遺跡探索 SIDEミライ
ミライ視点の番外編です 前編です
持ち物よーし。忘れ物は無いよね?
ゴソゴソとヨジゲンポッケの中を探る。作ったお菓子も入れた。主食の準備はガレッシュ殿下に任せているから良いとして…ええっと…葵先輩に借りた魔獣図鑑も持ってるし…。
そう…今日は前から行くことになっていた、遺跡調査に出発する日だ。
あ~嬉しいな!どんな秘境だろう?落とし穴とかあるかな~?丸い大きな球が転がってきて追いかけられるかも~!それともトロッコに乗って脱出かな~。
私は自室を出ると玄関先で待ってくれていたガレッシュ殿下とナッシュ殿下に走り寄った。
「お待たせしました」
ガレッシュ殿下はニッコリ微笑みと私に手を差し出した。
「おはよっミライ」
さっきまでベッドの中で私とイチャイチャしてたよね?この何もありませんよ~みたいな顔…本当ポーカーフェイスがすごいね、この殿下は…。
「ガレッシュ頼んだぞ、万が一持ち出せなかったら無理はするなよ?」
「大丈夫だって~俺、発掘の専門家だよ?任せてって」
心配そうなナッシュ殿下の肩をバンバン叩いているガレッシュ殿下も、肩をバンバン叩かれているナッシュ殿下も二人揃ってものすごい剣の達人だ…隙の無い…強さという面ではナッシュ殿下の方が強そうだ。だがガレッシュ殿下は底知れない強さを感じる。
ナッシュ殿下曰く、正攻法で真っ向勝負なら自分の方が強いけど、魔法を使っていいならガレッシュの方が強いんじゃないかな~?と、本当にのほほんと答えていた。
私にはどっちも化け物クラスで怖すぎるけどさ…。
「行こっか、ミライ」
「はい」
離宮を出るとさっさとガレッシュ殿下は前を歩いて行く。私を置いて行くことはないけど半歩前だ。
そう…ガレッシュ殿下は離宮の中や人の目の無い所では割と近くに来るけど、一旦外に出るとクールになるというか…ほんと素っ気ない。これさ、素っ気なさ過ぎて嫌…という女性も過去、付き合った女性の中には居たんじゃないかな~とか思うほど淡白で普通だ。
この素っ気ない感じ…やっぱり女の子は辛いんじゃないかな。付き合っててこんな態度じゃ私って愛されてないのかも…とか不安に思ったりしがちだしさ…。まあ、私の場合はキャラじゃないとは思うけど、彼女とか恋人の立場だったらそう思う訳よ?分かるか?ガレッシュ?
「ミライ…なんだか魔力波形が不安定だね?遺跡調査、やっぱり怖い?」
別の意味で一瞬ギクンとしたがにこやかに答えた。
「いえっ全然。寧ろ楽しみです。何が出て来るんですかね?」
「巨大イモゲレラドアンキーとかかもよ?」
そう言えば、葵先輩にも散々言われたな~でかいGの大群が押し寄せてくる?かもとか…。先輩、○○ナプトラの映画の影響受け過ぎじゃね?
