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魔を祓う剣の本領発揮

「カデリーナ姫、思い出してくれ、以前ポルンスタ爺に言われたことがあっただろう?コスデスタ公国から吸収魔法で姫の魔術を盗んでくれと言われたと…」


ナッシュ様に問われてカデちゃんは、ああ!と声を上げた。


「はいっあの不死身の軍隊を作るとか言っていた?」


ヴェルヘイム様は強張ったままの顔で、一同を見た。


「これはナッシュ殿下と俺の見解なのだが…不死身の軍隊…つまり『魔人』で不死身の軍隊を作ろうとしていたのではないか…と」


魔人で軍隊?た、確かに、戦闘能力は高いだろうけど…あ、でも?


レデスヨジゲンポッケの中から『超危険!世界の魔獣害獣大図鑑☆改訂版』を取り出して『魔獣・魔物・魔人』の項目を見た。


魔の眷属…魔素に触れ体内に魔核を内包した生物の総称である。どのような生物でも魔へと変種するとされており、人間とて例外ではない。

魔獣、魔物は変種した場合、体内の魔素の影響で戦闘能力の向上、外見上も大型化する傾向にあり通常の害獣より数倍強いとされている。但し、その血肉は非常に美味であり害獣である反面、高値で売れる高級食材とも言える。

人間が魔人化した場合も、知力、体力、魔力が数倍に強化されると言われ、人としての理性が失われ、攻撃性が増し殺戮を繰り返す、まさに魔の人に変種してしまうと言われている。魔人の恐ろしい所は、外見上は普通の人間と変わらない所だ。魔人化した人間は狡猾であり凶暴性が顕著になり、自身が動けなくなるまで殺戮と破壊を繰り返すなどで現在では魔人化したと発覚した場合、如何なる事情があろうとも見つけ次第、速やかに討伐されるように世界規定で定められている。


な、なるほどやっぱり…


「あ、あの…魔人で軍隊って無理じゃないの?だって、凶暴性が増して、理性が利かなくなるのでしょう?」


私が図鑑を見ながらヴェルヘイム様にそう言うと、カデちゃんも大きく頷いた。


「そ、そうですよ。軍隊どころか命令も聞かない、只の暴れん坊になってしまうだけですよね?」


「そう…通常は…だ。だからこそ人体実験を行い、命令を聞き軍隊として使えるようにするために研究を重ねて、その…人工的に魔素を作り出しているのではないかと思われる」


「ひどい…」


「なんてことだよ」


皆から絞り出すように声が上がる。人工的に…もしかしてマジーの町で人体実験をしていたってことなの?ガンドレアが?自国民を犠牲に?


フツフツと怒りが湧いてくる。ふざけんなよっ…何が軍隊だよっ


「パパッ!魔素の気配が近づいてるわ!」


エフェルカリードが突然、ナッシュ様の前に現れた。皆が一気に緊張する。


「魔素?魔人か!?」


「ううん~違う。もっと規模が広いから魔素の霧だと思う。マジーの町の方角から南の隣の町まで来てる」


ナッシュ様はエフェルカリードを抱きかかえた。


「よしっ祓うか?」


「うんっ!ママも一緒に!」


ええ!?それはおそろしぃ!流石に今回は留守番でお願い…


躊躇う私をよそに、エフェルカリードはカデちゃんを見た。


「カデを連れて行けばいい!防御してくれる!」


カデちゃんを見ると迷っている感じだった。そりゃそうだ怖いよね。


「カデちゃん…行くのか?行くのなら俺も行く…」


ヴェルヘイム様がカデちゃんの背中を摩っている。カデちゃんはキッと顔を上げた。


「はいっ!お供します!」


力強いカデちゃんの返事に皆で行くことになった。イヤだけど仕方ない。


子供達は残れ…と言ったけどザック君だけが、頑なについて行くことを主張した。迷っている時間が無いので、ナッシュ様がすぐに許可を出して子供達代表でザック君、そして私、ナッシュ様、カデちゃん、ヴェルヘイム様、アルクリーダ様、ガレッシュ様、ルル君、ジャックスさんの総勢で一気にマジーの隣町のコルモンデルスに転移した。


