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実は妻帯者でした…

誤字報告ありがとうございます。

助かります^^

婚姻式までドレス姿は見せませんっ!とナッシュ様に宣言して、私は着替えを手伝ってくれたメイドの子達とお局様にだけドレス姿を披露した。


「きゃああ!素敵よっ、アオイ~」


「この腰のドレープが体に流れるように巻かれているのが…印象的ね!綺麗だわ」


「裾が広がった意匠よりも腰の細さが強調されて、より魅力的な姿になりますね!」


はいはい、マダーム達興奮し過ぎ…


「あ、そうそう。アオイ様~頼まれていた鞄と小物入れね」


と、ダンジェンダ氏が小さい籐籠を私の前に置いた。私はメイドの子達を手招きして一緒に中を開けて見た。


「きゃあ~薔薇の花飾りが釦になっているわ!」


「丸い花束みたい~鞄!可愛い!」


「この光沢のある布地の小物入れ凄いわ!中の間仕切がすごく多いから助かるっ!」


はいはい、こっちはこっちで興奮し過ぎ…ああ、そうだ忘れないうちに…


「ダンジェンダさん、この小物入れと鞄の縫製用の図面…作成料と月々の利益が出たら使用料払いますからお譲り下さいません?」


「あらら?どうしてですか?」


メイドの子達とダンジェンダ氏の視線が私に集まる。


「上手くいくか分かりませんが、ガンドレアで職を失ったご婦人や働き口を探している方に縫製のお仕事を斡旋出来ればいいな…と思いまして。昔は製糸工場も盛んだったと聞きましたし、蚕も栽培していたと…経済が盛り返せば国民の生活も楽になります。あ、これは国営の事業になりますのでダンジェンダさんには国から支援金が出ますので!」


「す、素敵だわ!流石っお姉様!」


メイドの女の子達に輪になって囲まれた。さすが、そこはメイド…ドレス姿の女性に飛びついたりとか、はしたない真似はしない。


クリッシュナ様達お局様もニコニコしながらこちらを見ている。照れくさいわね~


「はいはい、そう言う事でね。たくさん鞄や小物入れの意匠を作らなくちゃいけないので、皆も色んな意見を頂戴ね~」


きゃあ!がんばりますぅ~!と黄色い歓声が上がる。取り敢えず3着ほど試着してその度に歓声を浴びながらなんとか婚姻式のドレス選びは終了した。


「なんだかすごく悲鳴が上がっていたね…」


散々騒いだ後、打合せを終えて詰所に戻ろうとナッシュ様と廊下を歩いている時に、ナッシュ様が寂しそ~うにそう切り出した。


「ああ、あれ?珍しい意匠だったみたいで、メイドの子達が興奮していただけよ。別に意地悪してナッシュ様に見せない訳じゃないから~婚姻式に髪型も含めて完成した所を見てもらいたいの」


「そう言うものなの?」


「そう言うものなの!あ、そうだ。すっかり忘れていたけど今日の夜、カデちゃんがこっちに来るんですって」


ナッシュ様が立ち止まったので私も立ち止まった。見上げると明らかに目がウロウロして動揺している。


「も、もしかして…ガンドレアの…」


「言ったわよ!あちらにはヴェルヘイム様という第一被害者がいるじゃないのっ情報は共有しておかなくちゃね」


「第一被害者…確かに…」


このまま泣き寝入りになんてしないわよっ!自称必殺仕事人としては、闇夜に紛れてあの白塗りを闇討ちしたいくらいだ。今回は百歩譲って…合法的に懲らしめるつもりだ。


詰所に戻ると今日の事務書類の処理を終えたのかフロックスさんが帰宅準備をしていた。あれ?今日は早いね、珍しい~


「お帰りなさいませ、本日は少し早目に帰宅させて頂きます」


「あ、そうかっ!待って待って~」


とナッシュ様はダッシュで執務室に入ると机の引き出しからリボンに包まれた箱を持ってきた。


「はい、ルリアンナちゃんに渡しておいてくれ」


何?ルリアンナちゃんとはフロックスさんの愛娘…もしかしてプレゼント?て、ことは!


「娘さんのお誕生日なの!?」


フロックスさんは鋭い殺し屋アイズを若干…若干緩めながら少し小首を傾げた。


「誕生…日?という概念はありませんが…身内だけで生れ月に生誕会という食事会は催しますね。殿下、ありがとうございます」


ちょっちょっ…ちょっとー!聞いてないよぉ!?私は急いでヨジゲンポッケの中からダンジェンダ氏から頂いた籐籠を取り出し、中を引っ掻き回した。確か小さい女の子でも…アレが使えるはず!


