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素敵な年越し

城から帰って来た私は早速、おせち料理の下ごしらえを始めた。


実は黒豆に似たポーステという豆も手に入れているので「黒豆の煮方」は準備が出来ている。


スジコも塩で揉みながら潰さないようにばらして…お醤油、こっちのソーナとお酒で味を整えた。うむ、なかなかイケるイクラのソーナ漬け、酒のアテだ。


早速カデちゃんに手紙と一緒にイクラのソーナ漬けを離宮に設置したタクハイハコで送った。すぐに返事が返ってきた。空のお皿と一緒に…


『スプーンですくって一人で食べちゃった♡すごく美味しかったです!マグロのトロを早く送ってよ♡』


何これ?カデちゃんなの?キャラが違うけど…とりあえず、赤身のマグロっぽい魚を切り、少し味見してみた。うむ…マグロに似てるね…これもある程度を切り分けてカデちゃんに送った。


また返事がすぐ返って来た。


『さ♡い♡こ♡う美味ですよーーー!』


何これ…うざ……いやいや、何も言うまい。ハートマークに狂喜を感じる。取り敢えず、おせちのレシピのお礼と、次に海産物を入手したらまた送る旨をつづって、返事を出しておいた。


さて


私は残りの白身の魚…プーラでフィッシュフライとムニエルを作り、マグロっぽい魚のタタキを作って夕食にお出しした。調理を手伝ってくれたニルビアさんはマグロのタタキを大絶賛だった。


「濃厚でまったりとしたモッテラムースですよね~」


分かります、分かります。私はどんぶり飯の上に乗せてがっつり頂きたいです。


ああ、白米食べたいなぁ……おもちが食べたい。豆餅食べたい。


ザック君とジャレット君はフィッシュフライをモリモリ食べていた。ジャックスさんはムニエルとフィッシュ&チップスに黒ビールに似たジーロで召し上がりながら、たくさん食べてくれた。


「やっぱり一人暮らしって食生活が偏るんだよなぁ…外食ばっかりになるし…」


「そうよね、一人だと手抜き料理になりがちだしね~」


ジャックスさんの場合は、食生活よりも汚部屋の方が問題あったと思うけどね!


今日もナッシュ様は夕食に帰って来なかった。三ヶ国協議の仕事が山ほどあるらしい。


ナッシュ様の夕食分は取り置きしておいて、寝る前におせち料理の続きを作っておいた。甘酢につけた魔獣鳥のから揚げとローストロイエルホーン、そして海老や蟹っぽい甲殻類も頂けたのでエビもどきフライを揚げてみた。一個食べてみたが結構歯ごたえがある。伊勢海老に近いのかも…でも美味だ。


明日は卵焼きと野菜の薫物作ろう。お出汁が無いのでチキンスープで我慢だ。この際、洋風おせちだと思えばいい感じだ。


大学芋も作ろうかと芋の皮を洗っていてフト気が付くともう夜中になってしまった…


おせち料理を籐籠に入れて、腐敗と時間魔法をかけておいた。箱の上に「食べるの厳禁」と貼り紙を貼っておいた。食べるなよ?食べるなよ?…とまだ帰ってきていない皇子殿下に念を送っておいた。


翌朝、ナッシュ様のお取り置きのプーラは綺麗に食べられていた。籐籠の中は無事だった。よしっ!


テーブルの上に「シテルンのプーラ美味しかった。ありがとう」と美麗文字でメモが残されていた。律儀だなぁ~


さて、今日は31日である。この世界の人にとってはなんてことのない年の終わりだけれども私は(カデちゃんもそうらしい)大晦日…という何かソワソワした気忙しい気分になっている。


