遺跡探索 SIDEミライ
ミライSIDE後編です
次から本編に戻ります
「奥に行けば召喚の間がありそうですね。気を付けて下さい。まだ触れれば発動する障壁があるかもしれません」
先生の言葉に皆さん無言で頷いた。しばらく行くと細かい間仕切をしている部屋が沢山あった。
「先生っこちらに書物があります!」
ソラタ君の声に先生は小部屋の一つに入って行く。私はもう少し先にある小部屋に入って行った。戸棚がある…この戸棚だけ…古代語魔術の障壁がされている。
ジー君とシュー君が後をついて来るけど、気にしてはいられなかった。戸棚の障壁に手を触れる。古代語魔術を読み取る。
分かる…解ける。解呪をして戸棚に触れた。戸棚の扉を開けて見た…中に何も入っていないけど…戸棚の奥から魔力を感じる。ゆっくり手を伸ばした。
「ミライさん!?闇雲に触ってはいけませんっ」
シュー君に制止されたけど、止められなかった。早く奥を見なければ…と何か焦っていた。硬い何か本のようなものに手が届く。ピリッと指先に痛みが走った。
「ミライッ!?触ってはダメだ!」
飛び込んできたガレッシュ殿下に手を引き抜かれて体ごと戸棚から遠ざけられた。
「指から血が出てる…」
ガレッシュ殿下が治療魔法をかけてくれる。これくらいの傷は治せるみたいだね。
「遺跡には触れれば発動する暗黒系の魔法がかかっていることも多い…触っちゃダメだ」
「済みません…」
ガレッシュ殿下は私の顔を覗き込んできた。また怖い顔をしている。
「どうしたの?何かあったの?」
目を合わせずに私は戸棚を顧みた。
「あの中に…本のようなものが入っていて…」
「本?」
ガレッシュ殿下は戸棚の中を覗き込んだ。
「隠し棚になっているな…よっと…、これだな?」
ガレッシュ殿下が取り出してきてくれたのは古くて若干薄汚れている、確かに本だった。
「封印系の障壁は…無いな、これ何だろう?」
「マーガレの日記…と書いています」
「日記ですか?なんだ…」
シュー君がそう言うとガレッシュ殿下は中を開いて見ながら
「何だ~じゃないよ?1000年前の先人の生活習慣などが分かる貴重な文献だよ~。う~ん、所々は読めるけど…ミライ頼んだ」
と、言ってガレッシュ殿下が差し出した日記を震える手で受け取る。殿下が私の手が震えているのに気が付いたみたいで、目を細めた。手を摩りながら受け取るとゆっくりと本を開いた。
「どうだ?ミライ読める?」
「…はい、読めます」
皆がどっと息を吐いた。すると、部屋の戸口に先生が現れた。
「ミライさん、こちらもいくつか文献を見つけましたので、奥の開けた所で今回の発掘の拠点を作ってから、そちらで纏めて翻訳してもらってもいいですか?」
「あ、はい」
私は日記を胸に抱いたまま、皆さんと一緒に奥の広間?のような所まで移動した。
「ここはおそらく控えの間で…その最奥に召喚を行っていた儀式の間があったと思われます。ミライさん、どうです?ここは何と書いていますか?」
先生がその部屋の入り口にある石版を指差した。大分掠れてはいるが、なんとか読める。
「はい、控えの間、関係者以外立ち入り禁止…と書いてます」
「この文字が立ち入り?」
わたしが頷くと先生とその助手状態の他の冒険者の方々は一斉にメモを取る。そうか一文字一文字解読していかなくちゃいけないのか…。
他の壁に書かれた『お手洗いは廊下奥』とか『水は節水を』なんて生活感溢れる注意書きの文字を解読して皆さんに伝えながら、拠点作りを手伝った。
皆さんにお茶をお出ししてから、先生から受け取った文献を見る。
「これは召喚に関する文献でしょうか?」
「はい…。表題は儀式の注意事項…ここ掠れてる…、えっとク?クノ…神官長著かな?」
皆さんのメモを取る音を聞きながら私も全翻訳文を読みながら書いていくことになった。結構大変だよ。