「はい、包装はしていないけどルリアンナちゃんにどうぞ!小物入れよ」


私はダンジェンダ氏に作って頂いた…コスモスの花柄模様の小物入れをフロックスさんに差し出した。


「それとね…え~とあった!はい、これも!」


ヨジゲンポッケの中を弄って小瓶を渡した。


「これは唇に塗る紅…のあまり色が付かないものよ。私が混ぜて作った自作だけど、唇がほんのり色が付いて可愛くなれるわ!お洒落が気になるお年頃だものね、喜んでくれるといいな~」


「ありがとうございます。娘に渡しておきます」


珍しく良い笑顔でそう答えるとフロックスさんは足取り軽く帰って行かれた。


さて、我々も帰りますか…詰所の中を片付けて今日は夜勤のルル君とジューイに挨拶をしてから、離宮へ戻った。


離宮に戻るとザック君と歩いてジャレット君が出迎えてくれた。


「わぁ…歩ける?大丈夫?」


「はい、ゆっくりなら大丈夫です。姫様が少しずつなら、動かしているほうが筋力が落ちなくていいから…とおっしゃいましたので」


ジャレット君は嬉しそうだ。良かったねぇ~ザック君がピョンピョン跳ねながら、ナッシュ様に纏わりついている。そりゃそうと、ガレッシュ様とマディ白雪姫はどこに行ったの?ジャレット君に聞いた。


「ガレッシュ様とマディし…姫様は?」


「二人でお庭に出られましたよ?」


私は裏庭に猛ダッシュした。ナッシュ様とザック君…ジャレット君まで付いてくる。


「どうした?」


「お二人の雰囲気を確かめて…リアに報告しないとね!」


ナッシュ様が呆れたような表情をした。


「本気なの?こういうのって、もっと自然にお互いが恋に落ちる瞬間とかを待って…」


「何をメルヘンの住人みたいなこと言ってるのですか?きちんとお膳立てしてこそ、上手く纏まると言うものです。そんな悠長なことを言っていたら何十年とかかりますよっ!」


…あれ?私ってば興奮しちゃってリアみたいな小姑発言しちゃったわ。


「アオイ様…え~とガレッシュ様とマディ姫を、恋人にしたいのですか?」


ザック君、意味が分かって聞いているのかな?それはさておき、二人はゆっくりと散歩を楽しんでいるようだ。フムフム…しかしガレッシュ様の立ち位置が気になるなぁ、二歩後ろだぁ…これじゃあ、護衛だよぅ!


「う~ん…二人の間に距離があるな…」


そうナッシュ様の言う通り。けれど、はっきりと視える魔力波形にはお互いの魔力を包み込むような…それはそれは優しく綺麗な波形が二人の周りを覆っている。これって、ガレッシュ様や白雪姫本人達にも当然視えているよね?という事は、だ…はは~ん…


「戻りましょう…」


「え?いいのか?」


戸惑うナッシュ様を促して、ジャレット君の体の動きを補助しながらゆっくりとその場を離れた。


「この中で魔力波形が視えているの、私だけですよね?実はお二人共、お互いに良い感情をお持ちのようです。波形に現れております」


「やっぱり!」


と、ザック君が大きな声で叫んでから首をすぼめた。あらら?もしかして…


「ザック…視えているのか?」


ナッシュ様がザック君の顔を覗き込みながら、膝を突いた。ザック君は困ったような顔をしている。


「あの…えっと兄上に内緒にして…」


「どうして?」


「目立っちゃダメだって言われてるから…人と違うと色々言われて…その、辛い思いをするから…」


ナッシュ様はザック君の頭を優しく撫でながら


「そんなこと言ったら私だって、子供の時からやたらと強かったから…子供のくせに生意気だ…とか軍の年嵩の奴らに言いがかりをつけられてばかりだったぞ?」


と、幼少期のとんでもないことを暴露した。ええ?皇子殿下に?それって不敬じゃない?