コルモンデルスはジャックスさんの故郷…のはずだった。


転移で降り立った途端、ジャックスさんは屈みこんでいた。ルル君が体を支えている。荒れ果てている…そこそこ大きな町なのだろうけど、見る限り家屋は壊され、市街地なのに魔獣や魔物の姿が見える。今は魔獣達は一目散に逃げ出している。エフェルカリードがいるからだ。


「あっち…近づいて来るよ」


エフェルカリードが指差す方向に顔を向けた。分かる…禍々しい魔力の何かが近づいて来る。


「うそだろ!?」


「ジャックスの家の方角だ」


ジャックスさんとルル君が一気に走り出してしまった。


「こらっ馬鹿!魔素に向かって行くなっ!」


ナッシュ様が怒鳴りながら走り出したので皆も走り出した。カデちゃんを除いて…


「もうっ!また私を置き去りにぃ~これで何度目ですか!」


一気に皆で駈けだしてからヴェルヘイム様が気が付いて、カデちゃんを回収しに戻っていた。カデちゃんはプリプリ怒っていたけれど皆に魔術防御を張ってくれた。ごめん、カデちゃん…


「あ、あそこに居る!」


ザック君は障壁に入らなくても大丈夫なのかな~と思うけど、瘴気の中でも元気そうだね。ザック君はナッシュ様達三人が固まっている所へ走って行った。


もう目の前には瘴気の黒い霧?が漂っている。てか、流れてくるというよりその場に沈殿しているみたいね。


「あ、あれ?おかしいですね?以前あの霧は、走って逃げても追いつかれるくらいの速度で動いていましたが…」


「う、動いていないよね?流れて来るってロイット君も言ってたよね?」


カデちゃんと私が恐る恐るナッシュ様達に近づくと、ナッシュ様は手で制した。


「あまり近づくな、エフェルカリードの力で抑えている」


ええ!?そうなの?エフェルカリードは、ニッコリと笑った。


「そうよっ。私の力!この為に私は来たんだからっ!」


魔を祓う剣…エフェルカリード。私が召喚した…とか言うことになっているけれど、どうも釈然としない。やっぱり別の何かに導かれて…とかじゃないかしら。


「エフェルカリード、一度祓ってみるか?」


ナッシュ様の言葉にエフェルカリードは頷くとシャララン…と高い金属音と共に剣化してナッシュ様の手に納まった。上手くいくのかしら…ドキドキするわ。


私達は少し後ろに下がると、後ろからナッシュ様の様子を伺った。


「ドキドキしますね…」


思わずカデちゃんと手を握り合う。構えたナッシュ様の剣がまたシャララ…と高い金属音を鳴らしている。


「聞こえようによっては、神社で巫女の方が鳴らす鈴みたいな音ですね…」


「本当ね、辺りに響く音よね…」


本当ね、シャンシャン…と厳かに鳴り響くエフェルカリードの剣…辺りに静けさが訪れる。あの不思議な神社やお寺とか緑深い森の中にいるみたいに空気が澄んでいく。ナッシュ様の呼吸が剣の胎動にリンクしていく。今だ!


一閃…


キーーーンと甲高い音がして辺り一面に白い発光が広がるっ…思わず目を瞑った。耳鳴りがすごいっ


「な、なんです~この音ぉ~!?」


「すごっ…」


やがて…甲高い音が小さくなってきたのでソロッと目を開けて見た。


「あぁ!」


思わず叫び声を上げた。黒い霧が完全に無くなっている!辺りは廃墟に近い町並みのみになって、魔獣系の生き物も全く見当たらない。町を覆っていた魔素の気配が一切ない。


「やった…」


まだ剣を振り下した姿勢のままの、ナッシュ様に走り寄った。ナッシュ様の肩に手を置くと、驚いたようにこちらを顧みた。菫色の瞳が私を見た途端、見る見るうちに潤んできた。


「アオイ…祓えたよ」


「はい、見てましたよ」


ナッシュ様は体を震わせている、ああ泣いているわ。そうよね、この世界は長い間…本当に長い間、魔の眷属に脅かされて疲弊し、成す術がなかったのだもの。こんなに簡単に祓えるなんて夢みたいよね。


