消えた親友 SIDEミノリ 前編
番外編 アオイの親友ノリさんの前編です
私の親友の鷹宮葵が失踪してから五か月が過ぎた。
「今どこにいるの?連絡して…と」
こうやってスマホのメッセージを入力しても既読はつかない。ありとあらゆる伝手は使って調べたが手がかり無しだった。絶対に家出や失踪では無い。あの子が逃げたりするはずがない。確信がある。
「事件に巻き込まれたのよ、絶対…」
まず異変に気が付いたのは飲みに行くのに待ち合わせ場所に来なかったことからだ。
『社内旅行で温泉行って来たよ~お土産渡したいから、今日会える?ついでに飲もう!』
とメッセージが来たのはいなくなったその日の朝8時。
どこに行く?何が食べたい?と、聞くと画像付きで3軒ほどお店のサイトのアドレスが送られてきた。失踪する人、家出する人が絵文字入りの浮かれたメッセージを送って来る?
その日の夜、待ち合わせ時間になっても現れない葵に何度もメッセージを送った。電話もかけた…只今電源が…のアナウンスが流れるのみだった。
『實川実莉さんですね?』
と、家にやって来た刑事の方から昨日の昼頃から葵が行方不明だと聞いた。家出…失踪…という言葉を聞いて真っ向から反論した。
「そんな訳ありませんっこのメッセージを見て下さい。昨日の朝に当日の夜の待ち合わせを決めているんですよ?家出する人がお土産を渡しに連絡してきますか?!」
警察の方も困り果てていた。何でも葵の両親が、家出だ!仕事が嫌になって逃げだした!の一点張りだからだそうだ。私にも当て擦りを言って来たらしい。
「實川家の実莉さんが庇って匿っている…のじゃないかと仰ってましてね…」
「頭が悪すぎですね…。」
思わず呟いてしまった。本当に馬鹿な親だ…子供の事を何も分かっていない。葵は逃げない…逃げるのではなく、もし自主的にいなくなるなら…すべてを片付けていくはずだ。こんな無様な退場の仕方はしない。
うちの両親も憤慨していた。私の実家にも警察の方が来たらしい。仕事中だったのだけれど…呼び出されて私が到着したのと入れ違いに警察の方が帰って行った。
「葵ちゃんが家出なんかするものかっ…鷹宮さんは何を考えているんだ!」
お父様、血圧が上がるから気を付けて…。お母様は玄関口に出るとお手伝いの美紀子さんと一緒に塩を撒いている。
「本当に腹の立つこと!あの葵ちゃんが実莉に何も言わないで逃げたりするものですかっ!何か事件に巻き込まれたのよ!パパッ!絶対葵ちゃんを探し出すわよ!」
お母様…塩を撒き過ぎよ…床一面の塩で足が滑って転びそうよ。
その後、両親が繋ぎを取ってくれて、葵の直属の部下の藤川さんと満島さんの二人と会うことが出来た。
「お待たせしてすみません。」
どうしても夜しか時間が取れなくて、離れのある料亭で食事の席を設けてもらった。話の内容が内容だけにね…。
若い子達は料亭は緊張しちゃうかな…。二人は入って来た私を見てギクシャクして挨拶をしてくれた。
「料理をお持ちして宜しいでしょうか?」
「お願いします」
仲居さんに頼んでから、葵の部下の男性の藤川さんと女性の満島さんと改めて向き合う。
「實川実莉です。葵とは初等部から一緒の所謂、幼馴染です」
名刺を差し出しながらそう言った。
