ナスビと女王陛下
「こんな時に忍びをしていた特技が生かせますね!」
「カデちゃん流石だね、忍びね…で、この距離で尾行は大丈夫なの?」
「はい、付かず離れず…魔力も察知されない、絶妙な距離でつけていますよ、完璧です!」
カデちゃん先輩のお墨付き?を頂きつつ…私達はガレッシュ様と賊6人の後を三ヶ所に分かれて尾行していた。
第一班はナッシュ様率いる第三部隊、第二班はレミオリーダ様が率いている。そして残りはこの第三班だ。
メンバーは私、カデちゃん、ザックヘルム君(7才)、リューヘルム君(6才)レオンヘルム君(4才)そして何故かクリッシュナ妃殿下という、女子?と子供だけというすごい構成だ。辛うじてクリッシュナ様の護衛と言う形で近衛のお兄様二人が付いて来てくれたのが幸いである。クリッシュナ様はザック君とリュー君という小さい騎士を両手に花の状態だった。クリッシュナ様は子供達に囲まれてご機嫌である。まあそれはよい、よいのだけど…
「と、言いますか、キリッシュルアン国王陛下は大丈夫なのでしょうか…ルル君とジャックスさん、SSの双璧の2人がこのままでは国王陛下の介護…失礼、警護だけしか出来ない気がするのですが…」
今回の作戦の、要の実働部隊と思われる第三部隊のメンバーに何故か国王陛下が入っているのだ。国王陛下が強烈に嫌がったので遠くから近衛騎士団の団長以下副団長と計4人が護衛に付くVIP待遇だ。いや、実際VIPなんだけどさ。しかも遠くからって、護衛の意味ないんじゃない?
「しぃ…そろそろ第二皇子殿下の引き渡し場所ですよ…」
カデちゃんの声に皆が注視する。今いる場所はガンドレア帝国内だ。この際、集団密入国には目を瞑って頂きたい、カステカートとの国境近くの小さな町の一角なのだが、ここはすでにガンドレアの避難民で溢れている。そして常にカステカートに侵攻しようとするガンドレア帝国の軍事拠点でもある…物騒な話だ。
カデちゃんは草むらに隠れながら進んでいる、実は雰囲気だけで隠れ忍ぶ必要はまったくない。
さっきから忍び歩き…と言ってはいるが、別に大声を出して歩いても気づかれない。何故ならカデちゃん特製の三重魔物理防御、消音消臭…おまけに透過魔法というのをかけている。因みにナッシュ様とは別働隊でヴェルヘイム様率いるカステカート第三騎士団の方々がカデちゃん曰く、透明人間集団になって、ガレッシュ様のかなり近くに潜んでいるらしい…皆、異世界の忍びだと思うわ。
ああ、いるいる。馬鹿正直に…と呼び出しておいてあれだが、疑いもせずに護衛を付けてはいるが、ギラギラしている集団が待ち受けている。
「あの忍んでいるつもりの、全然忍んでいない派手な服装の方はどなたでしょう?」
私がお隣で少し身を屈めている(人間やっぱり尾行しているとなると、姿勢を低くしてしまうらしい)クリッシュナ様に小声で聞いてみた。クリッシュナ様は乗馬をする時のようなトラウザーズスタイルだ、勇ましい~
「あの方は…拝見した絵姿が正確ならば、元コスデスタ公国の第二公子ミーツベランテット様、現ガンドレア帝国、女王陛下ラブランカ=ガンドレア様のご夫君だと思うわ」
へ~なんだかあれだな、服装もギラッとしているが…あのお顔のフォルム、どこかで…あっ!
「茄子ね!」
と私が小さく叫んだ瞬間、後ろに居たカデちゃんがブホッと吹き出した。
「葵もやっぱりそう思います~?ブフッ…私も最初見た時にそう思いましたもの。特にあの茄子のヘタみたいな髪型がね~」
カデちゃんのご指摘通り、ガンドレア女王の夫の…ナスビの頭にはヘタに見える髪がチョコンと乗っていた。ヘタだ、確かに茄子のヘタだね。そして私はナスビも気になるんだけど…その後ろに居る、目の覚めるようなピンク色のドレスを着た、首と顔の色が激しく違う中年の女性がすごく気になる。
はっきり言って厚化粧過ぎて顔が白塗りで浮いていて目立つのだ。お姉様とは呼びにくいし…おば様じゃないし、おばさんだ。あえておばさんと呼びたい…そういうタイプだ。
あれが、噂の極悪ストーカーのラブランカ女王陛下だろう…やっぱり根性悪そうな顔をしているわねっ!ふんっ!
