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爺と曾孫


朝、私が第三の詰所に入って行くとオロオロした様子のジャレット君が近づいて来た。


「あの、アオイ様…」


「どうしたの?ジャレット君」


「それが…あの迷子のお爺さんを保護しまして…」


「迷子?お爺さん?ここで…?皇宮内よ?」


ジャレット君は何度もはい、はい、と頷いている。


「まあ、いいわ…で、その迷子のお爺さんとやらは、今どこに?」


「あ、はい。応接室でコロンド先輩に見てもらってます」


私はジャレット君と一緒に詰所の応接室に入った。詰所に居たコロンド君が振り返って困った顔を向けてきた。


「おはようございます、アオイ様」


「コロンド君、おはよう。聞いたわ、こちらの方?」


無言で頷いたコロンド君と一緒にソファに座るお爺さんを見る。


背中の曲がった小さいご老人だ。年は…80才は越えてるよね…シワシワの本当にお爺さんだ。


「失礼、私こちらの詰所の責任者の補佐をしている、アオイと申します。お爺様はどちらから来られましたか?」


「アオイ様…その今は眠っていらっしゃるようで…」


とのコロンド君の発言を聞いてよくよくお爺さんを観察すると、確かにくぅ…くぅ…と小さい寝息?のようなものをたてている。


「ね…寝てるの?拍子抜けね…。で、何か聞き出せたの?」


「はい…それが殿下に会いに来たって…」


「殿下…ナッシュ様のことかしら?」


「だと思うのですが…そう言ったきり…眠ってしまわれたようで…」


お爺さんの魔力波形を診る…。変な人じゃないといいけど…あれ?あれれ…うそ?こんな渦巻くような波形は診たことないわ…。何なの?


「あれ…ポルンスタ爺?どうしたんですか?」


ん?応接室に顔を出したナッシュ様の声にコロンド君と私はナッシュ様を顧みた。


「お…お知り合いですか?」


ナッシュ様はニコニコしながら室内に入って来ると


「そうだよ~SSSのポルンスタ爺だよ。爺、ご健勝でしたか?」


と言った。


な、何だってぇ?!た、確か先読みの予知とか出来るSSSの魔術師じゃなかったっけ?!


「先読みの術士様?!うそ?このおじいちゃんが…?!」


コロンド君が興奮してしまってか、いつもよりちょっと言葉使いが乱れている。


ナッシュ様はそのお爺さん、ポルンスタ爺(本物?)の横に膝を突くと静かに語りかけた。


「爺、どうされましたか?」


するとポルンスタ爺(本物)はゆっくりと目を開けるとナッシュ様につぶらな瞳を向けた。


「皇子…良い伴侶を得たな」


「…っ、はいっありがとうございます」


ナッシュ様が目線を私に向けてきたので、慌ててナッシュ様の横に近づいた。


「実はな、ワシが封をしておった遺跡に誰ぞが侵入してな…どうやら皇子と同じ小僧のようなのだ…。あそこは…うん、まあ詳しくはそれが帰って来てから話すかな…」


それ…とか小僧…とか言っているけど、遺跡に調査に行っている人なんて今、ガレッシュ様しかいないんじゃないか!?


「こ、小僧…多分、侵入したのは私の弟でして…あの遺跡、爺が管理されていたのですか…知らなかった」


「管理…とはちと違うな…あそこに目に触れてはマズかろうものを隠している…と頼まれたことがあってな…。まさか、ただの召喚の神殿に入る者がおるとは思わんで油断しておった…」


「あの遺跡…召喚の神殿なのですか?なんだ…爺に聞けば良かったのか…」


とかなんとか話しているとガヤガヤと廊下が騒がしくなって来た。何だろう?


「トリプルスターが来てるって?」


トリプルスター(皇太子)は普段からここに居ますけど?と言うツッコミは置いておいて…ジューイが嬉しそうに室内に入って来た。


「ちっさいじーさんだな~」


こらっジューイ!?ご高齢の方に対して何て言い方よ!