今日は普通に軍部のお仕事がある。ザック君とジャレット君も一緒に出掛けることになった。


「ジャレット君さえ良かったらお体が復調したら、軍部のお手伝いして欲しいわ。私も年明けには婚姻して皇太子妃になっちゃうしね~」


ジャレット君はまだ念の為車椅子だ。明日、マディアリーナ姫様が診察に来てくれるらしい。


「はいっ!も、勿論お手伝いしますっ!こちらこそ宜しくお願いします!」


「ザック君も託児所の方も宜しくね~何だか悪いわね…皆にお願いばかりで…」


ザック君は首をぶんぶんと横に振った。


「僕も楽しいし、楽しみですっ宜しくお願いします!」


うふふ…二人ともいい子ね~私は二人を伴って第三部隊の詰所に入った。


「おはようございます、アオイ様…ぁ…ああ!もしかしてっジャックスさんのぉ!?」


と、会うなりコロンド君が大きな目を更に見開いた。コロンド君は車椅子のジャレット君の前に膝を突くと挨拶をした。


「初めましてコロンド=ルオーターと申します。ジャックスさんの同僚です」


「ジャレット=ミラマです。兄がお世話になっています」


美しい…美少年二人が微笑み合う、素晴らしい場面だ。ああデジカメ欲しいよ!連写したいわ。


「おはよ~おっ!ジャックスに似てない美少年の弟君!あ~ジューイ=ドアンガーデだよっ!一応この部隊のナッシュの次に偉い副官ね!」


戸口にサラサラのアッシュグリーン色の髪を靡かせてジューイが入って来た。


私はジャレット君の耳元に小声で囁いた。


「チャラチャラしてるけど、これでも王位継承権四位の公爵家の次男だからね」


「っておい!聞こえてるよぅ!」


ジューイのツッコミを無視してジューイの後ろに立っているフロックスさんとナッシュ様に手を振った。


「おはようございます。ジャレット君は今日は見学ね。あ、それとナッシュ様、お昼作って持ってきたので!モロンとジュージのハンバーガーだから!」


そういわゆる、合挽肉のハンバーガー照り焼き味だ。カデちゃんにレシピを教わりソースを照り焼き味にしてみた。かなりの自信作だ。ナッシュ様の顔が輝いた。うおっ魔力も眩しいっ…遮光遮光…


机の上の溜まりに溜まった書類の山を見て溜め息が出る、ていうか…この光景も見納めか…


私は年明けには皇太子妃になる。つまり軍人ではなくなるのだ。この仕事…なんだかんだ言って楽しかったけど仕方ないよね…皇太子妃が軍人なんて出来ないものね。


そうだ、仕事が滞らないようにジューイとコロンド君に引き継いでおかなくちゃ…私は概要をまとめた書類と引き継げそうな案件を持って、ジューイの机の前に行った。


「なに~?」


「これ…来年に施行される予定の案件、10件あるんだけど、ジューイ引き続いて進めてね」


ジューイは目を丸くして顔を上げるとポカンとしている。


「んなぁ…なんで…なんで俺がやんなきゃならんのだ!アオイが続けてやれよっ!」


な…何この拒絶?同僚の仕事を引き継ぐのは、残るものの業務のはずでしょう?次いでコロンド君を見る。


「コロンド君には…この案件を…」


するとコロンド君も驚愕したような表情で、首をぶんぶん横に振った。


「そ、そんなっ無理ですっ!アオイ様の案件は僕にはとてもっ…な、何かお忙しいのですか?でしたらフロックスさんにでも…」


なんだ…コロンド君までもがこの拒絶、お忙しい?いや来年になってみないことは分からないけど皇太子妃業務とやらは…忙しい?かもだが…何故、引き継ぎをここまで拒む?


「あなた達が引き継いでくれないと…困るわ。私はもう出来ないし…」


詰所内が静まり返った。え?何?詰所に居る皆がポカンとして私を見ている。


「何で出来ないの…え?…ま、まさか…軍の仕事辞めるの?」


ジューイの物言いに、ん?となって眉根を寄せた。するとコロンド君が女子のような悲鳴を上げた。


「ア、アオイ様ァ!?軍部辞めちゃうのですか!?こ、困りますっ!?」


んん?辞めるも何も…皇太子妃になったら、軍属って出来ない…あれ?皆のこの反応?と、思っていると奥の執務室からフロックスさんとナッシュ様が飛び出して来た。フロックスさんは殺し屋アイズで私を睨みながら詰め寄って来た。


「今っ何と言いましたか?辞めるとは…聞いていませんよ!?なんでまた急に…はっ!」


フロックスさんは私と少し距離を取ると私を見て、イヤ診ている…主にお腹辺りを…んんん?