「なんだか、キャラの濃い人達ね。あまりの濃さに沢田美憂が一応、いるのに影が薄いね…」
ナスビと白塗り女王が前でしゃしゃっているので、沢田美憂が後ろに控えざるを得ない状況になっている。しかし彼女の顔色を見る限りは、ナジャガルで虐げられていたと言う割には元気そうである。
「遠路遥々よう来たの、不遇の皇子よ。さあ、その剣で魔を祓っておくれ」
白塗りの言葉に流石のガレッシュ様もポカンとしている。いつ魔を祓うとかそんな話になってたっけ?ガレッシュ様はずっと抱っこして連れて来ていた、エフェルカリードを見詰めている。
そう、敵を信用させるためにはエフェルカリードを見せなければいけない。だが剣に変えてはナッシュ様以外は触れられない。そう、この瞬間を皆待っていたのだ。
呼びかけても応じないガンドレアの女王を、皇子と勇者の剣の引き渡し場所に連れて来るのが目的だったのだ。女王に直接引き渡したい…と、したためたラブレターをガンドレアに送りつけていたのだ。
差出人を誰にするかで揉めたけど、ナッシュ様がくじ引きで負けた。すごく嫌がってた…お気の毒。
もし女王が来なくとも、賊の上官が来たら今度はそいつを人質に取って女王の元まで案内させればいい。そう思っていたのだが…本当に女王自らがやって来た。
「ナッシュルアン皇子殿下の姿が見えぬようだが…まあよいか…フフ、お前も良い男だね、魔を祓った後は私と共においで…」
ひゃああ!怖いっ別の意味でめちゃくちゃ怖いっ!横でクリッシュナ様の「ガレッシュ!」という短い叫びとカデちゃんの「キモイッ!」という声が重なった。
もしかして不遇の第二皇子様が男前だと聞いたから、会いに来たのではないの?とか思っていたら、ナスビと白塗りの前に沢田美憂が走り出た。
「初めましてっ!私が異界の乙女ですっあなたの乙女です!」
あぁ…やっぱりやっちまったな。思いっきり戸惑っているガレッシュ様はエフェルカリードに真顔でこう聞いていた。
「この子…誰?」
そりゃそうだ、初めましての人に私があなたの乙女です!って言われても、意味不明過ぎて戸惑うだけだろう。エフェルカリードは沢田美憂をチラッと見て再びガレッシュ様を見た。
「異界から来た子に間違いはないけれど、弟が呼んだ人じゃないから関係ないわ」
エフェルカリードが、嘘偽りない事実のみを言い切った。ガレッシュ様は一つ頷くと沢田美憂を見た。
「そうだよね?俺、召喚したことないもんな、知らないよ?君の事」
ああ、成程…優しくて朗らかな所しか私達には見せてないけれど、ガレッシュ様だって間違いなくナジャガル皇国の血筋だ。SSSまで上り詰めた冒険者だ、お綺麗な性格な訳がない。強かで残酷で怖い人だ。
「だ、だって私、異界から召喚され…」
「召喚は兄上が行ったから兄上に聞きなよ?そこに居るしさ」
ガンドレアの女王の周りにはナッシュ様、ヴェルヘイム様、レミオリーダ様、おまけにルーイドリヒト国王陛下、フィリペラント殿下、ダヴルッティ閣下…透過魔法を解いて勢ぞろいだ。キラキラの増量感が凄まじい。魔力の内側からの発光と外見のキラキラで直視できない。
ガンドレア側の護衛達が動こうとしたが、アッと言う間に近衛と第三部隊に制圧された。
「やぁやぁ…お久しぶりだね!ガンドレアの女王陛下と夫君よ!何度も話し合いを提案させて頂いたのだけど、親書は読んで頂いているかな?どうもガンドレア語も読めないようだから、今度は異世界語でもアオイに書いてもらおうかな!それなら読めるのかな?」
開口一番、ルーイドリヒト国王陛下の鋭い切り口の嫌味が炸裂した。隣でフィリペラント殿下はアイドル顔で微笑みを浮かべている。はぁ~爽やかだわ。