するとジューイの後からまた誰かが応接室に入って来た。


「曾爺~どうしたの?殿下に用事なら俺が連れて来てやるのに…」


ん?んん?護衛騎士団のミーツ兄さんではないですか?ミーツさんはスッとナッシュ様の前で膝を突いてからポルンスタ爺を見た。


「タミアさんに黙って出て来たんじゃないよね?急にどこかに行ったら皆心配するよ?」


「タミアには言って来とる…ナジャガルの皇宮に行くと言うたら、帰りはミーツが送ってくれるから大丈夫じゃろうと言われたわ…」


「分かったよ~帰りは送るからね、殿下、すみませんうちのジジイが押しかけちゃって…。」


「ああ、いいよ~。お元気そうだねポルンスタ爺」


ミーツさんは苦笑いをしている。ここまでの会話を総合すると…。


「ミーツさん、SSSのポルンスタお爺様の曾孫さんなのぉ?」


詰所に居たナッシュ様を除く全員がざわついた。これはびっくりだわ。


「はぁ…一応曾孫なんです。俺にとっちゃただの曾じーさんなんですが…」


「あ、じゃあクラバッハから逃げてきたっていうのはポルンスタお爺様なの?」


「ホホ…そんなこともあったかの…まあ今はあの阿呆の王族の血族が絶たれて清々したし気分がええわ。ワシの母親や姉御まで後宮に入れようとしたスケベ爺と連なった腐った血族じゃしな…」


思ったより毒舌じいさんだわ…。しかし…後宮ってあれよね?確かハーレム?お姉様はともかくとしても、お爺様のお母様ってことは既婚者よね?最低な王族ねっ。


「ポル爺…口が悪いよ?もう~クラバッハの事となるとすぐ怒るからなぁ…。で、今日は殿下に何か用なの?」


曾孫さんが窘めたが我関せずという態度でポルンスタ爺は、肩から下げていた大きなバッグの中から…魔法陣が描かれた紙をピッと出してきて


「ホレ、そこのでかいの。これを使え」


と、なんとジューイにその魔法陣の魔紙を渡そうとした。へ?ジューイ?なんで?


「オ、オレ?」


渡されようとしているジューイも目がテンになっている。


「心配せんでもすぐじゃ…これをお前さんの手元に置いておけば、すぐに分かる。結果が出たら隠さずに皇子か伴侶にすぐに言う事…それが上手くいくコツじゃ。分かったな?」


な…謎かけかな?お年寄りの言うことって要領を得ない…と言うか、結論から言うと…何の事?の一言かな?


思わず、ナッシュ様とご家族であるミーツさんを見てしまう。


「あ~成程、ポル爺…ジューイ様に何か見えたの?」


「そうか、爺の先読みか!爺はどちらかと言うと恋愛成就の先読みに長けている気もするな~私もアオイの事を先読みしてもらったし~」


何だと!?生き神様ならぬ、生き爺様で恋愛成就の神様(爺)なのか!?


するとポル爺はまたもガサゴソとバッグを探ると今度は曾孫のミーツさんに、もう少し大きめの魔法陣が描かれた魔紙を渡した。


「お前はこれじゃ…これはすぐ使ってもええじゃろ…ホレすぐ使え…」


ミーツさんはポルンスタ爺に魔紙を押し付けられて、渋々受け取って魔法陣を見ている。


「これ何~?怪しげな魔法じゃないの?ホラ、昔、子供の時に俺を虐めてたヤツに使ってた…笑いの止まらなくなる呪い…とかじゃないの?」


うおっ!?そんな呪いあるの?…これは…カデちゃんが疑っていた、ヒンヌー(貧乳)の呪いとかも実はあるんじゃないのかしら…ポルンスタ爺に聞いてみる?


「これ…召喚魔法じゃないですか?!お、乙女を呼ぶ為の魔法陣を魔紙に描きおこせるのですか?」


ナッシュ様の叫びに皆、仰天した。


召喚魔法?!て、異界の乙女を呼ぶあの?!