「ご懐妊…ではないのですか?」


「なっ!?」


「ええ!?」


皆が叫んで私も、ひぇ!?と変な声が出た。か、か、か…かい…懐妊って…デキたってこと!?


「イヤイヤイヤイヤァ!?違う違う違うって!?びっくりさせないでよっ!?」


「びっくりしたのはこっちですよっ!紛らわしいっ!でも何ですかっ突然辞めるだなんてっ私は認めませんよっ!?職場の環境が良くないのですか?確かにアオイに仕事を押し付けすぎていることは認めますよっ!何が原因ですか!?もしや、この皇子がグチグチあなたに辞めろとか、もしくは如何わしい何かを言い募ったのですかっ!?」


こ、興奮しすぎてフロックスさんが仮にも皇子殿下のナッシュ様に暴言&不敬言葉連発してるけど…いや、ちょっと待って?


「だ、だって私、年明けには皇太子妃になっちゃうんだもん、軍でお仕事は…出来ないでしょう?」


「それ…誰が言ったの?」


ジューイに聞かれて…ん?誰も…言ってないような?しいて言うなら自分でそう思ったから…あれ?


「ま、まさかっ殿下っ!?アオイに何か言ったのでないですかっ!?」


またも、フロックスさんがナッシュ様に怒鳴った。いやあの、ええと…あの。


「私は…何も…聞いてない…」


ナッシュ様が顔を強張らせて蚊の鳴くような小さな声で反論した。ああ、これはもしかしてっ!?


「あの、ええと…お騒がせしている所、申し訳ないのだけれど…どうやら私の早とちりで今一度確認しておきますが、私…婚姻した後も、軍のお仕事続けてもいいのかしら?」


ジューイ、コロンド君、フロックスさんは息を詰めて私を見た。そして大きく息を吐き出した。


「何言ってんだよ~当たり前じゃないかっ~!今アオイに抜けられたら業務が全部止まっちまうくらいなんだぜ!しっかりしてくれよ~」


「ああ、良かった良かった!僕じゃ絶対出来ませんからっああ、良かった!」


「まったくっ!どう勘違いすればそう思うのですかっ!?確かにご懐妊したら無理に手伝えとは言いませんが、出来うる限り出産間近まで働いて下さいよっ!あなたがいないと仕事が滞るのですからねっ!頼りにしているのですよ!?」


おお、おお?えええ!?フロックスさん今なんて言ったのぉ?マジマジとフロックスさんを見詰めると耳まで真っ赤にしながらプイッと横を向いた。


「フロックスさーーーん!やだーっ可愛いっ!」


私がそう叫ぶと顔を真っ赤にしたままフロックスさんが言い返して来た。


「いっ!?いい年をした大人の男性に向かって可愛いだなんて!そんなのが似合うのはそこのジャレットかっコロンドぐらいでしょう!」


再び、詰所内がシーンとなった。


アカン…フロックスさん…それアカンやつや。ゆらり…とコロンド君がフロックスさんに向き直った。


「か、可愛いなんてっ…僕はっ…そんなのではないです!最近ではっ背だって伸びたのですよっ!」


「ま、まあぁ!ほんとよコロンド君!私より目線が上になってるわああぁ!」


泣き出しそうなコロンド君に歩み寄って、大げさに褒めてあげる。コロンド君は涙を引っ込めて満面の笑みになった。


「はいっ!アオイ様に教えて頂いた通りに好き嫌いせずに、牛乳も飲んでます。それとシテルンから干したマンマも取り寄せて食べてます!」


「さ、流石ね!すごく効果が出ているわね!」


と、コロンド君を褒め称えながらフロックスさんに目線で「早く仕事に戻れ!」と合図を出す。フロックスさんは気まずそうな顔をしながら執務室の奥まで戻って行った。ナッシュ様もまだ顔を強張らせたまま戻って行く。色々と疲れた。


なんとかその場を収めると、通常の仕事に戻って行った。業務の段取りなどをジャレット君に説明しながら書類整理をしていく。


まるで新人研修のようだわ。でも、無駄ではないしね~さっきどさくさでフロックスさんも言っていたけれど、いずれは赤ちゃんも出来るだろうし、そうするとまさにフロックスさんに出産ギリギリまで働かされそうだけど、産んで暫くは職場復帰も出来ないだろうから、ここでジャレット君に私の穴埋めをお願い出来るまで…彼を鍛えておかねばっ!


