とんでもない勘違い
元々のポテンシャルは高いとは知っていたけれど…やっぱりナッシュ様の弟だけあって、あっという間に召喚魔法を扱えるまでの術式解読を覚えたらしい。
ナッシュ様もつきっきりで勉強にお付き合いしていた。兄が弟くんにかかりきりになっている間に、シテルン視察の行程のプランを練り直しておこう。今日は魔力酔いが大分マシだ。
「本当に召喚魔法って成功するのでしょうかね~」
ジャレット君が首を捻っている。
今はジャレット君とザック君でフィナンシェを食べながらお茶を飲んで休憩中である。
「こう言っては身も蓋もないけど、私は失敗すると思うわね。だって私みたいに適当に呼ばれて、たまたま合致したから放り込まれたのとは違って、個人を狙いうちよ?そんな我儘通る訳ないわね~」
「召喚魔法って難しいの?」
ザック君がホットミルクを飲みながら私を見た。
「これはあなたのお兄様、ヴェルヘイム様からの聞きかじりだけれど、魔法陣は正確に描き起こせれば、まずは失敗はしないそうよ。失敗の原因は起動時の魔力不足、後は途中の詠唱の発音間違い…これくらいだって。大方の魔法は魔力があれば力技で発動する…とか言ってたけどこんなのヴェルヘイム様だけの特技だと思うわ。現に私、何度も腐食魔法失敗してるもの」
「腐食魔法ですか?攻撃魔法でも覚えようとされたのですか?」
ジャレット君の疑問ももっともだ。しかしわたしの場合はそんな恐ろしげなことが目的ではない。
「フフフ…聞いて驚け見て驚け!腐食魔法で作っていたのはこれだーー!」
私はじゃじゃーんと木製の壺に入っているブツをヨジゲンポッケから取り出した。お正月用に黒豆っぽいものを市場で購入した際に数種類の豆も手に入れている。
まずは麦を混ぜて腐食魔法をかけてみたのだ。これが麹になったら、大豆を入れて麦味噌を作る予定だ…あくまで予定だが…
「この中に何が入ってるの?」
「えっと…腐食魔法かけて調味料を作ろうと思ったんだけど、圧倒的に何かが足りなくて失敗してる」
ザック君に説明しながら、気持ちがしょんぼりしてしまう。
すると昼過ぎの三ヶ国会議に出席していたナッシュ様とフロックスさんが戻って来た。後ろにジャックスさんとルル君もいる。
「あ~私も欲しい~!」
と、ナッシュ様がフィナンシェに手を伸ばしたので皿ごとナッシュ様に渡してあげる。また立ったまま食べようとしたので、皿に防御魔法をかけてみた。ナッシュ様の手はボヨンと防御魔法に阻まれた。
「あぁ!何するのさっ!」
「何を言っているのですかっ!子供も見ている前でお行儀の悪い!いい?ザック君、あれが悪い大人の見本よ!」
と、不敬がなんだ!の指差しでナッシュ様をガンガン指差してあげた。ナッシュ様はじっとりとした目で私を睨んだ後小さい声で
「座って食べます」
と呟いて皿を持ったまま執務机に座った。私は防御魔法を解いてあげて盛大に溜め息をついてみせた。これから父親になろうという人が、子供の悪い見本になってどうするよのー!
「ジャックス…」
「ん、ジャレット…ちょっといいか?」
ルル君に促されたジャックスさんはジャレット君を促して外に出た。
ん?何だろ?何かあったのかしら?
それからミラマ兄弟が出て行ってから結構経つ…が
その間も部屋に残っていたルル君が、機嫌悪そうな顔でナッシュ様をずーっと睨んでいる。
あのルル君?一応言うけど…不敬かもしれない、よ?
「私は謝らんぞっ!」
じっと、睨まれて段々居心地が悪くなってきたのか…ナッシュ様がフィナンシェを口いっぱい頬張りながらルル君に怒鳴った。
「ちょっと…何?ルル君、ナッシュ様が何か問題でも?」
ルル君は小さく息を吐くとチラッとナッシュ様を見てから私を見た。
「ガンドレアの負傷兵の中にジャックスの親父を見つけた…」
「まあぁ!ご無事だったのね!」
ルル君はちょっと言い淀んでいる。チラッとナッシュ様を見るとツーンと顔を背けて横を向いてる。子供かっ!