ザック君は少し顔を上げてナッシュ様を見た。


「ど、どうしたの?殴られちゃったの…?」


「いや~勿論、全部返り討ちにしてやったよ。でもな、今思えば幼少期の私は非常に鼻持ちならない嫌な子供だったよ。自分の気持ちばかり優先させて、相手の事を慮ってあげたりはしていなかった。あれでは、大人から嫌われても仕方ないな。所謂、子供らしさの無い子供だったんだ。大人に甘えず何でも自分でこなしてしまう…」


ナッシュ様はザック君を抱っこしながら苦笑いだ。


そうか…現国王陛下にリディックの好きにさせろ…とか進言したって言ってたわね…確かに大人顔負けの空気の読み方だし、可愛げのない子供だと思われるわよね。中身はメルヘンの塊だけど。


「ザックは隠すことはないのだよ?強くても人と違っても構わない。それがザックだろ?」


ザック君はナッシュ様に抱き付いた。またお父さんにしがみ付く子供状態になっている。すると私と一緒にソファに座っていたジャレット君がポツンと呟いた。


「やっぱり兄上のおっしゃっていた通りですね、ナッシュ様は良い上司で…絶対に見捨てない人だ…」


「でも、中身は拗らせだし、相当の構ってちゃんよ?」


「それどういう意味ですか?」


「相手にしないと不貞腐れるし、誰か傍に居ないと寂しくて泣いちゃうし」


「じゃあ常にお傍にいてあげなくては…ですね~」


ジャレット君も大概良い弟で優しいメンズだよね~将来有望だわ。


さて、夕刻前にニルビアさんに声をかけて夕食の準備に入った。


今日はおせちとバンバガデランガ肉のお好み焼きにしてみた。ソースが無いので醤油と赤ワインとトマトをすり下し、ソーナ(醤油)、バター、蜂蜜…記憶を頼りに混ぜ合わせてみたら、今一歩足りないが何とかソースっぽいものが出来た。


お好みの生地を捏ねてキャベツに似た葉野菜で代用し卵を割り入れ具材を混ぜる。勿論、抜かりなく天かすも準備している。鰹節もマグロっぽい魚を腐食魔法をかけ、天日干しにして擂り下し、カツオの粉もどきを作った。


お店のような鉄板は無いのでフライパンで焼く。いい感じだ。バンバガデランガの焼ける香ばしい匂いが更に食欲をそそる。冷やしたビールで食べたら最高だな~と思いヴェルナをレイゾウハコに入れてキンキンに冷やす。


「こんばんは~何だかいい匂いですね~これ何のにお…」


と言いながらカデちゃんが入って来て


「お好み焼きっ!」


と大声で叫んだ。


「あ、カデちゃんいらっしゃい。今日はおせちとお好み焼きもどきだよ~」


カデちゃんは小躍りしている。そういえば一人で来たのかな?


「ヴェルヘイム様や子供達は?」


「あ、来てますよ~ナッシュルアン殿下とザック君と一緒です」


カデちゃんはニルビアさんにご挨拶をしてから、真剣な面持ちで私の側に来た。


「また後で詳しく聞きますが…例のストーカー…ヴェル君が言うにはダヴルッティ様はどうだったのだろう…と」


「ダヴルッティ様?え?もしかしてあのキラキラ様もアレに狙われたの?」


カデちゃんはコクコクと頷いています。ヴェルヘイム様、ダヴルッティ様、うちの旦那…各国のイケメン様が見事に狙い撃ちされてるじゃないか…あんの白塗りぃ~厚かましい白塗りめっ~


まあ食事の時に、胸糞悪いことを考えるのはやめましょ。


「皆、出来たわよ~」


「アオちゃ~ん!」


「アーちゃん!」


危ない危ないっ!チビッ子達、リューヘイム君とレオンヘイム君にタックルされながらもなんとか体勢を整えてお料理をテーブルに運び入れた。渾身の出来の豚玉もどきをとくと味わいやがれっ~


「あの…カデちゃん…」


私はお好み焼きを口に運びつつ…私の正面に座っている元王女殿下に声を掛けた。


「んぐっ…なんでしょうか…」


「そんなに抱え込まないでも…大丈夫よ?」


カデちゃんはイクラの醤油漬けの器ごと抱え込んで、スプーンですくって必死に食べていた。そんなに好きだったんだ…イクラ。


「アオイ…コレは何のフライなんだ?」


ヴェルヘイム様がエビフライもどきを食べながら聞いてきた。


「ああ、それはエビフライと言いまして…こちらでは…」


「エビフライ!?あるんですか!?」


カデちゃん興奮してますね…そんなに魚介類に飢えていたのね。


「そうだ、近いうちにシテルンに視察に行くんだけど…カデちゃんも来る?」


「行きます行きます行きますよっ!」


了解です…ナッシュ様と目が合ってお互い苦笑いをした。


さて予想通り、お好み焼きも男性陣にバカ受けだった。粉もんはビールと合うね!


