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伝家の宝刀 殿下の放蕩

宜しくお願いします

誤字修正しています。

「…というわけで昨日はジューイの名前を叫ばせて頂いて、事なきを得ました」


「それは、俺の名前でお役に立てたなら幸いだ」


お互いに確認書類に目を通す。不思議とこちらの文字も読めるらしい。頭の中で理解して蓄積されていく感じだ。


「ジューイ…今届いた第二部隊の演習予定の計画書ですが、去年と同じ計画書を確認したところ、食事経費の試算が倍近く金額が違うのですが…」


「…おい」


「うん…本当だな、配給予定の仕出し屋が今年から替わったのか?」


「…おい」


「何か理由があって替えたとしてもまだ演習日まで二月ほどありますし、仕出し屋三社で相見積を取ってみては?」


「…聞いているのか?」


「アイミツ?なんだそれ?」


「……」


「三社で一斉に仕出し金額の試算を出してもらい、より金額も安くて内容にも納得できる所に検討してから決めるというやり方です」


「ワザとなのか?」


「それいいな、よしっ。コロンドと一緒に第二部隊のバーバンいう男の所にこの話をしてきてくれ。アイミツ、やり方がわからなければアオイが実践してくれても構わない」


「はい、承知しました」


「いい加減にしろよぅ!なんだその板はっ!アオイの顔が見えないぞっ」


ナッシュ様がバーンと立ち上がった…ようだ。ツカツカと歩いて来たがフロックスさんに『パーテ』の向こうに押し戻される。


『パーテ』ユタカンテ商会製だ。つまりパーテーション、間仕切りということだ。この執務室もパーテーションなんておいてなかったが、あまりにナッシュ様がこちらをチラ見ばかりするので私が


「気が散る、どこか顔が見えない空間に座りたい」


と言った所、倉庫からフロックスさんが持って来てくれたのだ。いいね~パーテーション!昔の職場を思い出すよ。あの鬱陶しいチラ見が見えないだけでも仕事に集中できるね。


「では第二部隊へ行って参ります!」


はぁ~一時はどうなるかと思ったけど…文字も読めるし、軍部の試算も企画、計画も自分の知識を絞り出せばこの世界でもなんとか出来そうだ。


「アオイ様は素晴らしいですね!」


一緒について来てくれるコロンド君は頬を上気させている。ん?何がすごいの?


「だって今日来たばかりで、うちの事務書類見ただけで、ものすごい勢いで試算間違い文字間違いの改善示唆。各部隊から出された書類の一斉精査…凄すぎます!」


「あ~だって職種は違えど、どんどん上がってくる計画書や企画書を捌いて指示だして確認して…まあやることは大体分かるからね。それにもっと難題があるんだよ」


「なんです?」


「ナッシュ様の持っている領地の収入を上げなきゃいかんのだ~」


「ええ?領地経営ですか…凄すぎる…」


「なぁにそれも大体やることは分かっている。その為に少しばかり調べものをしたいので、昼からは資料漁りをしたいんだ。図書館とか資料館みたいな施設はあるの?」


「はい、ありますよ。皇宮に隣接する国立図書館ですね。ナッシュ様のご領地というとシテルンですか」


「コロンド君はその…シテルンの風土、気候とかは知っている?」


「え、え~と海沿いの漁師町ですね。海鮮料理が美味しいですよ」


「海沿いっ!海鮮っ!?」


私の目が輝いた。海…魚…リゾート観光施設もぶち上げて…ついでにあの調味料が手に入るんじゃないのか?


「ふふふふ…」


私が不気味に笑い続けている間、コロンド君は押し黙っていた。後で聞いた所によると、ナッシュ様に裸を見られてショックで少し気が触れたと思ったらしい。


裸見られてないしっ!誤解だからっ!


第二部隊の詰所についてバーバンさんとやらに試算と相見積の仕方を教えて、参考までに…と一緒に街に出て、一軒目の仕出し屋で見積もりを取ることに成功した。新しい見積もりでも、最初の試算の仕出し屋より二割は安い。


「もし余裕がおありなら、数軒の仕出し屋のお弁当を幹部の方、皆さんで試食してみるのも手ですよ。皆様の好みと軍人さんですから内容も量も食べ比べできますし。そうして第二部隊に限らず全部隊の仕出しをお願いする代わりに、値引き交渉も出来ますしね」


バーバンさんはすごく感動していた。今まで適当にまっずいお弁当で我慢していたらしい。それはいかんよ、どうせやるならより良いモノを。同じ口に入るものだ…少しでも美味しいものを食べて頂きたい。


私は結局残り二軒のお店を回り、見積もりを手に入れて企画検討するようにナッシュ様に提案した。


「アオイ…君は想像以上に出来るな」


「子供の時からそれなりの教育を受けてきたからです」


ナッシュ様は柔らかい、優しい微笑みを浮かべている。


「もう昼だし、皆で食事に行こうか?」


そうナッシュ様が声を掛けると男性達と一緒に私は皇宮の食堂へ向かうことにした。所謂、社食というやつよね?どんな感じなんだろう?