「ジャックスのオヤジ…ジャックスを見た途端…ナジャガルに与する愚か者め、て罵った。で、殿下が怒って殴り飛ばして…オヤジが瀕死の重傷になった」
「なああんですってぇ!?」
「私は謝らんぞっ!私はジャックスの保護者なんだ!息子を悪く言われたら相手が実の父親だろうが、手加減はしないっ!」
呆れた…てか怒った事に対してじゃないのよ?
「あのねぇ〜怒ったことは真っ当な理由よ?私もその場に居たら投げ飛ばしていたかもだし…」
「そうだろ?な!」
「でもねっ!でもね?相手は負傷されている方よ?どんな理由があろうとも自分より弱者に手を上げてはいけないわ。だから今度は口で罵ってあげなさい」
「分かった、アオイもついてきてくれ」
「勿論よ、了解」
ルル君が珍しく口をへの字にして私とナッシュ様を見ている。
「似たもの夫婦…」
「ルル君、今何か言った?」
「いえ…」
そしてフロックスさんが静かにナッシュ様の側に行き、書類やら何かを手渡している。
そこへジャックス、ジャレットのミラマ兄弟が帰って来た。ジャレット君はちょっと目が赤い。泣いたのかな?
「ジャックスさん、ナッシュ様がごめんなさいね…で、ジャレット君…なにかあったの?」
と、私が謝りつつそう聞くとジャックスさんは苦笑いを浮かべた。
「あ~いや、これはうちのオヤジに会いに行ってて、さっきのは、その俺も腹立ったし…だいじょーぶ」
「で、殿下は全然悪くありませんっ…父が悪いのですよ。アオイ様、大したことではありません」
ジャレット君も声を上げたがすでに涙声だ。会いに行った?気になるから聞いてみるか…
「ジャックスさんがお父様に愚か者!と罵られたのは聞いたけど…まさかお父様、ジャレット君にまで暴言吐いてないわよね?」
「今、ジャレットも言われたんだろう!だから私は怒っているんだ…ジャックスは兎も角ともだ!」
「ちょ、何気に殿下ひでぇ…」
と口を挟んできたナッシュ様にも、更に暴言を吐かれてジャックスさんが小声で抗議した。
「兵士…のくせに動けない愚図は知らん、って言われた…んです」
ジャレット君の言葉にカアァッと頭に血が上る。なんてこと言うの…それでも父親なの!?ジャレット君は本当にご病気で動けなかったのにぃぃぃ!
「ちょっと今から行ってぶん殴って来てもいいかしら?」
「本当にあのオッサン死んでしまう、堪えて下さい…」
ルル君に制止されて思わず舌打ちをしてしまった、またもルル君がすんごい顔で私を見てくる。
「何か言いたそうね?ルル君?」
「いえ…何も」
私はドカッと椅子に座り直すとサラーを一口飲んだ。
「本当に大人は碌でもないのばかりねぇ~ホラ…フロックスさんの持っている遅行性の治療薬?あれジャックスさんのお父様に塗りつけてやろうかしらっ!」
「遅行性?て何?」
私はザック君に毒りんごを煮詰めている魔女のようにケケケ…と笑いながら
「傷の治りをわざと遅くして痛ぁい思いを長引かせる薬のことよ。痛くな~れ痛くな~れ…」
と、怖さ満点で説明してあげた。するとフロックスさんが薄い緑色の瓶を私に差し出した。
「はい、これです。塗って来て下さい」
「えぇ?…てかこれ本物のあの薬なの?わ、私が塗るの?」
フロックスさんはチラッとジャレット君を見て氷点下の眼差しを私に向けた。
「僕は子供に手を上げる大人が大嫌いです。言葉の暴力で詰る大人も大嫌いです。目一杯この薬塗り込んでやって来て下さい」
