変態の前で防御力ゼロでした
まだまだ不慣れですが宜しくお願いします
誤字、文章修正しております。内容には変更がありません。
「それ…うちの領地の関連書物?勉強熱心だね~」
お前が領地の運営にも手を貸せと言ったからだろう!…と叫んだところで今の状況が覆る訳ではない。
「どうして隣に座るのですか?それに何故、腰を触るのでしょうか?」
「ん~?だって、余剰魔力が体に溢れてて疲れてるのだよ。休憩休憩…」
「だから何故、休憩と称して腰を触るのですか?」
「気持ちいいからな…」
もうっ…答えになっているような、いないような…
でも…さっきのはよく考えたら、リディックルアン皇子殿下とのバトルにナッシュ様が乱入してくれなければ私は不敬罪で首はねられていたかもしれないよね。我ながら皇族に対して迂闊だとしか思えないな…
「ありがとうございました」
「…ん?何のお礼?」
「この世界に来てからのすべてのお礼です。私一人では生きていけない所へ温情により居場所を与えて下さいました、感謝しております」
ナッシュ様の腰を触る手に力が込められた。グッとナッシュ様の方へ引き寄せられる。頭の上にナッシュ様の顎が乗っている。ちょっと重い…体重かけるのヤメロ。
「温情とかじゃないな…ん~打算だよ。君は私には大変都合が良かったんだ。私の魔術を緩和出来る…私の領地経営の片腕として使える、打算だらけだよ。全然温情じゃないよ…私は結構、悪い皇子様だからね、ガッカリした?」
首を横に振った。こういう所が優しいんだよね。フフ…自分で自分を悪く言う、天才的に策士だなぁ…これは女の子が放っておかないだろうな。モテるだろうね、変態だけど…
「戻って来ないので、何をしているかと思えば…」
入ってきた図書館の戸口からヒュオーーーーッと冷気が流れてくる。さっ寒い!?何?
戸口を見ると、霜の降りた扉の陰からフロックスさんがブリザードを吹かせて(本物の吹雪)ゆっくり現れた!
ゆ、雪女だぁーー!?実際は男だけど…
「ごゆるりとして良い御身分ですね…あ、実際、皇子殿下でしたよね、はは…ああそうだ、奇しくも来週から一月、第三部隊が魔獣、害獣の討伐の担当ですので良い御身分の方が怪我をしたら、僕特製の怪我の治りが遅くなる、遅効性の特別治癒魔法をかけて上げましょう。いいですよね?ゆっくり痛みを長引かせながら治療に専念して下さい」
いやもうっ怖すぎるからっ!本物の雪女さんが脱兎の如く逃げて行きますからっ!もう次の伝家の宝刀はぶっちぎりでフロックスさんに決定だから!今でもナッシュ様は怯えたウサギみたいにぶるぶる震えてるものっ。
フロックスさんに半分凍らされたような状態で、ナッシュ様は連れて行かれた。
「アオイもなんでも許してはダメですよ」
と、私にも釘を刺すのを忘れない。フロックスさんも切れ者だ。あの変態…の周りには私から見て出来物の人材が集まっているようだ。
正直…人材の良し悪しは会社然り、組織の基盤を決める重要な条件だ。人材が集まらなければいい仕事延いては、いい会社にはなれない。自分一人が頑張っても人材が集まらないとどうしようもない。
観光本を読みながら思わず笑顔になる。異世界に来てまでも頭が常に仕事のことばかりだ、でも居心地がいい。前と感じ方が全然違う。仕事に追いかけられるのではなく、先にある仕事に追いつこうと頑張る…悪くない。
私は読み終わった本を元通りに片付けると、司書の方にお礼を言って図書館を後にした。
私は第三部隊の詰所に戻ると、領地再生計画の素案を作り始めた。その合間に、第二部隊の演習訓練の見直しの検討会に呼び出されたが、役人達の前で改善点を熱弁し再び戻ると…部隊の皆さんは夕刻まで実技訓練で出払うというので町に出て食材を買い、詰所のキッチンでアイスレモンティーを作ったり、蜂蜜?メープルシロップ?のようなものも見つけたのでナッツに似た木の実を蜂蜜につけて置いてみた。
やがて夕方近くに隊の皆様が戻られたので、アイスレモンティーを振舞った。大好評だった、木の実の蜂蜜がけはナッシュ様にいち早く発見され、独り占めされるのをなんとか死守した。
仕事が終わり、ナッシュ様と帰路につく。王城から小道を二人でゆっくり歩いて行く。その時フト気が付いた。私はいつまでもナッシュ様の離宮に居候する訳にいかないな…と。
これは一人暮らしの計画も立てて行かないと…忙しいな~やること山ほどあるな。
夕食はナッシュ様の強いご希望により、私の手料理を一品作ることになった。散々悩んだけど、ピリ辛鳥のから揚げに決めた。鳥に似た肉はあるし…小麦粉や片栗粉、香辛料もなんとかある。お肉に下味をつける前にヴォルナというビールのようなお酒に付け込む。うむ…
味見したけどいい感じに揚げ上がった。早速ナッシュ様にヴォルナと一緒にお出しする。ビールにから揚げ最高でしょ?
