シテルン視察と最前列のおじさん再び
「ぐぬぬ…しまったぁ…」
思わず頭を抱えてしまう。シテルンリゾートの要と言える宿泊施設建設向けて、海辺で泳げるか?を試そうと思っていたのに…いきなりの妊娠だよ、予定が狂ってしまったのだ。
折角、張り切って水着作ったのに(防水加工済み)流石に妊婦で泳ぐなんて出来ないし…水着ぃぃ
「ああ!そうだ!」
私は第二部隊の詰所に向かった。
遡ること二日前…
ガレッシュ様が申し訳なさそうな顔をして第三の詰所にやってきた。
「あの…義姉上ご相談が…」
「どうしたの?」
「実は…」
ガレッシュ様の話はこうだった。
皇子殿下として皇族に入り、必然的に軍属になりSSSという肩書が更に皆の期待を集め…第二部隊隊長と警邏部門隊長の任を受けたものの、ガレッシュ様は圧倒的に事務仕事に不慣れらしい。そりゃそうか…個人事業主の冒険者と違って部隊全体の運営を任されるのだから…素人には難しい。
「隊長の仕事は…副隊長達が助けてくれるから、今の所なんとか大丈夫なんだけど…今度は別問題で~俺にも領地、治めなきゃいけない地区があって…その運営に困ってるんだ。義姉上~俺の所も手伝ってよ~」
「や、無理だし」
即答するとガレッシュ様が私の事務机にしがみ付いた。
離れろ!私は軍、第三、皇太子業務の三ヶ所の仕事を抱えていてどう考えても無理だ!
「義姉上が地域復興課に出してる、兄上の領地の開発計画書を担当官に見せてもらったんだよ~うちのも同じようにしてよ~」
机からガレッシュ様を引き剥がそうとしていると、戸口に片倉未来が立っていた。マジー様の魔術レッスンから帰って来たのだ。
未来はトトト…と私とガレッシュ様の近くに来ると、ガレッシュ様の肩をトントンと叩いた。ガレッシュ様はビクついていた。驚いた理由は分かっている。ガレッシュ様の余剰魔力が全部、未来に吸い取られたのだ。
「ガレッシュ殿下、質問です、第一問」
「はい?」
「ガレッシュ殿下の治めている領地の地名は?」
未来の問いかけにガレッシュ様がポカンとした後、すぐに答えた。
「トルメイテル」
「では二問目、トルメイテルの特産品は?」
私はピーンと来て、ニヤニヤしながらガレッシュ様を見詰めた。
「え?え~と…あの…」
「では第三問、トルメイテルの主な財源は何?」
「えっ?あの…それ…」
「第四問…この質問の趣旨が分かりますか?」
ガレッシュ様は尚も当惑している。未来は姿勢を正すとガレッシュ様に穏やかな笑みを向けた。
「第一問から第四問までの解答をご準備出来るまで、葵先輩は御貸し出来ません。速やかにご退出下さいませ」
流石に出直して来な!…は皇子殿下には言わないらしい。ガレッシュ様は珍しく怖い顔で未来を見ている。
…さあどう出ますか?ガレッシュ様?
「…分かった。必ず納得の行く解答を準備して来るから…待ってろよ!」
「はい、いつでもどうぞ」
ガレッシュ様は捨て台詞を吐くと走って逃げて行った…もとい、走って去って行った。
元ヤンVS第二皇子殿下との一騎打ちは未来の圧勝だった。
「ご自分の治める領地の事を知らないのはマズいわねぇ~」
「そういうことです。はい、経済省の担当官から預かってきました」
未来は『バラミアウオカー』のゲラ(試し刷り)を私の方へ差し出した。
「まだ広告ページは入れてません。予定としてはユタカンテ商会、シテルン観光協会、それと、シュテイントハラルへおいでませ!…とか言う国の観光誘致広告を打ちたい…と、カデリーナさんからご連絡がありました。あの方、日本に居る時は広告代理店にお勤めだったのでしょうか?すごく完成度の高い誘致PR計画書をタクハイハコで送って頂けましたが…」
と、言って未来が差し出したA4サイズの茶封筒(笑)には赤ペンで「社外秘」と書かれていた。カデちゃん先輩の茶封筒からバリバリ働く女の気配を感じるわ~
「広告料はどうします?」
「最初だし…1ページ金貨2枚でどう?」
「1ページ約20万ですか…まあ最初から高めだと広告主が集まりませんしね。承知いたしました」
ホント助かるわ~未来が来る前は全部一人でこなしていたんだもの…未来が有能過ぎて泣けてくるっ。
「そりゃそうと、未来少尉殿」
「はい、何で御座いましょう?皇太子妃」
「先程のガレッシュ様に私を貸し出すとは不敬でありまするぞ?」
「それは失礼致しました。でも大丈夫ですよ、ガレッシュ殿下が男気を見せてくれるなら私がすべて受けて立ちますし。フフフ…いつでもかかって来いや…」
ちょっ!ちょっと…?!紛争?もしかしてシマ争いの殴り込み?○義なき戦い?!
