初めて尽くし SIDEガレッシュ
ガレッシュの番外編になります
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ミライからまた障壁が張られている…と告げられてから毎日連続で、無意識化で三重魔物理防御が自室に張られていた。
ミライにはこの古代語魔術を自分流に描き変えた障壁の解呪の方法を教えている。正直、ミライ以外には教えたくない。
ミライには偉そうに言ってはみたものの…また障壁を張ってしまった…という事実に内心焦っていた。
何か不調を感じている訳じゃない、鏡に映る自分の魔力波形を診てもおかしなところは無い。
カデリーナ姫と義姉上に料理が出来ないのが原因だ!と言い切られてしまったけど、最近はヤウエンでも離宮でも料理をさせてもらえたし、兄上に離宮に住めば?と言われてめっちゃ嬉しかったし…逆に嬉しいことが増えたし、気持ちも前向きって言えば前向きな感じに思えるのに…変だな。
毎日障壁を張ってしまっている事で、ミライからすごく気を使われているのが分かる。
執務中もミライの意識が俺に向かってて…心配そうな魔力波形を感じる。そんなに心配しなくても大丈夫だって~。でも心配しちゃうんだよね…ミライの性格分かってます…。
「…殿下、失礼しますね」
ああ、どうしよう…。とうとうミライが寝所にやって来てしまった。
ミライが寝ずの番をする…と言い出した時にもう少し強めに反対すればよかったかなぁ…。
扉をゆっくり開けると、怖い顔をしたミライが立っていた。顔怖いよ?
中に招き入れると、まるで剣術の打ち合いにでも挑むような緊張感を出しながら室内に入って来た。
「え~と…ミライは寝台で寝てね?」
と俺が言うとミライは一瞬キョトンとしたがすぐに目を吊り上げた。
「何をおっしゃっているのですかっ!私はそこの隅のソファで大丈夫です。なんなら床で平気です!」
ゆ、床!?何言っちゃってるの?女の子が床で寝るなんて体冷やしちゃうよ!
…と、思って言い返したら…どうやら異世界のミライが住んでいた国では床に敷布を敷いてそこで眠る習慣があるそうだ。ミライは床寝派だそうだ。
世界が変われば色々あるんだな…。押し問答の末、ソファで座って見守りをしてくれるようだ。
枕元に立たれたら気になって眠れないどころの騒ぎじゃないしね、良かった。
ミライがヨジゲンポッケから色々と取り出している。夜ふかしをする準備は万端みたいだね。
「色々持ってきたんだね?」
「はい、これで殿下の見守りも完璧です」
お弁当…と何かの籐籠と本…小説かな?とお茶の水筒…ひざ掛け。そしてアレ、なんだ?魔法陣だけど…。
「その魔法陣、何?」
「ああ、これですか?マジー様に描いて頂いた消音と消臭の魔法陣です。あ、殿下はもうお休み下さいね…えっと、ここに魔力を…」
ええ?伯母上にそんなものまで頼んでいたの~?
「い、いいよ~ミライ。姿は見えるのに消音とかされたらかえって気になって眠れないし…それに俺、近くに人の気配があるほうが良く眠れるし、逆で気配が無いと眠れない時もあるくらい。孤児院では8人部屋で寝てたし…そうだな~人の気配が無いと寂しいかもね…」
と、ミライに魔法を使うな…近くに居てね…を遠回しにお願いしてみた。実際…女の子と一緒の方が良く眠れる…ような気もするんだけど。
「そう…ですか?では、魔法は止めておきますね。はい、お休みなさいませ」
え?…と思ったらミライはさっさとソファに座ると本を開いて読み始めてしまった。
そうか…そうだよな?流石に同衾はしてくれないよな。一瞬もしかして…と期待した俺が馬鹿だった。
ミライの方をちらちら見ながら寝台に入った。本の紙を触る音、時々する衣擦れの音…。明りを落とした室内で小さい照明灯で手元を照らしながら本を読むミライは…やはり綺麗だった。
軍の皆が騒ぐのも分かるよな…。仕事中がやたらと怖いだけで、普段は大人しいし、菓子作りと可愛いモノの話をしている時は…ミライ自身が可愛い。
…ん?ジッとミライを見ていて、気が付いたので思わず起き出してミライの側に近づいた。
「殿下…?どうされました」
いつもよりミライの反応が鈍いのは本を読むのに集中していたせいだろう。ミライは何事かと立ち上がりかけた。
「ミライ、体を冷やすよ」
ソファの横に置いてあるひざ掛けを取ると、ミライを座らせようと肩に手を置いた。
ミライは俺の手に押されるようにしてソファに座った。座った時に肩にかけていた羽織布が肩から落ちて…ミライの胸がプルン…と座った反動で揺れている!