藤川君は差し出した私の名刺を見て「実川物産!」と呟いていた。まあ名の通った会社だしね…実家だけど。
御料理が運ばれて仲居さんがいなくなってから本題を切り出した。
「私、そちらの神崎部長と原田課長にもお聞きして…お二人を紹介して頂いた訳なのですが、最後に…昼に葵を見たのは藤川さんで間違いないでしょうか?」
藤川さんは緊張しているのか、耳を赤くしながら、はい…はい…と何度も頷いていた。
「ちょっと世間話をした後にお昼を食べて来る…と言って席を立たれました。12時過ぎくらいです。午後一で松坂商事に出かけると言ってました…。その後にいなくなって…」
「午後一の予定を話す人がいきなり失踪する訳ないじゃない…私なんてこれですよ?」
私は飲みに行く約束をしたメッセージを二人に見せた。
「いなくなった日の朝だ…」
「先輩…温泉のお土産の話をしてますね」
「ここまで周りの方々が失踪じゃない!事件に巻き込まれたんだ!と訴えているのに…葵の両親が家出だ、なんて言い張って…馬鹿げてるわ。そこまで家出だと断定するなら根拠をあげなさいと…言いたくなってね。今、私から圧力かけているのよ」
「圧力ですか?」
藤川さんが首を傾げている。私は、満島さんにも頷いて見せた。
「葵のマンションの家宅捜索よ!」
「家宅捜索?!」
藤川さんが声を裏返した。満島さんが息を飲んだ。
「言い方は悪いですが…今までマンションの中に入らせてくれとお願いしても、拒否されていまして。こういう事を言いたくないけど…あのご両親が何か隠してるのじゃないかと思ってね」
「やべっ!」
藤川さんのヤバイ…とはどういう意味?満島さんは顔色を変えた。
「何か手がかりがないかと思って…ただ何もしないで待っていられないの…今もしかしたら苦しんでいるのかもしれない。痛い思いをしているのかもしれない。だって友達だもの、こんな時に真っ先に助けてあげたいじゃない…」
満島さんは泣き出した。そんな満島さんを藤川さんが優しく背中を摩ってあげている。
二人に家宅捜索の時一緒に来る?と聞いたけど、二人共行けたら行きます…というお返事だった。取り敢えず…連絡先を交換して、その場はそれで終わったのだった。
週明け月曜日…。
会社に行くと同じ部署の後輩、なっちゃんが
「ノリさん、ノリさん…SNS見た?」
と走り込んで来て給湯室の中に一緒に連れ込まれた。
「ど、どうしたの?なっちゃん…」
なっちゃんはスマホの画面を開いてこちらに見せてくれた。
「現代の神隠し…三人目の犠牲者…女性会社員…K氏(25)がまたも行方不明…深まる謎…呪われた㈱奏雅…」
「これ、昨日ネットニュースで取り上げられてて…今日のテレビのワイドショーも取り上げてるかも…ノリさん、これノリさんの親友の方が居なくなった…て言ってたあの会社ですよね?また行方不明…なんですよね?」
行方不明…。するとスマホにメッセージが入って来た。藤川さんだ!慌ててメッセージを読む。
『ネットニュース見ました?またいなくなった人がいて…企画三課の片倉未来さんなんです…。今日は満島は休んでいます…。今、社内じゃ…呪いだ…ってものすごい騒ぎですよ…外にもマスコミが押し寄せてきてて…』
うそ…行方不明…また?
