皇子殿下とミライ
未来のSIDEの番外編になります
「あ〜ぁ、どこかに王子様いないかな~」
私がそう呟くと、私の斜め前に座っていたガッテルリさんが吹き出した。
「どこか…ってガレッシュ殿下がここにいるけど?」
私は今は主の不在の執務室をチラリと見た。ガレッシュルアン第二皇子殿下は冒険者ギルドからの緊急依頼で魔人討伐に出かけている。
魔人、魔獣…一応この世界の知識として必要だと葵先輩に借りた『超危険!世界の魔獣害獣大図鑑☆改訂版』に載っていたモンスター類を思い出した。
あんなのと戦うんだ…すごいなガレッシュ殿下。
でもね、私の「王子様」カテゴリーからは外れてるのよ。
「だって、ガレッシュ殿下、金髪じゃないんだもの~」
「え?」
ガッテルリさんはキョトンとしている。
「私の王子様のイメージはぁ金髪で青い瞳で白馬に乗ってて~物腰が優雅で気品があって…」
と、説明をしているのにガッテルリさんは、いつの間にか聞いていない…書類整理を始めていた。
だってガレッシュ殿下って違うんだよ…。そういう意味でナッシュルアン皇太子殿下も何か違うんだよ…。
あの兄弟は王子様みたいな完璧な顔立ちの超イケメンのくせに、優雅とか気品がまるで感じられないのよ…。
まあガレッシュ様は分かるよ?数奇な運命の御生れだし、庶民臭が抜けないのも仕方ない。でも生粋?の皇子殿下のくせにあの、ポヤンとした雰囲気のナッシュ殿下はなんなのさっ…。
「もっとキリリとしてぇ優雅で品格のあるイケメンにぃ…」
「ただいま~あぁ疲れたぁ…魔人がさ、元ガンドレア軍人でさぁ…SSの人も怪我人が出たりで大変だった~」
気配も無く超イケメンの中身ど庶民、ガレッシュ皇子殿下が帰って来た。
庶民殿下はブツブツ言いながらそのまま台所に入ろうとしたので、慌てて後を追い
「で、殿下!お茶ですね、お入れしますので座ってて下さい!」
とガレッシュ殿下の体を台所の外へと押し出した。
「え~?自分で出来るのに…ん~じゃあ頼んだよ。お菓子ある?食べたい~」
「はい、ご準備しますので!」
ふぅ~皇子殿下だからドーンとしてりゃいいのにね。そこが若いメイドのお嬢様達には庶民的で大人気なんだけど…。庶民的じゃなくて、考え方がもろ庶民だもんね。よく気が付く旦那みたいだ…。
そう、旦那にすりゃ間違いなく良いパパだもんね。よくザック少年とも剣術教えながら遊んでるし…。
旦那かぁ…私こっちで結婚出来るかなあ…。
ああ~あ、なんで私、異世界に来ちゃったのかなぁ…
普通は召喚されたらヒロインになれるんじゃないの?
でもさ~私じゃなかったんだよな…。
私はその召喚で間違えて来たんだってさ…。
そう言われたら、もう仕方ないじゃない?その選ばれた…立ち位置に行けないんなら…別のポジション探すしかないでしょ?
なのにさ…
何故か間違えたほうの私が残って満島ちゃんがいなくなった…。召喚って神様がしたんだよね…どうしてなんだろ…。先輩に聞いても分からない…と謝られてばかりだし。
「はーいお待たせしました。レモンサラーとバルオ煎餅です!」
「お~バルオせんべいって何?」
私は執務室のソファにのけ反ってだらしなく座っていたガレッシュ殿下の前に、お茶と味噌っぽい煎餅をおいた。
日曜日のお父さんかっての…。皇子なんだからキリッとしててよ、もうぅ!
