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水着の女神降臨

シテルン視察二日目


今日はリゾートホテル建設の為の候補地の下見に訪れている。


「地盤は強固でしょうか?浜辺に行くのに直通の遊歩道は確保出来ますか?」


未来がバリバリ質問してメモを書き殴っている。出来る女…片倉未来。


カデちゃんファミリーは今日は港町を散策している。ザック君もついて行っている。午前中は候補地の視察で…昼から問題の水着ショー!…が控えている。最終確認で未来に


「今日水着…着て泳いでもらえそう…かな?」


と聞くと、満面の笑顔で答えが返ってきた。


「はい、大丈夫っすよ!問題は無事解決しましたし!」


問題?何かあったっけ?あ、海の家のことかな…解決ってどうするんだろう?


その疑問はすぐに明かされた。


なんでも別宅で水着に着替え終えた未来を、ガレッシュ様が転移で海辺まで運んでくれるらしい。いつの間にそんな話をしていたのだろうか?


私達は浜辺で未来とガレッシュ様を待った。勿論、待ち時間も無駄にしない。海水を手に取り自分の知っている『海』と違いはあるかを確認していた。


やがて水着に着替えた未来とガレッシュ様が現れた。


「おお!これがミズギかっ!」


ナッシュ様…一々騒がない!


一応、漁港から離れたあまり人気のない砂浜にいるので、人目は気にすることはない…が、未来はパレオを颯爽と外すとさすが武道家、惜しげもなく肉体美を(主に揺れる胸)さらけ出しながら、海へと駆けだした。


私の後ろに居るジーパス君とシューテ君の「すげぇ…」と「ヤバイ」の小さい呟きが聞こえた。


「ガレッシュ殿下ー助かりました!防御魔法とヒートの魔法もありがとうございまーす」


ガレッシュ様の方を見てそう叫んだ後、再び海に駆けだそうとした未来の姿が突然、消えた。


「なっ?!み、未来?!あ…れ?」


良く見ると先程、未来が居た所に魔力の粒子が固まっている。更に良く見ると、何か魔術が発動している?


「あいつ…くくっ」


突然ナッシュ様が忍び笑いをしている。すると…ガレッシュ様が急ぎ足で歩き出し、ガレッシュ様も見えなくなった。何?…これ…あ、この魔術!


「対魔人用の防御?」


「正解だ、アオイ。消音消臭、透過魔法だ…あいつ…あのミズギ姿のミライがよっぽど…くくくっ…」


「何がおかしいのよ?これ、ガレッシュ様がしているのよね?どうして見えなくするのよ…」


ナッシュ様は笑いを何とか堪えると、海辺をジッと見詰めながら説明してくれた。


「あいつも可愛いとこあるなぁ~恐らくだがミライのミズギ姿を人目に触れさせたくないんだろう。そして自分だけ障壁の中で堪能中だ。だがフフフ…俺の魔力を舐めるなよ~うっすらと見えるんだからな!」


何を某モザイクが目を細めたら見えるんだ~みたいな、おっさん的発言してんのよ…この変態め。


ん?ってことは?ガレッシュ様、もしかしてちょっと未来の事が気になりだしているのかしら?でもこの変態の弟だしなぁ…ただ単に巨乳の独り占めがしたかっただけかもしれないし。


それからしばらくして


未来は障壁の中から出て来た。髪は濡れてないけど…もしかしてヒートで乾かした?


「せんぱーい!潜って海の中見て来たよ。水、めっちゃ綺麗よ!珊瑚とかあったわ…真珠貝も見つけたよ!」


凄い…未来が差し出した貝は確かにアコヤ貝だ…大きさで言ったら真珠も育っていそうだ。


そしてガレッシュ様がパレオを未来の肩にかけてくる。本来は腰に巻くものだけど…ガレッシュ様はジーパス君とシューテ君を素早く睨んでいる。が、しかし未来は我関せずだ。


「割と遠浅で、少し離れると水深が深くなってるね」


「そっか…じゃあ遊泳可能にするために、ちょっと準備しなきゃね~兎に角、水質は問題なさそうね。あ~私も潜りたいわ~」


「そうだよ、先輩今度は一緒に泳ごうよ!」


兄弟殿下がビクンと体を強張らせている。妄想拗らせブラザーズめ…


先を歩きながら振り向いた未来の胸がプルンと揺れている。自分が着れなくて残念だけど、未来の美しい水着姿を堪能出来たからこれはこれで良かったわね。


するとその夜、別行動をしていたカデちゃんが


「え~私も未来の水着姿見たかったー」


と言い出した。すると未来が


「別にいいよ~今見る?」


と言い出した。ガレッシュ様が俄かに焦り出した。ナッシュ様が気が付いてニヤニヤしている。何故かヴェルヘイム様が居住まいを正している。でもお生憎様!


