剣豪とすとーかー
鍛錬場はものすごい観衆の熱気に包まれていた。
その中に一人の剣豪が静かに佇んでいた…剣豪の名は、片倉未来…。
静かに目を閉じ、靴を脱ぎ、裸足で地面に立ち左手に木刀を持ったまま不動の姿勢だ。
「流石だな…」
私の横でガレッシュ様が呟いた。すると同じく並んで見ていたナッシュ様も
「もうすでに隙が無いな…。この勝負どう見る?」
と、横にいるジャックスさんに聞いている。
「持久戦に持ち込めればルルの方が有利だけど、瞬発力とかどうかな…」
男共は勝負の行方に熱くなっているけど、私は結構心配だった。
だってあのルル君が女性に花を持たせよう…とか、恥をかかせたら可哀相…とか気遣いをしてくれるとは到底思えない…。きっと全力で未来に打ち込んでくるわ…。大丈夫かな…。
やがて、二人が静かに中央に歩み出た。鍛錬場内に静寂が訪れる。
「双方構えっ!始めっ!」
合図と共にルル君はいち早く木刀を構えた。未来は本当に剣道の試合前のように一礼をした後、綺麗な姿勢でスラリ…と木刀を構えた。
かっこいい…!
こう思ったのは私だけではなかった…。周りのギャラリーからは感嘆の溜め息が漏れる。
水を打った静けさの中、先に動いたのはルル君だった。
瞬く間に未来の木刀を持つ右手を狙いに行った。と、思った瞬間、未来が少し踏み込んだと思ったらルル君の懐に飛び込み、アッと言う間にルル君の胴を叩いた。
「一本…」
思わず呟いたけど、これは剣道の試合ではない…確か、参ったと相手が言わなければ、勝敗は決まらない。
ルル君は顔を顰めながら、間合いを取った…が、未来がそんな隙を与えてくれなかった。返す刀でルル君の右手の甲に突きの一撃を加えていた。
「つ…強い」
確か剣道四段?だったとか言ってたけど、ここまで強いと思わなかった。これは未来のお父様も彼女を警察官にしたがる訳だ…。
「勝負あったな」
ガレッシュ様の言葉通り…ルル君が木刀を地面に置いた。
未来は構えを解いて、数歩後ろに下がると静かに頭を下げた。
数秒後…大歓声が起こった。
「ミライ師匠ー!」
ザック君が一目散に未来に飛びついて抱き付いている。気のせいだろうか…私の後ろのギャラリーから「いいな…」とか「羨ましい…」とかの声が聞こえるのは…。
「よしっ、俺も勝負申し込んじゃお!」
えぇ?と思った時にはガレッシュ様は未来の前に立っていた。
は、早ぇぇ…。こちらからは聞き取れないが、未来に勝負を申し込んでいるようだ…。未来は頷くとすぐに移動してまた精神統一をはかっているようだ。
観衆もガレッシュ殿下と未来の勝負が行われることを察して、また大歓声が起こっている。
そして未来はまた一礼すると木刀を構えた。対するガレッシュ様は構えもせずに立ったままだ。
「あ…やれやれ、あいつ本気でミライと打ち合うつもりだな…」
あの棒立ちで本気…なの?私にはヌボッと立っているようにしか見えないけど…。
ガッ…!
という音と共に魔圧の風が顔に当たった。あちこちから悲鳴が上がる。
ガッ…ガキッ…と二度ほど音が鳴って…鍛錬場の中央で木刀を打ち合ったまま、睨み合いをしているガレッシュ様と未来がいた…。
「ほぅ…あのガレッシュの打ち込みをかわすとは…」
「強えぇ…」
ナッシュ様とジャックスさんの感嘆が聞こえる。…でも未来は女の子よ?!本気の打撃なんてやめてよ…。
未来は顔を歪めると、後ろに飛び退いて間合いを取った。ガレッシュ様はまたヌボッと立っている。
しばらく睨み合いが続いた。鍛錬場は水を打ったような静けさだ…。
「参りました」
随分と長い間睨みあっていたが、未来は木刀を地面に置くと一歩下がって一礼した。
わああ…と歓声が上がり、見守っていた軍人達が一斉に未来に突撃した?!