私はその薬を受け取ろうとして…やめた。フロックスさんがキョトンとした顔でこちらを見ている。
「ここでジャックスさんのお父様をイジメたら、私も弱者をいたぶる悪辣となんら変わらないもの、やめておくわ…」
「そうですか」
後に、城の医術医院の院長からこう言われた。
「フロックス少佐がジャックス大尉の父上に何か塗り薬を塗っておられたのですが…傷の治りを早くする、とかおっしゃっていたのですが…ものすごく悪い顔で笑っておられたので…あの薬、もしや違法薬物ですか?」
すみません…違法?かどうかは分かりませんが早く治るどころか、更に遅くさせているのです。
そうですか…わっるい顔で塗っていましたか…悪辣になるとか心配しなくても、フロックスさんは元から悪辣でしたね。
そのナッシュ様暴行事件の夜、今日の夕食はチーズフォンデュにしてみた。自分で好きな具材の串を選んで食べるスタイルにしたら、ザック君とナッシュ様が大喜びだった。
「今度はチョコフォンデュにしてお菓子をつけて食べましょうか?」
とナッシュ様に聞くと大興奮して、歓喜のあまりザック君に高い高~いの強烈版をしてしまい、ザック君がなんと、天井に頭を打ち付けるという大惨事が起こったりもした。
「僕だったから平気だけどっよその子だったら死んでたよっ!」
ザック君のおっしゃる通りでございますね…うちの殿下も反省しておりますので勘弁してあげてね。
夜、寝台の上でナッシュ様に今日行われた三ヶ国協議の内容を聞かされた。
捕まったガンドレア軍の兵士や元上位貴族達から集めた情報を合わせると、どうやら非人道的な魔術実験はコスデスタ公国主体で行われていたようだった。
例の推定9000万円の魔石もコスデスタ公国の魔術師達が埋めていたらしい。
「コスデスタ公国に抗議をするのですか?」
ナッシュ様は苦々しい顔をしている。
「疲弊したガンドレア帝国を救済したくて、今回の三ヶ国同盟を結んで決起したのだが、コスデスタ公国まで乗り込んで…ということには同盟軍も乗り気じゃない。私も、これ以上戦禍を広げたい訳じゃない」
ここまでか…と思い、唇を噛んだ。この一連の魔獣の増加…ガンドレアの腐敗、すべての先にコスデスタ公国の影が見える。元凶はあの国だ。
「当面はガンドレアの復興に力を入れよう。アオイやカデリーナ姫が提案していた民主主義とやらの施政は大変興味深い。他の国の方の賛同も得られそうだ」
「そうですか!じゃあまずは各地区の代表者の選出ですね」
やることはいっぱいあるよ~うんうん。
翌日、昼食に魔獣鳥ササミサラダを食べていると魔術師団のペッテルッカさんが珍しく第三の詰所に現れた。
「殿下すみません、今日からガレッシュ様が召喚を行う準備に入りますので、出来れば最後の詠唱の際は殿下にもご参加頂きたく…」
ナッシュ様はササミカツサンドを食べながら「ええっ!?」と叫んだ。
「あの最後の詠唱2日ぶっ通しじゃないか…疲れるぅ…」
びっくり!召喚てそんな時間がかかるものなの?聞いた所によると…魔法陣を描くのに5~7日かかり、更に呼ぶ為の詠唱が丸2日かかるそうだ。大変よ…
私は満島ちゃんのことを思い出していた。
本当に満島ちゃん来るのかしら?いや~無いわ。ある訳ない…
そういえば慰安旅行に行って、2人で休みの日に海にも行ったわね。そうそう咲子さんも一緒に一泊旅行にも行ったわね…アレ?そういえば慰安旅行の時、私も大概酔っ払っていたけれど…ん?あれ?まてよ?