急いでメッセージを打つ。
『今知りました。その片倉さんという方はいつから行方不明なのでしょう?』
メッセージを送るとすぐ返事が返って来た。
『金曜の夜から…じゃないかと。自宅で一人暮らしなので、土曜日に連絡のつかない片倉さんをご家族が不審に思って…という感じらしいです。出退勤の記録には金曜の7時前には社を出ているんですよ』
土日を挟んで三日前…。するとまたメッセージが来た。満島さんだ…。
『片倉さんがいなくなったって…ご存じですか?私どうしたらいいんだろう…怖いです。』
感受性の強そうな子だったから、自分の事のように怖いのかな…。会社休んでいるって言ってたしね。
『大丈夫よ、そんな大事じゃないかもしれないわよ?同じ会社で何人も行方不明者なんてでないって』
メッセージを入力してから、なっちゃんと給湯室を出た。もう始業時間だ…。しばらく発注の確認や書類を作っていて、フト気が付くとお昼前になっていた。
「なっちゃ~んお昼行こっか」
「は~い只今!」
パソコンの画面を見ながらなっちゃんは返事をくれたので、なっちゃんとどこに食べに行こうかな…と考えながらトートバックを出してスマホの受信お知らせに気が付いた。
あ、満島さんからお返事きていたかも…。メッセージの画面を開いた。
『でも…先輩達は…多分…戻って来ません』
な…何?これ…どういう意味?満島さん何か…知っているの?怖い想像をしてしまう…。
慌てて満島さんに電話をかけてみた。…出ない…。しまった、自宅の住所を聞いておくべきだった…。藤川さんに聞いてみる?いえ、今は個人保護法で同じ会社の方でも自宅を知っているかは微妙だわ…。
どうしよう…。
「ノリさんお待たせしました!」
なっちゃんが駆け足で廊下に立っている私の側までやって来た。スマホ片手にぼんやりしていた私を見て何かあったのか…と思ったのだろう、なっちゃんが顔を覗き込んで来た。私の方が小柄なのだ。
「ノリさん、どうしました?何かトラブルですか?」
どうしようかと思ったが、なっちゃんには例の行方不明事件の経緯は話してある。
「実は今日、葵の部下の女の子から連絡貰ってて…。また行方不明の方が出たでしょう?感受性の強そうな子だったんだけど…ちょっとおかしなメッセージ返してきてるし…。」
「おかしなメッセージ…ですか?」
「葵達は戻らない…って」
なっちゃんが眉根を寄せた。
「何ですかそれ?本当に行方の分からない方がいるのに…ふざけて…」
「そう言うタイプでは無い…と思うのよ。何か事情を知っているんじゃないかと思って…」
なっちゃんは絶句している。
「その女の子が事件に絡んでいるということですか?」
「分からない…でも、何か気にかけて会社まで休むって…余程じゃない?」
私達は廊下を歩きながら暫くその話題を話していたのだけれど…満島さんとの連絡は一向に取れないままだった。
その日の夜、やっと満島さんからメッセージの返事が返ってきた。
『変なメッセージを送ってしまいご心配をおかけしました。もう大丈夫です』
なんだかモヤモヤとするけれど、本人が大丈夫…と言っているのだからこちらが気を揉んでも仕方ないか…。
翌日
藤川さんに満島さんが出社しているか気になる…と、メッセージを送ると
『ちょっと元気は無いっすけど、出社してますよ。それよりマスコミがヤベェっす。絶対マイク向けられても話すな…て上から連絡来てたけど俺らだっていなくなった理由知りたいくらいなのに…』
藤川さんは油断するとヤベェばっかり言っちゃうタイプなのね…就業中は気をつけなさいよ?
今日はなっちゃんと一緒に得意先回りだ。なっちゃんはフランスとイギリスのクォーターで英仏日本中国語が話せるクァドリンガルだ。得意先のフランスの方との会話はほぼ、なっちゃん任せである。
「おじさんはお話長いですねぇ~」
とやっと得意先のオフィスから外に出て、ぼやくなっちゃんと連れだってお昼はお蕎麦屋さんに入った。お店は年季が入っているがお蕎麦は美味しいと評判のお店だ。店内にテレビが付いている。
「ありゃ…まだやってますね、神隠し…」
お昼のワイドショーでも今は大きなニュースが無いのか、連日行方不明の続報を流している。奏雅の会社前に中継も出ている。