「なんだか妙な匂いがするな~と思いましたら、女王陛下の体に悪そうな香水と白粉の匂いですか?その匂いじゃ消臭の魔法も効かなそうですね。匂いで魔人に真っ先に狙われそうですね…ああ、それもいいかもしれませんね。国民の為に役に立てるなんて為政者として最高の栄誉ですね」
アイドルなのは見た目だけだった。中身は嫌味と腹黒がぎっしり詰まっていた。ラブランカ女王陛下は真っ青になりながら、自分を取り囲んでいる面々を見ている。そしてある一点で目を止めると喜色を湛え走り出そうとした。
「ヴェ…ヴェルヘイムッ!おおっ待っておったぞ!早く私を助けておくれっ」
と、言って手を伸ばしたラブランカ女王陛下を、ヴェルヘイム様はそれは嫌そうな目で見た後、前に居たダヴルッティ閣下に
「ナッシュルアン殿下と、グローデンデの森に行って来てもいいでしょうか?」
何事も無かったように尋ねていた。うわ…総スルーかな?私だってあの白塗りとは会話はしたくないけどね。ナッシュ様と一緒に…逃げようとしたヴェルヘイム様はなんと、いい大人の癖にナッシュ様の陰に隠れた、いや正に某童謡の様に可愛い尻尾が見えてるよ~状態である。体が大きすぎて隠れ切れていない。
「ヴェル君…怖いのね」
横でカデちゃんの声がした。カデちゃんがヴェルヘイム様の側へ移動しようとしたので私達も付いて行った。
そうか…ヴェルヘイム様、あんなにお強いのに極悪ストーカー女が恐ろしくて仕方ないのね、精神的トラウマなのね。お労しい…
しかし、ラブランカ王女殿下の魔手は意外な人にも伸びていた。
「おおっあなたはっ…ナジャガルの皇子殿下!?ああ…」
と、あろうことかナッシュ様に近づこうとした!私はナッシュ様の前に立つと、走り寄ろうとした白塗りを上から見下した。白塗りは結構小柄なのだ。
「どうもお初に御目文字申し上げます、ナジャガル皇国、ナッシュルアン=ゾーデ=ナジャガルの妻のアオイ=ゾーデ=ナジャガルと申します」
私の後ろでナッシュ様が息を飲んだ音が聞こえた。そして後ろからサワサワ…腰を触って来た。ここに来て変態の悪癖が出て来たのかっ!瞬時にナッシュ様の手を叩き落とした。
「と、とにかくご一緒に来て頂けますわね?ナジャガル、シュテイントハラル、カステカート、三ヶ国会議の議場へ…なぁっ!?」
まだ喋っている途中なのに、急にナッシュ様に後ろへ強引に引っ張られた。
「張れるものは魔術障壁を張れっ!」
ナッシュ様は怒鳴ると同時に、見たことの無いほどの大きな規模の三重魔物理防御障壁を展開している。カデちゃんとヴェルヘイム様がすごい魔物理障壁を更に上掛けでかけている。すると空が真っ黒になった…と思ったら、吐きそうなほど変な匂いが漂い、ソレが空中から降って来た。
「な…なっ…何がっ!?」
「大規模な壊死魔法だ…あの空気に触れた途端、壊死して瞬時に死んでしまう」
ナッシュ様の緊張感のある声に上から落ちてきたソレ…生き物の死骸を見た。多分、普通の鳥だと思う。空を飛んでいて壊死魔法に触れたんだ。
「閣下っどの方角だ!?」
ナッシュ様に聞かれたヴェルヘイム様は、ゆっくりと北の方角を指差し
「軍馬が多数…国旗が見える…あれはコスデスタ公国だ」
と静かに答えられた。コ、コスデスタ?それってラブランカ女王の旦那の…って?えええ!?
「ラブランカ女王がいないっ!?」
私の叫びに第三部隊や護衛の方々にざわめきが起こった。
「静まれっ!壊死魔法が行使された瞬間に転移で消えたのだ!」
ヴェルヘイム様の声に皆様が静かになった。転移で消えた…壊死魔法を行使、もしかして?