○義なき戦いが勃発するのではと焦ったが、すべて杞憂に終わったその次の日…
ガレッシュ様が完璧に質問の答えを用意してきて…その答えに満足したのか未来が
「では皇太子妃の代わりに私が参りましょう」
と、ガレッシュ様の補佐につくことになったのだ。今は領地改造計画(未来命名)の打合せも兼ねて第二部隊の詰所に出向している。
シテルン視察は明後日だ…今日、未来からの了承を得て…
未来に是非っ水着を着てもらわねばぁぁ!
…あ、また興奮して走っちゃった、いかんいかん…
今更だが、第二部隊の詰所前で速度を落とし、第二部隊にお邪魔した。
中にはリリアンジェ様のご主人、アーダクトさんとガッテルリさんが居た。
「お邪魔しまーす。うちの未来、いますか?」
「あ~、アオイ様!はい、今ガレッシュ殿下とお話中ですけど…」
アーダクトさんは優しげな表情で執務室の奥をチラ見した。すると、ガレッシュ様が気が付いたのか
「あ~義姉上入ってよ~」
と、呼ぶ声が聞こえたので、早速お邪魔する。いそいそと執務室に入ると、ガレッシュ様と未来と地域復興課の役人の3人が資料や計画書とにらめっこをしていた。
「お忙しい所、ごめんなさいね…未来…ちょっとお願い事が…」
未来は資料に何か書き込みをしていたが、顔を上げると
「はい、何ですか~?」
とニコニコ笑顔で聞いてくれた。き…機嫌は良い。大丈夫かな…「そんなの着れっかよ!」とか言って暴れたりしないかな…
「あのね、明後日のシテルン視察…未来も来てくれるのよね?」
「は~い、トルメイテル改造計画の参考にさせて頂きたいですしね。それが何か?」
「で…海辺の宿泊施設建設予定地の下見に行くじゃない?そこで…私、海で水着を着て泳いでみようと思って…」
「おおっ!水着ですか?!」
「…で、張り切って水着準備してたんだけど、諸事情で着れなくなって…」
未来は私が月の物…の影響だと思ったようで
「あ~そういう時もありますよねぇ…」
と頷いている。私は未来に顔を近づけた。自然と未来も顔を寄せてくれる。
「それで…その水着、未来に着て欲しい!」
未来はキョトンとしている。
「水着って先輩が着る予定の?あ、ちょっと待って下さい。今だと水が冷たくて海は入れないんじゃ…」
「それは魔法で大丈夫よ」
「なるほど~で、水着は先輩がデザインしたものですか?」
私は深く頷いた。未来はニッコリ微笑んだ。
「はい、着ます!で、その水着どんなデザインです?」
これはイカン!折角乗り気になってくれたのだ、急いで水着を取りに行かねばっ!