「別に飛んでくるだけでしょう?不潔だな~とは思いますけど…毒を持って無い生き物は刺されても怖くないし、平気です」
私がそう答えるとガレッシュ殿下は口を尖らせた。
「ちぇ~『ガレッシュ殿下こわーい』とか言ってくれたら抱き上げて連れて行ってあげるのに~」
嘘つけ…きっとそういうことをわざと言ってくるような、本当にうざい女は置き去りにするくせに。この殿下はそういう意味で怖い人だ。可愛い女の子が好きだ~と公言しているけど…うざくて所謂、女を武器にする女には結構冷たいと思う。
私が怖い…なんて連呼しようもんなら、じゃあここでさよなら…とか言いそうだ。本当に怖い…。
ガレッシュ殿下はまた先を歩いて行く。こんなに不安になっているのに、あなたに置いて行かれそうで怖いです…なんて素直に言えない。本当に恋をすると…恋愛が絡むと臆病になる…いつもこれで失敗する。
相手を信じきれないのだ…臆病になり過ぎて…。
ガレッシュ殿下と一緒に離宮から直接、皇宮を出る。そして冒険者ギルドに移動した。
今回の発掘調査は冒険者ギルドと合同ということだ。何でも異界の迷い子と呼ばれる異世界人が現れて、古代遺跡の調査が出来るのは数百年ぶりだとかで…今、私とガレッシュ殿下に遺跡調査の依頼が殺到しているらしい。
「お~久しぶり~」
ガレッシュ殿下は嬉しそうな声を上げて、ギルド前に屯う男性4人に声をかけた。年齢層はバラバラだ。40~10代?くらいまでいる感じ。
「ガレッシュさん…じゃなかった、ガレッシュ殿下お久しぶりで…」
と、一番若そうな小柄な男性がそう言い直すとガレッシュ殿下はその若者に飛びつくと、頭をグリグリ撫でながら
「も~うっやめろよ~前と同じ呼び方でいいって!」
と言っている。流石ガレッシュ殿下、コミュ力の塊…。
「よっ!ガレさん。本当に皇子殿下になっちゃったの~?」
20代くらいのガタイの良い男の人がガレッシュ殿下の肩を小突いている。
「そうなんだよ~なっちゃって~まあ、見つかった親がたまたま国王陛下だったってだけでさ」
なんだそれ~!ぎゃはは…と笑いながら男性達は輪になっているが、私、完璧においてかれてるね…いやこの中に入れって?無理無理…。
「あれ…ええ?!」
と、突然私と目が合った30代くらいの赤い髪のものすごいワイルドなお兄さんが私を指差した。何?何ですか?
「ちょ…ちょ…え?もしかして、異界の迷い子って女の子だったの?!」
他の男性達が一斉に私を見る。すると一番若い男の子がすっ飛んで来て私の手を握ってきた。
「は…は…初めまして!異界の迷い子さん…うわ~っ!綺麗な女の子だ!俺っイザンと言います…こう見えて28才でして…」
いや、びっくり…私より年上なの?16,7才くらいに見えたよ。すごい童顔だね。
「ミライさんから離れろ…」
あれ?私の後ろによく知っている魔圧を放つ二人が立っている。後ろを振り向くとこーわい顔のイケメン、シューテ君とジーパス君がいた。
「シュー君もジー君も、どうしたの?」
シュー君こと、シューテ君はイザンさん(年上)に向かって威嚇魔力?を放ちながら私の手を握るイザンさんの手を振り払うと、何故かガレッシュ殿下を睨んでいる。おいこら、不敬だよ。
「勿論、ミライさんの護衛で…違った失礼、ガレッシュ殿下の護衛です」
ワザと言い間違えたね、ジー君ことジーパス君よ。
「護衛なんていらないのに~」
ガレッシュ殿下は護衛の若者二人に肩を竦めて見せた。
「殿下に必要なくてもミライさんに必要です…違った失礼、名目上、皇子殿下には護衛が付きますので。」
シュー君もワザと言い間違えてますな…。なんでそんなにガレッシュ殿下を目の敵にするんだろう?ナッシュルアン殿下には子犬みたいに懐いてるいるのにね…。
「でもシュー君もジー君も大丈夫?足手まといにならない?」
シュー君が切れ長の綺麗な目を見開いた。
「足手まといなんて…酷いですよ~ミライさんっ!私達全力でミライさんを守りますから!」
おいおいっ!私を守ってどうするよ?あんたらが盾になんなきゃいけないのはそこにいる皇子殿下だよ!
「まあいいじゃない~俺が纏めて守ってあげるしぃ~?」
とガレッシュ殿下がニヤニヤしてそう言うと、キッとした目でジー君がガレッシュ殿下を睨んでいる。しつこいようだが不敬だよ?
「なんだか分からんが…護衛もついてくるんだね~ほ~流石皇子殿下だね!調査頼むね、ガレッシュ」
一番年長者っぽい40代?くらい…この人も逆に見た目より若いかもだけど、髭もじゃのおじさんはそう言いながら歩き出した。
「先生、今日の遺跡はどこですか?」
何?先生?その髭もじゃはガレッシュ殿下の先生なの?
