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「そうだわ、これ未来に渡しておいてね」


第二部隊の副官ガッテルリさんは渡した書類に目を通して首を傾げている。


「休暇申請ですか…?」


「未来だって前もってガレッシュ様と同じ日にしておかなきゃ困るじゃない?」


「殿下と…ですか?」


「うん、だって同じ日にしておかないと一緒に出掛けられないでしょ?」


「え?」


「え?…ガッテルリさん…し、知らなかったの…?あ…じゃあ…えっと、内緒で」


ここまで言ってしまって内緒も何もないけれど…しまった、また口が滑ってしまった…と内心焦っていた。


「内緒って…何ですか?アオイ様?」


ガッテルリさんの声が詰所内に響いた。何事かとコロンド君とジャレット君はこちらを見ている。


いやあの…なんでそんなに怖い顔で迫るのかな?


第二部隊の副官ガッテルリさんは手渡した書類を握り締めたまま固まっている。


「ガ…ガッテルリさん、本当に聞いてないの?」


やっぱり言っちゃいけないよね…?イヤでも、口止めとかされてないし…。


私が慌てていることで何かを悟ったのだろうか、ガッテルリさんは一瞬でいなくなった…。て、転移したのかな?思わず助けを求めてジューイを見てしまう。


「何だよ?」


「えっと…ジューイは見守る隊に入隊はしていないわよね?」


「ん?ああ、ミライのフアンクラブとかいうのか?それが…」


と、ジューイが言い掛けた時、ドタドタと足音がして第二の熊さん達…第二部隊の隊員のおにーさま達が駆けこんで来た。ど、どうしたの?


「ア…アオイ様!?い、今ぁガッテルリ副官から…ミ、ミライさん…ガレッシュでん…殿下と…」


あれ?本当に皆知らなかったの…ヤバい…。


「わ…私はガレッシュ様に直接聞いた訳じゃなくて、ミーツさんからお…」


私がしどろもどろしていると熊さん達は


「何だって?!護衛のミーツ先輩かっ?!」


「すぐに行くぞっ!」


とか、勝手に盛り上がってしまって、また一瞬でいなくなった…。何なのコレ?


「ジューイ…参考までに聞いていいかな?」


「何だぁ?」


「私、ミーツさんに聞いてからすぐに未来にも聞いて、その話をメイドのユリアンやネスレンテさん、副団長のアンティさんも居る前で堂々と話していたんだけど、これってガレッシュ様も未来もお付き合いを隠したい…てことじゃないわよね?」


「おっ?あの二人やっと付き合うんだ!まあ、そうだな。ガレッシュの性格じゃ隠したりはしないな。でもなんで第二の奴らが知らんのだろうな?」


「そうよね?」


「それはアレだよ~」


と、フロックスさんと朝議を終えて帰って来たナッシュ様が戸口に立つなりそう言った。


皆の視線がナッシュ様に集中する。ナッシュ様はコホンと咳払いをした。


「答えは簡単だよ~シュテイントハラルで、ガレッシュは初めてシューテとジーパスの二人に付き合うことを伝えたんだよ、で…当の本人のガレッシュはまだ、アルクリーダ殿下の召喚云々の件でシュテイントハラルに滞在中…。ミライは自分から話す方ではない。ミーツやアンティも口が堅い。おまけに口が軽い、ユリアンとネスレンテの二人はジーパスとシューテと一緒にまだシュテイントハラルだ。よって、誰からもまだ真実が告げられていなかったと言うところだな。どうだ?当たりかミライ?」


すると、ナッシュ様の後ろから顔を真っ赤にした未来が現れた。


「も~っ先輩!別にいいですけど…っなんか恥ずかしいのでやめてくださーい!」


未来さんよ、言って良いのか?悪いのかどっちなんだい?


