家族 番外編 SIDEジャックス
2/2
誤字ご報告ありがとうございます。
修正したつもりで複数個所間違えたままだったようで…
何度もご報告して頂いていたかもです…本当にすみませんでした。
ガンドレア帝国からナジャガル皇国に、保護されるような引っ越しをして8年が過ぎた。覚えることは風習や仕事…とにかく、やることが多すぎて、数年はあっという間に時間が過ぎた感じだ。
「ふぅ…」
SSクラスに昇格出来てホッとした。結果が出せなければ要らない…とは言わないか、あのナッシュルアン殿下だもんな。一度懐に入れたら、鬱陶しいくらいの愛情を注いでくれる。ぶっちゃけ親より親らしい人だ。親と言うより良い兄さんかな?
ていうかあの人の弟だったくせに、リディックルアン殿下が何であんな曲がった性格になったのか分からんね。兄なら絶対的味方になってくれる、お人なのにな。要らないなら俺が欲しいくらいだ、とよく思っていたが…
皮肉にも本当に兄弟じゃなかったな…あんなことがあるんだな。
アオイ…お嬢が事件の後こう言っていた。
「異世界でもたまに、取り違えという事件があって…揉めるのよね」
まあ新しい?てか本物の弟殿下の方が、市井で暮らしていたのに皇子様っぽいっていうのが、なんとも不思議な感じだ。おまけにガレッシュ様はSSSだし、強いし…俺より3歳上でまた兄さんが増えたみたいな頼もしさだ。
昇格の申請をする為にルルと俺とガレッシュ様と3人でギルドに向かう途中…
「ナッシュルアン皇子殿下に不敬にも兄上っぽいな~とか感じてるんですけど、ガレッシュ様の方がより一層兄上っぽいですね」
とか言ってみたらめっちゃ嬉しそうに小突かれた。どしたのよ?弟殿下?
「俺さ〜一生、このまま独りかな、とか思ってたんだよね~だから兄上達やジャックス達に構われるのすごく嬉しい。一人ってマジ孤独だよ。よしっ俺を兄上として慕えよ、ルルもだ!」
何、この可愛い生き物…兄だけど弟っぽいなぁ、本当にナッシュルアン殿下に性格も顔も似てるや。
兄弟か…ふと、ガンドレアに居るであろう両親と弟と妹を思い出した。
元気…なのかな、正直生きている可能性の方が低い気がする。
当時の俺は、デッケルハイン閣下が罷免された後の第二討伐隊に入って、すぐに軍を解雇されて、毎日生きる為に必死で…そんな中ルルの親父も亡くなって、肩を動かせないくらいの怪我をして、俺は15才にしてすでに死を覚悟していた。
その時にヴェルヘイム=デッケルハイン閣下と奥方のカデリーナ姫に会った。まさに運命だ。肩を綺麗に治して下さって
「もう大丈夫ですよ」
そう言って微笑まれたカデリーナ姫様を見た時に、俺は一度死んで、生まれ変わったのだと思った。ガンドレアの何もかもを忘れて、ナジャガルのナッシュルアン皇子殿下の所で生き直そうと思った。
そう思ったのだが、チクリと胸を刺すこの痛み…スッキリしないこの気持ち、忘れるなんて出来ないのかもな。忘れるんじゃなくて、もっと違う何かに変換出来ないか…
そんな時、ルルの家にガンドレア出身の野郎共5人が集まってルルのばーちゃんの美味い夕食を頂いている時にルルが真顔で(いつもだけど)こう切り出した。
「ジャックス、今度のガンドレア定期巡回の時に、ジャックスの家族の安否確認に行きたい…」
ルルのばーちゃんもリリアもポカンとしてルルを見ている。すると一番年上でナジャガルで婚姻も済ませて、可愛い嫁と子供に囲まれているジョーナが
「まあ、待てよ、ジャックスはどうなんだ?」
と俺に話かけてきた。どうって言われても…その時、前から感じているモヤモヤの原因が分かってきた。そうか…これがきっかけになれば…
「行く、確かめに行って来る…」
ルルが珍しく満面の笑みだ。うおっ眩しいー。こいつ普段からもっと愛想良ければモテるのによ。
「明日、アオイ様にご相談に行こう」
「え?なんでお嬢なの?」
ルルは少しはにかんでいる…なんだその表情?