「先日視察に伺いましたシテルンの香辛料、バルオを薄く焼いた生地に塗ったお菓子ですよ。どうぞお召し上がれ」
ガレッシュ殿下は煎餅に手を伸ばした。
「おおっ甘くて辛くて不思議な味だが美味しいな~」
ふふっ良かった。ガレッシュ殿下は素直なんだよね。それにはっきりものを言うし。上流階級の人間に有りがちな含みとか思わせ…とかは一切言わない。でも…それは私達部下とか、一部の人に対してだけで…本能的に警戒する人間には仮面を被ったように感情を出さないんだよね。その辺りは皇子っぽい腹黒さがあるというか…。
確かにカッコいいんだけどなぁ…。
私がジッとガレッシュ殿下を見詰めていると視線が気になったのかガレッシュ殿下が
「なんだ?何かあるの?」
と、聞いてきた。今聞いても大丈夫かな?
「あの~皇子殿下に不敬なことをお聞きしますが…どうしていつも地味な服装ばかりをしていらっしゃるのでしょうか?」
そうなんだよなっ、一番勿体ないなぁ…と思うのは地味色の服装。これよ、これっ!どこのおじいちゃんかって言うくらい萌葱色とか薄い浅草色とか焦げ茶とか、なんなのその色のチョイス!あんたまだ27才でしょ!?赤とかピンクとかオレンジとか着なさいよ!
「服?地味…ああこれ?もう癖になってるからな…ついこの色合いの服を選んじゃうな~」
「癖?」
「ああ、これはつまり職業柄…冒険者をしている時に必要に駆られて選んでいたからね。俺ね、冒険者でも発掘と採取を専門にしていたからさ」
どういうことだろう?私が首を傾げているとガレッシュ殿下はおかしそうに笑った。
「あ、そうかミライには分からないな。え~と、冒険者ギルドがあるのは知ってるよね?で、そこでは依頼を受けて冒険者がその依頼内容に基づいた、例えば薬草を何種類納品…とか、魔獣の牙を何本とか…兄上や俺もよく受けてるギルドからの直接依頼の魔人討伐…とか依頼にも色々あるだろう?」
「はい」
「俺はここに来る前は幻のセレイア鳥の羽を一本とか、ブリエドエランカの種を五個とか、後は数人の冒険者と組を編成して遺跡の発掘とか…。どちらかというと暗がりに潜んで獲物を捕まえるとか…山の中で目的の花を見つけるまで歩き回る…とか、人目を忍ぶ依頼をこなしていたからね。山の中の魔獣や獣って人間の気配を嫌がるからさ、服も視覚で目立つのは避けなきゃだし、ああいう貴重種って一月粘っても見つからないこともあるんだよ?まあ、そう言う珍品や貴重なモノって高値で売れるからっていう理由で依頼受けてたってのもあるけどね」
「なるほどです…でも薬草とか種の採取だったら剣の腕とかいらなさそうですね。私でも出来るかな?」
と言ったらニヤニヤしたガレッシュ殿下がこう言った。
「魔獣とか魔物がたくさん出る所に一月だよ?魔獣って体長10シーマルあるのなんてザラだけど?」
10シーマルって…10mじゃん!?デ、デカイモンスターと格闘しながら一月…、あ、野営もしなきゃだし…。チラッとガレッシュ殿下を見たらまだニヤニヤしている。
「いや~一月か、でもミライとなら野営も楽しいかな!どう一月一緒に山に入る?」
「…ご遠慮します」
くっそ…。こういう所も意地悪で私のイメージする王子様像からかけ離れているんだよ…。一生ダサイ格好でいろっ!
「あ、魔獣と言えば…そろそろ定期討伐の選抜隊員の発表もうすぐだね。今回は第二か…そうだ!うっかりしてた。食糧庫に行かなくちゃ!」
ガレッシュ殿下の叫びに私も思い出した。
グローデンデの森の定期討伐…いつも一月の長期単位で第一から第三の三部隊の交代制で討伐に出ている。ここ数年の魔獣魔物の大量発生の原因が分かり、ナッシュ殿下のご活躍により魔獣の数が減ってきているので、今年から一月が二週間に短縮されたらしい。
「向こうに持って行く食料の在庫確認に行かなくちゃ…」
と、ガレッシュ殿下が立ち上がり走りかけて、気が付いた。
「ちょ…ちょっと!何故殿下がそんな備品の確認に行かれるのですか?!」
「え?だってどんな食材あるか確認しておかないと、料理内容決めれないし…」
え?何どういう事?持って行く食材を殿下が見て、こ…献立を考えるの?
