激おこ皇子様
それから、しばらく寝ては起きてを繰り返しながらジャレット君は徐々に快方に向かってきた。ナッシュ様達男性陣は三ヶ国協議や軍のお仕事があるので、一旦はナジャガルやカステカートに戻られた。
私とカデちゃんもお仕事があるので、ナッシュ様の手配でナジャガルのメイド2名と侍従の2名が派遣された。そしてルル君のご家族のジュレンザおばあちゃまとリリアちゃんも看病に来てくれていた。
「おはようございますアオイ様!ジャレットお兄ちゃん今日はスープ完食出来ましたよ」
リリアちゃんはルル君と外見はそっくりだが中身は違ってよく喋る非常に活発な女の子だった。大変宜しい!
「ご苦労様リリアちゃん。今日からね、ここのお世話も御給金が発生することになったからね。ジュレンザさん共々宜しくね」
と、レディ2人に会うなりそう告げると、リリアちゃんもジュレンザさんも大変恐縮してしまった。
「でも、だって…」
「これはナッシュ様からの提案よ?今回ガンドレアに入国してみて、改めて孤児が大量に発生していることが問題になっているの。孤児を公的機関で纏めて面倒を見る為に必要な職員を確保する為に、三ヶ国から援助金が出ることになったの。これはその給金ね。遠慮なく受け取って!あなた方もりっぱな国の職員よ」
リリアちゃんは泣き出してしまった。あらら…どうしたのだろう?
おばあちゃまのジュレンザさんは優しい目でリリアちゃんを見詰めて頭を撫でている。
「リリアはナジャガルに来て、ルルの重荷になっているんじゃないかと気にしているのです。こうやってアオイ様にお仕事を頂いてお役に立てているのが…私もこの子もとても嬉しいのですよ」
うふふ、嬉しくて頬が緩んでしまう。
「もちろん賃金分はしっかり働いてもらうけど、このお仕事に生きがいと誇りを持って欲しいわ。皆が責任をもって働いてお役に立っている…力になっているから国の活力になるのですもの。頼りにしてるわよ~」
そう言ってリリアちゃんの頭をグリグリと撫でてあげた。
「アオイ様~大好き!」
リリアちゃんからの大好き頂きました!うふふ~するとドーンと後ろに衝撃が来て足元を見るとエフェルカリードがしがみついていた。
「私もママ大好き~」
愛のサンドウィッチだわ~女の子達に抱き付かれながらジャレット君の部屋へ移動する。部屋の中から子供達の声が聞こえる。あらこの声?
「あ~アオちゃん来た~!」
「アオイ様今日はお休みですか?」
「ぉ…っかれさ……」
「お嬢お疲れ~」
リュー君とザック君とマディアリーナ姫様とジャックスさんの4人が中にいた。圧がすごい。
ジャレット君は寝台の上に座れるくらい回復している。こちらを見て可愛い笑顔を向けてくれた。
「アオイ様おはようございます」
「おはよう、ジャレット君。随分顔色が良くなったわね」
白雪姫、マディアリーナ様に目をやると可愛らしい薔薇色の頬を染めて
「はぃ…経過…も…順調で…っ」
と囁き声でお答えしてくれた。そういえば小姑リアがくっつけたがっていた相方のガレッシュ様はどうしたの?
「あ~トリプルスター兄弟で外の見回り行ってるよ」
と、視線に気が付いたジャックスさんが答えてくれた。SSS兄弟か…するとジャックスさんが
「お嬢…ちょっと」
と、廊下に私を連れ出した。ザック君もついて来た。
「今朝、ジャレットに今回の話を聞き出せたんだ、ナッシュ殿下にはまだ言ってねぇ…言ったらブチ切れて暴れられたら困るしな」
何?ブチ切れるような内容なの?
