかに口の空いた状態の空き缶になって…梅酒は確かに冷蔵庫に入っていた。


素手で触るのが怖い…。苦肉の策でゴム手袋をして長めの菜箸で怪しげな封筒と空き缶をつまんで冷蔵庫から取り出した。


「ひえぇぇ…めっちゃ怖いぃ…Gより怖いよぉぉ…。」


床に敷いた新聞紙の上に置いた…怪しげな封筒と空き缶…しばらく菜箸で突いてみたが、爆発とか先程の眩しい光は発しないみたいだ。封筒をひっくり返してみた。


「字…書いてある!日本語!?…何?『この梅酒の持ち主の方へ』…ええ?ええ?」


信じられない…本当に私の目の前で起こったことなの?しばらく、その封筒を見詰めていたがやはり変化は起こらない。


よしっ…思い切ってゴム手袋越しに封筒を掴むと、中を開けて見た。便箋が一枚入っている。ゆっくりと開けて見た。やはり、綺麗な日本語で何か書いている。文面を読んでみた。


『突然で驚かせてしまってすみません。

私は鷹宮葵と申します。今、この手紙は異世界のナジャガル皇国という所から送っています。


私は世間では失踪という扱いになっていると思います。信じられないと思いますが、これは異世界から送っています。あなたの…恐らく冷蔵庫の中とこちらの世界が魔法で繋がっているのです。


お返事頂ける事、心よりお待ちしております。


鷹宮 葵』


途中から手がブルブル震えてまともに文章が読めなくなった。


鷹宮 葵?異世界?魔法?


自分の冷蔵庫をゆっくりと見る。何の変哲もない水色のレトロデザインの冷蔵庫…低い動作音を上げてちゃんと正常に動いているように見える。


これが異世界と…繋がってる…?嘘でしょう?それにもっと衝撃を受けたことがある。


鷹宮 葵…この名前を知らないはずがあろうことか…。だって今、世間を騒がせている㈱奏雅の連続失踪事件の第一失踪人であり、私の会社の先輩である實川実莉さんの親友の名前なのだから…。


つい、この間なんてこの鷹宮葵さんのマンションでノリさんと二人、葵さんの失踪の手がかりを捜したばかりだ。


怖い…その一言に尽きる。あまりの気持ち悪さに手紙をゴミ箱に捨てようとして…ノリさんの泣き顔を思い出した。あんなに必死で捜していて、ノリさんから見て鷹宮葵さんは本当の親友なんだと思う…。その接点かもしれないこの荒唐無稽な異世界からの手紙…。勿論、冷蔵庫にいきなり入って来るなんて…それこそ魔法じゃなきゃ有り得ないことだ。


「空き巣とかそんなはず無いもんね。」


自分で呟いておかしくなる。目の前で消えたことが何よりの証拠だ…自分の精神がおかしくなったとしか思えない。


そうだ…。時間を置いて様子を見よう。自分がどこかおかしくなっていたら、この手紙だって消えてなくなるはずだし、朝起きてこの不可思議な現象は治まっているかもしれないじゃないか…。


私は手紙と梅酒の空き缶を新聞紙にくるむと、キッチンの隅に置いてその日は就寝することにした。


あれから一日経った夜、恐々と冷蔵庫の中を見た。中段の棚には何も置いていない状態にしている。棚の上は空だった…。拍子抜けだ。冷蔵庫の中も怖くて使うの躊躇うけど、生ものを常温で置いておくのは怖すぎるし…仕方ない。一日で食べきれるものを中心に作っていこう。今日は味噌ラーメンの夕食にした。


そして寝る前にキッチンの隅に置いてある新聞紙に包んだ例の手紙を見ても…やはり同じ文章が書かれたままだった。


これはもう幻とかではないかもしれない。ノリさんに言ったほうがいいのか…いやぁでも、いきなり『葵さん異世界に居ますよ』なんて誰が信じてくれると言うのだろうか。


次の日は土曜日だったので、冷蔵庫の前で見張りをしてみることにした。5~10分置きに冷蔵庫を開けては閉めて…を繰り返していて、お昼過ぎに段々バカバカしくなってきた。


そうなんだ、もしかして自分の精神がおかしくなっているとしても、手紙が異世界に届くというのならば…思い切って返事を書いてみたらいいのだという事に気が付いた。


そして何も起こらなければ良し…本当に本当に、あの葵さんだとするならばノリさんには吉報であることは間違いない。分からないことは納得するまで確かめればいい。フランスのおじいちゃんの教えだ。


そして、日曜日はお嫁に行った上の姉に呼び出されて…着ぐるみショーを観覧する甥っ子と姪っ子の世話をさせられた。


こんなことしている場合じゃないんだけどさー!手紙の文面を考えたいんだけどさー!