「じゃあ、部屋で見せましょうか~ささっカデちゃんこちらへー」


と、私はカデちゃんと未来を促して部屋で水着のお披露目をした。


さて


本日の夕食はマグロ祭りだ、わっしょい!だった。


「白米食べたーい…」


これは私。


「熱燗吞みてぇ…」


これは未来。


「大トローー!醤油ー!あ~わさびが欲しいです…」


カデちゃんはわさびも好きらしい。私も好き…しかし…うえぇ…っぷ。


少しは食べたものの、魔力酔いが来てしまい…さっきから果実水をがぶ飲みしている。


炙ったトロと白身魚ののっけ盛サラダ食べている未来が、さっきからジッと私のお腹を見ているけど…もしかしてバレたかな?


今日はカデちゃんが料理を担当してくれている。メイドの子もいるので有難く座らせてもらっている。


すると未来はキッチンに入って行くと何か作っている?酒のアテかな?


「野菜の生姜スープです。これなら気分が悪い時でも大丈夫だと思います」


そう言って暫くして未来が私の前に、熱々のスープを置いてくれた。野菜が小さく切って入っている。匂いも…大丈夫だ。


「美味しい…」


「あまり無理はしないで下さいね…落ち着いたら海で遊びましょう」


未来は慈愛の籠った目で私を見ている。ううっ…スープが目に染みるぜっ…


「今日は水着の女神にやられっぱなしよぉ~未来っ眼福だったわ!」


ちょっと涙ぐみながら未来を褒め称えると、カデちゃんが熱い賛同をしてくれた。


「そうですよーなんですかぁあの体ぁ胸がバインッと出てて腰はキュッと細くてぇ…女の子が憧れる~体そのままじゃないですか~くそーっ巨乳がなんだー貧乳でいつ迷惑かけた~?貧乳を舐めんなよぉ!」


あ、あれ?カデちゃん…そんなに貧乳を連発して…あなたもしや酔っているの?ふと、カデちゃんの傍を見ると赤ワインのボトルが転がっている!


「カ…カデちゃん…飲み過ぎ…」


ヴェルヘイム様がオロオロしながら、カデちゃんの手からグラスを取り上げようとしたが、いつもの三倍ぐらいの早さでカデちゃんはそれをかわして、更に赤ワインを煽った。


「好きでヒンヌーに産まれた訳じゃないのよぉぉぉ!度重なる転生人生で色んなぁ人種を経験してきたけどぉぉ…すべてに共通するのはヒンヌーなのよぉぉぉ…私、気が付いたのよ!これは永遠にヒンヌーで苦しめてやろうっていう神の呪いなのよぉぉぉ!」


「ヒ…貧乳の呪い?すごい…呪いだね、カデリーナさん」


と、酔っ払いカデちゃんに未来は真面目に答えているが、ヒンヌー(貧乳)の呪いなんてあるわけ…ないよね?今度ポカ爺にきいてみようかな…


「ヒンヌーのぉ一千年の呪いですよぉぉ…」


すごいね、○○四千年の歴史…みたいだね。流石にカデちゃんはヴェルヘイム様に連行されて行った。


「カデリーナさん酔っ払ってたね…」


「ミライの爆乳みて…よっぽどショックだったんじゃない?ヒンヌーは胸に並々ならぬ思い入れがあるから…」


「そう…なんですかね?」


未来とヒンヌーの語らいをしていると、男性陣がこちらをガン見していることに気が付いた。主に未来の胸を凝視しているので、鋭い目で男性陣を睨みつけてやった。


さて、ヒンヌーの呪い…ではなく只の酔っ払いだったカデちゃんは翌朝、しゅん…と落ち込んでいた。


「ごめんなさい…貧乳を連発している所はなんとなく覚えているのですけれど…」


「大丈夫っすよ。それより二日酔い大丈夫です?」


未来がトマトジュースを手渡すとカデちゃんは恥ずかしそうに微笑んでいた。


「実は治療魔法は二日酔いにも効くんですよ~自分で治しました」


「え~いいな。私も早く自在に扱えるようになりたいや~」


すると未来とカデちゃんの側にリュー君が走り寄って来た。


「母上、ヒンヌーて何?」


とリュー君は無邪気に聞いて来る。ひぃぃ…カデちゃん!?その時未来が静かに言った。


「いいか少年よ、心無い一言は言った方は忘れていても言われた方はずっと忘れられないものだよ。目に見えない傷になる。いくら魔法でも言葉の暴力でつけられた傷は治らない…言葉を発する時はその事を肝に銘じて発っしな」