…寝る前にとんでもないもの見てしまったぁ…。
座ったミライの寝巻の胸元から形の良い胸の谷間が覗き込める絶好の立ち位置に俺は居る!…違う違うっ…冷静になれっ!
「ほら…膝にかけて…」
ミライの胸を視界に入れないように視線を上に向けて膝に毛布をかけると、急いで寝台へと戻った。
参ったな…この空間で…これは耐えられるのかな。
取り敢えず頭から掛布を被り…無心になろうと必死になった。
眠ることに必死になること自体おかしいんだけど…それでも動かないでいると段々と意識が…。
ふ…と意識が落ちかけた時、肩にふわりと優しい温もりを感じた。優しく肩を撫でられて…ああ、院長先生かな…とか孤児院の事を思い出していた。頭も撫でられて益々気持ちが良くなってくる。
「おやすみなさい…」
一気に覚醒した。
今はミライと寝所に二人きりだった。たった今、俺を撫でてくれていたのはミライだった…?ええ?おいっ…。
でも今動いたら、寝たふりをしていたのがばれるし…とか色々と本当に色々と考えている間に…なんと夜が明けてしまった。
参ったな…一睡も出来なかった。
ミライは行儀よくソファに横になって眠っていた。静かに気配を消してミライの側に近づいた。ミライをゆっくりと抱き上げるとちょっと身じろいで…俺の胸元に擦り寄って来た。
やばい…胸が直接当たってるんですけど…。
ぎくしゃくしながらミライを寝台に寝かせると、急いで手洗いに入った…。
身支度を整えてミライを見に行くとまだ眠っていた。
そのまま部屋を出ようと思ったけど…何となく寝台に戻ってミライの顔を覗き込んだ。
顔はそんなに好みじゃない…と思ってたんだけどな~最近表情一つ一つがやけに可愛く見えるんだよね。
吸いつけられるようにミライのおでこに口づけを落とした。自分の魔力がスルン…とミライの方へ流れて行く。
あ、ダメダメ!今変な気分になったら…何とか体を動かすと部屋から出て行った。
その日
障壁が張られてなかった!良かった!と、義姉上に散々言われたけど、実は一睡もしていないから…とは言えなかった。義姉上に余計な心配をかけたくない。
その日の夜
義姉上にリディックと赤子の時に入れ替えられて連れて行かれたことが、再び起こるじゃないかと怖がっていないか?と指摘された。
確かにあの話は自分のことながら、何をしてくれてるんだ…と何処かに当たり散らしたくはなった…なったけど、孤児院での生活はそれなりに楽しかったし…冒険者の仕事も子供の時は稼げなくて多少はひもじかったけど、元々器用なことと身体能力の高さと膨大な魔力量のお蔭で、食うに困らない生活を一年もすれば出来るようになっていた。
今までの27年間が不幸かと言えばそうでもなかったと思うけど…でも今この時に、どこかに浚われちゃうかと考えたら…。
確かに今は浚われたくはないな…ここの生活は気に入っている。血の繋がった家族も居る。軍の皆も大好きだ。ここから離れたくはない…。
今日もミライが怖い顔をして部屋にやって来た。
義姉上も余計な煽りをしないでくれたらいいのになぁ~。まあ兄上に同衾されるよりかは100万倍マシどころか、かなり嬉しいんだけど…。浮かれてゴメン…。
「ガレッシュ殿下、手を握っていた方が怖くないですか?」
おいおい…!?この二人きりの空間で手を握ったりしたら…。ミライはまだ必死の形相だった。
これは必死過ぎて状況が分かってないな…。
「あのね、手を握ってくれるのはいいけど、その間ミライはどこにいるの?」
「し…寝台の横に立ってますけど…」
本当に分かってないなぁ…そうだ、ちょっと逃げ道を用意しようかな?
