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アオイの大失態


散々だったわ…。


アクの強い王子達をなんとかナッシュ様に押し付けて、逃げるように第三の詰所に戻って来た。


「あ、葵~。どこに行っていたのです?」


カデちゃんとフォリアリーナがお茶を飲みながら待っていてくれたようだ。


私もお茶を頂きながら事情を説明した。


話しを聞き終わったカデちゃんとリアは二人共、苦い薬でも飲んだような顔をした。


「あのキラキラ達は…まあ見た目は王子様ですからね…騙されるのも無理はないですよ…」


「見た目と違って中身は毒々しいですからね…特にフィリペ殿下は…あの方に付き合える女性はおられるのでしょうか…」


カデちゃんとリアも容赦ないな…あのキラキラが兄で義弟で従弟という親戚関係だしね…。


「それはそうと…アオイ、マディの事なのだけど…やっぱりガレッシュ殿下はダメなのでしょうか?」


う~んどう言えばいいかな…え~と…。


するとカデちゃんがそんなリアに向けて口を開いた。


「リア姉様…こういうことは当事者以外が口を挟んではいけませんわ。姉様にはご説明が難しいのですが、ガレッシュ殿下は価値観の違い…生活水準の違い…も感じておられると思います。いくら今は(かしず)かれる立場になられたとはいえ、ご自身で身を立てて働いていておられた方ですので…こう…なんて言えばいいのでしょうね、葵?」


カデちゃんに話を振られて再び考えながら口を開いた。


「マディアリーナ姫がダメだ…ということではないと思うわ。一緒に同じ目線で物事を感じて考えて…そういう女性が良かった…のだと思うわ。姫と話してみて…違った…と申しておりましたし…」


と私が言うとリアはガックリと肩を落とした。


「上手くいきませんわね…マディは大人しいから中々自分からは動きませんし…」


私はリアの顔を見て


「そうじゃないと思うわよ、リア」


と、私はそう言った。これだけは…と、自信を持って言えることがある。


「本当に好きになったら、その価値観の違いすらも乗り越えて好きになっちゃうのよ」


リアは綺麗な瞳を見開いて私を見ている。そして嬉しそうに微笑んだ。


「そう…そうよね、フフ…色んなしがらみがあるのに…恋って見えなくなるものね」


おや…リア様はご経験がおありかな?今の旦那様、ダヴ様のことだろうか?そう言えばダヴ様も複雑なお生まれであったわね…。


「せんぱーい。いますか~?」


そこへ未来が入って来た。私はリアに目配せすると「こっちにいるわ~。」と未来に声をかけた。


未来は応接室に入って来て見知らぬ美女のリアに、戸惑っているようだ。


「は、初めまして、ミライ=カタクラ少尉です」


未来はすぐに淑女の礼をした。カデちゃんと似ている魔力波形だと分かって王族と判断したのだろう…。


「フォリアリーナ=ダヴルッティと申します。カデリーナの従姉妹なの、仲良くして下さいな」


リアはすぐに未来に近づいて…未来の魔力波形を診ているようだ。どう?うちの未来の魔力波形は?


リアはしばらくして、未来の手を引いて立ち上がらせると微笑みを浮かべた。


「お綺麗な魔術波形をお持ちね」


よかった…リアには好意的に受け止められたみたい。


未来は、ぱあぁ…と顔を輝かせると


「そんな…あなたのようなお美しい方に褒められるなんて恐縮です」


と嬉しそうに微笑んだ。お美しい方と言われたリアはものすごく嬉しそうだ…リア可愛い。


その後、未来も交えて女子会をして…夕方になり、カステカートに帰る為に『転移門』まで移動している時にリアが私に小声でソッと聞いてきた。


「ミライは召喚魔法で、ガレッシュ殿下が呼ばれたのでしたわよね?」


そう…今はガレッシュ様も王子様達と笑い合いながら、転移門の所に屯っている。未来は少し離れた所でカデちゃんと談笑している。


「はい、そうです」


「お二人の魔力相性を診せて頂いたのですが…驚きですわね。今までたくさんのご夫婦や男女の魔力を診てきましたけど、ここまで相性の良い方は初めてですよ」


そうなの!?ええ?そんなにスゴイの?リアは満足気に微笑んでいる。


「ここまですごいと…どんなに離れていてもお互いの魔力を感じるのでないかしら?まさに世界が別とうとも惹かれあう二人ですわね~素敵ねぇ…」


でもね…リア、魔力は惹かれあっても…恋愛とか上手くいってないと思うのよ~本当ジワジワ…と仲良くはなっているとは思うんだけど~ああっじれったいわね!


