カデちゃん先輩はプロだった
歴史の考証などは適当です、ご了承下さいませ。
マジンノミコってどういう意味なのっ!?と私が思考を整理していると
『モウツカレタワ…ネドコニカエルカラ、オマエタチモハヨウカエレ……』
そう言ってサラマンダーさんは背中に乗って遊んでいるチビッ子達に目をやった。
「あ、ああ…あのっ皆、サラマンダーさんもう、おうちに帰るってっ!そこから降りなさいっ!」
「ええっ!もっとあそびたーい」
「首からシャーとすべるの楽しかったのにぃ」
「あのっ…アオイ様っ!僕、SSSの試験絶対受けるからっまた会いに来ますってお伝えして下さい!」
ザック君の言葉をそのままサラマンダーさんに伝える。サラマンダーさんは目を細めるとニューッと首を動かしてザック君のお顔に頭を摺り寄せた。チビッ子達がサラマンダーさんの首に縋りついている。すごい光景だ。
『ゲンキノイイオコジャノ…マリョクモツヨイ…ヤレヤレ…アトニジュウネンハシナヌヨウニガンバロウカノ…』
そう言い残してサラマンダーさんはノシノシッと歩いて行った。
しまった…色々聞き損ねた。皆様、サラマンダーさんと意思の疎通を図れたことに満足されているようだ。私はサラマンダーさんが言っていた鱗に関するお願い事を、試験監督官さんにそのまま伝えた。
「次のSSSの昇格試験が実施される時は、通訳を兼ねてアオイ様にも帯同をお願いしましょうか!」
おいっ!もう山登りは勘弁ですよ…ヤマタノオロチにお酒でもプレゼントしなよ~
さて…私はザック君をチラリと見る。
どうしよう、カデちゃんに聞いてみようかしら…まじんのみこ?の意味に当てはまる漢字って魔の人か魔の神しかないよね。ザック君がその皇子?子供ならお兄様のヴェルヘイム様もまじん…魔神?の子よね…そういえばザック君のお父様っているのかしら。
ああ、もう悩むのは性に合わないわっ!
皆様無事、試験が済んでワイワイ言いながら下山を開始する。麓まで転移しようとしたけど…ガレッシュ様は魔力切れ一歩手前、ナッシュ様お一人ではこの大人数を運べないとのことで徒歩下山になった。私はガレッシュ様に治癒魔法をかけている。カデちゃんは回復魔法をかけてくれている。
「義姉上、姫様、ごめんね~」
「本当は休んでて欲しいけど、ここサラマンダー以外にも凶悪な害獣がいるそうじゃない?今の所マトモに戦えるのがナッシュ様とルル君とジャックスさんだけだもの。麓まで行ったら休憩入れるから…」
「子供達もいますし…止まって休んで頂けないのが心苦しいですが、しっかり支えますのでっ…ああっ!」
そう言いながらカデちゃんは石に躓いて転びそうになって、後ろに居たアルクリーダ様に支えられている。アルクリーダ様も治療で魔力を使い過ぎたみたい。ちょっとフラフラだ。先程から小動物ではあるが、頻繁に獣が襲ってきている。ナッシュ様、ルル君、ジャックスさんは三方向に散開して警戒しながら下山している状態だ。今この子供達がいる集団ではザック君が一番元気で強い。ついで強いのが試験監督官のおじ様の方。更に次いでリュー君という何とも言えないパワーバランスだ。
「若干7才に背中を守られるなんてSSSになっても情けないなぁ~」
「そんなっ満身創痍でも手に入れられたトリプルスターなのですから胸を張って下さい!」
と、7才に慰められて益々ショボンとしているガレッシュ様…お労しや…
そんなこんなでやっと麓まで降りて来た。夕暮れが迫って来ているのでここで1泊ということになった。チビッ子達は野外キャンプに大盛り上がりだ。
「軍部で使っている野営用のテントがありますが、王族の方だけでもお先に帰られては?本当に野営されるのですか?」
と、自分も皇族のくせにアルクリーダ殿下に真顔で聞いているナッシュ様のマジボケ具合は兎も角としても、カデちゃんは野営とか大丈夫なのかしら?
「カデちゃん、外に泊まるのは大丈夫なの?」
カデちゃんはフフン…と胸を反らせた。
「何を隠そう私、アウトドア大好きだったのです!弟家族とよくキャンプも行っていたのでばっちりですよ!」
それは心強い…実は私、学生の頃の野外キャンプ体験で一回しかキャンプしたことないのよね…
「寝袋はあるのだけれど、野外テントで寝るのは初めてだわ。外で食事の準備も初めてで…」
カデちゃんは益々胸を反らせた。
「任せて下さい葵っ!私が仕切らせてもらいますよ!」
どうしよう…こんな時に聞くのも…でも…よしっ!