「きゃあああ!かっこいい!」


カデちゃん…また黄色い声ですね。リュー君は怒られたと気が付いたのだろう…


「はい、ミライ師匠!」


と叫んでいた。未来はリュー君を抱えると抱き締めている。


「いい男に育つんだよ、いい男って言うのはね自分から宣言するもんじゃないんだよ?周りから褒めてもらえるような男ってことさ」


気のせいかな…リュー君、未来の胸にめっちゃ顔をグリグリ押し付けてない?まさかね…あの年からアレの予備軍?チラッとナッシュ様を見てしまう。ナッシュ様は羨ましそうーな顔で見ている。わざとらしく咳払いをすると、ハッとした顔でこちらを見てから、顔を反らしている。


さてシテルン視察三日目である。


この日はソーナ製造所(醤油)の工場見学だ。その後は急遽見つかった味噌工場にも見学したいと今、役人のおじ様に手配をしてもらっている。味噌っ!嬉しすぎる~


醤油工場というよりは、いわゆる醤油蔵だったが年間購入の契約をかわして…アンテナショップの立ち上げの際に小瓶に入れて売り出して、という案を蔵元と綿密に話し合いが出来た。


カデちゃんもユタカンテ商会にも置かせて欲しい…と契約の話をしている。シテルンのソーナが世界規模の販売商品になるなんて夢みたいだ。


ナッシュ様も嬉しそうだ。


そして二件目の味噌工場だ。ソーナ工場の割と近所だ。これも観光の目玉として見学ツアーを開催しても良いかもね…と未来と打合せつつ移動した。


さて味噌の試食をしてみた…


大豆の味が少し違うので甘い感じの味だが、ほぼ味噌に間違いなかった!


未来とカデちゃんと三人で踊りまくった。ナッシュ様に怒られたけど気にしなーい!だってお腹の子の魔力も何となく弾んでいる気がするもんね~


味噌…バルオと言うらしい、も年間契約のお願いをしてソーナと共に通販、そしてアンテナショップ行く行くは店舗売りへ…という話をしたら味噌商会の方々に泣いて喜ばれた。因みに近所の他業種のおじ様達も見学に来ていて…すごい人だかりになっていた。


皇子殿下兄弟が来訪!だもんねそりゃ盛り上がりもするさ。うんうん。ナッシュ様とガレッシュ様はその美形っぷりから女性の民衆から黄色い悲鳴を浴びていた。


因みに護衛の二人なんて追っかけまで出来ていて、若いお嬢さん方から手作りクッキーを渡されていた。


アイドルってすごいね…


この地方は産業もあるけれど今一歩盛り上がりに欠けていたので、これが地元の活性化の起爆剤になってくれたら…とシテルンの役人のおじ様達とシテルンの商会の代表達の熱気がすごく感じられた訪問になった。


カデちゃんがお味噌料理のレシピを教えてあげていたので、後で作って工場の皆で食べてくれるらしい。


「上手くいきましたね!」


カデちゃんはヨジゲンポッケに入るだけソーナとバルオの大樽を詰め込んでいた。まさか5t買ったのかな?カデちゃんはスキップしそうなほど浮かれている。こらこら足元見なさいよ?、ほら、小石に躓いた…未来がカデちゃんを素早く支えている。


「カデリーナさんって足腰弱いのですか?体幹鍛える方法教えましょうか?」


教えてもらいなよ、カデちゃん!えぇ~?とか…いやぁ~とか言っている場合じゃないよ!


さて、カデちゃん達とは本日お別れである。


ザック君が別れ際、寂しそうな顔をしているので


「帰る?」


と聞くとブンブンと首を振った。


「ここにはナッシュ様達もいるし、皆優しいもん」


はぁ~可愛い。ギュッと抱き締めてあげると抱き返してくれる。するとナッシュ様が更に上から抱き付いて来る。


「ナッシュ様は結構です!」


と、言うとナッシュ様はしょぼんと肩を落とした。きつく言い過ぎたかしら…


後ろで未来とメモを取りながら話していたガレッシュ様が笑いながら


「誰だっておっさんに抱き付かれるのは勘弁だよ~」


と、言った。ナッシュ様はガレッシュ様をキッと睨むと


「二才しか年が変わらないのにっ若者ぶるな!」


と言い返していた。あれま…こういう時どういうんだったっけ?