「改めまして、イザン=マルジーラと言います。」
童顔の28才、イザンさんが自己紹介をしてきた。すると赤い髪のワイルドお兄さんと20代くらいの方もこちらに近づいて来た。
「どうも、ソラタ=クラスアンでーす。21才です!」
こちらは見た目通りの年齢だった。
「ワイスレン=モーイだ、宜しくな!年齢言うの?30才」
赤い髪のお兄さんはワイルドですごい筋肉だね。
「初めましてミライ=カタクラと申します。ガレッシュ殿下の執務補佐をしております」
とニッコリ笑って自己紹介をするとお兄様方はざわめいた。
「執務補佐?あ!着ている服、軍の隊服だね。コスデスタやガンデンタッテでは女性軍人もいるけれど、この辺りでは珍しいね」
イザンさん物知りだね。博識な人と話すのは楽しいね~益々ニッコリしてしまう。
「はい、異世界では企画営業の職種についていましたので、その知識を生かして働かせて頂いてます。」
お兄様方はしばしポカンとしていたけど、三人共何故かにじり寄って来た。な、なんだ?
「ミライ~先生紹介するからこっち来て~」
ガレッシュ殿下に呼ばれたので、失礼します…と言ってその場を離れた。離れた後、シュー君達とお兄様方とで何か言い合いみたいなのをしている。もう…ジー君達、また絡んでるのかな?
「初めまして、お世話になります。ミライ=カタクラと申します」
挨拶しながらガレッシュ殿下と先生と呼ばれた40才くらい(髭もじゃでよく分からん)の男性に近づいた。
「サーランテ=ナバロと言います。ほ~綺麗で上質な魔力波形のお嬢さんだね」
と、第一声で先生にそう言われて、この人も診える目を持っているのかと納得した。確か…冒険者ギルドで複数人で組んで依頼をこなす時は治療術士を1
人入れるように…暗黙の了解になっているらしい。この人は治療担当かもね。
「先生は冒険者兼考古学者なんだよ。これから遺跡に潜る度にお世話になるからね~」
ガレッシュ殿下の先生の説明に思わず歓喜の声が上がる。
「わあ、リアル○ンディーだ!宜しくお願いします!」
「おや?もしかして今の異界語?これは色々お話を聞くのが楽しみですね~異界の迷い子なんて生きている間にお会い出来ると思わなかったしな」
ヤバい!テンション上がる~ム、ムチとか持ってない?持ってたらいいな~。すると横のガレッシュ殿下からちょい強めの魔圧を感じる。フト顔を上げると若干だけど怖い顔で私を見ている。何だろ?でも、怖い顔と魔圧は一瞬で無くなっていつものニコニコ顔になった。今の何だろう?
と言う訳で、この男性陣と女子一人というアウェイ感満載の遺跡調査が始まった。
「いや、だからさ。私の後ろにいたら護衛の意味ないだろ?ガレッシュ殿下の後ろを守りなよ?」
「殿下の周りには冒険者の方がおりますし、不要です」
「ミライさんの背後は我々に任せて下さい」
困ったもんだな~ジー君もシュー君もいい子なんだけど、若いからかな…言い出したら聞かないし。
「異界の迷い子ってどんな言葉でも分かると言う事ですが、実際どうですか?」
私と一緒に歩きながらイザンさんにそう聞かれて、おお~そうだった、と思い出した。
「え~と、今、自分では異界語を話しているつもりなのですが、皆さんにはこちらの言葉を話しているように聞こえていると思います。つまりどこの国の言葉でも自動翻訳?とでもいいますかそれが働いているようです」
「ふぇ~今さ、俺には流暢なカステカート語を喋ってるんだよ?あ、そだ…俺クラバッハ語喋ってみるわ…。どう?言葉とか分かる?通じている?」
「はい、分かりますね」
「うわっスゲ!クラバッハ語ですぐ返してきた。これが神の加護か!」
ワイスレンさんにさっきからこの手の驚きばかり与えてしまってる。驚かせてすまんね…どうやらこれが異界から来た人の特徴みたいでさ。
私の後ろで軽い笑い声が起こっている。
チラッと見るとソラタ君と護衛の二人が楽しそうに話している。ソラタ君も中々のコミュ力の塊だ。最初、険悪だった?ジー君とシュー君とも今は談笑出来るまで打ち解けたようだ。
「今日行く遺跡は今から約1000年前の遺跡で古代ユマレンテアンテ時代の神殿だと言われている『ナフィシアー』です」
イザンさんに言われて逆算する。日本じゃお寺とか建造物も残ってるくらいだし腐食?とかなさそうかな。
「1000年か~そうしたらまだ保存状態も大丈夫そうですね」
私がそう言うと男性二人はキョトンとした。
「どうして分かるの?」
「はい?え~と私の住んでいた異界の国は建国…大体2700年くらいでして…それ以前の数千年前の遺跡もまだ現存しているので…」
「ええ!そうなのですか?!いいな~そんな歴史ある国か…異界の国なんてどんな所なのでしょうね?」
イザンさんは異世界の国に思いを馳せているようだ。どこの世界も一長一短だと思うよ?