「カデちゃん…そのこんな時にごめんね!」
私はカデちゃんの手を引っぱって移動すると、テントの準備をしている場所から少し離れて、消音の魔法を使った。
「さっきね、サラマンダーさんがザック君とカデちゃんを見て変なことを言ったの」
ああどうしようっでも聞かないのは…モヤモヤするし~
「カデちゃんって…異界…つまり地球の神様なの?それとザック君て…まじんのみこ…なの?」
カデちゃんはヒュッ…と息を飲んだ。顔を覆うと何度も深呼吸している。
「あの、あの…答えたくなければそれでもいいの…私だけがモヤモヤ~とするだけで、今後何かが変わる訳ではないし…」
カデちゃんは顔を上げた。そこには怒りは無く…どちらかと言うと困った顔だった。
「私に関していうなら…その神様?とかでないことは確かです…ただこちらに転生する時に神の加護を頂いているらしいので、ひょっとするとそれが神の力?かもしれません。それに…元々シュテイントハラル王族は神族の末裔ですしね」
あ、そうよね。シュテイントハラル王家は創世の神の末裔…と言われるこの大陸一由緒ある王族だ。本当に神族なのね…それもびっくり。
「転生の加護?言葉が分かるとかの?」
「あ、私の場合は癒しの力が最高レベルで使える…というものでした」
あ、そうだったね。最初は言葉が通じなくて困ったて言ってたっけ…
カデちゃんは照れたような…困ったような何とも言えないような表情をしていた。
「それで…え~と…ついでというかこの際言っちゃうと、前の世界でも…転生を繰り返していて…その、転生のプロだったのですっ!だから、こちらの世界に来ても…ああまた転生したのね…て最初は思っていたのです…実はそれは異世界だったというのには正直、驚きました」
衝撃の事実に驚いてしまう。しばらく固まっていたが思考が動き出した。
そうか…だから私とか沢田美憂みたいな体ごとこちらに来る転移…とかではなく転生という生れ落ちるカタチになったのだろうか?カデちゃんは俯いてジッとしている。
なるほど…そうかっ色々と腑に落ちた。年の割には…というか人生すべてを達観した慈愛の目で周りを見ているのはそういう事か!彼女にしてみれば誰も彼もが年下の子供に見えているのだ。
「そうか…だからカデちゃんて皆のお母さんみたいな温かい雰囲気があるのね」
私がそう言うとカデちゃんは真っ赤になって、顔を上げた。
「いえいえ、そんな大層なものではないのです。今までの人生も早死で…恋人もおりませんでしたし、そのヴェル君が初めての旦那様なので、子供を持つのも初めてなのです…えへへ」
早死って…もしかして昔は寿命が短かったっていうし…そうよ!昔は戦争とか戦などで絶命されてる可能性もあるじゃない!?そ、そうだ!是非聞いて見たかったことを…今聞くチャンスじゃない!?
「カデちゃん、昔のことで聞いてみたかったことがあるのだけれど…」
「な、なんでしょうか?」
「織田信長って格好良かった!?」
これ気になるよね?後、聖徳太子が実在したのか?卑弥呼ってどこに住んでいたのか~
「その時代は…私、地方に住んでいて信長さんは直接お会いしたことありませんでした」
そ、そっか…じゃあ他も聞いちゃおうかな?
「聖徳太子ですか…その時は多分まだ生まれていないです。卑弥呼は私…その時代は子供の時に野盗に襲われて…亡くなってまして…え~と今ほど情報が発達していないので、都会?というか政の中心部にいないと、歴史に出てくるような方には会えないのじゃないかな…と思います。私、本当に地味な人生ばかりでして、お役に立てずにすみません…」
ああっ!?困らせるつもりは無かったのよ~こっちこそごめんね!