「ジャレット、2年くらい前に腰を怪我して軍は休職扱いなんだと、で…一年くらい前にこの辺にも魔獣が出るようになったんで、義母親と妹達がコスデスタに避難しよう…って話になったらしい。その時にコスデスタの親戚が半分寝たきりのジャレットの面倒をみるのに難色を示したらしくって…あいつ、一人でここに残るって言ったんだって。あくまでアイツから残るって言った…て言ってるけど怪しいなぁ~」
「そんなことが…持病持ちの子を一人、魔獣が徘徊する危険な所に置いて行くなんて…」
こりゃアカン、ナッシュ様が聞いたら激おこ案件だわ。ジャックスさんの読みは当たってる。
「兎に角、それから一人で何とか細々と生活はしてたらしい…ところが一月前くらいに外に出て市場に行こうとしていたら、魔物に襲われたんだって。腰が悪いから戦えないし、それでも何とか逃げては来たものの…足と腕をやられて、それであの状態になったんだと。親父達は何やってんだよっ!」
本当よ!?どうして様子を見に来たりしない訳?とにかく自分達だけ逃げて子供を放置だなんて有り得なさすぎるっ!
「取り敢えずこのことは殿下には内緒で」
「そ、そうね」
「何が内緒なんだ?」
ぎゃあああ!気配が無いよっトリプルスター兄弟!ゆらり…と廊下の角から若干睨みながら、ナッシュ様とニコニコしながらガレッシュ様が現れた。
「わお~修羅場?」
余計なことは言わんで宜しいっ弟っ!ジロッとガレッシュ様を睨むが、どこ吹く風である。こいつぅ!ナッシュ様が不信感丸出しで私に近づいて来る。
「何を内緒なのだ?」
ザック君が私の横に居ることに気が付いて…妙な勘繰りはやめたようだが、それでもジロジロと私とジャックスさんを見てくる。これは観念して言うか。ジャックスさんの脇腹をドンッと突いた。
ジャックスさんは大きく溜め息をついてから
「も~ぅ、殿下怒んないで聞いてくださいよ?」
と前置きしてから話し出した。話し終える前から案の定、ナッシュ様は激おこだった。ガレッシュ様が隣に居てくれて良かった…。ガレッシュ様がナッシュ様の肩を叩いて宥めてくれる。
「なんだそれっ!?ひどいじゃないかっ!もういいよっジャックスのご両親にお聞きしてから、とか思っていたけどジャレットは私が連れて帰るからっ!ジャックスもうちに住むことっもう決定だからアオイッいいよね!?」
まあ…ジャレット君を引き取ることは想定内だけど、ジャックスさんまで?当の本人の許可は取らないの?
「はぁ…まぁ、俺もちょっと前までは離宮でご一緒でしたし、ジャレットと一緒に面倒みてくれるんなら生活面でも助かりますけど…」
「え?ジャックスさん、離宮に住んでたの?」
「あれ?お嬢、知らなかった?そうだよ、ナジャガルに移住してしばらくはルル達も一緒だったし…俺は割と最近まで住んでたよ」
それでか~ナッシュ様がルル君やジャックスさんにやけに甘い対応なのは…もうナッシュ様にしてみれば家族なのね。はいはいっ了解です。
「はい、いいですよ~一人も二人も一緒ですしね」
「あ、あのっ…」
今まで黙って聞いていたザック君が声を上げた。皆でザック君の顔を覗き込んだ。
「ぼ…僕も一緒に住みたいっ!」
「「ええっ!?」」
私とナッシュ様の声が綺麗なハモリになった。これまた爆弾投下である。ナッシュ様とガレッシュ様がザック君を連れて、保護者であるヴェルヘイム様の所へご挨拶?に出かけて行った。
私とジャックスさんはジャレット君に事情説明である。ジャックスさんはジャレット君の部屋に入ってしばらくモジモジしていたが、やっと話し出した。
「ジャレット、俺と一緒にナジャガルに来い。生活は心配するな、それにお前の体は元に戻る。世界最高の治療術士が診てくれる…俺も死にかけてたのを助けてもらった。その縁でナッシュルアン皇子殿下にお仕えしている。皇子は最高の上司で、最高の保護者だ。そして絶対見捨てたりしない人だ」
本当最高の褒め言葉ね。コレ、ナッシュ様が直に聞いたら号泣しちゃうんじゃないかしら?