「そんな献立は料理番に任せておけば…」
と私が言うとガレッシュ殿下は口をむうぅと尖らせた。
「そんなの経費がかかるじゃない。俺が作るんだし俺が考えるよ」
今、何と言いましたか?
「14日くらいでしょ?5人分だからいつもの五倍作ればいいだけだし大丈夫だろ」
「で、で…殿下が作るのぉぉ?!」
「皆作れないって言うし、料理番連れて行ったら経費かかるし、俺が作れるし問題ないだろ?」
問題ありまくりだよっ?!前代未聞だよっ!皇子殿下が料理作るってぇ?!
とか、唖然としている間にガレッシュ殿下は執務室を出てしまう!
「あ、あ…私も行きます!」
取り敢えず食糧庫に一緒について行って変な食材?を選ばないように監視することにした。
ところがだ…ところが変な食材を選ぶどころか、料理長と材料と調味料の在庫数とかかるコストを確認したり…に始まって献立をすでに書き出しながら材料を選んでいき…時々ソーナやバルオの使い方を私に聞いたりして…どうやら和食のアレンジメニューも作るようだ。
「そうです。パンやスープ類はこちらで用意しましょうか?」
「そうだな…主食は準備出来るし…そうして貰おうか」
料理長は私に聞いてるのにガレッシュ殿下が了承している。料理長も気が付き出したぞ…。
「精肉類はどうしましょうか?」
「ある程度は現地調達できると思う。足りない分は俺が狩って来るから…」
「はあ…。では調味料は先程の量でご準備しておきますね」
「塩とメル、ソーナとバルオだけあれば色々出来そうだから多めに入れておいてくれ」
「ぎょ…御意。あのもしやすると…ガレッシュ殿下が料理を作られるので?」
「そうだよ。他に誰が作れるの?」
どうやら私は最初から戦力に入っておりませんでした…料理長がアセアセしながら私を見てくる。
小声でその通りでごさいます…と返事をしておいた。
「殿下、言っておきますけどねー」
食料備蓄庫からの帰り、私はガレッシュ殿下に食ってかかっていた。
「な~に?」
呑気な返しにイライラする。
「私だって高校…え~15歳の頃から一人暮らしをしていましてお料理歴10年なんですよ!絶対の自信はありませんけど、そこそこはお料理出来るんですよ!」
「へ~え…」
今、絶対馬鹿にしたなっ!ふんっでもいいもんねっ。
「あ~ぁ10日以上も討伐で殿下がいないなんて久しぶりにのんびりできちゃうわー」
と、私が言うとガレッシュ殿下は歩みをやめて、小首を傾げて私を見た。
「何言ってるの?ミライは選抜隊員じゃないか?」
な、なあ…なあんだってえぇぇぇ?!
ダッシュで第二の詰所前に走り込むと廊下に張り出されている『ホワイボード』に書かれた第二部隊の選抜メンバーの名前を確認した。
「…入ってる。選抜…てか誰よ?!私を入れたのぉ…」
と一人怒鳴りかけたら詰所の中からアーダクトさんが顔を覗かせた。
「あ~良かった。あのですね、ミライさんが選抜に入っているのが納得出来ない…と、え~と…」
と言い掛けたアーダクトさんを押しのけて、数人の女の子が(主にメイド姿)ドドッと廊下に飛び出して来た。
「あ、あなたどういうつもりよっ!?図々しいにも程があるわ!」
「そうよっ!ガレッシュ殿下と14日もっ寝食を共にするなんて…どこまで…」
「どうせ、皇太子妃に頼み込んで入れてもらったんでしょっ!恥知らずが…」
なんだこれ…?もう一斉に女の子達がキイキイ叫ぶからものすごい不協和音だ。三階からナッシュルアン殿下の降りて来る魔力波形を感じる…。勘弁しろよ…。
「うるせぇよっ!ここは軍の詰所だよっ静かに出来ないなら出て行きなっ!」
私がそう叫ぶと一瞬静かになったものの…またさっきより大きな声でぎゃあぎゃあ叫び出した。
あ…マジで殴ってやろうかな…さすがにそれはマズいか…。すると一人の女の子が興奮したのか私に殴り掛かってきた。
咄嗟に避けたら勝手に一人で転んで挙句に泣き出した。どういう事よ…?