使命感と義務感で燃え上がるわ!よーしっ!


はい、今日はジャレット君につきっきりで仕事をみっちり教え込みました。


お昼休み…皆でモロンとジュージのハンバーガーを食べながら…ジャレット君は一人愚痴っていた。


「アオイ様、厳しいです…」


「何を言うのっ覚えておいて損は無いのよ?どこの部署に行っても臨機応変に動ければ職場の即戦力になれるのだからっ若いんだから頑張りなさい!」


はい、勿論手抜き無しのスパルタです。今日は燃え上っていたので一日がとても早かった。


折角の大晦日なので、年越しそばを頂きたいところだが無いものは仕方ない。万が一、蕎麦の実を手に入れたとしてもさすがに蕎麦打ちは出来ない。異世界に居る時に一度だけ友達と蕎麦打ち体験に行ったが、生地を伸ばす工程くらいしか覚えていない…悔やまれる。


でも気持ちは年越しを祝いたい!ので、和風『スキヤキ』を夕食にしてみた。ジャックスさんが討伐時のことを思い出したのか、ロイエルホーンの肉が~とか、魔獣が~とか嬉しそうに話していた。


今日はナッシュ様が夕食時間に間に合った。嬉しそうにスキヤキを食べている。うんうん、良い食べっぷりだね。


後片付けをして皆は各自部屋に戻って行った。


「今日はびっくりしたよ…」


明日のおせち料理の最終仕上げをしようとキッチンで下ごしらえをしていると、ナッシュ様が戸口に立っていた。


「どうして、私に聞かないんだ?」


じっとりとした目で見られる。うう…確かにね、一人で完結していたわね。


「すみません、妃になったら軍の仕事は辞めるものだとばかり…思い込んでいました」


「お蔭でフロックスにネチネチ嫌味を言われたー何故しっかりと説明しておかないのですかって言われたー」


「す、すみません」


ひたすら謝るのみだ。本当に要らない心配だったし…迷惑をかけてしまった。


「それに、もっと心配していたことがあるんだ…それ」


それ…とナッシュ様が指差した所には出来上がったおせち料理を入れている籐籠がある。


「地方局のシテルンの担当官と…何かコソコソしているし、夜中にこっそり何か作っているし…何を隠しているの?」


思わずキョトンとなる。隠している?え?ナッシュ様は顔を強張らせている。え、何?何かまたマイナスな事でどんよりしているの?


そう言えば…おせち料理を作ることに躍起になっていて、何をしているとか全然ナッシュ様に説明していなかったわ。自分ばかり楽しんでいて、ナッシュ様は忙しいから…とかまた勝手に考えて、思い込んでいた。これはいけないわね。これから夫婦になるっていうのに。


「ごめんなさい…異世界の風習なのでナッシュ様に説明しなくてもいいか…とか、また勝手に考えて行動してしまっていたわ」


「異世界の風習?」


私はナッシュ様を手招くと、籐籠の中からおせち料理用に作っていたイクラのソーナ漬けを取り出した。


「異世界の私とカデちゃんが暮らしていた国の風習なのです。年の終わり…つまり今日、来年を迎える儀式…というほどではないですが、年初めに食べる特別なお料理を作り置きしたり、蕎麦っていう麺を食べたり…まあ一部の国の特殊な風習なのですよ。だから自分だけで準備したりお料理作ったりしていればいいかな~とか考えてて…また一人で自己完結してました、すみません」

