アオイ萌え
そう言われてみれば…
私はこの辺りの魔力の気配を探ってみた。誰もいない…女王を一人置いて皆どこに行ったの?
お世話係の臣下一人いないなんてどういうことだろう?
「ひぃ…あ、誰かぁ!誰か…ぞ、賊じゃーー!」
ラブランカは叫んだけれど誰も来ない。私が探れる範囲に人の魔力は無い。リアやカデちゃんなんてもっと広範囲の魔力波形を探れるはずだから…
「誰もおりませんよ…この屋敷にはあなたは一人ぼっちですよ!」
カデちゃんの叫びにラブランカは立ち上がり動こうとしたが、結界に阻まれてドスンと尻もちをついた。
「結局の所、本当の夫君には置いて行かれているではありませんか。あなた現実をちゃんと見ていて?あなたは、今…ここに一人です。夫君であるミーツベランテット候は遥か彼方に居られるのでは?あなたは一人でここに、捨てられたのでしょう?私の子供に色目を使う暇があったのなら、現実の夫のことを理解する必要がありましたわね!」
リアが諭すように言っているが、当のラブランカはポカンとしている。理解出来ているのかは分からない。
するとリアが小さく舌打ちをした。
「もうっ…来るのが早すぎますわ…」
うん?と外に意識を向けると…なるほど。
暴走族『愛蘭華』…失礼、打倒!愛蘭華!!被害者の会の方々がどうやらこの屋敷内に踏み込んで来たようだ。本当に早く来過ぎだね。
「ど、どうしましょう…見つかったら…な…」
と、カデちゃんが言い終わらないうちに、ものすごい勢いで扉が蹴破られた。
憤怒の表情で入って来たヴェルヘイム様が…私達を見て一瞬固まり、そして遅れてナッシュ様、ダヴルッティ様…と続きその場は大混乱になった。
もっと大混乱だったのは屋敷の外だった。
剣を持って暴れすぎたのか…フィリペラント殿下が狂戦士化し、味方まで切りつけて大暴れしていた…らしい。ルル君とジャックスさん2人がかりで不敬なんて構っていられず押さえつけて、ガンドレアと戦闘どころかフィリペラント殿下を戦闘無効化にする為に、骨を折るだけで時間を費やしていたそうだ。
本末転倒ね。
「くそっ!誰がフィリペに剣を持たせたんだっ!」
とダヴルッティ様が激おこだったけど、犯人を知っています。うちの旦那です。真っ青になってます。皆様に謝らせますので…
ナッシュ様の尻を叩いて、各方面に謝罪させた後に、どうしてここへ来ていたのか説明することになった。
「どうしてこんな無茶をするんだ!」
「あら?転移で来たし、危険なことなんてなかったけど?あの後フィリペ殿下が暴れて砦に乗り込んできたのでしょう?砦に残っていたほうがよほど危険だったじゃない!?あなたの弟でしょう!?」
え~と、私達はリアとダヴルッティ様の夫婦喧嘩を見守るのみです。ダヴルッティ様がぐぅ…と黙り込みました。するとレーイアリヒト君がご両親二人の間にスッと立ちました。
「大声出して怒鳴りたいのは僕とザックだよ?ルルさんみたいに、バーカ!ってこの女王に怒鳴りたくて来たのに、父上と母上の喧嘩を見に来たんじゃないよ」
リアがレーイアリヒト君を抱き締めた。
「本当、ごめんね…レーイ、あなたの方がもっと悔しいわよね。腹立たしいよね…」
「レーイ…すまん」
キラキラ美しい親子3人の眩しい光景だ遮光遮光…すると私の横に立っていたザック君が私を見上げた。
「僕は…少しは気分が晴れたよ?」
「え?どうして?」
そう聞くとカデちゃんと私の二人を見ながらザック君はニヤニヤした。
「だってアオイ様はあの人、投げ飛ばしてくれたし、義姉上は拳で殴ってくれたし!」
「アオイッ!?」
「カデちゃん!?」
ナッシュ様とヴェルヘイム様の絶叫が部屋に響き渡った。
矛先がこちらに向いて来ました。恨むぜ、ザック君。
私とカデちゃんはヴェルヘイム様にコッテリと絞られた。ザック君とレーイアリヒト君はカデちゃん製の結界に入ったラブランカ女王陛下に二人で「バーカ!」と怒鳴ってゲラゲラ笑っている。ある意味怖い子供達だ…
「アオイ…集中が途切れているようだな、後で稽古でもつけるか?」
怒られている最中に、よそ見をしていたのがバレたのか、ヴェルヘイム様が魔圧をババンとぶつけて来た。ちょっ…おいっ!気持ち悪いぃ…胃の中からリバースしそうになりながら、説教に必死に耐えた。
私は、精神的にも肉体的にも疲弊しながらナジャガルに帰国した。
詰所に戻るとフロックスさんに治療を受けているジャックスさんが居た。
「も~大変だったんだぜ~あのフィリペ殿下さ、魔石に入れた腐食魔法とかガンガン投げて使ってくるしさ!味方に死人が出てないだけ良かったよ!」
オツカレ…ジャックスさん。それで暴れた殿下はどこに行ったの?