「なんだこれーー最高だ!」
とナッシュ様は大絶賛だ。これの嫌いな男子はいないよね?分かる~他のお酒も召し上がったナッシュ様に請われて、おつまみも作ってみる。モロンという豚?みたいな肉があったので、豚と適当にあった野菜をピリ辛タレを使い炒めてみた。そうだ…じゃがいもっぽいモルという野菜もあったから、揚げ物の残り油でモルスティック塩味を更に作ってみた。
あまりに時間が遅くなるといけないので、ニルビアさんには就寝をお勧めした。ご年配にはしんどいよ。気にせずお休みくださいませ、後片付けはお任せを。
ナッシュ様は程よく酔っ払っているようだ。私もご相伴に預かりつつ、おつまみを摘まむ。第三部隊の事、来週から行う討伐の事、魔の眷属の事…取り留めもなく話していく。その時に気になる単語が耳についた。
「異界の乙女がその…ロンバスティンの剣を渡す…と言う事は、その剣はどこかに置いてあるのですか?」
皇宮の宝物庫とかかな?定番だけど…するとナッシュ様は首を捻っている。
「いや…そんな剣は所蔵されて無いと思うけどな…とにかく500年前に一度、異界の乙女がこの地に来てるんだ…で、剣を授けたと歴史書には記されてある」
「授けたって…沢田さんそんな剣、持ってるの?」
今思い出しても沢田美憂の手荷物は小さいトートバックだったと思うけど…そうかっ何かアレだ!神様から授かるんだ!そうかそうか…
「その剣を勇者である皇子に渡すんですね?」
するとナッシュ様は苦笑いをした。
「ん~ここだけの話だぞ?口外はするなよ?異界の乙女がこの地に来て、乙女が勇者を選ぶんだ」
……ん?あれ?あれれ?
「乙女が選ぶ?じゃあ…リディックルアン皇子殿下は?」
「勝手に勇者を名乗ってるだけだな~」
ぉおぃいいいい!?それって自称勇者じゃないか!?驚いた!ってか誰もそれに突っ込まないの?
「だから乙女が選んだ勇者じゃないから、ロンバスティンは現れない…というのが国王以下臣下全員の見解だな」
どういうことよ?それじゃあ、あの召喚で大騒ぎしてたリディックルアン皇子はどう思っているの?
ナッシュ様は困ったような悲しいような表情をしている。
「あいつは根が単純だから…自分が選ばれたと思い込んでいるようだな。おそらく母上にでも諭されたのだろう」
「じゃあ…皆してリディックルアン皇子殿下を担いでいるの?」
ナッシュ様は頷いた。そんなの変じゃない?普通は臣下が進言するものじゃない?
「あいつと母上の事情が少し複雑なんだ。母上は神殿の巫女姫様の妹御で筆頭公爵家の出なのだ。それ故、政治事にも口を出す。そして公爵家の一派の臣下に母上も担がれている」
神殿…巫女姫…さっき図書館で見た歴史書に書いていたわ。
ナジャガル皇国にあるコーデリナ神を奉る神殿。神殿には世界中から選ばれた『癒しの目』を持つ巫女がいる。巫女は貴賤関係なく召し上げられ一定の期間、神殿で巫女として神に仕え、訪れる病気の患者に治療を施し…そして修行期間が過ぎると嫁いでいく。
はっきり言って花嫁修業の施設みたいだな…とちょっと思ったのは間違いじゃないみたい?
「お伺いしても宜しいですか?」
「どうぞ」
「神殿の巫女の資格って診える目…癒しの目だけでしょうか?」
調べた歴史書を見てもそこは曖昧だ…歴代の巫女姫を見ても見事にお金持ちの令嬢ばかりだ。馬鹿でも気が付く。
「うん、アオイの指摘通りあの神殿は紹介状と推薦が無ければ入れない。実質庶民には入れない」
なんじゃそりゃ…神殿って神様を奉っているのに、金持ちしか相手にしないのか。馬鹿らしい…
「母上は、巫女姫に踊らされている…とも言えるな。乙女の召喚をしろ…と神託が下ったと言ったのも巫女姫だったらしいし、正直皇民も一部の臣下も信じてはいないのだよ。父上…国王陛下ですらね」
私は息を飲んだ。言っていいのか…不敬罪だとは思うけど言ってしまおう…
「国全体で神殿と巫女姫と皇妃様、第一皇子様を謀っているのですか?」
ナッシュ様は顔を引き締めた。ワイルド美形の顔が整い過ぎて怖い…
「私が8才の時にな…父上その当時は第一皇子かな?に進言した。『母上とリディックの好きにさせろ』と…」
「ど…どうして…?」
「私の顔が第一皇子、父上に生き写しなのが気に入らないのだ…事実、物心ついた時からずっと言われていた。そんな目で見るな、気に入らない、とな。アレは母親ではないな…と見切りをつけたのは5才の時ぐらいだった。私が生まれて2年後、生まれたリディックは母親に似ていた。溺愛したという感じだな、おまけにリディックを父の第一皇子にしてゆくゆくは皇位を継がせろと騒いだ。だから8才の時に父上に進言したのだ、好きにさせろと。そこから好きにさせている…放っておればいい」
