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番外編 片倉未来 1

ちょっと番外編が続きます。すぐに終わる予定ですが未定です^^;

「やったー企画通ったぞー!」


向こうの二課から歓声が上がる。すると書類に目を通していた原田課長が深い溜め息をついた。


「あんな企画が通ったのか、マズいな…」


あんな企画?ということは、原田課長は企画内容をご存じということか。


私の隣のデスクに座っていた羽田さんが


「課長は企画内容ご存じなんですか~?」


と軽い調子で聞いた。


すると原田課長は目つきを鋭くして、小さく舌打ちをした。


「うちのレディースブランド。ターゲット層は30~40代の働く女性。イメージキャラクターはミラルとかいうタレントだ」


「えぇ?ミラルってあの読モ上がりのミラルですか?」


羽田さんがあの…と評するには訳がある。私はネット検索でミラルを見た。羽田さんが悲鳴を上げた。


「うえ~っ一番お姉様方が嫌うタイプのタレントじゃないですか?誰が選んだんだろう?それにミラルって今、大炎上中じゃないっすか?」


そう、ターゲット層である30~40代くらいの女性にミラルは不人気だ。と言うより今は毛嫌いされている。25才のミラルは妻子ある42才の人気俳優と不倫中だと、週刊誌に暴露されたのだ。


「この時期にあのタレントを使うのも悪いが、まずあの服のイメージにミラルが合わん」


原田課長がバッサリ切り捨てた。うん、同じ年の私から見ても彼女は合わない。どうして二課の企画があのタレントで通ったのだろう?


「そんなタレントで良く企画通りましたね?」


私がそう聞くと原田課長は更に大きな舌打ちをした。不味い青汁飲んだみたいな表情だなぁ。


「ミラルの事務所がねじ込んだか、また副社長の友達かもな…」


また友達…というには前科がある。つい一月前に男性用のカジュアルウェアのCMに副社長の友達だと噂のある、脂ぎった中年の、旬を過ぎた俳優を使っているからだ。


何故私がここまで酷評するかというと…


「前の企画のままで掛川尊にしておけばよかったんだ!全く…」


掛川尊君とは27才のイケメン俳優だ。ソフトマッチョで運動神経も良く、業界受けも良い。現に私も一度お会いしたことあるが、こんな一社員の私にも非常に優しく接してくれた。女性人気もさることながら、同性人気も高い個人的に一押しのイケメンだ。


「あのオッサンのCMで幾ら損失が出ると思ってるんだ。どうせ鷹宮の企画だから嫌がらせで潰したんだろう!」


そう


鷹宮 葵先輩。


半年前に突然、本当に突然いなくなった。最後に会ったのは第一企画部の藤川君だ。藤川君も警察に何度も事情聴取を受けている。藤川君も理由が分からないらしい。現に昼食を食べてくる、と言って葵先輩は出かけたし、昼一の仕事の話もしていた…とのことなのだ。