ジャレット君はまた目にいっぱい涙を浮かべている。
「俺…兄上について行っていいの?邪魔になったりしない?迷惑じゃない?」
ジャックスさんはジャレット君を抱き締めた。ジャレット君はジャックスさんの腕の中で大号泣だ。側で見ている私、マディアリーナ様、リリアちゃん、ジュレンザさん…女性陣はもらい泣きだ。
「もう寂しくないわよ~ルル君達もいるしね」
私がジャレット君の頭を撫でながらそう言い聞かせていると、ナッシュ様達が帰って来た。
「そうそう、私も居るし今度からはザックも一緒だ」
「あ、決定なの?」
ナッシュ様もガレッシュ様も苦笑いだ。やっぱり揉めたのかな。
「いや何、カデリーナ姫は遊びに行く口実が増えた!と大喜びだったのだが、ヴェルヘイム閣下と父君のアポカリウス殿が猛反対されてね。オリアナ様に説得されて渋々だった…あの二人はその気になればいつでも転移で会いに来れるのにな~」
成程…男親の子離れって結構複雑なのかしら。
ザック君は私に走り寄って来た。満面の笑顔だ。
「まだまだ未熟者ですが宜しくお願いします!」
何これ…衝撃的に可愛いじゃない!危ない道に入りそうになった。思わずザック君を抱き上げてギューッとしてから
「宜しくね!」
と笑顔で答えた。何とか理性を保てた。ザック君も思いっきり抱き締め返してくれる。くわーーっ可愛い。
「ね?皆、居るから寂しくなりようがないでしょ?安心してうちに来てね」
私がジャレット君にそう言うと彼は泣きながら何度も頷いてくれた。
よーーし、一気に家族が増えるしやることいっぱいあるぞー!
と、思っていた訳よこの時は…
この2日後にあんなのがやって来るとは思わないで…
ザック君とジャレット君を新しく迎える準備をしつつ、今日はいよいよナジャガルに行こうということで、カデちゃんに移動前の診察をしてもらっていた。
今日はメイドの方々に荷物をすでに運んで頂いていて、私とカデちゃんとザック君とジャレット君の4人だけだった。後ほどナッシュ様とルル君とジャックスさんが迎えに来てくれる予定だ。
すると隣の部屋にジャックスさんの気配がして、ヒョイとジャックスさんが顔を覗かせてた。
「あら? 転移で来たの?」
「お疲れっ~やっとナジャガルとガンドレアの城門前に転移門が繋がったんだよ。んで、転移門からこっちに転移して来たって訳。俺も自分の魔力だけで国を跨ぐくらいの転移してみてぇよ~あ、殿下とルルはもうちっとしてから来るって」
「はい了解。隣の国まで一瞬で行けちゃうなんて私には理解出来ないわね~」
「異世界って魔法は無いけど…産業とか工業?デンキだったっけ、とか発達してるんだろ?そういう発明とかないの?」
ジャックスさんにレモンサラーをカップに入れて渡しながら苦笑いをした。
「まだそこの開発は無理ね。一応数百人規模の人数を空に浮かべた乗り物で運ぶ発明品はあったけど」
「俺にはそっちのほうが吃驚だけどな…遠くの人とすぐに会話できる発明品もあるんだろ?便利だな〜」
と、ジャックスさんと話しているとカデちゃんの診察が終わったみたいだ。
「はい、経過は順調ですね。まだ激しく腕と足を動かしてはダメですよ? 後2~3日はなるべく動かず安静にしていて下さいね」
「はい先生」
ジャレット君はカデちゃん先生に頷いた。よしよし…あ、あれ?誰か屋敷に入って来たよ?ナッシュ様…の訳ないか、魔力量が少なすぎる…1、2…5人かな?
「どなたでしょう?妙な魔力波形ではありませんが…」
私はカデちゃんほど視えないので、ヨイショ…と立ち上がって廊下に出た。ジャックスさんも一緒に出て来た。
廊下には女性3人と男性2人がいた。軍人ではない。ましてや身なりが庶民ではない…貴族だ…まさか?