「危なくなったら逃げるつもりだったのだろうな…まさか壊死魔法を使ってくるとは、ルーイドリヒト陛下、父上、レミオリーダ殿下っ…皆様ご無事ですね?」
幸いにもここには世界最高峰…と私が勝手に思っている魔術師の方々が揃っている。巨大障壁の中で無傷だ。しかし障壁の外は鳥の屍の山だった。壊死魔法…酷過ぎる。
「ちょ…っとお待ちくださいっえ、壊死…壊死魔法ってすべての時間が経てば腐るものに作用する術ですよねぇ!?じゃ…じゃあこの町の…周辺にいらっしゃるガンドレア市民はどうなるのですかっ!?」
「なるべく大きな障壁を張っている!町を包める範囲は広げれたはずだ。それより遠方は分からないが、壊死魔法の威力もどこまで届いているのかも分からないが…」
カデちゃんの絶叫にナッシュ様も声を荒げたけど、ヴェルヘイム様がそのカデちゃんの頭をポンポンと撫でた。
「大丈夫だ…ここに居る術者は魔力値が高い方ばかりだ…今、全員の魔力で張り廻らしている障壁の方が壊死魔法の効果範囲より広い。壊死魔法の範囲内の住民はおそらく無事だ」
「この壊死魔法は只の足止めだ…女王とコスデスタの第二公子が逃げる為の時間稼ぎだ」
ダヴ様がそう唸るように呟かれた。そ、そうなの?ナッシュ様を見ると頷いている。逃げる為だけにこんな動物も…もしかすると人にまで害のある魔法を使うなんて、悪趣味過ぎるわ。やっぱり許せないわね!
そして、周りを見て気が付いた。
沢田美憂もいない。ついて行ったの?連れて行かれたの?
胸がザワザワすると同時に、気持ちが滅入る。どうして気が付かないのかな?私達異世界人は、特別でも無いし珍しい存在でもないのよ?この世界に来てしまった以上、ここで生きて行かねばいけないの。夢の住人ではいられないのに…
ナッシュ様は私の頭を優しく撫でた後、周りの兵士達を優しい目で見ている。
そして、障壁の中で数分がすぎた時、キリッシュルアン国王陛下が立ち上がられた。
「壊死魔法の効果が切れたら、すぐに三ヶ国同盟軍をガンドレア城に突入させよう」
「ですが、おそらくガンドレア城はもぬけの殻…の可能性が高いです」
キリッシュルアン国王陛下の提案にヴェルヘイム様が答えた。皆が注目する中、ヴェルヘイム様は遠くの方を見ている。私も同じ方角を見て気が付いた。
「そうか…城に逃げずに北西の方角に逃げている、のね」
私の呟きに、魔力波形の見える方は一斉に北西の方を見ている。
「アオイ…分かるのか?」
「はい、先ほどの壊死魔法の術と同じ系統の術を使える…術士達と複数人が遠ざかっている」
ナッシュ様がそれを聞いて舌打ちした。
「コスデスタへ逃げたか…」
国王陛下や王子様達が一か所に集まって話し合いを始めたので、私は少し離れて立っているカデちゃんの側へ行った。カデちゃんは開口一番、謝罪をした。
「取り乱してすみません…数年前なのですが、隠密でガンドレアに救済に入ったことがあるんです…その時に魔素の瘴気、つまり黒い霧みたいなのが町に流れ込んだことがあって、大勢の方が亡くなったり、魔人化してしまったり…と、それを思い出してしまって」
そんなことがあったのね…魔人化する黒い霧が流れてくるって、想像するだけでも恐ろしい。ガンドレア国民の皆さんは本当に怖い思いをされているのね。あ、そうだ。カデちゃんに断っておこう。
「私、ガンドレアのジャックスさんのご家族を捜しに行くので…単独行動しちゃうけどごめんね」
カデちゃんは目を見開いた。
「ジャックス君のご家族!そう言えば…ルル君のご家族、お婆様とリリアちゃんは昔、何度かお会いした事あったけど、ジャックス君はご存命なのかも知らないです」
「そう、本人もお元気かどうかも分からないそうなの…実は、ご家族と折り合いが悪かったみたいでね。捜索もルル君が心配して話が持ち上がった感じなのでね、当時住んでいた場所は覚えていたそうだから、まずはそこへ行ってみるつもり」
カデちゃんが若干慌てている。どうしたの?
「もしかして、マジーの町ですよね?い、いけませんよっ!先程お話した魔素の瘴気が流れ込んでくる地域なのです。今は三ヶ国協定により立ち入り禁止になってますよ!?」
ええ!?立ち入り禁止?それはマズいわね、ジャックスさんは知っているのかしら?