「わ…ビルの前で中継って迷惑ですね」
「そのうちまた新しい話題が出れば、そちらに行くでしょう…」
そう言って数日経つと…思った通り新しい芸能スキャンダルが出て、世間の話題はそちらに流れた。
だが業界内ではそうはいかない…水面下で噂はジワリジワリと広がっていく。現に別の意味で良くない噂が流れ始めていた。
奏雅の経営陣が難あり…だと。新しく副社長に就任した前副社長の従兄弟が原因か…と。
カジュアルウェアのCMキャラに中年俳優…でSNSが大炎上。更に実はイケメン俳優、掛川尊に決まっていたのを強引に降ろされていた…とかの情報が流れて再び大炎上。
「どう考えても尊くんのほうがいいですよねぇ…。また株価下がってません?」
「下がりもするわね、次もまたやらかしたわよ?読モのミラルをハイファッションのイメガですって…」
「あ~あやっちゃったな…ノリさんさ…もしや奏雅の株を持ってませんか?」
私はパソコン越しになっちゃんの顔を見た。
「とっくに手放した。葵がいなくなったらヤバいのは馬鹿でも分かるし」
今日は休日だ。なっちゃんを誘って午後から葵の住んでいたマンションの家宅捜索を決行する予定だ。今まで拒否され続けていたがやっと許可が出たのだ。
「今日は葵さんのマンションで手がかり見つかるかな…」
なっちゃんは今日は動きやすいスポーティなジーンズとパーカーだ。私も似たような格好だ。
二人で葵のマンションに向かう。今日はお父様が運転手と護衛をつけてくれた。どうして?と思っていたら原因はマンション前で待つ人の姿で納得した。
「鷹宮学…さん」
「葵さんのご親戚の方ですか?」
なっちゃんと小声でコソコソと話しながら扉の前で待つ葵の従兄弟の鷹宮学、㈱奏雅の現取締役副社長の近くまで歩いて行く。
「…実莉さんひとりじゃないの?」
なっちゃんと後ろの護衛と運転手の森元さんを見て、学君(年下だしね)に頭を下げた。
「御機嫌よう、学さん。はい、少しでも手勢があるほうが発見することも多いかと思いまして」
学君はドヨンと濁った目で私となっちゃんをジロジロと見てきた。本当に葵と血の繋がりがあるのかしら?確かにパッと見た感じの姿形は似ている。しかし全身から滲み出ている…怠惰な感じと不摂生が原因だと思われる顔色…。その二つが相まって本来の美形であるはずの容姿をどことなく薄気味悪いものに変えている。
若い女性…特に目の肥えた女性に気味悪がられるのは分かる…。
「分かったよ…最初に言っておくけど、金目の物には絶対触らないこと。部屋の中のものは不必要に触らないこと…持って帰るのも僕に見せて確認すること。何か不審な動きをしたら警察に連絡するから」
なっちゃんが息を飲んだ。まるで私達が空き巣をしにきたと言わんばかりの対応だ。私はなっちゃんの背中を軽く叩いた。
なっちゃんは青みがかった瞳を私に向けて小さく頷いてくれた。
私達は葵のマンションの中に入った。室内は少し乱雑になっていた…。葵が散らかしている訳はない。誰かが中に入って引っ掻き回したのだ…。おそらく…私達より先に室内に入ったひょろりと背の高い学君を睨む。
何が金目の物よ…自分が真っ先に家探ししたんじゃない…この下衆がっ!
「このチェスト…中がくちゃくちゃですね。まさか空き巣が入ったんでしょうか?」
なっちゃん…ナイス!真面目に聞いてくるのが更にこの下衆従兄弟に打撃を与えているわ!
学君は顔を引きつらせてなっちゃんを見ている。なっちゃんは更に追い打ちをかける。
「やだ…この辺りコスメとかアクセを置いてたんじゃないですか?絶対捕られてますね…。警察にはご連絡されたのですか?」
思わずニヤリとしそうになるのを堪えた。
「け…警察は何も捕られていないって…葵の奴が部屋を汚してたんだろっ!」
なっちゃんは不信感溢れる目で反論した学君を見ている。
「明らかにシューボックスと衣裳部屋…っぽい所が全然物がありませんよ?確かにこれだけ見れば荷物を持って家出したと考えられますが…靴の空き箱を見て下さい。ブランドの値が高いものばかりが中身が入ってません。家出するのに○ブタンなんて歩きにくいヒールを持って行きますかね?」
鋭い!そう言えばなっちゃんはミステリー小説が好きだったわ!