「あ、あなた達っ!うちの屋敷の中でなにをしているのっ!?」
手前にいた色白で若干…そう若干、ふくよかな女性が金切り声をあげた。
「義母上…」
ジャックスさんの小さな呟きで合点がいった。このふくよかなマダムはジャックスさんの義理のお母さん、ジャレット君の実母ということだ。という事は…その隣に居る10代前半くらいのこれまた若干ふくよかな女の子は妹だろう。男兄弟はイケメンなのに女子はポッチャリーナ一族か…これは遺伝子配列の悪戯だな、とか思っていたら…ポッチャリーナ一号こと、義母が扇子でこちらを指しながら怒鳴った。
「誰かっ軍に連絡をっ!賊が我が邸内に侵入しています!」
思わずチベットスナギツネの目をして、ポッチャリーナ一号を見詰める。軍ってどこの軍を呼ぶんだよ? ガンドレアか?今は三ヶ国同盟軍しかこの辺りにはいないけど?
「お、お母様っ待って!あれ…あれ、ジャックスじゃない!?」
おいおい?兄を呼び捨てかい?ポッチャリーナ二号よ。呼び捨てにされたジャックスさんを見上げると、顔面蒼白だった、こりゃアカン。ここに来る前はガツンと言ってやるっすよーとか言ってたけどさ…
するとポッチャリーナ一号と二号はドスドスと足音を響かせながら近づいて来ると、二人して金切り声をあげた。
「ジャックスッ!?あなた今頃何しにここへ…ま、まさかっ私達がいないこといい事にっ盗みに入ったのじゃないのぉ!?」
「やだーーっ怖いわお母様っ!」
怒りを通り越して呆れる。何これ?本当にジャックスさんの義理とはいえ親なの?自分の子供に向かって盗人呼ばわり…元気だったのか?の一言ぐらいあってもいいんじゃないの?腹違いの妹もひどい…なんて擦れた生意気なガキなんだろ。
ジャックスさんは唇を噛みしめているばかりで、反論すらしない。これはきっと子供の頃からこんな風に頭ごなしに怒られて、押さえつけられていたに違いない。大人になった今でも、恐怖で体が竦んで動かないのね。
「は、母上?」
扉の向こうからジャレット君の声が聞こえた。するとポッチャリーナ一号と二号はジャックスさんを弾き飛ばしそうな勢いで押しのけると、部屋の中に押し入った。
「ジャレット~元気そうね!コスデスタの国で勇者が魔獣を殲滅したからガンドレアは無事です…ていう軍部の発表を聞いてね、コスデスタに逃げていた方々は軍の指示の元、帰国して来たのよ!本当良かったわ~!」
元気そう?良かっただと?
カデちゃんの顔色が変わった。あのいつもニコニコのザック君ですらポッチャリーナ一号を睨みつけている。
「おにいちゃま!会いたかった~!お料理が口に合わなくて美味しくないし全然楽しくなかったわ~!」
と、ポッチャリーナ二号がジャレット君の右腕を掴みかけた時…バチィィィッと音がして、ポッチャリーナ二号は何かに弾き飛ばされて後ろにでんぐり返った。
「う、腕は触らないで下さいましぃ!」
カデちゃんだった…すんごい防御障壁だった。カデちゃんはジャレット君に走り寄ると妹に触られかけた腕をすぐに診ている。
「触られましたか?痛みはありませんね?」
「は…はい、あの…大丈夫です」
ジャレット君は何が起こったのか…まだ状況を分かっていないようだ。私はジャレット君の前にゆっくりと移動した。久々で腕が鳴る「ミュージカル女優」の仮面を被ってやるか…
私はジャレット君を背後にして立つと背筋を伸ばし、ポッチャリーナ一号、床に座り込んだままの二号を見下しながら優雅に微笑んだ。
…後日、この時の様子をカデちゃんにこう言われた。
私の後ろ姿から滲み出る暗黒の女王様オーラがすごく恐ろしかった…と。
こらーっ!誰が暗黒の女王様だー!シテルンにカデちゃんを連れて行ってあげないぞっ!