「まあとにかくさ、ガレッシュ様と二人一緒に休暇取れるように調整しとくから、デートしておいでよ。」


と、私が言うと未来が益々真っ赤に顔を染めた。初々しいのう~。


とりあえず、未来にも休暇申請用紙を渡してから、未来とナッシュ様と応接室でシュテイントハラルの取材記録を確認していると、


「ただいま~ミライこっちに来てる?」


とガレッシュ様の声がした。


「はい、ここです」


未来はすぐ立ち上がると応接室を出て行った。魔力波形が浮かれておるよのうぅ~。


「いや~なんか初々しいな…私達もあんなのだったかな~?」


ナッシュ様までなんだかホクホクしている。知らんがな…。ナッシュ様まで浮かれてどうすんだよ。


「兄上、大変だよ…なんだかさ~また困ったことになってきたみたいで…」


「困った?何かあったのか?」


ガレッシュ様はふぅ~と言って溜め息をつきながら自分でお茶の準備をしている。もう誰も突っ込まないし注意しない。ガレッシュ様はお茶を入れ終ると自分のヨジゲンポッケから小瓶を取り出して、お茶にチョコッと何かを振りかけている…。え?この香りは…。


「ちょっと…!バニラの香りじゃない?!」


「うそっ?!殿下それ見せて下さい?!」


未来が素早くガレッシュ様からバニラエッセンス(謎瓶)を取り上げた。そして匂いを嗅いでいる。


「バニラーー!しかもこの辺りで売っているバニラよりいい匂い~」


何だって!?もしやバニラエッセンスどころかビーンズの方か?私も未来から謎瓶を受け取った。クンクン…。


「本当…バニラの匂いが濃厚だわ…しかもラム酒?みたいな香りもする」


「ああ…えっと、酒とマッラの実を混ぜてるんだ。お茶に少しかけるといい香りだろ?」


ガレッシュ様は事も無げにそう答えた。マッラ?!バニラのこちらでの呼び名ね?!


「流石シェフは違うわね~お茶に入れるこのフレイバー、大量に作れますよね?」


ガレッシュ様ににじり寄るとグイグイと顔を近づけた。


「そのお酒は…クラバッハの特産だけど、今はあの国に行くのはオススメしないよ」


「どうして?」


私が聞くとガレッシュ様はナッシュ様を見てナッシュ様が頷いたのを確認すると話し出した。


「何年か前から隣のガンデンタッテと戦争状態で…正直ガンダンタッテより世情が危ういかも…」


ガンデンタッテの隣…というと護衛のミーツさんの曾お爺様の故郷だったよね?そうか最近政権交代があったとか言ってたものね…くうぅ…。


「とりあえずバニラビーンズだけでも手に入れればいいよね。バ…マッラはどちらで入手を?」


「それはガンヴェラー湿地の近くの山の中」


ぎゃっ…ケッア…?なんとかが大量に居るところじゃない…うぬぬ。


「カステカートの山岳民族の特産品だから村に行けば売ってるよ」


「よしっ!すでに商品化しているなら入手経路は確保出来たも同然ね!」


「やりましたね、先輩!」


未来と二人熱く握手をした。商売(金儲け)の風?を感じると気持ちが昂るわねっ…こうでなくちゃね!


「で、さあ…何かシュテイントハラルであったの…?」


ナッシュ様がガレッシュ様に切り出した。そうだった…何かあったのかしら?


ガレッシュ様はフレイバーティーを一口飲んでからまた溜め息をついた。


「召喚魔法はもう少し時間を置いてから…再度行うことに決定したよ。また呼び出しを受けるかもね…。国王妃…えっと義姉上風に言うと『カデママ』だっけ?あのカデママ…すんごい押しの強い方だね…マジー伯母上やカッシュブランカ叔母上にも通ずる…おばさんの迫力だね…」


うん、分かる…。なんであの年代のマダムはやたらと元気だし押しが強いんだろうね…。


「それはいいんだけどさ…はぁ…、昨日フィリペラント王子殿下とマディアリーナ王女殿下のお見合いがあったでしょ?」


「そうだったな、どうだったんだ?」


ガレッシュ様は困った顔をナッシュ様、私、未来…と順番に向けて見せてからまた溜め息をついた。


「ダメだったみたい…。フィリペラント殿下がまた毒々しいことを言ってしまったらしくて…」


ア、アカンね、ありゃ…。


「でね…シュテイントハラルの貴族方でマディ殿下と年齢と家柄とかの釣り合いの取れる方っていうのが…今いないらしくて…。うちにその話を持って来たいみたい…」


「うち…て、ま、まさか…お前か?」


ナッシュ様の言葉に未来が顔を強張らせた。それを見たガレッシュ様が慌てて


「違う違うよっ!?俺じゃないからね?ミライは何も心配いらないからね?安心してお嫁に来てね!」


と叫んで未来に抱き付いている。


おい…ここは職場ですよ?そして何気に嫁に来い…とプロポーズしてしまってますが…良いのコレ?私達お邪魔じゃない?