「でも私なら空き箱ごと持って行きますけど…知ってます?外箱があるほうがリサイクルショップでの買取価格高くなること?ああ、あなたはお坊ちゃまだからご存じないかもですね~失礼」
なっちゃんは私立探偵にでもなれるんじゃないかしら…この空き巣の犯人、最初から気が付いてましたね?
なっちゃんは私を手招きすると冷蔵庫の前に立った。
「家出する人って食材を処分して行く方が多いそうですよ」
「へぇ~。学さん冷蔵庫の中、拝見しても宜しいでしょうか?」
「好きにすれば…」
私達は冷蔵庫を開けた。ううっ異臭がする…。あれは!?
「ぎゃあ!臭い…!」
「やだ~あれ何?!」
私達が叫んだので護衛のお兄様がすっ飛んで来て背後に庇ってくれた。
「お嬢様方は後ろに御下がり下さい」
「ちょっとゴローさん、待って…ごほっ、アレ食べ物よ?腐っているんだわ…」
護衛のお兄様は吾朗さんと言います。私がそう言うと準備よくマスクを顔に装着したなっちゃんが、冷蔵庫から異臭元のブツを取り出した。縦長の料理皿にラップをかけて乗っているソレはアオカビが纏わりついているが…。
「出汁巻卵焼きですね」
何処からどう見ても出汁巻だ、準備の良いなっちゃんは持参した小分け袋にその出汁巻を入れた。
「生ごみ系は捨てておきましょう…」
「葵~ごめんね、冷蔵庫の中を見るわね~」
冷蔵庫の中は生活臭に溢れていた。出汁巻を筆頭に期限の切れた納豆パック、作りおきのサバの味噌煮っぽいもの。(臭くて直視出来なかった)
家出の予兆なんてなかった。あんなに忙しいのにおかずを作り置きをしているくらいだ。
「お料理される方だったのですね~おかず腐っちゃってて勿体ないですね…」
「ホント、腐る前に部屋に入れたら良かったわぁ~」
学君に嫌味を言ってやった…。少しスッキリした。生ごみ類を片付けて…お風呂場を確認し、そして寝室へ向かった。
「失礼します」
なっちゃんはそう言ってクローゼットを開けた。ここは本や雑貨…下着類が入っているチェストだけだった。
「確かこの引き出しに下着を入れていた…と思うわ」
確か泊まりに来ていた時にここから下着を出していた気がする…。なっちゃんはソロリ…と引き出しを引いた。
「下着…綺麗に整頓されてますね」
「隙間なくきっちり入っているわね…。あ、あそこに大きいトランクがあるわ!よっと…中は…空ね」
クローゼットの中に置いてあったトランクの中も空…。下着類も不自然に無くなっていない。やっぱり家出なんかじゃないわよ…私達の後ろで機嫌悪そうな顔で立っている学君を睨んだ。
「急にいなくなったと思われる痕跡が沢山残ってますね。家出とは考えられませんね」
なっちゃんがばっさり切り捨てると、学君が言い返して来た。
「家出に決まってるだろ!仕事を放りだして僕に押し付けたんだ!迷惑だ!」
…よく言うわ。今まで仕事は全部葵に丸投げしていたじゃない?あなたが豪遊ばかりしていたのは私達の周りじゃ有名な話よ?それに仕事を迷惑だ…なんて表現して経営者サイドの人間としては恥ずべき発言じゃない?
「そうですかー迷惑だからーとーぜんやる気も起きませんよねー」
なっちゃんはチクチクと攻撃をしている。学君は唇を噛みしめてなっちゃんを睨むと、なんと私に向かってこの部屋の鍵を投げつけてきた!
「おいっ女!覚えてろよ!」
ものすごい捨て台詞だわ…。今時そんな言葉使う人がいるとは思わなかったわ。学君は足音を響かせてマンションを出て行った。とにかく投げつけられたとはいえ、お借りした部屋の鍵は有効に使わせて頂きましょう。
「なっちゃん…邪魔者は消えたし葵の行方の手がかりを探しましょうか」
なっちゃんはサムズアップをしている。やっぱりなっちゃんは凄いわ。もしかしてワザと煽って学君を追い出したのかしら?