その日の夜、定期討伐の食事のストックはどうするのか?…と未来に聞いた時に衝撃の事実が告げられた。


「ええ?!ガレッシュ様がおかずを全部作るの?!」


「そうなんですよね~私も下ごしらえ位は手伝いますっ!て言ったんですけど…出来るの~?みたいに鼻で笑われました…上から目線で結構ムカついた」


上からも何も元々皇族だし高みから見ている訳だし…というのは置いておいて…。


「ガレッシュ様、料理男子だったんだ…ポイント高し」


「はい、そこは認めます。でも市井で過ごしていたって聞きましたけど…あの、聞いた所では孤児院で過ごされた…とのことですけど本当なのですか?」


私がナッシュ様をチラリと見るとナッシュ様は頷いて未来を私達の自室へと促した。


ジャックスさんやジャレット君には聞かせられない…と判断したのかもしれない。


ナッシュ様は未来をソファに座らせるとこう切り出した。


「ガレッシュの生い立ちを話すことは皇族の秘匿する事件の話を聞かせる事にも繋がる。ガレッシュ自身も知らないことだから、討伐から帰って来て一族の者の同意を得てから、話して聞かせよう。いいね?」


未来は顔を引きつらせている。ガレッシュ様が皇族でありながら市井で過ごしていたのは…何か恐ろしい陰謀めいた事件だったと思っているようだ…。


「未来あのね、ガレッシュ様自身をどうこうしてやろう…っていう事件じゃなかったことだけは確かよ…。たまたまガレッシュ様が巻き込まれた…と言うのかしら…」


「そうだな…たまたまガレッシュが連れ去られた…という感じかな…ガレッシュにしてみれば、たまたまだろうがいい迷惑だっただろうが」


そう私とナッシュ様が口を揃えて言うと未来はホッとしたような顔をした。


「赤ちゃんの時のガレッシュ殿下を故意に狙って…とかそういうのではない…ってことなのですね?」


「そうそう、詳しくは長いお話になるからまた今度だけど…」


未来は安堵したように何度も頷いて部屋へと戻って行った。


ナッシュ様も、出て行く未来を見送ってから苦笑いをしていた。


「本当そうだよな…たまたま同じ日に医院にいて…入れ替えられて連れて行かれるなんてな…。」


「認めたくはありませんが、神様っていると思いますよ?でなければあんなに偶然が重なって…ガレッシュ様がこの時期に見つかるなんて…こんな都合のいい偶然ありませんもの」


とかなんとか言いながら、ポカリ爺の顔が浮かぶ。まああのじいちゃんには、そんな人様の運命を操る権限は無いとは思うけどね…。


翌日の朝。


今日は第二部隊が定期討伐に行く日だ。


魔力酔い…は少し感じるが大丈夫だろう。ナッシュ様は朝練に出ているようだ…。そうだ、折角だし…と台所へ行くと、もう未来が起きていて台所で何か作っているようだ。


「おはよー未来、早いね~」


「あ、皇太子妃あざーす!」


未来はご機嫌だった、うむ。未来の手元を見ると木苺ジャムを挟んだサンドウィッチと木の実タルトを籐籠に詰めているようだ。


「実はガレッシュ殿下に俺が作るから!とは言われてますが…おかずのストックとか私で準備出来る物は…作っておいたのです。それにお菓子類はガレッシュ殿下は作らないかな~と思って。」


流石出来る女…片倉未来…抜かりは無い。


するとキッチンの隅に置いていた『タクハイハコ』の魔石がペカペカと輝いているのに気が付いた。


こんな早朝からどうしたのだろう?