「あんたどうせ彼氏もいなくて家でゴロゴロしているだけでしょ?」


いやあのさー私だって異世界の事考えたりで忙しいんだよーとは偉そうに言い切る香姫姉さんには言えず、笑って誤魔化した。


月曜日は年度末で朝から締めの作業で激務だった。お昼はおにぎりで済ませた。結局手紙の返事を書けたのは火曜日の夜だった。


冷蔵庫の中段に手紙を置いて…なんとなく手を合わせた。ノリさんの為に…なんとかお願いします!


…と言う訳で奇妙な異世界間文通が始まったのだった。


さて、例の社長から貰った冷蔵庫はまだ電源を入れてない。ぶっちゃけ物置状態だ。一つ分かった事はこの大型の冷蔵庫でも異世界にモノが送れるらしいのだ。当たり前だがコンセントが入ってなくても稼働する。魔法ってファンタジーだな…。この間も葵さんにベビーカーを送っていた。


冷蔵庫内の棚を全部外して、広くした空間にぶち込まれるベビーカー…。何とも言えないシュールな光景だった。庫内が光ってベビーカーが消えて行った時は實川夫妻とノリさんとノリさんのお兄様の専務と拍手までしてしまった。


この日ベビーカーを送った日にノリさんは異世界に旅立つ予定だった。お墓参りをして親戚の皆でお食事会をしたらしい。お食事会に私も誘われたけど、遠慮させて頂いた。こういうのは家族水入らずが一番良い。


「ふあ~疲れた~。」


あれから色々あったけど、無事?と言ってはなんだけどノリさんは異世界に旅立って行った。


仕事から帰って来てまずシャワーを浴びた。ノリさんがいなくなってまだ5日…これからも苦手な人達とも直接会話をしなくちゃいけないしな…気疲れするけど頑張るしかない。


体を湯船の中で揉み解しお風呂から出た。作り置いていたサラダとコロッケを盛り付けてテーブルに運び、テレビをつけて驚いた。


「あらぁ…とうとうか…。」


㈱奏雅5月の株主総会で…鷹宮会長辞任か?のテロップと共に今までの社員の失踪やら、ノリさんへのストーカーなど…会社の業務よりも芸能人みたいなスキャンダルの方が目立つニュース番組が放送されていた。


「ノリさんのストーカーは問題外だけど…イメガが斜め上のミラル起用とか、おっさん俳優のCM起用とか仕事方面の選択もヤバかったよね…。当然かな。」


とか、ブツブツ独り言を言いながらコロッケをモシャモシャ食べていると玄関のインターホンが鳴った。


「はい?」


と立ち上がって応答画面を見ると…マンションのインターホンには鷹宮学が映っていた。どういうこと?


『おいっ實川実莉を出せよ。』


Comment?


今あいつ、なんて言ってた?


私がポカンとしてる間にも鷹宮学はマンションの入り口で怒鳴り散らしている。


『お前のトコに實川実莉来てるんだろ?早く出せよ!おいっ!』


やだ…何?何度もインターホンを連打している。そして画面の向こうで住人と思しき方が後ろに現れたのが映っている…。ああ、良かったこれで帰ってくれる…と思っていたら…。


今度は私の家のドアをガンガン叩く音が聞こえてきた!ああ!もしかしてさっきの人と一緒に中に入って来たのかな…どうしよう…。


怖くなって、大きな冷蔵庫の横に逃げ込んだ。


「早く帰ってよぉ…どうしよう…。」


で、電話…警察?親に言ったって横浜に住んでるし…お爺ちゃんは関西だし…。もう一人はフランスだし…ノリさんっ…ジューイさんっどうしよう…。


やっぱり近所の交番に電話して…スマホを置いているテーブルに移動しようと冷蔵庫に手をかけた。その時、ガタタ…と大型冷蔵庫の中で何か音がした。咄嗟に大型冷蔵庫を開けて中を見た。


「いたた…何だよコレ…。ん?」


冷蔵庫の庫内いっぱいに人間が詰まっていた…。その人と目が合う。私はこの人を知っている。まさかどうして…というよりこの怖い思いをしている時に助かった…という思いで泣きそうになった。


「ジ…ジューイさんっ!」


「へえっ!?」


庫内にいっぱいいっぱいに納まっていたジューイさんを引っぱり出した。大きな手…温かい。ふわっ~背が高い!体もマッチョだ!おまけに写真で見るより数段カッコいい…。


「え…あ…の、ここどこ?」


に、日本語だ、ジューイさん日本語喋ってる。声も低くてカッコいい…じゃなくて!