…と、小走りに離宮へ移動している時に運悪く、ナッシュ様に見つかってしまった…
「アオイッ?!何をしてるんだぁぁ!」
ひぃえぇぇ~!?美形が鬼の形相で、一瞬で私の前に転移して来た。
慌てて理由を説明すると、ナッシュ様は表情を緩めると私連れて、一気に離宮まで転移してくれた。
「ホラ、早く取って来いよ」
私はお言葉に甘えて、クローゼットから水着を引っ張り出すとまたナッシュ様の転移で、第二部隊の詰所まで送ってもらった。
皇太子殿下を運び屋扱いしてすみません…
私が第二の詰所に入るとナッシュ様もついてきた。
「お待たせ〜これよ!」
ダンジェンダさんに作ってもらったポーチに入った水着を未来に差し出すと、なんと未来はポーチを開けて水着を広げて掲げて見た。
ガレッシュ様と役人のおじ様が、未来の持っているものを見て明らかギクンと体を強張らせた。
「わ~かっこいい色!殿下の瞳の色ですね。でも意外~ワンピースにパレオかぁ…大人しいデザインですね」
そうだよね~異世界人の未来から見たら、そう見えるよね。
「お!ミライもそのミズギとやらを、着用していたのか?」
ナッシュ様が前のめりだ。はいはい、また最前列のおじさん状態ですかー?
未来はまさか皇太子殿下が最前列のおじさん(変態)だとは思わないので、にこやかに包み隠さず話している。
「はい、私くらいの年の女性なら一着くらいは持っているんじゃないでしょうか?異世界のデザイン…意匠はもっと大胆で…布面積が少なく…」
「ほぼ全裸に近いのだなっ?!」
私はナッシュ様の頭をパッカーンと叩いた。その言動はセクハラ&パワハラです。
「ぜ…っ全裸だとっ?!」
テーブルのお茶のカップをひっくり返しながら、ガレッシュ様が立ち上がっている。ここにも最前列のお客様予備軍が…
「全裸って言うか、まあ確かに下着と変わらないかな~?そんなこと言ってたら私の持ってたビキニの水着なんて…」
「ビキニ…て何?」
えぇぇ?!ガレッシュ様、それ聞いちゃうの?
未来はちょっと意地悪そうな顔をしてガレッシュ様に視線を投げた。
「局部しか隠していない…究極に少ない布地の水着ですよ…」
ガレッシュ様はまたソファに座ると下を向いて、石像のように固まってしまった。
ガレッシュ殿下…さてはお主、何か妄想をしておるな?
「そういえば…ミライはガレッシュに護衛がついているのに気が付いたそうだな?」
ナッシュ様が固まって動かない弟に代わって、話を始めてくれた。
「はい、ガレッシュ殿下の生まれと最近の状況の変化で…身の回りに不審者が近づいて来る機会が増えている…と判断しました。そして常に第二部隊の兵士が周りを固めていることを鑑みまして、ナッシュルアン皇太子殿下が、その護衛を指示していると最終判断しました」
未来がスラスラとそう答えると、ナッシュ様は満足そうに頷いている。
「先日のガンドレアの警邏の指示も見事だったし…未来はアオイと同じ商会で働いていたのだろ?どこで得た知識なんだ?」
未来は少し遠くを見ているような表情をした。
「私の父は、こちらの世界で言う所の軍のゼベロッパー元帥のような立場の人間でした。必然的に他国の王子や大臣のような方と会う機会も多くて…その父が言っていたのです。『護衛の者を数多くつけている者は命を狙われる危険性がある者か、外部との接触を制限されている者だ』と、ガレッシュ様はお強いし、命…の方じゃないので、接触されないようにしているのかな?と」
「いや~ミライは流石だな!ゼベロッパー元帥が腰痛の治療で休まれる時は、ミライに元帥の代理をしてもらおうかな!」
どんな代理だよ?と、ナッシュ様にツッコもうとしたが、先にガレッシュ様の声に阻まれた。
「兄上、俺もシテルンの視察について行っていいか?」
「ん?あ、ああ?いいよ、うん。トルメイテルの参考にするのかな?」
なぁに言ってんのよ、ナッシュ様!そんなの水着の為じゃない!?真面目な顔して水着の事考えてるのよっガレッシュ様は!
そして打合せを終えてナッシュ様と未来とで第三の詰所に戻る途中、未来に言われた。
「でも先輩…水着持って行くのはいいけど…海の家ってある?どこで着替えるの?」
…完全に完璧に忘れておりました。
今回は諦めたら~?と未来に言われたけど、水着は手直しして絶対持って行くから!と言ってシテルンに行くまでに水着のサイズ直し(主に胸まわり)をして、なんとか上手く出来上がったのだった。
さてさてシテルンに視察に行く日になりました!