「なんだ…脅かすなよ、でもお前じゃなかったら誰なんだ?」


ガレッシュ様は未来から体を離すとものすごく難しい顔をしている。


「ジューイとリディック…」


「ええ?!」


いやあの…確かにジューイは腐っても皇位継承権第四位だし、リディック様は御生れがアレだけど、一応前皇子殿下で今はマジー様の義理の息子という形を取って筆頭公爵家の籍に入っている。もちろん血筋だけでも現国王殿下の甥御になる訳だが…。


「ジューイ…は兎も角、リディックは無理じゃないかな?向こうも良い気はしないのでは?」


「俺もそう思ったんだけど、カデリーナ姫が良いんじゃないか~とか言っちゃって…う~ん確かに最初の頃に比べたらリディックの魔力波形も綺麗になってきたけどさ…そんな簡単に行くかな?これ…」


「とりあえず、父上に報告しておこう…」


兄弟皇子二人が出て行ったので、未来と二人…ガレッシュ様から引っ手繰ったバニラ風味のフレイバーティーと未来特製チョコマドレーヌを食べて寛ぐことにした。


しかし私はこのお茶と混ぜたバニラの匂いがダメだった…無念。


「しっかしお見合いですか…こっちの世界でも大変ですね~」


「親がごり押ししてくる縁談ほど厄介なことは無いわね…」


その後…


ジューイとリディック様双方の確認を取って…多分親のごり押しがナジャガルでも適応され、マディ姫との縁談が二回行われることになった。マディ姫様…お気の毒に…。


そんな中


とうとう沢田美憂の判決が下された。


国外追放だということだ。今はこの世界の言葉も理解できるようになったし…処刑されないだけマシだろう。ナッシュ様ははっきり言わないけれど…コスデスタと何か取引があったようだった。


追放される日


未来と二人、物陰から沢田美憂の姿を見送ることにした。


沢田美憂は黒っぽい簡素なドレスと黄色のレデスヨジゲンポッケを持っている。甘い…とナッシュ様に怒られたけど、未来と二人で準備した鞄だ。旅立つ沢田美憂の為に…今できる精一杯の日用品を詰め込んだ。


負けないでほしい…逃げないで欲しい…諦めないでほしい。色んな希望と願望を籠めた。


一歩一歩…城壁沿いに歩いて行く沢田美憂の前に黒っぽいマントを羽織った細身の人が立っている。


思わず物陰から出て行こうと立ち上がりかけたら未来に止められた。


「待って下さい、あのマントの人…よく診て下さい」


未来に言われてマントの人の魔力波形を診た。沢田美憂の体に()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あの人…あの人が沢田美憂を呼んだ魔術師なの…偽名の…」


「あの人が誰かは分かりませんが、間違いなく言えることは魔力の相性が良いということです」


ここからではマントの人の顔は分からない…ただ偽名の魔術師シークエンス=エレだとすると…沢田美憂が彼の呼びたかった乙女…ということなのだろうか。沢田美憂はそのマントの人の前で立ち止まると何か話している。


そして二人はゆっくりと歩き出した。


マントの人、シークエンス=エレ(偽物)が立ち去り際にこちらを振り向いた。


するといきなり三重魔物理防御が周りに張られた!?え?…と思う間もなく私達の周りに人垣が出来た。

ナッシュ様とガレッシュ様…ザック君もいる。


「障壁の中から動くなっ…壊死魔法だ!」


ナッシュ様の声に、小さく悲鳴を上げた。壊死魔法…あのガンドレアのラブランカと対峙した時の?!