カデちゃんはお好み焼きを食べながら首を捻っていた。


「このソース、何か味の決め手に後一歩足りませんね~なんだろ?」


「多分ウスターソース系のパンチが足りないと思うのよ」


「香辛料ですね。う~む。実は山向こうの国にカレーに似た食べ物があるらしいのですが…その国ならローリエとかナツメグなども手に入るかもですね」


おお!そんな国があるの?山向こうというとサラマンダーさんの居た所から更に山を越えるのか…それは遠いね。


「片道10日間はかかるかな…すぐは、無理か。でもまあいずれ、手に入れて見せますよ…」


と、カデちゃんはニヤリと笑った。そちも悪よのぅ~。あ、これじゃないよね、失礼しました!


「母上~今日はザックにぃと一緒に寝る~」


リュー君とレオン君がザック君に縋りついていた。ザック君は照れ臭そうにしている。やっぱりお兄ちゃんだもんね。子供達にしてみれば叔父さんじゃなく兄、なんだよね。


「と、泊まるのですか?えぇ…」


「カデリーナ姫、もう遅いしうちは構いませんよ?」


ナッシュ様がザック君とリュー君達とに組み手をかけられながら答えた。因みに…少し離れた所にガレッシュ様とマディアリーナ姫様がいる。


こういう方々にお好み焼きを食事として提供するのは如何なものかと思い、おせち料理とアクアパッツァをお持ちした。雰囲気も大事…


「お二人の給仕は私がしますので、アオイ様はカデリーナ姫様方とお話して下さいませ」


ニルビアさんに勧められたので、お茶と大学芋を持って応接室に移動した。お菓子類はチーズタルトも作ってある。ストックって大事…


ジャックスさんとジャレット君も同席してもらい、ナッシュ様が話し出した。


「…という訳で…離宮に住んでいるという訳です」


ナッシュ様が話し終えるまで、皆真剣に聞き入っていた…約一名を除いては…


ヴェルヘイム様…お菓子を食べることに集中しておられるようですが、話聞いています?


「本当にっあの厚塗りは碌でもないですねっ!」


カデちゃん…厚塗りって言っちゃってるよ…


そして大学芋の蜜で唇をテラテラ光らせながら、ヴェルヘイム様が食べ終わったのか、ゆっくりとフォークを置いてナッシュ様を見た。お?何か話してくれるのかな?


「これ美味いな…もっと無いのか?」


そっちかーーいぃ!


カデちゃんがポッケの中からクッキーの袋みたいなのを出して来て、ヴェルヘイム様に押し付けた。


「もうっヴェル君!真面目に聞いてください!」


ヴェルヘイム様はクッキーをモグモグ咀嚼しながら


「…聞いている。それで、以前から起こっていたガンドレアの事件の事…で気が付いた」


と私達を見た。ガンドレアの事件…というとボッケ事件…と沢田美憂のひったくり…護衛の王子誘拐…?


「いずれの事件もカステカート及びナジャガルの城勤めの使用人が絡んでくる。つまり規模は違えど…俺の実家の使用人が…女王に懐柔されたように…」


カデちゃんがガバッと立ち上がった。


「城勤めの使用人も厚塗りの手下になった、という事ですね!」


て、て…手下!?どういうことなの?オロオロしてナッシュ様に視線を向けた。ナッシュ様は頷いて見せてから、ヴェルヘイム様に聞いた。


「閣下…過去の…内情をお話頂いても構いませんか?」


ヴェルヘイム様は10年以上前の自身のご実家で起こったガンドレア現女王による使用人達の懐柔、脅し、強姦…など身の毛もよだつ悪行を淡々とご説明になられた。おまけにヴェルヘイム様との婚姻を勝手に公所に届けているなんて…恐ろしいっ…


「そういう…工作を施して、あの女王は度々実家に押し入り…何度も婚姻を…」


ヴェルヘイム様の肩をカデちゃんは何度も摩っている。


待てよ?私はあることに気が付いた…!


「ちょっと待って?今の話からすると…ナッシュ様…あなた婚姻の届け…勝手に出されているんじゃない?」


「ええ!?」


「あ、有り得ますよ!」


驚くナッシュ様を遮るように、カデちゃんが叫んで皆がゾゾっとした…次の日の朝…私とカデちゃんで公所に走って確かめに行って…もっと恐ろしい事が発覚した。


カデちゃん達は今日帰ると言うので、お見送りをした後、遅れて出勤した私は詰所の奥のキッチンにナッシュ様とジャックスさんを引き込んで、公所から持ち帰った写しを差し出して見てもらった。