素敵なお出かけ日和です、ですが…
「うぅ…こんな日に限って魔力酔い半端ない…パネェすね…」
でも気合いと根性でなんとかするしかない、もう這ってでも行くわよぉぉぉ…
「アオイ…大丈夫か?」
オロオロしたナッシュ様に声をかけられたが思わず座った目で見てしまう。
「大丈夫じゃないけど、行ってやるわよっ…この日の為に異世界ライフを歯を食いしばって生きて来たんだからぁぁぁ…」
「う、うん…わかった…」
私の鬼気迫る迫力に押されたのか、ナッシュ様は口答えせず黙って体を支えてくれる。
「葵~おはようございます!今日から3日間宜しくね!」
カデちゃんも忙しいので、私達と視察をご一緒出来るのは3日間だけになった。
シテルン視察メンバーは以下の通りだ。
私、ナッシュ様、カデちゃん、ヴェルヘイム様、リュー君、ガレッシュ様、未来、ザック君。そして形式上…必要ということで、私付のメイドのユリアンと婚姻式でも手伝ってくれたネスレンテさんの2人。護衛はジーパス君と、あのリディック様や沢田美憂の護衛をしていた、キラキラしい男前…ジーパス君の一つ年上のシューテ君の2人だ。
シューテ君はプラチナブロンドの髪で、顔は割とあっさりとした感じのこれも中々の男前なのだ、で早速…
「シューテ君よ、時に君は男前コンテストに出てみるつもりはないかね?」
「は?はぁ…」
大分魔力酔いが治まってきたので、ミスターコンの出場メンバーのスカウトをしていた。
「え~?何それ!男前コンテストってミスターコンのことですか?それを開催するのですか?」
「そうなのよっ!もうすぐ春の花祭りがあるのよ。そこで是非やりたいのよ!」
未来が不思議そうな顔で聞いてきたので、ウキウキしながら答えた。すると未来は間髪入れずに
「そんなの選ばなくても、ぶっちぎりでナッシュ殿下が優勝じゃないです?2位はルルさんかな~?3位は…この人達のどちらかでしょう?」
と、真顔で答えてくれた。
あの…え~と…未来さん?ごめんよ、もう一人、男前を忘れているよ…未来さんの後ろで背後霊をしている弟殿下さんがいるんだけどなーアハハ…
シテルンにはナジャガルの転移門で直接、移動するようだ。
転移門へ移動しながら自然と、兄弟殿下とヴェルヘイム様のグループ、私、未来、カデちゃんのグループに分かれている。
後ろの方では子供達とエフェルカリードのはしゃぎ声が聞こえる。ジーパス君とユリアンはカステカートに出かけた時に一緒だったので「お姉さん!お兄さん!」と2人と一剣?は懐いている。
ところが意外なのがシューテ君だった。見た目クールビューティなのに、全力で子供達と遊んでくれている。後で聞いてみると5人兄弟の下から2番目で、常に遊びも喧嘩も手加減なし、だったとか…
しかも
「ええ!?ゼベロッパー元帥の息子さんなの!」
「いつも父がお世話になっております」
シューテ君はあの、目つきの鋭い元帥の息子とは思えない美しい微笑みを浮かべている。シューテ君のお母様…きっとすごく美人なのね…うん。
そして
転移門で一瞬でシテルンに到着しましたーー!
着いた途端、風に乗って遠くから潮の匂いがする。
「海の香りだーー!昆布ーー!帆立ーーー!」
カデちゃんは食べたい物を絶叫している。いやいや興奮する気持ちも分かるよ。何せ20年以上まともに海産物食べてないものね…島国出身の私達にしてみれば、馴染のある食品が食べれないってストレスだもの。
「ハマチーー!サバーー!サケーー!」
便乗して自分も食べたい食品を叫んでみた。するとカデちゃんが顔を真っ赤にしてこちらを顧みた。
「やだーーっそれも食べたいですー!」
「熱燗で寒ブリ食べたいねぇ…」
未来がしみじみとそう言ったのでまたカデちゃんと私は海の方向?に向かって
「あつかーーん!」
と絶叫した。すると未来がこう言い放った。
「先輩は裸踊りするからお酒は禁止っすよ!」
うぐぐっ…強くは出れない、事実だもの…
さて、まずはナッシュ様の領地のお宅にお邪魔した。青色が基調の南国ムード溢れる可愛い別宅だった。
「海の家ですよ!リゾート!」
カデちゃん興奮し過ぎ~
シテルンの領地の管理全般を執り行っている地方役人のおじ様達と、まず今日視察する予定の漁港に行くことになった。そして私たちは一目散に……魚の保管庫に突っ走った!