「何も乙女だけ呼べる訳じゃないわい…何を勘違いしとるのか分からんが…異界の迷い子がここに偶然来るように…必然で呼び寄せようと言う訳じゃ。心配せんでも成功する。魔法陣もミーツの魔力を()()()()()()()()問題ない。足りない魔力はワシが貸してやるから心配せんでもええ。お前は好きな女子の面影だけ考えておればええ」


すんごい力技だね…ここにも親じゃないけど曾爺の圧で強制お見合いをさせようと目論む御仁が居たとは…しかも性質の悪いことに世界最高峰の術士…色んな意味でパーフェクト過ぎて、逃げられない。


ミーツさんはそれは渋い顔をしてポルンスタ爺を睨んでいる。


「なんでそんなの急に言い出したの?俺にそんなこと言うの初めてじゃない?」


ポルンスタ爺は深く溜め息をついた。


「ワシかていつまでも元気ではおられんしのう…死ぬまでに玄孫の顔が見たいしのう…。ゴホゴホ…」


胡散臭い、咳き込みのオプションを織り交ぜて…死ぬまでに~とかものすごい圧力を感じる。


「爺、本当の所はどうなのです?」


ナッシュ様がそう聞くとポルンスタ爺はニターッと笑って見せた。


「いやな、異世界を覗いた時にワシの魔力の源流によう似た魔質の女性を見かけての…その子を深く探ってみたらミーツと恐ろしいほど相性が良い魔力でな…ワシの先読みでも…まあこれは後で分かることだが…兎に角やってみろ、ええな?召喚するまで帰らんぞ…死んでも帰らんぞ?」


異世界を覗く?とか不穏なワードがあったけど…これはこわーい、洒落にならん…。ここでポルンスタ爺が万が一お倒れにでもなったら…。


「ミーツさん…ここは一つ、ここでご老人に万が一でもあったら寝覚めが悪いわ…」


私がそう言うと皆の視線が端整な塩顔イケメン、ミーツ兄さんの顔に集まった。ミーツさんは素材は抜群にいいのよね。所謂アジア系イケメンであっさり顔だし…。その召喚する女性が日本人なら尚更、取っ付きは良いお顔立ちなのは間違いないわよね。


「はぁ…確かにこの年まで中々婚姻が纏まらないけど…まさかポル爺さ、先読みでこの事知ってて今まで邪魔してたんじゃないよね?」


鋭いね、ミーツさん。私もそんな気がするよ。呪い…とか使って曾孫の恋路を邪魔していた気もするよ…。


「えっと、じゃあ俺のコレも召喚なの?」


ジューイが不安げにポルンスタ爺から貰った魔法陣をナッシュ様に差し出した。


ナッシュ様は魔法陣をジッと見詰めてポルンスタ爺を見ながらジューイに魔紙を返した。


「これは、異空間連結系の魔法だ。空間と空間を繋ぐ、カデリーナ姫が作っていた『アイノゲタバコ』だったか…あれと同じ理論だ、ジューイ…お前真面目に魔術の勉強しろよ?こんなの常識の範囲だぞ?」


ジューイはムスッとした表情で魔紙を受け取るとポルンスタ爺を睨んだ。


「じーさん、空間繋いでどうするんだい?何が出て来るの?」


「さっきも言ったがすぐ分かる…どうするかはお前次第じゃ…」


また謎かけ~? 


すると応接室に息を切らせたザック君が駆けこんで来た。


「ト…トリプルスターの…魔術師のお爺さんが来てるって本当!?」


ザック君はポルンスタ爺を見つけると歓声を上げながら走り寄って来た。


「わあ…お爺ちゃんがトリプルスターですか?!僕…」


ポルンスタ爺は側に走り寄って来たザック君の頭を優しく撫でると


「ホホ…よう似とるの~上の兄も似とるがおチビはもっと似とるの~」


と…何やらひっかかるワードを連発している。上の兄…?はヴェルヘイム様のことよね?似ている…。


するとザック君はキョトンとした後に


「お爺ちゃんは父上を知っているのですか?」


と聞いた。そうか!ポカ爺のことか…。


「うむ…そうじゃの…もう随分と長い付き合いじゃの。あの方には助けられたからの~ワシの命の恩人じゃて」


命の恩人…。何があったのだろう…魔神が命を助けるなんて…はっ!命を助ける代わりに等価交換だぁぁぐへへ~死んだ後のお前の魂を寄越せ~~とか言われてたりして?それは悪魔か…。