す…凄まじ過ぎる…イヤ何がって、5才や8才で人生の色々に諦めと見極めができるということにだ。その見極めに関しては私も、10才くらいには自分の立ち位置を完全に把握していたので、ナッシュ様と同類だけれども…
そこで気が付いた…今日捌いた書類だ。もちろん第三部隊の書類もあったが…それ以上に軍部のそれに派生する法案の立案に近い案件も内政に関する書類も多数あったことに、もしかして…
「もしかして…ナッシュ様は実質、第一皇子の権限をお持ちですか?」
ナッシュ様は少し笑った。答えは明白だ。
「好きにさせろとは言ったが…実質こっちが縛られるとは思いもしなかったな~」
そんな…ナッシュ様は第二皇子を演じ、リディック皇子殿下と皇妃様も謀られ、誰も彼もひどい道化じゃない…あれ?じゃあ…
「沢田美憂は…ミユ…異界の乙女は知っているの?」
「私ならば真実を教えているが…どうだろうな。リディックと共に道化を演じる役にされているかもしれん。もし真実を知っているなら自分が本物の勇者を見つけてしまった時、とんでもない板挟み状態になるな…酷なことをする」
私は手の震えを抑えることが出来なかった…
そんな…知っていても知らなくても、道化を演じることには違いないじゃない。しかも公衆の面前で乙女と祭り上げられてしまった為に逃げられない。今更皇族に向かってお前は勇者じゃない!と断じられる訳がない…まさに四面楚歌だ…
もしかして…今日のリディックルアン皇子殿下の要請は、皇子を通しての沢田美憂なりのSOSだったのかもしれない…
どうしよう……無視しちゃったよ。
思わず顔を覆ってしまった。これだからっ私はダメなんだ…仕事はそこそここなせても、仕事以外の人の機微には疎すぎる…ああもうっどうしよう…
「どうしたんだ…具合でも悪いのか?」
私は首を横に振った。涙がポロリと零れ落ちた。ナッシュ様がテーブルを飛び越えて私の横に来てくれた。
「どうした、何か思い出したのか?ここに無理やり連れて来られて心細いのか?大丈夫だからな?私が付いている」
もうもうもうっ!そうじゃないけど…胸に刺さるよっ!
今頃、沢田美憂は枕を濡らして乙女泣きしているかもしれない…そう思うと余計泣けてくる。ああ、今、自分の背中を摩ってくれているこの皇子様から感じる安心感を沢田美憂にも分けてあげたいっ…
……
朝だ……なんだか体がダルい。そしていつの間にかベッドの上だ…今、横に存在を認めたくない皇子に擬態した変態が寝ているようだ。いや起きているかもしれない。何せ変態だから…予測不能だ。
横目ですばやく確認した所、変態は服を着ていないようだ…とりあえず上半身は…
自分の服を確認する…恐ろしいことに防御力ゼロのキャミソール一枚のようだ。下は…恐る恐る手を掛け布団の中に差し入れると、下着を装着しているようだ。
ゆっくりと体を動かす。不自然に痛みを感じるところは無い、多分大丈夫…と言い切る自信が無い……何せ誰にも言ったことの無いが、実は未経験だからだ…
「どうしよう…」
またも朝一から泣きそうだ…この妙に全身筋肉痛っぽい感じがよく話に聞く事後の倦怠感だと思うが、やはり違うとも思う。とにかく経験が無いから判断が出来ない。
とりあえず無駄かもしれないが、足音を忍ばせながら床に落ちている服をかき集め、静かに廊下に出てそのまま忍びの如く足音忍ばせ、自分の部屋に逃げ帰った。
そして色々確認した結果大丈夫だった…という結論に落ち着いた。シャワーを浴びて髪を乾かし身なりを整えて急いでキッチンへ向かう。
良かった…まだニルビアさんは起きて来ていない。
まだテーブルの上に置きっぱなしになったままの、コップや食べ残しのおつまみなどを片付けていく。
食べ残しは温め直して食べられるし、モロンの野菜炒めは具材を足して餡かけ風にすれば一品作れる。
色々と洗い物をしながら考え事をしていると後ろに人の気配がしたので振り向いた。
ちょっ…ちょっと…!?朝から刺激がキツイからっ!しかも何だろう?眩しいっ!
「何故っ上半身裸なのですかっ…シャツを着て下さいっ!」
上半身裸の皇子殿下ことナッシュ様はユラリ…とキッチンに入ってきた。
近づくなぁ!…あっそうだ
「それ以上近づいたらフロックスさんに言いつけますからねっ!」
き…き…決まった!どうだっ?近づけないだろうぅ?
しかしナッシュ様は止まらない…何故っ!?
え?え?ナッシュ様にキッチンのシンクとの間に囲い込まれた。
「アオイ…」
「な…なんでしょうかあぁ!?」
「寝ている時に……………お前の裸…見てしまった」
くぅおおおらららぁっ!人が寝ている時に何してくれちゃってるんだぁこの変態めぇ!