「良かったわね、ナッシュ…本当に良かったわ」


ナッシュ様は私に抱き付いた。今回ばかりは外なのにっ!とか…怒るの無しね。うん、良かったわ。


するとザック君もカデちゃんもヴェルヘイム様までもが私達に抱き付いて来た。ああ、皆の魔力が私達を包む…優しい魔力。泣けるわ…カデちゃんも号泣している。


皆で輪になって号泣した。


さて、落ち着いた所で


来たついでと言ってはなんだが、ジャックスさんのご実家へ突撃することにした。しかし…


「見事に人の気配がありませんね…」


はい、アルクリーダ殿下のおっしゃる通りです。コルモンデルスの町に人の気配が感じられない。恐らく避難しているか…ご不幸があったのとで、住民の方はほぼいないのだろう。これじゃジャックスさんのご家族も留守…なはずだけど、取り敢えず確認することにした。


「結構、綺麗な町だったんだけどなぁ…跡形もねぇや…」


ジャックスさんはすごく落ち込んでいる。こちらに来る前は、別に会えなくても平気っすよ!みたいなこと言ってたけど、この町の惨状を見たら心配になっているに違いないわ。


噴水がある広場を抜けて一つ路地を入った所で、ルル君が足を止めた。


「あ、あれだろ?ジャックス」


ジャックスさんとルル君、おまけにザック君まで駆け出した。三人で緑の屋根の邸宅の門扉の前に走り込んだ。


「家の…外観は無事っぽい」


「中はどうなんだろう…」


「義姉上、家人の気配はありますか?」


ザック君が振り向いてカデちゃんに聞いた。カデちゃんは目を大きく見開いて、邸宅の中を隅々まで視ているようだ。


「だっ…誰かいますっ!でも…すごく少ない魔力です!お子さんでしょうか!?」


「こ、子供?マジでっ!?」


「中、入るか!?」


ヴェルヘイム様が突然、ルル君達を押しのけるようにして門扉をキックで蹴破った!


キィィ…キィィ…と蝶番の外れた門扉が寂しげに悲鳴?をあげている。カデちゃんがバチンとヴェルヘイム様の背中を叩いた。


「ヴェル君っ!よそ様のお宅の門を足で蹴るなんてっ!すっすみませんっうちのヴェル君が…弁償させて頂き来ますのでっ!」


カデちゃんはジャックスさんにペコペコとお辞儀をしている、無意識で日本式お辞儀を繰り返している。


謝られた方のジャックスさんはオロオロしている。


「いや…あの、何か分からないけど、ま、魔獣が壊したと思ってくれるかもだし…別にいいじゃねぇかな?」


取り敢えず、空き巣まがいの侵入方法で私達は邸内に入った。ヴェルヘイム様を先頭に魔力の気配のするほうへ急ぐ。


「こっちのほう…は弟…ジャレットの部屋だ…まさか…」


ジャックスさんは走り出した。そしてヴェルヘイム様とジャックスさんは一つの部屋の前で立ち止まった。


「ここにいる…非常に弱いが…間違いない」


「ここ…ジャレットの部屋だ…ジャレット?いるのか?」


ジャックスさんは声を上げて弟さんの名前を呼んだが、返事は無い…どうしよう。


「入るよ」


そう言ったかと思ったらジャックスさんが消えた。あ、部屋の中に転移したのね。


すると突然


「ジャレット!?おいっ…おい…」


ジャックスさんの突然の叫び声が上がった。


バキィィィ…!