「あの…あの…。」


私が興奮して言い淀んでいると私を見下したジューイさんは戸口でドアを叩く音に驚いたようだ。


「何?何の音?」


「あ…あの押しかけて来ていて…ノリさんを匿っているんじゃないかって…葵さんの従兄弟の…。」


とジューイさんは私を見て、部屋全体を見て驚愕の表情を浮かべている。


「異世界…。」


「はい、そうです。初めまして、お手紙ではいつもありがとうございます、ナツキです。」


私がそう挨拶するとジューイさんは目を剥いた。びっくりさせちゃったかな?


「あんたがナツキ!?」


「は…はぃ…。」


ジューイさんが想像していた女の子と違ったのかな…。いけない…そんなことより…。


「ご近所迷惑になりますし…アイツ追い返して来ます。」


私はそう言って玄関口に向かった。チェーンをかけてドアを開けた。するとチェーンを引き千切らんばかりの勢いでドアをガンッと開けると、空いた隙間から鷹宮学が足先を差し入れてきた。


「ふざけんなよっ!早くしろ女っ!お前さっさと実莉を出せよ!」


怖い顔…何がイケメン御曹司だ…。


「ノリさんはっここにはいません!」


「嘘つけよ!アチコチ捜したんだ!もうここしか…!」


ドアを蹴り上げられ、ガンッッ…という音が室内に響き渡って驚いた。ご近所迷惑だって言うの!ここで追い返さないと…。


「いま…せ…。」


「出せよっ!」


またドアを蹴り上げてくる。このやろー。


日傘で叩いてやろうと傘を持とうとした時…後ろからフワリと抱きしめられた。温かい体と、ああこの匂い私が誕生日プレゼントにあげたフレグランスの匂いだ。使ってくれているんだ…。私の肩を優しく撫でながらグイッとジューイさんが私の前に出た。


「帰れ。」


めちゃくちゃドスの効いたジューイさんの声だ…。さっきまで叫んでいた鷹宮学は急に現れたでっかい外国人風のジューイさんにビビっているようだ。


「お…おま…。」


「殺されたいのか?帰れ。」


ジューイさんの背中が広すぎてドアの向こうの鷹宮学の顔が見えない…。ジューイさんはドアの隙間に差し入れられていた鷹宮学の足先を思いっきり踏みつけた。


「ぎゃっ…。」


叫び声を上げて鷹宮学の足が抜かれるとジューイさんは素早くドアを閉めて、チェーンを外すと思いっきりドアを開け放した。時間にして数秒の出来事だった。


ドアの前にまだ立っていた鷹宮学はいきなり開いたドアに体を強打したようで、悲鳴を上げながら廊下を転がった。


「二度と来るな。」


ジューイさんが廊下に出て、鷹宮学に言い放った。私もジューイさんの背中に隠れながら廊下に出た。


うん?しまった!隣近所の方、皆さんが廊下に顔を出している。ひえぇぇ…と、慌てて頭を下げて


「お騒がせしてすみません。」


と、何度も謝った。隣のお姉さんが少しこちらに近づきながら「大丈夫?警察呼ぼうか?」と言ってくれて、斜め前の部屋のお兄さんは手にゴルフクラブを持っていた。


「大丈夫?てか彼氏がこんなにゴツイなら、大丈夫かな…。」


と、ジューイさんを見上げて苦笑いしている。隣のお姉さんはジューイさんが少し微笑みながら会釈してきた顔を見て、明らかに頬を染めている。うん、すっごいイケメンだもんね。外国の俳優さんみたいだもん。


外国って言えば遠い外国かな…異世界って。普通のマンションの廊下に立っている異世界人…。


鷹宮学は多分あちこちぶつけたんだろう…よろめきながら


「覚えてろよ!」


と悪人っぽい捨て台詞を吐いて逃げて行った。


「あんなのは寝たら忘れるわ…。」


ジューイさん…すごい。私は隣近所に謝罪とお礼を言いながらジューイさんと共に室内へ戻った。


「あっ!ジューイさん、土足じゃない!靴脱いで下さい。」


「ドソク…?何?」


土足のことと、この国の生活習慣などを説明しながら靴を脱いでもらって改めてジューイさんと二人向き合った。


「でさ、俺どうして異界に居るの?」


「どうしてでしょうね?」


チラリと大型冷蔵庫を見る。まさか、大きな冷蔵庫にしたから人まで送れるようになった…とか?


ジューイさんの顔を見上げる。睫毛長いな~、鼻高い。困ったような笑顔で私を見ているジューイさんに見惚れていると、ぐおぉぉぉ…といびき?のような音が室内に響き渡った。


「ナツキ…腹減った、何か食べるもん無い?」


ジューイさんの空腹を訴える音ですか…了解です。


パスタ茹でて絡めるだけのソースを使って…急いでジューイさんの分の夕食を作ることにした。



実際の6ドア冷蔵庫にマッチョは入らないと思いますので、ファンタジーということでご了承下さい

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