「ううん~変なこと聞いてごめんねっ!でも野盗って…村とか襲ってくるアレでしょう?日本も本当に野蛮な時代があったのね~」
「そうですね…私も江戸時代の中頃に生まれた時は感動しました。ここまで平和になったんだぁ~と。飲んだくれの父親抱えて長屋暮らし生活は最悪でしたがね~」
うわ~リアル江戸時代経験者よ!後で色々聞いちゃおう…さて、それはそうと…
「あの、ザック君の事は聞いてもいいのかしら?」
途端にカデちゃんは困り顔になった。
「私の事はもう隠し事はないので全然聞いてもらって大丈夫なのですが、ザック君に関してはヴェル君とお義母様にお聞きしてみないことには…」
そうよねっ!そりゃそうだ!未就学児のプライベートな事に他人がズカズカ踏み込んじゃいけないわよね。
「ううん、いいのよ~こっちこそごめんね~あのサラマンダーさんが余計な事ばっかり言うからさ~気になっちゃって…」
するとカデちゃんが
「あの葵の怪獣語みたいなの、凄かったですね!ガウガウ言ってて…あれで通じていたのですか?」
と、衝撃の事実をにこやかに話してくれた。
うそでしょう?ガウガウ?乙女の恥さらしだわ!?そうか私は日本語を喋ってるつもりだったから…うっかりしていた。相手と同じ言語を話しているのだったわ…忘れていた。
「最悪…私、日本語を話している感覚で会話していたから、皆にどんな感じで聞こえてるかなんて気が付いてなかったわ」
あ~それでか~とカデちゃんはまた笑った。
「あのね~私と二人で話している時、実は葵は日本語で話しているのですよ?でね、ザック君達と話している時はカステカート語を流暢に話されていますね〜で、ナッシュ様達とはナジャガル語か共通のカステカート語を巧みに使い分けてらっしゃいますね…。あ、そうだ!私、今からフランス語を話してみますね~せーの…どうですか?分かります?違い…」
カデちゃんの口元を注視していた。そうか、本当だ!意識してなかったけど今、フランス語って話し出した時は口の動きと日本語が吹き替えみたいに口元が合っていなかった、新たな発見だ。
「カデちゃんのフランス語聞きたかったのに、日本語吹き替えになっちゃったわ」
「やっぱりー!?すごいですね~神のご加護!」
「神のご加護ねぇ…ナッシュ様に1000年前の遺跡を見に行こうて言われてるのよ?ホラ、私どんな文字でも読めるから…」
「おおーっ!それいいですね!歴史的発見とかありそうじゃないですかっ~」
「いや、もうあの遺跡の湿っぽくて暗い所がまず無理よ…ネズミもそうだけど黒いアイツも出て来そうだし、幽霊もいそうだもの…怖いわ」
カデちゃんはうわっ~!と声を上げた。
「ホントですねっ!あ、でも実は黒いヤツは見たことないのですが…1000年前ならいそうですね」
「そうなの?じゃあ、この世界にはいないのかな…それは安心だけど、代わりに魔獣とか害獣がいるからね…」
「あ、そうだ。山に入れば黒いアイツの親戚みたいな大きい虫の害獣がいるのですよ?今回まだ見てませんが…」
こらーーーっカデちゃん!今のは要らない情報だよっ!
その後、夕食の支度をカデちゃんとした。そこで試し焼きでビッグ猪、バンバガデランガを串に刺して焼いて食べてみた。
「うわーっ美味しい豚肉よっこれっ!」
「たまりませんね~!」
カデちゃんと味見の段階で大騒ぎだ。勿論、夕食にも出した。皆様に大好評を頂きました。ナッシュ様にはドーナツも大好評を頂きました。
しかし要らぬ情報を聞いてしまった…先程からガサッと音がする度に黒いアイツの大型サイズかっ!と気になってしまい、なかなかに緊張する。
そしてちょっと寝不足ではあるが、翌朝は時間通りに起きた。なんでか分からないがザック君がナッシュ様と私のテントで一緒に寝てくれたので黒いアイツの怖さが半減した。子供って癒しね。
朝食を済ませてから、魔力が復活したガレッシュ様とナッシュ様2人の転移魔術で一気にマジカシまで戻って、そして転移門からナジャガルまで移動した。冒険者ギルドの昇格手続きがあるのでガレッシュ様、ルル君、ジャックスさんの3人は城下に試験監査官の方々と出かけて行った。
カデちゃん達と話しながら第三部隊の詰所に戻った。
「ただいま戻りましたー!」
そう言って詰所に入るとジューイが書類に目を通しながら
「おーいっまた問題発生だぜー」
と言ってきた。ええ~また?なんでいない時ばかり起こるかな~
ナッシュ様もうんざりした顔をしている。
「ふぅ…今度はなんだ?」
ジューイは黙って見ていた書類をナッシュ様に手渡した。読み始めたナッシュ様はちょっと見ただけですぐに放り投げた。なんだろう…
「おおっ帰って来られたか…また珍妙な状態になっておるようですね…」
あら、眩しいっ!2日ぶりのレミオリーダ王太子殿下のキラキラに遮光魔法を慌ててかけた。
レミオリーダ王太子殿下の後にフロックスさんが入って来て、ナッシュ様の前に立った。
「おかえりなさいませ、ナッシュ様。如何返答しておきましょうか?」
ナッシュ様は詰所のソファにレミオリーダ王太子殿下とアルクリーダ殿下をお招きしてから大きく溜め息をついた。
「父上はなんと?」
「乗り込んでしまえ…と」
レミオリーダ王太子殿下は苦笑い、ナッシュ様は更に大きな溜め息を吐いた。
すると私の隣に居たザック君が「アオイ様…」と声をかけてきた。
「何?どうしたの?」
「兄上がこちらに来たようです。今、もしもしで伝えて来ました」
「あら?ヴェル君来たの?どうしたんでしょう?」
カデちゃんの声にジューイが顔を上げた。
「多分、カステカートにも声明文が届いてるんだろうよ」
「声明文?」
私、カデちゃん、アルクリーダ殿下の声が重なった。犯行声明…とかの声明文ってことよね?