皇宮の食事は無料らしい。セルフサービスで席に持って行って食べるとか…はいはい。どこの食堂も同じ感じなのね。


食堂の中は混雑していた。


うわ…っすっごい人数。メイドのお嬢さん方から軍人さん、男性のメイド…侍従さん達かな?ああ…キラキラしてる男性達の集団がいる。こそっとフロックスさんに聞いた所によると、近衛騎士団の方々らしい。入団の時に顔の面接があるとか…皇宮のアイドルみたいなもんかなあ~


でもうちの第三部隊も負けてないよね。ワイルド美形のナッシュ様を筆頭にマッチョ美丈夫なジューイ、めっちゃ可愛いコロンド君、クールでキリリッとしたフロックスさん。うん、見事にタイプの違う美形が揃ったね!


それにしても、女性で軍服って私だけじゃないか?それにさっきからすごいチラチラ見られている。主に若いメイドの女性達に…ああ嫌だな、これあれだよ~またマウントされるのか…折角そういうのから逃れたと思ったのにな。


「おお、アオイさん、先ほどはありがとうございました。計画書とおりそうですか?」


第二部隊のバーバンさんと若手の格闘家みたいな第二部隊のお兄様達がテーブルから手を振っている。私の料理はナッシュ様が持ってくれたので、少し失礼して第二部隊の方々の所へお邪魔した。


「ナッシュ皇子殿下に立案をお見せしまして、お昼から第一部隊の閣下に纏めた資料と一緒にお持ちする予定です。自信はあります、通して見せますからご安心を」


バーバンさんとお兄様達も安心したようだ。


「や~アオイさんの手際のお蔭だよ。これから通らない立案、アオイさんに通してもらおうかな!」


おいおい、私は第三部隊と軍部全体の報告書の確認だけで手一杯ですよ。これ以上仕事を増やしてくれるな。


「あ…あの…」


可愛らしいお声がして顔を上げると、若いメイドの女性三人が私を見ていた。ああ~やだやだ~これから廊下に呼び出されて、嫌味の連打かな…


「アオイ様とおっしゃるのですねっ!第三部隊にご入隊されているんですか!?」


「ご趣味は!?」


「率直にお聞きしますわっ!?お付き合いされている方はいらっしゃいますの!?」


…ん?あれ?これは…?


ブホッとバーバンさんが吹き出した。第二部隊のお兄様達も大笑いだ。


「アオイさんは女性だよ~」


その後のメイド三人の動きと言ったらなかった。真っ赤になって平謝りされた後に


「お姉様とお呼びしてもいいですかっ!?」


と囲まれ、何故か第一部隊の少年兵の軍団にもお姉様コールを受けてしまい、ヘロヘロになりながらナッシュ様達のいるテーブルに座った。


ナッシュ様はゲラゲラ大笑いだ。


「皇子殿下が下品ですよ…?」


「男と間違われてるよっあははっ…」


こいつ…変態の癖に…覚えてろよっ!


「でも実際、アオイ様カッコいいですもんね。身長も僕と同じ位だし、どうやったら身長って伸びるんだろう…はぁ…」


しまった、コロンド君の男の子のプライドを傷つけたか…え~と、え~と。


「骨の成長に必要なのはカルシウムね。主に牛乳、小魚に含まれる栄養素よ。それとお肉などの蛋白質も重要ね。コロンド君はこの昼食の食材から察するに、乳製品がお嫌いじゃないかな?後、殿下のご領地のシテルンから陸揚げされた小魚を送って頂きたい所ね。天日干しにして乾燥させればお菓子代わりに食べれて良いよね」


一気に捲し立ててからしまったと思った。男性陣どころか私の周りの人達全員が固まっている。


「あ、あ…あアオイ様……それ…本当ですか?異界の知識ですか?僕でも身長伸びますか?」


テーブル越しにコロンド君が潤んだ瞳で見つめてくる。


「絶対とは言えないけど…でもコロンド君、筋肉あまりつかないでしょう?ジューイほどではなくても、そこそこ良い筋肉をつける為には必要な食材よ?」


とりあえず思いつく限りの骨の生成に必要な食材と筋肉に必要な食材を諳んじていく。気のせいか、アチコチでガサガサ…カサカサと紙擦れの音とペンを走らせる音が聞こえる…ん?皆でメモっているの?