「えっと読みますね、最初の項は儀式に際する注意点です。術者は召喚を行う際に以下の事を理解の上臨むこと…その1、魔法陣は必ず一人で描き印すこと」
思わずガレッシュ殿下を見てしまった。ガレッシュ殿下は苦笑いして頷いている。
「その2、異界の乙女の出現を心から望まない限り、召喚は成功しないこと」
皆さんがざわついた。なるほどね、誰でもかれでも呼べる訳ではないんだ。
その後の項目は葵先輩の体験談で聞いたことが大体あっていたことの裏付けになるような記載ばかりだった。
「最後にもっとも注意すること…」
皆さんが一瞬言葉に詰まった私に注目する。私は、慌てて読み上げた。
「異界の乙女は…生まれ落ちた瞬間に乙女たる資格を有するとされる。破魔の剣を召喚する際には呼んだ術者と適正の合う剣を心の内に思い描く事をしながら召喚に臨むように…と召喚した乙女に必ず伝えること」
皆さんは感嘆の声を上げながらそれぞれ文献に対して熱く語っている。私はその横で翻訳した文献の書き写し中だ。そして先程、思わず読まないで飛ばした項目に目が行く。
『異界の乙女とは術者と対となる者。術者との呼応により召喚が成されない場合はその乙女の魂は何度も廻り、呼ばれるまで異世界を永劫彷徨うことになるとされている』
これって要約すると、術者が呼んでくれなきゃ異世界で永遠のぼっち様、お一人様フォーエバーだってことじゃないか?考えただけでゾッとするわ。
さて、他の文献も読み上げて尚且つ、魔紙に書き写して…何気に私が一番しんどいのか?状態で目頭を揉みながらなんとか先生の探してきた、文献の翻訳写本が一冊出来上がった。
「まだまだ、奥にありますので、発掘目録の詳細を手分けして制作しましょうか」
との先生の作業工程の振り分けが発表された。私はもちろんデスクワーク、写本作りだ。体動かしたい…。
時々ストレッチをして、また書き写して…を繰り返してフト、テーブルの横にお茶が置かれたのに気が付いて顔を上げたら苦笑いしているガレッシュ殿下がいた。
「あんまり根を詰めるなよ?少し休憩~」
そう言って私のヨジゲンポッケを勝手に弄るとマッチャ…南瓜プリンを出してきた。
「これ貰うよ~」
「はい、どうぞ」
ガレッシュ殿下はプリンを食べつつ、私が書き写した紙を見ながら呟いた。
「さっき、読み上げてた時、この項目飛ばしたんじゃない?」
と、永遠のお一人様…の項目を指で指し示した。鋭い…。
「乙女に選ばれた女子をディスっている文面だったので、個人的主観により読むのはやめました」
「ディス…ああ、そうか。確かに永劫彷徨う…てね。これじゃ呼ばなかった術者が女性を永遠に苦しめていると取られかねない文面だね~」
「ホント、勝手に呼んだり呼ばなけりゃ、こっちにお一人様を強要したり…とんでもないですよ」
ガレッシュ殿下がまた怖い顔で私を見てくる。そして急に消音の魔法を使った。聞かれたくないことかな…障壁の向こうでジー君とシュー君がムスッとした顔になったのが見えた。
「ミライ、なんか隠してる?一人で考えてる?」
ああ、そうか…朝からの怖い顔は私の魔力波形で何か心の動き?みたいなのを確認していたのかな…。
「隠すってほどじゃないけど…ん?いや重要かな…今更言うのも申し訳ないけど…」
「何?」
ひーーっ魔圧が怖いよ…。
「この遺跡の周りに張ってあった古代語魔術の障壁…診た時にすぐに解読出来ました」
そう言うとガレッシュ殿下は目を剥いた。
「バカ、それは早く言え!俺も先生も疲れ損じゃないかっ、そんなことは早く言え!」
大事なことなのか二回連呼されてしまった…スミマセン。
「それで…?朝からちょっと元気ないだろ?なんだ?」
「いや…あの…それはそれほど…じゃないんですが…この遺跡に来た時に、こっちの方が…気になるというか…」
ガレッシュ殿下は俯いて唸っている私の後頭部にチョップを叩きこんだ。ゴンッ!て音がした!痛いじゃないか!