…と、思ったら…ボヨヨン…と何かに阻まれ、熊のごとく大きなガタイのお兄様達はその何かに弾き飛ばされて未来に近づけない…。
「な、何あれ?」
「ああ、アレ?ガレッシュの三重防御魔法。知っている?最近ミライの周りにガレッシュが三重魔物理防御障壁張ってるの?」
「え?ええ、何でかな…?とは思ってたのだけど…」
ナッシュ様はちょっと真剣な面持ちで私に顔を近づけた。
「ただのヤキモチだよ」
ずっこけたそうになった…。が、ナッシュ様はまだ真剣な表情を崩さない。
「…というのは冗談で…アオイが前言っていた、すとーかーというのがどうやらミライに纏わりついているらしい…」
私は仰天した。
「うそ…いつからですかっ?!」
「シテルンの視察から帰って来てからだから、4日前か…離宮と第三の詰所に魔物理防御を張っているのは知っているだろう?」
「…はい」
「最初は詰所に何度か侵入して来た者がいた…。気になって追尾魔法をかけたら…攪乱魔法を使って逃げた。二日前の夜、ミライが帰宅して帰る時間にミライと一緒に離宮に入ろうとした者がいた。これにも追尾魔法をかけたが…逃げた。すぐにガレッシュに伝えた」
「攪乱魔法なんてあるのですか?」
「ああ、あるな。対追尾魔法用の防御魔法だ…。これはかなりの上位魔法だから並の術者では使えない」
私はナッシュ様の顔を見詰めた。
「でも、それだけじゃ未来のストーカーとは限らないじゃないのでしょうか?」
ナッシュ様は鍛錬所の中央でガレッシュ様とルル君と喋っている未来をジッと見ている。
「あまり怖がらせたくはないが…ニルビアから報告が上がってきている」
ニルビアさん!?そうだった…ニルビアさんは離宮付きのメイド兼ナッシュ様の護衛役なのだった。
「昨日の昼間…皆が留守にしている時に誰か侵入者があったそうだ。ニルビアも外出していて、すぐに転移して侵入者の確認に動いたそうだ。侵入者はすぐに逃げたが…ミライの部屋に侵入しようとしていたのではないかと…」
し、知らなかった…。もしかして下着とか取ろうとしていたとか…?やだーっキモイキモイ!
「未来は…知っていますか?」
「う~ん、後をついて来ている者は気づいているかもしれんが、部屋の侵入は…どうかな?ニルビアが浄化魔法をかけまくって急いで処理した…と言ってたし」
「そうですよね…でも気づいていなくても、気持ち悪いのには違いないし…どうしよう…」
「今はガレッシュが厳戒態勢で護衛しているから不審者は近寄れんよ…。明後日から定期巡回だろ?ミライを選抜に入れたのは腕前も考慮したが、ここから引き離す為でもあるんだ。ミライの居ない間に不審者を見つけ出す」
「未来に言ったほうがいいのでは?」
ナッシュ様は渋い顔をしている。
「そうだよな?やっぱり伝えた方がいいよな?私も女性の意見に従ったほうがいいと思うんだけどな…ガレッシュもミライを見守る隊の隊員達も、ミライを怖がらせるな!と反対してきてな~。」
ちょっと、待って?今、会話中に変な単語が混ざってなかった?
「い…今、何か変な事おっしゃいませんでした?見守りたい?」
ナッシュ様は苦笑いをしている。
「ミライを見守る隊、だって。や~ミライは人気があるなぁ~因みにガレッシュもシューテもジーパスも見守る隊の隊員らしい。隊長は警邏部門のマスワルト中将閣下だって」
今度こそ私はずっこけた…。
「は、はぁ…つまり未来のファンクラブ…親衛隊…てことですね?」
「おぉ、異世界ではそう表現するのか?マスワルト閣下に教えておくかな?」
いやあのそんなふざけている場合ではありませんし…。私は急いで未来の所へ近づいた。
…て、おいっ!何故そんなに睨むんだ!私だよっ!皇太子妃だよっ!
未来の周りにいて周囲にガンを飛ばしているジーパス君とガッテルリさん(未来親衛隊と判断)に睨みを効かせて道を開けさせると未来に近づいた。
「先輩、見てました?ルル様にはなんとか勝てたけど、流石にガレッシュ殿下には手も足も出なかったわ~!」
そう言って照れたように笑う未来は綺麗で可愛い…おのれぇぇ…変質者めぇぇ!
「あのね、ミライ実はね…」
変質者の事を言おうと口を開きかけた私は、異様な気配を感じてミライの後ろを見た。ミライの後ろにはガレッシュ様、ジーパス君、ガッテルリさん…そして熊みたいなお兄様達がじっとりとした目で…私を睨んでいる。
何度も言うが私これでも皇太子妃なんだけど…。未来はキョトンとして私を見ている。
「ミライ…あの…」
「………」
「あの…ね」
「…………」
熊たちの無言の圧に負けた…。
「今日…お給料の支給日よ…初給与ね」
私がしぼりだすようにそう言うと、未来はパアッと顔を輝かせた。
「そうでしたね!これで念願の一人暮らしが出来ますよ~あ、そうだ!ガレッシュ殿下~以前おっしゃっていた女性向け商品が多い可愛い家具屋さんてどこですか?」
ひえぇ…み、未来?!今は狙われている身でその話題はダメよぉ?!あなたの後ろの熊さん達が魔圧を上げてきているから?!