「失礼する…ナッシュルアン殿下、レミオリーダ王太子殿下…お揃いでしたか」
ヴェルヘイム=デッケルハイン様(カデちゃんの旦那様)が音もなく詰所の入り口に現れた。
「ヴェルヘイム閣下…いや~奥方とご子息を連れまわして済まなかったね~」
ナッシュ様にそう言われて、ヴェルヘイム様はチラッとカデちゃんを見て柔らかく微笑んだ…男前ね~ヴェルヘイム様はナッシュ様達が腰かけているソファの横に膝をつくと懐から封書を取り出した。
「これは写しですが…カステカートに届いたものです」
殿下達皆様が一斉に覗き込む…そして皆様、溜め息と苦笑いを浮かべる…何?何が起こっているの?
「アオイ、読んでみろ。カデリーナ姫も…呆れるとは思うが…どうぞ」
呆れる?どういう意味だろ…カデちゃんと2人、まずはナジャガルの書類を見てみる。子供達まで覗き込む。
『ナジャガルが召喚した異界の乙女をこちらで保護している。ナジャガルでは食事も与えられずに虐げられていたご様子だ。乙女が選んだ魔を祓う勇者をナジャガルが不当に拘束しているとのことで、乙女の要請により自国で迎え入れる準備を整えた。即刻、勇者の拘束を解き、こちらに勇者の剣と共に引き渡すことを要求する
ミーツベランテット=ガンドレア 』
「はぁああ!?」
「これはまた…」
私とカデちゃんはあまりの驚きに声を失った。はっ…そうだ、カステカートの声明文は…急いで封書の中を開ける。カデちゃんとチビッ子達も私の手元を覗き込む。
『ナジャガル皇国より異界の乙女が、我がガンドレア帝国に救いを求めて亡命してこられた。急ぎ保護させて頂きナジャガルにおける不当な扱い、乙女による選ばれし勇者への軍部からの弾圧、虐待…目に余る所業ゆえガンドレア帝国にて即刻、異界の乙女及び選ばれし勇者の保護を遂行するものとする。カステカート王国には中立なるお立場を持ってして冷静に対処して頂きたい。
ミーツベランテット=ガンドレア 』
「なにこれ?」
「シュテイントハラルにもコレ届いてるのでしょうか?こうなって来ると三通とも見たいですね」
するとレミオリーダ王太子殿下が人差し指と親指で、嫌そ~うに摘まんで、封書を懐から取り出して来た。
「触ると馬鹿がうつりそうだな…」
レミオお兄様辛辣ですねっ!
私はレミオリーダ王太子殿下から封書を受け取ると中を開いた。若干ワクワクして見てしまうのは許して欲しい。
『ナジャガル皇国が不当なる手段で召喚した、異界の乙女が救済を求めて、我がガンドレア帝国に保護を求めて来た。乙女の涙の訴えにより、同じく乙女より選ばれし勇者、ナジャガルの不遇の第二皇子殿下を即刻ガンドレアが保護、救済に向かうことをこちらの書状をもってお知らせする。神聖国シュテイントハラル王国においては何卒、中立なるお立場にて正しき判断をお願いする所存である。
ミーツベランテット=ガンドレア 』
「不遇の皇子だってっ!ウケル!」
「ものすごい想像力ですね」
またもやすごい内容の声明文?というかこれ新手のポエムじゃないかな…
「私、世の中に変わった人って多いよね、と思っていたのですが…異世界に来てまで同じ思いを抱くとは思いませんでした」
「カデちゃん…変な奴ってね、全異世界共通でおかしいのはおかしいのよ、きっと!」
ナッシュ様に3通とも渡す。レミオリーダ殿下も言ってたけど、持ってたら馬鹿がうつりそうだ。
「はぁ…本当に困ったな~ん?…おお、どうした?え?何だって…うそだろ?うん…うん…取り敢えず…そっち行こうか?うん、待ってろ…」
どうしたの?あ、もしかして…もしもしテレフォンかな?相手は口ぶりから察するにガレッシュ様かな?
ナッシュ様は困ったような…苦笑いのような顔をしながら首を捻っている。
「今…ガレッシュから念話なのですが…う~ん?冒険者ギルドの前でナジャガルの第二皇子かっ!と言われて6人くらいの兵士?らしき男達に囲まれているらしい。第二皇子じゃありませんと言っているのに聞いてくれなくて困る…と言って来ているのだが?」
も、もしかして!?不遇の第二皇子ってガレッシュ様の事だったのー!?