中を開けるとカデちゃんからの手紙だった。なんだろう?ガサガサ…。


『葵妃へ


昨日、リア姉様がガレッシュ殿下とマディのことが

上手くいかなかったことを国の両親、国王陛下と王妃に報告したのです。

そうしたら、もうここはおひとり様同士でマディとフィリペ殿下を

お見合いさせてみようか…と父が言い出しまして…

挙句にガレッシュ殿下が異界の乙女を召喚して…

どうやらその乙女とまた上手く行きそうだとの話になって、

ナッシュルアン殿下も葵を召喚して上手く二人が婚姻しましたでしょう?

それで…アル兄様も召喚をして異界の花嫁を見つけたらいいわ!

…と、母が乗り気になってしまったらしくて…

今シュテイントハラルは…見合いや召喚をするとかで大騒ぎです。


詳しくはまた後日です。                           

             カデリーナ 』


これまた…他国の事とはいえ…どえらい騒ぎになっているではないか…。


「どうしました?先輩?何か良くないお知らせです?」


と、私が手紙を見て呆けているので、未来が木の実マフィンを別の籐籠に詰めていた手を止めて、私を見てきた。


「ああこれなのよ…」


私はうっかりしていた。本当にうっかりしていたのよ…。


手紙を渡した時に未来が召喚の事実を知らない(・・・・・・・・・・)ということを完全に忘れていたのよ。


未来は私が手渡した手紙を読んでから顔を上げた。あれ?真っ青になっているけど…?


「しょ…召喚…て…神様じゃなくてガレッシュ様が呼んだの?あ…わ…私、間違えて呼ばれたんですよね?じゃあ…ガレッシュ様…本当は満島ちゃん…が良かったんだ…。あはは、なぁんだ…」


し…しまったああああ!?


痛恨のミス…!私としたことが未来に神様が召喚した…のよ?とか


未来は間違えられて召喚されちゃったのよ…とか伝えていたのを…完全に忘れていたわ…。


未来は手紙を握り締めたまま、肩を震わせている。


「未来…未来…ごめんね。召喚の事黙っていようと言い出したのは私なの…。ガレッシュ様が何故二人も召喚出来たのか理由は分からないわ…でもね原因は私なの…。私が幻術で見せた温泉の満島ちゃんと未来と…ごちゃごちゃの記憶交じりの姿をガレッシュ様に見せてしまって…ガレッシュ様を煽ってしまったのよ…だからガレッシュ様が誰を呼ぶのか…分からなくなった状態で…召喚して…あなたと満島ちゃんを呼んだのよ…だからガレッシュ様が悪い訳じゃないの…私が悪いの…ごめんね…」


未来は俯いていた顔を上げて私を見た。


「召喚して…私達が来て、満島ちゃんが戻っちゃった…てことは…もしかして私が、私の方が…本当に呼ばれた人なんでしょうか?」


「うん、そうだと思う。ごめんね…私も見た目ではどちらが呼ばれた人かは判別がつかないのよ。消えたから、満島ちゃんじゃない…ってことに気が付いて…」


「その時に言ってくれたらよかったのに…」


「ごめん…言ったら…その未来が変に意識して生活し辛いかな…とか考えちゃって…」


「意識?」


ああもう、申し訳なくて涙が込み上がってくるわ…。目頭を押さえながら頷くと未来がハンカチを差し出してくれた。ううっゴメンね。


「異界の乙女の召喚って…つまり簡単に言うと花嫁の召喚という意味なのよ。歴代の乙女は皆、召喚した方と婚姻しているし…」


未来はあ~ぁなるほど。と…困ったような顔をしている。


「そういう相手を召喚する魔法なのですね」


「ん~?というより剣を作ってくれる適合者?みたいな…魔力波形の一番合う人を召喚しているという方が正しいわね。ゴメンね、私この辺りは詳しくないのよ。私も最初は沢田美憂のオマケで勝手に連れて来られたと思っていたからさ…」