「どうも初めまして、アオイ=タカミヤと申します。ナジャガルでジャックスさんと共に軍部で職務についております。ところで…あなた方こそ今頃、何の御用ですか?1年間も持病のある息子さんを魔獣が徘徊する危険な場所に置いたままで…ましてやこちらの長兄のジャックスさんなんて8年もの間、姿を見てはいなかったのでしょう?他にかける言葉、おありでしょう?」
私はそう言ってイモゲレラドアンキーを見るような目で親子を見下した。目の端でジャックスさんの表情を伺うと、唇を噛みしめて目線をさげ、手は握りこぶしにしたままブルブルと震わせている。悔しいよね…悲しいよね…心配しないでっ!敵討ちはしてあげるから!
後にジャックスさんがこの時の気持ちを教えてくれた。
「いや~義母と出くわしたら煩いし面倒くせぇし、お嬢に任せよっ…て決めてたんだよ~そしたら案の定、お嬢が前に出てくれるからマジ助かったわ!」
…っておいぃぃ!始めからこのつもりだったのかい!?道理でいつもズゲズゲ言う口の悪いジャックスさんが妙に大人しいし…こっちは子供の時のトラウマでショック受けてると思ってのにぃぃ!あの手の震え…笑ってたな?絶対笑ってたんだろう!?
「な…何を…ジャックスは勝手に冒険者になって…フラフラしているだけじゃないのっ!?もううちには関係ありませ…」
「関係ない人なら何を言っても良い訳ないでしょう?この国の為に身を犠牲にして戦ってくれている子に、労わりの気持ちを持つことも出来ないのですか?彼は8年前に魔獣の討伐で重症を負って治療も受けられず、そこにいるカデリーナ様に助けて頂くまでは死を待つのみだったそうですよ。それでもフラフラしている…とおっしゃいますか?」
ポッチャリーナ一号は私を睨みつけて来た。ふんっ!全然怖くないね。
「ジャックスなんて私の家族じゃないものっ!私のおにいちゃまはジャレットおにいちゃまだけだもの!」
ポッチャリーナ二号が頬を膨らませて抗議してきた。余計顔がおたふくになるからやめときな…
「そのおにいちゃまをほったらかしにしていたせいで、あなたのおにいちゃまは魔獣に襲われ手足を捥がれ、壊死にかかり…寝たきりでガリガリに痩せてらしたのよ?後一日…いいえ、半日私達の発見が遅れていれば、彼は間に合わなかったわ。それでもあなたは元気そうで良かった、なんて無責任で心無い言葉をかけられるの?」
ポッチャリーナ二号はポカンとした後、ジャレット君に顔を向けた。
「おにいちゃま本当なの?」
ジャレット君は顔を強張らせたままゆっくりと頷いた。
「まああ!ジャレットどうして教えてくれなかったのぉ~。すぐに駆けつけましたのにぃ~」
ポッチャリーナ一号はまさに心無い言葉をジャレット君に投げつけた。
私は顔面蒼白になったジャレット君の頭に手を置いてから、再びポッチャリーナと向き合った。
「親戚に遠慮して…ジャレット君が助けてくれ、なんて言える訳ないでしょう?それなら始めからここに一人で残る…なんて言い出すはずがないわ。ねえ、母親でしょう?人伝でもいいからジャレット君の様子を何故もっと早く確認しなかったの?一人で助けも呼べず体は痛くて動けない、食べ物も…飲み物も底をついて、寝台で寝たきりになって自分の出した汚物まみれになって、人としての尊厳すら踏みにじられて…それでも元気で良かった…ってまだ言うの?」
ポッチャリーナ一号はワナワナと震えている。
「だ、だって…一人でも大丈夫だって言うからっ…僕はいいから皆で逃げてっていうから…」
私はブチ切れた。もうミュージカル女優の仮面もかなぐり捨てた。
「親ならっそんな子供の強がり見抜いてやれよっ!いくら強がってもまだ16歳なんだよっ!いくら大丈夫だっつーても心配してやるのが親ってもんだろうがっ!子供は腹空かせて死にそうだって言うのに、ブクブクブクブク太りやがってっこのポッチャリーナめっ!」
ハッと気づいた時には遅かった。廊下にナッシュ様とルル君が立ち尽くしていた。ナッシュ様はいつからいたのだろうか…これまた顔面蒼白になっていた…
やってしまった…こりゃアカン…
ナッシュ様に嫌われた~~っ!