「目糞鼻糞を笑う…つまりどっちもアラサーで10代以下から見たらダサイおっさんという事ですね」


バッサリ…未来パイセンに切り捨てられました。両皇子とも何か貶されたことは分かったのだろう…ジットリとした目で未来を睨んでいる。やめとけ…未来パイセンには敵わないよ。


「そういえばさ…さっきの住民フィーバーで思い出したんだけど、あっちの世界のアイドル、掛川尊くんのCMは上手くいったの?」


と、私が聞くと未来がいやーな顔をした。どうしたの?


「あ…あれですか…聞きます?いや是非聞いてくださいよっ!」


と、未来は私が居なくなった後の周りで起こった出来事を、事細かに教えてくれた。


「ええっ?掛川くん降ろされたの?」


「掛川くんが悪いわけじゃなくて…あの原田課長が言うボンクラのせいなんですけどね!」


ボンクラ…副社長に臨時就任の私の従兄弟の鷹宮学…確かにボンクラだわ。


「それで、西村浩次郎ね…なんでまたあのおじさんなのよ!カジュアルブランドよ?イメージに合わないじゃない!」


未来は激しく舌打ちをしている。


「掛川くんにお願いする時どんなに頭下げたと思ってんのさ!彼、めちゃくちゃ忙しいし…違約金も払ったし…降板理由は業界じゃすぐ知れるし、掛川くんの事務所に謝罪に行った時、掛川君…開口一番何て言ったと思います?」


「何を言ったの?」


「鷹宮さん、ご無事なんでしょうか?だってぇ…ホントいいイケメンだよ~逃がした魚は大きかった!」


私もがっくりきた。


あんなに頭下げてCM出演をお願いして、仮契約前までなんとか漕ぎ着けたのに…掛川くんごめんね。


「その代わりがおじさん俳優か…売上と評判はどうなの?」


「SNS大炎上…掛川くんが降ろされた、て情報が出て更に炎上…売上前年割れの見込み…」


最悪だ…なんでまたそんなことするのよ。あのボンクラッ!


「原田課長が言うには先輩への嫌がらせじゃないか…て。嫌がらせしたって本人いないのに自分に盛大なブーメランになってるのにさ。しかも二課の企画でミラルとかいう読モの女をジュルラーエのイメガにしてるし」


私はのけ反った。ジュルラーエって働く女性向けのブランドよ?ミラルってオバカキャラみたいなのじゃなかったっけ?


「それに俳優の松前崎慶と不倫熱愛…とかで週刊誌に出てしまって、大炎上なんですよ」


これが一番堪えた…松前崎慶、渋くてカッコいい好きな俳優なのよぉぉ…ぐぬぬ許さんっミラルめっ!


と、私達が盛り上がっている間に兄弟殿下は役人のおじ様達と宴会に出かけてしまったようだ。護衛のお2人も一緒だ。どういうこと?ここには女子4人と子供1人が取り残されてしまった。


ザック君が護衛…ということなのか?まぁ子供ながら彼は強いしそれにここには剣豪、未来師匠がいるしね。悪漢もばっさばっさ…


取り敢えず別荘に戻り、未来と『タクハイハコ』で届いた事務仕事の確認をすることにした。しばらくして、未来が書類を見て声を上げた。


「あれ?これ期限が今日の夕方まで…ですね。どうしよう…」


「宴会に行ってるガレッシュ様にサインだけ頂いてきたら?」


未来は一つ頷くと一人で外へ出た。単独で危険…ということは恐らく無いだろう。物理防御魔法も出来るようになっているみたいだしね。


○----------○----------○


「確か…この辺りかな…」


役人のおじ様の誘いで地元で有名な料理店で宴会をしている…お店、あったこれだな。


私は入口で来訪を告げ、係の人に案内されて奥の広間の前に来た。


たくさんの人の声…ん?おじさんの声に混じって若い女性の声も聞こえる。おまけに香水のような香り…私は勢いよく扉を開けた。宴会場にいたおじ様達がビクンとして、一斉にこっちを見た。


はっはーん…お食事の提供と共に若いおねーちゃんの提供もされる店か。ちょっとガサ入れ気分で一同をグルリと見回して、奥で化粧の濃いお嬢さん方に囲まれている兄弟皇子殿下を発見した。


皇子達は真っ青になって立ち上がっている。シューテ君とジーパス君の2人は流石に窓際に立っている。座って飲んでいたら、ただじゃ済まさん所だったよ。命拾いしたな…若者よ。


私は足早に皇子殿下達に近づくと、ヨジゲンポッケの中から書類とペンを出し


「殿下、こちら提出の期限がありまして確認の上ご署名お願い致します」


と言って、素知らぬふりでガレッシュ殿下に差し出した。ガレッシュ殿下は今まで見たことの無いほど狼狽している。何をそんなに慌てるのだ?余計にやましいことをしていたと疑われるぞ?