またもヴェルヘイム様が部屋の扉を蹴破った。もう何も言うまい。皆は部屋の中へ雪崩れ込んだ。


酸っぱいような変な匂いがする。カデちゃんが浄化魔法をかけて、匂いは一瞬で消えた。ナッシュ様とヴェルヘイム様がジャックスさんに駆け寄った。


弟…ジャレット君は寝台で寝ている。これはっ!?カデちゃんは悲鳴を上げた。


「早くっ!」


ナッシュ様の声に私とカデちゃんは転がるようにしてジャックスさんの所、寝台に走り込んだ。


ジャレット君は酷い状態だった。痩せこけていて肌も土気色になっている。体も片足と右腕が欠損しており、傷口は化膿し…壊死仕掛けているようにも見えた。酸っぱい匂いの原因は寝たきりによる、垂れ流しの排泄物の匂いが充満しているからだ。


一瞬で治療膜が出来上がった。私もカデちゃんと一緒に魔力を注いだ。アルクリーダ様も神力を注ぎ込んでいる。微かにほんの微かに…魔力の反応が上がって来た。


「頑張って…」


「絶対に死なせはしませんよっ!」


カデちゃんも神力を入れている。治療は二人に任せよう。私は慌てて部屋の中を弄り、毛布や大きめのタオルを探して来て弟君の体にかけてあげて、ヨジゲンポッケの中から砂糖と塩を取り出した。あまり濃い味の糖分と塩分にならないようにしてヒートで温めた水に混ぜてコップに入れた。これは布巾に浸み込ませて飲んで貰おう。そして桶を出して水魔法とヒートでお湯を作った。魔法があって本当に助かる。


「カデちゃん…彼の体の清潔にしてあげて、水分を差し上げても大丈夫かな?」


「はい、お願いします!」


カデちゃんが治療膜の一部を開けてくれたので、手を差し入れてジャレット君の衣服を脱がし、体を浄化魔法と布巾で丁寧に拭いて行った。そして口元に水を含ませた布巾を当てた。何度か繰り返していると水を吸っている感触が伝わってきた。


「カデちゃん、意識戻りかけているみたい」


私がそう言うとカデちゃんとアルクリーダ殿下が大きく頷いて、ジャックスさんのほうを見た。


「危機は脱した。暫くは安静に…このまま様子を見ながら、今日は動かさない方がいいかもしれない」


アルクリーダ殿下の言葉にジャックスさんはルル君に支えられながら床にへたり込んだ。


良かった…カデちゃんも私も涙ぐみながら、カデちゃんの指示の元、ジャレット君の体の欠損部分に包帯を巻いていった。腐敗魔法も覚えていて良かった。私でも役にたてたわ。


「よし…他に家人の気配は無いようだが、一応邸内を見て来ても良いか?」


ナッシュ様がジャックスさんにそう聞いて、ザック君とヴェルヘイム様で外へ出て行った。


私も思い立って一緒に廊下に出た。ナッシュ様が首を傾げてこちらを見た。


「どうした?アオイも来るのか?」


「あ、うん。暫くは治療に時間がかかると思うの、だから皆様に軽食をお出ししようかなと準備に…」


と、言い掛けるとナッシュ様とヴェルヘイム様二人の目が据わった…な、なに?


「「菓子はあるんだろうな?」」


ナッシュ様とヴェルヘイム様の声が綺麗に重なった。


おいっ!心の中でツッコミつつ、久々のフロックスアイズで睨みつけてやる。不敬なんて知るもんか。


「こんな非常時に何を言っているのですか!お菓子よりまずは精の付くものが今は必要でしょうが!」


そうスイーツ男子オヤジ達を怒鳴りつけていると、カデちゃんがヒョコッと廊下に出て来た。


「私も手伝いますよ~ほ~んとこんな時まで菓子菓子…煩いおじさんですねぇ~菓子の時間はまだ先ですよ?」


カデちゃんがピシャリと言い切るとヴェルヘイム様はジットリとした目でカデちゃんを睨んでいる。だ、だ…大丈夫?カデちゃん?


「あ、あの…師匠、兄上…朝作って持ってきたカップケーキがありますから…」


と、ザック君がうっかりそう言ってしまい、オヤジ二人に囲まれてしまった。ザック君、ピーンチ!


「ザック、良い子だね。さあ私にすべて寄越しなさい」


「ザック…勿論俺にも全部くれるんだろう…」


ザック君がお菓子を持っている訳ないでしょ?それにこれって恫喝じゃない?すると、ザック君は負けていなかったっ!