「マジー様に来てもらって今、眠らせてるみたい。睡眠魔法?みたいなの初めて見たぜ」
あれかな?マジー様の一瞬で昏倒させちゃう、あの魔術かな?
皆、事後処理…主にフィリペ殿下の大暴れの処理に追われて忙しそうだった。何をしにガンドレアに行ったんだろう。
取り敢えず、昼食を食堂で食べた後、事務書類を片付けて今日は早めに離宮へ帰った。
ニルビアさんが気を利かせて夕食の準備をしてくれていたので、美味しく頂き…お風呂に入ることにした。
「今日は体を動かしたし、お湯で流して綺麗にしましょうね~」
「は~い!」
ザック君と湯殿に入ろうとするとナッシュ様が待ち構えていた。な、何?
「私も入る」
まさか子供の見ている前でエロイことはしないよね?この変態…お風呂プレイも大好きなんだよねぇ…
ザック君は大喜びだ。まあいいか…お風呂で浮かべて遊ぶおもちゃを手にナッシュ様に頭を洗ってもらっている姿は本当の親子のように微笑ましいし…
とりあえずお風呂での変態プレイは避けられた。ヤレヤレ…
ラブランカ女王陛下はしばらくガンドレア城内で幽閉されるそうだ。処遇についてはまだ検討中らしい。
「おそらく処刑だろうな。そうしなければ国民の怒りが収まらない。あそこまで魔物が溢れ、治安が乱れたのも女王が何の政策もしていなかった、と言えばそうだしな」
でも何か、納得出来ない。
「夫君のミーツベランテットはどうしているのですか?それに、あの屋敷には沢田美憂もいなかった…彼女もどこに?」
ナッシュ様は半分眠りかけのザック君を寝台に寝かせると、ザック君を挟んで私と川の字になってベッドに横になった。
「コスデスタに忍ばせている密偵からの報告だが…ミーツベランテット公子は、コスデスタに逃げてきたそうだ。ミユも一緒だそうだ。ミユはミーツベランテットに、しな垂れかかっていたそうだ」
あの子…とうとう、自分の身を削って…いや、もしかするとこの国にいる時から?
「実はさ~リディックがさ、温情が出るのならミユを連れてガンドレアに行って、国の復興の仕事をしてみたいって言ってるんだよなぁ。あ~あリディックにこの事言うのぉ?あいつ落ち込むよ…」
うわわ…リディックルアン元殿下。そ、そう言えば…沢田美憂と人前でイチャコラしていたわよね。か、可哀相すぎる。
色々と悶々としながらその日は就寝した。
翌日、ついて来てくれ~と言われたので更について行きたくない私は、ガレッシュ様を道連れにして兄弟殿下と3人で傷心になるかもしれない…リディック様の所へ出かけた。
「おおガレッシュ!アオイも良く来てくれたね」
元国王陛下、ぼんくら…おっと失礼、お爺様とお婆様が待ち構えていた。
ガレッシュ様はコミュ力の塊らしく、すぐに王族方と打ち解けてしまったようだ。現に…
「ガレッシュ!兄上…あっ…その…」
笑顔でガレッシュ様にリディック様が話しかけてきた。しかしガレッシュ様の後ろに私が居ることに気が付いたリディック様が戸惑っているので、私は慌ててナッシュ様の腕を引いた。
「わ、私、部外者だし外にいるわね…」
「どうして?明後日にはもう我が妃だろ?」
そうでした…式は明後日でした。今日から皇宮はめちゃくちゃ大忙しです。すでに昨日から城下町はお祭りです…出店に買い物に行きたいです。
仕方ない。妙にニヤニヤしてこっちを見ているガレッシュ様を一睨みしてから室内に入って行った。
ソファに皆が座り、さて沢田美憂の件を話し出そうとして、ナッシュ様は頑張っていたが…
「え~っとな…その…」
いつもはきはきしているくせに、こういう時はモジモジするんだからっ!このメルヘンスイーツ皇子はっ!