「痛いよっ殿下!」
「早く言え」
もうぅ…上手く話しを出来るか自信無いんだけどな…。
「この遺跡に入った時…奥の方から何か感じてるんです…その…日記からもそれを感じる…」
机の上に置いてある…私が戸棚の奥から持って来た日記を指差すと、ガレッシュ殿下はその日記を手に取った。
「ん~?さっきも言ったけど呪いとか暗黒系の呪術はかかって無いけど?」
「そんな怖いのじゃないんですよ…中を早く見たいとか…焦るみたいな感じがして…」
ガレッシュ殿下は日記を差し出した。
「今読んでみたら?」
「でも怖いです」
ガレッシュ殿下は目を見開いて私をガン見してきた。
「お…俺が、ついてるから…読んでみろ…」
なんでそんな顔なの?しかも何をどもってるの?まあいいか…。恐る恐る日記を受け取ると中を見た。
「…女の人…ちょっとご年配の女性の方の日記みたいです。内容は…乙女の召喚の儀式のお手伝いをしていて、中々召喚が上手く出来ない…。何かが足りないのか…え?ええ?」
思わず読んでいて叫んでしまった。ガレッシュ殿下が身を乗り出して来る。
「どうした?続き、ホラ」
顔が強張ってしまう。嘘でしょう?マーガレの日記の表紙を確認する。1011年前だ…。
「読みますね?…年々魔獣が増え…グローデンデの森の瘴気が町を襲い、森の浸食が大陸の四割に迫っていると噂されている。この魔素をなんとかしなければ…各国話し合いの末、太古の昔召喚したとされる異界の乙女の召喚を何度も試みたがうまく行かない。このままでは森に大陸が飲み込まれて…この世界が滅んでしまう。その時、シュテイントハラルの術者の一人が立ち上がった。長きに渡る研究の成果の禁術と呼ばれるものを行使しようとしたのだ。しかしあまりの膨大な魔術式の為にシュテイントハラルの神々に反対された。今は彼も神々の意見に従ったようだ」
頁が変わったので、一旦言葉を切って読むのを止めた。ガレッシュ殿下を見ると青ざめていた。私も同じような顔をしているのかもしれない。
「ミライ…それ本当?」
「私は書いている通りに読んでいるだけです…」
情けないことに声が震えてしまう。ガレッシュ殿下の入れて下さったお茶をがぶ飲みした。
「続き…読みますね?」
ガレッシュ殿下は頷いた。私は深呼吸すると続きを読んだ。
「しかし森の浸食は留まる所を知らず…大陸の半分は魔素の霧に覆われてしまった。もう猶予はなかった。神々はまだ反対していたが、彼の術者は禁術を発動した。私も詳しい術式理論は分からない。彼の術者に少し聞いた程度だ。彼の術者の体内に魔素を取り込み…この世界の魔素を減らしてしまう術らしい。この大陸を覆う魔素を一人の術者で?無謀過ぎる…だが彼の術者はこう言っていた…誰かがやらないと、皆死を待つのみだ…」
嘘でしょう…?そんな危険な術をたった一人で発動したの?
私はまた続きを読み上げた。
「術は成功した。魔素が見る見る減少してきた。霧も晴れ…森の木の根はすぐに枯れ始めた。ところが数年経って…皆気が付き始めた。彼の術者は…その魔素を体内で蓄え続けて…もはや人では無くなっていたことに…。彼の術者の術は止まらなくなっていた。常に魔力を吸い上げてしまう。彼の術者は考えたそう。このままではこの世界の魔力を吸い尽くしてしまう…と。彼は変わり果てた姿で…最後にこの神殿に来た。このまま自らの体を異空間に封印すると…自分が存在していると魔力を全部吸い取ってしまうから…と。ああ、何ということでしょう…私達を守る為に彼は人ならざる者に変容してしまっていた。そして彼は異空間に行ってしまった」
私は涙が溢れそうになっていた。この術者の人、魔人になっちゃったのかな…でも意識はしっかりしてるっぽいよね…。これは辛すぎるよ…。
「彼の術者…アポカリウス=カイエンデルト様は今、何処に居られるのでしょうか…」
と最後の文を読み終わった時、ガレッシュ殿下がガタン…と立ち上がった。びっくりして殿下を見ると、殿下は真っ青になっている。
「ちょ…ちょ…その日記貸して…。今、最後の文どこ?」
私は殿下に日記を渡しながら、文を指差した。
「ここです、アポカリウス=カイエンデルト…これが人ならざる者に変わっちゃった術者の名前ですよね」
ガレッシュ殿下は食い入るように日記を見ている。
「ミライ…本当に間違いない?翻訳間違いなく出来てる?」
「そりゃ…絶対とは言い切れませんが、あ~じゃあこの日記、持って帰れるなら葵先輩にも読んでもらいましょうか?」
「うん…そうしよう、絶対その方がいい。確かめよう」
何だろう?ガレッシュ殿下何か茫然となってるけど…大丈夫かな?