「食事に関するすべての決定権は義姉上とアオイ様にあります!お菓子も人数分しかありません!今は差し上げられません!」


ナッシュ様は多少たじろいだが、ヴェルヘイム様はザック君の反撃に慣れているのか…魔圧を掛けながら(大人げない!)ザック君ににじり寄った。


「だったら今、俺の分だけでも寄越せ…」


そう言いながらヴェルヘイム様が、ザック君に伸ばした手を…な、なんとザック君はバチンと叩き落とした。


「大人の癖にっ子供の悪い見本になってどうするんだよっ!」


ぐう正論である。


思わずザック君にサムズアップをした。前にザック君にサムズアップの意味を教えていたので、ザック君も良い笑顔でサムズアップを返してくれる。カデちゃんもサムズアップをしている。


「前も言いましたけど…ザック君が一番しっかりしているのですよ」


成程…そうですね。いい大人のオヤジ達はすっかりしょげて、二人で他の部屋の中を確認したりしている。


カデちゃんと私とザック君は台所へ向かい、部屋の掃除と備品の確認を済ませて、軽食の準備を始めた。


一通り邸内を見て来たナッシュ様とヴェルヘイム様は台所にやって来て難しい顔をしている。


「正直に言うと、邸内にジャックスの他のご家族のご遺体があるのでは…と思っていたのだが、もぬけの殻だ。邸内でその痕跡も無い、魔獣の侵入も無いようだ」


「え?じゃあ…弟さんお一人で寝たきりだったの?お母様とかいるはずよね?そうだ、妹さんがいたわよ?」


私がカデちゃんに聞くと、代わりにヴェルヘイム様が頷いて話してくれた。


「ああ、女性が使っていたであろう部屋はあった…ことにはあったがここ最近生活していた形跡が無い」


ナッシュ様が廊下をチラリと見てから声を潜めて話し出した。


「彼の衰弱状態から見て…長くて一月は一人だった可能性があるが、他の部屋の状態はもっと前から使っていないようなのだ。そもそもいつから彼は一人きりだったのだろうか…父君は軍人だったな?」


「はい、ガンドレア軍の大尉だと調書に書いてありました」


部屋の生活の形跡が無い、てことは…もしかして?思わず唇を噛みしめる。ナッシュ様が頭を撫でてくれた。


「憶測で物事を判断するな。彼が目覚めてから確かめればいい…」


私達はモルのスープと蒸しパンを作って、軽食として食べた。ジャレット君についていてくれたアルクリーダ殿下と替わり、私が彼の枕元に行く。ジャックスさんとルル君がずっと傍にいる。


「あなた達も少しは休みなさいな」


私がそう声をかけると、ジャックスさんは何度も首を横に振った。


「俺…ジャレットがこんな状態だなんて、想像もしてなかった。家族も居るし…ほっときゃいいだろう…なんて無責任な考えで、こんな酷いことになってるなんて…思いもしなかった」


ジャックスさんの背中を何度も摩ってあげた。ルル君もずっと肩を抱いていてくれている。


「こいつまだ16なんだぜ?絶対心細いに決まってる…目が覚めた時、側にいてやりたいんだ」


ジャレット君の治療膜に魔力を入れながら、弟君の寝顔を見る。ジャックスさんは割と厳つい顔立ちだが、弟君は線の細いイケメン君だった。こんな可愛い子を一人ぼっちにするなんてぇ…何か事情はあるかもだけど、許さんぞぉぉ~するとジャレット君の瞼が動いた。


「ジャレット君!?」


と、私が叫ぶと皆が寝台に走り寄って来た。ゆっくりとジャレット君の瞼が持ち上がって来る。ジャックスさんと同じ浅葱色の綺麗な瞳がこちらを向く。そして何度か瞬きをした後に、ジャレット君の瞳からブワッと涙がせりあがってきた。カデちゃんが作った治療膜がパチンと弾けた。ジャックスさんがジャレット君を抱き締めた。


「あ…あにうぇ…」


「そうだ、そうだっ…もう大丈夫だから!もう大丈夫だからなっ。よく頑張った…」


ああ、良かった…色々問題や疑問はまだ残るけど、取り敢えず良かった。ナッシュ様と目が合って、ナッシュ様に抱き付いた。



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