「どうしたんだ…?」
ナッシュルアン殿下が詰所の前に現れた。後ろに葵先輩…それにザック君もいる。ザック君は転んでいる女の子の所へ行って
「お姉ちゃん転んだの?立てる?」
と聞いている。女の子はすぐ泣くのを止めて立ち上がり、何故かザックに手を差し出した?
…と思ったらザック君は…一瞬でいなくなった?
え…と更に思っていると私のお尻辺りに気配を感じ振り向くと、ザック君が私のパンツにギュッとしがみ付いていた。
え?いや?もしかして今、短い距離でしたが転移したのかしら、ザック少年よ?
「どうしたの?」
「ミライ師匠あの人怖い」
そうかい、そうかい。私も怖いよ。集団でキイキイ叫ぶしね。
「ナ、ナッシュルアン皇太子殿下っ…私あの女に押されて床に投げ出されてしまいましたのっ!」
キイキイ騒いで転んだ女は私を指差しながら叫んでいる。
まさかの自分で転んだくせに、そうきたか~。
転んだ女は泣きながら…皇太子殿下に走り寄ろうとして、防御魔法に跳ね返されて…後ろ向きに転んだ…。
哀れ過ぎる…。
「皇太子殿下」
私はちょっと喧噪が収まった瞬間に、ナッシュ殿下に声をかけた。殿下は、ん?という顔で私に話をするように促した。ガレッシュ殿下も廊下の向こうから足早に近づいて来るのが見える。
「こんなにウザいなら私、第三の事務に戻ってもいいですか?正直困るんですよ…何故か選抜にも選ばれてるし…」
と言うと、ナッシュ殿下が何か言う前に女の子達がまた騒ぎ出した。
「あ、厚かましいっ!自分で言い出したくせに…」
「どこまで恥知らずなんでしょ!」
…あのさ…皇太子殿下の発言を遮るほうが厚かましいし、不敬だと思うよ。
更に女の子達は騒ぎ出した。
「どうせ推挙されて事務所に入り浸りガレッシュ殿下のお傍にいるだけで何もしていないのよっ!」
「そうよそうよっ!ちょっと近衛の方々から人気があるからと図に乗ってぇ…」
近衛の方々の人気は初耳である。いつの間に近衛の方に名が知れたんだろう…と思ってジーパス君とシューテ君の顔が浮かんだ。あの子達だな…。あ~あ余計な火種を撒かんでいいのに…。
「ミライが何もしていない…だって?」
ガレッシュ殿下の低い声が聞こえた。途端に煩かった女の子達が押し黙った。こ、これは…ガレッシュ殿下の魔圧が上がって来ている?
ガレッシュ殿下はゆっくり女の子達の前に回り込んで来ると、物凄い魔力圧と共に彼女達を見下した。
「じゃあ、ミライの代わりに君達に仕事をしてもらおうか?誰が手伝ってくれるの?」
ひぇぇぇ…ちょっとこれは怖いよ…私のお尻にしがみついているザック君なんて怯えて震えてるよ…。
「わ、私が…!」
「ちょっ…私も出来ます!」
「何よっ?!私が全部します!お任せ下さい!」
またぎゃいぎゃい騒ぎ出したが、ガレッシュ殿下は女の子達を詰所の通し部屋…来客用の待合室みたいな所へ連れて行くと、私の机の上に積まれていた書類をドサッと女の子達の前に置いた。
軍の極秘資料とかもあるんじゃない?大丈夫なの?
「はい、これがいつもミライのしている仕事。それと皇太子妃の指示で『民間治療術医院』の建設に関するものと『バラミアウオカー』の発売に関するもの、ああ…後、うちの領地の特産品の試食会の開催の準備…全部やってくれるよね?頼んだよ」
女の子達は机に積み上がられた書類を見てポカンとしている。
その間にも料理番の若い男が戸口に来て私に声をかけてきた。
「ミライ少尉?あの…ご注文の香辛料と野菜の在庫でガンドレアの駐留隊員から問い合わせが来ているのですが…」
「ああ…ごめんね、ミライは手が離せないんで、そこのソファにいる女性の誰かに聞いてみてくれる?」
とガレッシュ殿下が勝手に答えてしまった。
完全に怒ってますね…しかも笑顔で…。女の子達は固まって動こうとしない。どうすんのコレ?