…と、私がナッシュ様の横でイライラしているとガレッシュ様が
「あのさ、異界の乙女?とか言う子ね。コスデスタの公子と一緒に逃げちゃったよ~」
どっかーーん!と、包み隠さず言ってしまった。室内を異常な静寂が包みます…ゴクンと唾を飲み込みましたが、音が響いてそうです。
私は尽かさず立ち上がって、ガレッシュ様の頭をスパーンと叩いた。
「いっ…イタッ!もうぅ義姉上!何すんのさっ!」
不敬がなんだ!このデリカシー無し男めっ!
「リディック様のお気持ちを考えなさいっ!もう少し言い方があるでしょう!?」
ガレッシュ様は剥れた。この剥れ方も横に居る兄にそっくりよ…さすがに兄弟ね。
「どうせ分かることじゃないか~!隠してたってリディックが後で知ったほうが傷つくと思うけどっ!」
「そうだよ~アオイ。遅かれ早かれ知れることだしさ」
こ、こいつ…弟に便乗してきたわねっ!ナッシュ様をギロリと睨む。
「ミユ…に…逃げたのか…そうか、そう…」
どよ~んとしたオーラが前に座ったリディック様から漂ってきた。ちょっとぉぉ~!ホラホラ~?落ち込んじゃったじゃない…
私が兄弟殿下を睨みつけると、肩を竦めたガレッシュ様が口を開いた。
「リディックはこれからさ、もっと出会いがあると思うよ?俺と兄上なんてさ、魔力量が半端ないから顔と性格…まあその他諸々が自分の好みの女の子と出会えても、魔力の質が合わないとダメだもん。それで何回別れて来たと思うの?…とにかくリディックは~自分好みの子と魔力云々気にしないで付き合えるから、羨ましいよ~ホラ、兄上見てみなよ?この年まで独り者だよ?魔力酔いを嫌がられて女性とまともに触れ合ったことなかったみたいだしさ…惨めだろ?」
「おい、ちょっと…ガレッシュ…」
ナッシュ様の力ない反論はガレッシュ様の声に掻き消された。ガレッシュ様は益々ヒートアップする。
「ガンドレアに行ったらさ~選り取り見取りだよ!ナジャガルの王族筋なんて向こうから寄って来て…いたっ!」
私はまた立ち上がって、ガレッシュ様の後頭部を叩いた。
「お爺様達がいらっしゃいます!下品な話はそこまでですっ!」
ガレッシュ様は後頭部を摩りながら剥れて、ナッシュ様に擦り寄っている。フンッ拗らせ兄弟めっ!
私は営業スマイルを浮かべてリディック様に向き直った。
「こんな拗らせブラザーズはほっておいて…とにかくガンドレアの政務のお手伝いに行って頂けるのですよね?すぐに手配しておきますね~」
「こじらせぶらざーずって何だろ?」
「異界語みたいだけど、義姉上から何となく馬鹿にされてるのは分かるよ…」
剥れ兄弟がゴソゴソ話しているけど全部聞こえていますからー!
その後
少し打ち解けたリディック様と異世界の単身赴任などの話をしてなんとかこの話は終えたのだった。
「親しき中にも礼儀あり!ですよ。リディック様は打たれ弱そうだし…言い方っ言い方が悪いですよ!」
詰所に戻りながら尚もガレッシュ様に説教を垂れていた私をナッシュ様が諌めた。
「確かにガレッシュの言い方は率直すぎたが、あの手の事は隠すと余計気にするよ…それにリディックは弱くないよ、大丈夫だ」
「そうよね~どこかの誰か達みたいに~拗らせて魔力が~魔力が~と言い訳ばかりのおっさん達とは違うものね」
「ひどっ…!おじさん扱い!年下だけどー!」
「同じ年だ…」
私は腕を組んで二人を見た。
「あのね、私…この間から魔力酔いで気絶したり、魔圧を当てられて気分が悪くなることがあったけど、そこで気が付いたことがあるわ。あなた達を産んでくれたクリッシュナ妃よ、2年よっ2年!あなた達がお腹の中にいたことで毎日魔力酔いよ?有り得ないわっとても耐えられない。でも耐えてあなた達を産んでくれた。つまりね、それだけあなた達や国王陛下に愛情をもっていらっしゃるから耐えられたのよ?いい?本当に好きな相手ならどんな魔力圧にも耐えられるのよ?あなた達の魔力に当てられたぁ?はあ?それくらいで根を上げてしまう女性なんて…あなた達のことを真剣に好きだったのかどうか怪しいものね!」
ナッシュ様とガレッシュ様が顔面蒼白だ。ちょっと言い過ぎたかしら…と思った所へ悲鳴が上がり、後ろを向くと泣きながらクリッシュナ様が駆けていらした!あら、国王陛下もいらっしゃる。
「ひっ…ぐすっ…そ、そうなのぉぉ…すごく大変だったけどぉぉ…アオイの言う通りよぉぉ…!」
クリッシュナ様にギューッと抱き付かれた。そうよね、母は強し!