私は小皿にスプーンでよそったイクラもどきを、ナッシュ様に差し出した。


「本当は明日、皆で『あけましておめでとうございます』って言って蓋を開けて初めて見せるつもりだったのですけど、特別ですよ?」


ナッシュ様は初めて見る赤くてプチプチした物体に戦きながらも…ゆっくりと口に入れた。


「っ!…美味いっ!」


「良かったー!癖がある食べ物だから苦手な人もいるのですよ。多分子供には不評だと思います」


「確かに独特の苦味はあるな…これはシテルンからの海産物だな?酒を飲む時の食事にしたら最高だな」


「でしょー!私もお酒と一緒に食べるの好きなの~」


ナッシュ様は小皿を置くと私の頭を優しく撫でた。めっちゃ優しい顔だわ…


「本当に驚かせてくれるな。何をコソコソしているのかと言えば…ああ、本当に心配だったんだ…」


「ごめんなさい。こちらの習慣には無いことだし、無理に付き合わせるのも気が引けて…」


「言ってくれれば良かったのに~明日の朝が楽しみだ…」


その時フト気が付いた。朝…年明け…元旦…


「初日の出ぇぇ!」


「な…何だ!?」


私の突然の叫びにナッシュ様はギョッとしている。


「これも風習の一つなのですが、年明けの日が昇る時に高い山などの上で、日の出を見て一年の幸せを神様に祈るというものがあるのです。ああ、でもこの辺りで高い山ってどこ?ああ、サラマンダーさんの山かしら?無理無理っあんな、ケ?ケッ…なんとかがいるところなんて今から行くのは無理だし…ああ、高い所から日の出を見たいのにぃ…」


私が項垂れると、ポンッとナッシュ様が私の頭に手を置いた。


「つまり、高い建物から日の出を見ることが出来ればいいのだな?」


「そうです…」


「だったら皇宮の物見の塔に登るか?あそこのなら遠く城下も見下せるほどに視界が開けているし…」


「行くぅ!」


即答した。私はウキウキしながら異世界の風習を話し、お年玉の事を思い出してナッシュ様と準備をしたり大学芋を作ったりしながら今夜は日の出を見るまでナッシュ様と年越しをすることにした。


「この時期は神社…え~と神様をお祀りしている神殿?みたいな所に行って願い事とか決意表明とかしに行ったりもしていたのですが…」


「願い事は兎も角、決意表明って何?」


ナッシュ様は黒ビールっぽいジーロとローストロイエルホーンをつまみにして飲みながら話を聞いている。二人で飲みながら年越し…いい雰囲気だ。私は野菜の煮付を作り終えて同じくジーロを入れたグラスを手に椅子に座った。


「例えばですが、妙齢の女子にとって初詣というのは~今年こそ素敵な彼氏が出来ますようにっ!とか、今年こそ結婚…婚姻出来ますようにっ!とか願望のような執念のような…それを神様の前でお願いというより、決意表明に近いことをしに行く行事なのですよ」


「アオイは行ったことあるの?ハツモウデ?」


「毎年一応は行ってましたよ。お願い事って言っても…健康でいられますように、とかだったかな。私の場合は恋愛関係は願っても叶わないことは分かっていたので…」


苦笑いを見せると、ナッシュ様がテーブル越しに手を握ってくれた。


「大丈夫、大丈夫ですよ~今はナッシュ様もいますし幸せいっぱいですよ~おっといけない、明日の分のタルトを作っておきましょうかね」


ナッシュ様はこんな夜中に輝くような笑顔を見せて私に抱き付いて来た。


そして明け方までタルト生地を作っている私に纏わりついて…チュッチュッしてきたり大変に甘々な時間を二人で過ごして時間を待った。


翌朝…初日の出まであと少し


私とナッシュ様は厚着をして、物見の塔の一番上の櫓の端に並んで立っていた。


もうじき日が昇る。


光の筋が差し込んで来た。私の腰を抱いてくれているナッシュ様に少し凭れかかった。なんだか涙が出てくる。嬉しい涙だ…


「どうしたの?泣いてる…」


「ただの嬉しい涙よ。無事に一年を迎えられた…喜びかな?異世界で初めての年越しだもの。感動しちゃった」


初日の出の輝きで光り輝いているナッシュ様の顔がゆっくり私に近づいて来る。ああ、新年初キスね。


「部屋に戻る?」


「うん…」


アレ…よく考えてみれば


これって姫始めっていうのじゃなかったかしら…


色々考えようとしていたけれどナッシュ様の口づけに夢中になってきて意識がそちらに向いてしまい、新年早々体を酷使することになったのだった。

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