昼日中に失踪?でも社内には防犯カメラが設置されている。


葵先輩はお昼すぎにエレベーターに乗ろうとして廊下に立っている所まではカメラに映っている。しかしエレベーター内の防犯カメラには乗り込んだ後が映っていないのだ。


それもミステリーなのだが、うちの会社はゲートがあり、社員証をかざして出入りする。そのゲートを通った履歴がないのだ。


半年経った今でも記録的にはまだ社内に居るのだ。こんなことってあるんだろうか。


そのミステリーに輪をかけて皆を恐怖に陥れているのが、経理部の沢田美憂も一緒に居なくなった…と言う事実だ。


最初、二人一緒にエレベーターに乗る所がカメラに残っていることから『駆け落ち』疑惑が出たが、同僚の原田課長や神崎部長達から全否定を受けていた。


「駆け落ち?ないないっ…どっちかって言うと沢田君は鷹宮を敵視してたんじゃないかな?」


と神崎部長は捜査に来た警察の前でそう断言していた。私もそう思う。あの沢田さんには私も何度も難癖をつけられたことがあるからだ。


私が給湯室に居たら突然入って来た沢田さんが、じろじろと私を見てこう言ったのだ。


「ぷっ…なぁにその服装…だっさい!ちょっと巨乳だからってさ~」


なんだ?相変わらず嫌な人だな…顔は可愛いのに人を蔑んでいる時、鬼のような顔をしている。


散々服装をなじられて、おまけに同じ課の原田課長の悪口まで言われて、流石に言い返そうとした時に


「未来!お待たせ~さあ行きましょう!」


と、葵先輩が入って来て私を外へ連れ出してくれた。助けてくれたのだ…。少し歩いて休憩室に入ると


「また絡まれてたね、大丈夫だった?」


と苦笑いしながら自販機でジュースを奢ってくれた。私がしばらく怒りながら文句を言い終わるまで傍についていてくれた。


「あの子は自分に持っていないものを持っている人間を妬むからねぇ…なんだかね、あの子は何が妬ましいのかね~」


と、葵先輩は苦笑いを浮かべていた。そう、葵先輩も沢田さんに妬まれている。多分、自分の足でしっかり立って前を見ている葵先輩が羨ましいのだ。


どうして、妬むのじゃなくて好きにならないのかな~?憧れに変えればこんなに目標にしやすい…と言っては語弊があるかもだけれど、自分の目指す女性像にこれほど最適な方は他にいないと思うけど?


「何が家出だ…鷹宮のヤツ…どこをほっつき歩いているんだ…」


原田課長がまた深い溜め息をついた。ほっつき…これ原田課長の故郷…関西の方言らしい。ウロウロとか徘徊していることをそう呼ぶらしい。方言が出るなんて余程イラついてるのかな…。それにしても家出かなぁ…そう言えば葵先輩のご両親も刑事さん達の前で真っ先に叫んでいたな。


「いい年してっ家出なんて…会社に迷惑をかけて恥知らずですよっ!」


おいおいおい…と心の中で突っ込んだよ。この人先輩の母親?だよね?娘が事件に巻き込まれたとは思わないのかな?刑事さんが低い声で切り出した。


「家出だと断言する根拠がおありなのですか?何かお仕事で逃げ出したくなる環境があったのですかね?」


「かっ…環境も何もっ仕事を投げ出して…私達が困るっとか考えないなんて非常識ですよ!」


それ、答えになってないよ…おばさん。今度は父親…この人はうちの社長さんだ…が、話し出した。


「早く見つけて連れて来てくれ…仕事が滞っているんだ!」


おい?娘の無事が気にならないの?思わずこの会議室にいる同じ課の原田課長と羽田さんや他の課員を見てしまった。皆、私に目配せしてくれる。他の皆はこのご両親のことは重々ご存じのことのようだ。


後で原田課長に聞いた所によると


「まあぶっちゃけ、この会社は鷹宮葵が動かしているようなものだ。アイツが抜けたらこの会社はグラグラだ」


知らなかった。


葵先輩がこの会社の副社長だなんて…今まで色々教えてくれて本当に頼りになるお姉様だと思っていた葵先輩が、更にもっと上の経営者だったなんて…道理ですごい人なはずだ。


「片倉も羽田も高木も須藤、吉田も見極めろよ?」


原田課長の声に考え事から意識が戻ってくる。課長の顔を見た。今ここにいる他の課員も皆見ている。


「今、経済界はうちの会社を見極め出した。もっと鼻の利く投資家などは鷹宮が失踪したという情報を得てすでに見切りをつけている。株価を見ろ…緩やかだがこの半年で下降している。新商品の発表で盛り返すがすぐに下降している。世間はシビアだ、お前達も見極めろ」