「して…皇子の弟御はいつ帰るのかの?」


「あ、はい。夜に戻ってくる予定です」


私が慌てて答えると、ポルンスタ爺は頷くと


「その時、話すかの~しばし眠るわ…帰って来たら起こせ……」


また、寝たのかしら?するとミーツさんがソッとポルンスタ爺の側に行くと、爺を抱き上げた。


「こちらではお邪魔になってしまうので、騎士団の詰所の仮眠室で寝かせます。夜にまた連れて来ますので。お騒がせしました、皆様」


そうして、ナッシュ様とザック君に付き添われて、爺共々出て行った。


「びっくりしましたね~」


本当コロンド君の言う通りよ。でもポルンスタ爺とポカ爺が知り合い…と聞いて謎の多そうなポカ爺の正体?が急に気になってきたよ。


まあ取り敢えず…夜までに仕事しとこ…。


すると、夕方くらいにガレッシュ様と未来が帰って来たのだ。他に冒険者の男性達もご一緒だ。この方達が発掘のプロチームね。


「兄上から念話がきてさ、SSSのポルンスタ老師が来てるっていうから~調査切り上げて帰って来たんだ」


おお、そうですか~小僧君、もといガレッシュ様。


未来はシューテ君とジーパス君と更に若い冒険者の男の子も後ろに従えていた。


「先輩…今大丈夫ですか…」


なんか真剣だね…どうしたんだろ?未来は詰所の奥のキッチンに私を連れて行くと、小さいテーブルの椅子に座るように勧めると…ものすごくキッチンの入り口を気にしながらヨジゲンポッケから一冊の古い本を出してくると、私に差し出した。


「あの遺跡…というか乙女の召喚儀式用の建物だったんですが、そこから持って来たものです。読んでみてくれますか?」


私はその古ぼけた本を受け取った。


「マーガレの日記…と書いているわね…書いたのは1011年前ね…すごいね」


未来はコクコクと頷いている。


私は読み始めた…。そしてすぐ驚愕して未来の顔を見た。未来は顔を強張らせてこちらを見ている。


「せ、先輩…消音の魔法を使っていいですか?声に出して読んで欲しいのです。ガレッシュ殿下に翻訳を間違えてないか…と聞かれちゃって自信が無くて…。」


「うんうん、そうよね。こんな内容…確かに疑いたくなるわね、私が張るわね」


私は消音の魔法を張った。そして声に出して日記の内容を読み上げた。


「年々魔獣が増え…グローデンデの森の瘴気が町を襲い、森の浸食が大陸の四割に迫っていると噂されている。この魔素をなんとかしなければ…各国話し合いの末、太古の昔召喚したとされる異界の乙女の召喚を何度も試みたがうまく行かない。このままでは森に大陸が飲み込まれて…この世界が滅んでしまう。その時、シュテイントハラルの術者の一人が立ち上がった。長きに渡る研究の成果の禁術と呼ばれるものを行使しようとしたのだ。しかしあまりの膨大な魔術式の為にシュテイントハラルの神々に反対された。今は彼も神々の意見に従ったようだ」


ちょうどここで頁が変わるみたい…。言葉を切ると未来を見た。


「1000年前に…森の魔素がこんなに溢れてきていたのね…知らなかったわ」


「先輩、果実水入れましょうか?」


「お願い」


未来に入れてもらった果実水を一口飲んでから再び頁を捲り読みだした。


「しかし森の浸食は留まる所を知らず…大陸の半分は魔素の霧に覆われてしまった。もう猶予はなかった。神々はまだ反対していたが、彼の術者は禁術を発動した。私も詳しい術式理論は分からない。彼の術者に少し聞いた程度だ。彼の術者の体内に魔素を吸い込み…この世界の魔素を減らしてしまう術らしい。この大陸を覆う魔素を一人の術者で?無謀過ぎる…だが彼の術者はこう言っていた…誰かがやらないと、皆死を待つのみだ…」