お昼の時間になったのでガレッシュ殿下お手製のエビフライ入りクラブサンドと魚介のスープが振舞われた。私のマッチャプリンも好評だった。
夜までにまた遺跡内の探索に出た。歩くたびに壁画の文字を読んでいき、奥の召喚の間にも入ってみた。
召喚の間は何もない広い空間だった。唯一怪しい所は玉座?のような所だ。
アレさ、どこかに仕掛けがあって押したら玉座の下に階段がドーンとあったりしない?それで地下に降りたら…金銀財宝が…!不老不死の妙薬がぁ!…じゃないかな?匂うぜ…。
「どうやら召喚魔法はこちらで複数回行われたようですね…ミライさん、召喚は成功したのでしょうか?何かそれに関する文献はありましたか」
私は先生に問われて、先程見ていたマーガレの日記を取り出した。
「この神殿でお世話係をされていた方の手記です。初めて召喚に成功された時のことが書かれていました」
私は日記の最後の頁辺りを開いた。アポカリウスさんという禁忌の術を行使した方が…いなくなったすぐ後に、皮肉にも召喚が成功していたのだ。
「複数回…術者を変えて何度も召喚魔法を行使し、異界の乙女がやっと現れたとあります。…読みます。『異界の乙女は豪奢な羽織を幾重にも重ねた不思議な装束を身に付けており、艶やかな長い黒髪の大人しい妙齢の女性であった。』とあります。長い黒髪で羽織を重ねた?と言うことは、時代的に平安時代のお姫様かな~?」
「なんだって、1000年前に召喚したのは異界の姫君だということですか?」
先生にまたも問われて、少し慌てた。
「あの恐らくですが、一国の姫…という訳ではなくて貴族…そう、そのご令嬢ではないかと思われます」
時代的に公家とかの姫の可能性高いよね?間違ってないはず?…日本史もっと勉強しとくんだった…。
その日記の続きは召喚した乙女が、非常に勤勉で慎ましく…彼女の召喚した剣はまさに破魔の剣として非常に優秀だったと記されていた。異界の乙女を召喚したクラバッハの公爵家の長兄は彼女を娶り、子宝にも恵まれた…と書かれていた。
「クラバッハ国に初代異界の乙女の子孫の方がいるのでしょうか?」
ガレッシュ殿下を見ると、殿下はう~んと首を捻っていた。
「あの国は…二年前に内乱が起こって政権が変わったんだ。もし…公爵家の血筋が残っていたとしても先の内乱で無事かどうか…」
そうなんだ…。もしかすると血筋が絶えている可能性もある訳だ…。その時遺跡の入り口で匂ったいい香りがしてきた。クンクン…。と香りを辿ると、ちょうど召喚の間の中央辺りから流れて来る気がする。しかも少し床が輝いてない?
匂い…この匂い、昔嗅いだことのある。
「白檀だ…伽羅香…。間違いない…」
床の光っている所に足が向いた。その時グイッとガレッシュ殿下に腕を引っぱられた。
「どうしたの?」
「いえ、あの…」
と床を指差したが、もう床は光っていなかった。あのお香のような匂いも消えている。
そうか…平安時代って伽羅香…沈香とか流行ってたっていうよね。もしかして…平安時代の残り香?みたいなのが漂っていたのかな…。
それから少し調査をしてから私達は、召喚の間を後にした。
本日はここに泊まり込みだそうです。
またもガレッシュ殿下特製のバンバガデランガ肉のシチューとブリオッシュ…魚介のアクアパッツア、私の作ってきたカニクリームコロッケの夕食だ。
皆さんに魚介が美味しいと大絶賛を受けたので、ナジャガルのシテルンへおいでやす作戦(観光)を決行してみた。皆さん、このような遺跡発掘の専門チームなせいか、各国への移動に際してフットワークが軽いらしく…すぐに行ってみる~と楽しそうに言って頂けた。
先輩、シテルン行きの観光客ゲットしましたよ!