「俺が先走って一人で捜しに行くって言ったら当事者のジャックスと一緒に来い…て言われたから」
「当たり前だよ〜なんでお前が先に聞くんだよ?ジャックスに聞いてから、アオイ様に言わないと…」
と、第一部隊の副隊長をしているリッタがルルの頭をペシンと叩いていた。
ルルのばーちゃんが心配そうな目で俺を見てきた。
「ジャックス…もしね、向こうでご家族が困っていらしたなら、うちにお連れしても構わないのよ?こちらの生活は安定しているし…」
「そうそう!私も一の季にはお城の新設部署に雇用が決まったしね!生活費は心配しないで!」
と、リリアがやけに胸を張って答えてやがる。なんだ?新設部署って?と、ルルの顔を見た。
「アオイ様が立案した『託児所』の新規職員としてリリアの雇用が決まったんだ」
「おお~っそりゃおめでとさん!でもリリアがちゃんと働けんのかね?お嬢は働けん奴には怖いぜ」
「違うよ~ジャックス、働けないヤツじゃなくて…働く気概が無いヤツには厳しいんだよ」
と、第二部隊にいるガッテルリがやけに自信満々に言い切りやがる。何だよ?
「これはコロンド君からの報告だけど、ホラ…内務省幹部の甥が軍部に在籍してるだろ?いつも討伐には体調が悪いとか言って不参加の…」
「ああ、あれか…くだらん」
ルルが一刀両断にした。確かにくだらん男だ。しかしコロンドも密偵みたいなことしてんのな。
「全隊員の出退勤を見たアオイ様がアイツの勤務態度が良くない…て言って査定して厳罰対象として協議会に再考案件として出したんだ。そしたらアイツ、内務省幹部の叔父さん引き連れてアオイ様に直接文句つけに来たんだって」
ありゃまぁ…そりゃご苦労なこった…どうせお嬢にやり返されてお終いだろ。
ガッテルリの言葉の続きを皆が待っている。ガッテルリはコホンと一つ咳払いをした。
「眼前で罵詈雑言を投げつけたアイツが言い終わった後にアオイ様が一言。『それぐらい仕事にも熱心な態度が取れれば良いのですけれどね』だって…」
ほら見ろ…一撃だ。話を聞いていた皆からも笑い声が起こる。
「ところがだ、内務省の叔父がいきり立ってね。国王陛下に直訴すると言い出したんだ」
おお、えらいとこ出して来たな~で?
「それで…殿下とバウントベリ宰相まで出て来て、アオイ様がまたも一同を前に言い放ったんだ。『仕事の無い方はお暇で宜しいですわね…私、この時間を無駄にしていますので、夜中まで残業ですのよ』だってね」
すげぇ…もう誰もあの人に口では勝てないよ、楯突くのは諦めろ。
まあ、その食事会はお嬢に楯突くのは恐ろしいことなのだと、皆が胆に銘じてお開きになった。
翌日…
ルルと二人でお嬢の前に立った。ああ緊張するな…昨日、ガッテルリの話聞いたから余計怖いぜ。
「ジャックスと話してきました、ガンドレアでご家族の消息を追いたいと思います」
お嬢はめっちゃ怖い顔で俺を見ている。怒ってんのかな。
「今から結構酷いこと言うけど…いいかしら」
やべぇ怖い…なんだろ。お嬢は小さく息を吐いてから話し出した。
「ジャックスさんのガンドレアのご家族とあなたとの関係を、ナッシュ様からの話と提出されている調書で、大体は把握しています。ルル君に先日も言いましたが、無事ご家族が見つかった後の事はどうするつもりですか?」
俺は一晩考えた気持ちを、偽りなくお嬢に言うことにした。