流石に未来も後ろを振り向いてガレッシュ様を見た時に、周りの異様さに気が付いたようだ。
「…殿下?」
未来の問いかけにガレッシュ様は首を横に振った。
「ダメだ。一人暮らしは認めない」
こらーっガレッシュ様いきなりその言い方はダメ!
未来は眉を吊り上げた。
「それ、どう言う意味ですか?私が一人暮らしをするのに殿下の許可がいるのですか?」
「と、とにかく一人暮らしはダメだ」
おおっと…未来は正論だ…え~とこういう時どう言えばいいんだろう…。
あれこれと思案している私の横に、フラリとナッシュ様がやって来た。
「ミライ~一月くらいの給金じゃいきなり一人暮らしはきついと思うよ~」
ナッシュ様!?上手いっ!そうか。
「そう、そうよ!生活必需品を揃えるのもアパートメントを借りるのも、もっとお金が居るわよ?こんなご時世で借金なんてもってのほかよ?異世界で返済地獄なんて辛いわよぉ~。ね?だからもっと資金を溜めてからでも遅くないわよ?うちはこのままずっと住んでてもらってもいいんだし、ね?ナッシュ様!」
慌てて早口でそう捲し立てるとナッシュ様を見た。ナッシュ様はゆったりと微笑んだ。
「うちは男所帯になっているからアオイを助ける為にも是非、ミライには離宮に居て欲しいな。その方がアオイも心強いし」
と、アオイが助かる、アオイが心強い…と未来の姉御肌気質を上手く刺激しているようだ。
更にうまーいナッシュ様!
すると、未来が…何度も頷いた。
「そっか…これからしばらく…先輩大変だもんね…そうだよっ自分の事ばっかり考えてたよ!任せてよ先輩!離宮でしっかりお手伝いするからね!」
よ、よかった~!ドッと疲れた…未来の後ろの熊さん達も疲れたのか、皆座り込んでいる。
「と言う訳で、ガレッシュ殿下!今度また家具選びにお付き合い下さい~あ、でも見に行くだけでも行きたいなぁ~いいですか?」
未来はそれは嬉しそうに微笑んでいる。これは可愛い…期待で目がキラキラしている…これで断れる男はおるまい…。チラッとガレッシュ様を見ると苦笑している。
「いいよ…」
あれれ…なんだこの新婚さん(同棲も可)みたいな甘酸っぱいやり取りは…?
その日の離宮への帰り道…
変質者の存在を聞いていたからか、移動中周りを気にして歩いていてナッシュ様に笑われた。
「今はいないから大丈夫だよ~」
「でもどこかに潜んでいるかも…」
私が尚もキョロキョロするとナッシュ様は手を引いて歩きながら「ない、ない~」と笑った。
「少なくとも離宮と詰所の周り10シーマルぐらいの範囲はガレッシュの知らない魔力波形の持ち主なら、追尾魔法をガレッシュが使うよ。今は魔力系の気配無いし侵入者はいないよ。それに何かあればガレッシュが念話で言って来る」
ガ…ガレッシュ様ってそんな遠隔で侵入者をキャッチできるのね…なんかものすごく優秀なボディガードね。
「ガレッシュ様ってすごいですね…」
「あいつの得意分野だろ?表立って剣を振り回したりより、調査したり探索したり…とかの魔術が得意だって言ってた」
へえ…冒険者をしていたからてっきり、派手なアクション系の方だと思っていたけど忍び隠密系か…。
その隠密皇子殿下は未来と一緒にまだ詰所にいるらしい。勿論帰りは未来を護衛してくれるのだろう。
そして未来は初月給をもらって嬉しそうに帰ってきた。
未来は帰宅早々、夕飯の支度を手伝ってくれた。もう絶対妊娠のことばれてるよね…。匂いの立つ食材は未来が調理してくれている。この際だからと…未来に打ち明けた。
「未来あのね…正式に公表するのは…安定期に入ってからにする予定なの…」
「はい」
「だからそれまでは内緒ね…」
私がそう言うと未来は肉団子の甘酢あんかけを炒めながら、こちらを見た。
「はい。先輩おめでとうございます…元気な赤ちゃん産んでくださいね!」
くぅ~甘酢あんかけの酸っぱさが目に染みるわっ!