「やっぱりアオイ様はすごいですぅ!僕、大きくなりますっ~」


「いやでも、あんまりデカくなられても…私は今のコロンド君も素敵だと思うけど…」


こんな可愛いコロンド君がドッカリもっさりの熊になられては困る。全世界のカワイイ系男子の生存率が下がってしまうじゃないか。


そんなこんなで昼食を頂いて詰所に戻り、立案を抱えて第一部隊の閣下にお見せして熱弁を揮い見事、案を通して見積もりを検討会に掛けることに成功した。その足で意気揚々と国立図書館に向かい、シテルン地方の歴史書、地理、観光本など関連書籍を戸棚から取って来て、座って読んでいると目の前に影が落ちた。


顔を上げると、金髪…ハニーブロンドかな?に薄い菫色の瞳の線の細い男前が、さっき食堂で見かけた近衛の男前様達を従えて、私の前に立っていた。


「お前に命ずる、我が異界の乙女がお前を所望している。すぐに傍仕えとなるように」


思考が停止する。この人誰?


すると横に立っていた男前の近衛の方が済まなさそうな表情で仰いましたよ。


「第一皇子殿下、リディックルアン様でいらっしゃいます」


あ~あのぉ…自ら勇者です!と名乗り上げた皇子様だね。私は立ち上がり淑女の礼をした。


「アオイ=タカミヤと申します。只今ナッシュルアン第二皇子殿下の元で執務補佐の任についております」


「そんなことはよいから、早うせいっ、ミユが待っておる」


……ん?私はミュージカル女優の仮面を被った。これは久々に腕が鳴る。潰しがいのあるヤツだ。


「今申し上げましたが…私、ナッシュ皇子殿下の執務補佐をしております」


リディックルアン皇子殿下は眉根を寄せた。


「それがどうした、ミユが従者はお前だと言っておる!」


「そのミユというのはどちら様でしょうか?」


「なに?」


「私は異界でたくさんの従業員を従えておりましたが…はて?その中にそのような名の社員はおりましたでしょうか?」


「ミユはお前を従えていたと言ったぞ?」


「まぁそうですか?私ではない方と勘違いされているのでしょうね。私も常に4万人の従業員の顔は覚えておりませんしね」


「4万だと!?」


「はい、これでも弱小な商会でして…世界に80か国しか進出して事業展開、出来ておりませんのよ?」


リディックルアン皇子殿下はあんぐりと口を開けたままだ。


「因みに異界では190以上の国がありますの、ホホホ…まだ半分ほどしか制覇出来ておりませんね。もっと頑張らねば~因みに、この皇宮ぐらいの家を10軒ほど所有しておりますのよ、まだまだでしょう?ホホホ…」


嘘も方便だ。1軒は所有しているし間違い…ではない。


「そのミユとやらに、こう言って下さい。一従業員の顔など覚えてはおりませんと…私は今、軍部の素案と第三部隊の案件を5件かかえていて忙しいのです。殿下の領地の参画もありますのに…暇ならそちらからいらっしゃいな、とお伝え下さいまし」


私の勢いに飲まれていたリディックルアン皇子殿下がやっと我に返ったようだ。


「あ、何を…わたしのめいれ…「早く帰って伝えていらっしゃいな!私は忙しいのですっ!」」


私の腹からの怒鳴り声にリディックルアン皇子殿下は真っ青になっている。きっと怒られたことなんてないのよね。いかにもお坊ちゃんだし…


「そのくらいにしてやってくれ、リディックが泣きそうだ」


苦笑を浮かべてフラリ…とナッシュ様が私とリディック皇子殿下の間に入られた。


「リディックももう帰れ。確かに彼女の言う通り、アオイはすごく忙しい。お前の相手をしている暇はない。お前のトコの女の子にそう言ってやれ」


リディックルアン皇子殿下は「母上に言ってやるからなっ!」とマザコン坊やの常套句を捨て台詞に去って行った。


「ナッシュ殿下、申し訳ありません」


「お前が御せないのも分かってる」


私に声をかけてくれたキラキラ護衛の方がナッシュ様と私に綺麗に腰を折ってから足早に退出した。


ああ、スッキリした。久々に全開にした。マウントの最高潮をぶつけてやった。沢田美憂本人ではないけれど、スッキリしたぁ~


この時、ちょっとマウントしたことの高揚感に包まれていて油断していた。


あっ…と思った時にはナッシュ様の腕の中だった。何?何?何かの関節技かけてるの!?腕、全然外れないのだけど!?うーーん!外れろぉ~ナッシュ様が私の頭をすごく撫でまわしている。手つきが非常にいやらしい。


「……はぁ…すっごいよかった。先ほどの罵声、興奮したぁ……」


そっちっ!?へ、変態の興奮ポイントが分かりませんっ!興奮するのはお前だけだーー!


変態のキメ台詞に悩みます

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