私…朝起きたら部屋の廊下で寝ていたのよね。しかも、体の上から毛布かけられていたけど。
全裸だった…
満島ちゃんの前で裸踊りしてしまったのかな?その真偽を確かめる間もなく、そう旅行から帰って来て、2日目にこちらの世界に来てしまったし…そうだった慰安旅行でイヤなことを思い出した。
その慰安旅行は、従業員の所属部門ごとに日程が分けられており、私達企画部と経理部は同じ行程での旅行だった。
案の定というか、同じバスに乗り合わせた沢田美憂は、看板女優らしく数時間交替で複数の男性社員と相席を繰り返しながら移動していた。
「何アレ?どこのキャバクラかっつーの」
第三企画部の後輩、片倉未来がお菓子を摘まみながら悪態をついていた。キャバクラ…確かにね。お給料の発生しない接客よね。
「まあ、いいじゃない?ああやってれば男性陣はご満悦なのだし」
私がそう言って未来を取り成し、横の満島ちゃんを見ると自家製の草餅を食べながら心ここに在らずだった。そう…満島ちゃんのお婆様、咲子さんが2日前から入院しているのだ。元々心臓があまり良くなくて病院通いはされていたのだが…
私は過去の回想から戻って来た。
「そうだ…確か、満島ちゃんはお婆様の容体がよろしくない…とかでその日旅行は取りやめて帰って…あれ?」
じゃあ…あの一緒に飲んでいた満島ちゃんは誰なんだろ?そうだ…私、酔っ払っててお風呂も彼女に連れて行ってもらって?
べべべっ…別人だーーー!うそーー!?
「そうだ…第三企画部主任の片倉未来だ。そうだっかなり酔っててうろ覚えだけど…」
体を冷や汗が落ちる。どうしよう…今まで本当に、今までアレを満島ちゃんだと思い込んでいたけれど、あの日満島ちゃんは旅行を途中で切り上げて帰っている。だから温泉にも当然入っていないし、お酒も飲んでいない。うっかりしていたけど満島ちゃんはお酒飲めないじゃない!私の馬鹿っ!
酔ってて意識が混濁しているうえに、覚え間違いをしていたのだ!確かに…片倉未来は背が私よりは低めだが巨乳だ。満島ちゃんより一つ年上の…性格は超姉御肌だ。噂じゃ元ヤンだと言われている。
幻術だから…自分の記憶が曖昧でも、あくまで幻だから映像が出てしまったのか。どうしよう…満島ちゃんにも片倉未来にもどえらい事をしてしまっている。おまけにもし、召喚してしまって未来があの未来がこちらに呼ばれてしまったら…
「元ヤン大暴れ…」
「どうしたんだ、アオイ?ぐ、具合が悪いのか?」
この焦りと驚愕の真実をどう伝えるべきか…アワアワしているとナッシュ様がつわりが原因だと勘違いしたのかペッテルッカさんと一緒に走り寄って来た。
「ち、ち…違います。その、すごい記憶違いをしていて…幻術で…元ヤンを見せてしまって…」
混乱していて自分でもおかしな表現をしているのは分かる。ど、どうしよう。
なんとか気持ちを落ち着けると…恐々真実を打ち明けた。
「ええっ!?あの幻術のレイナは別人!?」
「ナッシュ様っ!しーっ静かにっ!厳密に言うと、私の記憶違いで二人の人物を混同して覚えていたようなのです。つまり、あのユカタを着ていたのはレイナ=ミツシマではなくて別の女性で…私は満島ちゃんだと思い込んでいた訳で。こういうのでも幻術が作動するのでしょうか?」
ペッテルッカさんにそう聞くと彼は何度も頷いた。
「確かに見たことのあるもの、記憶しているものだと思い込んでいれば、ぶれずに幻術は発動するでしょう。ただ、今はもうあれはレイナ=ミツシマではない…と気が付いてしまわれたので…その幻術を呼び出した時はその別の方が現れる可能性が高いと思いますね。記憶とは曖昧なものなのです。だからこそ幻術魔法は魔力を使う割には実用性の無い魔術だと言われています。人の記憶に頼る訳ですからね…」
本当にその通りだった。
正確で確かな記憶なんて…全然当てにならなかった…どうしよう、満島ちゃんにも未来にも悪いことをしてしまった。
「しかしこうなりますと、やはりガレッシュ殿下には申し訳がないですが、召喚は失敗になる可能性が高いですね…何せ呼びたい方が二人?という感じになりますし…」
「真実を話すか…」
「そう致しましょうか…」
私も当事者なので、初めてこの世界に来た時に見た講堂(第二式典の間)で魔法陣を描いているガレッシュ様の所へ行って説明することになった。
ずっと頭を下げて謝りながらガレッシュ様に伝えた。ガレッシュ様は床に座って茫然としていたけれど…
「いや…うん。これさ義姉上が言っていたことだよね。現実のレイナと幻術のレイナは…とかの、そうか…」
「ガレッシュ…私達も盛り上がってしまって、お前を煽ってしまった。本当に済まなかった…」
ナッシュ様が一緒に謝ってくれる。ガレッシュ様が慌てて私とナッシュ様の側に来た。
「いや、俺もね最近、魔術の基本を習い出して幻術魔法の特性が分かったんだ。あくまで幻術は術者の記憶を基に生み出される幻であって、完全なる復元は不可能だ…って。だからあのレイナは義姉上の想像上の?レイナかなと最近思ったりもしていたし…」
「どうする?召喚やめるか?」
ナッシュ様がそう聞くとガレッシュ様がう~んと首を捻った。
「なんだか召喚をすると決めたら、こう心が逸るんだよね…早く早くって何かに急かされているみたいに…」
と、ガレッシュ様が言うとナッシュ様が前のめりだ。ど、どうしたの?