私はカデちゃんと一緒にジャックスさんの所へ行った。おっ!第三部隊の隊員の中に噂のルル君もいるね。
「皆~お疲れ様!怪我は無いわね?」
私がそう言って声を掛けて近づいて行くと何故か皆、敬礼をしている?な、何?私、軍人じゃないわよ?
「な…何?」
「妃殿下お疲れ様です!」
そっ…そっか、さっき白塗りの前で大声で妻ですって自己紹介しちゃったものね。
「ジャックス君、ご家族を捜しに行かれるって聞いたのだけど、マジーの町は入れませんよ?」
カデちゃんが申し訳なさそうにそう言うと、ジャックスさんとルル君は目線を交わすと首を横に振った。
「いえ、俺んちマジーじゃないんです。近づいても大丈夫なはず…」
「いや~今は危ないんだって〜」
と、ナッシュ様がエフェルカリードを抱っこして、ガレッシュ様と歩いて来た。後ろにヴェルヘイム様もいる。
「近くの町でも瘴気が凄いらしい。近くの町の住人も逃げて無人になっている町が多いので、ジャックスのご家族も避難しているかもしれないよ?取り敢えず、先にグローデンデの森で魔獣狩りをしに行かない?エフェルカリードが森を見たら、瘴気の元が分かるかもしれないんだって」
「瘴気の元…つまり発生源てこと?」
「そういうこと!」
私がそう聞くとエフェルカリードが大きく頷いた。なるほどね。
「まず、瘴気の発生を減らしてから…捜しに行く方が危険が少ない」
ヴェルヘイム様の言葉にジャックスさんもルル君も納得したみたい。「御意」と短く返事した。
やがて後続の三ヶ国同盟軍と合流した後、一斉にガンドレア城を目指した。腐敗魔法で殺されてしまった鳥達は炎魔法で葬ってあげた。本当にひどいことをする。
移動しながらカデちゃんは、ガンドレア国民に声をかけて、怪我の有無を聞いている。私も一緒にお手伝いをした。意外に侵入した多国籍軍なのに国民からは拒絶反応はない。というか寧ろやっと来てくれたか…と言われたりもした、どういうこと?
後でナッシュ様に聞いた所…
「8年ほど前からガンドレア国内に三ヶ国合同拠点を作って、ガンドレア国内で活動していたんだ。冒険者ギルドとユタカンテ商会の後ろ盾もあったからね~」
8年…なるほど、いきなり侵入したわけでなくある程度前々から計画していたことなのね。
「でも、ガンドレアを征服したいわけじゃないしね~正直、現状維持で騙し騙ししていたのだ。ところが事態が急変した。勇者の剣、エフェルカリードの出現だ。魔を祓う剣…エフェルカリード自身もどこまで祓えるか…つまり魔素の根底、魔獣の根絶までは出来るかどうかは分からないらしいが、やってみる価値はある。三ヶ国協議でそういう結論が出たので…やっと、本当にやっとガンドレアは動き出せる」
実感が籠っている言葉だった。私に会う前のナッシュ様はそれこそガンドレアの為にトリプルスターとしても、ナジャガルの皇子殿下としても色々と思い悩み…手伝ってきたのだろう。
勿論、私も出来うる限り復興をお手伝いするつもりだ。
今日はヴェルヘイム様のご実家に皆でお泊りだ。ザック君が嬉しそうに伯父様夫妻と話している。伯父様はヴェルヘイム様のお母様のお兄様だとかで…銀髪のイケオジ様だった。血筋ってすごいわね。
さし当たってはグローデンデの森に明日出かけることから始めよう。その討伐に関してナッシュ様が来ることは、まあいいけれど先日のSSの昇格試験のメンバーが全員と、何故かヴェルヘイム様までついて来るってどういうこと?ヴェルヘイム様忙しくないの?
「俺は…元はカデちゃんの護衛だ…」
「はぁ…そうなのですか…」
旦那が女性同士のお買い物について来るアレに近いけど、まぁいいか…話し相手のナッシュ様やガレッシュ様もいるしね。それに試験と違ってサラマンダーさんやケ…ケッ?もう忘れちゃったけどあの鳥みたいなのはいないだろうしね、大丈夫よね?




