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家族 番外編 SIDEルル

後もう一話番外編が続きます

ナッシュルアン皇子殿下の提案に従い、ナジャガル皇国に移住して8年が過ぎた。俺1人だと淋しかったに違いないが、ばあちゃんとリリア…そして同じガンドレア帝国出身の同世代の奴ら数人も一緒だったので問題なかった。


同じガンドレア出身のジャックスとは長い付き合いだ。5才の頃からの付き合いだからもう兄弟とか家族と同じ感覚だ。


「ルルはいつもつれねぇな〜」


と、ジャックスには事あるごとに言われるけど、俺からするとジャックスは俺の兄のつもりだし、何かあったらジャックスに相談する…この考えは生涯変わる事はないつもりだ。


ジャックスは子供の時から1人だった。親はいたが母親が義母で自分の実子…つまりジャックスの腹違いの弟妹ばかりを可愛がっていた。


ジャックスの父親は軍人だった。普通ならジャックスも父親の指導の元、軍人になるのが…まあ貴族の末端とは言え跡取りの立場的には通例だったはずだ。ところがジャックスは全く剣技の指導も勉学も何も受けさせて貰えることなく、すべての教育は腹違いの弟に注がれていた。


それを見かねて、俺の父親…同じく軍人だが、うちで俺と一緒に勉学が学べるように取り計らってくれた。その当時よく父は言っていた。


「ルルも分かると思うけど、弟より長男のジャックスの方が軍人向きだよね、体も大きいし頭も良いしね」


うん、子供の俺から見てもそう思ったぐらいだから…周りの大人達は皆、跡取りはジャックスにした方がいい…と思っていたと思う、言わないだけで。


やがて、年上のジャックスは俺より先に軍属になった、第二だ。魔獣討伐専門の部隊だ。なんでもヴェルヘイム=デッケルハイン閣下が以前率いていた精鋭部隊らしい。だがすぐに解雇になった。理由は第二そのものを解体するらしい。その時、閣下は行方不明だと聞かされた、魔獣に殺された…という訳ではなく、どうやらラブランカ王女殿下に…何かされたらしい。


嫌な噂しか聞かない、白粉の匂いを漂わせた…化け物みたいな化粧をした王女殿下だ。デッケルハイン閣下が不憫すぎる。噂で聞く魔将軍閣下と直に何度もお会いしていた父はヴェルヘイム=デッケルハイン閣下は全然違う印象らしい。父曰く…


「非常に物静かな美丈夫な方でね、それでいて討伐時はまさに魔将軍の如き戦術を駆使されて…兎に角、お強くて、それでとてもお優しい方だったのだけど…ラブランカ王女殿下に目を付けられて、お可哀相に…」


その当時、俺は王女に苛められていたのかな?とか子供っぽい考えをしていたけれど…今にして思えば、懸想されていたに違いない。8年前に本物のヴェルヘイム=デッケルハイン閣下にお会いした時に確信した。


こりゃ、王女に目をつけられるわ…と。


ものすごい美丈夫で…それにすごく優しい。俺達が恐る恐る声をかけると、それは嬉しそうに頭を撫でてくれて(子ども扱いもこそばゆかったが)無事に過ごせている事をとても喜んでくれた。父が半年前に亡くなったことを告げると「ワルジさん…」とめっちゃ落ち込んでいた。優しい…本当に優しい閣下だ。


「お~い、ルル~アオイから不備あり…で書類が戻って来てるぞ?」


ナッシュルアン皇子殿下の声に思考が浮上した。今の俺の、ジャックスでも解決出来ない困った事が起こったら最終的に相談する兄上兼父親代わりの皇子殿下が書類をパタパタさせながら歩いて来る。8年経ってお互いの身長差があまりなくなった、ナジャガルの皇子殿下をジッと見る。


この人は8年前と変わらないな。皇子殿下なのにすごく気さくなままだ。


「どこですか?」


「ここ…アオイは鋭いな」


提出した書類に細かく赤で訂正箇所の注意書き?がしてある。こんなに赤字で細かく書くならアオイ様ご自身で訂正したらいいのでは…と実は一度、聞いてみたことがある。そうするとアオイ様はこう言った。


「自分で間違いに気づけなきゃ…また同じところで間違えるわ、人生と一緒ね」


む…なんだろう難しい。するとジッと俺の顔を見ていたアオイ様が、机の引き出しから何か用紙を取り出してきた。


「そうだ、前に妹さんがいるって言ってたわよね?」


「はい」


「今いくつなの?」


「13才です」


「働いているの?それとも学舎で勉学中?」


「いえ、時々ですが市場の雑貨店で売り子をしています」


なんだろう?何かの面接のようだ。ナッシュルアン殿下と違ってアオイ様は仕事中は隙が無くて…有能な上官の顔が多い。非常に緊張する…


「もし妹さんが…よかったらの話なのだけど、この一の季に新設される『託児所』の新規従業員としてお勤めしてみないかなと思って。これ書類、読んでみて」


そう言って手渡された書類には今、アオイ様が進めている案件の概要が載っていた。


「初期従業員は出来る限り身元のしっかりした人がいいの、ルル君の妹さんなら高魔力保持者よね?」


「はい、一応は…」


アオイ様は満足そうに頷くと笑顔になった。有能な上官の顔から気さくな姉上兼母親の顔になった。今はジャックスとナッシュルアン皇子殿下の前に、アオイ様に相談することの方が増えた。だって助言が的確なんだもんな。母親みたいに頼りにしています…とは流石に言えないけど心の中で思ってる。


「話だけはしてみてね~無理強いはしないから」


と言うやり取りが前にあったのだ。俺は以前のその話を思い出しつつ…


修正した書類を持ってアオイ様の所へ行った。おや、ザックヘイムがいるな。こちらに気が付くとニコニコと笑顔を向けている。本当にデッケルハイン閣下に似ていて綺麗な顔だな…そうだ、今から変な女に狙われないように気を付けてあげなくちゃだな。


「アオイ様、訂正してきました…それと、以前お話のあった妹の件ですが…リリアが是非働きたい、と言っておりまして、宜しくお願いします」


「あら!受けてくれるの?助かるわ~今、ザック君も雇い入れのお願いしていたところなのよ」


ええ?この子も?いくらなんでも早すぎないか?