「手を握ってくれる時に寝台の横に立つのはダメね。手を握るなら俺の横に一緒に寝る事。その際は俺から触れられる以上のことをされる覚悟はしては欲しい、俺だって男だしね。それが嫌なら今出て行っていいよ?」
これでミライが逃げ出してくれるかな?と考えた、が…。
ちょっと嫌味で言い方きつかったかな…と言ってから気がついた。失敗したな…泣いちゃうかなぁ…ああ面倒…泣かれると困るな。
ああそうか、ミライなら「やってられっかよ!」とか言って殴って帰るかな?それでもまあいいか…。
「わ…分かりました」
ああ出て行くんだな…と、俯いた俺の前にミライが歩み寄って来た。
「宜しくお願いします…」
と言って俺を見詰めたミライの目は真剣だった。ただ…未来のお腹の前で組み合わされた彼女の手は白く色が変わるほど握り締められていた。
ああ、やっちゃった…。そうだった、ミライは挑まれて逃げる女の子じゃないんだった。受けて立つ…だった。途端にものすごく罪悪感が襲ってきた。
「ごめん…もういいよ。帰って休んでよ…」
俺はミライの顔が見れずに逃げるように寝台の中に入ろうとした。その俺をミライが後から追いかけて来る。
「で、でも…そうしたらまた殿下が…怖くなって…」
「もう…大丈夫だって!このままここに居たらミライを襲っちゃうよ?それでもいいの?」
俺がそう言いながらミライを睨むとミライは顔を真っ赤にした。
「お…襲われ…るの…は、困りま…す」
「だったら帰れよ…」
ああ、なんでこんな怒った言い方しか出来ないんだよぉぉ俺ぇ!?
「だって…まだ…そういう関係でも…ないのに…その…」
そういう関係?俺が怪訝そうにミライを見詰めるとミライは益々赤くなった。
「お、おつ…お付き合いしているわけじゃないのに…ダメです!」
俺は思わず吹き出した。何これ?嘘だろ?…こんなこと女の子に言われたの初めてだ!
俺が襲うよ…なんて言おうもんなら自分から嬉々として服を脱ぐ女…しか知らないから…ああ、そうか。
そんな女しか知らないんだ…。
「俺って、最低…」
笑われたミライは今度は真っ赤になって怒り出した。
「はぁ!?今、笑うとこだった?最低?なんだよっ笑うなんて…不敬なんてしらねーよ!バカ!」
ミライは怒って隅のソファに向かうと俺に背を向けて壁を見ながら横になってしまった。
「ミライ…ごめん。ミライを笑った訳じゃなくて…なあ、こっち向いてよ」
背を向けたミライの後ろまで近づくとミライの肩を指で突いた。
「さっ!?触らないで!一シーマル以上近づかないで下さい!」
「もう近づいちゃってるよ~ねぇミライってば…」
尚も指で突いていると、その俺の手を振り払おうとミライが少しこちらを向き手を振り上げたので、すかさずミライの手を掴みソファの上で組み敷く形になってみた。
「な…あ…何っ」
ミライが何か言い掛ける前に素早く口づけてみた。角度を変えてもう一回口づけようと思ったら、流石はミライ…俺の手を素早く払いのけると左手で自分の唇を隠した。バカめ…甘いぞ?
俺は素早くおでこと瞼に口づけを落とした。唇だけ隠したって無駄だっての~。すると未来は俺に押さえこまれていた右手をこれまた素早く振りほどくと、今度は右手で目の周りを隠した。
ミライって案外お馬鹿なのかな…顔の中心部分ががら空きなんだけど…。遠慮なく鼻頭と両手の手の甲に口づけを落とす。段々楽しくなってきた。頭頂部にも何度も口づけてやる。
「も…もうっやめて下さい!ふしだらですよっ!」
ふしだらときたか…また笑いが込み上げてくる。
「もうっまた笑う…私っ真剣だよ!付き合ってもいないのにっ破廉恥だ!」
今度は破廉恥か…。ミライは真っ赤な顔で潤んだ瞳で俺を見上げている。ああ、可愛いな…。
そっか…そうだな、うんうん。これはもう認めざるを得ないな…うん。
「分かった、じゃあ今この瞬間からミライは俺とお付き合いを始めて、将来婚姻する予定の恋人ね。はい、決定」
「っ…え?」
と、またミライが何か言い掛ける前にがら空きの唇に口づけを落とした。一度唇を離すとミライの顔を覗き込んだ。
「ミライ、今ならまだ間に合う…俺のことが死ぬほど嫌いなら逃げ出せ…今なら堪えられる。どうする?」
ミライは少し半泣きになった。しまった…怖がらせちゃったか。ここで引くのはカッコ悪いけど…今日は、諦めるか。でもミライを落とすことは諦めないけどね。もう決めた、人生で初の自分から口説こうと思える人だもの絶対諦めないよ?