そして、皆さん床にごろ寝で就寝された。そして私も敷布を引いて横になった…んだけど…。
うっかりしていた。
召喚の間のあの玉座…。隠し階段の仕掛けがあるのか、無いのか…確かめてくるのを忘れてた!
一旦気になり出したら眠れない…。ああ、こんなことなら寝る前に見てくるんだった。
よし…今確認しておこう。それで何もなければそのまま眠ればいい。もし階段が出現したら明日、皆と一緒に地下の探検をすればいい。
私はヨジゲンポッケの中をゴソゴソ探ると、前にマジー先生に描いてもらった消音と消臭の魔法陣の描かれた式紙を取り出すと、ソッと魔力を籠めた。魔法陣が発動して私の周りに術式の膜が降り注ぐ。
上手くいった…。私は足早に控えの間を出ると召喚の間に向かった。
召喚の間に入ると光魔法を発動して足元を照らしてから、足早に玉座に近づいた。怪しいのは玉座の背もたれの辺りかな?ボタン、ボタン…。
「どこに行くの?」
「ぎゃあああ!」
あまりの衝撃に女子有るまじき声で絶叫してしまった。消音魔法を発動していてよかった…。召喚の間の入り口には…真っ暗で姿形は見えないが、魔力波形が診えるのですぐ分かる、ガレッシュ殿下が立っていた。
ガレッシュ殿下(影)は素早く室内に入って来ると、消音消臭、四重魔物理防御と透過魔法?だったかを使いながらどんどん魔圧を上げて近づいて来る…?!何事?
「どこに行こうとしていたの、ミライ?」
声が低い…何?怒ってるの?
「どこって…ここを…」
と、私が言い終わる前に目の前にガレッシュ殿下がやって来た。アッと言う間に殿下の障壁の中に入れられる。
「もう逃げられないよ…」
あれ?こういう台詞…。聞いたことあるよ?ホラあれだ…ヤンデレキャラが使う台詞だ、そうそうヤンデレ…え?ええ?
「どこに帰るつもりだった…?」
「帰る…?まだ帰国は明日の夜の予定ですよね?」
ガレッシュ殿下の手が私の肩を掴んだ。痛いなぁ…。何だろう?
「今…逃げようとしていただろ…。正直に言えよ、帰るつもりだったんだろ?」
なんだろう?言葉は通じているのかな、光魔法の僅かな光源の下、ガレッシュ殿下の顔をよく見ようと顔を近づけた。
泣きそうな顔してるよ…?どうしたのさ…。
「だからさっきも言ったけど、帰るのは明日ですよ?」
ガレッシュ殿下は顔を歪めた。
「今…その玉座で何かしていただろ…。し…召喚の…異世界に戻る方法…何か見つけたんじゃないのか?」
ふへっ?何それ…?ん?
「これは…玉座に何かボタンとかスイッチが無いか確かめていただけで…」
「ぼたん…すいっち?」
いかんいかん、英語も異界語だ。
「う~んと…例えばだけど、この背もたれのところに仕掛けみたいなのがあって…そこを押せばこの椅子が動いて…隠し階段が現れて~階段を降りたら…すごい財宝がぁ!…みたいなのないかな~と思って確かめてたんです。」
「隠し階段?」
「はい」
「財宝?」
「はい」
「今この時間に?」
「気になったら眠れなくなって…確認してから寝ようかと…」
私が言い終わらないうちに突然、ガレッシュ殿下が抱き付いてきた。いだだだっ…痛いっ!
「殿下っ背骨折れるっ…コラッ!」
「よかった…よか…このままいなくなるんじゃないかって…思ってた…」
まさかのまさか、殿下泣いてるの?どうしたのさ…。帰るって異世界に帰る…てこと?