どうやら、国王陛下と妃殿下もリディック様に会いに行く所だったらしい。実の子ではなくとも良い関係を築こうとしているみたい…良かったわ。リディック様は孤独じゃないわね…逃げたあの子と違ってね。
しかし許せないね、沢田美憂め!リディック様を足蹴にしたことで更に許せなくなる。
拗らせ兄弟殿下達はクリッシュナ様に二人で抱き付いている。いい年した男共は揃ってマザコン気味だ。クリッシュナ様も子供とのじゃれ合いで嬉しそうだし、まあ、いいか…。
それにしても……魔圧か。ナッシュ様とガレッシュ様がすごいのも今は魔力波形が視えるので、すごくよく分かる。でもヴェルヘイム様の魔圧を受けた時の気持ちの悪さって言ったら、合う合わないの問題じゃないわね。ナッシュ様とは元々魔力の相性が良いみたいだし、ガレッシュ様だって魔力を感じてもヴェルヘイム様みたいに気持ち悪くならないし…
魔神の血か…ん?ということはハーフよね?半魔神?なんだか半魚人みたいなダサい呼び名ね。本人の前で言わないように気を付けよう。
それにしても連続で魔神の魔圧を浴びたせいか体がダルいわ。ああ、疲れた。明後日の式までに治るかしら。
ところが式当日になっても体調がいまいち優れなかった…。
「花嫁に有るまじきコンディションよ…」
朝起きても体は怠いし、おまけに胸焼けする。昨日も晩御飯が美味しくないし。取り敢えず顔を叩いて叱咤すると、メイドとお局様達が待ち受ける大広間の控室に移動した。
本日は、言い方がおかしい気もするが、本来皇太子が寝泊まりする部屋に宿泊している。当たり前だが今もメイドが付き添ってくれている。いやはや…これが普通なんだよね~
さて
メイドとダンジェンダ氏とお局様達に叩きあげられ…もとい、磨き上げられて…いつもの三割増しで『幸せな花嫁』様が出来上がった。う~~ん流石!ドレス完璧です、すごく綺麗です!
「きゃあああ!素敵です!」
と着付けを手伝ってくれているメイド達は大はしゃぎだ。うんうん、そうよね!皆のお蔭で三割増しよ!
そしてナッシュ様が待つ大広間前の扉の前へ移動した。
ん?んん?んんん?ぎゃあああああ!!
「ちょ!それどうしたの!?」
と私が叫ぶと、振り向いたナッシュ様は頬をピンク色に染めてびっくりするくらいの魔力の後光を放ってきた!ま、眩しいぃ~いやそれよりも!
「軍の正装!?いえ、もしかして将軍位の方だけの上位階級用正装?そんなデザインだった!?」
「アオイ~!いいぞっ!すごく綺麗だ…え?あ、コレ?うん、軍の正装だけど私のは皇太子用に意匠を変えてるって言ってたな」
な、なんと!これはっかっこいいじゃないのよ!びっくりさせんなよ!THE皇子様だよ!
「ナッシュ様~ちゃんとすればイケてるじゃない!」
「な、なんだか褒められてるのか?よく分からないが、そういえば以前、カデリーナ姫とヴェルヘイム様との婚姻式に出席した時も…貴族の女性達も騒いでいたなぁ。カデリーナ姫が、え~と確か、モエ?とかブツブツ言っていたけど、あれも異界語?」
モエ…萌えね。カデちゃん、お主さては『軍服萌え』を発動しましたね?私は萌えとは…を軽く説明した。
「成程…ではさしずめ今の私は『アオイモエ』だな」
おいこらーーっ!恥ずかしいでしょ!横に立っている護衛のお兄様とメイドの子達がニヨニヨしてるじゃないっこのメルヘン皇子!