いわゆる100年の恋も冷める…て瞬間ではないかな。あはは…いつもこんな感じで男と別れてきたなぁ、ああ、やってしまった。我ながら今回は婚約まで持って行けたのは奇跡だ。
私は戦意を喪失すると、静かに部屋の隅へと移動した。尽かさずカデちゃんが歩み寄って来る。カデちゃんはめっちゃサムズアップをしている。
「ポッチャリーナ…ブブッ!ぽっちゃりっていう意味ですよね?あだ名最高!」
カデちゃんにはウケたようだ…あはは。取り敢えずジャックスさんの敵は討てた…つもりだ。
「ポチャ…な…なん…何でしょっ!?下賎の女のくせにっ…」
ポッチャリーナは持っていた扇子を私に投げつけて来た。いつもの私なら避けれるけれど、今は色々と精神的ダメージがでかいので、思いっきり顔面に当たってしまった。バチンッ…と甲高い音が室内に鳴り響いた。
「いった…」
「葵っ!?」
カデちゃんがすぐに治療魔法をかけてくれた。はは、面目ない…すると部屋の魔圧がぶわっと上がった。こ、これはぁ!?慌ててナッシュ様を見ると…目が…目がめっちゃ据わってる~~!?魔力圧がガンガン上がってくる!ヤバいっ!?私自身も気分が悪くなってきた…思わずよろめくと誰かに支えられた。
「大丈夫かい?リア、頼む」
私を支えてくれたのはキラキラカッコいい、ダヴルッティ様だった。近くで直視してしまった。眼球が痛い。
「ナッシュ様、お静まりを」
室内に魔力と神力の起こした風圧のようなものが吹き荒れた。あんなに激しく渦巻いていたナッシュ様の魔圧が無くなっていた。あらら?ナッシュ様の隣には女神が如く美しいフォリアリーナが立っていた。
「アオイ、良く言いましたわ!でも、私ももっと言ってやりたいのでそこで寝転がっている下品な親子には早く目覚めて欲しいわね~」
そう言われて床を見ると、ポッチャリーナ一号と二号だけが気絶して倒れていた。他の皆様は無事である…あ、そうか。皆、高魔力保持者だったっけ?あのすごい魔圧にも耐えられるようだ。
「ア…アオイ…大丈夫か?」
ナッシュ様がヨロヨロと近づいて来る。ナッシュ様が私を思いっきり抱き締めてくれた。
ああ、やっぱり心地いい。私の事嫌いになってない?大丈夫だった?結構、恋人としてはドン引きする場面だと思うけど…
後にナッシュ様はこの事をこう言っていた。
「今更アオイの口の攻撃に驚く訳ないだろう~?前にリディックにもモヤシっ!とか怒鳴ってリディックのこと罵ってたじゃないか?」
まったくもってその通りであります。人を悪しざまに言っちゃいけない…とザック君に偉そうに説教垂れてたくせに、自らが悪しざまに罵っちゃってさ…深く反省しております。
「ザック君…私の事はお手本にしちゃいけないわよ…あの日のアレは悪い大人の見本だからね?」
私が暫く経ったある日にこう言ったところ、ザック君が小首を傾げて可愛く微笑みながら言ってくれた。
「何を言ってるの?あれは正義の鉄槌だよ!すごくかっこよかったよ!僕ね、ナッシュ様とアオイ様の事すごく尊敬してるし…その、ふ、不敬だけどお父様とお母様みたいだな~て思ってて、大好き!」
くわーーーーっ可愛いっ!ぎゅうぎゅう抱き締めて頭をこれでもかっと撫でまわしてあげた。
敬語はやめてね!ナジャガルの父母のつもりで接してね!とお願いしてからザック君は砕けた言葉使いをしてくれるようになったのだった。
さて…
早く目覚めないかな~
私は床に寝転がされたまま誰にも助けて貰えないポッチャリーナ親子を観察しながらリアとカデちゃんといかにこの親子をぎゃふんと言わせるか…を考えながら時間を潰していのだった。