「殿下どうしたの?帰るって言ったって…帰り方分からないし…」
「だからっ古文書とかにその方法が書いてて…それを試そうとしてたんじゃないかって…おも…思ってぇ…」
ふええぇ…とまた殿下は泣き出した。これはイカン…。私の行動が殿下を不安にさせていたということに気が付いた。
「大丈夫ですよ~ん…」
引き寄せて泣き濡れている殿下の頬に口づけた。鼻頭、顎、そして唇…と優しく口づけていく。
「もし異世界に帰れるとしても…色々確認してからじゃないとね~」
「確認…てなに…」
まだ泣いている…よ~し、普段は勇気が出なくて自分からは出来ないけど…。
私はガレッシュ殿下を引き寄せると口づけを自分からすると耳元で囁いた。
「ガレッシュと一緒に異世界旅行を楽しんでちゃんとこちらに帰って来れるか…確認してからじゃないとね~だって一緒に異世界に行けたらいっぱい見て欲しいものや、楽しんでもらいたいもの沢山あるんだ~。遊園地とか…食べ物もそうだし、あっヨジゲンポッケを持って行って、詰め込めるだけ異世界の物を持って帰りたいな~便利な物、沢山あるんだよ?それを葵先輩とカデリーナさんとで研究してこっちで発売したりとかさ~楽しいだろうな」
「俺も一緒…」
「そうだよ~当たり前じゃん、それにガレッシュを両親とお爺様にも紹介したいし…わ、私の大好きな…愛している人です…って」
言えた~。恥ずかしかったけど…頑張れた。まだポカンとしてるガレッシュ殿下の口に口づけを更にする。普段イチャイチャしてくれないから、この無防備な時にいっぱい唇を奪ってやれ!…飢えてるね私。だってやっぱり少しはくっ付きたいもんね。
「だって~皆に知ってもらいたい…私の大好きなガレッシュはこんなに素敵な人でカッコよくて、優しくて…うぐっ?!」
おおぃ!?急に舌を絡める激しいキスに変わって…顎が外れるんじゃないかと思うほど口内をガレッシュ殿下の舌が蹂躙する。息継ぎの合間にガレッシュ殿下に囁かれた。
「ミライ…大好きだ、愛してる。もっと触れていたい…もっと抱き締めていたい」
嬉しくて、涙が出そうになった。ああなんだ…こうやって素直に言葉にすれば殿下はちゃんと返してくれるんだ…。
「はい、いつでももっと触れて下さい…。もっとキスして下さい…普段からイチャイチャして下さい」
ガレッシュ殿下は一旦顔を離すと不思議そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
「キス…って口づけのことだよね?イチャイチャ…て触れ合いって意味だよね?普段から…え?え…普段って…日中とか仕事中ってこと…?触っていいの?」
なんだか確実にエロイ方向の事を妄想されている…気がして慌てて否定した。
「仕事中は流石にダメですよ!普段とは…人気の無い…いえあってもいいんですけど、外とかでも手を繋いだりとか…その、軽い口づけとか…もっとガレッシュの側に居たいし、居て欲しいんです」
今日は勢いで全部言ってやったぞー!文句があるかっ!?かかって来いッ!
「うそだ…」
「何が…です?」
「ミライって…引っ付かれたり、甘えたりとか…嫌なんだと思ってた」
誰がそんなこと言ったんだー!…いや、待てよ?言ってないけど…反対にくっついたりするのが好き、とは言ってないな…。
「そりゃ時と場合にはよりますけど、ガレッシュに触れられたり…近くに居てもらえるの大好きですけど?」
ガレッシュ殿下の魔力が五段階ぐらい明るくなった。こんな夜中にヤメいっ!目をやられるわ!
「わ~~っもうっ!そんなこと早く言ってよっ!もっとひっつく~。絶対苦手だと思ってたから触らないで我慢してたのにぃ~」
それはそれは…失礼しました。もっとひっついてくれて構わないんだよ、ささっ近こう寄れ…。
ぐぐっ…とガレッシュ殿下の体が近づいて来て…おや?胸を触ってますな…うん?お尻…まあいいでしょう。あれれ?ちょっとそこも触りますか?おいぃ…こらこら…。
「ちょ…こんな所で…」
「障壁張ってる…」
「皆…いるぅ…」
「もう寝てる…」
嘘つけー絶対起きてる…いや、勿論外からは姿とかは見えないし声も聞こえないのは、分かってるけど…分かってるけどー!こんな神殿で…召喚をしていた由緒正しき場所…こんな所で…。
「呪われたらどうしてくれるんだよっ!」
と怒鳴った私の声は消音魔法によって阻まれた…。
イチャイチャやシリアスを詰め込み過ぎて
ごった煮状態です…。