顔を真っ赤にしたまま婚姻式が始まってしまった。サインする時は手は震えるしぃ~もうっ!そんなキラキラした笑顔でこっちを見るんじゃないよ!スイーツ皇子め!
「アオイ、よく異界より参られた。ナッシュルアンと共にこれからもこの国の礎として民を支え幸せに導く存在であると共に、お互いを信じ敬い…永遠なる安寧と契りを交わすこの喜びの瞬間に立ち会えた事をここに深く感謝しよう。ナッシュ…長い間、お前には苦労をかけた。もう気にしなくていいから…幸せにな」
キリッシュルアン国王陛下が私達を見て涙ぐみながら語られた。ナッシュ様は号泣、まではいかないけれど…本気泣きだ。
でもね
私は意地でも泣かないよ。だって一世一代の晴れ舞台!女子が一番輝ける最高の舞台!元祖ミュージカル女優としては、この舞台で化粧が禿げた惨めったらしい不細工顔を晒す訳に行かない!
高速瞬きを繰り返して、涙を散らしているミュージカル女優魂を舐めんなよ!
「素敵~あのドレスの意匠~綺麗だわ」
「あのドレスどちらのものなの?まあダンジェンダ様の!?」
ふふん!そうだろそうだろ~?心行くまでご覧になるが宜しいよ!そしてダンジェンダ氏のお店でお買い物して下さると尚宜しいよ!
「アオイ~純白のウエディングドレス最高!綺麗ですよ!」
カデちゃんが多分お家で作って来てくれたのだろう。白い薔薇の花束を渡してくれた。きゃあっブーケね!カデちゃんは隣に立つナッシュ様の首から下をガン見している。
カデリーナ姫よ、また萌えを発動しておりますな?そちも好きよのぅ~?
カデちゃんは軍服萌えを堪能したのか、満足そうな顔をした後に近くに寄ってきて、私に耳打ちをした。
「あの…こんな時になんですが、アオイ…その、お腹に赤ちゃんが出来ているようですが…」
ん?
今なんと?
カデちゃんは更に私に近づくと声を潜めた。
「魔力の胎動からして妊娠一週間くらいでしょうか」
私は慌てて自分のお腹を診た。お腹の周りに僅かではあるが、魔力がグルグル動いている。これが妊娠なの?アレ?でもつい最近まで何もなかったような…フロックスさんも言ってたし…ん?一週間前?
「異世界の妊娠と一緒ですよ…すぐには分かりません」
い、一週間前と言えばあぁ!?ひ、ひっ姫始めの時じゃないっ!?やばいーっこれ恥ずかしい!?
するとカデちゃんも逆算して日付に見当がついたようだ…急にニヤニヤしてきて顔を真っ赤にした。
「あ~あ!なるほど~ぅ元旦からぁ~」
「カ、カデちゃ…しーーーっ!」
ナッシュ様は今は私から離れてクリッシュナ様やガレッシュ様達と楽しそうに話している。
「おめでとうございまーす!うふふ、いよいよこれで葵ともママ友ですね~!」
ママ友…なんとまあ、この私がママだって?まだ実感が全然湧かないけど。
「私がついているので大丈夫だろうとは思いますが、異世界と似ている症状と言いますか…妊娠の初期は上手くお子が育たないこともあります。そうなった場合は体が赤子を生む準備が間に合わなかったのね…くらいの気持ちで、余り考え込まないで下さいね」
そうか、妊娠の初期って流産しやすいって言うものね。さすがにこの辺りの知識は自分には一生関係ないわ〜と思って曖昧な感じだ。調べたいけど…
「妊娠初期、気を付ける事…このワードでググりたいっスマホが無いからググれない!」
「本当だ~ネットが欲しいですね!さすがにプログラムを一から作る知識はありません…無念」
あの某国にお住まいの開発者の方、こちらの世界に転移してきてくれないかしらね〜
とか邪な願望を抱きつつ…自分のお腹を摩ってみた…本当にここにいるの?
まだ実感湧かないなぁ~
と、お腹を触りながらナッシュ様の楽しそうな顔を盗み見ていたのだった。