私達はバラミアの商店街の外れまで来た。人が多い所はこちらの転移に巻き込んでしまうかもしれないからだ。
「ここから遺跡の近くのウーウンまで一気に行くよ」
ガレッシュ殿下が皆を連れて転移するの?殿下一人いれば便利だね。
「ミライの魔力も貸してね」
あれ、私の魔力も使うの?はいはい、ガレッシュ殿下が手を差し出したので、その手を取って魔力をガレッシュ殿下に流し込んでいく。ガレッシュ殿下はなんだかニコニコしている。
フト周りを見ると先生はニヤニヤ、イザンさんとワイスレンさんは顔を引きつらせている。ソラタ君、ジー君、シュー君の三人はあろうことか、またもガレッシュ殿下を睨んでいる。あのね、何度も言うけどその目…不敬だからね?
「さあ、魔力全開で転移するよ~俺に掴まっててね」
皆さんがガレッシュ殿下の肩に手を置いた。一瞬視界が暗くなりすぐに明るくなった。
おわ…あ、暑い…何これ?ああ!もしかしてジャングルの中の遺跡かな?秘境?秘境だね?
「は~い着いたよ。クラバッハの外れウーウンにとうちゃーく!」
おおっ?ここクラバッハなの?あっ!例のラム酒っぽいのがある国じゃなかったっけ?
するとガレッシュ殿下がヨジゲンポッケから分厚い本を出してきて、私に差し出してきた。
「はい、コレ~植物図鑑。ここ亜熱帯だしミライ達が騒いでた豆?とか香料が沢山あると思うよ。」
思わず目が輝く。うわ~準備良い!流石発掘のプロ!
「おっ何々~?今俺の事めっちゃ尊敬してくれちゃったりなんかする?」
「はいっ!今尊敬してますよ~出来る皇子殿下ですねっと感心してますよ~!」
ここで周りにギャラリーいなかったら抱き付いてチュッチュしているとこだよ!
「何か植物を採取するつもりですか?」
イザンさんが図鑑を見てガレッシュ殿下を見ている。
「あ、そうかイザンは薬草や植物にも詳しいから自生地なんか知ってるかもね」
何だってぇ!?それは早く言えよ!おぃ!と思いガレッシュ殿下をジロリと一睨みしてから遺跡へ移動する道中、イザンさんから自生する香料になる原木などの情報を沢山仕入れた。高速筆記でメモを取る。
今日一番の収穫だ。
「おおっ着きましたね」
先生の声にメモを取る手を止めて、顔を上げた。緑の木々の隙間から明らかな、まごうことなき、超古代建造物の遺跡様が密林の向こうに鎮座されていた!大きいね、宮殿みたいな外観だ!