「ミ、ミミ、ライこれは…」


カミカミのナッシュルアン殿下にも興味は無い。何を慌てている?逆に葵先輩にチクって欲しいのか?


ガクガクに震えた字でサインを終えると、ガレッシュ殿下は震える手で書類とペンを差し出した。


「はい、確かに頂戴いたしました。ご歓談中、失礼致しました」


私は少し腰を落として挨拶してから、颯爽と宴会場から出ようとした。


「ミ…ミライ!?」


なんだか悲痛な叫び声を上げているガレッシュ殿下をチラリと見てから、静かに扉を閉めた。


あ~ヤレヤレめんどくさ…当然、葵先輩に言うつもりはない。


こんなの接待のうちだもの…言うなれば必要なことだものね?葵先輩だって気分は良くないけど仕事だと割り切れば、怒ったりしない。私達なんて宴会でセクハラパワハラ受けまくりだもんねぇ…ねえ、先輩?


私の横をドビュンと突風が横切った。びっくりした…あれ…何?ナッシュ殿下?


「ミ…ミライ…」


後ろから情けなーい声が聞こえて振り向くと、ガレッシュ殿下が立っていた。その後ろ方からをジーパス君とシューテ君が、ゼイゼイ言いながら駆けて来るのが見える。


何をそんなにドタバタしているのだ?


犯罪者というのはやましいことだと自覚しているから、発覚時に隠れようとする…と親父が言っていたな。


私の後ろに立っているガレッシュ殿下は大きな体躯を小さく小さくしようと、背中を丸めようとしている…ように見える。


「やましいことをしていた…という自覚はおありか?」


私がそう言うと更に顔を真っ青にして、ガレッシュ殿下は何度も頷いた。


「公人たるもの、常に身を律しておかねばいけませんよ。特に婚姻もまだのガレッシュ殿下はそう言う色香で迷わされることも多いはずです。いずれどこかの姫君を娶る時に、難癖をつけられかねない所業は慎むべきですよ」


ガレッシュ殿下は手で顔を覆った。


何?もしかして泣いてるの?私そんなきつく言ったかな?


「どうされました?私のいい方きつかったですか?」


「ううん別の意味できつかった…」


何だって?日本語で話せよ…ってここは日本じゃないか…え~とナジャガル語で喋ってるんだっけ…ああもう自動翻訳も役に立たないなぁ。


「ったく…頼んないなぁ…」


と、転移の加護に対する文句をつい声に出して言ってしまったら、どうやらガレッシュ殿下が勘違いして本格的にメソメソし出した。うざぁ…護衛の子達も困ってるじゃん。


「ミライさん…あのここはひとつ…」


「そう、ギューとお願いします!」


とジーパス君もシューテ君も翻訳が効かないのか、意味不明な言葉?を連発している。


「参ったなぁ…転移の加護の翻訳出来てないのかなぁ?皆の言葉が分かんないよ…」


そう呟くと男性3人がぎゃっと悲鳴を上げた。


「な…ミライッ!?言葉が通じないだって?」


「あ、今はつうじ…」


「で、殿下…色々試してみては如何でしょう?!」


シューテ君が私の言葉に被せるように叫んだ。お、おいっ今は分かる…のに


「そ、そうだな…え~と、またミズギを着てくれー!どうだ?分かるか?!」


思わず目を細めて、本音ダダ漏れの皇子殿下を睨みつけてしまう。何故その言葉をチョイスする?よりにもよって、ここでその言葉?


「分かりました…」


「おおっ分かった?」


私は更にガレッシュ殿下を睨みつけながら一言づつ区切りながら、はっきりと答えた。


「ご兄弟殿下は若い綺麗な女の子にくっつかれて、デレデレしながら顔を真っ赤にして嬉しそうにしていたと、葵先輩に包み隠さずお話させて頂きます」


夕闇にガレッシュ殿下の悲鳴が木霊した…


ヒンヌー一千年の呪い…

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