「え?それどういうことですか?」


と未来が聞いてきて気が付いた。そういえば…未来に私がここに来た経緯やら、ここに至るまでの出来事のことは全く話していないことに気が付いた。


「重ね重ねゴメンね…私…未来に私の今までのことも話してなかったわね…」


「あ、いえいえ。私も来たばかりで自分のことでいっぱいいっぱいでしたし…。なんとなくですけど理解はしました。また戻ってきたらちゃんと教えてくれます?」


私は涙を拭きながら何度も頷いた。


未来は本当に強い…まだ心の中は混乱しているはず。魔力がおかしな動きをしているし…。


「未来これだけは言わせて…」


未来は少し怯えたような顔をしている。


「私…未来にこの世界に来て貰って本当に助かっている。未来は本当は帰りたくて…辛くて悲しいかもしれないけど…私は嬉しいの、我儘でごめんね?私あなたが召喚されて来て喜んでしまったの…だから未来に召喚の事実は告げたくなかったの…だって私が未来にここに居て欲しいのだもの…ガレッシュ様にあげないわよ!」


未来は…泣き出してしまった。我ながらウザイ女だと思われたかもだけど…真実だから譲れない。


「そうよ、ガレッシュ様には渡さないわよ!未来は私の未来だからね!」


「せ、せんぱぁーい…その表現変ですぅ…」


と女二人抱き合って泣いていると台所の戸口にナッシュ様が立っていた。


「二人して…どうしたの?」


うげげっ…しまった…。私はカデちゃんの手紙を見せながら痛恨のミスを打ち明けた。


「アオイッ!短慮にも程があるぞ!」


ナッシュ様は激おこだった。多分ガレッシュ様が絡んでいるからだろう…本当にブラコンだ…。朝からギャンギャン怒るナッシュ様の間に未来が入って取り成してくれたお蔭で、短時間でお怒りからは解放された。


未来と討伐に持って行くお菓子類を詰めていると、それを見ていたナッシュ様が寄越せ!と騒ぐので、お菓子を与えつつ…朝食を作りながら色んなおかず類も未来に持たせることにした。


ニルビアさんも起きて来てザック君の朝の支度を手伝っている。おばあちゃんと孫の図だ。


「余ったら持って帰ってくればいいしね。本当魔法って便利よね~作り置きのおかずが腐らず長期保存が出来るなんて~」


私がそう言いながらカニクリームコロッケを詰めていると未来が手を止めてこう言い出した。


「そういえばさっき言っていた…沢田美憂のオマケで先輩がここに召喚された…て話ですが…。」


「ああ、あれね。そうなのよ~最初はオマケだと思ってたんだけど後で聞いたら…私がナッシュ様の呼びたかった乙女なんですって!ねぇナッシュ様!」


私が照れ隠しにナッシュ様の背中をバンバン叩くと、ナッシュ様は食べかけていた木の実タルトを喉に詰まらせたようで、むせて咳き込みながらも何度も頷いている。


すると未来は首を捻りながらこう言った。


「そうするとおかしいですね…私の場合…呼ばれていない満島ちゃんは帰ってしまったでしょう?じゃあ…ナッシュ殿下が召喚したのが葵先輩だと分かったのに…何故沢田美憂はこの世界に存在出来ているんでしょうか?あの子まだこの世界にいるんですよね?」


あれ?


そういえばそうだわ…。思わずナッシュ様と顔を見合わせる。どういうこと?


「あの子は誰が召喚したのですか?」


不敬にもナッシュ様を指差した。ナッシュ様も自身を指差している。未来は益々首を捻っている。


「つまり…正規の乙女として呼ばれた人ではない?けど存在している…てどういうことなんでしょう?そもそもその召喚って特殊魔法なんですよね?ナッシュ殿下が魔法陣を描いたのですか?」


ナッシュ様は顎に手を当ててジッと考え込んでいる。


「いや…魔術師団の術士に手伝ってもらった…魔法陣は共同で描き上げた。ガレッシュの場合はほぼ私と二人で描いた…。違いがあるとすれば大人数か少人数の違いだ」


「ではその召喚で…え~とたくさんの魔力が混じった魔法陣だから…沢田美憂という存在が出来上がった…てことでしょうか?」


未来はマジー様に魔術を教えてもらっているから最近は私より魔術に詳しい…。


ナッシュ様は何かに気が付いたような顔をしている。


「ミライ達が帰ってくるまでに調べておくよ…ちょっと気になるな…」


何だろう…良くないことなのかな…?


とか考えつつ


未来達をグローデンデの森に送り出したら、討伐先でとんでもない事件が待ち構えていたなんて…その時は想像もしていなかったのだった…。



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