「でんかぁ…」
「何~?」
「急に…色んな情報与えないで下さい…こ、混乱してま…す」
ミライはなんと俺に抱き付いてきた!ええ?!この体勢で嘘だろ!?首に両手を回されてオロオロしている俺をよそにミライは更に体を擦り付けて来る。
胸を俺に当て過ぎだ!煽るなバカ!
「本気で…私とお付き合いするつもりなんですか?」
俺は首に取り縋ったままのミライを抱きかかえ直しながら、ソファに座り直した。
「っよっと。うん、俺も一応第二皇子殿下だし立場は分かってるつもりだよ~。ミライにこういう申し込みをしたら将来はどうなるかとか…これからミライに背負わせるもの、一緒に背負って行くもの…それも込みで先の事も考えてるよ」
俺の膝の上に大人しく座っていたミライは顔を上げると俺を見上げた。
「どう考えたってミライしか一緒に背負ってくれなさそうだもん。だって生半可な根性の人じゃ第二皇子妃なんて務まらないよ?ミライしか考えられない」
ミライはまた真っ赤になっている。
そう…どう足掻いたってミライしか…ミライだとしか思えないもんな。召喚した時には分からなかったけど、今は確信に近い感覚だ。
絶対ミライが俺の異界の乙女で、俺の永遠の伴侶だって。
そう思うと気持ちがストンと定まると言うか、途端にフワフワしていた魔力波形が何か違う波形を形作って、ミライの体を包み込んでいるのが診える。
俺の魔力は正直だな…。ミライが大好きで、堪らないと魔力が騒いでいるみたいだ。
「ミライはえ~と、お付き合いしてないと触ったりしちゃいけないんだよね?どう?俺とお付き合いしてくれる?将来のお嫁さんになってくれる?」
初めて自分から告白して、初めて自分から口づけをしている…。初めて尽くしだ。
ミライは真っ赤になりながら何度も頷いて
「はい、末永く宜しくお願いします…」
と小さい声で返事をくれた。
かーーーっ可愛い!こんな口の悪い、キリッとした怖い女なんか好きになるもんかーと思ってたのに、思ってたのにぃ…。
「ミライ…世界一可愛いっ…」
本音がダダ漏れ過ぎた…。ミライは泣き出してしまった。
あわわ…これ嬉し泣き…だよね?必死に頭やおでこに口づけを落としながらミライの背中を摩ってあげた。
暫く背中を摩って手の甲に口づけしたりして体を摩っているとミライの体の力が抜けてきた。
「ミライ?ど…」
えええ嘘だろー?寝てるよミライ?!
ミライはすぅすぅと寝息をたてて眠ってしまっていた。
この状態でお預けなのーー?!ミライーー嘘だと言ってくれーー!
流石に眠る女性に悪戯は出来ない…。こういうのは同意の元で始めるべきだ、うん。
ミライを抱き上げるとゆっくりと寝台へと運ぶ。そして俺も眠るミライの横に滑り込んだ。
途端にお互いの魔力が混じり合い、ふわっといい香りと共にミライに包まれているみたいな感覚だ。
やばいなぁ…横に居るだけでコレだけ気持ちいいんだもんな…。
実際、事に及んでたら…どれほどなんだろう?色々と妄想してしまって…ああ、マズいマズい…横に居るのにコレはマズい…。無心になれー無心になれー。
ミライが少し身じろいだので、慌てて抱きかかえて背中を摩った。
ああ…幸せだな。今まさに幸せの絶頂だと自信をもって言える。
でももし今この瞬間…俺が何処かに連れ去られて、それこそ異世界にでも召喚されちゃったら異世界で暴れまわるだろうな…。
ミライに会わせろー!ここに還せー!ってね…。
ミライの側が温かくで気持ち良くて段々眠くなってきた。ああ、昨夜一睡もしてないんだった…。今日は眠れそう…。
「おやすみ、ミライ」
ミライの唇に口づけを落として…ゆっくりと眠りに落ちていった…。
書いてて甘酸っぱくてこそばゆかったです。