怖い言葉だ。でもそれが真実だ。現に臨時とはいえ副会長に座った葵先輩の従兄弟とかいう男は、まるで仕事の出来ない男だった。


原田課長が


「あのボンクラのせいだっ!」


と怒っていた。


ぼんくら…原田課長って29歳だよね?年いくつだよ…


「片倉、お前と羽田が進めていた企画、どこにも出すな。手元に置いて隠しておけ。」


羽田さんと外回りに出る予定の原田課長が、コートを手にそう言いながら私に近づいて来た。


「どうしてですか?」


「あれは基盤を変えてもコンセプトは生かせる。素晴らしい企画だ。ここじゃない所でも生かせる。お前と羽田は俺が引っ張るから安心しろ」


…引っ張る?もしかしてどこかの企業にヘドハンされてるの?まさかね?取り敢えず、はいと返事をして出て行った課長達の後ろ姿を見送った。


困ったことは相談したいけれど葵先輩がいないし…本当にどうしようか。


「先輩…どうしちゃったの?」


一課の藤川君の所にお邪魔して少し話した後に、葵先輩のデスクを見る。デスクはそのままだ。満島ちゃんに聞いた所によると、お財布とスマホ以外は机の引き出しにそのまま残っていたらしい。家出とかするのに鞄を持って行かないっておかしいよね?


絶対、何か事件に巻き込まれたんだ。


神崎部長が神隠しだ…とか言っていたけど、気になって検索したら天狗?に浚われたとか出てきた。天狗とか何でもいいから先輩返してよ。


重い足を引きずりながら帰宅した。残業はしない…前は企画を挙げて仕事することが楽しくて辛くても嬉しくてやりがいがあったけど、今は無理だ。


「ただいま…」


ゆっくりと玄関からリビングに入って部屋の電気をつけた。一人暮らしも大分慣れた。実家だとまだ跡を継げーとかオヤジが言って来るし…


「つか、メッセージ入ってる…うざっ親父だ…」


スマホのメッセージ受信のお知らせが輝いている。ああ、見るのがイヤだけど…


『ミライ~そろそろ彼氏とか連れて来ないのかな?

 もしいい人がいないのなら、パパの部下なんかどうかな~?

 皆~将来有望な…警官だよ?』


「何言ってんだっ!どうせ空手五段とか柔道三段とかのゴリラばっかりのくせにっ!」


そう、うちの親父は警察官僚なのだ…しかも結構上の方の…一人娘の私を自分の後継者(笑)にしたかったみたいで子供の頃から柔道、剣道、空手まで色々習わされた。


私が思春期に突入して反抗すると、最終目的を変えたのか今度は


「パパのオススメの優秀な部下と結婚してパパに孫を抱かせてくれ~」


と言い出し始めた。超絶ウザイ…ゴリラなんてヤメロ!私の結婚相手は…そんなのじゃないっ!


私はスマホを鞄に戻すと、壁際の本棚に向かい愛読書を取り出した。私の愛読書、恋愛小説の表紙のイケメンキャラの顔を指で撫でた。。


結婚するなら~イケメン様でゴリラでも無くて、優しくってお金持ちで…出来れば王子様で…


一人考えてて虚しくなってきた。そんな男存在する訳ないし…


「あ~…疲れてるんだな…うん」


お腹空いたけど先にお風呂入ろ…


私はお風呂の追い炊きボタンを押して入浴の準備をした。スーツから部屋着に着替えて冷蔵庫に入っていた朝の残りのお漬物を口に入れてから脱衣所に入った。


ヘッドハンティングかぁ…マジで転職するのかな…確かにあのぼんくら?の企画で業績が上がるとは思えない。まさに泥船状態だ…。鏡の中の自分の顔を見詰める。


「場所を変えて頑張れる?」


自分に問いかけた後に一つ息を吐き出すと、湯加減を見ようと浴室に足を踏み入れた。


ガクッ…足が浴室のタイルに当たらない…?


踏ん張ろうとしたが足が床を抜けて、体が前のめりに転ぶ!?


床で体を打つ?!…と焦って受け身を取ろうとしたが、体は妙な浮遊感を受けてゆっくり、ゆっくりと下へ落ちて行った。


下…?下なんて無いよ?うち一階だよ…地面…うそ…うそぉぉぉ?!


私の体は浴室に出来た穴に、吸い込まれるようにして落ちて行ったのだった。




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