結局
夕方まで粘って探したが…事件性を感じるものは発見出来なかった…。帰り際に葵の郵便ポストに鍵を返した。一瞬、手紙類を見せてもらえないか…とも思ったが、あの学君とまた顔を合わせて怒鳴られるのも気分が悪い。やめておこう…。
「大丈夫ですって…お話聞く限りじゃ葵さんってガッツのある方なのですよね?きっと今も戦っていらっしゃいます!私達も負けないで葵さんの無事を祈って見つけ出す戦いをしましょう!」
なっちゃん…良い子過ぎる。涙が零れ落ちそうなのを必死で堪えて微笑み返した。
しかしなっちゃんは励ましてくれたけど…気が重い。
それから共通の友人や葵の周りの同僚にも聞き込みをしているが、進展は無い。
なっちゃんはあれから、何か忙しそうだし…また捜索に誘うにも気が引ける。
今日は休日を潰して葵と前付き合っていた彼氏に会いに行っていた。元彼もすごく心配していた…。
手がかり無しで家に帰るとすぐにお父様がアポ無しで訪ねて来た。
「いきなりすまんな…。さっきまで経団連のお歴々の方々と会合があったんだ」
お父様にお茶をお出しすると、お父様はお茶を一口飲んで深く溜め息をついた。
「お前、奏雅の株価見たか?」
「下がってますね、利益が出ているうちに株は売りましたよ?」
お父様は苦笑いしている。
「では投資家としてのお前の意見を聞こう、今後株価はどうなると思う?」
「底値になるでしょう…上場から転落も近いうちに起こりそうですね。母体が大きいので倒産…まではいかないとしてもどこかの外資系企業にM&Aを仕掛けられそうではあると思います」
「経団連の狸とまったく同じ事を言うな~」
「当たり前でしょう?あの方々だって大なり小なり株券はお持ちでしょうし、投資家の一面だって持っていらっしゃるはずです。危険な方へ舵取りをしてしまった大きな泥船にいつまでも乗船する訳には参りませんもの」
とか…お父様と話していたその夜、夜中に電話の呼び出し音で私は叩き起こされた。
『実莉!…今うちの増田から連絡が来て…SNSでとんでもない情報が流れてるぞ!』
「ん…なんですかぁ…明日見ますから…夜中の二時じゃない…お父様…」
『いいから早く見ろ!検索ワードは奏雅、副社長、結婚だ!早くしろ!』
なんだというのかしら…眠い目を擦りつつ…スマホの検索をかけた。そして出て来たSNSの書き込みに目を剥いた。
『㈱奏雅現副社長と実川物産のご令嬢ご結婚へ!』
ん?んん?誰の事これ?
「お父様?見たわよ…これ何?」
『こっちが知りたいよ!実莉お前…』
「私じゃないわよ?」
『うちの娘で残っているのはお前だけだ!』
残っているって言い方…お父様セクハラよ?それ?
「これ誰が言ってるの?」
『SNSではブライダル業界の関係者が目撃した…とか書いているが、根も葉もない噂だな?!』
「当たり前でしょう?気持ち悪い…あんな子こっちから願い下げよ…。しかもその目撃されたっていう日、なっちゃんと二人で葵の家の家宅捜索をしていた日じゃない、笑っちゃうわ~」
まだお父様は興奮していたようだけど、電話口にお母様が出て、また鷹宮家の悪口を言って散々吠えていた。
あ~ホントこれから寝よう…って時に嫌がらせしてくるんだから…嫌な一族!葵は除いてね。
今、葵はちゃんと睡眠はとれているのかしら…ひもじい思いはしていない?
ウトウトしながら、中等部で葵と交換日記をしていた事を思い出していた。試験勉強も葵と一緒にすれば楽しかったな…。
葵…どうか無事でいてね…。
経済とか株などの知識はふんわりとしたものです^^;ご了承下さいませ