「俺は…正直見つかっても、前の関係を忘れて仲良くとは出来ないと思う。只…このまま見ないフリ…忘れているフリはしたくない。向こうがどう出てくるかも分からないけど今の気持ちはそれです」
お嬢は何度も頷いた。
「人とは環境で簡単に心が折れ、人としての品格さえも歪めてしまうものです。ジャックスさんのご家族とはいえ、どう変貌しているか…会わないことには始まりませんしね」
冷や水を全身に浴びたみたいだった…そうか、只でさえ嫌味小言の連発だった継母が更に生活が荒んで、もっと攻撃的になっている可能性もある訳だ。
「あまり暗い方向には考えたくないけれど、あなたを妬んで、あなたを害そうとするならば…私はご家族とはいえ容赦はしませんよ?ジャックスさんは逆にうちの大事な家族ですから」
「そんな言い方っ、ジャックスの実のご両親ですよ!そんなことする訳っ…」
声を震わせてお嬢を睨み付けるルルを、お嬢は優しい表情で見ている。上官の顔をやめてるな…
「肉親だから優しく迎えてくれる?そんなのまやかしよ。ルル君は愛されて育ったのね?とても素晴らしいことだわ」
お嬢は俺を見た。やっぱ…この人俺と同じ境遇だったのかな。
「それでいいわね?ジャックスさん」
「はい」
ルルはまだ納得していない顔をしている。珍しいな…ルルがこんなに不機嫌な顔を見せてるの。
「ねえ、もしジャックスさんのご家族が会った途端、何か嫌事言って来たら、あなたならどうする?」
嫌味か…継母は言いそうだよな、図体ばかり大きくて役に立たないとか…前はよく言ってたしな。
「昔は黙って泣いてたけど、今は流石にやり返すかな…」
「そうよね!やり返しちゃえ!私も応援するからね」
すげぇ…口で攻撃に参加してくれるのかな〜ある意味めっちゃ頼もしい。
「それと、わざわざ休暇申請しなくてもいいわよ?この間ギルド前でガレッシュ様を連れ去ろうとした賊、いたじゃない?アイツ達を使ってガンドレアの…ストーカー女王をおびき寄せる作戦を決行する予定なの。だから第三も本格的にガンドレアに乗り込むわよ〜忙しくなるけど、その合間に巡回と言う名のご家族捜索してもらって構わないから…あ、そうそうナッシュ様が捜索に付いて行くって騒いでたわよ?それは諦めて連れて行ってあげてね」
「すとーかーって何ですか?」
どうやら気分が持ち直してきたらしいルルが、俺も気になった単語を聞いていた。異世界語かな?リディックルアン殿下も、モヤシとか異世界のあだ名で呼んでたしな。
すると…お嬢は異世界におけるストーカーという特殊犯罪の怖さと、身の毛もよだつ数々の事例を挙げてルルを最高潮に怯えさせてから、最後にこう締めくくった。
「聞けばラブランカ女王ってヴェルヘイム様に対して悪質で下品なっ極悪ストーカーだったそうじゃない?そんな害獣みたいな女っどうせ性格の悪さがしっかり顔に出てるわよっ!根性悪な顔を見て嘲笑ってやるわ!」
すんげぇ悪口、怖っ!しかし、他国の女王陛下に不敬過ぎるぜ。
「あまりに不敬ですよっアオイ様」
ああっバカ!ルル!
ジロリ…とお嬢がルルを睨みつけた。サラマンダーより怖えよっ!
「私、異世界人だから関係ないわね!文句ある?」
ルルは押し黙ってしまった。ホラ見ろ…昨日の食事会で胆に銘じたはずだろう?お嬢に楯突くな…と。
もう…絶対、ガンドレアで継母に会う時にお嬢について来て貰おう…この際、お嬢に後方支援どころか前に出て継母を口撃して貰おう。ぶっちゃけナッシュルアン殿下より頼りになりそうだ。
次から本編に戻ります