一旦、言葉を切ると果実水を飲んだ。


「危険な術…神々の反対…てコレ本当の神様なのかな?シュテイントハラルは王族方は神の末裔とは聞いたけど…1000年前は純血?と言うのかしら、本当の神が住んでいたのかしらね…」


未来はまた無言でコクコク頷いている。


私は一つ頷くとまた続きを読み上げた。


「術は成功した。魔素が見る見る減少してきた。霧も晴れ…森の木の根はすぐに枯れ始めた。ところが数年経って…皆気が付き始めた。彼の術者は…その魔素を体内で蓄え続けて…もはや人では無くなっていたことに…。彼の術者の術は止まらなくなっていた。常に魔力を吸い上げてしまう。彼の術者は考えたそう。このままではこの世界の魔力を吸い尽くしてしまう…と。彼は変わり果てた姿で…最後にこの神殿に来た。このまま自らの体を異空間に封印すると…自分が存在していると魔力を全部吸い取ってしまうから…と。ああ、何ということでしょう…私達を守る為に彼は人ならざる者に変容してしまっていた。そして彼は異空間に行ってしまった」


そしてフウッと息を吐いて次の行に目を落として…仰天した。


「彼の術者…アポカリウス=カイエンデルト様は今、何処に居られるのでしょうかぁぁぁ?!はあぁぁ?!ちょ…これ…何回読んでもポカ爺の名前じゃないの…。うそでしょ?あの人…元人間なの?」


「せ、先輩?ポカ爺…て、このアポカリウスさんをご存じなのですか?」


未来の言葉に唖然としたけど、すぐに気が付いた。そうだ、未来はポカ爺に面識がない。この名前を見ても知らないはずだ。ガレッシュ様は確か数回は会っているはずだ…。


「ポカ爺は…アポカリウス=カイエンデルトは…ヴェルヘイム様とザック君のお父様で…本人は魔神…魔の神だと名乗っていて…今も20代くらいの若さのままの…男前よ」


未来は小さく悲鳴を上げた。


どういうこと…?そういえば世界の反発だと言ってすぐに転移してどこかに消えていたけど…あれはもしかしてこの世界の()()()()()()()()()()()()異空間に帰っていたの?


ああ、分からない…。そ、そうだ。


「カデちゃん…カデちゃんに連絡しましょう!」


「本当だっ?!」


私は急いでカデちゃんに手紙を書いて未来に頼んで離宮の『タクハイハコ』でカデちゃんに手紙を送ってもらい連絡を待った。


カデちゃんはお昼過ぎにやってきた。ヴェルヘイム様と子供達…そしてオリアナ様も一緒だった。皆、子供達ですら大人が緊張感を漂わせているので、神妙な顔つきだ。


「葵…未来…ご連絡の件、本当なのでしょうか?」


私は集まったデッケルハイン家の皆様をぐるりと見回した。


そして、皆の前でもう一度日記を読み上げた。


「あくまでも、一個人の日記の内容はこれです。ですが、SSSのポルンスタ様と言う方が遺跡に入られた件でお話がある…とこちらにお越しです。ポルンスタ様はアポカリウス様と古くからのお知り合いとのこと…何かお話があるのは確実です」


ヴェルヘイム様はお母様のオリアナ様を見た。


「母上、俺は母上に父上との出会いぐらいしか聞いたことがない…。母上は父上の出自…知っているの?」


オリアナ様は真っ青だ…。


「黙っていてごめんなさい…アポカリウスから絶対に言わないように…と止められていたので。でも…今の内容は私でもこんなに細かくは聞かされていないわ…。シュテイントハラルの出身だったのね…」


皆が深く深く息を吐いた。


「ポルンスタ爺にお話を聞きに行きましょうか…」


私がそう言うと皆が大きく頷いた。


何を聞かされるのか…怖い。いえ、もっと怖いのは何かを背負っているであろうポカ爺本人ではないだろうか。


この日記の内容が真実ならば…たった一人禁術に体を蝕まれながら…1000年の時を生きる…。


想像を絶する強さだ。呑気な態度の裏にこんなドラマがあったなんて…。


私達はポルンスタ爺が待つ来客用の貴賓室へ向かった。


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