「何かに引き込まれるように召喚術の作業に没頭できるのではないのか?」
「うん、疲れているけれど…不思議と作業が捗るかな?」
ナッシュ様が顎に手を当てて思案している。
「もしかすると、本当に神に召喚するように急かされているやもしれんな…」
ナッシュ様をチベスナアイズで見詰めてしまう。またこの期に及んで乙女発動か?いやこれは中二病か?
「そんな神がかり的な何かが…ある訳ないじゃないですか?」
と、私がそう言うとナッシュ様はムキになって言い返してきた。
「本当にそうだったんだ!アオイを召喚した時も不思議と疲れもあまりなかったし、魔法陣が光り出して召喚が始まったら…益々気が焦ったりして…」
「はいはい、そうね~中二病ね」
「なんだよ~ちゅうにびょーって!」
一瞬、前にポカリ様にも聞かれたな~とかチラッと思い出した。
さて、兄弟殿下とペッテルッカさんが話し合いをして取り敢えず召喚してみよっか!的な軽い…いや軽くはないけれど、そういう話にまとまったらしい。
私はカデちゃんに事情を説明するお手紙をタクハイハコで送った。
カデちゃんはその日の夜遅く、ヴェルヘイム様と一緒に訪ねて来てくれた。カデちゃんはしょんぼりする私の背中を撫でてくれた。
「実は以前に幻術を使った偽物事件のようなものがありまして、その時はヴェル君のそっくりさんが現れていたのですが…幻術って術者の記憶したものが幻術にも影響されまして、偽物ヴェル君なのですが、怖い顔のヴェル君しか幻術で再現出来ていなくて、術の限界のようなものが分かったことがありました。その、旅行に一緒に行っていたのは満島ちゃんだ!という葵の思い込みも…術に反映されるものであることは確かです」
「アオイ…幻術の特性をもう少し詳しく説明するべきだったな…あれは完全な再現は無理だ。あくまで記憶している部分と足りない所は術者が想像して組み込ませて発動するものだ。つまり術者が想像豊かな者だった場合、かなり湾曲して幻を作れる…という訳だ。本物ではないしな…」
はい、ヴェルヘイム閣下のおっしゃる通りです。私も勉強不足だったわ。幻術の仕組みが分かっていなかったのね。
「召喚魔法はそれこそ制約が多い術だ。漠然としたものは召喚出来ない…有形の物なら色、形、重量、その物の持つ特異な性質など、明確に心に描けなければ召喚出来ない。例え出来ても…存在が不安定な状態ならば…形あるモノとして存在出来ない。すぐ消えてしまうだろう」
…て、前にナッシュ様が召喚魔法で言っていたこととほぼ同じことをヴェルヘイム様に言われた。
「兎に角、膨大な魔力を使う術なので、召喚当日は私とヴェル君も魔力補助しますからね!心配しないで、ね?こう言ってはなんだけど失敗する確率の方が高いってポカリ様も言ってましたよ?あまり重く考え込まないでね?」
カデちゃんは笑いながらそう言ってくれた。
ポカリ様か…途端に胡散臭さが倍増する。
本当に大丈夫なのかしら