「本物だー待ってろよー○ンディー!」
「さっきも先生をその名前?とかで呼んでたけどそれ人物名なの?」
とガレッシュ殿下に聞かれたので、異世界の絵物語で古代遺跡に眠る秘宝を発掘して悪いことに使おうとする悪漢と戦ったり、時には冒険したり…とかの話の登場人物であると伝えた。
「へ~子供が好きそうな物語だね」
「はい、私も子供の時に見ました。だから今回の遺跡も悪漢が出て来て秘宝の奪い合いとかしたりしないかな~とか」
「はぁ…なるほどね。それでいつも持たない剣を持って来てるのか?」
「悪漢といえばチャンバ…いやえっと…切り合いが物語の主軸ですからね!腕が鳴ります!」
すると大人しく話を聞いていたワイスレンさんとソラタ君が、びっくりしたような顔をした。
「切り合い?!ミライ危なくないか?」
とワイスレンさんに言われたので若干カチンときたが、確かに真剣は居合をやっていた訳ではないので持つのは初めてだ。あ、家に置いてある菊一文字則宗を触ったことだけはある。バレてお爺様にめっちゃ怒られたけど…。
「まあいいじゃない?兎に角さ、中に入ってみようか~」
ガレッシュ殿下の声掛けに皆さん移動を始めた。いつ悪漢が出て来るかもしれないな…若干浮ついていた気持ちを腹式呼吸で落ち付かせながら一歩を踏み出した。
静かに音を立てないように移動しているといつの間にかガレッシュ殿下が横に来ていた。
「悪漢なんて出ないよ?この遺跡の周りには古代語魔術の障壁が五重にかけられてるもん」
「その障壁を解いた後に、悪漢が乗り込んで来るかもしれません。油断大敵です」
そうだ、映画でもあるじゃないか。謎を解いてやっと入口に入った瞬間、悪い奴らに先を越されたりとかさ。
「ミライが殺気立ってるから皆怖がってるじゃないか~」
周りを見るとイザンさんとソラタ君が苦笑いしながらこちらを見ていた。
「それは失礼、ですがお気遣いなく」
するとガレッシュ殿下は朝みたいなちょい怖い顔で私を見ている。何だろね?
「分かった~適当に気を付けてね」
はぁ…なんだかこれは突き放された…かな。朝考えていた気持ちがまた頭をもたげてくる。要らないなら、置いて行かれるか…、要らないと言われる前に逃げ出そうか…。ああ、また気持ちが後ろ向きに…。
遺跡の少し手前で皆さんは立ち止まった。近くで見ると更に大きいし、確かにものすごい複雑な障壁が張られている。魔術式をジッと診る。そしてちょっと自分でもゾッとした。
この術式、解けるわ…。
しかしガレッシュ殿下に言い出せない。自分が特殊な何かだと…異世界から来た異物だと突きつけられた気がしたからだ。
古代ユマレンテアンテ時代の神殿だと言われている『ナフィシアー』の入り口付近にガレッシュ殿下と先生が座り、障壁の解呪に取り掛かった。
私は少し離れた所で解呪の様子を伺った。一重の障壁が解けた…。まどろっこしい…とは思うが、すぐに解きましょうか?とは怖くてとても言い出せない。
暫く、待ってやっと五重の障壁が解けたようだ。周りの気配を探る。なんだ…誰もいないや…。
「な?悪漢なんて来ないだろ?」
私を茶化したようにそうガレッシュ殿下が声を掛けて来るけど、私はまともに殿下の顔が見れなかった。
「…そうですね」
言葉少なにそう答えて、皆さんの後ろの方へ移動する。ガレッシュ殿下はまたちょっと怖い顔で私を見ている。もうあの目何なの?
中に入るとかび臭くはなく、どちらかというとお香みたいな良い香りがした。遺跡の中は落とし穴もなく、大きな球が転がってくることもなく…トロッコも置いてなかった…残念だ。
「大きな場所ですね…寺院みたい」
「ジインとは?」
横にいるザインさんに問われて
「こちらで言う所の神殿に近いものです」
と答えた。すると地面に屈んで壁画を見ていた先生が私の方を見て言った。
「ミライさんのおっしゃるとおりのようですね。ここは神殿…しかも異界の乙女の召喚儀式用の神殿のようです」
異界の乙女…と聞いて私の心臓が跳ね上がった。何かを感じているのか…足が奥に引っ張られているような感じさえする。怖い…でもここまで来て確かめない訳にいかない。
自分の呼ばれた理由…ただ単にガレッシュ殿下に召喚で呼ばれただけではない…何かがある。
そんな予感がして身震いが止まらなかった。