やがて、障壁が無くなり…。ザック君が飛び込んで来た。


「アオイ様、大丈夫?」


「うん、大丈夫よ…」


通りの向こう側を見るともう沢田美憂とマントの人はいない…。逃げたんだ…これで確定したと言ってもいいだろう。シークエンス=エレ(偽名)はガンドレア…いやコスデスタの魔術師だ。しかもかなり腕の立つ…。


「別空間で隔離して壊死魔法を行使するなんて…規格外の術士じゃないか…」


「空間隔離なんて…ポルンスタ爺しか使えんと思っていた」


ガレッシュ様とナッシュ様の話し声が聞こえるが、なんだか小難しい魔法をマントの奴が使ってきたのだけは分かった。恐ろしい…。お腹の子が魔力を震わせているのが分かる。お腹を触りながら心の中で大丈夫、大丈夫だからね…と繰り返した。


時同じくして


ガンドレアの元女王陛下、ラブランカの処分も発表された。


公開処刑だ。


流石に公開されても見に行くことはしたくない。でもこの処刑を公開することによって新生ガンドレア国民にとっては忌まわしき女王からやっと解放される…ということの宣言にもなるのだ。虐げられていた…彼らの気持ちを思えば…当然の報いなのだ。


刑は執り行われた。これで終わった…訳ではない。ガンドレアに住まう人達にしてみればここからがスタートだ。


さてここからスタートな人がうちにもいる。


未来とガレッシュ様の二人だ。


今日は揃って休暇を取りデート…逢引にお出かけだ。珍しく未来が春っぽいオレンジ色のワンピースドレスを着用している。髪は編み込んで一つに纏めている。可愛い…。


「ささ…未来楽しんで来てね~」


「は…はい、行って来ます…」


実は未来が出る半刻ほど前に、ガレッシュ様には待ち合わせ場所の商店街の中央噴水広場に先に行かせている。え?何故かって?そんなもん決まってるさ!同じ所に住んでいようが、デートとして待ち合わせることに意義がある!


「なぁ…本当に大丈夫かな?喧嘩とかしたりしないかな?やっぱり…見に行って…」


「なぁにをお邪魔なことを言い出してるのですか!逢引に父兄同伴なんて言語道断!」


未来を送り出してから詰所に出勤するとそわそわしたナッシュ様がそう言い出した。この重度のブラコンめ!


「そうだぜ~なんでまた弟の逢引に兄が出張るんだよ?干渉も大概にしとかないと嫌がられるぜ。」


そうそうジューイ様の言う通り。


「子供じゃあるまいし…」


フロックスさんにそう言い切られてナッシュ様は諦めたのか執務室に入って行った。


まあそんなに心配しなさんな、あんたと違って弟は百戦錬磨?の交際遍歴だそうだから変な失敗とかは無いはずよ。


無いはず…だったんだけど…。


折角、兄が尾行をやめたのに…第二部隊の熊さん達が二人の尾行をして…あちこちで邪魔して、散々なデートになったらしい。


まあ未来もガレッシュ様も怒ってはなかったみたいだけど、代わりに私が熊さん達を叱っておいた。上司というのはこういう憎まれ役も時には買ってでないといけない。


熊達に散々恨み節をぶつけられたが、知ったこっちゃないね。


「あなた達みたいなのを異世界ではなんて呼ぶか言ってあげましょうか?馬に蹴られて死んじまえ、というのよ。意味はね~人の恋路を邪魔するような輩はその辺にいる暴れ馬にでも蹴られてしまえ!つまり…邪魔だからどっか行きな!ということよ」


熊さん達は、流石に肩を落としていた…。


まあいいんじゃない?外では熊達に邪魔されてベタベタ出来なかったけど、離宮では一緒に並んで夕食作ってるし、夜はお互いの部屋に泊まり合いしてるしさ。うふふ…。


そうそう例のお見合いなんだけど


リディック様とマディ様が纏まりそうなんですって…驚いた。


ジューイはちょっと乱暴な物言いがマディ様を怯えさせてしまったらしく…敢え無く退散で…やはり元皇子殿下のリディック様に軍配が上がった、という訳だ。


「けっ…お嬢は見る目ねぇな~!」


とジューイは後で負け惜しみを言っていたけど実は結構悔しかったのではないかと思われる。


いつかジューイにも素敵な出会いがありますように…。



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