「う…うそだろ?」


「まじでぇ…やばっ…てかルルもか!?」


あろうことか…疑っていた通り、ナッシュ様の婚姻届はガンドレアの公所で7年前に提出、受理されていた。しかし、ナジャガルまでその婚姻申請書類が回ってきた所で、公所が不受理で押し返していた。しかも数十回も…因みに不受理処理を命じたのは外務大臣のフロックスパパだった。後で理由を聞いてみよう。


それは兎も角、そしてここが重要…なんとルル君までもが勝手に婚姻させられていたのだ。しかも不幸な事にルル君は国籍をこちらに移す前…13才の時にガンドレアで提出されてしまっていた。


あの白塗り、イモゲレラドアンキー女王と8年間もの間…夫婦だったことになるのだ。


最悪過ぎる。


これはあの女王陛下がガンドレアの女王陛下であるがゆえに、受理されている案件だった。つまり、多重婚が容認されておりナッシュ様はアレの第二夫君(未遂)ルル君は事実上第二夫君という扱いだ。因みにどうでもいいが第一夫君はあの茄子のヘタであると思われる。


「よく考えれば…ルル君も引っ越し先が落ち着くまで皇宮に仮住まいしていたのよね?」


と、ジャックスさんを見た。ジャックスさんは頷いた。


「え~と3年は住んでたかな…」


「もしかしたらアレが皇宮に侵入していたのはナッシュ様以外にもルル君も狙ってた…てことが考えられるわね、ふぅ…危なかったわね」


ルル君の貞操の危機は回避されていた…いや、笑いごとじゃないよ…犯罪でしょこれは?


ナッシュ様はよろめいた。慌てて体を支えた。これはもう看過できない事態でしょ?


「今すぐ、国王陛下にご相談しましょう!」


「そ、そうだな…ルルのこともあるしな…」


「ルル…倒れちまうんじゃねぇか…」


ジャックスさんの心配の通り…事の次第を聞いたルル君は倒れ…なかった。それを凌駕するほどの怒りと恨みで燃え上がっていた。


「あの…女っ許せんっ!早くルルの婚姻無効になる手続きをしろっ!それとコスデスタの方向に向けて拡声魔法で、無効にしてやるからなっ!ばーーか!と怒鳴って来いッ!」


この話を聞いたキリッシュルアン国王陛下は激昂し外務大臣、フロックスパパにそう命令していた。


そうそう、フロックスパパに何故、不受理の処理をして尚且つ、ナッシュ様に報告しなかったのか聞いた所…キルズフラッシュアイズでこちらを睨みながら、吐き捨てるようにこう言った。


「殿下はご存じないかもしれませんが、毎年何百件かは殿下に懸想した女性が偽造婚姻届を申請してくるのですよ?ラブランカ?知りませんよそんなの…何百あるうちの一件なんて、皆、不受理で突っ返すのみです」


そうですか…モテる皇子は困りますねぇ…今月誕生日らしい、29才にもなってそんな偽装婚姻の餌食になっていたなんて…今頃知らされるなんてさ…ナッシュ様は真っ青になって泣きそうになっていた。


それを聞いたクリッシュナ様なんて扇子を真っ二つに折っていた。


「今すぐっそんな女共に向かって直接言ってやれば宜しいのよっ!お呼びじゃないのよっ!私の息子になんということをしてるのよぉぉ…」


クリッシュナ様も激おこである。これは異世界ならではの盲点よね。


婚姻届けを出しても…婚姻してます!の証明だけで、国民年金、社会保険、等々の国からの手続きがあるわけではないので…子供が出来ない限りは公所で自身の婚姻の有無なんて確認しない…ようだ。


只、離婚は公所と内務省が認めない限り出来ないし尚且つ、二人に子供が出来ていたらまず離婚は難しい…とされている。


しかし冒険者ギルドなら冒険者登録する時に、亡くなると公所に問い合わせがなされ配偶者と血縁者に連絡が行き、遺産などの処理が行われると登録時に説明されるので、婚姻の有無を確認され後に違いがあると連絡がある。あくまで冒険者に初めて登録する場合に限りだが。


最近ではこれが問題化しているようだ。


ギルドから連絡があり、実は自分が婚姻していた…とか、公所に婚姻届を出しに行ったらすでに婚姻状態だった…とか、早急に法律を整えていかなくちゃいけない案件…よね、法整備頑張ろう。


「勝手に婚姻なんて…ルル君の何かを汚しちゃったわね…」


「おい…私も一応被害者だぞ?…しかしまったくなんだろうなっあの女っ」


と、プンスカ怒っているナッシュ様であったが


後に訪れた方のお話で更に怒りに震え…


とうとう二日後にコスデスタ公国に隣接する国境の町、ブラランデまで乗り込むことになったのだった。

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