「正式に働くのではないのです、預かる子供の遊び相手の一人です」


と、ニッコリ微笑みながら俺を見る、高魔力保持者の…すでに消音消臭魔法の使える未来の将軍閣下が急に、ジャックスの弟と重なって見えた。


もうあいつの弟の顔もはっきり思い出せないけれど…


生きているのか…もしくは亡くなったのか。ジャックスはそのことには触れない。やっぱり一度捜しに行ってみたほうがいいかもしれない。ジャックスは兎も角、俺が気になるし…


「あの、次のガンドレア定期巡回の時に休暇を入れてくれませんか…」


アオイ様は一瞬キョトンとした後に、休暇申請用紙を引き出しから出してきた。


「よく分からないけど…このガンドレアの巡回と三部隊交替で遠征に出る討伐とは、また違うのよね?」


あれ?アオイ様はご存じなかったかな?


「ガンドレア国内の冒険者ギルド内に、極秘で三ヶ国合同の討伐隊を設置しているのです。基本はガンドレア出身の軍人が行くようにしています。他国民がうろついて目立つと色々とマズいので」


アオイ様はニヤニヤしている。なんだろう?


「ねえ、討伐のついでに行くところって…もしかして恋人の所?」


ええっ!びっくりした…そんな風に思ってたのか…イヤイヤ、お母さん誤解です。


「12才の時にガンドレアからナジャガルに越して来たのですよ?いる訳ないじゃないですか。そうではありませんよ、ジャックスの家族の安否確認をしたいのです」


アオイ様とザックヘイムは笑いを引っ込めて、真面目な顔になった。


「ジャックスさんのご家族って所在不明なの?」


「住んでいた家は知っています。ただ、いつもガンドレアの巡回の時はジャックスが一緒だし…ジャックスはこの話題を避けている感じなのです。要らぬお節介と言われそうですが、せめて無事を確認出来れば…と思いまして」


アオイ様はまた有能な上官の表情をしている。何かあるのかな。


「もし…ご存命だった場合、元気で良かった!って言ってその後はどうするつもりなの?」


どうって…取り敢えずご存命なら、ジャックスとの仲も色々良くなるように俺が…?何か出来るのか?


「会えただけで終わりじゃないのよ?その後ご家族はガンドレアに置いて行くの?それとも、ジャックスさんとはこの先をどうするのか、彼はどうしたいのか…きちんと二人でお話しているの?」


本当だ…流石お母さん、先読みがすごい。俺は無事を確認するだけで頭がいっぱいだった。


「それに…まだお会いしたことの無い方々を悪しざまに言うのは気が引けるけど、ルル君から見てジャックスさんのご家族って良い家族だったの?」


この言い方…もしかしてある程度はジャックスの家族構成も把握しているのかもしれない。或いはナッシュルアン皇子殿下にお聞きしたのかも?だな。皇太子妃だけでは勿体ないですね、是非このまま軍部に在籍していて下さい、アオイ様。


「兎に角、ジャックスさん不在でこの話題とそれに纏わる休暇申請は受け付けません。まずは私かナッシュ様のどちらかに二人揃って要相談ってことで」


「はい」


俺が噛みしめるように返事をした後に、今まで黙っていたザックヘイムが躊躇いがちに口を開いた。


「あの…もしガンドレア帝国に行くのなら、僕も行きたいです…」


彼の綺麗な顔にある一対の海碧色の瞳を見詰める。


「久しぶりに伯父上と伯母上に会いたいし…」


「ああ…デッケルハイン伯爵か、そうだな…」


俺が返事をする前に


「良いよっ一緒に行こっか!」


と、のんびりしたナッシュルアン皇子殿下の声が背後から聞こえてきた。振り向くと、クッキーを咀嚼しながら俺のすぐ後ろに立っていた。気配無ぇな…相変わらず防御魔法障壁すげぇ…


「ちょっと、何を言っているのよ?ザック君は兎も角、何故ナッシュ様までが行くのです?」


アオイ様の怒気を孕んだ叱責が飛んだ。そりゃそうだ、何故皇子殿下が出張るんだ?


「だって私、ルルとザックの保護者だし」


「はぁ?あのね、皇子殿下がフラフラと他国に密入国するなんて許されるわけないでしょう!」


アオイお母さん、お言葉ですが、8年の間…結構この殿下はフラフラと密入国と王宮に不法侵入、等色々やらかしていまして…でも今、教えたらアオイ様めっちゃ怒るかな…


「何を今更~私、結構ガンドレアでうろついているよ?」


あ、自分から言っちゃった、やべぇ…ソッと横目でアオイ様を見た。案の定目が吊り上がってきた…


「そんな非常識な事を皇子自らが率先して何たることですかっ!いいザック君っ!?あれが腐った大人の見本よっ絶対に真似しちゃダメだからねっ!」


ナジャガルの未来の国王陛下を、腐った大人呼び出来るのは、アオイ様ぐらいなものだろうな。


次のガンドレア巡回までに、ジャックスをなんとか説得しないとな…と未来の国王陛下夫妻の喧嘩を聞きながら俺は思いを馳せていた。

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