「葵っ!こちらに昆布らしき海藻がありますわ!」
「何?了解!すぐに向かいます!」
「先輩っ!こっちにカツオに似た魚があります!血合の感じから言って…ほぼカツオと同じ系列の魚です!ここで試食出来るそうです!」
「すぐに行くわ!こっちに煮干しに良く似た小魚があるわ!後で確認宜しく!」
「「承知!」」
カデちゃんも未来も、ものすごい勢いでメモを取っている。これも事前に打ち合わせ済みで仕入れ値と販売価格、季節によって収穫量の違いがあるか…後、漁師ならではの調理法…など確認出来るものは調べてくれ!と、皆に頼んでいるのだ。カデちゃんと未来が優秀過ぎるぅ~本当に嬉しい!
先程から空気を読んで、お腹の子も魔力酔いを堪えてくれているようだ。さすが我が子…良い子だ。
ナッシュ様達旦那衆が、ドン引きしているけど知った事じゃないね!引きたきゃいつまででも引いてな!…あらいけない…元ヤンみたいな言葉遣いになっちゃった…オホホ。
漁港を駆けずり回って、私達は念願のカツオもどき、昆布もどき、煮干しもどきを確保することに成功した。ものすごい達成感である。
「後でメモの確認を致しましょう。なかなか多種多様な海産物が取れるようですね」
カデちゃんのメモはものすごい厚みになっている。私も負けてないけど…
「先輩っ大発見ですよ!この先にある食堂で魚介のスープが食べられるそうなんですけど、スープの味がお味噌を使っている可能性があります!」
「「何だってぇ?!」」
未来が興奮した様子でこちらに駆けて来た。
「確かめてみますか?それと同じ食堂で、見た目は深海魚みたいな魚ですが…非常に美味な味の鍋が提供されているようです」
「鍋ですって!?それは是非確かめましょう!」
カデちゃんの号令の元、私達と蟹に似た甲殻類を持ってはしゃいでいる子供達と護衛の2人も食堂に突撃した。
ええもうすっかりナッシュ様達の存在を忘れておりましたとも…
食堂でスープの材料…限りなくお味噌に近かった!の、仕入先やその他を調べて皆で鍋をつつき、満腹で意気揚々と夕方別荘に帰ると…置いていかれてしまった旦那衆にねちっこく嫌味を言われた。
そして護衛の2人も女性陣側について行ってしまっていたので、ナッシュ様にあてこすりで(推察)怒られている。因みにメイドの2人は別宅に残り室内のお掃除をしてくれていた。
「そんなにグダグダ言うなら、付いてくりゃ良かったじゃないですか…」
ひとしきりねちっこく嫌味を言い終わったナッシュ様に、元ヤン未来が若干…あくまで若干だがイライラした感じで言い放ち…男共は一斉に押し黙ってしまった。
ヒエラルキーのトップに逆らっちゃいけねぇよ?
仕方ないな…とカデちゃんが炙った烏賊と食堂でお土産に買って来たサバの味噌煮もどきを出した。
それを見たナッシュ様とヴェルヘイム様のご機嫌は直ったようだ。ガレッシュ様と3人で魚をアテに白ワインを飲んでいる。
ふぅ…視察一日目は大収穫だったな~
「これでお出汁出来ますね…ウフフ」
カデちゃん先輩とニヤリと笑い合って忍び笑いをした。未来はチビッ子達に茹で蟹の食べ方を教えている。
未来の楽しそうな笑い声が聞こえる。
未来もここに馴染んでくれているのかな~とホッコリした気分に…気分に…うぇぇ…今頃魔力酔いがあぁ…
「せんぱーい、茹で蟹食べますぅ~?」
未来の楽しげな声に罪は無い…
「いや、今は遠慮しとくわ…」
這うようにして…寝室へ向かった…無念…