「あの…ミライ少尉?」
と今度は備品管理室の女性職員が戸口に立っていた。ごった返している室内を見てびっくりしている。ごめんね~と女性職員に謝りながら、呼ばれたので廊下の外に出た。
「あの、少尉の軍服が出来上がっておりますので、お時間ある時にでも…」
「ああ、出来たの?ありがとう~そうだ、今行っちゃおうかな?殿下ー出て来ます!」
と、私が廊下からガレッシュ殿下に呼びかけると「いいよ~」と声が返って来たのでザック少年の手を引いてそのまま詰所を離れた。
ナッシュルアン殿下と葵先輩は何故かついて来る。女性職員の女の子は事態が吞みこめずオロオロしていた。
「や~あれは相当お怒りだな~。あいつが怒るなんて初めて見たな」
とナッシュ殿下は言っている。葵先輩も頷いている。そんな状態の中で出て来てよかったのかな…と思っていると手を繋いでいるザック君がチョンチョンと手を引っぱってきた。
「あのね、さっきルルお兄ちゃんがミライ師匠と手合せしたいって言ってたんだけど…」
なんだと?このゴタゴタしている時にルルさんってば…と思ったがいい加減私だって腹が立っている…。別に定期討伐の選抜メンバーに好きで選ばれた訳じゃないけれど…実力が無い…と言われることには一言言いたい。
「別にいいよ~ルルさん手加減してくれるかな~?」
と、ザック君に笑いながら言うとザック君が私の手をパッと離すと
「ルルお兄ちゃんに言ってくる!」
と言って消えた…。えっとこれって転移だよね?チラッと葵先輩を見ると先輩は頷いている。
「転移できるようになったみたいね~いや~子供の成長は早いね~」
まだ8才じゃなかったけ?私、今マジー先生に魔術教わっているけど…転移なんて、まだまだまだ出来ないと言われたよ?
そして、備品保管庫で制服を受け取り、また三人で詰所に戻ったら、なんと第二の詰所前でルルさんが仁王立ちで待っていた。
「まるで…果し合い…」
「似合うね~ルル君、侍みたいだし…」
ルルさんに近づくと、詰所から悲鳴とまたも女の子の罵りが聞こえる。
「今度は第三のルル様よっ!」
「厚かましい女ねっ…」
ルル様…。そのルル様を見上げるとほぼ動かない表情で
「待ってた…手合せ頼む。今行けるか?」
と端的に聞いてきた。一つ頷いて詰所の中に入ると、私の仕事は案の定手付かずだった…。執務室に居るガレッシュ様の前に立つと先程よりは魔圧を抑えているがまだお怒りのご様子だった。
「仕事…減ってませんが?」
「あの子達に出来るはずないだろ?」
だったらもういいじゃん…言ってやれよ…と思ったらガレッシュ様はフラリと立ち上がると執務室を出て行った。
女の子達は黄色い悲鳴を上げる。
さあ、どう言うんだろう?帰ってよ~くらいは言ってくれるかな?と期待していたら…。
「君達の名前と所属部署をこの紙に書いてね。後で連絡するから」
と、一人一人に紙を渡している。どういうこと?合コンの連絡先交換の様ではないか…。唖然としてガレッシュ殿下の姿を見ていると、キャッキャッしながら女の子達が自分の名前と何か色々書き足している…。
ガレッシュ殿下はその連絡先?の紙を回収し終わるとにっこりと笑ってこう言った。
「はい、ご苦労様。今日付けで君達は解雇が決定しました。後ほど正式な通達がいくから楽しみにしていてね」
は…腹黒過ぎる対応でした。
ナッシュルアン皇太子殿下はずっとニヤニヤしているし、葵先輩はサムズアップしてるし…。
廊下ではルル様が仁王立ちで待ち構えているし…。
カオス…一言で言うとそれだよ。
後ほどあの騒いでいた女の子達は、解雇は免れたらしい。
ただ、何かに相当脅されたようで…後日、私と目が合っても走って逃げてしまうのだった…。
その何かは考えるだけでも恐ろしい…。