「次は未来にもよね!まずは素敵な彼氏ね!」
と私が言うと未来は出来上がった甘酢あんかけを皿に盛りながら首を捻った。
「う~ん…でも私の好みの人って近くにいるのかなぁ…」
食卓の上に出来上がった肉団子の甘酢あんかけとカニクリームコロッケ(冷凍)を調理してシーフードサラダと一緒に出して夕食をスタートした。
未来は昨日作っていたパンの耳のカリカリ揚げをつまみにヴェルナを飲んでいる。私もカリカリ揚げだけ頂いた。スパイシーで美味しい。
「イカフライも作ってるんで冷凍しておきましたよ」
そういえば夜にゴソゴソ台所で何かしていたけどストックおかずを調理していたのね。流石出来る女、片倉未来…。
「で、未来の好みの男性ってどんな人なの?」
割と私の声は小声だったと思うのだけど、ナッシュ様、ジャックスさん、ジャレット君の意識(魔力)がこちらに向いたのに気が付いた。
未来も皆の意識が自分に向いたことに勿論気が付いているが、チラッとナッシュ様を見て
「私の好みなんて興味あります~?」
と聞いちゃったりしていた…。
未来~!皆、興味ありありなのよ!ここにはあなたとガレッシュ様のことでヤキモキしている人達ばかりなのよ!
…とは口が裂けても言えないので、未来の話の先を促した。未来は目を瞑り…その理想の彼氏を思い浮かべているようだ…。未来はウットリしながら口を開いた。
「金髪で…青い瞳で…白馬に乗ってて…勿論王子様で…優雅で気品があって…背が高くて…あ、それと…優しくって…笑うと白い歯でツンデレもいいなぁ…て、殿下?聞いてます?」
「あ、あ…うん、聞いてるよ…」
嘘つけナッシュ様!途中でカニコロ食べ始めたくせに…。
しかし…未来がこんなに夢見る夢子だとは思わなかった。普段のオラオラ系から察するに…どちらかというとジャックスさんとか…ジューイとかマッチョ系が好きなんじゃないかと思ってたわ…。
とそこへ皆を震撼させる一言が発せられた。
「今…ミライ師匠が言ってた人って…アルク殿下とフィリペ殿下にそっくりだね!」
ザック君の明るい声とは裏腹に、皆は凍り付いたように固まっている。
…これは!?確かに外見的にはあの二人は当てはまっている…恐ろしいことに。
ナッシュ様が驚いて、コロッケを噛まずに吞みこんでむせている。
そう外見的にはあの二人はTHE王子様だ。
ただ中身が狂戦士とクリぼっちなのだ。まあクリぼっち王子は口が滑る?くらいで性格は良さげだけど…だけどフィリペ殿下だけは…オススメできないわ。
あれは…魔人よりタチが悪い…。
「やだーっザック少年!そのお二人どこの王子様なのー?!もちろん独身だよね?!」
み、み、未来っ~~食いついたらダメよ?!
だがザック君が無邪気に答えてしまい、未来のテンションを無駄にあげてしまった…。
果てしなく嫌な予感がするけれど…。
次の日、カデちゃん先輩と一緒にフォリアリーナ=ダヴルッティ夫人がやってきた。おや?どうされたのでしょう?
「今日は…マディアリーナとガレッシュ殿下の事でお話が…」
ああ、あれかぁ…二人をくっつけちゃお!作戦のことね…。
私は詰所の応接室に二人を案内した。ジャレット君がお茶を持って来てくれる。
「もうすっかり良くなりましたのね?良かったわ、お元気そうで」
とフォリアリーナがジャレット君に微笑んだ。ジャレット君も微笑み返してお礼を述べている。
でもねでもね?
私としては先程、カデちゃんの後ろにチラッと居てすぐにどこかに行ってしまった…キラキラ一族二号と見た目アイドル中身は狂戦士の行方が気になって仕方ない…。
なんでまたあの取り合わせ?
よりにもよって今、ここにいるのよ?
「それはそうと、さっきアルクリーダ殿下とフィリペラント殿下の二大キラキラがいなかった?」
とカデちゃんに聞くと、ああ~と言って理由を話してくれた。
「こちらで魔素の霧を発生させていた原因の、魔法陣が組み込まれていた大きな魔石が発見されましたでしょう?あれを見たいのですって」
へぇ…あの魔石をね…て…おいっ?!あの魔石今、魔術師団に保管されてなかった!?そして今、その魔術師団に未来がマジー様の魔術レッスン受けに行ってるんじゃなかった?!
THE王子様達と夢見る夢子が遭遇してしまうっ?!た、大変だーー!
「ちょ…ちょっとどうしましたの?葵!?は、走ってはダメで…待って…お…」
後ろでカデちゃんの声が聞こえるけど、構っちゃいられねぇ?!
そして魔術師棟に向けて激走していると、またまたナッシュ様に見つかった…何故走っているといつも見つかるのか…というか、うちの旦那こそ私のストーカーではなかろうか?いや、今はストーカー旦那に構っている暇はない。事情を話してすぐに魔術師団の棟の前に転移してもらった。
魔術師団棟は特別な魔術障壁を棟全体に張っているので、建物内に転移することは禁止されているらしい。私はナッシュ様に半ば抱えられるようにして、魔術師団の応接室に飛び込んだ。
そこは薔薇園に迷い込んだような幻想が見えるほどの…夢見る夢子のテンション(魔力)に溢れた空間になっていた。
夢見る夢子と何故かここに居る忍び隠密皇子と対面のソファに座ったTHE王子の二人。キラキラ王子様達は極上の笑みを浮かべている。かたや隠密皇子ことガレッシュ様はちょっと困ったような表情をしていた。
ガレッシュ様は私達が部屋に入るとホッとしたような顔をした。
「あ、兄上、義姉上。良かった…マジー伯母上から…おしつ…いえ、お相手をと言われてしまって…」
マジー様、甥っ子ガレッシュ様に王子達を押し付けて逃げたな…。
「あ、ナッシュ殿下お邪魔してます!」
キラッと魔力を発光させてフィリペラント殿下がこちらを見た。相変わらず眩しいー。
「なんでもガンドレアの地中から高純度の巨大魔石が見つかったとか。拝見しても宜しいですか?」
キラキラと魔力粒子を靡かせて?アルクリーダ殿下が顔を輝かせた。
無駄にギラギラはしてるのよね…外見と中身がそぐわないのよねこのお二人。
とか思いながら空いているソファに腰を下ろすと、魔術師団の男の子がお茶を入れてくれた。未来は頬を薔薇色に染めている。これはまだTHE王子様の本性を知らないのだな…。
そして未来はいつもより一オクターブ高い声でフィリペ殿下に話しかけた。
「あのっあのっ…お二人は…こちらにはよくお越しになられるので?」
ふわーっ…。あの未来が…いつも落ち着いている未来が…浮かれてる…これは珍しいモノを見たわ。
「僕は時々お邪魔しますよ?異界の方…ところで異界からお越しだということは、色々と知識をお持ちだと思いますが…是非、異界の拷問具についてお聞きしたいですね。フフフ…どんな責め苦が味わわせることが出来るかな…。楽しみだな」
で、出たーフィリペ殿下の本性ー!…しょ…初対面でこの会話…。これはキッツイ…。恐る恐る未来を見ると…
チベットスナギツネ顔になっている!
「そちらの方面の知識は持ち合わせておりません」
未来…ものすごい棒読み&口がほとんど動かない腹話術状態だ…。衝撃が凄すぎたんだね…。
「あ、そうですね!異世界から来られたのでしたね。こちらの生活は如何ですか?」
おおっクリぼっち殿下の方は出だしは普通?で順調だ…。なんだかドキドキする…。
未来は気を取り直したのか、パアッと明るい笑顔になると意気揚々と答えた。
「はい、軍の仕事も慣れないことが多いですが、皆様に助けて頂いて…なんとか…」
「あ~そうですよね、女性に軍のお仕事はきついですよね。あ、でもあなた美人だから大目に見てもらえるかな?軍て女性職員が少ないからモテるでしょう?あはは…」
あ、あら~?これは…セクハラ発言じゃないかしらぁ~?また余計なひと言言いましたか~クリぼっちは?
ソロリ…と未来の顔を見ると、ギュッと唇を噛みしめて俯いている。
するとガレッシュ様が未来の肩を叩いて立つように促すと
「すみません、少し所用がありまして席を外します」
と言って未来を連れて出て行ってしまった。
もしかして…?未来を気遣ってくれたのかな…?
そうだといいわ…ジワジワとだけど二人は仲良くなっているみたいだし
勝手な願いだけどいい方向に動いて欲しい…と思いつつ
ここに残された残念な王子二人を、しょっぱい気持ちで見詰めていた。
……あれ?もしかして私とナッシュ様が今からこの二人の相手しなきゃならないの?
きっつーー…早く帰れーー。




